大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・240『ネットサーフィンと朝顔の種』

2021-08-29 14:40:22 | ノベル

・240

『ネットサーフィンと朝顔の種』さくら     

 

 

 留美ちゃんも詩(ことは)ちゃんも居てへん日曜日。

 

 留美ちゃんは奨学金のことで親類の人に会いに行ってる。

 詩ちゃんは、大学の友だちに会いに行って、夕方まではうち一人や

 こういう時は、ダラダラしてしまう。

 机の前に座って、ボーっとネットばっかし。

 こういうのネットサーフィンていうのんかなあ?

 ユーチューブとかで動画ばっかし。

 最初はね、コロナ第五波がピークを過ぎたかどうか、見たかった。

 正直ね、コロナはウンザリです。

 二学期になって、それまで自粛やった部活が禁止になった。

 文芸部は、ほとんど本堂裏の部屋を使うから、闇でやれんこともないねんけど、やっぱり無理。

 お寺発のコロナは、普通の家よりも影響が大きいからね。

 

 この二日ほど感染者グラフが穏やか……というか、減り始めてる。

 まだまだ油断はでけへんやろけど、ちょっと希望が見えてきたかな……。

 中国の大連いうとこでビル火災。

 上層階やから、まあ、そこから上が燃えるんやろと思たら、なんと下の階に燃え移って、ほぼ全焼。

 小中高生の自殺が増えて、この分では史上最高になるらしい。

 うちも留美ちゃんも、その心配はない。

 うちは、お寺やいうこともあるのんか、家族は七人と一匹。

 時にはウザいと思うこともあるけど、無事に15歳の夏を過ごせてるのんは、うちを除く6人と一匹のお蔭。

 南無阿弥陀仏……ポリ。

 ポリいうのんは、おかきを齧る音。

 お寺は、お供えとかがあるさかい、お八つには事欠きません。

 

 アフガニスタンで自爆テロ。

 最初、死者の数は60人やったけど、いま見たら100人超になってる。

 怖いなあ……世界が平和であることを祈ります……ポリ。

 次の動画……え……クリックする手ぇが停まってしまう。

 

 お、お母さん!?

 

 チャドルを被ってるけど、この特徴のある、でも愛想のない目ぇは、もう一年近く帰ってこーへん、うちのお母さん?

 カブール空港の前、事件後の殺伐とした映像に写ってる。

 ほんの数秒やから、すぐに過ぎてしまう。

 プレイバック!

 え、なんで?

 今度は見つけられへん。

 微妙にアングルが違う。

 たった今、更新された?

 

 見間違い……かなあ?

 

 うちでは、お母さんの話は、ちょっとタブー。

 あたしが口にせんかぎり話題になることはあれへん……今のはなんかの見間違いや。

 

 人参とジャガイモの油少なめでできる天ぷら。

 レシピを書き写す。

 よし、これならうちでもできる。

 キッチンへ行こうと階段を下りると、お祖父ちゃんの声。

『さくら、朝顔の種とれるようになったでえ!』

「うん、いま行く!」

 

 元気に返事して境内に向かう。

 頭を切り替えられるんやったらなんでもええ。

 ガラガラ

 ガラス戸を開けると、きつい日差しに、いっしゅんホワイトアウト。

 それが戻ると、お祖父ちゃんの笑顔。

 仲良く種を回収して、夕食の話題ができました。

 

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やくもあやかし物語・96『コルトガバメント・2』

2021-08-29 09:22:29 | ライトノベルセレクト

やく物語・96

『コルトガバメント・2』   

 

 

 お婆ちゃんがお風呂にいくのを見計らって、お爺ちゃんが寄ってきた。

 

「言い忘れてたけど、ピストルの銃口は覗いちゃいけない」

「そうなの? 壊れてるし、弾も入ってないけど」

「万一ってことがある」

「う、うん」

「人に向けてもいけない」

「うん」

「向けていいのは、ちゃんと装備したサバゲーの時だけだ」

「サバゲー?」

 並んだサバをエアガンで撃ってるとこが頭に浮かんだ。

「ゴーグルとかプロテクターとか装着して、きちんとサバゲーのフィールドって決められたとこだけさ」

「うん」

「それから、セーフティーなんだけど……」

 背中に手を回すと、どこに隠していたのか自分のコルトガバメントを取り出した。

「これがセーフティー、安全装置だ」

 グリップの上の突起を示した。

「こいつを上に上げるとロックが掛かって、引き金も撃鉄も動かない。遊ばない時は、必ず上の方に上げてロックしとく。それからグリップのとこ、握ると親指の根元に当るところもセーフティーなんだ。ほら……グリップを握らないと引き金、動かないだろう」

「なるほど……」

 

 部屋に戻って、さっそく自分のガバメントを確認。

 

 カチャ カチャ

 セーフティーを動かしてみる。

 ガシッ!

