鳴かぬなら 信長転生記
学校は高台の上にあるので、どこの門から出ても街を見下ろすことになる。
西門から出ると、学校外周の林と街並みが重なって、その重なりの向こうに街のシンボルである御山が見える。
御山は、学校のある高台よりも背が高いが、威圧感は無い。
南の方角に城山があるのだが、林に遮られて窺うことができない。
五十メートルほども行くと尽きかけた林が額縁のようになって風景を荘厳しはじめる。
城山も姿を現わし、御山と相まって、景色を引き締めている。
あ、これだ!
スマホを構えて、このパノラマを写し取る。
野にあるごとくどころではなく、まさに野の景色、野のパノラマだ。
この御山を真ん中に据えた大きな風景は西門から出なければ見えない景色だ。
他の三門から出た者に、この景色は見えていない。
俺は運がいい。いや、運の良さも力のうちか。桶狭間で義元の本陣を見つけた幸運に通じるものがあるぞ。
カシャ カシャ カシャ
目の高さを変えて何枚も撮ってみる。
空を大きくとると城山が見えなくなる。
城山と御山を十分にアングルに収めると空が小さくなって景色が重くなる。
景色のつり合いとバランスの兼ね合い。
難しい、が、面白い。
カシャ カシャ カシャ
さらにシャッターを切る。
カシャ
ん……俺のではないシャッター音?
気づくと、電柱一本分離れたところで姿勢を低くしてスマホを構えるオッサン。
構えたスマホの下に見える口が卑し気に笑っている。
こ、こいつ(;'∀')!?
撮影に熱中するあまり、俺は不用心に脚を開いてしまっていた! ついこの間までは男だったので、こういう時に注意がおろそかになるのだ(#-_-#)。
「下郎め! スカートの中を撮ったなあ!!」
「ヒ!」
「捨ておかんぞ!」
ドゲシ! バキ! グシャ!
一撃でぶちのめすと、スマホをへし折って、踏み潰してやる。
「お、おたすけえええええ( ノД`#)」
オッサンは、スマホを拾おうともせずに火のついた狸のように逃げて行った。
「フン、命があるだけ助かったと思え!」
俺は、優柔不断と破廉恥なやつには容赦がない。
安土城が建築中の時にヴァリニャーニを案内してやった時、警備にあたっていた足軽が通りがかった若い女をからかっているのを見つけた事がある。
一丁ほど離れた資材置き場の向こうであったが、俺はすっ飛んで行って足軽のそっ首を刎ねてやった。
ブァリニャーニは恐れながらも俺の俊敏さと公正さを讃えておった。
「なんと高潔、なんと公正なおふるまいでありましょう! エウロパの王侯でも、かくまで適切な処断ができるものはおりませぬ!」
「であるか」とだけ返事をしておいたが、あれは不完全であった。
足軽は、下卑てにやついた顔のまま首になって転がった。
あやつは、自分がなぜ、突然に死んだか理解もせずに死んだのだ。
あれは、あ奴の非を責め、恐れさせた上で首を刎ねなければならなかった。
今回は、十分に恐怖せしめた上でシバキ倒した上に、スマホも破壊してやったぞ。
転生した分、いささか、いや、さらなる成長を遂げたか。
……ハ!? そうであったか!!
そこで気が付いた!
回れ右をすると、俺はまっしぐらに学校に駆け戻ったぞ。
☆ 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で打ち取られて転生してきた
- 熱田敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生
- 古田(こだ) 茶華道部の眼鏡っこ