大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・225『クマさんの悲鳴』

2021-08-02 14:33:36 | 小説

魔法少女マヂカ・225

『クマさんの悲鳴語り手:マヂカ   

 

 

 あ あああ!

 

 表門の方でクマさんの悲鳴がした!

 台所でお茶を飲んでいた箕作巡査は、瞬間で請願巡査の使命感に燃え、腰のサーベルを押えて表門に向かった。

「どうした、虎沢さん!?」

 箕作巡査は、クマさんとは呼ばない。たとえ本名だとはいえ二十歳にもならない女の子に「クマさん」とは呼べないのだ。箕作巡査は下町の育ちなので、クマさんというと落語のクマさんになってしまのだ。

 一度「他の人はクマさんとかクマちゃんとか呼んでるんだから」と水を向けてみたのだが「いや、やっぱり本官は……」と頭を掻いて、虎沢さんと丁寧に呼んでいる。

 門の外に出てみると、据え付け式の郵便受けが壊れて、いっぱいの郵便物がこぼれ落ちて、クマさんが埋もれてしまっている。

「大丈夫か、虎沢さん!?」

「だ、大丈夫、ちょっとビックリしただけだから(^_^;)」

「ちょっと待っていてください!」

 箕作巡査は、門の脇の巡査詰所から柳行李を持ってくると、クマさんを埋めている郵便物を行李の中に移して救助にかかった。

「お礼の手紙が昨日の倍もきて、さすがに郵便受けも壊れてしまって……あ、あたしやりますから、箕作さん、まだご休憩中でしょうに」

「緊急事態が勃発すれば、巡査の休憩など関係ないのです」

「は、はあ、すみません」

 田中執事長をはじめ、高坂家の人間は気づいているのだが、あえて助けには行かない。

 台所では、使用人たちがニヤニヤしながら、門外の様子を窺っている。

 七三の割合で、相思相愛になっている二人なのだ。

 箕作巡査は、見かけはイギリスの騎兵将校みたいだが、中身は典型的な日本男児なのだ、素直に好きとは言えない。

 令和を生きているノンコや、大正少女としては開けすぎている霧子には歯がゆい限り。

 しかし、田中執事長や春日メイド長は「そっとしておくに限る」と意見の一致を見、高坂家の者たちは主従共々、暖かい目で見守っている最中なのだ。

「二人がうまくいけば、震災復興の良い希望になる」

 いつの間にか公爵も事情を承知して「あぶないのは、霧子だ。余計な手出しをしないように目を光らせておいておくれ」とわたし達にも言っている。

 だから、クマさんの悲鳴が聞こえて箕作巡査が駆けていくところを見ると、「さ、宿題やりましょ、ここのところ再生服にかまけていたから」と、さっさと窓辺から離れて机に向かう。

 ウフフフ(* ´艸`)。

「なにが可笑しいの!」

 微笑ましくて笑ってしまったノンコに八つ当たり。ノンコは、霧子をほっぽらかして一階に下りて行った。

 

―― お嬢様! 感謝の手紙がいっぱい来ておりますよお! ――

 

 クマさんの明るい声が上って来る。『これ、はしたない!』春日メイド長がたしなめる。『すみません、つい嬉しくって(^_^;)』クマさんが謝っている。

「霧子、見に行こう!」

「なによ、真智香まで」

「だって、感謝の手紙だよ」

「そりゃ、世間様のお役に立ったんだから手紙くらい来るわよ。まとめてお父様にお見せしとけばいいのに……」

 タタタタタ

 さっき下に下りたばかりのノンコの足音。

「霧子、今日はのは霧子宛ばっかりやし!」

「え、え、どうして?」

「ほら、見に行こ!」

「う、うん」

 玄関ホールに行くと、柳行李二杯の手紙。

 そのほとんどが、霧子宛だった。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
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せやさかい・220『女王陛下の暑中見舞い』

2021-08-02 08:42:51 | ノベル

・220

『女王陛下の暑中見舞い』頼子      

 

 

 お祖母ちゃんから暑中見舞いが来た。

 

