大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・233『恥ずかしがりの朝顔』

2021-08-15 09:15:04 | ノベル

・233

『恥ずかしがりの朝顔』さくら     

 

 

 終わってしもた!

 ……と言うたら、なに連想しますぅ?

 

 オリンピック? 勉強しよ思たら切れてしもてるシャーペンの芯? 日々更新されるコロナ感染者数?

 水上バイクかっ飛ばして殺人未遂で訴えられたオッサンら? 食べよ思て出したら一年前に賞味期限の過ぎてたパスタ?

 だれかの人生(うそうそ(^_^;))?

 

 正解は留美ちゃんの宿題。

 

 朝ごはん食べて、今日も雨なんで散歩は諦めて、宿題をやろう!

 昨日までは、ダイニングのテーブルに並んで宿題やってた留美ちゃんは、文庫を取り出して読み始める。

「え……もしかして、終わった?」

「え、あ……うん……終戦記念日だしね(^0^;)」

 うまいこと言う。

 うちら中学生にとっては、夏休みの宿題は、まさに戦い。

 それをやり終えたんやさかい、まさに終戦。

 せやけど、テーブルの向こうとこっちではニュアンスがちがう。

 留美ちゃんは予定通りやり終えて、ミッションコンプリート、勝利者の終戦。

 うちは、その留美ちゃんの前で、シコシコ戦闘を続けてる。宿題戦線敗残者の終戦。

 

 便利な言葉やねえ、終戦いうのは。

 単に戦争が終わったいう意味で、勝った方でも負けた方でも使える。

「終戦記念にお茶しよか」

「え?」

「シュウセンキネン」

「あ、ああ……」

 お寺と言うのは、お八つというかお茶うけというか、ちょっと食べるものには困りません。

 檀家さんから頂いたスィーツ(たいてい饅頭的な)を持ってきてお茶にする。

「あら、もうティータイム?」

 詩(ことは)ちゃんが来て、ちょっと驚く。

「うん、終戦記念」

「え、ああ……」

「留美ちゃん、宿題やり終えたさかい、その記念!」

「アハハ、さくらはなんでも記念にしちゃうんだ」

「「アハハ」」

「じゃ、わたしはお茶だけにしとく」

 冷蔵庫の麦茶を取りに行く詩ちゃん。

 詩ちゃんは、ちょっと気にしてる。

 中学生いうのは、少々食べ過ぎてもデブにならへんし、ちょっとくらい肥えても「ブタやあ!」とは言われへん。

 大学に入ったころから、ちょっと食べるものに気ぃつこてる。

 高校までは、饅頭三つくらい平気で食べてたのに、このごろは二個にしてる。

 わずか三つ違いやけど、新陳代謝がちがうんやねえ。

 留美ちゃんが読んでる文庫(将棋指しのラノベ)の話題で盛り上がる。

「将棋会館建て替わるんだよね」

「うん、今までは福島区あったけど、高槻に建て替えるそうです」

「藤井壮太って、同年配だけど、なんだか異世界の人って感じ……」

「そうなんですよ、ただの名人じゃ……」

 うちは、将棋の会館があるのも、藤井なんちゃらいう名人もわかりません(^_^;)

 

「ねえ、朝顔咲いたのね」

 

 おばちゃんが、回覧板持って現れる。

「え、うそ?」

「蕾が二つ開いて赤い花つけてたわよ」

「「「ええ!」」

 この声だけは揃った。

 この雨なんで、昨日も今日も水はやってないねんけど、様子は見てる。

 今朝は、まだ蕾が並んでただけで、開くとこまではいってへん。

 

「朝顔って、早朝に開いて、日が上るころには萎びちゃうんだよね」

 三人、プランターの前で首をひねる。

「雨が続いてるせいですかねえ」

「きっとね、恥ずかしがりの朝顔やねんわ……ええねんよ、うちらは家族みたいなもんやさかい、明日からは、恥ずかしがらんと咲いてね(^▽^)」

 よしよししてやると、二人に笑われてしまいました。

 

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ライトノベルベスト『ガルパン女子高生・1』

2021-08-15 06:44:55 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ガルパン女子高生・1』     


 

 ガルパンと聞いて何を想像しますか?

