大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 26『紙飛行機の二宮君』

2021-08-24 13:15:27 | ノベル2

ら 信長転生記

26『紙飛行機の二宮君』  

 

 

 このごろ暇があると屋上に来ている。

 

 自習時間とか昼休みとか放課後とかね。

 学校の奴らには嫌われたり敬遠されたり。

 そういう奴らを連れまわしても面白くないし、逆らう奴はみんなシバキ倒したしね。

 無理やりひっ捕まえれば、付いてもくるし、命令はなんでもきく。

 そういうのカッタルクって、時々切れてしまう。

 切れると、そいつらは蜘蛛の子を散らすように居なくなる。そういうのが嫌になった。

 

 中には付いてこない奴もいる。こないだのパヴリィチェンコみたいなの。

 

 そういうやつは、ハナから寄ってこない。

 

 屋上からは御山が見える。

 御山は、この街の真ん中に聳える神の山だ。

 御山を挟んだ向こう側には転生学院がある。兄の信長が通う女子高、うちの転生学園より偏差値で10も高い。

 前世では、名のある戦国武将とか戦国大名だったやつとか、その道の英雄とか、たいそうな奴らがいく高校。

 そういう奴らは、来世で生まれ変わったら「今度こそは!」というはた迷惑な気概に満ちている。

 だからなのか、男のままでは受け入れられず、みんな女になっている。

 癪に障ることに、揃いも揃って美少女だ。

 フン、あたしほどじゃないけどね。

 でも、兄き、いや、いまは姉か。あいつは、胸糞が悪くなるほどの美少女だ。

 あいつは、あたしのプロトタイプなんだ。最近は、そう思ってる。

 プロトタイプって分かるよね、試作品よ。

 あたしという完成品が生まれる前のお試し品。

 試作品だから、欠点が多い。

 最大の欠点は性格。前世から性格悪くって、そのために家臣の光秀に殺されちまった。

 クソッタレなんだけど、あいつにはきちんと転生してもらわなきゃ、あたしが困る。

 あたしも頑張らなきゃ……

 

 スーーーーーーーーーーーーー

 

 そんなこんなを思っていると、目の前を白いものが横切った。

 白いものは、屋上に沿って西に流れていくと、校舎の切れ目でグイっと首をもたげて上昇していき、校舎の倍ほどの高さに至るとグルっとグラウンドの上空を旋回して、屋上に戻ってきた。

 ん?

 給水タンクの陰から男子生徒が飛び出してきて、受け止めると、あたしに一礼する。

「式神?」

「え?」

「あんたの、その手に持ってるの?」

「紙飛行機」

「え?」

「紙飛行機の飛距離を伸ばそうと思って、いろいろチャレンジ……」

「あんなに飛ぶものなの?」

「まだまだだよ……」

「てっきり式神かと思った」

「あ、僕は、そういうんじゃ……」

 ハタハタと手を振って否定する。そう言う態度とられると絡みたくなる。

「…………」

 もう止そうと思ったけど、もっかい飛ぶところを見てみたい。

「もっかい、飛ばして見せてくれないかなあ」

「えと……」

「気が進まないならいいよ」

「あ、そういうんじゃなくて、さっきみたいにいい風が吹いてこないと……」

「あ、そか……」

「あ、やってみるよ。さっきみたいにはいかないかもしれないけど」

「ありがと!」

 男子生徒は、給水塔の後ろから道具箱みたいなのを持ってきて開ける。

「わあ、他にもあるんだ」

「うん、試作品だけどね。あ、今飛ばしたのも試作品。改良の余地があり過ぎて、なかなか完成形にはならなくてね……」

 男子生徒は、さっきよりも小振りなのを選んで箱を閉めた。

「揚力が高いから、ちょっと風が吹いただけで飛んでっちゃうから……いくよ」

「うん!」

 紙飛行機を持った手を肩の高さに上げて、二三度ためらってから、小さく掛け声をかけた。

「えい」

 

