大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・056『孫大人』

2021-07-21 10:14:28 | 小説4

・056

『孫大人』 児玉元帥   

 

 

 連合国人は自国の事をUSと呼ぶ。

 United States(連合国)のイニシャルだからなのだが、地球のアメリカ合衆国USAをフランクに言うとUSであるので、アメリカと呼んでいることと変わりない。

 USとは「我々」という意味でもある。

 実に親しみやすい名称でありながら、色濃く元宗主国のアメリカ的精神を残している。

 

 そのアメリカ的なものが、ラスベガスのクルーザーには満載だ。

 全長900メートルの船体には三つもシアターがあって、日替わりのショーを見せてくれる。

 さすがに、アクターやダンサーの大半はロボットだが、1/3ほどは人間で、連合国で一流のアクターやダンサーになるためには、このクルーザーで成功することが条件になっていると言われるほどだ。

 ちなみに、船の名前は『ドナルド・トランプ』だ。

 

 やっぱり、シアターって言うと、このくらいの規模ね

 

 言わずもがなの独り言をこぼしてテーブルに着く。

 このシアターは第二デッキの端っこで、規模的には三つのシアターの中で一番小さい。

 小さいが、カジノに直結していて、お楽しみにはちょうどいい。

 テーブルごとにレプリケーターが付いていて、好みのメニューが選べる。

 唐揚げとげその塩焼きに生ビールを並べてお目当てのショーを待つ。

「演舞集団『北大街』ってなんだろ?」

 コスモスがディスプレーを繰る。

「え、オフBじゃないの?」

 ドナルド・トランプのショーはオフB(オフブロードウェイ)が、一括請け負っているはずだ。

「特別企画だって、マス漢系? まさかね」

「北大街……」

 懐かしい名前だ、満州戦争が起こるまでは奉天一の歓楽街で息抜きによく訪れた。

 カルチェタラン……ふざけた名前だったが、面白い店だった。

 もちろん、カルチェラタンのもじりなんだろうが、ラタンをタランとしているところが良かった。

 カルチェ(文化)に足らん、あるいはカルチェたらん(文化でありたい)という意味でもあり、カルチェのタランチュラ(毒蜘蛛)にもひっかけている。

 オーナーはグランマ。食えない人だった。

 戦争勃発の直前まで店を開いて、最終便で日本に戻ろうとしたが、開戦と同時に漢明のアンチパルスミサイルで撃墜された。

 まあ、北大街には、大きな店やらライブハウスがひしめいていた。その生き残りが居ても不思議ではない。

 がらにも無く昔を思っていると、ウェイトレスが横に立った。

「五番テーブルのお客様からでございます」

 差し出されたカクテルはレプリケーターのものではなかった。

 五番テーブルに首を向けると、酒や肴が載ってはいるが人の姿が無い。

「フフ、美人姉妹だからかな」

「だったら大したものね、その人も、わたしたちも」

 視界を戻すと、もうウェイトレスの姿は無くて、ヒゲもじゃのオッサンがグラスを手に立っている

「シマイルカンパニーの設立をお祝いしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 こいつは……0.5秒の間があって思い出した。

 

 ……孫大人。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

 

 

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ライトノベルベスト『リアクション・1』

2021-07-21 06:39:24 | ライトノベルベスト

 

イトノベルベスト

『リアクション・1』  



 新田原基地をスクランブル発進したF-15Jは、不思議なものを見た。

 原田一尉は、スクランブルの指令を受けたときから妙な感じがした。豊後水道南南東500マイル上空を三機の大型機が、時速190ノット(350キロ)という鈍足で北上中。日本側の問いかけにも答えず粛々と北上しているらしい。

 防空識別圏にかかるのには40分ほどある。基地で時間調整をしたうえで、防空識別圏の40マイルのところで出くわすようにした。

「こんなコースと速度のアンノウンは初めてだな……」

 中国にしろ、ロシアにしろ、こんな真南からの進入はしない。まして速度が通常の半分ほどしかない。こいつは、いったい……?
 