 ミセパン、ハミパン、ガールズパンツなどを連想する方は期待はずれです。

 ガルパンとは、『ガールズ&パンツァー』のことで、大洗の町おこしにも大いに役立ったっていう、スグレモノのアニメです。で、パンツァーとは、ドイツ語でPanzer Kampf Wagenで、戦闘車両=戦車を現します。

 可憐な女子高生が、戦車道にいそしむアニメで、その戦車や戦闘の描写などには定評があり、今でもコアなファンが全国各地に生息していて、この冬にはシリーズ最終映画が封切られます。

 あたしがガルパン女子高生になったのは、二つのきっかけ。

 一つは、スマホの煩わしさ。
 
 ラインなんかやってると、もうヤギさんのお手紙状態。「今なにしてる?」「電車乗ってる」「今は?」「テレビ見てる」「なんのテレビ?」「なまり歌コンテスト!」「なにそれ?」「鉛で歌うたってるの(変換ミス)」「ってか、わけわからん」「アッチャンは?」「前田 敦子かあたしのことか?」「あんたのことに決まってとろうが!」「これからお風呂」「じゃ、しばらくバイバイだね」「うちの、耐水仕様!」「あ、そう」「今から、体洗う」「おお、洗いますか?」「今、どこを洗ってるでしょう?」「え、え、え、どこどこ!?」「ラインじゃ言えません」「この変態オンナ!」などとつまらないこと、この上なし。

 で、止めた。てか、ちょうどヒイジイチャンが亡くなったんで、三日ほど止めざるを得なかったのです。

 家族葬だったけど、親友のアッチャンは来てくれた。

 で、お通夜の晩、シミジミとしてしまった。ヒイジイチャンは97歳だったけど、亡くなる直前まで元気で、あたしのこともよく可愛がってくれた。スマホを買ってくれたのもヒイジイチャン。中学の時、スマホが欲しくて、お母さんにオネダリしたら拒絶された。

「あんなのにハマってどうすんのよ。自腹で払えるようになるまではダメ!」

 と、今時の母親としては珍しいことを言った。うちは、お母さんがダメだと言ったらダメなのだ。

 で、ヒイジイチャンにグチったら、一発で買ってくれたし、毎月の支払いまでやってくれた。

「人間、やって失敗する後悔よりも、やらなかった時の後悔の方が大きい」

 この一言で、お母さん以下家族全員が黙った。

 そのヒイジイチャンが、スマホのお礼を言いに行ったとき(なんせ、本人はスマホもケータイも持っていない)ガルパンを教えてくれた。

「人が死ななければ、戦車ほど面白いものは無い。美保も見てみい」

 で、あたしはガルパンにはまった。

 ヒイジイチャンは、戦時中戦車隊の小隊長をやっていて、戦争がもう一カ月も続いていれば、九州で死んでいたらしい。
 戦後は、陸自で戦車に乗っていた。射撃は特一級で、コンピューターの無かった時代に、30キロでスラロームしながら1000メートル先の的をぶち抜いた腕を持っていた。

 遺品には、ラジコンの戦車が10台ほど出てきた。ヒイジイチャンは、よくこれで、BB弾を発射して遊んでいた。

 子どもみたいなジイサンだと思っていたけど、やってみると案外ってか、すごく難しい。まっすぐに走ることさえ、あたしには出来なかった。

 ラジコンはオモチャだと思っていたけど、ヒイジイチャンはこまめに改造して、相対速度、砲塔の旋回、弾の発射の間隔など実物通りにしていた。

「61式が、世界で一番」と、よく言っていた。

 ネットやらで検索するとアメリカのM47の縮尺コピーみたいな戦車。ちょっと詳しくなると、車高が高いことや、変速機のカバーを車体前面のネジ留めにしたことで、前面装甲に問題があること。変速のタイミングがデリケートで、世界でも操縦の難しい戦車であることなどが分かった。

 でも、日記に、こう書いてあった。

 2000年3月30日、61式全車退役。一度も実戦に出ずに退役した世界で唯一の戦車になった。こんなに目出度いことはない。

 軍隊ってのは、戦わないためにあるんだ。ヒイジイチャンの言葉を思い出した。でも、ヒイジイチャンの理解は、まだ浅かった。

 それは、ラジコンの戦車のメンテをやっているとき、M4戦車の車体の中から出てきたUSBメモリーがきっかけだった……。

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クレルモンの風・12『人間オセロ』

2021-08-15 06:27:09 | 真夏ダイアリー

・12

『人間オセロ』         


 

