やくもあやかし物語・93
チカコといっしょにお風呂に入る。
チカコは1/12サイズの多関節フィギュアなので、首なしの素体を持って行って首を挿げ替えてから入る。
元々のフィギュアだとゴスロリ衣装のまま入らなきゃならないから。
「よいしょっと」
なるほど、裸の素体に換えると、これからお風呂に入りますって感じになる。
で、肝心のお風呂。
「ふ、深すぎる……」
なんせ、1/12なもんだから、リアルサイズに換算すると8メートルぐらいの深さになる。
「その湯桶にお湯を入れて浮かべてちょうだい」
「沈まないかなあ……」
半分ほどお湯を入れて湯船に浮かべる。
「「おお」」
半分お湯を入れても、湯桶はユラユラ揺れながら浮いている。
湯桶は、こないだメンテナンスしてもらった時に大工さんがくれたもので、ちゃんと檜でできている。
湯桶の内にも外にもお湯なので、檜の香りがフワフワと広がる。
「うん、これで、いっしょにお風呂に入れるね(^▽^)/」
「ああ……やっぱり、お風呂は檜ぶろに限るわねえ」
「チカコって、檜ぶろに入ってたの?」
「そうよ、お風呂って天然温泉でもない限り、やっぱり檜ぶろでしょ」
うちは古い家で、たまたま檜ぶろなんだけど、普通はホーローとかプラスチックとか、ステンレスとか……タイル張りというのもあるなあ。
檜ぶろは、やっぱり、ちょっと……いや、かなり古いお家……というか、お屋敷だよ。
チカコの今の姿は黒猫だけど、これは憑りついているだけ。
元の姿は……左手首。
うう……これは、やっぱり触れちゃいけない問題なんだろうなあ。
「ねえ、東の窓の不思議を解きにいきましょうか?」
「え、いいの?」
「気になってるんでしょ?」
気にはなってる。
東の窓から食事中の姿を見られ、茶店の娘は業平に幻滅されて玉の輿を失ったんだ。
業平は、苗字こそ在原だけど、祖父は桓武天皇なんだ。
平安時代きってのイケメン貴族だ。
だからこそ、後の高安の人たちは東に窓を付けることをやめたんだ。
それが、玉祖神社の巫女さんから預かった『東窓』のお札を貼ったら、女の子の引きこもりが直ってしまった。
訳わからん(@o@)
「よし、今夜寝てる間に調べに行こう。枕もとにお地蔵イコカ置いておくのよ」
「今夜?」
「そうよ、俊徳丸には内緒で行くからね」
「そ、そうなんだ」
「そうと決まれば……」
「あ、もう上がる?」
「ううん、体洗うのよ。背中を流しなさい」
「う、うん、いいよ」
風呂椅子の上に載せて、小さな背中を洗ってあげる。
ザパーーン!
キャーーー!
勢いよくお湯を流してあげたら、あっという間にチカコは流されてしまった。
スノコにに引っかかって、下水に流されることはなかったけど、もう一度お風呂に浸かるはめになってしまった。
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 教頭先生
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