「01、アンノウン発見、アンノウンは……B29、三機……うそだろ?」

 ティベッツ大佐は驚いた。敵の迎撃機は二機であることはレーダーで分かっていたが、速度があり得なかった。520ノット以上である。こんな戦闘機はあり得ない。レーダー士のジェイコブ・ビーザーに何度も確認したがレーダーの故障ではなかった。

「くそ、こんな時にジャップの新型機か……」

 そして、50マイルのところで敵機から英語で通信が入った。

――君達は日本の防空識別圏に接近している。ただちに国籍、飛行目的、目的地を知らせよ――

「オチョクッてんのか、こいつら」

 無線通信士のリチャード・H・ネルソンが呟いた。三十秒置いて、同じ通信が敵機から発せられたが無視した。

 

 当然である。ティベッツ大佐たちは、これから日本に秘密爆弾を落とそうとしているのだ。

――ターゲットは識別圏を超えた、引き続き警告を実施――

 DCの指示に従い二度目の警告をしたところ、なんとターゲットは、いきなり射撃をしてきた。

「01よりDCへ、ターゲットは我を射撃しつつあり。射程圏外に退避する。02我に続け」

 驚いたことに敵は大型のジェット戦闘機だ。5月に降伏したドイツが、ごく少数のジェット戦闘機を持っていたと聞いたが、こんな高性能機ではない。最初の射撃で敵は離れていったが、再び接近すると、すぐ近くを射撃していった。大佐は、機体を限界高度まで上げるように命じた。

「ヘヘ、この距離で外すかあ。敵も慣れていないようですよ」

 胴下機銃手のロバート・H・シューマードが嬉しそうに言った。

「違う、今のは警告射撃だ。あいつら全部事前に通告してからやりやがる!」

 ティベッツ大佐の機体は、特殊爆弾の搭載のために、後部と胴下以外の機銃は下ろしてある。本気で撃ってこられたら、ひとたまりもない。

 原田一尉は、二射目のあと、ターゲットの真横を飛んで驚いた。機体にはEnola Gay と書かれていた。

「エノラ・ゲイか……!?」

――DCより01へ、米軍に紹介したところ、当該の米軍機は存在しない。引き続き警告射実施。領空まで、20マイル――

「警告射実施、ターゲットに変化なし。02と挟撃で警告射を実施、よろしいか?」

――DCより01へ、許可する――

 敵の戦闘機は、ティベッツ大佐の機の鼻先を挟撃してきた。

「機長、今度来たら、やつら当ててきますよ!」

「ルイス、高度は!?」
「8200です」
「あいつら機速が落ちん。限界高度に上がっても無駄なようだな……」

 ティベッツ大佐は、任務を断念し、機体をテニアンに向けた。

 直後、エノラ・ゲイの姿が、他の二機のB29といっしょに消えてしまった。

 同時刻、アラスカ在住のM・キディスンは、ネットオークションで競り落としたエノラ・ゲイのパーツという触れ込みだった古いリベットを誤って暖炉に落とし、慌てて火かき棒でたぐり寄せようとしたが、ジュラルミンのリベットは十秒あまりで燃え尽きてしまった。

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ホリーウォー・11[スグルの不調と臨時の相棒]

2021-07-21 06:22:03 | カントリーロード
リーォー・11
[スグルの不調と臨時の相棒] 




 
「お、無事だったか!?」

 ヒナタへの第一声が、これだった。

 どうもスグルは自分の置かれている状況が分かっていない様子だ。

「スグル、究極受信やって、大変だったんだよ!」
「オレ、究極受信やったのか!?」
「そうよ、東京ゲルがシンラの奇襲を受けて、もうダメってときに究極受信やって、スグルのパーソナリティーは完全に消滅したんだから」
「……じゃ、なんで、オレは自意識があるんだ?」
「日本中のゲルまわって、スグルのデータ集めて、スグルのパーソナリティーを復元したのよ」
「え……確かに記憶の一部が抜けてるけど、オレはオレ、吉岡優(すぐる)だ……が」
 