 スーーーーーーーーーーーーー

 

 今度は、さっきよりもグラウンド寄りに飛ばす。

 グイッと頭をもたげるけど、さっきほどではなく、グラウンドを一周し、ゆっくりと朝礼台の方に下りていく。

「取りに行く」

「うん」

 外階段を駆け下りて、グラウンド。

 紙飛行機は朝礼台の脇に墜ちていた。

「すごいね、あんなに飛んで墜ちたのに、どこも傷んでない」

「軽いからね、でも、水たまりとかに墜ちた時は悲惨だけどね」

「ね、あたしでも飛ばせるかな?」

「もちろん、やってみる?」

「うん」

 手持ちの紙飛行機を貸してくれるのかと思ったら、差し出されたのはA4のコピー用紙。

「折るところからやらないと、紙飛行機は面白くない」

「そうなんだ」

「まず、縦に二つに折って……」

 一から教えてくれて、あっと言う間に折り上がる。

「じゃ、朝礼台の上から飛ばしてみよう」

「うん」

「バックネットに向かって飛ばすといいよ」

「なるほど、ネットでキャッチさせるのね」

「ここからだと、バックネットまでは飛ばないよ。風がそっちに吹いてるからね」

「あ、そうか(^_^;)」

「いくよ」

「うん」

「いち……に……」

「「さん!」」

 

 スーーーーーーーーーーーーー

 

 二つの紙飛行機は仲良く飛んで行った……けど、あたしのは、グラウンドの中ほどで墜ちてしまい、男子生徒のはバックネットの手前まで飛んでホームベースに滑り込むようにして着地した。

「うん、こんなものかな」

「同じようにしても、ぜんぜん違うんだね」

「きみ、なかなか筋がいいよ」

「そう? 嬉しい」

「よっぽどうまくいくとね、見えなくなるところまで飛んで、回収もできないことがある」

「見えなくなるところまで……」

「うん、シカイボツっていうんだ」

「シカイボツ?」

「……あ、こんな字」

 グラウンドに書かれた文字は『視界没』と読めた。

「場外ホームランとホールインワンを足して100を掛けるぐらいにすごいこと」

「やったことあるの?」

「うん、一回だけ」

「見てみたい」

「視界没する寸前に願い事すると叶うっていうよ」

「そうなの!?」

「うん、ぼくは叶った」

「えと、君の名前は?」

『二宮忠八』

 地面に書いた名前は、ちょっと古風だ。

「にのみやただはち?」

「ちゅうはち」

「ちゅうはち……」

 古風だけども、ちょっとかっこいい。

「きみは?」

「あ、織田市(おだいち)」

「あ、信長の妹の……」

「アハハ」

 あたしは、やっぱり信長の妹って括りになるんだね(^_^;)

 

 あとで敦子に聞いて驚いた。

 二宮忠八くんは、れっきとした神さまだったのだ!

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  パヴリィチェンコ    転生学園の狙撃手

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ライトノベルベスト『ちょっとした躓き・8』

2021-08-24 06:46:54 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ちょっとした躓き・8』  




 本番が終わると光会長が手を上げて、あたしをスタジオの隅に呼んだ……。 

「ありがとうよ。どこの誰かはしらないけど、うまく代役やってくれてさ」
「あ、会長、あたし……」
「みなまで言うなよ。キミ、萌の抜け殻被ってくれてんだろ。いや、俺も若い頃覚えがあるんだよ。あの窪みに躓いちゃったら、自分の殻から抜け出せるようになる。で、やりすぎると元に戻れなくなっちまう。俺んときも……いや、あんまり人に言っちゃいけないんだったな。萌はゴールデンボマーズのアキラといっしょに居る。ただ、アキラの部屋でも自分の部屋でもない。デビュー前の友だちのどこかだ、それさえ分かれば……」
「あ、だいたいの場所は分かってます。そういうわけで、会長ありがとうございました」
「ああ、がんばれ萌」

