大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 20『狙撃・1』

2021-07-24 09:06:41 | ノベル2

ら 信長転生記

20『狙撃・1』   

 

 

 おらん。

 

 おらんと言っても、近習の森蘭丸を呼んだわけではない。

 放課後、いつもの公園に足を向けたが、市の姿が無いのだ。

 市は、放課後になると学校や近所の取り巻きを連れては、この公園に足を向けていた。

 なにが癪に障るのか、取り巻き達を怒鳴り散らしたり打擲を加えたりの市であった。

 学校の部活以外はあくびが出るほど退屈な毎日だが、公園に来て妹を冷やかすのが、ちょっとした楽しみになっていたんだぞ。

 公園の入り口はU字型の鉄柵が解れかけの知恵の輪のように植えてある。

 バイクの侵入を防止するための馬防柵のようなものなのだろうが、自転車でも入りにくく、実質的には人がクネクネと身をよじって入るしかない代物だ。

 土俵さえつくれば、相撲興行ができそうなくらいの広さのある公園なのだが、関取のブットイ体では、さぞ難渋するであろう。

 市の心に似ているかもしれんな……。

 そう思うと無意識にスマホを出して写真を撮ってしまう。

 利休の注文で撮っているわけではないので『インスタ映え』も『野にあるごとく』もない。

 俺は関取ではないので、ススっと……いかなかった。

 

 ウ

 

 痛いと思った時は切っていた。

 左のふくらはぎに血が滲んでいる。

 見ると、U字柵の下の方が小さくささくれ立っている。自転車か何かが乱暴に入ろうとして傷つけてしまった傷だろう。

 フフ、こういうところも市の心のようだな。

 しかし、ズボンを穿いていたら、こういう傷はつかないだろう。

 転生して女になったからこそ付いた傷でもある。

 女だってズボンは履く? そうだろうが、俺の美意識では女はスカートだ。

 放っておいてもいいのだが、流れた血でソックスが汚れるのはごめんだ。

 グニ

 手の甲で拭って、拭ったそれを無意識に舐めてしまう。

 自分の血でも、舐めると心の臓が跳ねる。血は戦場の味だ。

 

 取り巻きが居ないことは見当がついていた。

 が、市の姿も無かった。

 ジャングルジムの天辺にも、ベンチや、他の遊具に目を移しても妹の姿は見えなかった。

 

 何かあったか?

 

 そう思って、ジャングルジムを右に見ながら足を進める。

 ん!?

 気配を感じた。

 何者かが俺を狙っている。針を刺すのに似た気配だ。

 鉄砲だ。

 京から岐阜への帰り道、千草超えの折に杉谷善住坊に狙撃される寸前に感じた気配に似ている。

 鉄砲は狙っている人間の気配よりも、鉄砲そのものがもつ凶器の気配の方が強い。

 撃たれる!

 思った瞬間に身を捩る。

 パシュン

 ズッコケるほどかそけき音がして、足もとに白い丸薬のようなものが落ちた。

 これは!?

 思った瞬間、俺は地を蹴っていた!

 

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田(こだ)      茶華道部の眼鏡っこ

 

 

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ライトノベルベスト『連続笑死事件・笑う大捜査線・1』

2021-07-24 06:45:30 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『連続笑死事件・笑う大捜査線・1』  

   


 こんなに驚いたことはない、踏み込んだら全員が死んでいた……。

「はい、なんやみなさん大笑いされたかと思たら、シーンとなってしもて……」

 女将も、客が客だけに、うかつに座敷に入ることもできず、警察が踏み込んで始めて気づいた。

 現場を指揮し、突入した倉持警視も、数々の修羅場を見てきたが、こんなことは奉職以来始めてだった。

『如月会』と称される会合が、日本中の暴力団の頭の集まりであることは、分かっていた。

 しかし確たる証拠が無く。また上からの圧力もあり、なかなか手が出せなかった。

 内閣が改造され、法務大臣が更迭されたどさくさ紛れに、やっと機動隊二百名、マル暴デカ五十人を動員してやった宿願の「大逮捕劇」になるはずで、倉持警視は、一月前から『踊る大捜査線』を研究し、装備はおろか、インタビューに備えての決めポーズから、表情の決め方、果ては悪のりしたテレビ局からメイクさんまで入ってもらって、入念にメイクまでしてきた。

 定年前、ノンキャリアとしては最高の警視に登り詰め、宿願の一斉検挙……の、はずだった。

「倉持さん、こりゃほとんど全員即死だね……」
「そ、そんな……」

 鑑識のヤマさんに言われて倉持警視は言葉も無かった。

 日本中のワルのトップ、三十六人が目をへの字にし、涙とヨダレを垂れ流し、中には失禁した者もいたが、この上もない笑顔で死んでいた……いや、一人四菱会の会長だけが、方頬で笑っていただけだが、女房に聞くと、会長の信条は「男は一生に一度方頬で笑うぐらいがいいんだ。一流の男はヘラヘラ笑うもんじゃねえ」だったそうで、方頬とはいえ、亭主の笑顔を見たのは初めてだった。

「全員の解剖所見が出た」

 ヤマさんが、捜査会議場にやってきて、額の脂汗を拭った。

「やっぱり、薬物ですか?」

 言葉だけは丁寧な、管理監が聞いた。

「それが……四菱会の会長一人脳内出血でしたが、残り三十五人は不明でした」
「ふ、不明とはなんですか。世界に冠たる日本警察の鑑識のトップが、三十六人の死因を調べて、たった一人の死因しか分からんというのですか?」
「あえて言えば、ショック死……としか申し上げられません」
「外傷も無しに、ショック死!?」
「あり得ない!」

 そんな怒号の中、山本鑑識官はうなだれてしまった。

「全員が、一枚ずつもっていた紙には何もなかったのかね?」
「それについては……」

 ヤマさんが顔をあげ、みんなは固唾を呑んだ。

「AKBのヒット曲三十六曲がプリントされていました。毒性のあるものがないか調べ上げましたが、現状では何も出てきません。紙は、どこにでもある、A4ロクヨのプリント紙でした。指紋、掌紋は被害者のものしか出てきません」

 倉持警視は腕を組んで天を仰いだ。警察官三十四年勤め上げた中で、こんなヤマは始めてであった。

――定年前の最初で最後の花道になるはずだったのに……なんか急に腹減ってきたなあ――

 その顔は、刑事の一人が隠しカメラを兼ねたライターでタバコに火を点けたとき、偶然シャッターを押してしまい、それが後日マスコミに流れ、『第一線刑事の苦悩』というタイトルで報道写真賞をとったのが唯一の成果だった。むろん写真を提供(実際はコピーされた)した刑事は減俸の上戒告処分になった。

 これが、連続笑死事件の、ほんの幕開けであることは、世界中の誰もが気づいてはいなかった……。

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ホリーウォー・14[ヒナタとキミの潜入記・2]

2021-07-24 06:29:46 | カントリーロード
リーォー・14
[ヒナタとキミの潜入記・2] 



 
「水餃子、めっちゃおいしかったね(^▽^)」

 キミが喜んで、ヒナタがウンウンと頷く。レジの前を通る僅かの間にである。

 厨房の陳水平は日本語は分からないが、水餃子という言葉と誉めてくれていることぐらいは分かった。
 ヒナタとキミは、完全なミーハーな日本人観光客を装っている。だから、この自然な褒め言葉は増幅されて陳の耳に自然に入ってきた。
 この好意的な感想が、陳の思念を解放させ、陳の属性がキミのセンサーに飛び込んできた。
 
 キミのオープンマインド機能である。東大阪の中小企業のオッサンたちが「まいど!」という言葉が人の心を開く効果があることから、十年の歳月をかけて開発した「言葉による心理開放機能」なのだ。MMF(マイドマインドファンクション)として、防衛省の技研で秘匿一級機能と指定されている。

「あの陳水平のオッチャン、天壇の幹部食堂から回されてきたんやわ。ほんで、理由は…………というつまらん理由。表面は料理の腕が悪いいう調理師のプライドに関わることやけどね」
「すごいね、キミちゃん。水餃子食べただけで、そこまで分かるの!?」
「大阪の中小企業なめたらあきません。食道楽の大阪、食べ物から情報取れる能力は世界一やで」
「そうなんだ(^_^;)」
「もっとも最初に分かったんは、水餃子作ったオッチャンと、おっちゃんが、なにか不満もってるいうことだけやったけど。レジ前のさりげない誉め言葉が、陳のオッチャンの鍵を開けた。ヒナタちゃんの絶妙な相槌も聞いたけどな」
「じゃ、とりあえず天壇に行ってみるか」

 天安門広場前で、二人は当面の行動を決めた。むろん会話は暗号化している。高性能カメラと盗聴機で、二人の会話を拾っても、餃子についての話にしか聞こえていないはずである。

 天壇についたころには、二人は陳明花と陳開花という姉妹に化けていた。

 二人は、陳水平の娘ということになっている。
 
「父も、あれから考え直し、わたしたちに職場を与えてくださるという料理長さまのお言葉を素直にお受けすることにいたしましたの」
 
 見事な広州訛で、ヒナタは料理長に申し訳なさそうに言った。
 
「水平も頑固すぎるんだ。広州でくすぶっているよりは、この漢の天壇に来た方がずっと君たちのためになる。それを邪推して辞めていくんだから、どうしようもない。しかし、水平のやつ、よく承知したな」
「わたしたちが、文句言ったんです。しょせん魏民主国は漢にはかないません。天壇に来た方が、ずっと……でしょ。ねえ、お姉ちゃん」
「ええ。父は、ここを出て間がありません。ほとぼりが冷めたころに……父のこともよろしく」
「水平も幸せ者だ、こんな孝行娘を二人も持って。まあ、わたしの見た限りでは合格だが、君らには幹部食堂で働いてもらうつもりなんだ。接遇の責任者は、林息女同志だ。さっそく林同志に会ってもらおう」
 
 料理長は、ピカピカに剃った顎を撫でながら、二人を上物と皮算用した。

「よく来たわ明花、開花。食は広州にあり! 本当の料理と、もてなし方を漢のオッサンたちに教えてやって。魏は漢にけっして劣らないことを」
 
 林息女も広州の出身らしく、二人には大きな期待を持っているようだった。
 
「見かけは合格、あとは幹部相手に相当のお相手ができるかどうか、まずは、配膳の練習から……」
 
 二人は、配膳から接待の仕方まで、息女にチェックされた。
 わざと二箇所間違えて息女の指導を受け、息女の優越感も満たしてやった。
 息女は、広州人として漢の中枢で働くことに屈折した優越感と野心を持っていることが分かった。

 まずは、第一関門突破。
 
 あとは……流れのままに。でも自信たっぷりの二人ではあった。 
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