大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 16『野にあるごとく・2』

2021-07-12 14:23:03 | ノベル2

ら 信長転生記

16『野にあるごとく・2』   

 

 

 四人でくじを引いてもらいます。

 

 そう言うと、利休はカタチのいい手に四本の紙縒(こより)を持った。

 では。

 信玄・南  謙信・北  信長・西  古田・東  という結果が出た。

「それでは、正門を出て、取りあえずは、各々、その方角に進んでください」

「進んでどうする?」

 信玄が真面目な顔で聞く。

 真面目だが目は笑っている。信玄はショートボブのよく似合う大柄な美少女なのだが、色気は無い。

 質量の大きい関心が漲っている。特に鳶色の双眼は豊かな涙袋に座っていて、真顔でも仄かに笑っているように見える。圧を感じさせずに人を取り込む目だ。これに加えて、凄まじい行動力がある。

 前世では、この俺でさえ「信玄公上洛の折には、信長自らが公の馬の轡を取りましょう」と言ってしまった。

 強大な信玄の力の前では恭順の意を示すしかないという俺流の割り切りなのだが、不思議に嫌な気持ちにはならなかったぞ。

 同様の事を将軍足利義昭にも言ったが、正直、口にするたびに背筋にミミズが這うような気持ちの悪さがあった。

「とりあえず、それぞれの方角の門から学校を出てもらいます。そして、最初の角を曲がったら、あとは自由に進んでください」

 

「進んで……そのあとは?」

 

 謙信が小首をかしげる。

 謙信は黒髪のロン毛だが、ポニーテールにしているせいか、目尻がキリリと上がって、切れ者美少女の風格。

 ポニーテールがゆらりとそよいで、露わになるうなじの美しさは、俺が見てもゾクリとするほどだ。

 人を真正面から見据えるところにストイックな峻烈さを感じさせるのだが、この小首をかしげる仕草が、微妙な緩みを感じさせ、この主のためならばと家来たちを奮い立たせるのだろう。

 ひょっとしたら、毘沙門天にも「このわたしに加護を与えてくれるのか?」と小首をかしげたのかもしれん。

 それと、謙信の色白は『美白』などと言う形容が濁って聞こえるほどに白い。古来、越後の女は色白との評判であるが、謙信は、その徴であると言えよう。

 前世から、謙信は女ではないかと噂されていたが、さもありなん。

 しかし、こうして女として転生して来ているのだ。男であったことに間違いはなかろう……いかん、うっかり見つめてしまった(-_-;)。

「野にある如く、しかも、華道的に調和がとれたものを探して写真に撮ってきてください」

「先輩、華道的調和とは、いかがなものでしょう!?」

 古田(こだ)が詰め寄る。

「フフ、古田さんが思っていたようなことでいいんですよ」

「しかし」

「器の中に閉じ込めたものではなく、もっと広がりのある世界で見つけなさいというほどのことですよ。野(や)にあるごとく……ですよ」

「は、はあ……」

「ね、信長さん(o^―^o)」

「で、であるか」

 あぶない、ちょっと見透かされたような気がしたぞ(;'∀')。

「はい、では、みなさん出陣です!」

 

 オオ!!

 

 なにかのせられた感じで、それぞれ指定された門から出発したのだった。

 

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で打ち取られて転生してきた
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田(こだ)      茶華道部の眼鏡っこ

 

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せやさかい・216『木村重成・2』

2021-07-12 08:48:16 | ノベル

・216

『木村重成・2』さくら      

 

 

 

 玉串川の脇の遊歩道を北に進む。

 

 玉串川は幅三メートルほどのちっこい川。

 江戸時代に農業用水路として整備された小川で、大和川から分かれて河内平野を北に流れてる真っ直ぐな小川。

「疏水(そすい)って言うんです」

 銀ちゃんが自転車を寄せてきて説明してくれる。

「ああ、そうなんや(^▽^)/」

 返事はしてるけど、疏水の意味は分かってません。

 ウフフ

 留美ちゃんは分かってるようで、わたしの後ろで笑ってる。

 先頭はソフィーに先導された頼子さん。

 他にも頼子さんのガードが居てるんやろけど、わたしらには分からへん。

 

 花園へ4キロという標識を潜って直進。

 

 右側の川岸には桜の並木、春の季節に来たら壮観やろなあ。

 道は二車線の府道と並行してんねんけど、府道と川の間にも桜とかの緑が連なってて、車道の猛々しさは感じさせへん。

 左側はお屋敷と言っていい家が並んでて、その間に高校、小学校、幼稚園、小公園なんかが並んでて、落ち着いた雰囲気。

 十分ちょっと走ったとこで左……たぶん西の方角に曲がる。

 住宅街は直ぐに途切れて、堺の街中では見かけんぐらいに大きな団地の中を通る。

 団地は、更新の時期に来てるんやろか、人気のない棟が目立つ。

 

 ミーーン ミンミン  ミーーン ミンミン

 

