大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・227『オリンピックのち台風』

2021-08-09 14:37:16 | ノベル

・227

『オリンピックのち台風』さくら      

 

 

 オリンピックも感動のちに閉会式!

 むろん、如来寺(うちの家)のみんなもリビングで揃って観たよ。

「正直、生きてるうちに日本のオリンピックが見られるとは思わへんかったなあ……」

 お祖父ちゃんは感動の面持ちで缶ビールをグイグイ。

「みんなでオリンピック見るっていいですね……」

 シンミリしてるんは留美ちゃん。

 うちもいっしょや。

 一人っ子で、親は遅くまで仕事。面白いテレビとか見て「おもしろい!」「感動する!」とか思ても、番組が終わったり、CMに変わった時の寂しさはハンパやなかった。

 家族そろって、みんなでオリンピック。

 お祖父ちゃん おっちゃん おばちゃん テイ兄ちゃん 詩(ことは)ちゃん さくら(うち) 留美ちゃん

 ダミア(ブタネコ)

 金メダル獲った瞬間「やったー!」と七人と一匹で感動すると、感動も七倍! 七十倍! 七百倍かも!

「じぶんらは、もう一回は日本のオリンピック見られるやろなあ」

 お祖父ちゃんは、そう言うと、飲み干した空き缶を抱えて出ていく。

 申し合わせたわけやないけど、みんなも、それぞれ、台所に行ったり、お風呂に向かったり、自分の部屋に行ったり。

 うちは、とたんにもよおしてきてお手洗い。

 

 スッキリして部屋に戻ろ思たら、仏間に灯り。

 

 覗いてみると、お祖父ちゃんが手を合わせてる。

 年季の入った坊主やさかい、仏壇に手ぇ合わせてる姿は実に様になる。

 ナマンダブナマンダブ……

 あれ?

 いつもとちゃうと思たら、経机の上にお祖母ちゃんの写真。

 お祖母ちゃんは、うちが物心ついた時には亡くなってたさかい、よう知らん。

 知らんけども、さっき、みんなでオリンピック観たとこや。

 ひょっとしたら、前の東京オリンピックにはお祖母ちゃんとの思い出があるんかもしれへんなあ……。

 

 今夜は、留美ちゃんとシミジミ語り合おうかなあと自分の部屋へ。

 あ……

 部屋から灯りが漏れてる。

 部屋は留美ちゃんと共用やさかいに、留美ちゃんが先に戻ってるんや。

 襖開けて、語り合おうと思たら、机に向かって宿題をやってる留美ちゃん。

「せや、うちもやろか」

 並んで机に向かったら、シミジミ語るきっかけも……あれへんかった(^_^;)

 留美ちゃんの集中力というか自制心は大したもんや。

 おかげで、うちも休み中に宿題はぜんぶできそう(^^)v

 

 せや、朝顔、プランターに移しかえならあかん。

 二時間後、そう思て眠りにつく。

 

 起きてみると、朝から大阪府には暴風雨警報。

 台風10号やったっけ?

 朝顔の移し替えどころか、お散歩にも行かれへん。

「近所の散歩くらいなら行けそうだけどね」

 ポツリと留美ちゃん。

 たしかに、表は風どころか晴れ間の覘くええ天気。天気予報では『しだいに雨風が強くなるでしょう』とベッピンの気象予報士さんが眉を顰める。

 三十分くらいの散歩はノープロブレムやろけど、家の者に心配はかけられへんと思てる。

 ええ子やなあ。

 へプシ!

 感動したらクシャミ……といっしょにオナラが出る。

 スマホで『hepushi』と打ったら『屁プシ』と出てきた。

 なるほどなあ(^_^;)

 

 

 

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魔法少女マヂカ・226『天城からの手紙』

2021-08-09 10:02:28 | 小説

魔法少女マヂカ・226

『天城からの手紙語り手:マヂカ   

 

 

 ギシギシ ギシギシ

 

