大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・238『目にはさやかに見えねども』

2021-08-25 13:34:35 | ノベル

・238

『目にはさやかに見えねども』頼子     

 

 

 ソフィーは優秀なガードだ。

 

 来日一年で完ぺきに日本語をマスターしたし、散策部という私の我がままで作った部活にも付き合ってくれているのに、片手間にやっている剣道でも三段の腕前になった。

 何度か危ない目にも遭ったけど、その都度ソフィーの活躍で切り抜けてきている。

 そんなマイディアガード・ソフィーの活躍をご披露したいんだけど、警備上の問題があるので、時効になったら本にしようと思ってます。

 きっとAMAZONのトップのランキングになるに違いないと思うわ。

 化粧っ気のない子なんだけど、その気になって磨けば、わたしより光ると思う。

「ヨリコが優位に立てているのは、王位継承者という一点だけです、精進しなさい!」

 物事に公平なお祖母ちゃんは言う。

 その通りなんだろうけど、わたしは自分が王位継承者であることをアドバンテージだとは思っていない。

 だけど言わない。

 

 そんなソフィーに勝った!

 

 昨日の朝のことよ。

 いつもの散策というか散歩に出て、例の神社の前に来た時。

「あ……」

「なにか?」

 わたしが立ち止まったので、ソフィーは周囲を警戒する。

 ジョン・スミスみたいな公的ガードならサングラスしてるんだけど、ソフィーはご学友という立場でもあるのでサングラスはしない。

 薄く微笑んだまま、周囲にガンを飛ばす。

 ガンを飛ばしても、けしてキョロキョロはしない。

 視野の端っこで探って、怪しいとなって、初めてガン見する。

 ほんの二秒ほどなんだけど、異変に気付かないので、視線をわたしに戻す。

「ね、気づかない?」

「はい?」

「蝉の声がしないのよ」

「ハ……そう言えば!?」

「ふふふ、気づかなかったのね?」

「ふ、不覚でした(;'∀')」

「仕方ないわよ、蝉の声なんて、単なる環境音。脅威にはならないから」

「はい、しかし……」

「ジョン・スミスが言ってた『ガードは全てのものに注意を払っているわけではありません。脅威、あるいは脅威の兆候には敏感ですが、無害な環境音は、ほとんど意識から外しています』って」

「はい……確かに、鳥の声などには敏感です。鳥は、人が近くにいると鳴きませんが、虫は人が居ても居なくても好きに鳴いていますから、自然と外していたのかもしれません。殿下はどうして……」

「うん、蝉は夏のシンボルなのよ。セミの声がしなくなってトンボが飛び始めると秋の始まり」

「そ、そうなのですか(^_^;)、毎朝、天気予報、気温、湿度のチェックはしているのですが、数値的には相変わらず温帯モンスーン真っ盛りの数値を現しています」

「ふふん」

「なんでしょうか殿下?」

「こんな和歌があるのよ……」

 ソフィーは真剣な目になって、間合いを詰めてきた。なんか怖いぐらいなんだけど、涼し気に続ける。

「秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ 驚かれぬる (藤原敏行) 」

「え、秋は絹……絹はシルク……さやかは、クラスで出席番号13番の坂下さんのファーストネームで……」

「あ、ごめん(^_^;)」

 ソフィーは古典は苦手なんだ。

「えとね……目に見えるほどには分からないけど、吹く風の音に、なんとなく秋の気配を感じてビックリしたよ……てな意味なのよ」

「それは、忍者が詠んだ和歌なのですか!?」

「い、いや、藤原のなんとかさん、ただの貴族さんよ」

「なんと……ただの貴族でも、忍者並の感覚を持っているのですね!」

「アハハ……」

「恐るべし、日本人……ソフィーは精進いたします、殿下!」

 

 領事館に戻ると、さくらからメール。

 

―― 先週からセミの声が弱くなって、そろそろかと思ったら、トンボがいっぱい。夏もおしまいですね! ――

 これを見たソフィーが、また傷ついた。

「で、殿下ならともかく、さくらに負けるなんて……!」

 いやはや……。

 

 そして、今日から二学期。

 

 久々に通学路を学校に向かっていると、ソフィーが警告を発した。

「ウンコ!」

「!?」

 珍しいことに犬の〇ンコが落ちていて、危うく踏みそうになったのを注意してくれた。

 でも、微妙にタイミングが遅くてタタラを踏む。

 まあ、すぐに手を取って助けてくれたんだけどね。

 微妙に遅れたのは、ひょっとして意趣返し?