 日本には年賀状とか暑中見舞いとかがあることを教えたのはお母さんだ。

 お祖母ちゃんは、職業柄、ちょっとした手紙を書いても影響が大きい。

 だから、儀礼的でも習慣的な便りを出す習慣は嬉しいんだ。儀礼にことよせて、いろいろ書けるからね。

 

 お祖母ちゃんの職業は女王陛下。

 わたしは、そのお祖母ちゃんの唯一の孫で、王位継承権第一位。

 つまり、いつの日か、お祖母ちゃんが神に召されたら、あくる日からわたしは一国の女王になる。

 ただ、わたしには半分日本人の血が流れてるから、わたしが日本国籍を選択したら王位を継げなくなる。

 あるいは継がなくて済む。

 その時は、百年以上昔に枝分かれした分家から養子を迎えることになる。

 えと、お祖母ちゃんの、そのまたお祖母ちゃんの又従姉妹の子どもあったか孫だったか……まあ、ほとんど他人。

 日本と同様に王室典範というのがあって、そこに王位継承の規則が書いてあって、その規則では、そうなってる。

 これは、お祖母ちゃんでも変えられない。

 優柔不断なわたしは、落城寸前の大坂城みたく外堀を埋められてる。

 

 去年の春から、大阪市内の総領事館に住んでいる。

 一応はコロナ対策。

 王位継承者のわたしに万一の事があったらって、まあ、もっともな理由。

 領事館では完全に王女様。

 専属のガードが二人も付いている。

 ひとりは、元特殊部隊隊員だったジョン・スミス。顔は優しいんだけど、アングロサクソン丸出しのマッチョ。身長も190に近くって、たいてい黒のサングラスしてる。

 公的な外出の時は、こいつが付いてくる。

 まあ、ジョン・スミスはわたしが王女にならなくても、軍隊の教官だとか、諜報部だとかの仕事がある。

 

 もう一人は、ソフィー。

 同い年の女の子。

 代々、王室に仕えた魔法使いの末裔。

 なんでも、フォグワーツを首席で卒業したとか(お祖母ちゃんのヨタ話)。

 一昨年、エディンバラに行った時、ソフィーが魔法めいたワザを使ったのを見たけど、魔法めいたということで、わたし的には彼女を魔女認定したわけではない。

 日本への憧れが強い子で、わたしのガードを主任務にするということで、わたしと同じ聖真理愛学院の二年生をやっている。大好きなアニメや日本文化に接することができて、彼女はめちゃくちゃ喜んでる。奥ゆかしい子だから、露骨に嬉しがったりはしないんだけどね。

 わたしが、日本国籍を選んだら、ソフィーは国に帰らなくてはならない。

 いまは、ほとんど姉妹のようになってしまったソフィーを不幸には出来ない。

 

 一昨年、天皇陛下が即位された時に、お祖母ちゃんが来日して陛下にご挨拶して式典にも出た。

 その時に、連れまわされて、新聞やテレビにもネットにも出回って、世間の扱いは王女様。

 ね、外堀埋められまくりでしょ(;゚Д゚)。

 その時、さる内親王様と仲良くなった。

 時々、メールとか手紙が来る。

 lineはしないわよ。あれって、情報漏れまくりだからね。

 最近は、お身内のことで、内親王さまも気をもんでいらっしゃる。詳しいことは書けないのでごめんなさいなんだけど。

 

 お祖母ちゃんは、そういうこと、全部知ってる。

 

―― 王室典範を詳しく調べたら、ヨリコの子ども(つまりわたしのひ孫)でも王位継承権があると分かったの。むろん、ヨリコが正式の王女になってくれるのが一番なんだけど、そういう道もあるということです ――

 なんかねえ……このクソババアって感じです。

 お母さんが教えてしまった暑中見舞いにことよせてのサラミ戦術。

 もう半月もしたら残暑見舞い? まさか、そこまではね(^_^;)。

 

 さくらが、朝顔の双葉が出て来たって写真を送ってきた。

 しゃがんで、朝顔を見つめているさくらと留美ちゃんの写真も付いている。

 コロナでは、いろんなことがあったけど、可愛い二人の後輩が同じ屋根の下で暮らすようになったのはいいことだ。

 

