大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・222『走る同級生』

2021-07-16 10:24:55 | 小説

魔法少女マヂカ・222

『走る同級生』語り手:ノンコ    

 

 

 てっきり高坂家でやるもんやと思てた。

 

 何かと言うと、カーテンの再生服。

 メイド長の春日さんの指揮で、あっという間に三百人分以上の再生服が縫い上がった。

 それを震災で焼け出された人らに配るいうことになってたんやけど、それはお屋敷の門前か、原宿の駅前でうちらが配るもんやと思てた。

 

 霧子なんかは、根っからのお嬢様で、悪気はないねんけど、態度が大きい。

 うちとマヂカがご学友になってからマシになったけど、基本的には直ってない。

 人のこと真正面から見るし、口も大きいし、歯ぁ見せて笑うし、距離も近いし。

 令和の時代やったら、ハツラツ系のベッピンさんでかえって魅力になるやろと思う。

 せやけど、今は関東大震災でひっくり返ったばっかりの大正十二年。霧子みたいな女の子は敬遠される。

 マヂカやブリンダも口には出せへんけど心配してる。

 本人の性格のことやし、言うたら、絶対傷つくしね。

 

 でも、それはいらん心配やった。

 

「お父様はね、教会やお寺に頼むことにしたのよ」

 仕上がった再生服を箱に詰めてる手を停めて説明してくれる。

「ああ、教会だったら慣れてるよね、炊き出しとか奉仕活動で」

 マヂカも思い当たる。

「せやけど、霧子が配っても、もろた人は元気出るんちゃうかなあ」

「ありがと、でもね……」

 再生服を抱えて立ち上がる。

「再生服ですけど、どうぞ着てください! どうぞ、お手に取って、お気に召したら持って行って下さいな!」

 満面の笑顔で実演する霧子。

 めっちゃ素敵で、握手会のアイドルとかやったら文句なし。

「もうちょっと、控え目な笑顔とか……」

「餅屋は餅屋よ。ね、春日、教会に持っていくぐらいだったらやってもいいかなあ」

「ええ、松本とクマが渋谷の教会に持っていくところですから、付いていかれますか?」

「うん、いくいく!」

 ということで、あたしとマヂカが霧子といっしょに松本さんの車に。ブリンダは大使館の車で渋谷の教会に行くことになった。

「行ってきまーす」

「ご苦労様です」

 イギリス人とのハーフの箕作巡査が敬礼してブリンダが応える。

 続くうちらの車もパッカード。

 背景の高坂邸は立派な洋館やし、この場面だけを見ているとアメリカの映画のみたいや。

「女四人だから若草物語みたいね」

 霧子も、ちょっとウキウキ。

 

 渋谷の教会が近くなると、うちの他にも自動車やらリヤカーが出入りしてるのが見える。

 

「ここは拠点教会なんです」

「日曜の炊き出しに、ここから東京東部の教会に配ってるんですよ」

 運転手の松本さんと、クマさんが説明してくれる。二人とも、休みの日には炊き出しの手伝いをしていて、今回の準備も率先してやってくれてるらしい。

 教会の前に車が付くと、大柄な神父さんが広げた両手で笑顔を増幅させて迎えてくれる。

「今日は神父さま、今日はお嬢様たちもお手伝いについて来てもらいました」

 クマさんが説明すると、いっそうの笑顔になる神父さん。

「どうもありがとございます。司祭のマッキントッシュです。いつも松本さんやクマさんにはお世話になっています(^▽^)」

「さっそく荷物を……」

「そですね、では、教会の中に」

 あたしらの他にも荷物を運びこんでる人らがおって、ちょっと混んでるんやけど、神父さんの指示でテキパキと動く。

「午後には、あちこちの教会に配るので……仕分け前の二番にお願いします」

「はい。では、みなさん」

 わたしらには、どこがどこか分からへんねんけど、慣れたクマさんに先導されて所定の位置に収めることができる。

 高坂家の提供物は再生服だけなので、二回往復するだけで済んだんやけども、お米やらの食料品を搬入してるとこは、ちょっと大変みたい。

「わたし、手伝って帰りますから、お嬢様方は車で先にお戻りください」

「そんなことしたらクマさんは歩いて帰ることになるじゃない、わたしたちも手伝う」

「それは、申し訳ないです」

「いいのいいの、わたしたちも役に立ちたいんだから。ね、みんな!?」

「「「うん」」」

「ということだから(^_^;)」

「は、はい、ありがとうございます!」

 こうして、あたしらも運び込みのお手伝いすることになる。

 

 松本さんの半分くらいの荷物を持って、お手伝いしてると、目の前を見慣れた女の子らが走ってるのに気付く。

 女子学習院の同級生、浅野さん、松平さん、岩崎さん、伊達さん、徳川さんたちが額に汗を浮かべながら走ってる。

 

 え、なんで?