 それでもハッサンは、礼儀正しくリムジンで寮まで送ってくれた。

 逆説の接続詞「それでも」で分かるとおり、あたしはハッサンの申し出を断った。

 申し出って……あれよ、お嫁さんになってくれって、突然の告白。

 あたしは、ハッサンは嫌いじゃない。ノリの良すぎるアルベルトやエロイなんかよりは、側にいて疲れない。最初想像していたより、すごく相手の気持ちを大事にする人だ。

 でも、それは、ハッサンが同じ寮生だからだ。寮生として気の置けない友だち。それ以下でも、以上でもない。

『人間はやって失敗する後悔よりも、やらないで、諦める後悔の方が大きい。だからダメモトでも当たってみようって、それだけだから、気にしないでユウコ』

 ハッサンは、これを正確な日本語にしてあたしに伝えるようにアグネスに言った。

「ユウコがクレルモンに来て、フランス語が出来ないなら入学でけへん言われて、粘り倒して入学したときと同じ気持ちや。ユウコ、あのまんま日本に帰ったらムチャクチャ後悔したやろ。ハッサンは、あの時のユウコと同じ気持ちや」

 めちゃくちゃ意訳だったけども、気持ちは120%伝わった。

 理由を口にすれば、いくらでも出てくる。

 第一に、あたしが『ウイ』と答えても、あたしは第二夫人だ。

 ハッサンは、まだ未婚だけども、第一夫人になる許嫁がいる。親が決めたモノなので、変更はできない。ハッサンは、普段は地味にしているけども王族の一人である。この許嫁は国王も了解しているので、もう、これは絶対。

 こうも言った。ボクは分け隔て無く二人を愛する。平等に妻達を愛し、面倒を見る。イスラムの男に科せられた義務だし、それを履行する自信がある。

 日本にも、むかし側室制度があったことや、今でも二号さんいることを彼は知っていた。そして、イスラムの一夫多妻は違うことを力説した。

 結婚しても日本に住んでいてもいいとまで言った。年に二三度国に来てくれればいいからとも……どこまでも強引だけど、根っこのところで優しい。

 一番の問題は、あたしに、その気が無いこと。

 お父さんのオハコの『神田川』の歌詞の意味がリアルに分かった。

―― ただ あなたの優しさが 怖かった ――

「ユウコ、気にせんとき。あれがアラブやねん。アラブのやり方やねん。持ち上げて、すかして、押したり引いたりしながら、要求を通してきよんねん!」

 あたしは、アグネスが、初めてアメリカ人に見えた。

「ハッサンは、そんなんじゃないわよ!」
「もう、あんたの気持ちをシャッキリさせよ思て言うてんのに!」
「……ありがとう、アグネス」

 そうなんだ、アグネスは、あたしにディベートを仕掛けてるんだ。あたしのグジグジをシャキッとさせるために。あたしが、この大学に入るときも、これでがんばってくれたんだ……。

 ハッサンの申し出を受けるわけにはいかなかったけど、なにかしないではいられなかった。

 そこで思いついた。アラブ人のわりにシャイなハッサンに賑々しい送別会は迷惑だ。その代わり、彼が熱中できて、みんなも参加出来ることを考えた。

 『人間オセロ』をやろう!

 学長の許可を得て、大学の玄関を使う。白黒のチェックで、チェスにうってつけだけどオセロもできる。

 ハッサンに分からないように、64枚の駒になってくれる学生を集めた。アグネスやキャサリンが面白がって、二日で集めてくれた。カミーユ副学長先生が、ミシュランがイベントで白黒の大きな帽子をコンパニオンに被らせていたことを思い出し、ミシュランに掛け合って借りてきてくださった。

『ハッサン歓送、人間オセロ!』のポスターを、あちこちに貼りだした。

 むろん対決は、あたしとハッサン。あたしはハッサンを送り出すのに一番ふさわしいイベントだと思った。
 ポスターを見たハッサンが、ガチ真面目な顔で、あたしに言った。

『あれじゃ、決闘と同じだ。決闘には掛け物がいる……』
『か、掛け物?』
『昔のアラブなら、互いの命だった。そこまでは言わないが、互いに大事なものを掛けなきゃならない。それが、ぼくの国の習慣……オキテだ』
『そ、そんな……』
『ぼくが負けたら、ぼくの第一別荘をユウコにあげよう……』
『あたしが負けたら……』
『……ぼくの第二夫人になれ!』

 それだけ言うと、ハッサンは早足で行ってしまった……。

 ああ、藪蛇だあ(;゚Д゚)!

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