やくもあやかし物語・89
図書当番でカウンターに座っている。
図書当番の主な仕事は、本の貸し出しと返却の受付。
本を借りる生徒は、あんまりいない。
中学生は本を読まない。まあ、マンガとラノベくらいだよ。
ところが、図書室にはマンガもラノベもほとんどない。
その数少ないマンガの中で一番目立つのが『マンガ日本の歴史』とか『マンガ世界の歴史』だったりする。他に、その発展系の『火の鳥』『ブッダ』とか、せいぜい『コナン』とかね。
ラノベは『りゅうおうのおしごと』とかはあるんだけど『エロマンガ先生』とかは無い。
つまり、ただでも本を読まない中学生の中でも、なんとか人気のあるマンガやラノベは置いてない。
まあ、教育的配慮というやつ。
民間企業だったら、とっくに潰れてる。
あ、別に批判してるわけじゃないよ。
図書室があるのは、わたしみたいな子にはありがたい。
図書当番でも、カウンターに座ってさえいれば、自分の事をやっていても構わない。
勉強とか調べもの……なんて、めったにやらなくて、ボーっとしてることが多いんだけどね。
ボーっとしながら、更紙に落書き。
「ありわらのなりひら、って、読むのよ」
キャ
「ハハ、脅かしちゃった?」
「アハハ」
「なんか、唸ってるから、読み方が分からないのかと思って(^_^;)」
ビックリさせたのは、図書の小出先生。
更紙に『在原業平』をいっぱい書いていたので、小出先生が読んじゃったんだ。
「え、あ、あ、もう一回言ってもらっていいですか!?」
「う、うん。ありわらのなりひら」
「そうか、ざいはらぎょうへいだとばかり思ってました(;'∀')!」
「アハハ、でも渋いわね、在原業平なんて」
「え、ちょっと(^_^;)。で、なんなんですか『ありわらのなりひら』って?」
「平安時代のイケメン貴族」
「人の名前だったんだ!」
「なんだと思ってたの?」
「四文字熟語!」
わたしは、チカコが残した『在原業平』をずっと悩んでいたんだ。
ザイハラギョウヘイと打ってもザイゲンゴウヘイと打ってもスマホは答えを出してくれなかったし。
国語辞典をひいても分からないし、チカコは、あれっきり現れてこないし。
「それで、なんで在原業平なの?」
「え、ああ……」
本当の事は言えない。
俊徳丸もチカコも普通の人には分からないもんね。
「お爺ちゃんのナゾナゾなんです」
「ほう、お爺ちゃんと、そういう会話ができるんだ。いいことね」
「アハハ、それで『東窓』っていうのもあるんです」
「在原業平で……東窓……ちょっと待っててね」
小出先生は司書室に戻って閉架図書からブットイ本を出して調べてくれた。
「……ああ、なるほどね」
「分かったんですか!」
「うん、ちょっと面白いわよ(^▽^)」
先生はブットイ本の中の在原業平に関することをかいつまんで説明してくれました。
ちょっと、いや、かなり面白いので、次回にまとめてお伝えしたいと思います(^_^;)!
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 教頭先生
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