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

 

 

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ライトノベルベスト〔死にぞこない・1〕

2021-07-16 06:42:06 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

〔死にぞこない・1〕 




 会場は一瞬で落ちてきたような静けさになった。

「いま、死にぞこない……と言ったのはだれですか?」

 泰三が、マイクも通さず静かに言った。言葉は意外なほど、会場の体育館に染みわたった。

「なるほど、僕は死にぞこないだ。でも今の言葉は、死にぞこないの重さも意味も理解していない。単なる揶揄にすぎない。分かるように説明したいから、口にした人は名乗りなさい」

 一分待った。会場の生徒たちは、またざわつき始め、平和学習主担の飯島は、生徒たちを一喝しようと息を吸い込んだ。

「先生、お気持ちは分かりますが、言葉は私に向けられたものです。私が始末をつけます。4組の前から15番目の君、立ちなさい」

「お、オレじゃねえよ!」

 15番目は、座ったままふてくされて言った。

「嘘だ。大沢君」

 15番目は、慌てて名札を隠した。この距離でちっぽけな名札の名前が読めることは脅威だった。それに……大沢は「大」の字に点を打って犬沢としていたのである。泰三老人は、それさえ見抜いていた。

「もう一度聞く、死にぞこないと言ったのは君だね?」

「ち、違うってんだろ!」

「卑怯者!」

 泰三の鋭い声は、再び生徒たちを黙らせた。

「僕は、これでも昔は音響技師をやっていてね、声や音には敏感なんだ。いま証拠を見せよう……これは、僕が講演をするたびに録っている音声記録なんだ……むろん僕自身の勉強のためだがね……あった、これだ」

 泰三がパソコンをタッチすると、鮮明に「死にぞこない」という声が増幅されて館内に響いた。

「オ、オレじゃねえってんだろうが!」

 泰三は、無視して続けた。

「そして、たった今、君が言った言葉がこれだ」

 大沢がみんなの前で言った三つの言葉が再生された。

「田中さん、あとは自分たちが指導しますから」

 飯島が間に入ろうとした。泰三は受合わず続けた。

「これが、それぞれの言葉の声紋……どう、ぴったり重なるだろう。言ったのは大沢、君だ」

 スクリーンに四つの声紋がグラフになって出てきた。完全に一致する。

「……大沢君」

「うっせー、敦子」

 女生徒の言葉で、大沢はさらに意地になった。

「大沢、あとで生活指導まで来い!」

「いえいえ先生。この時間は、私が戦争体験を君たちに伝える時間です。それに口にこそ出さないが、大半の生徒が、真面目に聞こうとはしていない。これを見たまえ」

 体育館を俯瞰した映像が出てきた。50名ほどの生徒の上に赤いドットが点滅していた。

「これは、現在スマホをいじっている者たちだ」

 とたんに、ドットが次々と消えていった。

「君たちの姿勢はこれだ。僕が何を語っても空念仏にしか聞こえないだろう。空念仏で通してもいいんだが、それでは死にぞこないの意味が無い。君たちも高校生だ、責任をもって戦争を体験してもらおう……」

 泰三が、そう言うと、体育館の外は闇につつまれ、サイレンの音と、地響きがするような爆音がし始めた……。

 

 

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ホリーウォー・6[スグルのメモリーを集める・4]

2021-07-16 06:21:36 | 自己紹介

リーォー・6
[スグルのメモリーを集める・4]  




 子供でも容赦しない。

 絵里のパルス弾は、三人の子供の胸を打ち抜いた。子供たちは糸の切れたマリオネットのように、妙な具合に体をくねらせて倒れている。

 敵のアンドロイドの特徴である。

 思いもかけぬ方向に関節が曲がり、曲芸のような身のこなしで襲ってくる。カーボン繊維の骨格をしているので、体重も人間の半分ほどでしかなく、跳躍力や運動性能に優れている。

