大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・062『天狗党金剛基地跡』

2021-08-26 11:59:51 | 小説4

・062

『天狗党金剛基地跡』 越萌メイ(コスモス   

 

 

 ここじゃまずいなあ。

 

 破れたジーパンを繕わなければならないけど、山頂はまずい。

 遠足登山の小学生たちはじめ、登山客が数百人は居る。中には男の人のグループもあって、お姉ちゃんがジーパンを脱いで繕うのははばかられる。

 小学生の何人かが社長の災難に気づいて、ウフフと笑ったり、気の毒そうにしていたり。

「下の方でやろう……」

 そう言って、お尻を押えたまま柵の下を顎でしゃくる。

「ええ、そうですね(^_^;)」

 月城さんが後ろを庇って、柵の切れ目から下に下りる。山頂の人たちからは災難に追われた緊急避難に見えるだろう。

「ちょっと待ってね」

 藪の陰に入ると、潔くジーパンを脱ぐ社長。

 形のいい脚とお尻が露わになる。

「ふふ、自分と比べたでしょ?」

「さっさと履き替えて」

 社長のソウルは児玉元帥だけど、ボディは技研の敷島教授が作ったダンサーロボットのJQだ。古今東西の美女のデータを読み込んで作られているので、マーク船長の趣味で調整されたわたしのボディーよりもできがいい。

「お二人とも素敵ですよ」

 月城さんが間をとる。

 そう言えば、月城さんは人間のボディーなんだろうか?

「さ、行こうか」

 ジーパンを履き替えると、すぐに行動を起こす。

 今まで居た薮の切れ目には三人のホログラムをかましてある。数十分なら災難ついでに下の景色を堪能している三人連れに見えるだろう。

「こっちです」

 月城さんが指差したのは車一台分ほどの苔むした岩だ。

 ピ

 ハンベをかざすと数秒でロックが解除され、岩に人一人が通れる口が開く。

 

 ブーーーン

 

 聞き慣れない動力音がして岩室が息づく。

「ジェネレーターから特別制なのね」

 社長が感心する。

「はい、東大阪の工業力です」

「なるほど……」

 そのあとは、無口のまま岩室の奥に進む。

 進むにしたがって明かりがついていき、岩室は下り坂になったトンネル構造だと分かる。

「ここが天狗党の金剛基地だったのね」

「正確には、東大阪OS基地です」

「乗っ取られたんですよね……」

 

 そう、ここは満漢戦争のころ、東大阪のオッサンたちが立ち上げたパルス船の研究開発施設なのだ。

 OS基地のOSはOperating Systemの略ではない、オッサンのイニシャルなのだ。

 ごく初期は、24世紀に相応しい小型パルス船を開発しようという取り組みだった。

 オッサンたちは、平成・令和の昔に名を轟かせた日本の軽トラック的宇宙船を目指した。

 巨大なパルス船は大阪の中小企業では持て余す。そこで、ドアツードアをコンセプトに小型軽量、かつ高速のパルス船を作ることにした。

「試作船のハンガーですね……」

 二十メートルほど進むと、やや広いところに出てきて、そのスペースには五つの簡易ブースになっているのが分かる。

「宝石箱の区切を連想させますね」

 そう呟くと、月城さんがクスリと笑う。

「わたしは菓子箱の区切りを連想しました」

「社長は?」

「言ってもいいけど、ご飯が不味くなるわよ」

 そうだ、お姉ちゃんの正体は修羅場を潜り抜けてきた軍人だった(^_^;)

 

 月城さんも理解して、三人大人しく進む。

 

 ブースの床と天井にはフックが付けられていて、建造中の船を固定して作業していた様子が窺われる。

「完成していたら、個人所有の惑星間パルス船ができたでしょうね……」

「天狗の奴らが潰してしまったんだな」

「こちらが、ロボットブースのようです」

 月城さんが指差したのは、ブースをぶち抜いて大きな作業空間にしたスペースだ。

 一つの作業スペースが四つにされて、それぞれ作業台が置かれている。

 船に変わってロボットを作った様子が窺える。

「船の小型化は、量子CPの小型化や駆動・運動機構の小型化に結びつきます。それがロボットや、諸々の兵器開発やその小型化に結び付いて、やがて、それに目を付けた天狗党に乗っ取られる結果になったんだと思います」

「CPは撤去されています……」

 施設中央の、そこだけ若い床を指さす月城さん。

「各種機器はそのままのようだから、機器のデータを集めれば、なにか分かるかもしれない……ほら、これとか……」

 お姉ちゃんが触れたインタフェイスには3Dコピーの記録が出てきた。

「何を作ったか、解析すれば見えてくるものもある」

「レプリケーターからは、食品の嗜好が分かるし、通信端末にからは送受信の残滓、重量計からは荷重物の凡その記録、エアクリーナーやトイレからはサニタリーの記録、ダストやゴミ箱からは、ここに居た人間の残滓が見つかるかもしれないわ」

