大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

誤訳怪訳日本の神話・56『釣り針を失くしたヤマサチ』

2021-08-23 08:39:16 | 評論

訳日本の神話・56
『釣り針を失くしたヤマサチ』  

 

 

 道具を交換したウミサチとヤマサチでしたが、慣れない道具では思うように獲物が得られません。

 

「やっぱり、お互い自分の道具が一番だ、元に戻そう」

 ウミサチは弓矢をヤマサチに返します。

 ところが、ヤマサチは釣り針を出さずにモジモジしています。

「どうかしたか、ヤマサチ?」

「あ……えと……なんだ……すまん、失くしてしまった!」

「え、失くしたあ!?」

「でっかい魚が食いついたんだけど、そのまま海の底に潜っちまって、その勢いで釣り糸が切れちまって……」

「って、大事な釣り針なんだぞ! あれが無くっちゃ、海のものは小魚一匹獲れやしないぞ!」

「す、すまん!」

「すまんですむかあ! 海に戻って取って来い! 取って来るまで帰ってくんなああああ!」

「あ、ああ、わかったよウミサチ(;'∀')」

 

 ションボリ、シオシオと海辺に戻るヤマサチですが、広大な海を目の前にしてうな垂れるだけです。

 

 海に落としたり沈んだものというのは見つけるのが難しいですねえ。

 あの超ド級戦艦大和でも、おおよその沈没地点は分かっていましたが、発見されたのは五十年あまり後のことです。

 まして、掌に載せて握ってしまえば隠れてしまうほどに小さな釣り針です。ヤマサチは肩を落とすしかありませんでした。

 

 ザップ~ン

 

 そんな時、波間からウミガメに乗ったジジイの神さまが現れました。

「お若いの、まだ午前中だというのに、なにをタソガレておられる?」

「あ、これは、潮の流れを監督するシホツチの神」

「そんなに泣かれては、海の塩分濃度が上がってしまう」

「すみません、じゃ、水筒の水で……」

「アハハ、うそうそ、冗談ですじゃ(^▽^)」

「は、はあ」

「あんたは、冗談ではなさそうですなあ、よかったら事情をお聞かせ願えまいか?」

「はい、実は、僕はヤマサチというんですが……」

 ヤマサチは、事のあらましをシホツチの神に説明します。

「さようか、それはお気の毒な……」

 シホツチは、ヤマサチに同情すると、指先をチョイチョイと動かします。

 

 ザバババーーーーーン!

 

 海の底から、竹で編んだ潜水艦のようなものが浮上してきます。

「こ、これは?」

「これは、勝間の小船と申しますじゃ。これに乗って海の底に行けば良い潮の流れに乗って『ワタツミの神の宮』というところに出ますじゃ、そこの井戸の傍の桂の木の陰に隠れてお待ちなされ、きっと開けてくるものがあるじゃろう」

「そ、そうですか! それでは、お言葉に甘えて!」

「おう、行っておいでなさい(o^―^o)」

 シオツチはシオツチノカミともシオツチノトジとも呼ばれる老人の神さまで、潮の流れを司るだけではなく、製塩の神さまとして、各地で祀られています。

 海から老人が現れて、困っている冒険者たちを助けたり助言したりする話は、ギリシア神話や東南アジアの昔話にもあると言います。

 わたしの狭い知識ですが、海から現れるのはポセイドンとかのオッサンや老人が多いように感じます。人魚姫というのもありますが、人魚姫の親父はポセイドンではなかったかと思います。

 湖や池から出てくるのは女神ですね。

 正直な木こりが斧を落として「あなたの落とした斧はどれかしらあ?」と、木こりの根性を試すのは女神ですね。

 水の中に住んでいるわけではありませんが、水浴びしているところを見てしまった猟師を鹿に変えて猟犬に食い殺させたのは少女の姿をした処女神アルテミスでありました。

 海はオッサン、淡水は美女・美少女

 では、海水と淡水が混ざる汽水は……妄想が膨らみます。

 

 次回は、海の中のヤマサチに注目します。

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ライトノベルベスト『ちょっとした躓き・7』

2021-08-23 06:13:01 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ちょっとした躓き・7』 

 




 二人の婦人警官さんと一人の女性警官さんに見送られて交番を後にした……。

 まずは……そうだ、お仕事に行かなきゃ!

