大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・218『ごま塩と朝顔の種』

2021-07-23 08:27:56 | ノベル

・218

『ごま塩と朝顔の種』さくら      

 

 

 木村重成さんのお墓に行ってから調子が悪い。

 

 お墓の前でクラっときて、木村重成さんに出会った……夢か幻やいうのんは分かってる。

 で、たぶん熱中症やったんやと思う。

 帰ってからお医者さんに行ったら「うん、熱中症」と言われたし(^_^;)。

 

 おかいさんが目の前にある。

 

 おかいさん、変換したら岡井さん。

 べつに、岡井さんいう人と朝ごはんを食べてるわけやない。

 お粥のことです。

 お祖父ちゃんが、この三日作ってくれてるんです。

 おかいさんの作り方は二通りあるんです。

 冷ご飯に水を入れて煮込むという略式。

 それと、一からお米を炊いてこさえる、由緒正しいおかいさん。

 お祖父ちゃんのは、由緒正しいおかいさん。

 最初は、かんてき(七輪)出して、どこから出てきたんか豆炭でコトコト炊いた本格派。

「ありがとう、お祖父ちゃん」

 ウルウルしながらお礼言うたら、おっちゃんが「年寄りのイチビリや、気にせんとき」と親不孝なことを言う。

 しかし、二日目からはガスになったとこを見ると、やっぱりイチビリかも。

「かんてきに豆炭の方がおいしいねんけどなあ……」

「せやろね(^_^;)」

 返事はしてるけど、違いは分かりません。

「学校やすんだらあ……」

 おかいさんの向こうで、お祖父ちゃんが言います。

 お祖父ちゃんは、孫の事が心配なんで、この三日、朝ごはんをいっしょしてます(テイ兄ちゃんは「ひまなだけや」、詩(ことは)ちゃんは「おかいさんが美味しいか気にしてるだけ」と言います)

 学校は休みません。

 なんちゅうても、夏休み寸前やったしね。ほんで、無事に夏休みになったしね。

 それに、今日はオリンピックの開会式!

 こないだまでオリンピックに反対してたテレビも、もうオリンピック一色!

 おかいさんも白一色……なんで、梅干し載せたり、海苔の佃煮載せたり。

 今日は、シンプルにごま塩を振りかけます。

 

 ヘップシ!

 

 クシャミしたら、ごま塩が飛び散ってしもた。

 食卓にアクリル板は無いので、けっこう飛び散る。

 塩はともかく、胡麻はもったいない。

 指に唾つけて集めては口に入れる。お祖父ちゃんは手伝うわけやないけど、ニコニコ笑って観てる。

 ほんまに、なんちゅうか良寛さんみたいな感じ。

 え?

 ひときわ大きなゴマ粒見つけて、さすがに食べるのをためらう。

「うん?」

 お祖父ちゃんも顔を近づけて覗き込む。

「なにやろか?」

「あ、ごめんなさい、朝顔のタネよ」

 おばちゃんがワイドショー観てる顔をこっちに向けて解説。

「田中さんのお婆ちゃんにもらったから、植えてみようと思って」

「あ、朝顔日記!」

 小学校のころの朝顔日記を思い出す。

 懐かしさが噴き上がって来る。

「おばちゃん、うちもやってみるわ!」

「それええなあ、オリンピックも始まるこっちゃしなあ(^▽^)」

 

 朝食後、茶色い植木鉢に『さくら』と名前を書いて、久々の朝顔日記が始まった。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライトノベルベスト『同じ空気』

2021-07-23 06:29:28 | ライトノベルベスト

 

イトノベルベスト

『同じ空気』  

 



 同じ空気を吸うのもイヤ!

 そういうと思い切りよくドアを開け、その倍くらいの勢いで車のドアを閉めた。

 バタム!

 拓磨は、酸欠の金魚みたいな顔をしたが、追ってこようとはしなかった。

「おれ、今度転勤なんだ……」

 ついさっきの、拓磨の言葉が蘇った。

「え……どこに?」

 そう聞いたときには、もう半分拒絶していた。

「大阪支社に」

 ウッ(#◎+◎#)!!