 ディレクターの人が来たんで、あわててすっとぼけた。

 それから、来るときと同じタクシーに来てもらって、目標の場所に行った。

「アイドルも辛いね。ま、またご用があったらよろしく。秘密厳守だから」
「ええ、よろしく」

 と言いながら、この運転手さんの口の軽さは信用できないと思った。

「あ、ちょっとヤバイなあ……」

 そこは十階建てのマンションだけど、オートロックだ。部屋はモエチンの気配が、ここにいても感じられる十階の一号室。いわゆるペントハウスだ。でも、この姿でインタホンは押せない。

 仕方なく、一時的にモエチンの皮を脱いだ。ってことは素っ裸なんだけど、仕方がない。脱いでしまえば、抜け殻も人には見えないと踏んだ。見えるんだったら、上戸彩女性警官が隠しもせずに担いで交番に持って来るはずがない。
 
 冬でなくてよかった。三十分ほど待っていると、住人の人が出てきて、ドアが開いた。

 入れ違いに、さっと入って、集会室の隣のトイレで、モエチンの皮を気を付けながら着る。

 帽子を目深に被って、エレベーターで十階へ上がり、例の部屋の前に立った。

「すみません。この部屋の住人の妹なんですけど、兄の忘れ物取りに……」

 ゴソゴソと気配があって、アキラがドアのロックを外した。

 えい!

 ウワ!?

 思い切り外側にドアを開くと、弾みでアキラが転がり出てきた。

 間髪入れずに、奥の部屋までいくと、モエチンオーラ出しまくりの女の子がベッドの上で、シーツを胸までたぐり寄せて、怯えたような目で、本来の自分の姿のたしを睨む。

「モエチン、あんた間違えてるわよ。どれだけの人が、あんたのこと心配して、どれだけ迷惑かけてるか。今なら間に合う。さっさと服着て、あたしといっしょにいらっしゃい!」

「え、あ……」

「さっさとしろ!」

 モエチンは、自分の姿をしたあたしに圧倒されて、大人しく服を着てついてきた。

「じゃ、アキラさん、これからは、あたしにも、あたし似の女の子にも手え出さないでね!」

「は、はい……」

 それから、二人はタクシーで、交番に戻った。むろん、最初のとは違うタクシー。

「あなたになってみて、卒業前のアイドルのしんどいところも、よく分かったわ。光会長も身に覚えがあるって。今戻れば元通り。がんばってモエチン!」

 元のあたしに戻ったあたしに励まされて、モエチンは帰っていった。

「あんたも、人に説教できるようになったんだね」

 天海祐希婦警が、ため息をついた。

「さあ、窪みも連れてきたし、これを踏んで、元の世界にもどんなさい。その子のこともよろしくね」

 あたしは、モエチンに体を乗っ取られていた子に肩を貸して、窪みを踏んだ。最初の一歩は逃げられたが、二歩目は、宮沢りえ婦警が押しピンで停めてくれて間に合った。

「じゃ、行きます!」
「ありがとね」
「気を付けてね」

 そして、窪みを踏むと、交番は一瞬で無くなり、あとには小さなお地蔵さんの祠があるだけだった。

 モエチンに乗っ取られていた子は、何事も無かったように、あたしの肩を離れると行ってしまう。

「さあ、行くか……」

 そう呟くと足もとに気配。

 例の窪みが押しピンで留められてジタバタしている。すると空中から上戸彩女性警官が上半身だけ出して、押しピンがささったままの窪みを確保した。

「じゃ、清水さん。元気でね」

 最後は、バイバイする手だけ残して、やがて、その手も消えてしまった。

 祠の中を覗くと、もうカタチも定かではない三体のお地蔵さんが見えた。

 あたしは、軽く手を合わせると家に向かって歩き出した。

 クセでポケットのスマホを取りだす。

「フフ、あんたも分かってんじゃん。ちょうど電池切れ。ま、うまく付き合っていこうよ」

 相棒をポケットにしまうと、あたしは、しっかり前を向いて歩き始めた……。
 

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