大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 23『女狙撃手パヴリィチェンコ』

2021-08-05 13:45:03 | ノベル2

ら 信長転生記

23『女狙撃手パヴリィチェンコ』  

 

 

 おい、何をしている!?

 

 振り返ったそいつは、一瞬戸惑ったような目をした。

 理由は分かっている。

 距離感が狂ってしまったんだ。

 俺の声は甲高い。普段は意識しないし、周囲の者も慣れているので戸惑いを見せる者はいない。

 気が高ぶった時や非常のときは、俺の声は、いっそう甲高く大きく聞こえてしまうので、実際の距離よりも近く感じてしまうのだ。

「上総介殿の声が間近に聞こえて、振り返ると意外に遠くにおわして驚きました」

 桶狭間の後で、久々に会った家康も言っておったな。

 杉谷善住坊以外にも何度か狙撃されたが、一発も当たらなかったのは、この声が距離感を誤らせたからかもしれない。

 

 そいつは、プラチナブロンドの髪に、抜けるように白い肌をしている。

 南蛮人とは違った人種なのか?

 整った顔をしているのだが、猛禽類のように鋭い目が美少女という属性を凌駕して、並の人間なら肝をつぶしてしまうほどの迫力を発散させている。。

「妹に、なにか用か?」

「あなたは?」

「こいつの、あ……姉の信長だ」

 兄と言いかけて姉に直す、まだ順応しきれていないようだ。

「あなたが……」

「おまえは?」

「転生学園二年のリュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコです。わたしの銃を返してもらいにきました」

「おまえの銃?」

「はい、転生世界では実銃の所持を禁止されています。持ち込んだものはエアガンに変換されて、これが唯一残された自分の銃なのです」

「リュドミラ・ミ……イテ!」

 名前を言い損ねて市が舌を噛む。

「リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコだ」

「ああ、二年に転生した女性スナイパーがいるって……あんたのことだったの?」

「ああ」

「持っていたのは、カラミティー・ジェーンだったよ」

「あいつはガンマン捨てたから、銃は持ち込んでなかった。そのくせ、時どき無性に撃ちたくなって、わたしのを持っていくんだ」

「そうだったの、悪かったわね。ほら、返すわ」

「スパシーボ」

「あんた、ソ連のスナイパーよね?」

「あ、まあ……」

 目線を落とした……ちょっと興味が出て来たぞ。

「わけありのようだな?」

「わけなんかありません、ソ連と言う国は、もう存在しませんから」

「あ……ロシアだったか?」

「ロシアでもありません、ウクライナです。でも、次に転生するのはソ連です」

「ややこしい」

「自分は、ソ連軍の狙撃手として309人を仕留めました」

「たった一人で309人か!?」

「それって、ほとんど世界記録じゃないの!」

「目標は3000でした。今度転生したら3000人のドイツ兵を撃ち殺します」

「「サンゼン!?」」

「はい」

「……であるか」

「はい、では、失礼します」

「一つ聞きたい」

「なんでしょう?」

「俺のことを知っているようだったが」

「はい、長篠の合戦で鉄砲の威力を証明されました」

「ああ、あれか」

「評判でした。自分は、その対極から鉄砲の記録に迫ります。では……」

「励め」

 後姿のまま一礼すると、パヴリィチェンコは夕闇迫る街に消えて行った。

 今夜はフグ鍋にしよう。

 フグはてっぽうとも言うからな……。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田(こだ)      茶華道部の眼鏡っこ
  •  パヴリィチェンコ    転生学園の狙撃手

 

 

 

 

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やさかい・223『アブラムシとサイクルコンピューター』

2021-08-05 08:38:05 | ノベル

・223

『アブラムシとサイクルコンピューター』さくら      

 

 

 キャーーアブラムシイイイイイ!

 

 詩(ことは)ちゃんの悲鳴に、うちは殺虫剤を手に颯爽と廊下に飛び出す!

 ブシューー!! ブシューー!! ブシューー!!

 三回、殺虫スプレーを噴射する!

 アブラムシは、その場で息の根を停めんと、ジタバタ暴れまわってとんでもないとこに逃げてしまう。

 タンスやら本箱の裏とかじゅうたんの下とか、やっつけても回収でけへんとこに逃げよるさかいに、その場で殺す!