 

 アハハと笑い合って、二学期の始まり始り……

 

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やくもあやかし物語・95『コルトガバメント・1』

2021-08-25 09:41:15 | ライトノベルセレクト

やく物語・95

『コルトガバメント・1』   

 

 

 今日は、朝からお爺ちゃんと二人。

 

 お婆ちゃんは二十年ぶりの同窓会に出かけている。お母さんは、いつものようにお仕事だし。

 つまり、広い家に二人っきり。

 ここに来たころはね、ごく最初のころは、なかなか自分の部屋から出られなかった。

 自分の部屋が居心地がいいのと、人と二人っきりになる気まずさからね。

 

 ちょっとマシになると、リビングに居続けた。

 

 家族って、そういうもんだと思ってたから。

 ドラマとかアニメとか見ると、家族ってのは、たいがいリビングで団欒してるでしょ。

 でも、そういうのって間が持たなくなって、それで、遠慮なく自分の部屋で好きなことをやってるわけ。

 遅くまでアニメの一気見してたので、チカコは消しゴムを枕に寝息を立てている。

 そっとハンカチのお布団をかけてやると、廊下の向こうから音がする。

 

 パン パン パン

 

 なんだろ?

 気になって廊下に出ると、音は、廊下を曲がった向こうからする。

 行ってみると、音はお爺ちゃんの部屋からだ。

「あ、おどかしちまったかな?」

 部屋を覗くと、イタズラを見つけられた子供みたいに頭を掻くお爺ちゃん。

 こういう子どもっぽい仕草をしなかったら、タマゲテいたかもしれない。

 床の上に座ったお爺ちゃんの周りには十丁ほどの鉄砲が並んでいた。

「モデルガン?」

 お爺ちゃんの様子から、本物ではないと分かる。

「ああ、むかし、友だちに貸していたのが戻って来てね。劇団をやっていて、小道具に貸してやっていたのが、昨日戻ってきて」

「そんなに沢山?」

「ああ、貸していたのは、これとこれと……三丁だけなんだけどね、一丁だけ音がおかしいんで、他のも出してチェックしていたんだ」

 それにしても、すごい量……思っても言わない。趣味は人それぞれ、パンパン撃ちだしたのもお婆ちゃんたちが出かけてからだし、お爺ちゃん気を遣ってるんだ。

 パス パス

「これだけがおかしい」

「お友だちに貸してたやつ?」

「うん、コルトガバメントっていうハンドガンなんだけどね、なにかが詰まったみたいに湿気た音しかしないんだ」

「詰まってたの?」

「うん、いっかいバラシてみたんだけどね、なにも詰まってないし……まあ、年代物だし寿命かもな」

「そこに、同じようなのがあるけど」

「ああ、これは最新型の電動銃でね」

「電気仕掛けのピストル?」

「ああ、本物みたいに動作するんだ」

「へえ」

「撃ってみようか?」

「うん」

 おっかないんで、軽く耳を塞ぐ。

 

 パンパンパン

 

「おお……」

 なんか、音が連続してるし、反動も凄くて、引き金ひくたびに、上のとこがガシって動く。

 なんか、ガンダムがピストルになったみたい。

「ハハ、ギミックはほとんど本物だからな」

 やんちゃ坊主みたいな笑顔のお爺ちゃん。男っていうのは、いつまでたっても子どもなんだと、お婆ちゃんが言ってたのを思い出す。

「まあ、こっちはオシャカかな」

 年代物の方を押しのけるお爺ちゃん。

「どうするの?」

「婆さんも嫌ってるし、まあ、バラしてから捨てるかな」

「捨てるんだったらちょうだい」

「え?」

「ディスプレーにはなるでしょ?」

「あ、あげるのはいいけど、女どもには見つからないようにしろよ」

「ふふ、あたしも女なんですけど」

「アハハ、いっしゅん忘れた!」

 

