大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・055『火星を離れる』

2021-07-15 12:04:56 | 小説4

・055

『火星を離れる』 児玉元帥   

 

 

 火星には13の国家があるが、実質は3か国。

 

 アメリカの植民地から発展した連合国。中国系のマス漢国。そして扶桑国。

 

 扶桑国の扶桑は日本の別名だ。美称と言っていい。

 扶桑一の強者(つわもの)とか扶桑随一の名山という言い方に残っている。日本初の超ド級戦艦に扶桑と名付けたことも専門家のみならず、マニアの中でも有名な話だ。

 連合国は本来はアメリカ連合国と称した。

 火星開拓の中核になった者にテキサス出身者が多かったことから付けられた国名だが、正式に独立するときに冠の『アメリカ』を外した。初代大統領のジェファソンが将来的にはアメリカ系以外の国の加盟を想定していたからだ。

 マス漢は、本来はマース漢国と書く。つまり火星の漢国。

 前世紀から地球においても中華という表現はしなくなってきた。中華という言葉はニ十一世紀から顕著になってきた中華の膨張主義を連想させるために、あえて国名から外したのだ。

 三国ともに、地球にルーツを持ちながら、そのルーツからは外れて新天地を拓きたいという思いがこめられている。

 さて……

 

 そこまで書いてペンが停まってしまう。

「回想録ですか?」

 妹という設定になったコスモスがコーヒーをトレーに載せて寄って来る。

 船内にはラスベガスから地球に戻る客が八割、月で降りる客が二割という塩梅で定員を満たしている。

 大半がラスベガスの客だ。

 身元は様々だが、その大半は、わたしとコスモスが姉妹になっているようにデタラメだ。

 なぜデタラメかと言うと、姉妹揃って首からぶら下げている御守りを見れば分かる。

 御守りは『銭洗弁天』だ。

 銭洗弁天は江ノ島弁天と並ぶ湘南の二大弁財天の一つだ。

 銭洗弁天の水でコインを洗うと、お金が増えると言うのが古来から伝わるご利益だが、その筋では意味が異なる。

 まさに金を洗うことであり、そういう外れた顧客が多いためにラスベガス発の船は深く身元を追求しない。

 

「大阪で会社を興します」

 さすがはコスモス、やることが早い。

「どんな会社?」

「とりあえず貿易会社です。社名は、これ」

『シマイルカンパニー』というロゴがコーヒーの湯気と重なって見えた。

「大昔のネット通販みたいなロゴね」

「ヘヘ、漢字で書くと『姉妹るカンパニー』です」

「ああ、なるほど。姉妹二人でやるんだものね(^▽^)」

「ほんとは『姉妹社』にしたかったんですけど」

「『サザエさん』の出版社になってしまうわね」

「よかったら、ここをクリックしてください。シマイルカンパニーの登記が完了します」

「よし」

 パンパカパーーン

 クリックすると『登記済み』のサインを煌めかせた通天閣が現れ、通天閣の下からグリコマンが走ってきて有名なゴールインポーズをとってファンファーレが鳴って花吹雪が舞い散る。

「フフ、気合いが入ってるわね」

「元帥も、船に乗ってからは女言葉ですね」

「ええ、当分は化けていなくちゃならないから。到着前には髪も切るつもり……これもね」

「え、削除しちゃうんですか?」

 書きかけの回想録『火星編』をワイプする。

「残しておくとろくなことは無いわ、中身は頭のなかにあるしね」

「ですか(o^―^o)」

「八時からシアターでショーがあるわ、食事もできるみたいだし行ってみない?」

「はい、地球までは七日かかりますからね、ゆったりと行きますか」

 部屋の照明を落とすと、コスモスと二人でシアターのある第二デッキを目指した。

 

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

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ライトノベルベスト・[バナナストッカー]

2021-07-15 06:41:45 | ライトノベルベスト

 

イトノベルベスト

バナナストッカー』 




 バナナストッカーというのを知っているだろうか。

 スタンドの形をしていて、一番上にバナナの房の股をひっかけて、バナナが自然に生っているのと同じ状態で保存する簡易な装置である。これにぶら下げておくと倍は長持ちする。

 このバナナストッカーを教えてくれたのがジェニファだ。

 ジェニファと最初に出会ったのは、PTA総会のために学校が半日で終わった日だった。

 駅前で、匂いに釣られてバナナクレープなんぞという女子系の食い物を買って、のんびりと家まで歩いていた。

 で、目が合った。

 ボクはバナナクレープなんぞという女子系の食い物を持っていたので、どこか座って食べられるところを探していた。公園のベンチがいいかなと、公園の前で足が止まった。

 で、見てしまった。

 女の子が、制服のまま鉄棒にぶら下がり、短いスカートが風にひらめいて一瞬パンチラになった。

「アハ、見えちゃった(^_^;)?」

「え……あ、その(;'∀')」

 それが最初だった。

 ジェニファは、とても可愛かった。

 そのあとすぐにベンチで隣同士で座って、バナナクレープを半分ずつにして食べた。

 べつに可愛いからとか、ヨコシマナ気持ちがあって、そうしたんじゃない。

 気づいたらそうなっていた。で、クレープを食べている姿を見て可愛いと思ったんだ。

 制服から、隣町の女子高の子であることはすぐに分かった。日本とフィリピンのハーフで、親の仕事の都合で日本にやって来たばかり、今日初めて登校したらしい。

 可愛いさは、時に同性からは嫉妬交じりのヤな目で見られる。ジェニファの生来の明るさも災いしているらしい。確かに初対面の男子高校生にパンチラ見られて、数十秒後には並んでバナナクレープをシェアしているんだからね。

「なんで、鉄棒なんかにぶら下がってたの?」

「健康にいいんだ。うち、フィリピンでバナナ農園やってたの。バナナってぶら下げとくと、いつまでもみずみずしくって長持ちするんだよ。だから人間もときどきぶら下がると健康にも美容にもいいの。佑(たすく)もやってみるといいよ」

 二日後に、また会った。

 例の公園で同じようにぶら下がっていたけど、今度はAKBみたいにヘッチャラパンツを穿いていた。

 今度は、前よりもいっぱい話した。家のことや学校のこと、どうも学校では孤立し始めているらしかった。

 そしてバナナストッカーをくれた。

 プラスチック製の簡易型なんだけど、それだけバナナを身近に感じさせて、食べてみようという気にさせる。

 家で、さっそく試すと、確かにバナナのもちが違った。一週間たってもみずみずしい。

「あたし、佑より少し年上……いろいろあったからね。だから日本に来たら高校二年生。それでね……」

 三度目は、前の倍くらい話した。もちろんボクはバナナクレープを二人分持って行った。

 そうして、一か月ほど楽しく時間が過ぎた。

 その日、いつものようにクレープ持って公園に行った。

 いつもの鉄棒のところにジェニファーの姿は無かった。

「あれ……」

 周りを見渡すと、植え込みの木々の間に見慣れた脚が揺れているのが見えた。

 ジェニファは、手ではなく、首でぶら下がっていた。

 一瞬驚いたけど、すぐに平気になった。

 ジェニファは、まるで昼寝をしているように安らかだった。よだれも鼻水も垂らさず失禁もしていなかった。

 どう見ても、いつものぶら下がり。それが手ではなく首だというだけのことのように思えた。

 ボクはジェニファが目覚めるのを待った。

 今までのジェニファとの話が思い出される。

 けっこうミゼラブルなんだけど、ジェニファが話すと明るく面白く感じた。

 ちょっとひっかかった。初めて会った日、ボクが名乗っていないのに、ボクの事を佑と呼んでいた。

「ねえ、ジェニファ……」

 見上げたところには、もうジェニファの姿は無かった。

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ホリーウォー・5[スグルのメモリーを集める・3]

2021-07-15 06:18:59 | カントリーロード
リーォー・5
[スグルのメモリーを集める・3]  



 
 
「コンドミニアムにして正解だったな」

 最終日の朝、朝食を摂りながらサブが言った。むろん中身は言葉通りでは無い。最終日だから気を抜くなという意味が籠っている。

 コンドミニアムなので、キッチンや洗濯機が付いており生活に関わることは自分たちでやる宿泊施設だ。
 
「はい、今朝はミナがつくりましたよ~(^▽^)」
 
 六歳になったばかりのミナはプルプル震える手で、スクランブルエッグの大盛りをテーブルに運んだ。
 
「すまんな絵里、煩わせたんじゃないのか」
 
「いいえ、わたしは傍でひかえていただけですから」
 
「ハハ、そうか。じゃ、みんな、ミナ六歳初の朝食。元気付けて一日楽しもうか(^_^;)」
 
 ちなみに、ひかえるとは、サブやスグルの業界用語で、新人の初出撃をサポートし、重大なミスやトラブルがおこらないようにすること。
 要は守り役。場合によっては新人をカバーし、作戦にほころびが出ないように自分が犠牲になることもある。
 
「ハハ、六歳最初の任務としては上出来だ。ミナちゃんは良いお嫁さんになれるぞ!」
 
 スグルが大げさに誉めると、ミナは照れながら六才相応の笑顔になった。

 メンバーは、サブ親子の他、絵里とスグルが友だち夫婦、ヒナタが絵里の妹という五人編成。同じコンドミニアムの別棟には、警護役で三組八人が控えている。

 この五日間、なにも起こらなかった。
 
 統合幕僚長の指示で、ヨコアリで偽装公開ということでハワイで過ごしている。

 今日一日無事に過ごし、明日の飛行機で日本に帰れば、統合幕僚長の取り越し苦労で終わるはずだ。
 
 朝食の後は、スグルが運転するRV車でワイキキに隣接するビーチに向かう。
 
 ハワイの朝は、冷房を切って窓を開けているだけで爽やかな風が車内を駆け巡る。
 
「ねえ、今日は、あの海賊島に行ってみようよ!」
 
 車の中でミナがせがんだ。
 
「ようし、分かった、今日はみんなで海賊島の探検だ!」
 
 一呼吸の間をおいてサブが父親らしく応えた。海賊島は夕べミナがグーグルアースで見つけた無人島だ。
 
 一呼吸の間に別働隊が「下見実施」とサングラスに仕込んであるマイクから答えていた。
 
 別働隊の車が、一度パッシングをして五人の車を追い抜いていく。
 
 ビーチに着いた時には別働隊から「異常無し」の報告が入った。

 
 
 小学校一つ分ほどの島は、なんの変哲もない無人島だが、それなりに岩場や森、人工ではあるのだろうが滝まである。

 海に浸かっているだけの海水浴に飽きた観光客たちが楽しめるアミューズメントスポットのようになっているのだ。
 
 舵輪を握っているスグルは、念のためクルーザーで島の周りを一周した。
 
 島を一周探検したあとはクルーザーのデッキでバーベキュー。
 
 ほんとうは砂浜でやりたかったが、景観保全のため海岸でのバーベキューは禁止されているのだ。
 
「残念。玉子があったらスクランブルエッグこさえてあげるのに」
 
 ミナが残念そうに腕組みをしたので、みんなが笑った。
 
「最後に、あの岩山で写真撮ろうか」
 
 言いだしたのはサブであった。
 
「じゃ、20秒の動画で撮りまーす。みんな楽しそうにね!」
 
 絵里が、岩場の端でスマホを構えた……その瞬間、岩場の岩が10個動き出したかと思うと人の姿になって五人を襲った。
 
「一体でもいい、破壊せずに確保しろ!」
 
 敵は岩に擬態したアンドロイドだった。戦闘は5秒あまりで終わった。敵三体にダメージを与えたが、絵里が腕をやられた。
 
「どうやらヒナタと間違われたようです」
 
 生体組織の出血がひどく、よく見ると内殻まで損傷していた。
 
「海岸まで行って米軍のレスキューを呼ぼう」
 
 サブの判断で、クルーザーは本島の海岸を目指した。海岸は大騒ぎになった。
 
 別働隊も加わり、現場の混乱を制止にかかったが、10人ほどの人数ではさばききれなかった。その中から遠慮のない複数のセンサーが照射されているのが分かったが、0・1秒刻みで所在が変化するので、特定に時間がかかった。
 
 三体のアンドロイドを確認したところで、ノーマークだった方角から水鉄砲に偽装したパルスガ銃を持った少年が飛び込んできた。

 いち早く気づいたのは6歳のミナだった。

「危ない!」
 
 ミナは、リュック型の簡易ガードを構えながら、ヒナタの前に飛び出した。
 
 ズビューーン!
 
 少年の撃ったパルスガ弾は簡易ガードで減殺されたが、ミナの肺を貫通し、ヒナタの胸の生態組織を傷つけた。
 
「ミナ!」
 
 サブは叫びながら、少年の頭をぶち抜いた。少年は頭を粉砕された体のまま逃げ出した。
 
「やつの電脳は胸だ!」
 
 スグルが叫ぶと、数発のパルス弾と一発の古典的なマグナム弾が少年の胸をぶち抜いた。
 
 マグナムを撃ったのは地元の警官だった。警官は少年型のアンドロイドの胸に開いた大きな穴を満足そうに見た。至近距離からのマグナムの威力は、殺す、破壊するという点ではパルス銃の上をいく。

「わたし、ちゃんとオネエチャンのひかえになれた……」

 苦しい息の下からミナが聞いた。
 
「ありがとう、ミナちゃんのおかげで、あたしは無事だよ」
 
「よかった、任務完了だね……あたし、6歳なんだもん……」
 
 サブの腕の中で、ミナは息を引き取った。6年と12時間あまりの人生だった。

 ヒナタはサブの悲しさと、スグルの強い悔しさを感じることができた……。
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