 スグルは、ストレッチャーから飛び起きると、すごい勢いでヒナタを捕まえて、パンツを脱がせようとした。

「なに、すんのよ!?」

「本物のヒナタなら、尻に傷跡があるはずだ」
「傷は胸元。それも新しいボディーになったから、傷跡そのものがないわよ!」
 
 ヒナタは、着くずれを直すと、スグルを睨みつけた。
 
「スグル、あたしの中に埋め込まれてるバルマが認識できる?」
「ああ、胸の中央に格納されている500CCの究極爆薬……起爆すれば、地球の1/30が吹き飛んでしまう最終兵器だ……ヒナタはかわいそうだよな。爆弾でありながらガイノイド(女性型アンドロイド)、それも一級品だ。その一級品が究極受信してスクラップ同然のオレのメモリーを日本中から集めてくるんだもんな……」
 
 スグルがガラにもなく涙ぐんでいる。以前はこんな優しさはなかった。どうも、完全な復調ではないようだ。
 
「スグル、ニュートラルでラボの中を一周してこい」
 
 教授がストップウオッチを取り出した。
 
「え、そんなロールアウトしたてのアンドロイドみたいなテスト?」
「ロールアウト以下なんだよ。プロトタイプの初期テスト並のテストだ」
「分かりましたよ。ニュートラルですね」
「そうだ、人間的なスピードだ」
「了解!」
 
 ビューーーーーーーン

 スグルは、ドアを開けて研究室の外に出ると、あっと言う間に気配が消え、普通8分かかるところを15秒後に戻って来た。

「スグルよ、こりゃ新幹線並みだ、もう少しメンテナンスしなくちゃならんようだな……」
 
 教授はため息をついた。
 
 それが合図であったかのように幕僚会議直結のモニターに、ヒナタが大嫌いな大崎司令のでかい顔が写った。
 
「スグルの状態は良く分かった。当面の任務には耐えられそうにないな。教授は引き続きメンテナンスに努めてくれ。ヒナタは新任務だ」
「ええ、ガードも無しでですか!?」
「優秀なのを付ける。ガードの情報を送るぞ」
 
 瞬時に、ヒナタの臨時ガードの情報が送られてきた……。
 
 
 ボオオオオオオオオ 
 
 ボオオオオオオオオ
 
 互いに汽笛を鳴らしながら船がすれ違う。
 
 港内なので、二隻とも5ノット程度の速度で、ゆっくりと確実に。
 
 まるで、自信たっぷりの巨人たちが慣れた相手に余裕の挨拶を交わしているよう……なにごとも、こんな風にいけばいいのに……。
 
 
 その日の昼下がり、横浜ゲルの山下公園、『赤い靴の女の子』銅像前でヒナタは新しいガードを待ち受けていた。もう予定の30秒前である。

 普通新しいガードが現れる前には、相互認識のために暗号信号のやりとりがある。ヒナタは日本の最高機密兵器でもあるので、ヒナタの方から最初の信号を送るわけにはいかない。
 
 来た……と思ったら、どうやら違う?
 
「よう、彼女。ヒマしてるんだったら、ボクとお茶しない?」
 
 まさか、こいつがガードかとスキャンしてみたが、ただのバカな少年だった。ヒナタは9号サイズの可愛い外見をしているので、このバカのようなやつから好奇な目で見られることはあったが、スグルたちガードが付いていた。つけいる隙はなかった。
 
 それが、今は人間のハイティーンと変わらない外見で突っ立っているので、こういうバカが寄ってくる。
 
 ウギャーーー!
 
 ヒナタの肩に手をまわしたところで、バカが吹っ飛んだ。
 
 気づくと、今まで背中の位置にあった『赤い靴の女の子』のブロンズがドヤ顔で立っていた……。
 
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