 お爺ちゃんは、本当は男の孫が欲しかったのかもしれない。

 

 わたしも不敵な笑みを浮かべて、コルトガバメントを懐に部屋に戻ったのだった……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸

 

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ライトノベルベスト『海岸通り バイト先まで・1』

2021-08-25 07:18:13 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『海岸通り バイト先まで・1』  

 

 

 

 しまった! 

 バスの発車音で目が覚めた。

「おばさーん、次のバス何時かなあ!?」

 ぼくは、階下のおばさんに大声で聞いた。

「なんだ、まだ居たの。今のバスで出たと思ってたわよ」

       

 今朝は、なぜか早く目が覚めて、一時間も早く朝飯を食った。

 それでバスの時間まで、わずかなまどろみを楽しんでいて、それが本格的な二度寝になってしまったのだ。

「次のバスって……一時間先だわよ」

 階段を駆け下りてきたぼくに、民宿のおばさんは気の毒そうに時刻表を指さした。

 

 ミーーーン ミーーーン ミーーーン

 

 頭の中が真っ白になって、蝉の声だけが際立った。

 二三秒、呆然として玄関のピンク電話に。
 受話器を手にしたところで、肝心の電話番号が頭からとんでしまっていることに気づく。

 ドタドタドタ!

 慌てて二階に戻り、バッグから手帳を取りだし、そのまま電話のところに戻った。


「あ……」


 同宿のA子さんに先をこされていた。

「だからさあ、もう二三日は帰んないから……お母さんに代わってくれる……あ、お母さん……」

 ぼくは、こういう時にはっきりとものが言えない。

 狭いロビーで新聞を読むふりをした。夕べも、今日からのバイトに備え、早く寝ようとした。でも、いまホットパンツのお尻を向けて電話しているA子さんたちにつかまり、ウダウダと、二時近くまで付き合ってしまったんだ。

 地方新聞の三面記事、海岸通りの北の方で、大型タンクローリーが事故。そこを眺め、四コママンガを見ている時に声がかかった。

「はい、電話かけるんでしょ」

 A子さんが、お気楽に受話器を振って促している。

「あ、ども……もういいんですか」

「急ぎの電話だって、顔に書いてあるわよ」

「すんません」

「優しいのと、気の弱いのは違うって、夕べ言われてたでしょ。神田川クン」

 ちなみに、ぼくは神田川ではない。柳沢二郎。二郎と言っても次男ではない。なぜ神田川かというと、夕べ盛り上がった時に、A子さんの連れの、B子さんやC枝さんに「キミは、神田川のオトコみたいだね」と言われて、そうなった。

「よ、神田川。オネエサンたちといっしょに海岸散歩しない。気が向いたら、そのまま海へザブーン!」

 B子さんは、ピンクのTシャツを、ビキニの上の方が分かるところまで、たくし上げて、ぼくを挑発した。

「よしなさいよ。あの子バイトのために来てんだから」

「まあ、海まで来て川を相手にすることもないか」

「B子」

 A子さんが、軽くたしなめた。いつの間にかC枝さんもロビーに現れ、三人連れだって玄関を出ていった。

 

 ボクは、テレホンカードを入れて、バイト先の「海の家」まで電話した。

 

「……すみません。バスに乗り遅れて、少し着くのが……」

――ああ、いいよいいよ。夕べの海岸通りの事故で、道が塞がってっから。お客さん来るの遅れそうだから――

 オジサンが優しく言ってくれた。

 そう言えば、今、新聞で知ったところだ。

 ボクは、改めて新聞を読み直した。事故の復旧は、昼前までかかる見込みと書かれていた。

 でも、やっぱり、できるだけ早く行こう。バイトとは言え仕事は仕事だ。それも初日。誠意は見せておかなければならない。

 誠実さと気の弱さが、同じ結論を出した。

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