大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・219『朝顔の双葉が開いた』

2021-07-29 09:09:14 | ノベル

・219

『朝顔の双葉が開いた』さくら      

 

 

 きのう双葉が出てきて、今朝は開いてました!

 

 朝顔ですよ! 朝顔!

 なんであろうと人や物が成長するのは嬉しいもんです。

 小学一年生のころ、初めてつけた朝顔日記の興奮が蘇ってきます。

 お母さんと二人、百均で買ってきた鉢に種を撒いた……というか、二センチくらいの穴をあけて種を入れた。

「え、なんでお尻切るのん!?」

 お母さんがカッターナイフで種のお尻を小さく切ったんで、ビックリ!

「種も人間も、ちょっと傷があるくらいのが伸びるんだよ」

 もっともなようやけど、その時、ニタリと笑ってたお母さんは、ちょっと怖かった(^_^;)

 双葉が出てきた時は、二個の種が合体したんやと思た。

 あくる日には、もう一個双葉が出て来たんで、種の力が余って分身の術をつかったんちゃうやろかとカンドウした!

 カッターナイフを出して、お母さんに迫った。

 

「お母さん、さくらのお尻も切って!」

 

「え、え、なに(;'∀')!?」

「お尻切ったら成長がはやい!」

 アホやったんですわ(-_-;)

 でも、母さんは応えてくれた。

「それやったら、生まれた時に切ったよ」

「え、ほんま( ゚Д゚)?」

「自分で、確かめたら?」

「うん」

 手を後ろに回して確かめたら、確かに割れてて大感激。

 しばらくして、もう一回お母さんに聞いた。

「前の方も切ったあ?」

「え?」

「そやかて……」

 アホな思い出です。

 お尻が最初から割れてるのは、小一でも知ってます。

 一瞬、ホンマかと思たけどね(^_^;)

 まあ、そんなアホなことをやって、寂しさを紛らしてたんです。

 

「え、お尻って切るんだ?」

 

 今度は留美ちゃんがビックリ。

 お祖父ちゃんが植えたのは発芽処理がしてあるので、お尻を切ることはなかったんで、お母さんとの思い出を話すとビックリした。

「それはな、種の殻が硬すぎるんで、中には殻を破れんと腐ってしまう朝顔があるからや」

 二人で朝顔の双葉を観てると、お祖父ちゃんが解説してくれる。

「そうなんですか?」

「うん、啐啄同機(さいたくどうき)という言葉がある」

「「サイタクドウキ?」」

「うん、鳥の雛が卵の殻を割って出てこようとするときに、親鳥は、それを助けようと外から殻をつつくんや。鳥は三歩歩いたら覚えたこと忘れるっちゅうけどな。そういう大事なことは、ちゃんと知ってるっちゅう格言やねえ」

「それって、人にものを教えるとか教育の本質ですよね!」

「おお、留美ちゃんは賢いなあ」

「え、えと……」

「子どもが習いたいと思う時に習いたいものを教えるのが大事だって意味ですよね……含蓄のある言葉です」

 か、かしこい(;'∀')

「まあ、人間には目に見える殻はないさかいな、ちょっとむつかしい」

 

 その時、ダイニングの方から「朝ごはんですよお!」とおばちゃんの声。

 

 今朝のお祖父ちゃんは、トーストにゆで卵。

 テーブルの角でコンコンやって殻をむこうとしたら……

「あ、ああ、生卵や!」

『え、あ、ごめんなさい、お父さん(^_^;)!』

 おばちゃんの声がして、うしろで詩(ことは)ちゃんが笑っておりました。

 

 うちの夏休みは、ゆったりと始まっておりました……

 

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ライトノベルベスト『明日天気になーるかな?』

2021-07-29 07:02:51 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『明日天気になーるかな?』  

 



 絶対に雨が降ると思っていた。

 だって台風が来るんだし、天気予報はテレビでもネットでも大荒れの傘印だった。
 それが、快晴になってしまった。

 あいつの力は本物かもしれない。

 テレビでは可愛い天気予報士が言い訳めいた解説をしていた。

「台風は予想より東側のコースをとり、コースの東側はバケツをひっくり返したような大雨と暴風になりましたが、西側は風こそ吹いたものの、所によっては快晴と言っていい日和になりました。この現象は……」

 あの日から、271/364になった……。

「ごめん、あなたといっしょにやっていく自信なくなたの……」

 決別のつもりだった。

「……弱気になってるだけだよ」

 テレビで観た野球の感想を言うように、省吾は気楽に言う。

「でも、考えに考えた末なの。鹿児島に省吾が転勤して……自信ないの。東京にいる間だって、いま、こうしている間だって、省吾には、いいとこ見せなきゃって……ああ……もう、疲れちゃったの」
「そんなこと気にしてたのか」
「あたしって、家にいるときは、もっとだらしないし、昔のあたしは……」
「昔、美奈穂が、どんなだったか知らないけど、今は、ちゃんとした美奈穂じゃないか。そんな昔の自分に囚われてるなんてナンセンスだよ。それともオレへの気持ちが冷めてしまった……それなら、諦めるけど」
「そうじゃない。いや……そうかもしれない……もう、分かんない!」