 あたしは、モエチンの心で判断した。バッグを調べると、さすがはAKR、ゴールドカードが入っていた。

 油断して素顔を晒していたので、タクシーに乗るまで二回御通行中のみなさんに掴まって握手会になった。そのままサイン会、撮影会になりそうだったので、やってきたタクシーに飛び乗った。

「お、あんた、AKRのモエチン!」
「帝都テレビまで、お願いします」
「やっぱ別人だったのかなあ……」
「どうかしましたか?」
「いや、ちょっと前に、雰囲気がそっくりな子乗せたんだけどさ、帽子やマスクで顔隠してたからね。そういうときは礼儀として声はかけないの。でも、そっくりだったなあ」

 あたしはピンと来た。本人は習慣で帽子とか被っちゃうんだろうけど、かえって分かる人には分かっちゃうんだ。

「あ、あの時の運転手さん!?」

 ぼけておく。

「やっぱり、当たりだ!」
「ねえ、運転手さん。名刺もらえます?」
「ああ、どうぞ」
「仕事終わったら、もう一度連れていってもらえます? あんまり時間が無かったもんで、用事済んでないんです」
「ああ、いいすよ。そこに電話してもらって、わたしを指名してくださいな」

「モエチン、遅刻!」

 楽屋に入ると、すぐに先輩の服部八重さんに叱られた。

「ごめんなさい。マネージャさんにも叱られたとこ」
「今日もフケるようなら、どうしようかと心配してたんだよ。卒業も近いんだし、きちんとしとかないとね」

 同期の寺坂純が、遠慮無く突っこんでくる。

「じゃ、ヘアーメイクからいきます」

 ヘアーメイクの安藤さんが、化粧前を示した。

 ヘアーメイクしてもらいながら、メイク。自然にモエチンの心になっていく……。

 投げやりに似た不安でいっぱいだった。

 卒業したら、ほんとうにピンでやっていけるんだろうか……拓美ちゃんのオーラはないし、クララみたいに女優なんてできないし……卒業していったメンバーのことが次々と頭をよぎった。

 AKRに入って八年。やるべきことはやってきた、矢頭萌として十分すぎるくらいに。

 でも、逆に言うと、そのことに甘んじて、いつかはやってくる卒業を、他のメンバーのように考えて準備してきただろうか……そんな自己不信に似た不安で、頭がいっぱい。

「大丈夫?」

 ヘアーメイクを終えた安藤さんが、鏡越しに心配してくれた。

「はい、大丈夫です」

 スタジオに向かう廊下では、だれも話しかけてくれない。

 でも、これは、おためごかしなんかじゃない突き放した愛情なんだ。美恵の心で、そう思った。そして、それがモエチンの心には、そう伝わっていないことが分かった。そうでなきゃ、この孤独感は理解できない。

「なんだか、今日のモエチン明るくね?」
「え、そうですか?」

 MCの居中との会話。

「うん、いつも、ただ座ってますってみたいな感じだったけどさ」
「それは、失礼です」

 八重さんが言う。

「みたいな感じじゃなくて、ほんとに座ってるだけだったんです」

 メンバーの声が揃って、スタジオは爆笑になった。

 そのあと、イグザイルとのトークの絡みでも、モエチンは寺坂純に「お黙んなさい!」と言われるぐらいに元気だった。

『さよならバタフライ』でも、フリも間違えず、元気に明るくこなすとができた。

 これなら、この仕事が終わってから、なにかしら意味のあることがモエチンに言えそうだ。そんな気がした。

 本番が終わると、所属プロの光会長が、手を上げて、あたしをスタジオの隅に呼んだ……。 

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