 団地を抜けると、蝉の声がミンミン響いて広くて緑の多い公園が……おお、数えただけでも三つは通り過ぎる。

 団地が余裕のある立て方をしてあるせいか、空が広い。公園の上は、もっと空が広い。

 ミーーン ミンミン  ミーーン ミンミン ミーーン ミンミン  ミーーン ミンミン

 蝉の声がかまびすしいねんけど、不思議やねえ、蝉の声は騒音には聞こえへん。かえって、あたりの静かさが強調される。

 そういえば、木村重成が討ち死にしたのは大坂夏の陣。

 こんなんやったんかなあ……。

「ここよ!」

 頼子さん、向日葵みたいな笑顔で振り返って宣言する。

 四台の自転車は、奥まった公園のスロープを下る。

 小学校のグラウンドくらいの公園はワッサカした緑の他には、年代物の遊具と、年季の入ったベンチがチラホラ。

「先輩! ここです!」

 公園に入ると、銀ちゃんが指差す。

 

 おお!

 

 自転車に跨ったまま感動!

 五重塔の基壇かいうくらいの壇の上に、うちの釣鐘堂くらいの石垣。

 石垣の周りは玉垣で囲われて『長門守木村重成之墓』と彫られた大きな石柱。

 左右に五輪塔やら石灯篭を従えて、まるで、将軍のお墓みたい。

「あらあ、ほんとうのお墓は、この東五十メートルのところにあったみたい」

 頼子さんが、手を庇にして東を向く。

「でも、このお墓にはソウルがあるです」

 ソフィーが、どこに持っていたのか花束を出して墓前に捧げる。

「そうね、まずはご挨拶」

 花を活けると、お墓の前に四人で並んで頭を下げる。

 ミーーン ミ……

 蝉の声がピタッと止まった。

 え?

 あ、あかん、立ち眩み……視野の端っこの方が……暗くなって……きた……(;'∀')

 

 

 

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ライトノベルベスト・『チョイ借り・5』

2021-07-12 06:26:29 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『チョイ借り・5』  




 その次の土曜日、サイクリングに行った。

 チイコはオレンジに乗り、おれがチイコのママチャリに乗った。オレンジは、かなりのアシストをしてくれたので、チイコは楽勝だ。

「自転車って、楽しいね!」

 アシストされているとも気づかずに、チイコは楽しげだ。オレンジはうまくやってくれている。

 オレは、当たり前のママチャリなので、どうなるか心配だったけど、これが平気で付いていけた。オレンジのやつ、新聞配達の間にアシストを少しずつ落としていって、どうやら近頃は、オレの筋力でやらせているようだ。騙されたようだが、悪い気はしない。

 ただ、行き先が奇妙だった。

 行き先はチイコが決めているようだが、実はオレンジが巧妙に誘導している。

「ハハ、もうほとんど埼玉県だよ」

 スポーツドリンク飲みながら、チイコが壮快そうに言った。

「たしか、この辺は……」

「見て、自衛隊の基地だよ!」

 オレたちは、阿佐ヶ谷の自衛隊駐屯地まで来てしまった。

「オレ、自衛隊に入る気はないぜ……」

 小声でオレンジに言ってみた。

「これは、チイコちゃんの運よ」

 と、一言言って黙ってしまった。

 Japan Ground Self-Defense Force Public Information Center

 そばには、もっとデカデカと陸上自衛隊広報センターと看板が出ていたが、オレンジの薫陶で、英文を見て訳すクセが付いてしまっている。

 オレは、特に自衛隊フェチじゃないけど、展示物には迫力があった。生まれて初めて本物の戦車を見た。

 二階のオープンシアターで、チイコは運命的な映像に出くわした。

 女性自衛官が災害派遣や訓練に励んでいる姿である。

 女性の自衛隊員が重機を動かしたり、中には幹部になって男性隊員を指揮している姿に感動していた。

「これだ……!」

 チイコの進路が決定した。

 チイコは、その場で入隊に関わる資料をもらい、明くる日の日曜にはオジサンの部屋で、資料とネットを駆使して、いろいろ調べた。

 そして、チイコの心が決まった。

「あの部屋にいって、何もしないで出てきたの初めてだな」

「なに言ってんの、一番充実した一日だったわよ!」

 チイコのトンチンカンが嬉しかった。

 進路の先生は、進歩派なので、自衛隊には反対したが、チイコの決心は固かった。

 そして、明くる春に、チイコは自衛隊に入った。

 成績が優秀なので、南西方面遊撃連隊という、自衛隊の海兵隊のようなところに回された。

 車の免許から、無線、小型船舶の免許まで取れて、チイコの嬉しそうなメールがくるのは、オレにも楽しかった。

 

 三年後、オレは、大学生になっていた。

 

