大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・054『児玉元帥の決意』

2021-07-06 09:53:25 | 小説4

・054

『児玉元帥の決意』 児玉元帥   

 

 

 ミイラの発見は伏せておくべきだった。

 

 発見されたということは、発見した者がいるわけで、いくら情報を操作しても、いつかは知れる。

 だが、戦時であったとはいえ、同胞が無残な目に遭った事実を隠す気にはなれない。

 マーク船長とも意見が一致し、マーク船長と繋がりのあるキャラバンが発見したことにしてある。

 嗅ぎつけた天狗党が、マス漢大使館の初代マス漢大統領像の首を吹き飛ばして、ここ三日ほどは火星中の空気が張り詰めている。

 

「承知しました」

 

 拭いた眼鏡をかけ直すと、静かに殿下はおっしゃった。

「軍事も政治も分かりませんが、人の心は少し分かります。元帥は、こんどは地球だとお考えなんですね」

「はい、合理的な情報に基づいているわけではありませんが、予感がいたします」

「奉天会戦の時のようにですね」

「いささか」

「奉天会戦では、見事に漢明を撃破されましたが、元帥も一度戦死されました。どうかお気をつけてください」

「はい、この次はありませんから」

「そうですね」

 奉天戦では、開戦間もなく致命傷を負って、一か八かでJQにソウルダウンロードをさせた。

 ソウルダウンロードはPI(パーフェクトインストール)とも云われる通り、人間の魂(ソウル)をロボットに移植することだ。

 普通、ロボットは、人間の情報としての記憶とスキルをコピーすることで人に化ける。

 本人ソックリには成れるが、単なるコピーだ。コピーしたスキルや能力以上のことはできない。コピーであるがゆえに、その思考や行動は予測可能で、勝つことを命題づけられた軍人には完全に不向きだ。

 霊的にも魂(ソウル)を遷せなければ、元の人格は死んだことになる。

 わたしが、元の児玉とは似ても似つかないJQのボディーとなっても元帥として遇されるのは、いつにかかってPIが成功したという一点によっている。

 その、わたしのソウルが――今度は地球だ――と告げている。

 

「やっぱりお戻りですか?」

 

 船長が来るかと思ったが、ラウンジに姿を現わしたのはコスモスだ。

「すまん、奉天戦の時のような予感がするんでなあ」

「統制派に担がれたりはしませんか?」

「怖れはある、しかし、わたしが戻れば、なんとか日本を分裂させずには済むかもしれない」

「今上陛下をお守りになるんですね」

「当然だ。女系天皇に反対していたとはいえ、それが、いまの政体であり国体なんだ。断固として守るさ。そのために殿下も火星にこられたんだからな」

「……承知しました。ファルコンZを出すわけにはいきませんが、船長のツテがあります。今夜、ニューラスベガスから出発いたします」

「連合国からか?」

「はい、扶桑からでは足がつく恐れがあります」

「分かった」

「船長の命令で、わたしも同行しますので」

「コスモスが?」

「はい、必要なものは出発までには揃えておきます。では……」

 ラウンジを出ていくコスモスに悪い予感がするが口にはしない。

 フフ

「なにか?」

「もうしわけない、僕は、ちょっとワクワクしてきた」

 殿下がお笑いになる。

 このお方なら大丈夫。

 偉そうに予感などと言っておきながら、一番緊張していたのは、このわたしだったのかもしれない。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
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ライトノベルベスト『きれいになりたいですか?』

2021-07-06 06:18:18 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『きれいになりたいですか?』 