 長年の経験から、一回一秒、それを三回やったら、たいてい身動きできんようになってひっくり返る。

 ひっくり返ったお腹に、止めの一発!

 ブシューー!!

 それから、トイレットペーパーでくるんで(アブラムシ退治用に、あちこちの部屋にトイレッとペパーが置いてある。そのまま流せるよってにね)トイレに直行して、ただちに水葬!

 で、このアブラムシは、あっけなく成仏しとおる。

 うちの必殺技にも磨きがかかったか!?

「……これ、柿の種だよ」

 留美ちゃんが冷静に事実を伝える。

「「え?」」

 たしかに、そいつには手足が無い。

「だれやのん、こんなとこに柿の種落としてヽ(#`Д´#)ノ」

 詩ちゃんが大阪弁で激おこぷんぷん丸!

 ふだん標準語の詩ちゃんが、大阪弁になるのは、ほんまにキレてる証拠。

「なんやのん、いったい?」

 おばちゃんがエプロンで手ぇ拭きながらやってくる。

 えと、晩ご飯のあとで、片づけをしてるとこやったんです。

「なんや、どないした?」

 冷やかしに来たテイ兄ちゃんの手には、柿の種の袋が載っておりました(^_^;)。

 

 それが夕べの事で、テイ兄ちゃんは、さんざん妹にどつかれて、怒られる羽目になりました(^▽^)

 

「じぶんら、これやるわ」

 朝顔に水やってると、テイ兄ちゃんが、なんか持ってきた。

「なに?」

「タイマー?」

「ストップウォッチ?」

「万歩計?」

 小さな画面の付いたそれには0:00とゼロが並んでる。

「サイクルコンピューターや」

「「「サイクルコンピューター?」」」

「じぶんら、このごろ自転車に凝ってるやろ。これ付けたらいろいろ記録がとれる」

「スピードとか、走行距離とか?」

「もちろん。他にも消費カロリーやら、排出二酸化炭素とか平均速度とかもな」

「「「へえ……」」」

 

 ハンドルに本体、前輪のフォークに検知機、スポークに検知用の磁石を取り付ける。

 最初の一個は、テイ兄ちゃんが詩ちゃんの自転車に取り付ける。たぶん、ゆうべのお詫びやね。

 兄妹やさかいに「ごめん」とは言わへん。

 それを見てて、うちと留美ちゃんは自分でやってみる。

「よし、試し乗り!」

「「「よっしゃー!」」」

 宣言して、昨日と同じコース。

 結果が知りたくって、今日はまっすぐ帰る。

 走行距離10キロ!

 やったあ(^▽^)/

「なんで?」

 詩ちゃんのは8・5キロとしか出てへん。

 まったく同じコースを走ってきたんやから、同じ数字が出てんとおかしい。

 うちと留美ちゃんは、ちゃんと10キロ。

 また、テイ兄ちゃんのいたずらかぁ?

 

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ライトノベルベスト・〔爺さん高校に通う〕

2021-08-05 06:19:25 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

〔爺さん高校に通う〕   




 最初は新しい校長先生かと、瑞穂は思った。

 府立S定時制高校の始業式である。
 定時制と言っても昔のように、中卒で苦労し、なんとか高卒の資格をとっておきたいという年配の者はほとんどいない。大概が、全日制にいったん入ったが、何らかの理由で中退せざるを得なかった過年度生が多く、瑞穂自身も三年前の秋に人間関係のこじれでA女学院を中退していた。
 学校に行かなくなってから、喫茶店のバイトをやり始め、今は、それが楽しく全日制を受け直す気にはならなかった。

 だから入学時のクラスは大半が16歳から、せいぜい18歳ぐらいまでで、成人の生徒というのは見かけない。それも四年生ともなると生徒の数は減ってしまい、一年の時23人のクラスが15人しかいない。