 さくらの真似をして、ソフィーと二人、領事館の庭に朝顔の種を植えてみる。

 三日もすると、双葉が出てくるらしい。

 コロナの中、ささやかな楽しみが増えました(⸝⸝´꒳`⸝⸝)。 

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ライトノベルベスト[サンドイッチの妖精・3]

2021-08-02 06:04:54 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

〔サンドイッチの妖精・3〕  





「もう電車もないし、泊まっていってください」

 麻耶が思い切ったことを言う。

「いや、しかし……」
「島田さんなら大丈夫。それにお互い大人なんですもん」

 さらに際どいことを言う。

 しかし大人の分別と解してリビングのソファーで寝ると申し出た。

「ソファーだなんて、どうぞ客間のベッドで寝てください。二階に上がって右。いや左ですから」
「麻耶くん、きみは?」
「姉の部屋で寝ます。わたし姉とは別々に暮らしてましたので、そうします」
「いっしょに住んでたんじゃないんだ」
「フフ、さっきも言いましたよ、もう忘れてる。お風呂沸かします、パジャマはゲスト用出しておきますから……」

 そういうと麻耶は楽しげに風呂場に降りて行った。

 風呂に入って気づいた。男物のパジャマが洗い立てで置いてある。死んだ美耶には、いい男がいたんだろう。

「ありがとう、いい湯だった」
「どうも、じゃ、あたしもお風呂つかって寝ます。どうぞお先にお休みになってください」
「うん、そうさせてもらうよ」

 オレは階段を上がって、左の部屋に向かった。すぐにベッドに入ったが、かすかに浴室の気配がして寝付けない。おまじないのつもりでベッドの端に転がる。子供時分からの癖で、よその家にいくと、こうすると寝つきが良くなる。

 同時にハッとした。オレの横に麻耶が入ってきたのだ。

「ごめんなさい、部屋を間違えたみたい(#
'∀'#)」

 そう言いながら、ベッドを出ていく気配が無い。

「えと……いっしょに寝ていいですか。今から冷たいベッドにいくのも……」
 企みかどうかは判断しきれなかったが、これは、もう据え膳だ。でも、軽く念を押した。
「寒いなら、もうちょっと寄ってきてもいいよ」
「え、あ……うん」

 麻耶は意外なくらい大胆に寄り添ってきた。手を延ばすと拒みもしない……下着も付けていなかった。
 麻耶は焼き立てのパンのように熱く、かつ柔らかかった。この歳まで女性経験が無かったとはいわないが、麻耶の方からリードしているようで、逆になってしまった。

 三度交わったあと、麻耶は済まなさそうに告げた。

「ごめんなさい……あたし、美耶の妹じゃないんです」
「え……」
「二人の親は、美耶が成人した後離婚して、妹の麻耶はお母さんについていって、今は北海道です」
「じゃ、きみは……?」

 不思議なことにハメられたというような後味の悪さは無かった。ここに来てからの話や態度は美耶の身内そのものだ。

「あたし……サンドイッチの精なんです。美耶さんが亡くなってからは、あたしが店の切り盛りをしていました。島田さん、結婚してください。美耶は島田さんに惹かれていました。あたし、島田さんと一緒になれたら、ずっと人間でいられるんです。夜明けまでに返事してください。お願いします」

「お、おれは……」

 熱のこもった麻耶……サンドイッチの精の声を聞いているうちに眠りに落ちてしまった。

 オレも四十路だ、なんだか夢みたいな話だけど、これもいいかなと、目が覚めたときには気持ちが決まっていた。

 午前五時、今から寝なおしたら、きっと寝坊する。スヤスヤ眠っているサンドイッチの精を見ていると、とても愛おしくなってくる。心は決まった。そしてトイレに行きたくなった。

 春とは名ばかりの二月の末である。夕べ抱き合って、二人とも裸だ。
 オレは彼女の裸の背中を見ながらガウンを羽織ってトイレに向かった。

 オレは無粋な音をたてないように座りションをした。この業界人の悲しさでしゃがんでもよおしたら、大きな方もしてしまう。兵隊の見敵必殺の心得である。

 で、用事を済ませてベッドに戻ると彼女の姿が無い。ベッドは、まだ温かい、布団は彼女を包んだ形のまま残っている。

 オレは、うろたえたが思いついた。

 昨夜同窓会で食べたサンドイッチを、消化して形を整えて出してしまったことを……!