 急に聞かれたんで混乱しました……では言い訳にならない。

 だって、1×1=2と答えてしまったんだから。

 これは先生と、みんなの陰謀だった。

 オレは、数学が大嫌いなところへもってきて、5時間目だった。当然眠くなる。いや爆睡してしまった。

「真田君……真田君てば!」

 このクラス一番の美人の容子ちゃんが声をかけてくれなかったら、オレは数学の吉田先生に叩き起こされるまで眠っていただろう。

 で、吉田先生に聞かれた。

「真田、1×1はいくらだ?」

 いくら数学が苦手なオレでも分かる。

「い、1です」

 すると、みんなが笑い始めた。

「1だってよ、アハハハ」「真田ヒトケタの掛け算もできねえ!」「マジ1だと思ってんの?」

 などなど、笑い声と共に一分近く教室は湧いた。

「もう一回聞くぞ。1×1は、い・く・ら・だ!?」

「え、ええ……2」

「そうだ、2だ。やれば出来るんじゃないか真田!」

「は、はい!」

 オレは嬉しそうに笑った。みんなも笑った……オレ以上に。

「真田、世間の怖さが分かったか!?」

「え、ええ……!?」

 オレは混乱した。

「1×1は1だ! このごく当たり前のことでも、世間が否定したり、笑ったりすると2だと信じてしまう」

 担がれたのだ。あまりのネボスケなために、吉田先生とクラスのみんなが示し合わせて、ぼくが正解の「1」を言ったら、思い切り笑ってバカにしてやる。

 で、純情なオレは、まんまと引っかかったわけ。

 これからが本題。

 放課後、掃除当番が終わって昇降口にいくと、容子ちゃんに呼び止められた。

「ちょっと、話があるの。付き合ってくれる?」

 容子ちゃんに声を掛けられるなんて始めてだった。顔を赤くして頷いた。

 容子ちゃんは、学校の裏手の竹林、その奥の祠(ほこら)までオレを連れて行った。

 よっぽど秘密の話なんだなと思った。

 階(きざはし)って、祠の階段みたいなところに座った。容子ちゃんの良い香りが間近でしてドキドキした。

「自分で言うのもなんだけど、わたしが二か月前まではおブスだったって言ったら信じる?」

「え……?」

 1×1=2以上に驚いた。

 容子ちゃんの話は、こうだ。

 新学年が始まって、一週間もたたないころ、渋谷で、テレビのロケ隊に声を掛けられたそうだ。

「あなた、自分のこと、カワイイとか、美人だとか思いますか?」

 レポーターのオネエサンに聞かれ。カメラが寄ってきた。

「いいえ……」

 容子ちゃんは、恥ずかしそうに、そう答えた。

「じゃ、可愛くなりたいと思います?」

「あ、は、はい……」

「じゃ、ちょっとロケバスまで来てもらえます?」

 渋谷のど真ん中、側には交番、ちゃんとしたロケ隊。それらに信用させられ、ロケバスに入った。

 なんと、ロケバスの中にはAKR48の堀部亜紀がいた! 心なし疲れているようだった。

「容子ちゃんを可愛くしてあげる」

「あ、ありがとうございます!」

 名前も教えていないのに知っていることさえ不思議には思わなかった。

「じゃ、おまじない。男の人は外に出ていて」

 ロケバスの中は、容子ちゃんの他、堀部亜紀とレポーターのオネエサンとADの女の子だけになった。

「ちょっと背中見せてくれる?」

 返事も待たずに、腕を掴まれシャツとキャミがまくられ背中が顕わになり、ブラのホックも外された。

「心配しないで、あっと言う間だから」

 そういうと亜紀さんは首筋からお尻の上あたりまで軽く爪でなぞった。そして天津甘栗を剥くように左右から押すと、パキって音がして、背中が涼しくなった。そして、ものすごく器用に容子ちゃんは皮を剥かれてしまった。

 気づくと目の前に服を着た自分の抜け殻がフニャフニャになって転がっている。

「ほら、これが、新しいあなたよ」

 ADのオネエサンが鏡を見せてくれた。顔かたちが、すっかりきれい、かつ可愛くなっていた。

「さ、はやく抜け殻の服を着て」

 あとには、空気が抜けたゴム人形のような、かつての自分の抜け殻が裸で転がっていた。

「いいこと、今の新しい皮は二か月しかもたないの。もう一度脱皮しなくちゃいけない。それも、このことを信じてくれる若い男の人に……」

「それから、そのまま帰っちゃ、みんながビックリするから、スマホで『容子は変わりました』って、シャメつけて、一斉送信して。その人たちは最初から信じてくれる。他の人は、すぐに、その人たちにならされるわ」

 で、ロケバスの外でシャメって、みんなに送った。

「じゃ、またご縁があったら」

 堀部亜紀は元気な声で言った。チラ見したバスの中には、容子ちゃんの抜け殻は無かった。

「信じた?」

「う、うん」

 容子ちゃんの真剣な眼差しに、オレは頷いた。

「じゃ、これから脱皮するから手伝って。わたし祠の中で準備するから、声かけたら入ってきて」

 そういうと、容子ちゃんは祠の中に入った。衣擦れの音がせわしなくして、一分もしないうちに声がかかった。

 ぼくは息を呑んだ。すっかり裸になった容子ちゃんが体育座りして白い背中を見せていた。傍らには乱暴に脱ぎ捨てた制服。

「話したように、背中に爪を立てて、優しくね……」

 ぼくは、右の人差し指で、そっと首筋から、お尻の上あたりまで爪でなぞった。ほの赤い筋が走った。

 プチっと音がして、容子ちゃんの背中が割れた。

「見ないで!」

 ぼくは、慌てて体の向きを変えた。そこには脱ぎ捨てた制服。下着がはみ出していたりして、それはそれで目の毒だった。

「もういいわ、外の方見てて」

 身繕いする気配「いいよ」と言われて、見上げた容子ちゃんは、前にも増してきれいだった。そしてリュックに詰めた抜け殻が少し覗いていたのを、何気なく詰めた。

「その抜け殻は、どうするの?」

「亜紀さんに送るの、そういう条件だから。それから、このことは内緒。喋っても良いけど、1×1=2みたいな話だから、だれも信じないけどね。じゃ、ご協力ありがとうございました」
 
 容子ちゃんはペコンと頭を下げると、階を駆け下り、スキップしながら竹林を抜けていった……。

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コッペリア・45『栞と颯太のゴールデンウィーク⑥』

2021-07-06 05:48:15 | 小説6

・45

『栞のゴールデンウィーク⑥』  

 

 