 この外見と運動性能はハワイ事件で経験済みだが、事件後の散発的な戦闘では、これに面食らった日本の戦闘員が数十人やられている。

 日本は、これに対しパルスガ銃での集中攻撃で対応したが、これでは敵をまるまる粉砕してしまい、破壊したアンドロイドからはなんのデータも回収することができなかった。

 そこで、絵里は破壊力では劣る一世代前のパルスガンを使った。

 技研の庄内に頼んで貫徹力だけを強くしてもらったもので、距離1000で、100ミリの鋼板に3ミリの穴を開ける。絵里は、この改造パルスガンを部下にも持たせ、胡同(フートン)と呼ばれる浙江省にあるシンラの拠点に奇襲をかけたのである。

「……お願い、助けて」

 小さな声が聞こえた。

 部下の一人が狙いを外し、ムーブメントを破壊し損ねたのである。

 部下は一瞬躊躇した。人間そっくり、それも幼い女の子の外形をし、涙を流しながら哀願するのである。人の心を残したサイボーグなら躊躇も無理はない。

「どけ!」

 絵里は、そう叫ぶと、パルスガンを連射した。

 ズボボボボボ!

「チ、電脳をぶち抜いてしまった。こいつの足をよく見て反省しろ」

 そのアンドロイドは、右足を信じられない角度で曲げて、指にレーザーナイフを構えていた。

「あたしが撃たなかったら、おまえ電脳とエネルギーコアの中継を切られてたとこだぞ」

「すみませんでした」

「優しさは捨てろ。この胡同の外郭にいるのは、100%アンドロイドだ。機械を壊すのに躊躇はいらない」

「隊長、こいつらの電脳情報で外郭の構造は、ほぼ分かりました。全員に送ります」

「送れ……一部クリアーじゃないな。内郭への進入路が三つもある。二つはブラフだぞ」

「どうも、こいつがキーロイドだったようですね」

 部下は、絵里が完全に破壊したアンドロイドの頭を蹴飛ばした。

「二つ目が正解だと思うぜ」

 そう言いながら、スグルの分隊が入ってきた。

「どうして二つ目?」

「経験と勘。うちの分隊でやる、時間かけてたらどんなブラフかけられっか分からんからな。じゃ、行くぞ!」

 それだけ言うと、なんの躊躇もなくスグルの分隊は胡同の奥に進んでいった。

 正解だったことは直ぐに分かった。情報を部隊全体リアルタイムで共有しているからだ。

「内殻は敵の数も多い。若干だが人間もわずかに混じっている。怪我をさせても殺すんじゃないぞ!」

 内郭は、四つのブロックとコアとに分かれていた。スグルたちの戦闘状況がリアルに共有された。スグルのアドレナリンが少し高めなのが気になったが。

 サブの本体が着くまでに四つのブロックは制圧。残すはコアだけとなった。
 
 四つのブロックのアンドロイドからコアの情報を得ようとしたが、ブラックボックスのように情報がなかった。さすがの絵里も躊躇した。

「側面二か所に穴を開ける。その間にデータを洗い直し正面ゲートを開錠、先に開いたところから突入。アンドロイドはムーブメントを狙え。ただし、身の危険を感じたら破壊もやむなし。かかれ!」

 5分で、側壁一か所と正面ゲートを開けた。

 同時に、絵里とスグル、そしてサブの本体がなだれ込む。

 三十秒で、5人の人間を確保、82体のアンドロイドのムーブメントを止め、6体を破壊した。

「や、止めてくれ! あんたたちが破壊した中には人間も混じっているんだぞ! そこの少佐(スグル三佐)この娘は身重だ、手を出すな。怪我をしている、助けてやってくれ!」

 司祭のようなナリをしたリーダーが、腹の大きな娘をかばって言った。

「絵里、助けてやれ」

 一番近くにいた絵里の部下が二人、娘と、リーダーを助けにいった。

「安心して、人間には危害を加えないから……」

 絵里の部下が手を差し伸べた時、スグルは気づいた。

「どけ、トラップだ!」

 スグルとサブが同時に飛び込んで、絵里の部下二人とリーダーを助けた。

 スグルはアンドロイドだが、サブは生身の人間である。退避に0・2秒余計にかかった。

 娘は、人間の生体反応を極限までコピーした人型爆弾だった。スグルも爆弾が起動するまで気づかないほど精巧にできていた。

 ……サブは、この事故で両足を失ってしまった。

 絵里は、訓練の合間に、かいつまんで話してくれただけだ。しかし、ハワイとここの作戦二回立ち会っていたので十分伝わった。

 ヒナタは、いまだに義体化しないサブの頑固さとスグルの怒りを理解した……。

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