大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やさかい・225『寝過ごした!』

2021-08-07 08:35:44 | ノベル

・225

『寝過ごした!』さくら      

 

 

 秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども  風の音にぞ おどろかれぬる~

 

 テレビの女子アナが涼し気に言うたはります。

 秋が来たとはっきりとはわからへんけども、風が吹いて来て(あ、秋や!)とビックリすることであるよ(^▽^)/

 てな意味らしい。

 らしいと言うのは、食卓で、ボーーっとテレビ見てたら、テイ兄ちゃんが問わず語りに言うた呟きやから。

 

 今朝は寝過ごしてしもて、詩(ことは)ちゃんも留美ちゃんもおらへん。

 二人とも、とっくに朝顔の水やりも済ませて、自転車で散歩に出てしもてる。

『暦の上では、今日から秋です。 これを立秋といって……』

 生まれてこのかた笑顔以外の表情はしたことありません……という感じで続けはります。

 

 そうか、今日から秋なんや。

 

 今からでも遅ない、うちも散歩に行くぞ!

 サイクルコンピューターのボタンを押して数値が0になってるのを確認する。

 サイクルコンピューターは、毎回0にしとかんと、昨日の続きから加算していきよる。

 総走行距離はええねんけど、時間やら、その日の走行距離は加算されては、なんぼ走ったか分からんようになるとテイ兄ちゃんが教えてくれて、うちには珍しく三日たっても憶えてる。

 よし!

 指さし確認して出発!

 

 初日は、習慣的に学校の前まで行ってしもて、昨日は郵便ポストの前で原爆の投下時間になって手を合わせた。

 そこへ行くまでの道の八割がたはいっしょやさかいに、まあ、どこかで出会うやろ。

 立秋かと思うと、頬をなぶる風も、こころなしか涼しい。

 よし、ここを曲がったら詩ちゃんと留美ちゃんが居てる!

 勘は外れて、朝の道路に人影は無い。

 時間は……サイクルコンピューターを見ると8:10。

 え、なんで人も車もおらへんねやろ?

 夏休みやさかい、子どもが見えへん。せやろな。こんな朝から散歩にいこかいうやつはめったにおらへん。

 通勤の大人の人らは? 幼稚園の送迎バスて、この時間は、まだ早かった?

 とにかく人が居てへん。

 ひょっとして、異世界とかに入り込んでしもた(;゚Д゚)? レベル1の冒険者になって、どこぞのギルド探して冒険の旅に出ならあかんとか?

 夕べは、遅くまで詰まってたRPGをコンプするまでやってた。

 その祟りか?

 思てたら、子供会の廃品回収の山が見えてきた。

 あ、今日は土曜日か!?

 子供会の廃品回収は土曜日やさかいに思い出した。

 そうか、世間は休みや。

 そう思い出すと、ほとんどがら空きの道が嬉しなってくる。

 もう立秋やし、ちょっとぐらいスピード出してもええよね(^▽^)/

 グングン

 ペダルを踏み込むと速度表示が、あっという間に20キロを超える。

 おし!

 風を切って国道に出る。

 さすがに車走ってるし、ツーリングの自転車で走ってる人も居てる。

 自転車用レーンもあるし、グングンと堺東まで走ってしもた!

 なんちゅうても立秋や!

 

 四十分も走って家に帰る。

「さくらちゃん、すごい汗!」

 留美ちゃんが目を剥いて、詩ちゃんとテイ兄ちゃんが大笑い。

「せやかて、今日は立秋やさかい(;'∀')」

 アハハハハ

 リビングのみんなが笑います。

 ワア!

 なんの歓声かと思たら、テレビで女子マラソンの実況中継。

 そうか、今日は北海道で女子マラソンの日ぃやったんや。

「マラソン見るんやったら、シャワー浴びといでや」

 ソファーに座ろうとしたらテイ兄ちゃんに突っ込まれる。

 ちょうど廊下にブタネコのダミアがおったんで、いっしょにシャワーしよ思たら、迷惑そうな目ぇされて逃げられてしまいました。

 日本がんばれ!

