大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 22『俺の妹がこんなに可愛いわけがない!』

2021-08-01 16:44:27 | ノベル2

ら 信長転生記

22『俺の妹がこんなに可愛いわけがない!』  

 

 

 男になんかならない。

 

 話を聞こうと腰を据えた時、妹の影はベンチの下に蟠って(わだかまって)いたが、今は後ろの植え込みの中ほどまでに伸びている。

 俺は、人が無言でいることを許せない。

 心にもないことを言う奴はもっと許せない。ごまかしとか美辞麗句とか社交辞令とか、紙くずみたいなことを言う奴な。

 佐久間信盛、明智光秀、将軍にしてやった足利義昭とかな。

 下郎なら、とっとと切り捨てている。

 だが、市は特別だ。

 こっちに来てからは憎まれ口ばかりだが、苦労かけた妹だから仕方がない。

 その妹が、やっと口にしたのが、この言葉だ。

 

「男になんかならない」

 

「分かってる、だから転生学園の方に行ったんだろが」

「分かってないよ、あたしはね、女のまんま力を付けて、来世でも市って女に生まれ変わるんだ」

「女大名にでもなるのか」

「んな、メンドクサイものにはならない」

「普通の女の子ってやつか?」

「アハハハハ」

「どうした?」

「信長の妹が普通の女の子やれるわけないじゃん」

「どうしたい?」

「生まれ変わっても、浅井長政と結婚する」

「え、そうなのか?」

 ちょっと意外だ。市の不幸は長政に嫁いだことに始まっている。

 長政は美濃から京に向かう真ん中に居る。天下を狙うためには、その京への道の安全を計らなければならず、長政の浅井家を懐柔しておくことは必須なのだ。

 だから、長政に嫁がせたのは100%の政略結婚だ。

 来世で嫁ぐなら、浅井だけは勘弁してほしいはずだろう。

「あんた、ぜんぜん分かってないよ。あたしを政略結婚の犠牲者としか思ってないでしょ」

「ちがうか?」

「男女の仲なんて、きっかけはどうでもいい。結果よ結果」

 結果は、不幸な離婚だったろうが? 何が言いたい?

「……いいよ、言葉にしたら、なんか卑しくなりそう」

「卑しくなってもいい、俺に話せ」

「ほんとにいいよ。あんたが、こんなに話聞いてくれたの初めてだし。こうやってさ、兄妹で人生相談的に向き合ってくれただけで、今日はいいよ。信長にしては上出来」

「であるか」

「あんた、前世じゃ、こういう煮え切らない言い方したら切れてたよね。佐久間のジイとか光秀とかは、それでしくじったんだもんね……ね、日が傾いて、ちょっと涼しすぎ……」

「家に帰るか?」

「ね、なにか暖かいドリンク買ってきてよ、飲みながら一番星出るの待ってようよ」

「お、おう」

 なんだ、このシミジミ感は……そう思いながらベンチを立つ。

「シャンプー変えた?」

「いや、風呂にある、おまえと同じやつだぞ」

「そ、そう?」

 そう言うと、妹は後れ毛を鼻の下に持ってきて匂いを嗅ぐ。

「ちょっと、あんたの嗅がせて」

「よ、よせ(#'∀'#)」

 クンカクンカ

 なんの遠慮も警戒もなく俺の髪を嗅ぐ……う、なんだ、この可愛さは、は、反則だろ!

 お、俺の妹がこんなに可愛いわけがない!

「これ……お姉ちゃんの匂いだ!」

「あ、ああ?」

「そうだよ、女になって転生してきたから、前世みたく汗臭くないんだ……うん、間近で見ると、女のわたしが見ても、ゾクッとするような美人なんだ、ね、もっと顔見せて!」

「よ、よせ!」

「アハハ、なんだか嬉しくなってきた(^^♪」

「よ、よせ、紅茶でいいな、紅茶で!?」

「うん、あんたと同じのでいい」

「ま、待ってろ」

 アタフタと公園入口の自販機に向かう。

 ゴトンゴトンと出てきたペットボトルを掴み上げ、ベンチの妹を振り返る。

 なんだ?

 

 妹は、同じ制服を着た外人ぽい少女に詰め寄られている。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田(こだ)      茶華道部の眼鏡っこ

 

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銀河太平記・058『孫大人と乾杯』

2021-08-01 09:42:45 | 小説4

・058

『孫大人と乾杯』 児玉元帥   

 

 

 JRと言います……

 

 胡旋舞に似た激しいダンスパフォーマンスが終わって、満場の拍手になると、孫大人が呟いた。

「プ、JRですか(^0^;)!?」

 ほとんどふき出しかけながらコスモスが驚く。

 ダンサーの名前だとは分かるが、NT(日本鉄道)の昔のイニシャル、JRがNTに変わった経緯までは触れないが『時代遅れ』の隠語であると言えば、その名前がふざけていることが分かる。

