大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・91『机の上のかるた会』

2021-07-31 13:59:04 | ライトノベルセレクト

やく物語・91

『机の上のかるた会』    

 

 

 かるた会をやるのに四畳半では狭い。

 えと、机の上に広げた1/12フィギュア用のミニチュアね(^o^;)。

 

 そこで、お習字の下敷きに敷く緑色のフェルトを布いて、四畳半用の襖と床の間を設えてみる。

 床の間には、花瓶を置いて本物のカスミソウを三本活けてみる。

 カスミソウだから華やかさはないんだけど、かるた会をやる三人(やくも チカコ お地蔵さん)のしるしだ。

「あら、気が利いてる(^▽^)」

 さっきまでの不機嫌は忘れたみたいにチカコ。

 女の子の機嫌なんて、ちょっとしたきっかけがあれば戻っちゃう。

「わたしのを使って」

 チカコが立派な百人一首かるたを出す。

「え、すごい」

 それは漆塗りの縦長の箱。

 十文字に上品な紐が掛かっていて、それを解くと雪の結晶みたいなのと葵と、二つの紋所が金蒔絵で施されている。

 上蓋を開けると、二列に読み札と絵札が積まれている。

「なんか、大河ドラマの小道具みたい!」

「こ、小道具じゃないし(-’’-)」

 チカコは黒猫のボディを使っているせいか、そっけない。

 わたしは……鏡に姿を映して見ると……あ、田村麻奈美!?

 ほら、京介の幼なじみの和菓子屋の娘。

 眼鏡っこで、京介から生まれながらのお婆ちゃんなんて呼ばれてる、桐乃には『地味子』なんて言われてる。わたしも、ふだんは出していないフィギュア。

「えと……」

 絵札を並べて戸惑った。

「なにか?」

「えと……きれいな札なんだけど」

「当然よ、御所お出入りの一流の職人に作らせたものだから」

 ちょっと憎たらしい。

「あ、うん、とっても立派できれいなんだけど……」

「それが?」

 言いよどんでいると、頭の上で声した。

 

「やくもには難しいのよ」

 

「「え?」」

 二人で顔を上げると、桐乃が腕組みして見下ろしている。

「あ、えと……」

「二丁目地蔵よ」

「桐乃の姿なんだ!」

「あ、これが一番活発そうだったから(^_^;)」

「難しそうって、読み札はひらがななんだけど」

「草書体ってか、崩した字だから、今の時代の子には読めないよ」

「え、あ、そうか。やくもは令和生まれなんだ」

「し、失礼ね、平成生まれですぅ(-ε´-。)」

「あ、そ、昭和からこっちはみんないっしょよ」

「なんとかしてやんなさいよ、チカコ」

「わかったわ」

 クルリン

 チカコが右手の人差し指を回すと、読み札の文字が、お馴染みの教科書体に変わった。

「すごい!」

「ふふ、では、始めましょうか。最初は、わたしが札を読むね」

 

 ちはやふる 神代もきかず 龍田川 唐くれないに 水くくるとは~

 二丁目地蔵がお決まりの『ちはやふる』を詠んで、かるた会が始まった。

 

 三回まわって一勝二敗。

 一勝は二丁目地蔵さんが譲ってくれたんだと思う。だって、チカコとの勝負には勝っていたものね。

 こと勝負にかけては、チカコの方がシビアで、ちょっと不満そう。

「むー(-ε´-)」

「いいじゃない、仲良く一回勝てて」

「だって」

「フフ、こどもっぽ~い」

「なんですって(#`Д´#)!?」

「ところでさ、なんで『東窓』って、お札を貼ったら引きこもりの女の子が外に出られるようになったんだろうね?」

 チカコを完無視して、二丁目地蔵さんが指を立てる。

「え?」

「だって、業平さんは東の窓から、お茶屋の娘が大口開けてご飯食べてるのを見て、熱が冷めたんでしょ?」

「あ、そうだよね。茶屋の娘さんが失恋しちゃう話だもんね」

「チカコはどう思う?」

「なによ、わたしにフッてきて」

「気にならない?」

「う~ん……東窓……熱が冷めて……恋が冷める話なのに暗くないわね」

「うん、それそれ! それから高安では東側には窓を付けませんでした……なんて、ちょっと可笑しみがなくない?」

「まあ、平安時代の話でしょ、桓武天皇のお孫さんの話だし。それより、真剣に、もう一勝負しようよ! ね、やくもも!」

「え、あ、うん。二丁目さん、もっかいやろうか?」

「そうね」

「やろうやろう!」

 そして、もう二回やって、三回目に突入したところで寝落ちしてしまった。

 

 夜中に目が覚めると、机の上はきれいに片づけられていて、黒猫も桐乃も、元のフィギュアに戻っていたよ。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸

 

 

 

 

 

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ライトノベルベスト[サンドイッチの妖精・1]

2021-07-31 06:39:21 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

〔サンドイッチの妖精・1〕  




 二十数年ぶりの同窓会は、それなりに盛り上がった。

 成人した年に開いて以来だから、みんな四十路のいい歳だ。

 もう五十代の半ばに見える管理職のやつ。喋る調子は高校生の時のまま……ただし目をつぶっていればという三人娘。未だに独身で人生の折り返しにきて本来の目的で来た婚活派。

 ま、この年代の同窓会の悲喜こもごもが、そこにはあった。

 オレは、出席の返事を出すのに躊躇があった。

 大学は人もうらやむA大学に入った。

 前の同窓会じゃ鼻が高かった。それがきっかけで付き合い始めた美穂も来ていた。放送局に入社したのをきっかけに別れた。正解だった。かつての乙女のバラは太めのママになって面影も無かった。亭主がクラスメートの竹田だったので、セオリー通りシカトしている。

 オレには、ちょっとした希望があった。

 前回の同窓会には来られなかった白羽美耶が来ていないか楽しみにしていた。高校時代は目立たない子だったが、美耶は、大人になれば大化けした美人になると踏んでいる。
アイドルの中にも偶に見かける大器晩成タイプの美人だ。
 出席予定者の中には入っていたが、宴たけなわになってきた今もまだ来ていない。

 顔では業界で鍛えた笑顔でいるが、もう熱は冷めた。

 すまん、今から局に戻らなきゃ

 幹事の竹田に言おうとして、傍らにあったサンドイッチに手を伸ばした。

 誰も手を出さなかった残り物で両横の薄い食パンは乾いてそっくり返っている。まあ、言い訳の小道具だ。こいつを口に入れて、さも予定を思い出したように「すまん」と切り出せばいい。

 そうして残り物のサンドイッチを咀嚼して息を飲み込んだふりをし、竹田に言おうとして、本当に息をのんだ。

「みんな、遅くなってごめん!」

 なんと、白羽美耶が高校時代そのままの制服で現れた!

 一瞬会場がシーンとして、次にどよめいた。

「うそ、美耶、高校生のときのままじゃん!」

「ひょっとして、タイムリープとかしてきた!?」

 美耶は、たしかに明るくなったという点を除いて、ニ十数年前の女子高生そのものだった……。

            ……つづく 

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ホリーウォー・21[ヒナタとキミの潜入記・9]

2021-07-31 06:20:10 | カントリーロード
リーォー・21
[ヒナタとキミの潜入記・9] 



 
 
「日本は昔ほど寛容じゃないの」

 ヒナタは、この事態を予想していたかのように習大佐を見返した。
 
「しかし、あくまで威嚇だ。キミが起爆したら広島型原爆の1600倍の威力がある。地球の1/30が吹っ飛んで、月がもう一つできる。むろん地球上の人類は全滅。そんなものを起爆できるわけがない」
 
 シンラ大司教は、あくまで冷静だった。
 
「東京クライシスのあと、わたしはバージョンアップしてるの。破壊力は広島規模から、その1600倍まで調整可能よ……いま、破壊力を広島型にしたわ」
「……なるほど、日本の技術革新はあなどれないわけだ」
「シンラ大司教、習大佐、あなたたち二人が個人的には良い資質を持っていることは、この二か月余りで分かったわ。だけど国際的には昔通りの覇権主義。お二人の間でさえ、こんな確執がある。この二か月、なんとか穏やかな解決法はないかと考えたけど、もう貴方の存在は容認できないわ」
「シンラ大司教、ここは協力しませんか。互いの問題を解決する前に共通の敵を始末しましょう」
「それが賢明なようですね」
「シンラ大司教、その習大佐はホログラムです。実体は安全なシェルターの中にいる。ここで死ぬのは大司教一人です」
「かまわない。わたしも、それなりのセキュリティーはしてある。今度こそ消滅してもらおう、日本のモンスター」
「あ……」
「気づいたようだね、8丁のパルスガ銃がキミに照準を合わせている。ただ、こういう展開を予想していなかったので、チャージに時間がかかったがね。消滅しろモンスター!」

「わたしの存在を忘れちゃ困るわね」

 キミが声を上げた。
 
「開花、おまえは……」
 
「あたしは、ヒナタのガードよ。ここでむざむざヒナタを自爆なんかさせない」

 次の瞬間、音もなくヒナタとキミの姿は消えた。

「パルス変換して!」
 
 キミの圧縮信号で、ヒナタは状況を理解した。
 
 でも……
 
「どうして、あたしたち裸なの?」
「シンラの制服にはナビチップが縫い込まれてるの。あれ着たままだとテレポしても直ぐに居場所が掴まれる。そこら辺にある制服を着て」
「ここ……?」
「天壇女子中高の倉庫。卒業生が寄付してった制服がいっぱいあるから、サイズ合うの着て。それから姿かたちは今送る情報で擬態して」
 
 言われるままにヒナタは、天壇女子中高5年生呉春麗(オ・チュンリー)に、キミは妹の雪麗(オ・シュェリー)になった。
 
「あら、可愛い子ね」
 
 擬態した自分を鏡に映して思わずヒナタが言った。
 
「ちょっと、操作するわね……」
 
 春麗と雪麗は、ここ一週間休んでいる生徒だ。理由までは分からないが、居てもおかしくない存在である。もっともキミは下校時間までしか、ここに居る気は無かった。
 
 キミのテレポ能力は、単独で半径1キロ。ヒナタと二人では、500メートルが限界なのだ。それで緊急避難として天壇総本部に近い天壇女子中高を選んだのである。
 
 しかし、下校時間には、どこか他のところに行かなければ怪しまれる「ま、その時に考えよう」キミは基本的にポジティブなガードである。
 
 春麗と雪麗の学校生活における情報は取りこんであるので「あ、二人とも久しぶり」と友達に言われるだけで済んだ。
 
 午後から登校したという記録も、学校のコンピューターに思い込ませてある。
 
「二人とも、放課後に一週間の欠席について説明にきなさい」
 
 生徒指導の先生に言われたのは困ったが、まあ、それまでに学校をトンズラしてしまえばいいと決めた。

 で、放課後。

「春麗、雪麗、お父さんが来られてるから、応接室まで来なさい」
 
 担任に言われてビックリ、想定外なことである。キミはヒナタといっしょになったらテレポすることにした。
 
「雪麗!」
 
 廊下で声を掛けてきたのは、見知らぬオッサン……そのオーラとパルスは二人の父親であると推測された……。

 危うし、ヒナタとキミ!
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