 

 

 

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ライトノベルベスト・《季節の扉・1》

2021-08-07 06:11:40 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

《季節の扉・1》      


 季節に扉があると言ったら信じるだろうか……。

 季節の扉が見えるようになったのは、もう十年ほど前からだ。

 神主をやっている伯父が病弱で、子どもは従姉の円(まどか)一人だけだった。

 この八つ年上の従姉は養子をとる気配はおろか、結婚する気もさらさらなかった。

「なんで、マドネエは結婚せえへんねん?」

 あるとき父の代わりにご機嫌伺いをしに行ったとき、話の弾みで聞いてしまった。

「アハハ……したいこと一杯あるさかい。そんなヒマないわ」

 そういって、ケラケラ笑って出かけてしまった。

 こころなしか、鳥居を出た瞬間に足どりが軽くなっていたような気がした。

「円には期待してへん……いうか。可哀想でなあ……」

 伯父は、父からの預かり物を受け取ると、気弱な笑みを浮かべて、そう言った。

「なんで、マドネエが可哀想なん?」
「そら、進二、あいつの婿さんは、ここの神主にならんとあかんさかいなあ」

 なるほどと思った。ただでさえ寺や神社の子は家を継ぐのを嫌がる。シキタリやお祭り、煩雑な神事が多いわりには、実入りが少ない。

 固定資産税こそかからないが、寺や神社は維持費だけでも相当なものである。

 昔は、公務員や教師をやりながら、なんとかしのいできたが、今の公務員は、ながら勤務ができるほど楽なものではないし、やかましい自治体だと、寺や神社の仕事さえ兼職と見なして白い目で見るところがある。

「たいへんやなあ、オッチャンも」

 と、その時は同情して、いっしょにため息をついた。

「まあ、不景気な顔しててもしゃあない。進二、酒でも付き合え。電車できたんやろ?」
「ああ……うん」

 子どもの頃、夏休みなどは、よく泊まりがけで来ては遊んだものだ。マドネエはザッカケナイ性格で、高校生になっても、いっしょに風呂に入ってくれた。小学二年のボクは、ませていたのか、マドネエの遠慮のない裸にドキドキし、三年になったとき、ボクは自分から辞退した。

 境内は、田舎の神社にしても広々していて、マドネエとはサッカーボールを蹴り合いしたり、キャッチボールをして、よく遊んだ。

 ボールを投げようとして反らせたときの胸の膨らみや、屈んだときに見える胸の谷間や、TシャツとGパンの隙間に覗くパンツの一部に目がいって困った。とにかく、ボクには眩しい従姉だった。

 大きくなったらマドネエの婿さんになろうと、そういうところだけ小学生の頭で目出度く夢想したりした。

 そのマドネエが、もう三十路になり、自分の将来と、親や神社のことを重荷に感じながら毎日を送っているのを気の毒にも思ったし、跡継ぎのない伯父に同情もした。

 伯父は神職なので、酒を飲むときも姿勢を崩さない。

 その伯父が、その日に限って、深酒をした……。

 夜になってマドネエが帰ってきたころには、へべれけになってしまい。義伯母とマドネエに担がれるようにして寝室へ行った。

「なんや、おっちゃん、今夜はよう飲んだなあ」

 そう言って、ボクも帰ろうとして玄関で靴を履いていると、マドネエが真顔でやってきた。

「しんちゃん、あんた、この神社の跡取りになるて、ほんまか!?」

 グネ(;'∀')

 言われたボクは、マドネエ以上に驚いて、その場で足をくじいてしまった!

 つづく

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クレルモンの風・4『un marché sympa 感じの良い市場』

2021-08-07 05:56:18 | 真夏ダイアリー

・4
『un marché sympa 感じの良い市場』
       


 

 いきなり日常が始まった。まるで、あたしなんか存在しないみたいに!