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ホリーウォー・23[ミッションパラサイト・2]

2021-08-02 05:53:58 | カントリーロード

リーォー・23
[ミッションパラサイト・2] 





 潤沢に擬態したスグルは、ワンボックスの先回りをして天安門中央前で待ち受けた。

 ガシャン! ブチブチ!

 やってきたワンボックスのウインドウを肘でぶち割ると、ダッシュボードの下に手を伸ばし、コードをまとめて引きちぎった。

 やっと止まった車に武装警官の一団が銃を構えて取り囲んだ。

「慌てるな、警察官諸君。この車は外部からコントロールされていた。運転していたお嬢さんにも罪はない」
「あるかないかは警察が調べる。あんたの身のこなしもただもんじゃない。いっしょに署まできてもらおうか」

 金筋の入った警官が、銃を構えたまま居丈高に言う。春麗と雪嶺も女性警官に捕まっている。

「慌てるなと言っただろう。君はわたしのパルスが読めないのか!?」

「え?」

 金筋の顔が青ざめた。

「情報局の……!?」
「名前を言わなかったのは賢明だな。気を失っているが、運転しているのは北京市長のお嬢さんだ。ほれ、これが自動操縦のボックスだ。分析して出所を調べろ、これは単なる自動車事故。そうしておけ、君の進退にかかわるぞ」

 情報局の看板と呉潤沢の名前は効果絶大だった。この件は潤沢の預かりとなった。

「きみは、北京市長の娘だが、中身は違うだろう」
 潤沢のスグルは、自宅に着くなり、娘に迫った。
「いいえ、北京市長の娘です、すぐに家に戻してください」
「わたしの目はごまかせんよ。体と心の波動が一致しない」
「どんな方法か分からないけど、あなた、市長の娘にパラサイトしているわね」
 雪嶺のヒナタが続ける。
「……あなたがた、何者?」
「敵ではないとだけ言っておこう。世界はきみが思っているより複雑なんだよ、北京市長の娘が天安門で自爆するよりね」
「車は、あとで公安が引取りにくるでしょうが、改造した工場は分からなくしてあるわ」
「ううん、公安が調べたら、公安の自動車整備部に行き着くようにしといた。ちょっともめてもらおうと思って」

 春麗のキミがいたずらっぽく言う。

 それでも娘は頑なだったが、日本のエージェントであることまで明かすと、ようやく安心してくれた。もっとも、それを証明するために、キミはアンドロイドとしての技術の一つとして、擬態の技術を見せてやらなければならなかったが。

「日本には、そんな技術があるんですね……わたし、チベット人のツェリン・チュドゥンと言います……いえ、だったというのが正確ですね。わたしは還魂の術で、市長の娘の体に入ったんです」
「パラサイト!?」
「よほど適合した人間同士でなければできません」
「じゃ、きみの体は?」
「魂が抜けると、体は死んでしまいます……わたしには戻る体がありません。市長の娘の魂を眠らせて、今は林音美として生きるしかありません。そして林音美として、天安門で死ぬ予定でした。漢政府を混乱させるために」
「でもチベットは、秦共和国に併合されてるんじゃないの?」

 ツェリンは庭の柳の木に寄生しているヤドリギに目を移した。

「秦は、漢に寄生しているヤドリギのようなものです。ヤドリギを枯らすのは柳を枯らすのが一番です」
 スグルは、なにを思いついたのか、庭の柳からヤドリギを切り離した。
「今の大陸国家は、みんな、このヤドリギみたいなもんだ。秦みたいにほとんど漢に取り込まれそうになっているところもあるが、互いに持ちつ持たれつだ。本気でこいつをバラバラにしよう……」

 スグルは、ヤドリギに張った蜘蛛の巣に絡み取られていた蝶々を器用に放してやった。

 ツェリンがやっと微笑んだ。

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