 久しぶりに礼法教室の階段を上がっている。

 礼法教室の横は、ただの廊下なのだけど、突き当りを進むと階段がある。

「また凌雲閣が呼んでる」

 真面目な顔で霧子が言うので、しかたなくノンコには言わずに霧子の後を付いてきた。

 夢か思い過ごしなら、突き当りに階段は目えないはずだ。

 なんせ、礼法教室がある本館は二階建てで、その二階部分が礼法教室なのだから、その上は屋根裏しか無いわけで、従って階段などは存在しないのだ。

 礼法教室の階段とは、霧子にだけ、霧子が必要と思う時にだけ、あるいは霧子が必要とされるときにだけ廊下の突き当りに現れる。

「行くよ」

 霧子も成長して、自分一人でズンズン行くようなことは無い。

 簡単だけど、声を掛けてくる。

 ノンコを置いて行こうと言ったのも霧子だ。

 ノンコは魔法少女だけども、立ち回りよりも普通にクラスメートの中でニギヤカシをやっている方が似合っている。

 じっさい、ノンコが編入されてきてからというもの、教室の空気は朗らかになってきているしね。

「天城さんという子に憶えは無いのよね?」

 ダメ押しの確認。

「うん、凌雲閣の前で待っていますと書いてあった」

「そうよね……」

 

 再生服の取り組みに感謝する大量の手紙の中に天城の手紙が混じっていたのだ。

―― 明五日 正午四十分 凌雲閣の前でお待ちしています ――

 凌雲閣は震災で大破し、九月の末には陸軍によって爆破解体されている。

 その凌雲閣の前というのだから、あの、異空間の凌雲閣に違いない。

 嘘や悪戯なら、あの凌雲閣に通じる階段は現れないはずだ。

 

 階段を登り切ったところにエレベーターの扉があって、乗り込む。

 ズゥイーーーン

 降りたところには扉が一つ。

 以前は八つの扉があったが、正面の扉以外は普通の壁になっている。

 ガチャリ

 扉を開けると、映画館のように控えのスペースがあって正面にもう一つの扉。

 すこしホッとする。

 覚悟しているとはいえ、あの震災直後の浅草は霧子にはトラウマだ。

 ギイイイイ

 それを開けると、予想した浅草の街ではなかった。

 

 森?

 

 そこは、清々しいといっていいほど清涼な空気に満ちた森の中だ。

 頭の上には緑の枝や葉がひしめいているのだが、足もとの下草はそれほどでもなく、人の手が入った森であることが偲ばれる。

「……天城さん、いないね」

 案に反して人の気配がない。扉の前で待っているはずだ……。

 霧子の返事は無い、霧子も不審には感じているのだが、諦める様子ではない。

「なにか来る」

 呟くと、霧子もそれに倣って目を凝らす。

 

 サク サク サ サク……

 

 すこし乱れがちに落ち葉を踏む音が近づいてくる。目前の茂みは鞍部になっているようで、音は少し下の方から上って来る。

 不意に現れた。それが鞍部を超えたのだ。

 白の一本線のセーラー服が似合う長身の女生徒だが、顔色が悪く、小さく身をかがめ、杖を突いて左手で腰を庇っている。

「すみません、お呼びしておいて遅れてしまいました」

「天城さん?」

「はい、天城です。妹を助けてやってほしい……ウ!」

「ちょ!」

「天城さん!」

 ズサ

 天城という女生徒は、最後まで言い切れず、杖にすがるようにしてくずおれてしまった。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

 

 

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ライトノベルベスト『赤田先生の自転車』

2021-08-09 06:43:43 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

 『赤田先生の自転車』    


 

 赤田先生は年甲斐もなく赤い自転車に乗っている。

 厳密に言うと赤ではなく、オレンジ色に近い。

 信じられないが、もう四十年も乗っている。最初は、ほとんど赤だったのが四十年の歳月のうちにオレンジ色になってしまったらしい。

 しかし、それ以外は、どこから見ても新車同然だった。

 磨き抜かれたフレームやハブ。効きのいいブレーキ。ダイナモで少しペダルが重くなるがLEDライトに負けないくらい明るいライト。ライトの色はLEDと違って、尖った明るさではなく、ちょっとアンバーがかった懐かし色。ベルのチリリンという音もどこか優しげ。