「……あと5分、寝かせてえや」

 アグネスの半分寝言みたいな返事が正確には最初だった。

 あたしは、緊張のあまり日の出ごろには目が覚めて、6時になると起き出した。顔を洗って身繕いをすると、アグネスが、まだ寝ている。廊下では、もう人の気配「初日から遅れてはいけない」そう思って、アグネスを起こし、今の返事になった。

 でも、5分きっかりで起きると、アグネスは、2分ほどで用意を済ませた。

「ほな、行こか!」

 アグネスは、ダイビングするようにドアノブに手を掛けると、勢いよくドアを開けてダイニングに向かった。
 どこかで見たシーンだと思ったら『ローマの休日』で、グレゴリーペックの記者が遅刻して出勤し、編集長の部屋に入るときのそれに似ていた。

 夕べ、あんなにフレンドリーだった寮のみんなが、あたしなんか居ないみたいに歩いたり、喋ったり。かろうじて、イタリア人のアルベルトが「チャオ!」って言ってくれたぐらいのもの。

「今日は、新学年の最初のテストがあるねん。それでちょっとなあ……」

 アグネスは、学生によっては国費で留学していたり、奨学金をとっている者がかなり居て、成績によっては、学年途中で自国に送還や奨学金の停止なんかもあるみたい。で、あたしは空気みたいになっている。

「心配せんでも、ユウコは、今日はテスト無し。朝2時間語学。ほんでから、日本文学概論。午後は、マルシェに連れていったるわ」

 朝ご飯を食べながら、アグネスがザックリ説明してくれた。

 語学は、教室に入るなり、どうしようかと思った。同じ寮の学生は(たぶん)誰も居なくて、語学留学かと思われるような多国籍の若者が20人ほど居た。

 先生が入ってきてあたしを紹介してくれた。先生はマダム・ブリブリ・ブリエ。最初は『にんじん』のお母さんを連想するような冷たい感じだったけど、授業に入ると、スイッチが入ったみたいに表情が豊かになった。

 ああ、語学というのは基本コミュニケーションの技術なんだと言うことと、コミュニケーションの半分は身振りや表情であることが分かった。

 ブリエ先生は、英語でわたしに聞いた。

『ユコ、日本では。靴を脱いで家に入りますね?』
『はいそうです。ブリエ先生』

 そして、先生はアジア系の髪のきれいな女の子に聞いた。

『レィファン、あなたの国は?』
『靴を脱いで入ります』

 名前と答えで、多分韓国の女学生だと思った。瓜実顔の一重まぶたがきれいで、舞妓さんの衣装が似合いそうな気がした。

『じゃ、人の家に行ったつもりでやってみせて』

 ブリエ先生は、新聞紙を広げて上がりがまちに見立てた。

 あたしは、靴を揃え、つま先を外に向けて行儀良く並べた。

『じゃ、レイファンやってみて』

 レイファンは靴を揃えるところまではいっしょだったが、つま先は家の中を向いたままである。

『どう、違いが分かった?』

 一目瞭然なので、みんな頷いた。

『日本のは不作法です』

 レイファンが、遠慮無く言った。

『どうして?』

 ブリエ先生が、笑顔で聞いた。

『だって、つま先を外に向けるなんて、早く、この家から帰りたいみたいで失礼です』

 むつかしい英語だったけど、なんとか意味は分かった。

『ユコは、どうして?』

『えと……不作法だからです。それに、つま先を家の中に向けると、必要以上に、その……心理的なんですけど、踏み込むような印象がします』

 つま先を外に向ける意味なんて考えたことも無かった、とりあえず答えたけど、ちょっと外れてるかな?

『みんなは、どうかしら?』

 英語と、かたことのフランス語が飛び交った。で、答は7:3で日本の勝利。レイファンは面白くない顔をした。

『これに正解はありません。ただの習慣の違いです。これは、ごく特殊な例を除いて、互いに尊重すべきです。Do as Romans doですね』

『特殊な例とは?』

 ドイツ系かと思われるニイチャンが聞いた。

『それは、また別の機会に。今日は買い物の練習』
 
 そして、楽しく買い物の練習を、売る側と買う側に交互に別れて練習した。

 語学が終わると、日本文学概論。ここは大人数なので、わたしの紹介なんかなく、淡々と古事記についての講義があった。

 昼から、大学の近所のマルシェに行った。ごった返すというほどではないけど賑わって、感じの良いマルシェだった。

 アグネスは、一件の露店に向かった。

『いやあ、アニエス。今日は友だちといっしょかい?』

 80は越しているだろうというオバアチャンが明るく話しかけてきた。言葉は分からないけど、やっぱ、意味は通じるんだなと思った。

「さあ、ユウコ、実習や。フランスパンとブドウ買うてみい」

 さっそく語学の実習が役に立った……。

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