「北大街で遠足登山を企画しましょう」

「十人で五六回も通えば、かなりの情報が取れるでしょうね……取りあえず、レプリケーターとゴミ箱の記録を取っていこうか」

 十分ほどでデータを取ると、柵下の薮に戻り、ホログラムと入れ替わって頂上に戻る。

 小学生たちは、お弁当を食べ終わったところらしく、後片付けをしている。

 数人の女の子が、お姉ちゃんのジーパンが直っているのに気が付いて、ニッコリしてくれる。

 あとは、あちこち写真を撮って、商売のネタを集めて帰った。

 表稼業のシマイルカンパニーも軌道に載る予感。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

 

 

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ライトノベルベスト『海岸通り バイト先まで・2』

2021-08-26 06:40:42 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『海岸通り バイト先まで・2』  

 

 

 

 しかし歩くことはないだろう――ぼくの中の横着さがグチを言う。

 

 ぼくは、一時間先のバスを待つよりも、五十分かけて、海岸通りをバイト先まで、歩くことに決めた。

 Tシャツに短パン。帽子は、民宿のおばさんの勧めで、ジャイアンツのキャップを止めて麦わら帽に替えた。大きめの水筒ごと氷らせた裏山の湧き水を肩から斜めにかけて、首にはタオルを巻いた。

 歩くと決めて、民宿のおばちゃんが、あっと言う間に、このナリにしてくれたのだ。

 民宿の寒暖計は、二十九度を指していたので、少し大げさかと思ったが、十分も歩くと、おばちゃんの正しさが分かった。

 民宿から続く切り通しを抜けると、見はるかす限り、右側は海。まともに真夏の太陽にさらされる。ぼくは海沿いの「海の家」のバイトと高をくくっていた。アスファルトの道は、もう四十度はあるだろう。

 通る車でもあれば乗せてもらおうかと思ったが、事故のせいか駅とは反対方向の、この道を走る車は無かった。

 砂浜でもあれば、波打ち際に足を晒して涼みながら歩くこともできるんだろうけど、切り通しを過ぎてからは、道は緩やかな登りになっていて、ガードレールの向こうは崖になって落ち込んでいる。

 水筒の氷が半分溶けてしまった。

 溶けた分は、ぼくの口に入り、すぐに汗になってしまう。

 しばらく行くと、ようやく道が下りになり、右手に砂浜が見えだした。

「足を漬けるぐらいならぐらいならいいよな……」

 そう独り言を言って、ボクは「遊泳禁止」の立て札を無視して、砂浜に降りた。

 

 岸辺の波打ち際、海水に脚を絡ませた瞬間、頭がクラっとした。

 

 ぼくは快感の一種だと思った。実際、海の水は、心地よくぼくの熱を冷ましてくれる。

 数メートル波打ち際を歩いて気づいた。波打ち際から四五メートル行くと、海の色はクロっぽくストンと落ち込んでいるのだ。

 なるほど、こんなところを遊泳場にしたら、日に何人も溺れてしまうだろう。

 

 しばらく行くと、遠目にイチゴのようなものが見えてきた。

 

 近づくと、赤と白のギンガムチェックのビーチパラソルだということが分かった。

 ちょっと傾げたビーチパラソルの下にはだれもいない。砂浜には自分が歩いてきた足跡しかついていなかった。

「ちょっとシュールだな」

 そう独り言を言って、パラソルの下……というより、パラソルが作り出している「木陰」の中に収まってみた。

 さやさやと、体から暑気が抜けていく。ほんのしばらくのつもりで、ぼくは憩う。
 
 気づくと、形の良い脚が目に入った。

「気持ちよさそうね」

 目を上げると、白のショートパンツに、赤いギンガムチェックの半袖のボタンを留めずに裾をしばり、栗色のセミロングが潮風にフワリとなびいている。

「あ、きみのビーチパラソル?」

「うん、そうよ」

「ごめん、勝手に使って」

「いいわよ、ちょっと詰めてくれる」

「あ……ああ」

 

 その子は、思い切りよく、ぼくの横に座り込んだ。その距離の近さにたじろいだ。

 

「この辺じゃ見かけないけど、あなた、夏休みの学生さん?」

「うん、東京。でも、遊びじゃないんだ。バイト、お盆まで……」

 そこまで言って、気が付いた。砂浜には、やはり、ぼくの足跡しか残っていない……。

「ふうん……東京だったら、もっと時給とか、条件のいいバイトあるんじゃないの?」

 足跡の謎を聞く前に、たたみかけるように、鋭い質問がきた。

「きみ……本当は、家から逃げ出してきたんじゃないの……?」

 え……?

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