銀河太平記・056
連合国人は自国の事をUSと呼ぶ。
United States(連合国)のイニシャルだからなのだが、地球のアメリカ合衆国USAをフランクに言うとUSであるので、アメリカと呼んでいることと変わりない。
USとは「我々」という意味でもある。
実に親しみやすい名称でありながら、色濃く元宗主国のアメリカ的精神を残している。
そのアメリカ的なものが、ラスベガスのクルーザーには満載だ。
全長900メートルの船体には三つもシアターがあって、日替わりのショーを見せてくれる。
さすがに、アクターやダンサーの大半はロボットだが、1/3ほどは人間で、連合国で一流のアクターやダンサーになるためには、このクルーザーで成功することが条件になっていると言われるほどだ。
ちなみに、船の名前は『ドナルド・トランプ』だ。
やっぱり、シアターって言うと、このくらいの規模ね
言わずもがなの独り言をこぼしてテーブルに着く。
このシアターは第二デッキの端っこで、規模的には三つのシアターの中で一番小さい。
小さいが、カジノに直結していて、お楽しみにはちょうどいい。
テーブルごとにレプリケーターが付いていて、好みのメニューが選べる。
唐揚げとげその塩焼きに生ビールを並べてお目当てのショーを待つ。
「演舞集団『北大街』ってなんだろ?」
コスモスがディスプレーを繰る。
「え、オフBじゃないの?」
ドナルド・トランプのショーはオフB(オフブロードウェイ)が、一括請け負っているはずだ。
「特別企画だって、マス漢系? まさかね」
「北大街……」
懐かしい名前だ、満州戦争が起こるまでは奉天一の歓楽街で息抜きによく訪れた。
カルチェタラン……ふざけた名前だったが、面白い店だった。
もちろん、カルチェラタンのもじりなんだろうが、ラタンをタランとしているところが良かった。
カルチェ(文化)に足らん、あるいはカルチェたらん(文化でありたい)という意味でもあり、カルチェのタランチュラ(毒蜘蛛)にもひっかけている。
オーナーはグランマ。食えない人だった。
戦争勃発の直前まで店を開いて、最終便で日本に戻ろうとしたが、開戦と同時に漢明のアンチパルスミサイルで撃墜された。
まあ、北大街には、大きな店やらライブハウスがひしめいていた。その生き残りが居ても不思議ではない。
がらにも無く昔を思っていると、ウェイトレスが横に立った。
「五番テーブルのお客様からでございます」
差し出されたカクテルはレプリケーターのものではなかった。
五番テーブルに首を向けると、酒や肴が載ってはいるが人の姿が無い。
「フフ、美人姉妹だからかな」
「だったら大したものね、その人も、わたしたちも」
視界を戻すと、もうウェイトレスの姿は無くて、ヒゲもじゃのオッサンがグラスを手に立っている
「シマイルカンパニーの設立をお祝いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
こいつは……0.5秒の間があって思い出した。
……孫大人。
※ この章の主な登場人物
- 大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
- 穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
- 緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
- 平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
- 姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
- 扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
- 本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
- 胡蝶 小姓頭
- 児玉元帥
- 森ノ宮親王
- ヨイチ 児玉元帥の副官
- マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
- アルルカン 太陽系一の賞金首
※ 事項
- 扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
- カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
- グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
- 扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信