大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・224『大日本服飾の申し出』

2021-07-28 09:42:41 | 小説

魔法少女マヂカ・224

『大日本服飾の申し出語り手:霧子   

 

 

 再生服の頒布は好評だった。

 なんせ、元は廃棄するカーテンだったりテーブルクロスだったり。そのことを隠さないで配るのだから、もらう方も気が楽だ。中には日焼けや色褪せがハッキリわかるものもあったけど、春日メイド長のアイデアで生地の取り方を工夫して、自然なグラデーションに見えるようにしてある。

「こりゃ紫裾濃(むらさきすそご)だ(^▽^)」「紅匂(くれないにおい)だよ(^□^)」と年配や、粋筋のおばさんたちにも喜んでもらえた。

 子どもたちには色褪せたテーブルクロスの再生服。子どもは、思い切り遊びたいものだ、だから、多少よれていたり、褪せていたほうが気を遣わなくていい。

「救援に来てくれた兵隊さんが、こんなの着てた!」

 男の子たちは、兵隊さんたちに通じるような『働く服』的なものが嬉しいようだった。

 女の子たちには、ワンピース。

 胸の下で切り返しになっているのは、生地の都合(変色とか、寸が足りなかったり)なんだけど、その切り返しを逆手にとって色合いや柄を変えてみると、けっこうおもしろい。女の子は、どんな時でもお洒落が好きだ。

 

 そして特筆すべきは、みんな笑顔になってきたことだ。配る方も配られる方も。

 

 最初は教会の周りを走り回って、疲れが滲んだ顔でやっていたんだけど、もらった子どもたちが「おねーちゃんありがとう(#^□^#)」と笑顔を返してくると、こっちも「どういたしまして(#^▢^#)」という顔になる。司祭のマッキントッシュさんも「神さまも喜んでます(^曲^)!」と歯を見せるようになった。

 震災では、数えたら胸が潰れるくらい大勢の人が亡くなった。

 でも、だからと言って、残された者たちが沈鬱な顔をしていては浮かばれない。残された者が笑顔で働いて、遊んで、それで、初めて成仏するんだと思う。キリスト教的に言えば、髪のご加護があるというものだ。

 ただ、予定の時間の半分で用意していた再生服が無くなってしまい、次の補充のあてがつかなくなった。

 少なくとも、半月は無理だ。目算で、そう思った。

 

「お話があるのですが」

 

 大人用の再生服を手に持った男の人が前に立った。

「あ、縫製ミスがあったでしょうか?」

 なんせ、再生服。ほつれや、僅かな縫い漏らしなどがあって、たまに苦情を言う人がいる。

「いえ、こういう者ですが」

「はい?」

 差し出された名刺には『大日本服飾工場長』の肩書があった。

「わたしどもの工場も倉庫も、震災に遭って相当の被害を受けました。まだ、再建の目途も立たずに、倉庫の生地や布地も水を被って商品にはなりません。このままでは廃棄と覚悟していたのですが、みなさんの再生服を見て、これならいけると思ったのです」

「は……と言いますと?」

「よかったら、わたしどもの生地を使っていただけませんか?」

「え、本当ですか!?」

「はい、僅かですが、残ったミシンもあります。こちらでもお手伝いできれば、従業員たちにも励みになります」

「嬉しい! えと、わたし一存では決められませんので、えと……田中ぁ! ちょっと話を伺ってちょうだい!」

 教会の中で手伝いをしていた田中執事長に声を掛ける。

「はい、お嬢様、なんでしょうか?」

 執事服の田中が出てきて、工場長さんは、ちょっとビックリ。田中が話をして、高坂公爵家の娘だと知ると目を剥いた。

 努力の甲斐あって、普通の女学生として奉仕活動をやることには成功したようだ。

 十分ほど立ち話をすると、田中がメモ帳を見ながらやって来る。向こうで工場長さんが最敬礼するので慌ててお辞儀を返す。

「最終的には殿様(父の事を、使用人たちは、こう呼ぶ)のお許しが要りますが、おそらくお許しくださるでしょう。お屋敷に戻りましたら、今夜にでも相談いたします」

「よかった、そうしてちょうだい」

「ねえ、ちょっとなんやのん?」

 聞きつけたノンコがやってきて、学習院組も寄って来る。

「うん、ちょっとすごいことになるかも!」

「「「すごいこと!?」」」

 まだ中身も話さないのに、みんなの頬が赤くなり、目に力が宿る。

 今夜は、晩御飯が美味しくいただけそうだ(^▽^)/

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
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ライトノベルベスト『さよならフェブ』

2021-07-28 06:53:51 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『さよならフェブ』  




 それはいきなりだった。

 スマホの着信なんて、いつでも誰にでもいきなりなんだけど、フェブのそれは、いつもいきなりって気がする。

 それは、ボクが、なによりも、誰よりもフェブのメールを待ちわびているせいかもしれない。

 フェブと出会ったのは、節分の夕方。

 帰宅部のボクは、ダラダラと教室でユイたちととりとめのない話をして、ゲンが「腹減った!」とお腹の虫といっしょに叫んだのを汐に、やっと帰ることにして、そして駅で上りのゲンたちと別れた。

 下りはオレとユイの二人だ。

 ユイとは一年から同じクラスで、二年になってからはクラスで一番気の合うカノジョだ。

「いつまでもバカやってちゃダメだね」

 ユイが、ホームのガラスに映るボクに言った。

「そう……だな」

 あいまいに返事した。

 ユイもボクも、帰宅部の半分くらいが進級が危ない。実際一年の時の帰宅部の半分が二年になれなかった。

 この会話は儀式みたいなもんだ。二年になっても三回目だ。

 そう誓っては、その次のテストでは赤点だらけ。で、傷の舐めあいみたく放課後遅くまで残って、くだらない話をして時間を潰す。たまにみんなでカラオケとか行くけど、それ以上の付き合いなんかじゃない。

 よくわかっている。

 ユイもボクの事をカレだと思ってくれているけど、一年の学年末テストの前キスのまね事をしただけだ。本当に男と女の関係になったやつもいたけど、二年になった時には学校にはいなかった。

 ボクたちは、高校生のまね事をやっているだけなのかもしれない。だから、ユイもガラスに写ったボクにしか言わないし、ボクもいいかげんな返事しかしない。

 フェブは、商店街の脇道の風俗街の入り口で、客寄せのポケティッシュを配っていた。赤いダウンを羽織って、少し疲れた笑顔で配っていた。ハーフなんだろうか、どこか顔立ちが外人ぽかった。

「キャ!」

 フェブが悲鳴を上げて倒れた。スマホを操作しながらサラリーマン風が知らん顔して行ってしまった。

「大丈夫……?」

 そう言いながら、ボクは飛び散ったポケティッシュを拾い集めた。

 ダウンの前がはだけて中のコスが見えた。アイドル風の夏のコスだった。超ミニのスカートから伸びた白い足がまぶしかった。反対側の足をかばっている指の間から血が滲んでいる。

「よし、これで大丈夫」

 伯父さんは手際よくフェブのひざの傷の手当てをしてくれた。

 伯父さんは商店街で薬局をやっている。ボクは急いでフェブを連れてきたんだ。普段なら見ないふりして通り過ぎていただろう。でも、もののはずみと、フェブの風俗ずれしていない可憐さ、そして、なんだか分からない申しわけなさがごちゃ混ぜになって、風俗の子を助けるという……いつにない行動に走った。

「すみません、あたしみたいなのが表通りまで出てきちゃって……」
「事故なんだから仕方ないよ。鈴木の店で働いてんだね。あそこなら安心だ」
「分かるんですか?」
「ああ、やつとは幼馴染だからね、神社の次男坊の気軽さかな、あいつは商売の方が向いてるよ」
「マスターは今夜は実家の手伝いです」
「節分だもんな。健、お前には珍し人助けだったな」
「そうだ、ありがとう。まだお礼言ってなかった」

 それがフェブとの出会いだった。

 フェブは、ナントカって国(聞いたけど忘れた)と日本のハーフ。風俗で働きながら芸能界を目指しているらしい。
 いろいろオーディションを受けたり、バックダンサーの端の方で時々テレビにも出ているらしい。
 フェブというのは、二月生まれなんで、フェブラリーの頭をとってつけた名前らしい。伯父さんの店でメル友になった。

 フェブは芸能界でがんばりたいので、高校を中退してがんばっている。というのは表向きで、経済的な理由で続けられなかったようだ。

 遅刻しないだけが取り柄のボクは、朝が早い。

 商店街の喫茶店で働いているフェブを見た。夜はガールズバー、朝は早くから喫茶店。
 笑顔でがんばってるフェブがまぶしかった。

 フェブからは、しょっちゅうメールが来る。学校のいろんなことを聞いてくる。その都度ボクはメールを返した。おかげで、ボクの時間割から、成績まで教えてしまった。
 フェブは、授業時間中には絶対メールをよこさない。中退したフェブは学校の大事さをよくわかっているようだ。

 帰り道、三日に二度ほどフェブと短い立ち話をした。

「テスト一週間前なんだから、もっと早く帰って勉強しなくちゃ!」
 先週は本気で怒られた。
「ここってとこで本気になれないやつって最低だよ」
 とも言われた。

 でも、ボクは放課後ダラダラとミユたちとしゃべってしまう。ボクはフェブに嘘をつくようになった。家に帰って勉強してるって……。

 だけど、フェブにはわかるようだ。嘘には、どこか矛盾が出てくるから。そして、嘘は学校で補習を受けているっていうところまで広がってしまった。

――このごろ、話すとき目線が逃げるけど、なにか……考えてる?――
――ちょっと疲れてるかな――

 そのあくる日に最後のメールが来た。

――来月の一日に東京のオーディション。準備があるから、明日から東京。あたしにも健にも二月は28日までしかないんだからね――

 ボクにはフェブが二月の妖精か、二月担当の神さまのように思えた……。




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ホリーウォー・18[ヒナタとキミの潜入記・6]

2021-07-28 06:37:04 | カントリーロード
リーォー・18
[ヒナタとキミの潜入記・6] 



 
 シンラの毎日は想像以上に多忙だ。

 五つに分裂した中国が底の底で結びついているのは、シンラの活動があるからだと思えた。
 
 大陸各地に、シンラの司教や宣教師を送り込まれていて、その報告が毎日天壇の本部に送られてくる。様式はまちまちで、大概はスマホやパソコンからのメールであるが、中には古色蒼然たる手紙や電話である場合もある。
 
 中国は広い。大陸の隅々までシンラのネットワークが完璧に張られているわけではない。
 
「ネットワークを張ろうと思えば、いつでもできる。しかし、その人その地域に合った通信手段があるんだよ」
 
 シンラはにこやかに語りながら、秘書官の明花(ヒナタ)といっしょに整理しながら目を通していく。その場で答えを書いたりメールしたり、一部の者はシンラの幹部と話し合うためにデータ化したうえで、幹部それぞれに転送。会議が行われる時点で情報は共有化されている。
 
 部局は、五つに分かれた中国と、海外部門が二つの計七つに分かれていて、七つの部局にも、担当地域からの情報や報告が入っている。
 
 一見二重作業のように見えるが、頭脳を複数にすることによって、地域的、人種的な偏見をできるだけ排除しようというシステムである。この制度があることで、シンラは五つの大陸国家の枠を超えて活動ができるのである。
 
「シンラ同志の速読と決断の早さはすごいですね!」
 
 仕事が一段落したところで、明花は感嘆の声をあげた。
 
「なあに、慣れですよ。確かに慣れたと言っても大変ですがね、大陸や世界をリアルタイムで理解しておくのには手を抜けないところです」
 
 柔和な、慈悲深いと笑顔でシンラは語る。この優しく理性的な様子から、あの残忍なテロの主導者であるとはとても思えなかった。

 習大佐は面白くなかった。いや、危機感をつのらせていた。

 先日のクーデタは大成功であった。漢民主国から、国家よりも自分の利権を第一にする中国伝来の守旧派は排除できた。
 
 クーデタでできた政権は、必ずクーデタで倒される。それを芽のうちに摘んでおくために、シンラに劣らない情報網で、国の情報を集めていた。
 
 そこから分かってきたのは、クーデタの成功の裏には必ずと言っていいほど、シンラの影がちらついていることだ。
 
――宗教団体とはいえ、これは人間業では無い――
 
 そう思えてきた。

 習大佐は、あることを確認しようとして、一つの計画を練った……。
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