 みんな、赤田先生の人柄が反映されていると思っている。

 手入れを怠らず、大切にしてきたんだと思っていた。

 実際、赤田先生の家に行った先生や生徒は、その扱い方の良さにビックリする。

 なんと赤田先生は自転車を自分の部屋に入れている。

 まるで家族のよう。

 赤田先生は、新任のころから、この自転車で通勤し、出張に行き、家庭訪問に行った。

 よほどの遠距離。たとえば沖縄の修学旅行でもなければ、他の交通機関を利用することは無い。

 以前ヤンチャな学校に勤務していたころ、アクタレのアベックの生徒が、先生の自転車を盗んで学校を抜け出そうとしたことがある。

 五メートルも行かないうちに、女の子が後輪のスポークに足とスカートを巻き込まれ、男の子は急ブレーキをかけた。そんなにスピードは出ていなかったのに、男の子は前に投げ出され頭蓋骨を、女の子はスカートが引き裂かれたアラレもない姿で両足首を骨折した。

 で、自転車には傷一つ付かなかった。

 子どもを助けたこともある。

 路地から飛び出した小学生が赤田先生の自転車にぶつかり、自転車のすぐ後ろを走っていたトラックに轢かれずにすんだ。自転車にぶつかった小学生は「まるで抱き留められたみたい」と言い。実際怪我一つしなかった。この時は、とっさに子どもを助けたということで、赤田先生は、警察から表彰状をもらった。

 そんな自転車に乗って仕事に行くのも、今日が最後である。

 今日は、三学期の終業式。

 赤田先生は、終業式を最後に事実上退職する。三月の残った日々は、有り余る有給休暇にした。

「赤田先生は、三十七年の長きにわたって、この自転車に乗り、生徒諸君のためにがんばってこられました。お休みになられたのは、ご両親が亡くなられたときと、インフルエンザで出席停止になったときだけであります」

 校長先生の言葉に、生徒達の中から泣き笑いの声が上がった。

「それじゃ、みんな。これでさようなら! みんなもがんばるんだぞ!」

 赤田先生は、ニコニコ笑いながら大きく手を振り、グラウンドを一周して、校門から出て行った。

 学校のフェンスには、生徒達や先生達がしがみつくようにして手を振りかえしてくれている。

 学校は、少し高い丘の上にあるので麓に行くまで、学校のみんなから見えている。

 赤田先生が、坂の下の橋に差しかかったとき、自転車は急に跳ね上がり、欄干を超えると十メートルほどの高さから、真っ逆さまに川に転落した。

――陽子ちゃん。やっぱり君は僕を許してくれなかったんだね。三十八年前、僕は、ほんのチョイ借りのつもりで、赤い自転車を盗んだ。まさか、それが高校で同級だった陽子ちゃんの自転車だとは思わなかった。あの時、君は亡くなって三日目。ちょうどお葬式が終わって、陽子ちゃんは火葬場で焼かれていた。それで、駅前に置きっぱなしにしていた自転車に憑りうつったんだよね。僕は陽子ちゃんが好きだった。だから、僕は嬉しかった。それから、毎日同じ部屋で暮らして愛し合った。でも、君は自転車。僕は人間。いつかはお別れの時がくる。好きな女の人ができる度に君は邪魔をしたね。だから、僕は定年のこの歳まで独身だった。でも、ネットで知り合った女の人と僕は仲良くなった。今日家に帰って部屋に入ったら、自動的に陽子ちゃんをロックできるように仕掛けを業者の人に頼んでおいたんだ。それも君は見破っていたんだね。そして、こうやって……ぼくは嬉しいよ。怖いほどに嬉しいよ。僕は……――

 そこで赤田先生の意識はとぎれた。

 その後、川から海まで捜索されたが、赤田先生も自転車も見つからなかった……。

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クレルモンの風・6『モンジュゼ公園』

2021-08-09 06:18:00 | 真夏ダイアリー

・6

『モンジュゼ公園』         


 

 あたしは、植物の名前を覚えるのが苦手だ。

 パッと見て名前が言えるのは、二十あるかないか。だからアグネスが言ってくれる草花はきれいなんだけど、名前はさっぱり。でも、きれいなモノは素直にきれい。

「わー、かわいい!」「オー、いけてる!」と感嘆の声をあげても、アグネスは容易には信じない。
「それだけ感動したら、覚えそうなもんやのになあ」
「でも、いいじゃん。ステキな公園だし、見晴らしはいいし!」
「まあ、犬は名前覚えんでも、好きなもんには正直に尻尾振りよるけどな」
「あたしは、犬か!?」
「正直に感動するユウコのこと誉めたつもりやけど(^_^;)」