「シリアルの頭文字なだけなんですが、わたしも本人も気に入っておりますよ(^▽^)」

 わたしには分かる。

 あのダンサーはレベルマックスのロボットだ。それも、わたしのボディーと同じ敷島教授の作品。

 名称からも類推できるが、おそらくはJQの後継機。おそらくPI(パーフェクトインストール)の能力がある。PIされているとすれば、本質的には、もうロボットとは呼べないだろうが。

「でも、演舞集団と名乗っておられるんですから、他にもメンバーはいるんですよね?」

 コスモスがカクテルを傾けながら聞く。

「JRにばかり金と手間がかかりましてね、まだ、みなさんにお見せできるほどのものではないんで、裏をやってもらってます」

「うら?」

「照明とか音響?」

「それもですが、満州の平原とか双鉄(レール)、それにアジア号とか、ステージのパフォーマンスに関わる全てです」

「ホログラムエンジニアでしょうか?」

「これをご覧ください」

 孫大人が指をワイプさせてインタフェイスを出す。画面にはシアター内の空気組成を現すグラフが出ている。

「ん……?」

 百を超える組成がリアルタイムで表示される。

 酸素 窒素 二酸化炭素 アルコール……宇宙船のシアターなら当然含まれるであろう組成が続く。

 鉄分……セルロース……え?

 あっても不思議ではないが、常識では考えられない分子がけっこうな量で混ざっている。

 これは、鉄路の敷かれた満州の大気組成そのものだ。ホログラムというのはリアルではあるが、単なる視覚情報を操作しているだけで、空気の組成までは変えられない。

 つまり、あの草原やレール、アジア号は実在していたということになる。

「いやはや、まだまだオモチャのレベルですがね、完成すれば、すごいエンターテイメントになると思うんですよ」

 いや、もうエンタメのレベルではないだろう。

「大人が神戸でおやりになろうと思っていらっしゃるのは、どのような?」

 コスモスが目を輝かせる。

「いや、ほとんど趣味のレベルですよ。神戸や宝塚のグッズを扱ってみようかと思っています。宝塚のファンは火星でも根強いですからね」

「それなら、うちの商売もイッチョカミさせていただけるかも。ねえ、お姉ちゃん?」

「そうね、うちも大阪のグッズを掘り起こしてみようかしら」

「では、これからもよろしくということで」

「乾杯しましょうか、お姉ちゃん(^▽^)」

「ええ……あら、フェイクビールですか?」

「アハハ、バレましたか、すっかりアルコールが弱くなって、まあ、歳なんで勘弁してください」

「ええ、もちろん」

「じゃ」

「「「かんぱーい!」」」

 控え目にグラスを合わせる。

 乾杯のあと、互いにレベル2の情報交換。ま、昔の名刺交換のようなもの。

 越萌マイがわたし、越萌メイがコスモスという名乗りである。

 擬態とはいえ、わがシマイルカンパニーの程よい門出になった。

 JRが同席するかと思ったが、まあ、大きいとはいえ宇宙船、会う機会もあるだろう。

 

 それから月を経由して地球に着くまでは平穏な旅だったが、JRに会うことは無かった。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

 

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ライトノベルベスト[サンドイッチの妖精・2]

2021-08-01 06:37:59 | ライトノベルベスト

 

イトノベルベスト

〔サンドイッチの妖精・2〕  




「ア……えと……みなさん驚かせてごめんなさい。美耶の妹の麻耶です。姉の都合が悪くなって来られなくなったので、代わりに来ました」
 
 皆の驚きが大きかったので、麻耶はサッサと正体をばらして、着替えに行った。

「そうだ、美耶には歳の離れた妹さんがいたんだ……!」

 美穂が驚いた表情のままため息をついた。

「お待たせしました、改めまして、白羽美耶の妹の麻耶です。皆さんの驚きの瞬間は撮らせていただきました。帰ったら姉に見せます」

 なるほど、自分の服に着替えた麻耶は、どこから見ても大人だが、二十歳過ぎでも通りそうなくらい若かった。

「白羽ってことは、まだ独身なんだ」
「ええ、キンタローさんとあまり変わらない歳なんですけどね」

 放送局で鍛えた人当たりの良さで、麻耶を帰りの車に乗せた。むろん放送局へ戻らなくてもいように、携帯がかかったふりをしておいた。その辺はアナウンス部を外された今でも如才ない。