 この答には、吐き気すら覚えた。

 わたしは大阪が嫌いだ。

 学生時代のバイト先の店長が大阪の人間で、何かというとセクハラ行為に出てきた。

「まあ、メゲンと気楽にいきいや」

 最初に仕事で失敗したとき、そう言って慰めてくれた。わたしは大阪弁の距離感の近さが嫌いだったけど、この時の店長の言葉は優しく響いた。

 でもあとがいけない。

 肩に置いた手をそのまま滑らして、鎖骨からブラの縁が分かるところまで、撫で下ろされた。

 鳥肌が立った(-o-;)。

 狭い厨房ですれ違うときも、あのオッサンは、わざとあたしの背中に体の前をもってくる。お尻に、やつの股間のものを感じたとき。わたしは自分の口を押さえた。押さえなければ営業中のお店で悲鳴をあげていただろう。

「パルドン」

 オッサンは、気を利かしたつもりだろうが、大阪訛りのフランス語で、調子の良い言葉をかけてきた。

 もともと吉本のタレントが東京に進出し、ところかまわず、大阪弁と大阪のノリで麗しい東京の文化を汚染することに嫌気がさしていた。

 そのバイトは一年で辞めた。

 先日アイドルグループの拓磨のオシメンの子が「それくらい、言うてもええやんかあ」と、下手な大阪弁で、MCの言葉を返すのを見て。拓磨にオシヘンを強要したほどである。

 こともあろうに、その拓磨が、大阪に転勤を言い出す。

 とても許せない。

 夕べ夢に天使が現れた、きれいな東京言葉の天使だ。

 で、こんな嬉しいことを言ってくれた。

「明日、あなたの望むことが、一つだけ叶うでしょう……♪」

 で、あたしは思った。

 今日のデートで、拓磨がプロポーズしてくる(*´ω`*)。

 それが、よりにもよって、大阪転勤の話である。

 拓磨とは、大学のほんの一時期を除いて、高三のときから、七年の付き合いである。そろそろ結論を出さねばならない時期だとは、両方が思っていた……多分。

「あたしと、仕事とどっちが大事なのよ!」

 そういうあたしに、拓磨は、ほとんど無言だった。気遣いであることは分かっていた。

「一度口にした言葉は戻らないからな」

 営業職ということもあるが、日常においても、拓磨は自然な慎重さで言葉を選び、自分がコントロールできないと思うと、口数が減るようになった。

 でもダンマリは初めてだ……。

 せめて後を追いかけてくるだろうぐらいには思っていた……のかもしれない。

 丘の公園から出ることができなかった。出てしまえば、この広い街、わたしを見つけることは不可能だろうから。

 わたし自身、後から後から湧いてくる拓磨との思い出を持て余していた。

 拓磨とつきあい始めたのは、荒川の土手道からだった……。

 当時のあたしはマニッシュな女子高生で、同じクラスの拓磨と、もう一人亮介というイケメンのふたりとつるんでいた。
 付き合いなどというものではなかった。いっしょにキャッチボールしたり、夏休みの宿題のシェアリングしたり、カラオケやらボーリングやら。ときどき互いの友だちが加わって四人、五人になることはあったが、あたしたち三人は固定していた。つるむという言葉がしっくりくる。

 そんなある日の帰り道、拓磨の自転車に乗っけてもらった。秋めいてきた空気が爽やかで、二人は静かだった。

 急に拓磨が言い出した。

「おれたち、同じ空気吸わないか?」

「え、空気なんてどれも同じじゃん。ってか、いつも同じ空気吸ってるじゃん」
「ばーか、同じ空気吸うってのはな……」

 拓磨の顔が寄ってきて、唇が重なった。

 ウプ!

 で、あいつはあたしの口の中に空気を送りこんできた。

 あたしは、自転車から転げ落ちてむせかえった。

「一美、大げさなんだよ。どうだ、おれの空気ミントの味だっただろう?」
「そういうことじゃなくて……」
 あとは、言葉にならなくて涙になった。
「一美……ひょっとして、初めてだった?」
「う、うん……」
「ご、ごめんな……(;'∀')」

 そんなこんなを思い出していたら、急に拓磨のことがかわいそうになってきた。

「拓磨……」

 一言言葉が漏れると、わたしは走っていた。

 車は、さっきと同じ場所にあった。でも様子が変だ……。

「拓磨!」

 拓磨は、運転席でぐったりしていた。

 急いで車のドアを開けた。

「う、臭い!」

 車の中は排気ガスでいっぱいだった。

「な、なんで、どうして!?」

 すると、頭の中で天使の声がした。

『だって、言ったじゃない「同じ空気を吸うのもイヤ!」って』

「そんな意味じゃ無い!」

 救急車を呼ぶと、一人で拓磨を車から降ろし、人工呼吸をはじめた。

 中学で体育の教師をやっている一美に救急救命措置はお手の物である。

――いま、あたしたち、同じ空気吸ってるんだから、がんばれ拓磨!――

 拓磨の口は、あの時と同じミントの香りがした……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ホリーウォー・13[ヒナタとキミの潜入記・1]