 上のとこを引いてみる。

 雰囲気だよぉ(#^▽^#)……ガンダムが準備動作してるみたいな、あるいは、宇宙戦艦ヤマトが波動砲発射の直前みたいなカッコよさ。

 お爺ちゃんは、安全のために説明をしてくれたんだけど、弄ってみると、逆に高揚してくる。

 なんだか、逆に、心のセーフティーが外れて行ってしまいそう。

 人に向けてはいけないので天上の隅に銃口を向けてみる。

 

 パン!

 

 ビックリした(*_*)!

 それまで、パスパスとしか鳴らなかったのが、しっかり吠えた。

 周囲から視線を感じる。

 

 机の上のフィギュアたちや、壁のアノマロカリスたちが目を剥いてる。

「アハハハ……ごめんね(^_^;)」

 セーフティーを掛けて、机の上……フィギュアたちがギョッとする。

 仕方がないので、グリップを握ったままベッドに寝転ぶ。今夜は、このまま寝てしまおう。

 

 プルルル プルルル

 

 黒電話が鳴って、慌てて受話器を取る。

「もしもし……」

『寝てるところをすまない』

 この声は俊徳丸。

『そのコルトガバメントを持って、すぐに来てくれないか』

「え、なんで(知ってるの)?」

『詳しく言ってる暇はない、すぐに!』

「う、うん」

 ベッドの足元を見ると、もう例の自動改札が現れていた。

 改札機の向こうは、わたしをせかすように黄色い灯りが明滅している。

 机の上に目をやると、黒猫のチカコが露骨に視線を避けるけど、無視してポケットの突っ込む。

 ヒエー

 チカコの悲鳴も無視して、イコカを改札機にあてるわたしだった。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸

 

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ライトノベルベスト『UZA』

2021-08-29 06:41:53 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『UZA』      




 UZA……って言われしまった。

「ウザイの……サブのそういうとこが」

 正確には、そう言った。

 でも、感じとしてはUZAだった。

 去り際に、もうヒトコト言おうとして息吸ったら、まるで、それを見抜いたように沙耶は、げんなり左向きに振り返って、そう言った。

 UZA……ぼくの心は、カビキラーをかけられたカビのようだった。

 最初にバシャッってかけられて、ショック。そして、ジワーっと心の奥まで染みこんでいく、浸透力のある言葉。そして、ぼくの心に残っていた沙耶への愛情は「痛い」というカタチのまま石化してしまった。

 自分で言うのもなんだけど、ぼくは人なつっこい。だから、元カノの沙耶が「ノート貸して」と言ってくれば「いいよ」とお気楽に貸しにいく。

 浩一なんかは、こういう。

「そういうとこが無節操てか、ケジメねーんだよ」

 で、ヘコンダまま駅のホームに立っている。

 ヘコンだ理由は、もう一つ、ウジウジ考えながら駅に向かったら、ホームに駆け上がった直後に電車が出てしまった。

「アチャー……」

 オッサンみたいな声をあげて、ノッソリとベンチに座り込む。

 向かいのホームの待合室に、その姿が映る。

 まるで、ヘコンで曲がったお茶の空き缶のようだ。

 我ながら嫌になって、時刻表を見る。見なくても登下校のダイヤぐらいは覚えてるんだけど、諦めがわるく見てしまう

 ひょっとして、ぼくの記憶が間違っていて、次の快速は二十五分後ではないことを期待しながら……こういうところの記憶は正しく、自分の念の押し方がいじましく思われる。

 ゴーーーーーーー

 未練たらしく、去りゆく快速のお尻を見たら、ホームの端に、もう一本お茶の空き缶が立っていた。

 でも、この空き缶は、ヘコミも曲がりもせずに、ぼくに軽く手を振った。

「田島くんよね?」

 空き缶が近寄って口をきいた。

「あ……碧(みどり)……さん」

「嬉し、覚えててくれたんや」

 この空き缶は、今日転校してきた、ナントカ碧だ。ぼくは、朝から沙耶のことばかり考えていて、朝のショートの時、担任が紹介したのも、この子の関西弁の自己紹介もほとんど聞いていない。ただ、すぐにクラスのみんなに馴染んで「ミドリちゃん」と呼ばれていたのと、碧って字が珍しくて記憶に残っている。

