大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・89『小出先生が教えてくれる』

2021-07-19 09:27:17 | ライトノベルセレクト

やく物語・89

『小出先生が教えてくれる』    

 

 

 図書当番でカウンターに座っている。

 

 図書当番の主な仕事は、本の貸し出しと返却の受付。

 本を借りる生徒は、あんまりいない。

 中学生は本を読まない。まあ、マンガとラノベくらいだよ。

 ところが、図書室にはマンガもラノベもほとんどない。

 その数少ないマンガの中で一番目立つのが『マンガ日本の歴史』とか『マンガ世界の歴史』だったりする。他に、その発展系の『火の鳥』『ブッダ』とか、せいぜい『コナン』とかね。

 ラノベは『りゅうおうのおしごと』とかはあるんだけど『エロマンガ先生』とかは無い。

 つまり、ただでも本を読まない中学生の中でも、なんとか人気のあるマンガやラノベは置いてない。

 まあ、教育的配慮というやつ。

 民間企業だったら、とっくに潰れてる。

 

 あ、別に批判してるわけじゃないよ。

 

 図書室があるのは、わたしみたいな子にはありがたい。

 図書当番でも、カウンターに座ってさえいれば、自分の事をやっていても構わない。

 勉強とか調べもの……なんて、めったにやらなくて、ボーっとしてることが多いんだけどね。

 ボーっとしながら、更紙に落書き。

「ありわらのなりひら、って、読むのよ」

 キャ

「ハハ、脅かしちゃった?」

「アハハ」

「なんか、唸ってるから、読み方が分からないのかと思って(^_^;)」

 ビックリさせたのは、図書の小出先生。

 更紙に『在原業平』をいっぱい書いていたので、小出先生が読んじゃったんだ。

「え、あ、あ、もう一回言ってもらっていいですか!?」

「う、うん。ありわらのなりひら」

「そうか、ざいはらぎょうへいだとばかり思ってました(;'∀')!」

「アハハ、でも渋いわね、在原業平なんて」

「え、ちょっと(^_^;)。で、なんなんですか『ありわらのなりひら』って?」

「平安時代のイケメン貴族」

「人の名前だったんだ!」

「なんだと思ってたの?」

「四文字熟語!」

 

 わたしは、チカコが残した『在原業平』をずっと悩んでいたんだ。

 ザイハラギョウヘイと打ってもザイゲンゴウヘイと打ってもスマホは答えを出してくれなかったし。

 国語辞典をひいても分からないし、チカコは、あれっきり現れてこないし。

「それで、なんで在原業平なの?」

「え、ああ……」

 本当の事は言えない。

 俊徳丸もチカコも普通の人には分からないもんね。

「お爺ちゃんのナゾナゾなんです」

「ほう、お爺ちゃんと、そういう会話ができるんだ。いいことね」

「アハハ、それで『東窓』っていうのもあるんです」

「在原業平で……東窓……ちょっと待っててね」

 小出先生は司書室に戻って閉架図書からブットイ本を出して調べてくれた。

「……ああ、なるほどね」

「分かったんですか!」

「うん、ちょっと面白いわよ(^▽^)」

 先生はブットイ本の中の在原業平に関することをかいつまんで説明してくれました。

 ちょっと、いや、かなり面白いので、次回にまとめてお伝えしたいと思います(^_^;)!

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸

 

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ライトノベルベスト〔72年ぶりの魚雷発射〕

2021-07-19 06:01:58 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『72年ぶりの魚雷発射』  




 やっと見つけた……

 ケント・カーク艇長の感動は、静かな呟きのようだった。

 親子三代にわたる捜索が実った感動は、意外に静かなものだった。カーク艇長の祖父ジミー・カークは、第二次大戦も終末期の1945年の7月、この東シナ海で、日本の潜水艦を撃沈した……はずだった。

 はず……というのは、爆雷が爆発したあと、潜水艦の圧壊音も聞こえなければ、撃沈を証明する油も浮遊物も上がってこなかったからである。

 祖父のジミーはサブマリンキラーと呼ばれ、Uボートと日本の潜水艦を52隻も撃沈していた。

 しかし52隻目の日本の潜水艦は、公式には認められなかった。理由は前述したとおり、撃沈を証明するものが何もなかったからである。その一か月後、戦争は終わり、ジミーの正式記録は51隻とされ、撃沈数第二位に甘んじなければならなかった。

 ジミー・カークは納得しなかった。

 戦後日本から接収した資料で、その潜水艦がイ号1004であることは確認できた。そして、このイ号1004は日本に帰投することもなく、日本側の記録では撃沈されたことになっていた。