 生徒一人が自殺しても、学校はいつものように授業をやっている。なにか理不尽だ。

 わずかにイレギュラーなことはある。

 四時間目、栞のA組は授業を中止して瑞穂の葬儀に参列する。校長、教頭などの管理職、生徒会やPTAの代表も。他のクラスでも瑞穂と交友関係があった元の……と言っても数日前までのほんの半月足らずのクラスと、一年生のときのクラスメートに限られる。

 部活などで一緒だった仲間も参加できるが、瑞穂が入っていた演劇部は、三月に三年が卒業してしまい、部員は瑞穂一人で、事実上壊滅していた。

 朝からスクールカウンセラーが三人来ていた。

「相談のある人は、授業抜けても公欠扱い。カウンセラーは相談室へ、希望者は言ってね」

 一時間目の途中、担任のミッチャンが入ってきて散文的に言った。

――だれも相談に来ない――

 当惑しているミッチャンの気持ちが伝わってきた。

「あたし、行きます」

 栞は手を挙げて、教室のドアに向かった。背中にみんなの奇異な眼差しを感じる。

 そりゃあ、そうだろう。栞は瑞穂とは特別な交友関係もなかった。でも、栞は、行かなければと決心していた。美奈穂は手を挙げなかった。多分「政治的に無意味」と感じたんだろう。

「あたしが、最初なんですね」

 そう切り出すと、カウンセラーのオバサンは職業的な笑みを浮かべた。

「なかなか改まっては、来にくいでしょうからね」

「……ええ」

「で、あなたは瑞穂さんとは、どういう関係だったのかな?」

「ただのクラスメートです。この四月に転校してきたばかりで、瑞穂さんとは面識もありませんし、話しをしたこともありません」

 カウンセラーのオバサンは、微かに意外な顔をしながら、ボールペンを走らせた。

「転校したてで、こんなことに出くわしたら、ちょっと堪えるわよね」

「いいえ、学校って、こんなもんです。システムとマニュアルで動いて、カウンセラーの先生もここにいらっしゃるんです。でしょ?」

「ええ、そう言う面もあるわね。でも100%の弔意や混乱なんて、そうそうは無いわ。でも、みんな心にいくらかのわだかまりを持っている。あなたもそうじゃないかしら」

「混同しないでください。新学年早々クラス替えを平気でやる学校はおかしいと思うんですけど、瑞穂さんには特別な感情は湧いてこないんです。ただ、だれも相談に来ないんじゃ、先生方困りますから。お葬式の時間まで居させてください。スマホいいですか?」

 そうことわってから、美奈穂にメールを打った……。

 さすがに、葬儀会館に着くと涙ぐむ子が出てきた。

 でも、栞は、ただムードに酔っているだけにしか感じられなかった。

「火葬場まで、どうかいっしょに行ってやってください」

 仮位牌を持ちながらお母さんが頭を下げた。中坊の弟も遺影を胸に、ぎこちなく頭を下げた。

 誰も送迎バスに寄ろうとはしなかった。

 火葬場に行くのは、親族だけという常識に縛られているのと、そこまで付き合いたくないという気持ちの表れだ。

 瑞穂の家は母子家庭で、親類づきあいも少ないのだろうか、送迎バスは半分も埋まっていなかった。

「あたし、行きます」

 みんなが意外な顔をした。これでは、あまりにも可哀そうだと、栞は衝動的に手を挙げた。

「あんたたちも」

 美奈穂と、水分咲月も目で促した。

 火葬場は、無機質と言っていいほど近代的で清潔だった。

 十幾つの窯が整然と並び、なにか近代的な工場の見学に来ているようだった。

 でも、最後のお別れに棺の小さな窓が開けられた時、瑞穂は、その死に顔で居並ぶ人たちを支配した。

 瑞穂の十七年に満たない人生で、こんなに人の注目を浴びたのは初めてだろう。

 顔の横に置かれた演劇部の台本が、まるで瑞穂の短い一生を書いた記録簿のように見えた。

 窓が閉められた時、一瞬引きつったかと思うと、母親の目から大粒の涙が一筋流れ落ちた。

 母親の、たっての頼みで骨上げにも付き合うことになった。

 二時間後の骨上げは、さらにショックだった。

 瑞穂の骨は子供のそれのように縮んで、形も定かではなかった。

 右の眼窩から鼻、上あごの一部が比較的きれいに残っている。でも、それから瑞穂の顔が類推できるようなものではない。

 あ

 右の八重歯に見覚えがある。

 教室の窓の外に小鳥がやってきて、その気配に驚いてびっくりしてた。

 栞と窓の間に一列置いて瑞穂がいて、その時、覗いた八重歯を可愛いと思ったんだ。

 でも、憶えているのは八重歯だけで、全体像としての瑞穂の印象は浮かび上がっては来ない。

 

「……人間、あんな風になっちゃうんだね」

 ポリティックなものの見方しかしない美奈穂がしみじみと言った。

「不思議だね、こんな風に生きてるのが……」

 咲月の言葉は、咲月自身、瑞穂のそれと変わらないところまで追い詰められていたので、重みがあった。

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