「L高の子らが『おーいお茶』て言うたんやけど、なんの意味?」

「あ、この制服」

「え……?」

「色が、そのお茶のボトルとか缶の色といっしょだろ」

「あ、ああ……あたしは、シックでええと思うけどなあ。ちょっと立ってみて」

 碧は遠慮無く、ぼくを立たせると、ホームの姿見に二人の姿を映した。

「うん、デザイン的にも男女のバランスええし、イケテルと思うよ」

 そう言うと、碧は遠慮無く、ぼくのベンチの真横に座った。

 そのとき碧のセミロングがフワっとして、ラベンダーの香りがした。

 そして何より近い。

 普通、転校したてだと、座るにしても、一人分ぐらいの距離を空けるだろう。

 ぼくは不覚にもドギマギしてしまった。人なつっこいぼくだけど。ほとんど初対面の人間への距離の取り方では無いと思った。

「田島くんは快速?」

「うん、たいてい今のか、もう一本前の快速……ってか、ぼくの名前覚えてくれてたんだ」

「フフ、渡り廊下に居てても聞こえてきたから」

「え……それって?」

「人からノート借りといて、UZAはないよねえ」

「聞いてたのか……」

「聞こえてきたの。二人とも声大きいし、あのトドメの一言はあかんなあ」

「ああ……UZAはないよなあ」

「ちゃうよ。UZAて言われて、呼び止めたらあかんわ」

「え、オレ呼び止めた?」

「うん、『沙耶あ!』て……覚えてへんのん?」

 ぼくは、ほんの二十分前のことを思い出した。で、碧が言ったことは、思い出さなかった。

 ホームの上を「アホー」と鳴きながら、カラスが一羽飛んでいく。

「あれえ、覚えてへんのん!?」

「うん……」

 ばつの悪い間が空いた。

 ぼくはお気楽なつもりでいたんだけど、実際は、みっともないほど未練たらしさのようだった。

 ゴオオオオオオオオオオオオオオオ!

 その時、特急が凄い轟音とともに駅を通過していった。

 おかげでぼくのため息は、碧にも気づかれずにすんだようだ。

「その、みっともないため息のつきかた、ちょっとも変わってへんなあ……」

 そう言うと、碧は、カバンから手紙のようなものを取りだして、ゴミ箱のところにいくと、ビリビリに破って捨てた。ぼくの、ばつの悪さを見ない心遣いのようにも、何かに怒っているようにも見えた。その姿が、なんか懐かしい。

「あたしのこと、思い出さない?」

 碧は、ゴミ箱のところで、東京弁でそう言った。

「あ……」

 バグった頭が再起動した。

「みどりちゃん……吉田さんちのみどりちゃん?」

「やっと思い出した、ちょっと遅いけど。やっぱ、手紙じゃなく、直に思い出してくれんのが一番だよね」

 小さかったから、字までは覚えていなかった。みどりは碧と書いたんだ。小学校にあがる寸前に関西の方に引っ越していった、吉田みどりだった。

「今は、苗字変わってしまったから。わからなくても、仕方ないっちゃ仕方ないけど。あたしは、一目見て分かったよ、サブちゃん。改めて言っとくね。あたし羽座碧」

「ウザ……?」

「うん、結婚して、苗字変わっちゃたから」

「け、結婚!」

「ばか、お母さんよ。三回目だけどね」

――二番線、間もなくY行きの準急がまいります。白線の後ろまで下がっておまちください――

 向かいのホームのアナウンスが聞こえた。

「じゃ、あたし行くね、向こうの準急だから。それから『沙耶!』って叫んではなかったよ。ただ顔は、そういう顔してたけどね……ほな、さいなら!」
 
 そう言うと、碧は、走って跨道橋を渡って、向かいのホームに急いだ。同時に準急が入ってきて、すぐに発車した。前から三両目の窓で碧が小さく手を振っているのが見えた。

 ぼくのUZAに、新しいニュアンスが加わった……。

 

 

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