2021-07-23 05:58:04 | カントリーロード
リーォー・13
[ヒナタとキミの潜入記・1] 



 
 極東戦争は戦争責任が曖昧なまま終わっている。

 前述したが、日本は史上三発目の核攻撃を受けた。
 
 20発のミサイルを撃ち込まれ19発は破壊したが、一発が多弾頭に分裂、それも大半は起爆前に撃ち落せたが、一発が大阪湾に着弾。阪神地方を中心に100万人の犠牲者を出した。
 しかし、中国は直後に5つに分裂。互いに戦争責任を認めないまま現在に至っている。

 今は表面的には戦争状態ではない。

 責任をあいままにしたまま、日本は中国や新生半島国家と友好条約を結んでいる。国内の一部や国際社会からは、日本の弱腰を非難したり軽蔑する空気があるが、責任を追及することは、経済的には緊密に結びついている国際事情の中では無理だった。いや、無理ということで曖昧にしてきた。

 互いに武装と警戒は解いていない。互いに重要都市には、バリアーを張っている。日本のそれはゲルと呼ばれ、大陸のそれは胡同(フートン)と呼ばれている。
 
 ヒナタとキミは男に擬態して、漢民主共和国に観光客として潜入した。漢国際空港に降り立って税関を通過すると、すぐに元のヒナタとキミにもどった。もっとも人相は変えているので、漢国ご自慢の認識システムでも知られることはない。

「フフ、それでも武装警察が動き出したみたい」

「情報は、少しずつ遅れて入ってくるようだから、男二人の潜入と思われてるけどね。ほら、男はみんな足止めだ」
 税関の職員を装った警察が、男性観光客ばかり再検査を始めた。
「あら、四人ばかり連れていかれちゃったわよ」
「メンツとノルマがあるから、調べて怪しい者が居ませんでしたではすまないんでしょ。まあ、半日の拘留ね」

 二人は、天安門広場から故宮を回ったあと、王府井で昼食というお上りさんコースを周って北京のシンラ教会に向かった。

 シンラというのは、極東戦争前から台頭してきた新興宗教で、なぜかマルクスを神と讃えている。このシンラにも表と裏があり、裏のシンラが事実上分裂した大陸国家を裏でまとめている。東京ゲルにテロを仕掛けてきたのも、この裏のシンラである。
 
 裏のシンラの中枢は天壇にあることは、東京ゲルの襲撃犯ユーリーの最後の反応からでも確かである。
 
 だが、中枢であるために、その天壇胡同のことは何も分からない。その手がかりを得るために、表のシンラ教会に来たのである。

 礼拝日ではないので、教会内部は一般観光客にも開放されている。観光客を相手に専門のガイドが解説をしている。

「わたしたち人類は、マルクスを思想家としてしか捉えていませんでした。それが20世紀の最大の誤りでした。21世紀は、その反動でマルクス主義は軽んじられ国を誤ることになりました。しかし極東戦争の後、いま私たちは真のマルクスの心に接することに気づいたのです。マルクスの唯物史観は人間愛が、その裏付けにあります。わたしたちは、そこに着目しました。まだ、研究途上ではありますが、マルクスの愛の深さに気づいたわたしたちは、マルクスを神の子とし、その神のみ教えに一歩でも近づくために、努力を重ねておるのです」

 日本人観光客たちは、小学生のように、いっせいに「ホー」っと感心した。

「あのガイドさんは、表専門。裏の事はなにも知らない。やっぱ、食べに行こ」
「さっき食べたとこだよ」
「今度は点心、別腹よ(^▽^)」
 キミは、そう言うと、真っ直ぐに教会付属の飯店に向かった。
 日本のそれとあまり変わらない点心を食べながら、キミはため息をついた。
「ここも、裏と通じてる人はいないみたいね……あ」
「キミちゃんも気づいた?」
「うん、大陸にヒナタが潜入したって情報が一斉に流れた」

 飯店の従業員の目つきが一瞬変わった。

「まあ、ここらへんのスキャニングにかかるほど、ヤワやないけど、これからしんどいね」
「あまり、計算しないでいこう。未知数が多すぎるから、下手な計算は惑わされるだけよ」

 単なる報復としての威嚇なら、大陸に滞在しているだけでよかったが、今回はシンラの中枢に潜り込み、あわよくば壊滅させろという無茶な指令である。慎重さと同時に大胆さがいる。

「あ、この水餃子……!?」

 キミが水餃子から、足がかりをつかんだようだ……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする