大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・87『東窓』

2021-07-05 09:41:17 | ライトノベルセレクト

やく物語・87

『東窓』    

 

 

 俊徳丸さんに案内されたのは四天王寺とは逆方向の東の道。

 

「長くいるからね、俊徳道から一キロ四方は守備範囲なんだ」

 済まなさそうなんだけど、わたしには面白い。

 今風のマンションとかもあるんだけど、おおむね、昔の村の匂いが残っている。

 細くてクネクネした道。

 そのまま時代劇に使えそうな家やお屋敷が今風の家と違和感なく佇んでいたりする。

 ひょっこりと田んぼや畑が現れるのも面白い。

 それにね、時々、チョンマゲやら日本髪の女の人が居たりする。

「ご近所のお地蔵さんたちだよ。僕といっしょだから見えてしまうんだね」

 お地蔵さんたちは、みんなニコニコしている。

「地元の信仰が厚いからね、大事にされているお地蔵さんは、みんなニコニコしてるんだよ」

「そうなんだ」

「でも、うかつに目を合わせちゃいけないよ」

「え、どうして?」

「お地蔵さんが見える子なんてめったに居ないからね。うっかり話し相手になったら、三日は放してもらえない」

「そ、そうなんだ(^_^;)」

 梅雨も明けて本格的な夏に入りかけている。三日もお喋りしていたらミイラになってしまうよ💦

 

 少し行くと、狭い道を抜けて、パッと視界が開けた。

 恩地川という川が南北に走っているので、両岸の道も含めて50メートルくらいの幅で空間が広がって清々しい。

「あ、いたいた(^▽^)/」

 俊徳丸さんが手を挙げると、橋のたもとに巫女さん。

 神社以外で巫女さんを見かけるのは新鮮だ。というか、神社以外で巫女さんなんて見かけないよね。

 見かけたら、それは巫女服好きなコスプレイヤーさんだろう。アキバとかコミケにはいるかもしれない。

 でも、その巫女さんは、生まれた時から巫女さんやってますという感じで、ちょっと神々しい。

「俊徳丸さん、こちらのお子ですか?」

「はい、二丁目地蔵さんのご紹介で来ていただけました。やくも、こちら玉祖(たまおや)神社の神さま」

「は、初めまして」

「……玉祖神命(たまおやのみこと)です」

「こ、小泉やくもです」

「いろいろお話もしたいけど、あまり時間もありません。これをお願いします」

 巫女……玉祖神命さんに、ハガキくらいの大きさの紙を渡される。

 

 東窓

 

 紙には朱色で二文字が書かれているだけ。

「一件だけでいいんですか?」

 俊徳丸さんが聞く。

「うん、初めてだしね」

「分かりました、それじゃ、行きますか」

「はい」

 ペコリと一礼して橋を渡る。振り返ると、もう巫女姿の玉祖神命の姿は無かった。

 しばらく行くと四車線の道を車がビュンビュン走っている。外環状線というらしい。

 そこを渡ると、また、さっきと同じようないま(現代)と昔が混在したような道になる。

「もう、すぐだからね」

「はい」

 クネクネと道を行くと、百坪ほどの敷地の家。

 その玄関を素通りして、家の東側に周る。

 もう夕方に近いので、東側は黄昏色の陰になっている。

「この壁に、さっきの『東窓』を貼って欲しいんだ」

「え、いいんですか、人のお家に?」

「大丈夫、いまはやくもの姿も見えていないから」

 えと、そういう問題じゃないんだけど……ヒャ!?

 微かに足に触れるものがあって、見下ろすと、ネコがわたしの足を素通りしていく。

 ゲームとかで、人と人がぶつかってもすり抜けたり、手とか髪とかが体に重なったり。そういうのをポリゴン抜けというらしいんだけど、わたしはポリゴンのオブジェクトじゃないからね。

 つまり、わたしってば、空気みたいになっている(^_^;)。

 そういう問題じゃないんだけど、ちょっと気が楽になって『東窓』の紙を壁に近づける。

 ピタ

 まるで、冷蔵庫に磁石パネルを近づけたみたいに『東窓』が張り付いた。

「玄関の方に回ろう(^▽^)」

「は、はい」

 三十秒ほど待っていると、ガラリと玄関が開いて、わたしと同じくらい、ジャージ姿の女の子が飛び出してきた。

「沙也加ちゃん……」

 彼女のあとに続いてお母さんらしい女の人が出てくる。

 ちょっと、おっかなびっくりな様子。まるで、飼い猫が飛び出したのを気に掛けてるみたいに。

「ちょっと散歩してくる!」

「そ、そう(;'∀')」

「うん(^▽^)」

「気ぃつけて、いきや」

「うんうん」

 短い返事をすると、沙也加という子は、スタスタと歩いていってしまう。

 お母さんは、沙也加の後姿を角を曲がっても、心配げに見守っている。

「じゃ、今日はここで帰りますよ」

「は、はい」

「あの子はね、もう三年も引きこもっていて、それが、やっと外に出られたんだよ」

「あの、お札が?」

「あれは、やくもでなきゃ貼れなかったんだ。初めてで疲れがでるかもしれないけど、よかったら、またお願いしたいかな」

「はい、こんなことでいいなら」

 すると、目の前に自動改札が現れた。

 

 あくる日、わたしは、珍しく遅刻してしまった。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライトノベルベスト〔ささやきダイヤモンド〕

2021-07-05 06:14:35 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

ささやきダイヤモンド 

 




 走り出すバス追いかけて、僕は由紀子に伝えたかった。

 が、走り出して10秒もたってからでは間に合わなかった。それが「ささやきダイヤモンド」であることを……。

 0・5カラットほどの小さなダイヤモンドは、戦争前、医者をやっていたひいひい祖父ちゃんが今のユーゴスラビアで、女の人の病気を治してあげた時にもらったものだ。

 ひいひい祖父ちゃんは現地に骨を埋めるつもりで、現地で結婚して子供もできた。

 しかし、戦争が起こるとユーゴスラビアに居ては家族の安全が守れないので一家を上げて日本に戻ってきた。

 そして数十年が過ぎ、僕は結婚するときに母から「ささやきダイヤモンド」を譲り受けた。

 母は二十数年前、羽田から日航123便に乗るところ、その「ささやきダイヤモンド」のささやきによって一便遅らせて、命が助かった。

 お祖母ちゃんは、海外旅行に行ったとき、テルアビブの空港で「ささやきダイヤモンド」が「早く空港ビルを出て」とささやいたので、無差別銃乱射テロから免れることができた。

 ひい祖母ちゃんは、昭和20年3月の大空襲の前の晩「横浜の親類の家へ行って」とささやかれ、10万人が死んだ東京大空襲から逃れられた。

 ここまで読めば分かると思うんだけど、この「ささやきダイヤモンド」は女性にしかささやかない。

 僕は一人っ子だったので、由紀子と結婚するときにそれをもらった。当然男だから僕はダイヤモンドからささやかれたことは無い。

 そのかわり、夢があったし、夢を見るようになった。

 夢には二つの意味がある。

 一つは子供のころからの夢。子供のころから日記や文章を書くのが好きで、文章で食べられたらと夢見ていた。

 そして、結婚してから詩を書くようになった。で、ある晩、外人の女の人が夢に出てきて「その詩をコンテストに応募しなさい」と言う。で、半信半疑で応募したら、なんとグランプリを取り、その年のレコード大賞で最優秀作詞賞をもらった。

 それからはとんとん拍子だった。どちらがいいか迷った時には夢に女の人が出てきて「こっち」と言ってくれる。

 数年前には「女の子のユニットを作りなさい」と言われ、AKR47を作った。それが数年の間に大成功。僕はいっぱしの作詞家・プロデューサーになった。

 父と母は、やや不満だった。曽祖父の代から続いた言語学者の道を捨てたからである。

 しかし、成功には代償が付き物だ……と言うと自虐にすぎるかも知れない。

 仕事柄、若い女の子が絶えず周りにいる。

 週刊誌に書かれることもある。むろん根も葉もないことではある。

 しかし、由紀子には耐えられなかった。若いころは人並み以上に見場も心映えもいいやつだったけど……。

「これ、クララが美味しいから、奥さんにどうぞって」

 チームリーダーの大石クララがくれた生キャラメルを渡した。クララは、変な言い方だけど男気のある子で、後輩の面倒見もいいし、先輩やスタッフへの心配りもできるやつだ。ファンの中でも「クララは男だ!」がセールスポイントになっていた。

 だが、由紀子にとっては若い女の子の一人にすぎない。

「こんなもの!」

 そう言って生キャラメルをごみ箱にブチ込んだ。

「何か月、うちでご飯食べてないと思ってんの!?」

「それは、お互い忙しい……」

 言い終わる前にゴミ箱が飛んできた。

 由紀子は、大学時代からのサークル活動からフェミニストの評論家になり、僕に負けないほどに忙しかった。僕は、この互いに独立した生活を肯定していると思っていた。しかし由紀子は額面通りのフェミニストではなかった。

 気づくのが遅かった。

 数日後、由紀子は「ささやきダイヤモンド」を送り返してきた。

――ブツブツ声が聞こえて気味が悪い――と、添え書きがあった。

 数週間後、由紀子はK国のテレビ番組に出る途中暴漢に襲われて半身不随になった。

 僕は思い出した。

 あの「ささやきダイヤモンド」はユーゴスラビアの言葉でささやく。由紀子はユーゴの言葉は分からない。

 僕は「ささやきダイヤモンド」をしまい込んで忘れてしまった。

 その後いろいろあって、紆余曲折の末、二年後に僕たちは復縁した。

 女の人のお告げでも、ダイヤモンドのささやきでもなく、やっと自分たちの意思で……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

コッペリア・44『栞と颯太のゴールデンウィーク➄』

2021-07-05 05:44:20 | 小説6

・44

『栞のゴールデンウィーク⑤』  

 

 



 連休と言っても学校は暦通りだ。


 世間のあらかたも暦通りで、特に高校生である栞一人がブツブツ文句を言う筋合いのものでもない。

 でも、セラさんのお勧めでこの日曜から関西旅行ができると分かってからは、この連休の狭間の二日間が疎ましい。

 商店街を抜けて駅前まで行くと、駅横の踏切に人だかりがしていた。人だかりの文句を拾い集めると、どこかの駅で信号機が故障してダイヤが乱れているらしい。

 駅のすぐ横は跨道橋になっているので、そこを通れば向こう側に行けるんだけど、信号機の故障という半端なトラブルなので、すぐに回復するだろうと待ってしまう。

――ああ、分かるなあ、その気持ち――

 そう思った栞だが、ホームに立つと、踏切を待っている人たちが、ひどくバカに見えてくる。さっさと跨道橋渡ればいいのに……と真逆のことを思ってしまう。

 学校に着くと、小さな異変があった。


 教室の窓から三列目の三番目の机の上に花瓶に活けられた花があったのである。

 それだけで分かった。

 だれか亡くなったんだ……。

 でも、先日クラス替えをやったばかりなので、そこに座っていたのが誰なのか思い出せない。教卓の座席表を見に行く。

 井上と赤い字で座席表には書かれていた。でも赤だから女子だという以外何も分からない。全く印象には残っていないのだ。

 やがて、クラスのみんながやってきたが、少し気にする者、無関心な者、目を赤くする者、反応は様々だった。

 担任のミッチャンが入ってきて、こわばった顔で言った。

「夕べ、井上瑞穂さんが亡くなりました。詳しい話は、今から全校集会で校長先生がご説明になります。すぐに体育館に集合」

 体育館に集まった生徒たちは、思ったほどには動揺していない。直接の友だちだったんだろう、数名が体育館の隅で泣いている。

「二年A組の井上瑞穂さんが亡くなりました。亡くなった理由は自殺です。詳しい動機はまだ分かっていませんが……」

「同機は、無理なクラス替えにあったんでしょう。違いますか、先生!」

 青木美奈穂が、よく通る声が響く。

 瞬間静まり返ったが、美奈穂の発言は無視されて、校長のお定まりの「命の大切さ」という空疎な話で全校集会は終わった。人一人亡くなったのに、この無関心さ、形式だけの黙とうはなんだ……。

 教室に帰ると、ミッチャンが、お通夜と葬儀の場所と時間を教えてくれた。そして、授業は平常通り……そこまでいった時に、教室のスピーカーが短いメッセージを伝えた。

――先生方は、ただちに視聴覚教室にお集まりください――

 ミッチャンは、ため息一つして教室を出て行った。青木穂乃果の想念が飛び込んできた。

――このまま終わらせてたまるか。とことん追い詰めてやる!――

 穂乃果が、お父さんに連絡し、都議会の文教委員が査察にくることが分かった。穂乃果のお父さんは都議会議員だ。

 結局、授業は打ち切りになり、夜に再びの緊急保護者会が開かれることになった。

「これが、井上さんの絵だよ」

 颯太は、アパートに帰ると、例の水平線と木の絵を見せてくれた。

「あ、模範的な絵じゃない」

「一見な……オレも気づかなかった。瑞穂くんは絵の意味を感づいていて、模範的な絵を描いたんだ。これは仮面うつ病の絵だ」

 意味は分かった。描きすぎているのである。一見上手い絵にみえるが、自分の中には無い世界を描いている。だから意味はまるで逆になる。

 その夜、お通夜に行った。

 泣き腫らして涙も枯れたご両親。中学生らしい弟がじっとうつむいている。

 遺影の写真を見ても「そう言えば、こんな子がいたな」という程度の記憶だった。それよりも遺影の横のドールが気になった。

 1/3スケールのドールで、本人が大切にしていたのだろう、強い想念を感じた。

 ドールは、春物の衣装を着ていたが、気に入らない様子だった。クラス替えと同時に着替えさせたようだ。

 これを感じられたのは、元ドールの栞だからかもしれない。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする