大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・215『木村重成・1』

2021-07-03 09:10:58 | ノベル

・215

『木村重成・1』さくら      

 

 

 鶴橋で近鉄大阪線に乗り換える。

 

 アチャー

 思わず、おっさんみたいな声が出てしまう。

 あと三段階段を下りたらホームというとこで準急が出てしまう。

「各停が先着だよ」

 冷静な声で留美ちゃんが次善策を提案。

 そして、次発の各駅停車。

「準急だったら座れないとこだったね」

 留美ちゃんの提案で、人波をかき分けてホームの端まで歩いて先頭車両に乗る。

「上六の改札は最後尾の方だから、前の車両は比較的空いてるのよ」

 留美ちゃんは賢い。

 布施と弥刀で通過待ち。

「お八つ食べよか?」

「え、まだ10時前だよ」

「せやかて、ひと少ないし(^▽^)/」

 弥刀では、ごっそりお客さんが下りて、先頭車両の乗客は、うちら入れて五人。

 天気はええし、二本の通過待ちやし、仏さんのお下がりの釣鐘饅頭を出す。

「二個までね」

「うん、お昼食べならあかんしね(^^♪」

 

 ゴーーーー

 

 二本目が通過して、うっかり三個目に手を出しかけて電車は発車。

「ここから、景色いいよ」

「ほんまや、高架になってきた」

 高架になって、しばらく行くと、電車は大きく左に曲がって、景色がグリンと旋回。

 おお!

 左の窓に見えてた生駒山が、ゆっくりと正面に回って来る。

 先頭車両の、一番前のシートなんで前方の見晴らしも素晴らしい。

「うわあ……なんか、山に吸い込まれていきそう……」

 久宝寺口……八尾と進むにしたがって生駒山が大きなってきて、吸い込まれそうな感じになる。

「あれは高安山だよ、隣が信貴山だし……」

「え、そうなん?」

 うちには区別つかへん。

「大阪の電車って、ほとんど南北方向で生駒山系と並行してるんだけど、近鉄奈良線と大阪線の、この区間は山にまっしぐらだからね」

 留美ちゃんはえらい。

「お、地下に潜るんか?」

 錯覚するくらいの勢いで電車は高架を下りて河内山本に到着。

 

 せんぱーーい!

 

 改札を出ると、文芸部唯一の後輩、夏目銀之助が手を振ってる。

「銀ちゃん、早いなあ!」

「準急に間に合いましたから」

 なにごとも要領のええ後輩や。うちらが乗り損ねた準急に間に合うとる(^_^;)

「アハハ、頼子さんは?」

「あ、あそこ……」

 銀ちゃんが目線で示したロータリーの端っこに黒のワンボックス。うちらも見慣れた領事館の車。

 ちょっと前やったら「よりこさ~ん(^^♪」とか声上げながら駆け寄るんやけど、コロナもあるし、頼子さんも有名人やし。ひっそりと近づく。

「お久しぶり~」

 出てきた頼子さんは、マスクに眼鏡して、長い髪をキャスケットにしまい込んでる。

「なんか、怪しいですねえ」

「うん、まあね」

 車の中には、お久しぶりのジョン・スミスともう一人のサングラス。

 やっぱりプリンセスのお出かけは、たいへん。

「じゃ、行ってきま~す」

 ジョン・スミスに声を掛けると、ジョンスミスは無線機でなにやら連絡。

 英語なんでよう分からへんけど、おそらくは、警備の仲間に指示を飛ばしてる。

 スマホを使ったらええと思うねんけど、スマホは情報を抜かれるんで、警備には使えへんらしい。

「じゃ、自転車借りに行きます」

 

 留美ちゃんがガイドよろしく先導して、八尾市の駐輪場へ。

 

「すみません、レンタル自転車四台お願いしまーす」

 ひとり二百円で自転車を借りる。

 貸し出しの自転車は放置自転車を整備したものみたいで、四台、まちまち。

 女性三人は24インチ。銀ちゃんは26インチ。

 揃って、駐輪場の前に出ると、これまた久しぶりのお仲間。

「いやあ、おひさ(^^♪」

「おひさしぶりです」

 微妙に語尾の「です」に力が入るのは、頼子さんのガード兼ご学友のソフィー。

 多少ソフトになったけど、やっぱり目つきは鋭い。

 まあ、彼女にはガードとして勤務中やから仕方ないんやろなあ。

「コースと現場は確認しておきました」

「ごくろうさま」

 さすがは王女様のお出かけなので、ソフイーは事前にチェックしに行ってるんだ。

「それでは先導します。車に気を付けてついて来てください」

 はーーーーい!