 その爺ちゃんは、式服を着て、どこから見ても校長先生である。
 それが、なんと式場では、瑞穂の横に座っていた。

 実際の校長は、新任ではあったが、昼間の全日制と兼務で、五十代半ばの貧相なオッサンだった。

「いやあ、定年で辞めてから二年になるんですけどね、ふと身辺整理をしてたら高校時代の成績表が出てきましてな。ほんなら、数三落としたままやいうことに気いつきまして。必履修やないんで、そのままでもええんですけどね。なんや忘れもんに気いついたみたいで気色悪いんで、数学の時間だけ、みなさんとごいっしょさせてもらいます。須藤健一と言います、どうぞよろしく」
 爺さんの自己紹介は、過不足がなかった。それまでの人生やら、教訓めいたことは一切言わへん。みんなからは「須藤さん」と呼ばれた。むろん先生らも、そない呼ぶ。数三は週に2時間しかないんで、須藤爺ちゃんは週に二回だけくる。
 授業が終わっても、八時半の終業まで、学校におって、先生やら生徒やらと楽しそうに話して帰る。

「いや、わし、数学大嫌いでな。毎年数学は落として、追試でとってた。三年の時ぐらいお情けで単位くれるかと思うたんやけど、しっかり落とされてしもた。数学の先生きらいな奴でなあ。大学の入試と追試が重なってしもたこともあって、とうとう取らずじまいやった」
「今の姫ちゃんは?」

 姫ちゃんとは、今年赴任してきたばっかりの小野田姫乃先生のこと。口癖は「分かるぅ?」
 単元が終わって「分かるぅ?」 練習問題をやっては「分かるぅ?」

「先生、ジジイのわしでも分かってるんやから、みんなも分かってると思いますよ」
 と助け船。
 微分積分なんか、正直あたしでも分からへん。
「かましません。みんなきちんとノートとって、説明も聞いてます。魚心に水心でいきましょ」
「そやけど、須藤さん……」
 すると須藤さんは、やにわに教壇に立って、黒板に『微分』『積分』と書いた。
「微分は、微かに分かる。積分は分かった積りて読みます。そんなとこでドガチャガで」
 これには、教室中から笑い声が起こった。

 連休過ぎに黒川君が学校にこんようになった。四年で辞める子は少ないけど、みんな、それぞれ事情がある。みんなの反応は「やっぱりなあ」でしまい。

 そんな黒川君が、中間テスト一週間前から来始めた。なんでも須藤さんが毎日のように家や職場に来て、うっとうしいから来ることにしたらしい。

 夏にはあたしがお世話になった。

 あたしは、店のお客さんからプロポーズされてた。

 明るうて面白い営業のお客さん。休みに映画とドライブに誘われて、三回目に六甲山で神戸の夜景見ながらプロポーズされた。

「あの男はやめとき」

 須藤さんの忠告を初めてうっとうしいと思うた。

「あの男は、他にも女がおる。離婚も一回やっとる。原因はあいつの素行とDVや。結婚したら豹変するタイプや、悪いことは言わん。やめとき」
「せやけど、あたし……」
「初めての男はええように見えるもんや。君らの年は恋愛の最後の練習期間や。勉強やったと思うたら、なんでもない」

 須藤さんの言うてたことは、当たってた。会社のお金使い込んで、ドロンしよった。あのままやったら、なけなしの貯金あげてたとこやった。

 二学期の始業式が傑作やった。

 須藤さんが、先生らの列の中にいてた!

「ええ、日本史の栗本先生が病気で当分お休みになられます。その間講師で須藤先生に入ってもらいます。須藤先生は、三年前まで府立高校の地歴公民の先生で……」
「校長さん、もうよろしい。みんな適当に知ってくれてますよってに。ほんなら、月曜と水曜は先生しにきますから、みんなよろしゅうに」

 こうして、須藤先生は、頭を掻きながら一礼。月水は日本史の先生、火木は生徒として、教室にやってきた。

 卒業間近に分かったことやけど、校長先生は須藤さんが最初に担任した時の生徒やった。

 そのせいか、この一年間は校長先生の話は短くて、少しは内容のあるもんになってたです。はい。

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クレルモンの風・2『え、フランス語!?』

2021-08-05 06:04:51 | 真夏ダイアリー

・2
『え、フランス語!?』   

 


 ミッションコンプリートの直前でゲームオーバーになった気分!

 オセロゲームのエントランスを少し行くと、事務所があった。オバチャンが一人残っていて、あたしを待っていてくれた。

 で……。
 
『Bonjour』しか分からなかった!

