大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・231『ウッ……クソババア』

2021-08-13 09:36:09 | ノベル

・231

『ウッ……クソババア』頼子     

 

 

 そうだったんですね……

 

 ソフィーが感無量という顔をしている。

 原因はさくらのメール。

 ほら、一昨日散歩してて神社の前で見つけたコンクリート製のなぞの二本柱。

―― ペコちゃん先生の実家が神社で、同じものがあったんです! ――

 添付された写真には、同じような二本柱が写っているんだけど、こちらは『皇紀ニ千六百年記念』の文字が彫り込まれている。

「日本は、西暦とは別の皇室の年紀があるんです。神武天皇の即位を元年として数えて、昭和15年が2600年で、各地で記念行事が行われました。これは、その時に作られたフラッグポールなんですねえ……」

 分かってしまうと、ソフィーの方が理解が早い。

「戦後は、迷信だとか、コーコクシカン……ちょっと待ってください」

 スマホを出すと、五秒で検索して『皇国史観』という単語を見せてくれた。

「天皇中心の歴史観はNGで、2600年関連の記念物の多くは壊された……その名残なんですね」

「そうか、昔は、神社の前に日の丸が掲揚されていたんだね」

 二本柱には、よく見ると、上下に二つの穴が開いている。

「コンクリートのは支柱なんですね、間に本柱を立てて、ボルトかなんかで固定してあったんですよ」

「なるほど……イザとなったら、本柱を調達してきて、エイヤって立てて、ボルトで締めたら復活ってわけなのね」

 調べてみると、本柱を立てる仕様ではなく、一本の石碑で出来ているものもあって、文字も彫られているもの無地のものといろいろ。文字を彫ってあるものも『紀元二千六百年』のほかにも『国威発揚』というのもあって、規格化されていたというわけでもないようだ。

「では、この横の鉄骨は?」

「そうだよ……」

 さくらのメールには宿題が付いている。二本柱の横の鉄骨は、なんだろう?

 こちらの神社には無かったし。

「まあ、散歩と検索でボチボチ調べようか」

「ペコちゃん先生というのは、どんな方なんでしょう?」

「あ、ああ……」

 たぶん担任の先生、ニックネームなんだろうけど、わたしの記憶には無い。

 おそらくは、わたしが卒業してから来られた先生なんだろう。さくらは、おっちょこちょいだから、そんなこと忘れて打ってきたんだ。

「ペコちゃんて、不二家のマスコットですよね」

「よし、聞いてみよう」

 鉄骨はまだ分からないけど、ペコちゃん先生のことを教えなさいとメールを打つ。

―― そうでした(^_^;)、頼子さんが卒業してから鉄筋してきた先生で、わたしらの担任でーす! ――

 打ち間違いのメールとともに、写真が送られてきた。

「「なるほど!」」

 納得した。

 笑うと、ちょっとつり上がったカマボコみたいになる目。口の端っこにチョロッと覗く可愛らしい舌。

 ペコちゃんをリアルにしたら、こうなるというプリティーな顔だ。

 

「殿下、差し入れです」

 

 領事がケーキの箱をぶら下げてやってきた。

 月に二三度、出張の帰りとかにスィーツを買ってきてくれる。御機嫌伺なんだけど、直に話をして、わたしの健康状態や心もちをチェックしているんだ。なんせ、ヤマセンブルグの第一皇位継承者を預かっているんだ、気は使うよね(^_^;)

「おお、○○ホテルのショートケーキ!」

 ソフィーの目がへの字になる。

 梅雨みたいなお天気の話から入って、日本とヤマセンブルグのコロナの状況、中国の情勢、パラリンピックの見通しとかをサラリと語ってくれる。

 これって、王女としての一般教養の勉強をさりげなくやってるんだと思う。

 いやはや……。

「そうそう、ダイアナ妃の結婚式のウェディングケーキが1300ポンドで落札されたそうですよ」

「え、ウェディングケーキが残っていたの?」

「あんな、大きなもの」

「いや、ソフィー、式が終わって配られるカットしたやつだよ」

「もう、40年も昔の事でしょ!?」

「なんでも、ラップに包んで缶の中に保存していたそうですよ……ほら、これです」

 見せてくれたタブレットには、王家の紋章も鮮やかにラップ保存された四角いケーキ。

「1300ポンドてことは……」

「約、28万円です殿下!」

 ソフィーは計算も早い。

「女王陛下は、まだご存知ではないと思います。メールして驚かしてさしあげてはどうでしょ」

「あ、それ、いいわね!」

 お祖母ちゃんも、こういうことにはミーハーだ。わたしが先に知ったら、きっと悔しがる。

 エヘヘ

 30秒で作って写真を添付する。

 29秒で返事が返ってきた。

―― ミナコの時は1000個は作ってオークションにかけて一儲け(^▽^)! ――

 

 ウッ……クソババア。

 

 

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ライトノベルベスト『ラブラドール・レトリバー・3』

2021-08-13 06:39:32 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ラブラドール・レトリバー・3』    




「ああ、戻ってきちまったのかよ……」

 来栖先輩はバツがわるそうに……いや、うまく言えないけど、それ以上の感情をこめて言った。

 人柄なんだろうか、いやらしい感じはなかった。例えて言うなら、みんが隠れる前に振り向いてしまった「鬼ごっこ」の鬼みたく。

「え、あ、いや、それならそれでいいんです。最初から正直に見せてくださったら、そんなにびっくりしないで受け入れられました。あ、そう戸惑ってるだけなんです。先輩も独身なんだし、こういう趣味もありって思うんです。本物の女の子に変に興味持つよりは、言っちゃなんだけど、可愛いものだとおもうんです。いや、ほんと、突然なんでびっくりしてるだけです(^_^;)」

 言いながら、あたしは、ラブラドールのマメが居ないのをいぶかしがらない自分が不思議だった。

「やっぱり、わたしの見立て通りね」

 背後で声がしたので、びっくりして振り返った。

 なんと、ラブドールが伸びをしながら目をこすっている。

「ハハ、伸びをしたら涙が出てきちゃった……ファ~~~~~」

 無邪気に言うラブドールは、大きく口を開けてアクビをした。その口元にはシソの葉が付いていた。

「いや、これは、そのなんだ……」
「いいわよ。あとは、わたしが説明する。もう決めちゃったから」

 ラブドールは、髪をかき上げながら先輩を制した。その全裸の姿はほれぼれするように若々しく美しかった。

「よくできた、その……なにですね」
「なにじゃないわよ。わたしはメイム。ちょっと理解は難しいでしょうけど、未来からやってきたレトリバーよ」
「マメちゃんは……?」
「あなたの理性は反対してるけど、感情が認めている通りよ。この人はMAMEとしか言わなかったけど、あれでメイムって読むの。レトリバーというのは、獲物を回収するって意味があるの。わたしは、それ専門に派遣されてきた義体。この人もそうだけど型落ち。わたしみたいにトランスフォーメーションはできないけどね。リクルートのアビリティーは確かね。あなたなら、わたしの時代でも十分能力が発揮されるわ。なんせ深刻な人手不足。あなたも、向こうに行ったら素敵な義体にしてもらうといいわ……」

 メイムに見つめられているうちに、あたしの意識は跳んでしまった。

 先輩は、それからはパッとしないが仕事はできる父親として、父子家庭を営んだ。むろん娘はメイム。あたしが、あの時代に存在した痕跡は全て消された。来月には、新しいレトリバーとしてあの時代に戻る。能力がありながら、その力を発揮できない若者はゴマンといる。

 あたしは義体になっても、元のまま。あの姿は気に入っていたから。もし、あなたが友人知人の家に行って、ラブラドール・レトリバーがいたら気を付けて。あたしかメイムが、トランスフォーメーションしたものかもしれないよ……。

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クレルモンの風・10『ハッサンのお誘い』

2021-08-13 06:27:50 | 真夏ダイアリー

・10
『ハッサンのお誘い』
         

 

 

 Bribri Brier(ブリブリ・ブリエ)先生に呼び出された。

 覚えてる? あたしたち留学生のフランス語の先生。

 呼び出しの見当はついていた。

『ユコ、あなたは、最初の頃は、とても上達が早かったわ。感心していたのよ』
『ありがとうございます』
『でも、夏からこっちは、ちょっとね……』
『はい……』
『はっきり言うわ。あなたアニエス(アグネス)に頼りすぎ。いまだに講義中はアニエスについてもらってるのよね』
『はい……』

