大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・061『金剛登山』

2021-08-20 10:15:31 | 小説4

・061

『金剛登山』 越萌メイ(コスモス   

 

 

 千早城跡を通り抜け、わずかに上り下りして見えてくる千早神社の東を丸く回る。

 

 見上げた先には東の空に昇竜のように尾根道が身をもたげている。

 その登りきった龍の頭のところが、標高1125メートルの山頂だ。

「景色が違う」

 尾根道を見上げてお姉ちゃん、いや、社長。

「大阪も神戸も、山は衝立みたいだけど、金剛山だけは孤峰ですからね」

 月城さんが、地元民らしく形容する。

 関東や火星の山を見慣れた感覚では、金剛山は孤峰とまでは言えない。

 衝立のような生駒葛城山系の中では、たしかに1225メートルの標高を誇っているが、連なる凸凸の一つに過ぎない。

 孤峰としては富士山が突出しているし、それほどの高さではないけど、津軽富士と呼ばれる岩木山の秀麗さは太宰治でなくとも感動する。扶桑国の新高山に至っては、富士山の1.5倍の高さがあるが、金剛山ほどの想いは持てない。

 山というものは、人を寄せ付けないほどに峻厳であるか、あるいは人の苦難や歴史を背負っていなければ心を震わせないものなのだ。

「楠公は、この尾根道を通って笠置山の後醍醐天皇の許を訪れ、千早落城の折も、ここを抜けて大和に潜伏し再起を期されました」

「まさに太平記の背骨のようなところね」

「千早神社には寄っていきますか?」

 千早城も素通りだったので月城さんが提案する。

「申し訳ないけど、山頂を目指すわ」

「はい」

 ただの物見遊山や健康目的の日帰り登山ではない。天狗党の動きを調べて、その対応を考えるための予備行動、言ってみれば敵地に潜入しての偵察。その正体が児玉元帥である社長の目的は重い。

 それでも、鳥居の前で合掌礼拝はやっていく。

「他の登山客もやってるからね」

 なるほど、あくまで体裁は女三人の日帰り登山だ。

「火星でも金剛山ブームってのが起こせないかという下心もある」

「火星で金剛山?」

「そう、シマイルカンパニーとしては需要喚起とか市場開拓も大事でしょうが」

「やはり、そっちの方も?」

「ああ、火星の歴史は、まだまだ浅い。独立した国々も、まだ完全には固まり切っていなくて、地球の建国や革命に対する憧れや興味には強いものがある。マス漢国の『三国志』やフランクの『マリーアントワネット』はちょっとしたブームになったしね。扶桑国で『太平記』を当てれば、メディアミックス的に見ても大当たりする可能性がある」

「『正行つらつら』みたいに?」

「『正行つらつら』は、正行の一代記でしょ、三国志のように数代にわたるドラマにすれば時間軸的にも登場人物的にも大きく広がる」

「そうですね、聖地巡礼的な盛り上がりがあれば、ツーリズム的にも大きなブームが引き起こせるかもしれませんね」

「シマイルカンパニーも北大街も大儲けだ」

「北大街は演舞集団でしょ?」

「孫大人が演舞パフォーマンスだけで満足すると思う? ねえ……」

「ウフ」

 月城さんとお姉ちゃんが目配せ。

 

 シマイルカンパニーの設定はマーク船長が手を回して、わたしがおぜん立てしたものだけど、社長は、独自の勘で絵を描いているようだ。

 

「ようし、股覗きをしよう!」

 

 山頂に着くと子どものようなことを言う。

「それって、天橋立とかじゃないの(^_^;)?」

「あっちでもやってるよ」

「ああ……」

 小学校の遠足登山だろうか、子どもたちが股覗きをやって、キャーキャーいっている。

 居合わせた、登山客たちは微笑ましく写真を撮ったりしているが、さすがに真似する者はいない。

「どうせやるなら、子どもたちに混ざろう!」

「賛成です(^▽^)/」

 月城さんまでノッて、子どもたちの横に並ぶ。

「いくよ!」

 足首を掴んで勢いよく前かがみ。

 

 ビリ!

 

 派手な音がして、お姉ちゃんのジーパンの股が裂けた(;'∀')!

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

 

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ライトノベルベスト『ちょっとした躓き・4』

2021-08-20 06:45:35 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ちょっとした躓き(つまずき)・4』 

 




 トキワレジデンスというアパートを曲がって三件目が我が家…………が無かった!

 能勢さん、片山さん、吉田さん……能勢さん、片山さん、吉田さん。
 やっぱ、おかしい。わが清水家は、片山さんと吉田さんの間にある。

 あるはず……なんだけど無い。

 ここに来るまで、街に違和感はなかった。

 むろん全部の家を覚えている訳じゃないけど、生まれたころから慣れ親しんだ街。変化があればピンとくる。

『実感するところから始めようか。いったん家まで帰ってみて、少しは分かるから』

 天海祐希婦人警官は、そう言っていた……このことだったんだろうか。だったらシュ-ルすぎるよ!

 ふと、あたしの後ろに気配を感じた。

「え……!」

 あたしの後ろに、飛行服のニイチャンが立って、あたしごしに片山さんと吉田さんの間を見つめていた。

「え、君は自分のことが見えるのか?」

 飛行服が言った。

「は、はい。あなたも警察関係の人?」
「ちがうよ。僕は鹿屋の第五航空艦隊だ」
「か、カノヤ……?」
「九州の……ま、いいや。やっと話の通じる相手に出会えた。自分は清水太郎上飛曹だ。君は?」
「あ、偶然ですけど、あたしも清水、清水美恵っていいます」
「清水美恵……!?」
「ええ、美しいに恵むって……」
「いっしょだ、自分の妹も、清水美恵なんだ!」

 そのとき、宅配便のトラックが、あたしたちをすり抜けていった。

 二人の意見が一致して、近所の公園に行くことにした。

「じゃ、君は二郎の孫か!?」

 あたしが、名前の由来を言ったら、清水さんが大感激した。

 あたしの祖父ちゃんは清水二郎で、名付け親は祖父ちゃん。

 なんでも若くして死んだ自分の姉さんの名前を、そのまま付けたらしい。

 で、祖父ちゃんは三人姉弟の末っ子で、今は介護付き老人ホームに入っている。子どものころに祖父ちゃんは、いろいろ話してくれたけど、覚えてるのは、あたしの名前は、その大伯母さんからもらったってことだけ。

 子どものあたしは、祖父ちゃんには懐いていろいろ聞きたがったらしいけど。

「そんなムツカシイ話は、学校へ行ったらさんざん聞かされるから」

 お母さんの度重なるリアクションで、祖父ちゃんも話さなくなり、あたしも聞かなくなった。

 むろん、お母さんの言うとおり、学校では『平和学習』とかいって、その種の話は何度も聞かされた。

 社会の授業よりつまんないので、その時は、聞くフリ見るフリをして、昔はスマップ。中学ぐらいからは、エグザイルとかAKBとか、頭の中でコンサート開いて目を輝かせていた。高校じゃ、ワイヤレスのアイポッドで、みんなでリアルに聞いてイキイキしていた。

 語り部とかいうお年寄りは、あたしたちが熱心に聴いてくれたと勘違いして感動してくれた。

「あなたたちは、一昔前の高校生よりも熱心に聴いてくれました!」
 
 一昔前は、ワイヤレスのアイポッドなんて無かっただけの話なんだけどね。

「で、美恵ちゃんには、あの家が見えないのかい?」
「うん、正直あせってんの、両隣はちゃんと見えてんのに、うちだけ見えないんだもん!」
「自分にはよく見える。変わり果てた家が……」
「そりゃあ、何十年もたってるんだから、家だって変わるでしょ」
「建物じゃないよ。家の在り方さ。なんで四十坪そこそこの敷地に三十坪の家を建てて、玄関が二つもあるんだ」
「ああ、二世帯住宅だから」
「見せたい……見せ物なのか、あの家は?」
「いや、二世帯・住宅。お母さんが結婚するときに、あのカタチに建て替えたんだって」
「どうして……二郎は何か悪い病気でも患っていたのか?」
「いや、そーじゃなくって、普通は、結婚したら別居するんだけどね。お父さん一人っ子だから、その辺で手うったみたい」
「ううん……良く分からん話だが、なんだか淋しい話だな。それに家が見えないというのは困るだろう」
「……でも、その時はその時、また交番に戻る」

 立ち上がった拍子にカバンがおっこって、締まりのないカバンから追試準備のプリントがこぼれ落ちた。

「おお、数学か。懐かしいなあ!」

 大伯父さんは、感動して、それを拾い上げた。

「あ、それは……」
「まてまて……アハハ。美恵は数学の追試受けるのか!?」
「う、うん。数学って苦手で……」
「数学だけか?」
「あ、他のも苦手っぽい……かな?」

 そういうと、大伯父さんは、見たこともないような笑顔で、あたしの頭を撫でてくれた。こんなに優しく乱暴に頭を撫でられるのは初めてだった。なんだか涙がこぼれてきた。

「あ、乱暴にしすぎたかな……」
「ううん。とっても優しくって、気持ちよかった……」
「俺も、妹の美恵を思い出した……そうだ、せっかくだから、この数学教えてやろう」
「ほんと!?」

 大伯父さんは、公式の成り立ちから、噛んで含めるように教えてくれた。

 あたしは実感した。

 教えるってのは、ただ力みかえって、説明することじゃないんだ。いっしょに感動することなんだと思った。

「ありがとう、助かりました……で、嬉しかった。教えてもらってこんなに嬉しかったのは初めて!」
「そうか、じゃ、俺は……自分はそろそろ行くよ」
「え、どこへ?」
「自分は、出撃前に、ちょっと虚無にやられてしまってな。生きているんだか死んでいるんだか分からなくなっちまってな。すると、営庭の、ちょっとした窪みに躓いて、この世界に来てしまったんだ。もうマルロクフタマル。集合時間だ……よかったよ。二郎の孫に、こんな良い子ができるなんて。それだけで、それだけで、自分の命に意味があることが分かった。ありがとう美恵!」

 大伯父さんは、いきなり、あたしをハグした。とても暖かくて、力強いハグを。

「じゃ、行ってくる。美恵も、良い子になって、いいお嫁さんになれ。な……」

 そう言うと、大伯父さんはきれいに敬礼し、回れ右をして行ってしまい、数秒でその姿は消えて見えなくなってしまった。

 こぼれ落ちる涙を持て余した……。

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