「お姉さんは元気なの?」

 話の接ぎ穂程度のつもりで聞いた。ところが、そのとたんに麻耶の元気が無くなった。

「……美耶、具合でも悪いのかい?」

「実は……先月亡くなったんです。交通事故で……今日の同窓会は楽しみにしていたんです」

「え…………そうだったのか……お線香の一本もあげさせてもらってもいいかな」
「ええ、姉もきっと喜びます!」

 途中で花を買って白羽姉妹の家へと向かった。

「ああ……お店をやってたのか」

 姉妹の家は、駅前通り一本奥の裏道に有った。

 一等地とは言えなかったが、同じ通りに何軒か店があるところをみると、そこそこの立地条件のようだ。

「いい場所を選んだんだね」
「もともとここが家だったんです。父が残してくれたお金で改装したんです。お客さんも付いて、これからって時だったんですけどね」

 元アナウンサーの癖で、つい家の中を見渡してしまう。

「厨房が喫茶店にしては……パン焼き窯まである」
「パンも焼いてたんです。喫茶店みたいですけど、サンドイッチの専門店なんです。長いこと帝都ホテルで修行して、去年やっとお店を出して……わたしが跡を継げればいいんですけど……」

 なにか、そうできない事情がありそうだったが、立ち入ったことだ、麻耶が切り出さない限り聞かない方がいいだろう。

 美耶の思い出話をしているうちに気づいた。いつの間にかアルコールが入っている。同窓会では最初の乾杯以外アルコールは手にしなかったが、これでは車に乗れない。

「ごめんなさい、車で来てらっしゃるのすっかり忘れて、うかつに出してしまいました」

「君が悪いんじゃない。つい雰囲気で飲んじまった僕がわるいんだ」

 そう言いながらも、途方に暮れるオレだった……。

       ……つづく 

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ホリーウォー・22[ミッションパラサイト・1]

2021-08-01 06:27:56 | カントリーロード
リーォー・22
[ミッションパラサイト・1] 



 
「お腹は空いてないか?」

 春麗と雪麗の父は、大胆にも天安門広場にさしかかった車の中で言った。

 むろん暗号化した会話になっている。実際は「オレのこと分かったかい?」になる。以下ややこしいので、解読された会話表記にする。
 
 雪麗に擬態したキミは、学校に迎えに来た『父』を見て万事窮すだと思った。
 
『父』の呉潤沢は漢民主国情報部の腕利きで、要注意人物とPCにインプットされていた。何度かテレポしようとしたが、テレポ無効化のパルスを発せられるので、チャンスを逸したまま北京のど真ん中まで来てしまったのである。
 
「ヒナタのおかげで、なんとか復元できたぜ」
「え……ひょっとして……スグル!?」
「ああ、ヒナタがオレに関する記録や記憶を集めてくれたんで(第三回~第九回)なんとか九部通り復活できた」
「でも、その潤沢のなりは?」
「本物は日本で捕まっている。ユーリーは自己破壊したが、CPにメモリーの断片が残っていてな、それを三割がた復元したら、この潤沢のオッサンの情報が出てきて、博多ゲルで捕まえた。で、オレが潤沢に擬態して逆潜入したってわけ。本物の春麗と雪嶺も日本に呼び出して身柄を確保してある」
 
「うそ!」
 
「かわいそう」
 
 かわいそうと言ったのは雪嶺のキミである。かわいそうは言葉だけで、中身は「うまくやったわね!」になる。

 雪嶺も春麗も父は貿易商だと思っている。だから博多での身柄確保も外為法違反ということで、娘たちには真実を伝えていない。日本政府のやり方は、優しいとも狡猾とも言えた。とにかく、ヒナタとキミの危機に間に合ったのだから、スグルは大したガードと言えた。

「ただし勝負は、この一か月だ。キミがうまくテレポしてくれたんで、ヒナタの行方は分からない。つまり、中国大陸のどこに世界最強の自律型核融合兵器がいるか分からない。カードはこっちにあるというわけだ。この一か月、大陸のあちこちでヒナタのパルスを発信する。わざとらしくなく、圧縮したり偽装したりしながらな。でも、シンラも習もバカじゃない、一か月もすれば感づくだろう。それまで、やれるだけのことをやろう。まずは天安門広場で記念撮影でもしようか」

 三人は車を降りた。巡邏の武装警察も、仲のいい親子連れとしか思っていない。

「故宮の地下には、大陸最大のCICが作られつつある。大陸を統合したときの総司令部にするつもりだ。そう分からないように、わざと警備は緩くしてある。しかし、忍ぶれど色に出にけり……人の出入りや、監視カメラ、センサーの数や位置で、ある程度の……」
 
 スグルの潤沢が写メのアングルを決めている間に、異常なオーラを感じた。
 
 天安門広場前にさしかかった車が一台制御不能に陥っている。運転手はパニック寸前だ。
 
「あ、あの車!」
 
 一台のワンボックスカーが、急に方向を変えて、天安門の正面に向かい始めた。運転手は必死でハンドルを逆に戻し、ブレーキを踏もうとしているが、コントロールがまるで効かない。

「二人とも、ここを動くんじゃないぞ!」

 そう言うと、スグルは猛ダッシュで車に向かって駆け出した……。
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