 ボケとツッコミができるほど、アグネスとは仲が良くなった。

 このモンジュゼの丘(正式には山らしい)から見えるクレルモンの街は絶景だった。

 実家がある荒川区の4倍も広いのに、人口は2/3でしかない。真ん中あたりに大聖堂ノートル=ダム=ド=ラサンプシオン(被昇天聖母大聖堂)このクレルモン最大のランドマークがあり、その周りはビルは少なく、伝統的な淡い朱色の屋根がずっと続いている。

「なんていうか、景色は共有財産って意識が浸透してるって感じだね」
「ユウコて、なんか、ときどきすごいことサラって言うね」
「ハハ、多分なにかテレビか本の受け売り」
「昼の講義もそうやったけど、ハッタリでも、あそこまで言えたらたいしたもんやと思う。それ、才能ちゃうか?」

 アグネスの小鼻がヒクヒクしている。これは気持ちの半分以上にオチョクリが有る証拠。

「アグネスも正直だね」
「あ、それ、タナカさんのオバアチャンにも言われたわ。そう言うたら、ユウコてうちの姉ちゃんに似てるかもな」
「あ、アリス?」
「うん、あいつもたいがいやったからな……」

 放っておくと、お姉ちゃんのアリスへの、溢れるようなニクソサ半分の屈折したグチを聞くハメになるので話題を変える。

 不自然な変え方をすると、つっこまれるので、サラリと目に見える景色に目を移す。

「家族連れが多いね。ほら、あの子、お父さんに振り回されて喜んでる。かわいいなあ!」
「ゆうこは、『かわいい』と『いけてる』しか、感動の言葉知らんねんなあ」

 痛いところを突かれた。ボキャ貧は、あたしだけでなく、今の日本の若者共通の問題だという自覚はある。アグネスは、シカゴの隣のバアチャンに日本語を習ったので表現が多様だ。

 でもって古い。

「ゆうこ、今朝は冷えるよって、オイド温うしていかならあかんで」
「オイド?」
「お尻、オケツ!」

 と言うアンバイ。

 このモンジュゼに来るにあたっても、チノパンの下にアンダーを一枚重ね着してきた。そうそう、オイドというのは、今では死に絶えた関西の「お尻」の上品な表現であることをウィキペディアで確認した。

 機嫌のいいとき、アグネスの二人称は「おうち」になる。なんとなくの感じで二人称であることは分かっているけど、語源はまだ未確認。

 お姉ちゃんのアリスは「不思議の国のアリス」と言われるほどの天然らしいけど、アグネスもたいがいである。

「あ、あのモニュメント、日本のオッチャンが作ってんで!」
 
 ワッサカ茂った薮の端っこに、石の団子を積み上げ、縦長のドーナツみたくした大きなモニュメントがあった。

 近づくとドーナツの穴はヨウカンのように縦長の窓のようになっていることが分かった。

「へー、不思議だね。石造りなのに、なんだか暖かい」
「初めてまともな感想言うたな。これは『楢葉たかし』いう日本のオッチャンが作った名物やねんで。タイトルは『窓』 よう分かるやろ」

 なるほど、近づく距離によって、景色がずいぶん違う。こんなところで、日本人の芸術が見られるとは思わなかった。

「あ、あれ、事務所のアランじゃ、ないの!」

 窓を通して見えた、確かにアラン。

「オー フグ!」

 声を掛けようとして、アグネスに口を封じられた。

「なに、すんのよ!?」
「声掛けたら、あかん……」

 やがて、アランの後ろにブルネットのかわいい(また、アグネスに怒られそう)女の子が付いてきているのが分かった。

「なるほど、邪魔しちゃダメだよね」

 このカップルに、深刻な問題があることは、アグネスは言ってくれなかった。もう少し、あたしには知識が不足しているようだった。

「あら、ユウコちゃんじゃないの!?」

 アランのカップルが多り過ぎたあと、窓にいきなり知った顔が飛び込んできた……。

※『不思議の国のアリス』は本作の姉妹作です「不思議の国のアリス 大橋むつお」で検索してください。

https://ncode.syosetu.com/n6611ek/

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