 あたしはプラタナスの枯葉が積もった歩道にしゃがみこんでしまった。

 省吾も同じようにしゃがみこんでくれた。

「じゃ、こうしよう。鹿児島に居る間、ずっと東京の天気予報をするよ。とりあえず一年間。オレ……75%の確率で当てて見せるから。それ以上だったら、オレは会社辞めてでも東京に戻ってくる。そして美奈穂の気持ちが変わっていなかったら……結婚しよう」

「あたし……学園にいたの」

 省吾の気持ちをクールダウン……いやフリーズさせるために秘密を言った。

「……ああ、女子鑑別所か」
「保護観察ですんだけど、省吾が思っているような女じゃないのよ」
「……言ったろ、今の美奈穂がいれば、それでいいって。いいじゃんか。じゃ、飛行機の時間だから。いいな、絶対75%以上天気あてるからな!」

 そして、明日で一年。

 省吾はスマホで天気予報を送ってきた。

 そして、明日が当たれば完璧な75%になる。

 そして当たった。

 省吾の天気予報は毎回「晴れ」だった。

「どうして、どうして当たったのよ!?」
 羽田のロビーで省吾に抱き付いて聞いた。
「外れて欲しかったか?」
「ううん、そんなことない。そんなことないよ!」

 省吾は、秘密を二つバラした。

 一つは、東京の晴れの確率は75%だということ。でも、これって平均だから、下回る可能性も半分有る。よほどのハッタリか、一か八かの賭けだった。
 もう一つは、会社の人事命令に逆らって東京に帰ってきたので、会社を辞めざるをえないこと。
 嬉しかったけど、身の縮む思いだった。

 省吾は、持っていた免許を生かして、都立高校の常勤講師になった。楽な学校じゃなさそうだったけど、楽しそうにやっている。演劇部なんてマイナーなクラブの顧問をやって、地区大会で優勝させてしまった。その地区は生徒が独自に審査して出す賞もありそれも金メダルだった。金地区賞とかいて、通称コンチクショウ!

 あたしたち、来春には結婚します。

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ホリーウォー・19[ヒナタとキミの潜入記・7]

2021-07-29 06:40:33 | カントリーロード
リーォー・19
[ヒナタとキミの潜入記・7] 



 

 大陸の五大国家で、一斉にデモが起こった。

「中国の再統一を!」という点では全て一致していた。ただ、その統一は、自分の国が中心になって行われなければならないという点でだけ違いがあった。

 シンラは、裏で動いている人物を特定していたが、昔の中国のように、弾圧や身柄の拘束は行わなかった。

 その代り、シンラは、大陸各地100か所余りを一週間で周り、大衆に呼びかけた。

「シンラの考えは、みなさんと同じです。中国の再統一です。しかし、その主導権は、どこの国がとっても構わないと考えています。これは父なるマルクスが、我らに示したもうた節理なのです。五つの国でおこっているデモに首謀者はいません(本当は習大佐らが糸を引いていることはつかんでいる)みなさん中国の市民の人々が、自然発生的におこされたことは歴史的な必然です。五つに分かれた大陸国家中国は、建国の理念を忘れ、旧態依然たる悪幣に戻ろうとしています。情実と不正にまみれた政治の姿です。不正と腐敗の仕方は国によってまちまちですが、それに糾弾の声をあげたみなさんの心は一つです。同じ民衆の声なのです。だからいずれの国が主導権を握ろうと、真の勝利を手にするのはあなた方なのです。これが革命の節理です。この必然と言っていい節理を発見した父なるマルクスに感謝しましょう。そして祈りながら行動しましょう。身の回りにある不正や情実に目を向けましょう。統一は、そのあとに歴史的な必然としておこります!」

 シンラは行く先々の方言でしゃべり、呼びかけの後は、かならず民衆との討論、その結果としての折伏になり、シンラの宗教団体は大陸の精神的な支柱の柱として堅固さを増していった。

 明花(ヒナタ)は自分を戒めていた。シンラの活動に100%付き添っては身が持たない、人間としては……そこで息女女史のクラブで働いていた開花(キミ)を呼んで、交代で付き添うことにした。

「これを見ろ……」
 
 習大佐は、コンピューターの資料を部下の幕僚に見せた。それは、一週間あまりのシンラの綿密な行動記録であった。喋った内容はもちろんのこと、消費カロリー摂取カロリーの差まで記録されていた。
 
「人間業とは思えませんなあ……」
「その通り。付き添いの部下たちは交代でやっている。熱狂的な部下も五日目あたりで脱落している。人間としての限界を信仰が超えられると思っているんだ。こういうバカはどうでもいい。自分の限界を知りながら効率よく交代しているやつらこそ怖い」
「今では、明花、開花姉妹がマネジメントをやっているようですが」
「君は、今度のデモ騒ぎは、わたしの負けと思っているかもしれん」
「いえ……そんなことは」
「かまわん。見かけは完全な敗北だ。だが、わたしの狙いは、その先にある……」

 そう言って、大佐は、今時珍しいアナログの腕時計のネジを巻いた。部下が苦笑した。  

「ハハ、おかしいだろうね。わたしは道具としてデジタルは使うが、デジタルには動かされたくはないんでね」

 北京の街は落ち着きを取り戻していた。
 
 ジジジ ジジジ ジジジ ジ。
 
 時計のネジはネジ切れる寸前まで巻かれ、力強く明日に続く時間を刻み始めた。
 
「よし」
 
 習大佐は、その敗北に似た勝利に確信を持ち始めていた……。
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