 言わんとするところは分かっているので、自分から言った。

『今日から、自分だけで講義に出ます』
『ウイ、さすがにユコ、飲み込みが早い。がんばってね(^▽^)』
 
 ブリエ先生は、膝に置いたあたしの手を握った。きっと言い出したくなかったんだろう。

 

「なんで、うちに相談もなしに!」

 案の定、アグネスは怒った。

「ユウコのフランス語は、まだ小学生並みや。ウチがついてなら、講義なんか分からへんで!」

 あたしは、理由を言った「このままじゃ、あたしは自立できない」って。

 ガバ!

 アグネスは涙をいっぱい溜めて、ウルウルとあたしに抱きついてきた。

「せやね、ユウコの言う通りやわ。ユウコのためにならへんもんな(৹˃ᗝ˂৹)
「よしてよ、アグネス。ルームメイトに変わりはないし、三度の食事もいっしょじゃん」
「うん、半年もいっしょにおったら、なんか姉妹みたいな気になってしもて」
「ハハ、そのわりにゃ、アネキのアリスの話は、あんまりしないよね」
「そら、アリスとは死ぬまで姉妹やしな」
「あたし、アグネスは、一生の友だちだって思ってるよ……」

「ユウコォ(#˃ᗝ˂#)!!」

 アグネスの目が、またまた涙で溢れてきた。

 正直、アグネス抜きの講義は辛かった。1/3程は意味が分からない。質問されても、言葉がぎこちなく、クスクス笑われることもあった。ほんとうにアグネスのありがたみが辛さといっしょに分かった。

 でも、あたしより辛い人間が現れた。

 それがハッサンだ……。

『ユウコ、こんどの休みつきあってくれないか?』

 いつものようにニコニコのひげ面で話しかけてきた。でも、個人的に話しかけられるのは初めてだった。

『ルコック庭園なんかどう。ボクまだ行ったことがないんだ』
『あたしもまだだけど』
『じゃ、ちょうどいい。あ、サラート(お祈り)の時間だ。時間とかは、また教えるから』

 言うだけ言ってしまうと、いなくなってしまった。
 
「ハッサンがなあ……」

 半日分溜まっていた大阪弁のお喋りしたあとで、ようやくアグネスは話を聞いてくれた。

「あんまり話したこともない人でしょ」
「せやけど、ハッサンは行く気満々やねんやろ」
「うん、さっきこんなメモもらった」
「ハッサンらしいなあ、きれいなフランス語で書いたある」
「ハッサン、ニッコリしてたけど、なんか目がマジなんだよね……」

 ハッサンの佇まいは好きだった。

 サロンにいても控えめに人の話を聞き。笑うときや喜ぶときには、腹の底から楽しそう。そして、サラートの時間や、自分で決めた就寝時間になると、みんなが白けないようにサラリといなくなる。穏やかだけど日本の男が失ったものを持っているなあ……という印象。

 でも、こんどの「お誘い」は、それを超えるモノを予感させた。

 アグネスがお風呂している間にYou tubeでイスラムのお祈りを聞いた。とても旋律や節回しがきれい。とても、こんなきれいなお祈りをする人たちが戦争をするなんて信じられなかった。たった二分足らずだったけど、発見があった。「アラー アクバル」じゃなくて「アッラー アキュバル」て言う。思っていたより繊細で、ハッサンとイメージが重なる。

「ユウコ、ええこと考えたわ!」

 髪をバスタオルでターバンのように巻き、歯ブラシをくわえたままアグネスが出てきた。

「ユウコのフランス語は小学生並みやさかいに、通訳にウチが付いていく!」
「え、アグネスが!?」
「うん。『大事な話やったら、しっかり聞いときたいさかい』とか言うたらええねん!」

 失望、困惑、沈思、閃き、ハッサンの目は目まぐるしく色を変えて、口をして、こう言わしめた。

『うちの王様とアメリカの大統領が話すときも通訳がつくからね。そう元首級の話ができそうだ』
『まあ、肩張らずにお気楽に……』

 あたしは、日本のオッサンのように手をヒラヒラさせるばかりであった……。

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