 しかしアメリカは実証主義で、撃沈を証明するものがなければ撃沈のスコアとしては記録しない。ジミーは海軍を退役したあとも、私財を投入してイ号1004潜を探した。10年を掛けたが、家の財産を使い尽くしそうになり諦めざるを得なかった。息子のヘンドリックは、サルベージ会社を立ち上げ、カリブ海などで、沈没船を引き上げ財を成した。

「頼む、どうかイ号1004を見つけてくれ……」

 そう言い残して、ジミーは65歳という若さで、この世を去った。

 父の遺志をついだヘンドリックは、仕事の合間を見ては、半世紀の間、東シナ海にイ号1004を探した。最後の5年は特注の潜水艇レッドブルを作って徹底的に探した。しかし発見することはできず、二か月前に世を去った。

 そして、あとを継いだケント・カークは葬儀と会社の引継ぎが一段落した2014年8月から捜索を開始した。

 そして見つけたのである。

 感動というよりは安堵したというのが本音だった。

 そして、イ号1004の周囲を回ってみて、別の感動が湧いてきた。

 イ号1004は沈没してはいなかった……艦底を海底から僅かに浮かして、海流に流されていたのである。

 爆雷の衝撃で、艦尾の損傷がひどく、おそらく艦内の半分近くは浸水している。しかし乗組員は必死に努力したのだろう。完全な沈没にはいたらず、72年間も東シナ海の海底を浮遊していたのである。ケントは、その乗組員たちの健闘に感動した。

 レッドブルは、イ号1004の周囲を回りながら、マジックハンドで、あちこちを触ってみた。艦尾の外郭の一部を証拠として剥ぎ取った。そして、後日本格的にサルベージするために、GPSの付いたブイを付けておいた。

 しかし、運悪く台風の接近で、ブイは切れてしまい、イ号1004の行方は再び分からなくなってしまった。

 記録は映像で残してあったし、証拠になる外郭もあったので、祖父の記録は認められようとしたが、海軍の規定により着底していない限り、撃沈とは認められなかった。

「あのとき、沈めておけば良かったですね」

 レッドブルのメカニックたちは言ったが、ケントは、あれで良かったと思っている。日本海軍の乗組員たちが最後までダメージコントロールをやって、着底に至らなかったのである。そちらの方こそ賞賛されるべきであるとし、海が落ち着き次第、海上自衛隊も参加し、大掛かりな捜索をすることになった。

 そのころ、C国の空母遼東は、東シナ海諸国に圧力をかけるため、駆逐艦を引き連れて、演習を行っていた。

 その駆逐艦が落とした演習用の模擬爆雷が、偶然、海底を漂っていたイ号1004にぶつかった。1004の艦内は無酸素状態になっており、乗組員たちは、生きていたときそのままの姿で部所についていた。模擬爆雷が接触した衝撃で、前部魚雷室の乗組員の体が動いた。

 不幸なことに、彼の指は魚雷発射ボタンを押してしまった……遼東との距離5000メートル。

「艦首左前方より、雷足音!」

 ソナー係が悲鳴のように叫んだが、国際標準のガスタービンではなく蒸気タービンしか積んでいなかったので「前進全速! 面舵いっぱい!」艦長の的確な指示も虚しかった。6本の魚雷のうち、4本が命中。遼東は30分で沈んでしまった。

 そして、イ号1004はいまだに行方が分からない……。

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ホリーウォー・9[スグルのメモリーを集める・7]

2021-07-19 05:44:48 | カントリーロード

リーォー・9
[スグルのメモリーを集める・7] 

 



 女の子がうなだれて、先生の前に座っている。

 手入れしていないショートボブはクシャクシャになり、着ているものも、シャツの打ち合わせが左前なのに気づかなければ華奢な男の子にしか見えなかった。
 従順そうに座っているが、自分の意志でそうしているのか、先生に圧倒されてそうしているのかよく分からない。

「もうしません……見つかってしまったら、管理も監視も厳重になるし、わたしには、もうできないし、他にできることを考えます」

「……そうね、先生が力になれることがあったら話してね。できることは力になるから。じゃ、今日は炊事当番ね、自分の役目だけはきちんと、こなしてね」

「はい……それだけですか?」

「形だけの指導しても、亜紀ちゃんの心に届かなきゃ意味ないもの。分かるようになったら、そのときにね」

「……行っていいですか」

「はい、あたしから言うことは、それだけだから」

 パーテーションで仕切られてはいるが、狭い職員室なので亜紀と田隅先生の話は筒抜けだった。

「お待たせしましたね、吉岡君のことですね?」

 粗末なソファーに座りながら田隅先生はタブレットを操作して終わったばかりの指導記録をつけていた。一見失礼に見えるが、ヒナタには、この愛育園の忙しさと、何事にも手を抜かない田隅先生の好ましい印象に写った。