 うちの高校からは二人しか通らない難関の大学で、みんなは奇跡だと言ったが、オレには当たり前だった。

 そのころから、オレンジの口数が少なくなってきた。

「どうか、したの?」

 オレンジが、久々に人間の姿で現れた時に聞いてみた。相変わらずオレンジのセーラー服を着て、ベッドのおれの横に寝転がった。

「変わったわね、ナオキもチイコも」

「そうか? ま、確かにね……オレンジのおかげだよ。ここまで立ち直れたの。ありがとう」

「なに言ってんの、二人の力よ。二人の可能性がゼロなら、あたしが何をやっても答はゼロよ。チョイ借りのつもりが三年もいっしょに居ちゃった……」

 珍しく、オレンジの声が湿っている。

「どうかしたのか?」

 そう言うと、オレンジは横向きになって背中を見せた。思わず肩に手をやった。

 当たり前なんだろうけど、人間の女の子のように柔らかくて暖かかった。

「お願い、しばらく、そうしていてくれる」

「あ、ああ……人間のオレンジに触ったの初めてだな」

「ありがとう、人間て言ってくれて」

「オレンジ……」

「そのまま、これ以上はチイコちゃんに悪い」

 その明くる日、オレンジが居なくなった……。

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ホリーウォー・2[生還……]

2021-07-12 06:10:18 | カントリーロード

リーォー・2
 [生還……]     

 




「お前だとは分からなかった」

 もう5回目だった。

 からくも東京ゲルを脱出して、やっと東北ゲルまでたどり着き、第1セキュリティーからボスの小林一佐にたどりつくまで5回のチェックを受けた。

 4回目のゲル中枢のチェックは無害であると判断しただけで、わたしの本当のシリアルを信じてもらえたわけではない。小林一佐のメンタルチェック? で、やっと信じてもらった。

「スグルは、そこまでやってお前を守ったのか……」

 激しい敵の奇襲攻撃の中、東京ゲルのシェルターの中で、10分かけて、わたしをスグルにダウンロードした。

 わたしの情報量は莫大なものなので、スグルは代わりにわたしの電脳にダウンロード、幾人かのガードの中で、わたしをダウンロードできるだけの電脳を持っているのはスグル一人だった。究極受信とも言われ、ダウンロードしたスグルの電脳には認識コード以外にスグルはかけらも残らない。

 つまり、セキュリティーモニターに写っているわたしは、シリアルぐるみ外見は完全なスグルの姿をしている。わたしの体にダウンロードされたスグルはすぐにインストールし終わり、わたしの姿をし、わたしのシリアルコードを発していた。敵は、わたしの姿をしたスグルをわたしヒナタと認識、8発のパルスガ弾を撃ち込んで、粉砕してしまった。

 スグルが居なくなった今、わたしにはガードは一人もいない。わたしがヒナタであることが初めて理解されて、湧いてきたのは味わったことのない孤独だった。

「すぐにお前の電脳を予備の義体に移し替えよう。お前の健在を示しておかなければ抑止力にならないからな」

「はい」

「そのむさ苦しい姿を直ぐにもどしてやるからな。しかし、むさ苦しくはあったが、惜しいガードを失ったものだ……」

 そう言って小林一佐は、わたしにラボに行くように指示した。

 いざという時のために、わたしの予備の義体はいくつか用意されていた。それはわたしにも分からなかった。スグルと入れ替わって初めて解凍された情報だ。

 半透明なキャニスターの中には、真っ新なわたしが横たわっている。

 

 美しいと思った。

 

 わたしは最終兵器であると共に、宗教的シンボルといってもいい存在なのだ。外見も、それにふさわしく作られている。

「こんなのは、ただのマネキンの美しさだ。お前の電脳の中身が移植されれば、真の美しさと脅威が復活する。教授、あとはよろしく。念を押すようですが、このことは極秘でお願いします」

「君は、そちらのキャニスターへ」

「はい」

 一瞬深い闇に落ちた感じがして、気が付くと隣のキャニスターの中には、今までわたしが入っていたスグルのボディーが抜け殻になっていた。

「やっぱり自分の体の方がいいだろう。右のボックスの中に着るものが入っている。早く着てしまいなさい」

 教授は起動した機器をオフにしながら言った。

 電脳の中身、すなわち魂が入れば、わたしのボディーは人格を持つ。やはり男としては目を向けないのが礼儀なのだろう。

「教授、スグルのボディーはどうなるんですか?」

「こいつは優秀だ。共食い用ボディーとして使わせてもらう。損傷してるアンドロイドは多いからな」

「なんとか元にはもどせないでしょうか……」

「ガードの最後の役割は、自分をヒナタの入れ物にして持ち帰ることだからな。ヒナタ、お前さんと最終兵器バルマの機能情報は莫大な量だ。入れ替わる時に、こいつの中身はスッカラカンだ」

「でも、しばらく待ってもらえませんか。スグルは空っぽだけど、スグルといっしょに戦ってきた者たちの心には、スグルの機能やら人格が記憶として残っています。それを集めれば復元できないでしょうか」

「記憶から機能と人格を復元……ひょっとしたら君の中に、未知のアビリティーがあるのかもしれんな。よし、十日だけ待ってみよう。こんなご時世だが、少しは夢を持ってもいいかもしれないな」

「わたし達生還したんですから」

「生還……かもしれんな」

 教授が出て行ってから、改めてスグルの抜け殻を見た。

「戻ってこい……スグル」

 呟きは、狭いラボの中で思いのほか大きく響いた……。

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