大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・227『天城を助ける』

2021-08-16 09:12:24 | 小説

魔法少女マヂカ・227

『天城を助ける語り手:マヂカ   

 

 

 もう千年以上も魔法少女をやっている。

 

 これだけやっていれば、さぞかし強くて万能のように思われるだろうけど、そうでもない。

 戦いで相手にする妖たちにも千年クラスは珍しくない。

 いま、この手で抱き起している天城という少女も、オーラを感じた時から分かっている。

 天城は、千年を経た時の匂いと、打ちあがったばかりの新刀の鉄の匂いの両方がする。

「わたし、戦艦天城の船霊なんです……」

 痛みに耐えながら天城は正体を明らかにした。

「戦艦?」

「天城……?」

 霧子もわたしも訝しんだ。

 霧子は、女生徒の外見と戦艦という属性が結びつかない。

 わたしは、船霊には驚かない。つい最近も三笠の船霊に助けられたとこだし。

 ただ、戦艦天城というのが分からない。

 帝国海軍に天城という戦艦は存在しない。終戦の年に未完成のまま放置された改造空母に天城というのがあったが、それの本性は巡洋艦だ。

「八八艦隊の長女です、赤城は二番艦の妹で……」

「あ」

「思い出していただけましたか?」

 大正時代はシベリア出兵にともなって、満州やシベリアを飛び回っていて、内地の事に関わることが無かったが、ワシントン軍縮会議で日本は計画中、建造中の戦艦を廃棄している。

「もう、船霊が宿るところまでできていたんだ」

「はい、船台にキールが据えられ、艦名が決まったときに船霊は宿るのです……三番艦以下の子たちは、まだ艦名も決まっていませんから」

「妹さんは、どこに?」

 霧子は、もう助けてやる気になって腰を浮かしている。

「この山の麓に……」

「ここは、いったい……」

「横須賀の山の中だろう、その麓と言えば横須賀海軍工廠だ、行くよ!」

「天城さんは?」

 霧子は魔法少女ではないが、この数か月の付き合いで霊的な素養が芽生えている。

 漠然としてだろうけど、起こっていることの半分ほどは分かっているようだ。

「天城さんを看ていて」

「うん、分かった」

 霧子は分かっている、天城の魂が消えかかっているのを、そして、だれかが寄り添っていてやらなければならないことを。

「頼んだよ!」

 山を駆け下りる。

 百歩駆けるうちに風切丸を抜き放つ。

 二百歩駆け下りたところで一閃!

 アルミ缶を切ったほどの手ごたえがあって、ロシア海軍の艦娘がもんどりうって後方に消える。

 水兵帽に駆逐艦の名前があったようだが巡洋艦かもしれない。

 令和の世界で、ロシアバルチック艦隊の化け物と戦ったのを思い出す。

 日露戦争から、まだ二十年余りしか経っていない大正時代。

 油断はならない。

 

 トウ! オリャー! セイ!

 

 立て続けに三体を切る。二体は駆逐艦、一体は水雷艇、次も小艦艇かと浅く振りかぶる。

 小艦艇は水雷戦隊を構成している、足が速くて数が多い。タメを大きくしていては打ち漏らすし、隙を突かれかねない。

 ガシ! ガシ! ガシ!

 アルミ缶の手ごたえが続く。

 カ! カ! カ!

 駆逐艦よりも軽い手応え、これは水雷艇でも、より小さい艦載水雷艇。

 

 カシーーーン!

 

 水雷艇と振り下ろした風切丸がはじき返される!

 ウワーー!

 反動で、空中を数回転させられる。

 その回転のさ中、瞬間視野に飛び込んできたのは、腰高なロシア戦艦の艦娘だ。

 逆方向に風切丸を振って回転を止める。

「貴様は!?」

「やっと会えたな」

 混乱した。

 目の前で腕組みしてふんぞり返っているのは、秋田沖で激闘の末に撃滅した戦艦アレクサンドル三世だ。

「なんで、ここに、この時代にいるんだ!?」

「フフフ、時空を超えるのは、魔法少女のおまえたちだけではないんだぞ」

 不敵に笑うと、両手をグイッと突き出す。

 突き出した両手の先には、二連装の三十サンチ砲が構えられていた……。

 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
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ライトノベルベスト『ガルパン女子高生・2』

2021-08-16 06:03:36 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ガルパン女子高生・2』     

 

 


 女子高生と思しき少女は、じっと耐えていた。

 そして、やにわに道路を渡ったかと思うと、堪えた声で、こう言った。

「あなたたち、どこの人? なんで、大勢で邪魔すんの?」

 大勢の中の一人が諭すように言った。

「ぼくたちは、善意の市民団体なんだ。日本の安全と民主主義を守るために、こうして集まったんだよ」
「じゃ、地元の人じゃないんだね?」
「そう、はるばる全国各地から……」
「邪魔せんとって、とっとと帰って!」
「キミなあ、自衛隊は憲法違反なんだ、日本の平和のためには、あっちゃいけないんだよ。そもそも憲法9条……」
「ここの人らはな、あの震災の時に、歩いて助けにきてくれたんや。家が潰れてお母ちゃんと妹が下敷きになって、近所の人らも手伝うてくれたけど、いのかされへん。隣町の火事が、だんだん近こうなってくる。消防車もパトカーも素通りや。わかるか、あんたらに、この悔しさ。その中に、ここの部隊の人らが、歩いてきてくれはった。『ぼくたちで良かったら手伝います』そない言うて、『お願いします!』言うたら、ここの人らは隊長さんの『かかれ!』の一言で、人海戦術で瓦礫をどけて、どけて……火事が、すぐそこまで来てるのに、妹とお母ちゃん出してくれはった。二人とも、もう息してへんかった。ほんなら……ほんなら『ごめんな、かんにんな』『ぼくらが、もうちょっと早く来れてたら。申し訳ない!』言うて妹とお母ちゃんに謝ってくれはった。あとで知った。ここの部隊の人らは地震のすぐあとから出動の準備してたけど、出動命令が出えへんから夕方まで動かれへんかった。それから、ここの部隊の人らは、食事の配給やら、お風呂湧かしてくれたり、夜中は素手で見回りもしてくれはった。そんな部隊の人らの創立記念のお祝いのどこがあかんのや! うちは、だれもけえへんでも、一人でもお祝いするんや!」

 最後のほうは、少女の声は嗚咽になっていた。

 百人ほどの市民団体の人たちは一言もなく、横断幕をたたんで帰った。
 少女は肩を震わせて、市民団体が引き上げるのを見届けると衛門に向かった。

 衛門の衛守をしていた隊員は、けして社交辞令ではない、心からの敬礼で少女を迎えた。

 USBメモリーには、You Tubeから移した、そんな映像が入っていた。

「こんなことが、あったんやね……」

 アッチャンがしみじみと言った。

「これ、阪神大震災のときのことやね……」

 ほかにも、東日本大震災の記録や、自衛隊の記録が残っていた。
 自衛隊の機甲科(戦車隊)についての意見書もあった。

「90式は感心しない。50トンの重さに耐えられる橋梁が、我が国にどれだけあるのか。また、長距離移動では、特別なトランスポーターに砲塔を外しての輸送しかできない。砂漠や、原野ならともかく、日本の地理的条件には合っていない」
「ようやく、10式採用。44トン。3・24メートルの全幅は鉄道輸送も可能。我が国に合った戦車が、ようやくできた。慶祝なことである」

 そんな文章もあった。あたしは、ヒイジイチャンから、こんな話を聞いたことは一度も無かった。いつも無邪気にラジコンの戦車で遊んでいる、子どものような姿しか覚えていない。

 しかし、ただの遊びでは無かった。座布団で土手を作って、いかに効率の良い稜線射撃ができるか。M4シャーマンの76ミリ砲で、いかにタイガー戦車に勝てるか。そんなことがノートにこと細かく書かれていた。

 ガルパンの最終戦で、ドイツの100トン戦車マウスを撃破したのを賞賛していたが、89式戦車をマウスの車体に載せて砲塔旋回を不能にするような高度な操縦が可能であろうか? と、専門家らしい意見と「自分がやれば、50%の確率で可能である」と締めくくっているところなど、ご愛敬。

 あたしは、意地を張ってスマホを止めることはよした。使用を再開したが、必要最小限のことにしか使わなくなった。アッチャンもそれに付き合ってくれて、逆に直接会って話をする機会が増えた。

 だから三年になったとき、進路のことなんか、二人で真剣に話すことができた。

 アッチャンは特推で大学に。あたしは自衛隊に入った。で、三か月の基礎訓練が終わって気が付いた。

 自衛隊では、唯一機甲科に女の子が入れないことに、ああ、美保のバカたれ!

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クレルモンの風・13『メグさん再び』

2021-08-16 05:48:11 | 真夏ダイアリー

・13

『メグさん再び』         




 藁にもすがる思いでメグさんに相談することにした。

『溺れる者は藁をもつかんで……沈んでいくよ(;゚Д゚)!』

 と、電話ではシニカルなユーモアで返してきたけど、真剣に話を聞いてやろうという感じ満々だった。

 元気がないんで路面電車で行こうと思ったけど、運転手のオッチャンが乗客のオバチャンと話し込んで、停留所を十メートルもオーバーランした。

 ゲンが悪いので、思い切って走っていくことにした。

 電車が時間通りに来なかったり、運ちゃんが乗客と喋っていたりは当たり前なんだけど。今日のあたしはナーバス。そして若い。で、結論は二キロの道のりを走ることにした。

 パルク・ド・モンジュゼ通りに入った頃は上り坂なので、ジャケットもシャツも脱いで、タンクトップ一枚になって走った。走っている間だけは問題を忘れることができた。

 ノアム通りに入ると青臭い臭いが満ちてきた。

 どの家も草花を大事に丹精しているのだけど、このゼラニウムの臭いだけは慣れない。植物オンチのあたしが、ゼラニウムを覚えたのは、ひとえに、この臭いによるものだ。

「まさに青春の真っ盛りを走ってますって、感じね」

 メグさんの第一声が、これだった。
 庭で(メグさんちは、ゼラニウムがない)涼んでいると、突然メグさんが若返って現れた!

「あ、娘の海です」

 そう言って、ヒエヒエの麦茶をくれた。数か月ぶりの日本の麦茶に、思わず涙が出そうになった。

「あたし、あなたと同い年なのよ」
「ほんと!?」
「うん、あなたが行ってる大学も、あたしの受験候補の一つだったから」
「え、そうなんだ!?」

 それから、キッチンに行って簡単な和食を二人で作った。ほんと簡単。ニューメンと冷や奴。

 この簡単だけど、思いっきり日本を思い出させてくれるメニューに、またあたしはウルウルしかけた。

「しかけたって言えば、元々は、ハッサンて子の片思いなんでしょ?」
「うん、嬉しいんだけど、あたし的にはね……」
「お友だちなだけなんでしょ?」
「うん……」

 で、気がついたら全部喋らされていた。

 オカンのメグさんといい、娘の海ちゃんといい。この家の女は油断がならない。

 で、気づいた。オカンのメグさんの姿がない。

「あ、町内会の寄り合い。で、あたしが代理……悪かったかな?」
「ううん。同世代の日本の子と話ができてうれしかった。ルームメイトが日本語バリバリのアメリカの子なんだけど……」
「アグネスでしょ?」
「え、なんで知ってんの!?」
「ユウコちゃんの大学は、リセでいっしょだった子もいるから、ちょっと詳しいの。アグネスの日本語は、一昔前の大阪弁だから、あの子が来た頃、日本語の先生は、自分の日本語がおかしくなりそうだったって。ユウコちゃんが来たんで、だいぶニュートラルに戻れたって」

 少しは、自分も役にたっているようで嬉しくなった。

「こっちの学生は、事件を大きくしたり大ゴトにするの好きだから、あんまり心配することないよ。目的はお楽しみなんだから」
「そうなの?」
「うん。だから、ユウコちゃんも、楽しむぐらいの気持ちでいたほうがうまくいくと思う」

 メグさんジュニアは名前の通り「海」みたいで、同い年とは思えない懐の深さがあるようだった。この子に大丈夫と言われると、本当に大丈夫のような気がしてくる。

 そこにメグさんが憂い顔で戻ってきた。

「なにかあったの、お母さん?」
「うん、モンジュゼ公園で、女の子が行方不明になったんだって」
「大きい子?」
「ううん、まだ十歳。父親といっしょにモンジュゼに来て、行方が分からなくなったって。この子」

 メグさんは、女の子の写真がアップになったビラを見せてくれた。とってもカワイイ子で、親御さんの心配な顔が思い浮かぶよう。海ちゃんに慰められた気持ちはそのままで、心の別なところが痛んだ。

「今日は、ありがとうございました。海ちゃんに聞いてもらったら、ケセラセラになりました。ほんと久しぶりに日本の同い年の子と喋れて良かったです」
「あ、この子、半分はフランス製だから」
「今日の、あたしは全部日本製。明日は全部フランス製になって、試験だわ~」

 と、フランス人の顔になって嘆いた。

「あ、メアド交換しとこ。お互い力になれそうだから。いい?」

 このメアド交換が後に大きな威力を発揮することになるのだった……。
 

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