「吉岡君、重症なんですか?」

 タブレットを操作し終えた田隅先生は、真剣にスグルのことを心配する目をしている。

「重度の記憶障害です。で、吉岡三佐の記録をもとに、成育歴や記録を収集し、そのメモリーショックで覚醒させようとお邪魔しました」

 さすがに、スグルがほとんど義体化し、自分を救うために究極受信をして、記憶や機能を喪失したとは言えなかった。

「吉岡君は、今の亜紀ちゃんに似ていましたね……」

 田隅先生は、眼鏡を外すと両目の間を揉んだ。見かけと馬力は三十代でも通用しそうだったが、こういうふとした動作に、この道三十年の疲れが見えた。

「あの子は、個人ファイルを消去しようとしたんですね」

「ええ、本部のCPに元ファイルは入っているんで、ここのを消去しても復元はできるんですけどね。やはり指導は指導ですから」

「亜紀ちゃんも、こないだの東京ゲルの襲撃で孤児に?」

「いえ、あの子は福岡ゲルのテロ事件で」

「あの時の犠牲者の子供だったんですか」

「ええ、もう半年になりますけど、まだ心を開いてくれません。だから、まだ、この愛育園にも馴染まなくって……まあ、福岡事件の犠牲者はあの子の親だけでしたから、ショックも孤独感も強いんでしょう……ここに来る子は、概ね二つのタイプに分かれます。いつまでも過去の記憶にしがみつく子と、亜紀ちゃんや、かつての吉岡君のように過去と決別しようとする子に。どちらも過去に縛られているという点では同じです。まあ、結果がネガと出るかポジと出るかの違いですね。それと他者に心を開かないという点でも共通です。精神の弱い子はネガに、強い子は亜紀ちゃんのようにポジに出る傾向があります」

「心の強さが、ここでは逆効果なんですね」

「さすが特科の方ですね、並の神経の子なら、いつまでも心を閉ざしてはいられないものです。一か月もすれば、たいてい馴染んでしまいます。まあ、それだけのスキルと自信はあります」

「それぐらいでなければ、戦災孤児の世話なんかできないでしょう」

「ご理解いただいて嬉しいです。ただ政府は、そういう我々のスキルや精神力に頼りすぎで、もう少し予算と人員を考えてもらいたいんですけどね……ハハ、あなたのような実戦部隊の方に申し上げても仕方のないことなんですけど……そうそう吉岡君のことですね」

「はい、あの人はプライベートなことは言わない人でしたので、成育歴に関しては、ここだけが頼りなんです」

「あの子の時代は、情報を本部に集中していませんでしたからね。気づいたころには、消去した上にダミーの記録まで上書きしていましたから、発見が後手になってしまいました」

「その記録を見せていただけますか」

「ダミーですから、役にはたちませんよ」

「ダミーの作り方から、個性や精神状態が推測できる場合があります。お願いします」

「分かりました……これです」

 田隅先生は、タブレットを操作して、スグルのダミーの記録を見せてくれた。

 なんの変哲もない、三人家族のプロフだったが、ヒナタはネガに読み取った。

「ここに書かれていないことに真実がありそうですね」

「あ、そういう見方……でも、プロファイラーでもなきゃ」

「多少、プロファイリングもやりますんで……」

 ヒナタは熱心にダミーのプロフを読んだ。その熱心さに引き込まれ、田隅先生も、これまでになく熱心にダミーを読み返した。

「なにか分かりました?」

「おそらく、吉岡三佐は四人家族です。妹がいた形跡があります」

「妹さんが?」

「ええ、友達のことがたまにでてきますけど、友達本人より、その妹についての記載が多いです。友達ということでカモフラージュしたんでしょう」

「なるほどね……」

 田隅先生は感心した。

 実は、主に調べていたのは田隅先生の記憶にあるスグルの姿だった。ダミーのプロフを見たのは、田隅先生に当時のスグルの印象を喚起してもらうためだった。

 でも、妹がいたことは、ほぼ間違いが無い。

 ヒナタは、スグルの孤独、その根の深さを理解した。

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