 オバチャンは、とても優しくにこやかな人だったが、言葉がフランス語(あたりまえ)なので、チンプンカンプン。やがて、気まずい沈黙が流れた……。

「ユウコ、ひょっとして、フランス語分からへんのん……?」
「Bonjourぐらいしか……」
「え、ほんまかいな!?」
『アニエス、この子、なんて言ってるの?』
『ええ……ちょっと待っててね』

 アグネスは、あたしを廊下に連れだした。

「あんた、ほんまの、ほんまに、フランス語でけへんの……?」
「うん、英語もかたことだけ……」
「あんなあ、フランスの大学に留学するのんは、フランス語できんのが最低条件やねんで!?」
「そんなの聞いてないよ。大学が訳してくれた説明書読んで、それ見て大学が書類こさえたから」
「ええ!?」

 大騒ぎになった。

 その大騒ぎの中で、オバチャンの名前がベレニスってことと、慌てて駆けつけた学務課のイケメンがアランということだけは分かった。

 フランスと日本の時差は八時間。で、日本の大学は、もう動いているだろうということで、遣り取りになった。

『ユコ・シュヌーシ……えと、ユウコ・スノウチはフランス語ができると、書類には書いてあるが』
『ああ、できますよ。本人が、そう申告してます』
 日本の学務課がいいかげんなことを言う。
『だって、本人はBonjourしか分かってない。あ、それと、僕の名前と』
『わたしの名前もよ、アラン』
 ベレニスのオバチャンが、なんとなく味方っぽく言って、ウィンクした。

『ちょっと、本人と替わってもらえますか』
「ユウコ、直接話がしたいって」

 アグネスがパソコンを指差した。

 結果、分かったこと。

 宗教のところを、あたしは(仏)教と書き入れた。それを流すように見た日本の学務課のオッサンが、
 喋れる言語の( )の中に(仏)語と書き入れた。そして、そのままフランス語に訳して送っちゃった。

『須之内君ね、フランスに留学すんのに、フランス語できるのは、外へ出るときにズボン穿くのといっしょ!』
「あ、あたしスカートなんですけど」
 これをアグネスが、フランス語で実況。いつのまにか来ていた副学長のムッシュ・カミーユ先生も聞いていて大笑い。
『わが大学の恥だ。明日の便で、すぐに帰ってきなさい!』
 こういう自分のミスを棚に上げた命令口調は大嫌い!
「いいえ、そっちのミスなんだから、あたしはクレルモンに残ります!」

 で、結局は、あたしの責任でないことははっきりし、クレルモン大のカミーユ先生も認めてくれた。しかし、クレルモンの大学にも規則がある。カミーユ先生の一存ではどうにもならない。それで、急遽主だった先生や理事と相談し、今夜中には答を出すことになり、わたしはひとまずアグネスと寮にいくことになった。

「バカだと思ってるでしょ、アグネス……
(╥﹏╥)
「そんなことあれへんよ。間違うたんは日本の大学やねんから、ユウコが自分責めることなんかあれへんよ」
「だって、常識では、学務課のオッサンの方が正しいでしょ?」
「まあ、あのズボン、スカートの行き違いは面白かったけど……」

 アグネスは、あたしに寄り添うように、ベッドに腰掛けて並んだ。

「大事なことは、ユウコのやる気やと思うよ!」
「うん……」
「疲れてるでしょ。シャワーでも浴びて着替えたら?」
「うん……」
「ほんまは、ヒノキ風呂がええねんやろけど、ユニットバスでかんにんな」
「ありがとう、アグネス」

 ドンドンドン

 あたしがバスに入ったときに、ドアが元気よくノックされた。

『はい、ただいま』
 アグネスがドアを開けた。学務課のアランが入ってきた。
『OK出たよ。ユウコの責任じゃないから、入学はさせようって、たった今決まった! ユウコは?』
 あたし、言葉は分からなかったけど、同じ人類。アランの言葉の調子で分かった。
「あたし、大学に残ってもいいんだね!?」
『ウイ!』
「やったー!(৹˃ᗝ˂৹)!」

 ストン

 思わずバンザイしたら、スカートがアランの目の前で落ちてしまった……。

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