 

 五人そろってペダルを踏む。

 今日は、かねて「行こう行こう!」と、その気になってながら、なかなか実行に移されへんかった日帰り旅行。

 そう、木村重成のお墓詣りに行くとこなんです!

 

 自転車の車列は、ゆっくりと玉櫛川沿いの遊歩道を北に進むのでありました(^▽^)♪

 

 

 

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ライトノベルベスト『タータンチェック・3』

2021-07-03 06:07:47 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『タータンチェック・3』 

 




 職員朝礼で、イレギュラーな連絡があった。

 五時間目から放課後にかけてテレビの取材が来るのだ。

 関東テレビのローカルバラエティーの『学校訪問』というコーナーで、芸能人がクルーを引き連れてやってくると言うのだ。

 職員一同、急にソワソワし始めた。そりゃそうだろ、わりと規律の厳しい学校(文化祭は例外)なので、先生達も、わりに身なりはきちんとしている。しかしテレビに写るとなると、話は別で、ロッカーから上着や、スカーフなどを引っぱり出したり、メイクをそこはかとなくやり直したり。お互いチェックしあったり。

「先生は、そのままでいてくださいね」

 生徒の中で、今日の取材を知っているのはごく僅かで、そのごく僅かの代表の生徒会長の竹下君が、一限の前に念を押しに来た。

 あたしは、さほど興味が無かったので「うん、分かった」と軽く返事をした。

 竹下君とは、文化祭の緊急ジャンケン大会以来、仲のいい生徒で、廊下で会っても、軽く立ち話をするようになった。

 文化祭の明くる日には、放送部を連れて取材にも来た。子どもの頃の話や、趣味、行きつけのお店、学生時代や、ここに講師に来るまでの話など、竹下君は上手く雰囲気を盛り上げて話を引き出す。事務職の補助で来て、講師になったところなど、生徒には受けたようだ。

「タータン先生って、熱中すると腕組んで小首を傾げるんですね」

「あ、机があったら頬杖になるんだけどね」

「そうそう、テスト監督のときなんかやってますよね」

 などと、自覚はあるけど、ささやかなクセなどよく見ている。

 あたしは、過去の一部分にだけは触れられないように、年齢は不詳、結婚はしたことがない。と、通した。

 昼休み、お弁当を食べていると、竹下君を先頭に生徒会の面々がやってきた。

「タータン先生、これ、受け取ってください!」

 と、ショップバッグを渡された。見ると新宿の高級ブティックのそれであった。

「あ、こんな高級なものもらえないわよ」

「ま、開けてみてください」

 生徒会のご一統がクスクス笑う。

「もう、びっくり箱じゃないでしょうね?」
 
 開けてみると、文化祭で、あたしが着た女生徒の制服一式が入っていた。

「え、また、これ着ろって!?」

 テレビの収録で、取材クルーがタレントを連れてやってくるので、またアレをやろうと言うのだ。

 ためらっていると、職員室の先生達からも拍手され、やらざるを得なかった。

「来るタレントさんて、だーれ?」

「内緒ですけど、AKRのヤエちゃんと、セリカちゃんです」

 あたしでも、名前は知っているけど、顔が思い浮かばないという程度の二線級のアイドルだった。

「さあ、この中に先生が一人混じっています。ヤエちゃん、セリカちゃん、それぞれお手つき三回までで当ててください!」

 MCのコメディアンが言った。

「え、いつもお手つき二回なのに、大盤振る舞いですね!?」

 声を聞いてやっと分かった、ヤエという子が言った。

「ま、その分、今日はむつかしくて。外すと罰ゲームが楽しく待ってますよ」

「ま、軽いですよ。わたしたち十代だから、同年代の匂いは分かっちゃうもんね」

 生徒の数は36人、お手つき三回を二人分で六回。確率1/6と軽く見てアイドル二人は、取りかかった。

 そして、全部外してしまった。

「やだ、分かんない。どう見てもみんな高校生だよ」

「では、恒例の罰ゲーム」

「え、何? 前みたいに目隠しして蛇触んのなんかヤだよ」

「そんなんじゃないの。そこのドアを開けて、あとの進行は二人がやるって、それだけ!」

「わ、やった。尺もらえる」

「それでは、AKRのヤエちゃんセリカちゃん、罰ゲームどうぞ!」

 あたしは、年甲斐もなくワクワクして、頬杖をついて小首を傾げていた。

 アイドル二人がドアを開けて、入って来た人を見て、あたしは心臓が止まりかけた。

「それでは、特別ゲストの神辺祐介さん!」

 ヤエちゃんもタマゲタ様子でカンペを見ながら、たどたどしく進行を始めた。

「このクラスの女生徒二十人の中から、一番好みの子を選んでください」

「タータンチェック!」

 と、カンペ通りに、言い慣れないかけ声をかけた。

「タータンチェックの制服って、めずらしいよね。かっこよくて、オレ好きだよ」

「だから、そのタータンチェックの彼女たちの中から、意中の子を選んでください!」

「オレ、もう33だけど、いいのかな」

「いいんです」

「どうぞどうぞ!」

 あたしは、突然のことに俯くこともできなかった。

 そして、神辺は、列を一巡したあと「あ!?」という顔をして、あたしに気づいた。

「タータン……」

 あたしは、言葉もなかった。

「タータン……いや、妙子。お願い、オレのところに戻ってきてくれ」

 神辺が深々と頭を下げた。関西お笑い界の中で、飛ぶ鳥を落とす勢いの神辺祐介……あたしの元ダンナが頭を下げた。

 竹下君をはじめ、生徒達は、あたしのことをネットで探りまくり、一度もマスコミの前に顔を出したことのないあたしと、二人の別れた理由、そして祐介自身が別れたことに非常に後悔していることを探り当て、テレビ局と仕組んでやったことが、ディレクターから説明された。

「じゃ、神辺さん、これ……」

 ヤエちゃんが、なにか書類を渡した。

「こ、これは早いよ……」

 遠目にも、それが何か分かった。

「祐介、あなたから書きなよ。この前は、あたしから書いて失敗したんだから」

 母校は、名前が変わっても、暖かかった。

 タータンチェック 完

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コッペリア・42『栞と颯太のゴールデンウィーク③』

2021-07-03 05:52:04 | 小説6

・42

『栞のゴールデンウィーク➂』  

 

 

 

「火偏に門構えの中に月だよ」

「いや、門構えの中は日だ!」

 兄妹二人、テレビのクイズ番組を見ながらもめている。

 はた目には、長閑な兄妹の日常に見えるだろうし、当の本人たちも、その気でいる。

 しかし、この兄妹の会話は、どこか必死なところがある。

「ほら、やっぱし、オカンはお燗、門構えの中は月だったでしょうが!」

 MCの正解に妹は勝ち誇ったように鼻を高くした。

「オ、オレは美術の講師だからな。漢字なんか分からなくってもいいんだ(^_^;)」

 颯太は鷹揚にアニキらしく開き直った。

「はいはい、負けた方がアイスコーヒー入れましょう」

「やれやれ、エラソーな妹もったもんだ……あ、アイスコーヒー切れてるぞ」

「あ、今朝飲んだんだ。あたしコンビニまで行ってくる」

「いいよ、オレが行く。栞は漢字はともかく、コーヒー牛乳とアイスコーヒーの区別もつかないんだからな」

「じゃ、行って来てよ。バイトのオネーサンと話し込むんじゃないわよ」

 互いに、なにか一言言ってリードしておかなければ収まりがつかない……でも、やっと兄妹らしくなってきた。

 颯太から見れば、栞は、あいかわらず『アナ雪』のアナのように人形じみてしか見えない。でもドアを閉めてコンビニへ向かうと、自分の部屋の灯りが、なんだか愛おしい。

 あくる日、栞は学校で話をつけようとしたが、青木穂乃果は栞を自分の家に招いた。

 穂乃花には腰を落ち着けて話そうという意気込みが感じられる。咲月もついてきたがったが、AKPのレッスンがあるので諦めた。

「青木さんの主張は正しいけど、現実的じゃないわ。この上クラスを元に戻したら、混乱じゃすまない」

「鈴木(栞の名目の苗字)さんは融和的すぎる。確かに元のクラスに戻したら混乱は起きるわ。でも、それって先生たち……はっきり言ってしまえば、その上の組合の問題。民主集中制なんて前世期のドグマで教育を権力闘争の具にすることは許されない。学校を本当に変えようと思うなら、今が勝負よ。今勝負しとかなきゃ、神楽坂の沈滞した融和主義はうちやぶれないわよ」

 どうも、穂乃果のいうことは高校生離れしている。まるで活動家の演説だ。

「お家にまで呼んでもらって、なんだけど、青木さんの……」

「穂乃果でいい。あたしも栞って呼ぶから」

「穂乃果さんの思いは、胸に秘めていればいいと思うの。新学年は、まだ始まったばかり。仕切りなおして解決しなきゃならない問題は、これからいくらも出てくるわ」

「それは……」

 そのときノックがして、きれいな女の人が入ってきた。

「どうも、穂乃果の姉の穂奈美です。ごゆっくりね」

 それだけ言うと、姉の穂奈美は出て行った。それまで頑なではあったが、理路整然としていた穂乃果の話は脈絡がなくなってきた。なんだかわけのわからない世間話をして、栞は穂乃果の家を後にした。

 気になって振り返ると、来た時には気づかなかった看板が目に入った。

 都議会議員青木修三事務所と読めた……。

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