大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・235『しゃれこうべ』

2021-08-19 13:30:33 | ノベル

・235

『しゃれこうべ』頼子     

 

 

 空気清浄機を真ん中にさくらと留美ちゃん。

 

 テイ兄ちゃんが檀家さんからもらったのを、相談した結果、さくらと留美ちゃんの部屋に置くことに決まった。

 その記念写真。

 あれ?

 留美ちゃんはニコニコしてるんだけど、さくらが微妙な(^_^;)顔をしている。

 気のせいかなあ……とりあえず『よかったね(^▽^)/』と返事を打っておく。

 

 ピコピコ ピコピコ

 

 着信のシグナルが鳴って、現れたのはお祖母ちゃんのメール。

 これも写真付き。写真は二枚。

 ただし、空気清浄機ではない。

 大きな輸送機の中に、ぱっと見でも500人は居るだろうという人たちが膝を抱えて、不安な、でも、ちょっと安心したようにひしめき合っている。

 もう一枚は、滑走し始めた輸送機を大勢の人が追いかけ、何人かは、輸送機の機体に張り付いたりしがみ付いたり。

 人々の服装から……これはアフガニスタンだ。

 大統領も逃げだして、残った大使館の人たちも軍の輸送機で脱出。それを聞きつけたカブール市民の人たちが輸送機に殺到したんだ。

 知ってるよ、お祖母ちゃん。

 わたしもネットニュースで見たもん。

 がんばった人は、なんとか機体に取りついたけど、輸送機が離陸すると、振り落とされて何人か落ちて亡くなったんだ。

―― 国民を、こんな目にあわさないために国家があります ――

 賢明なクソババアは、それ以上の事は書かない。

 書かないけど、分かってる。

 分かってるよ。わたしにとっての国は、日本とヤマセンブルグ。

 日本は、わたしがいなくても微動だにしない。国民も政府もしっかりしているし、世界一の皇室もある。

 ヤマセンブルグにも王室があって、女王陛下が一人で支えていらっしゃる。

 面倒なことに、この女王陛下は、わたしのお祖母ちゃん。

 わたしは、お祖母ちゃんの、ただ一人の跡継ぎ。

 23歳までに決心しなければならない。わたしが日本を選んでしまったら、五代遡った遠い親類から国王を招くことになる。

 

 しゃれこうべ

 

 なんの脈絡もなく『しゃれこうべ』という言葉が浮かんでくる。

 ウフ……ウフ、ウハハハハハ アハハハハハ

「殿下、どうなさいました?」

 ソフイーが文庫本から目を上げて、わたしを見る。

「ごめん、なんか思い出しちゃって……プ、プハハハハハハハ」

「なにか悪いものをお食べに……」

「ち、ちがうちがう、アハハハハ……」

 半年前、留美ちゃんが悩んでいた時に、三人でさくらの部屋に泊まった。

 豆電球だけ付けて、やがて沈黙が訪れて、沈黙が重くって、さくらが呟いたんだ。

 しゃれこうべ

 なんだか可笑しくなって、笑い出したら止まらなくなって。

 それが、脈絡もなく蘇ってきた。

 笑いすぎて涙が出てきた。

 如来寺に行きたい、三人で寝て、さくらがバカをやって、留美ちゃんがキョトンとして、三人でアハハと笑っていたい。

 でも、大阪には緊急事態宣言が出ている。

 ああ、コロナが恨めしい!

 

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やくもあやかし物語・94『実話  茶屋の東窓』

2021-08-19 10:17:29 | ライトノベルセレクト

やく物語・94

『実話  茶屋の東窓』    

 

 

 ジュウソウ峠だよね。

 

 峠の看板を見て、あたしは自信満々に言う。

 お風呂のスノコに引っかかったチカコをもう一度お風呂に入れてやった夜。再びお地蔵イコカを使って高安に来ている。

 ネットで『難解大阪の地名』を調べていたので、自信たっぷりだ。

 高安に行くことになったわたしは、チカコに内緒で調べていたのだ。

 玉祖神社を、最初は「たまそじんじゃ」だって思ってたもんね(^_^;)

 

 調べると、いっぱいある。

 

 放出(はなてん) 喜連瓜破(きれうりわり) 五百住(いおずみ) 内代(うちんだい) 住道(すみのどう)

 交野(かたの)  私市(きさいち)  御幣島(みてじま)

 

 そして、十三(じゅうそう)

 

 梅田から阪急電車に電車に乗って、淀川を渡った駅が十三なんだ。

 調べた時は「へーー!?」「ホーー!?」って感動したので頭に焼き付いている。

 だから、自信をもって「じゅうそう峠だよね」とポーカーフェイスで答えた。

「ううん、十三(じゅうさん)峠だよ」

「え、だって……(;'∀')」

「ふふ、やくもの知識は、まだまだ初級よ」

 ク……ジト目で笑うな!

「ほら、ここから下が神立……読めるかしら」

 ニクソイままの目で地面に字を書く。

「カミダテ……なんて単純な読み方じゃないんだよね……ジンリュウ?」

「フ……」

 鼻で笑われた。

「コウダチって読むのよ」

「チカコ、ネットで調べた?」

「やくもじゃあるまいし」

 くそ、知ってるんだ。

「さ、ここから茶屋の辻。空気が変わるわよ」

 

 ホワ~ン

 

 変わったのは空気だけではない。

 普通の家が数軒軒を並べていただけの坂道に、時代劇に出てきそうな茶店が十軒以上現れた。

 なるほど茶屋の辻だ。

「ちょっと、のいてんか」

 ビックリして振り返ると、馬に荷車を引かせたオジサンが怖い顔をしている。

「あ、ごめんなさい!」

 慌てて道を譲ると、オジサンは変な顔をしながら通り過ぎていく。

 変なのはオジサンの方、チョンマゲに荷車も大八車みたいだし。

「1300年前だからね。東窓の彼女のその後を見に来てるのよ」

「え、あ、じゃ、この格好じゃ」

 パジャマのまま……と思ったら、ちゃんと着物を着ている。

「見かけは合わせてあるから。でも、言葉は令和のまんまだから」

 あ、それで、さっきのオジサンは変な顔したんだ。

 

 茶屋の中を見通せる薮に隠れる。

 

 さっきのオジサンが、荷車ごと馬を停めて茶屋に入って来る。

「ハナちゃん、甘酒と団子」

「はい! ただいま(o^―^o)」

「オレ、お茶と団子」

「こっち、甘酒」

「こっち、お勘定」

「はーい、ただ今あ! はい、三十文もらいます。お団子置いとくね(^▽^)/、甘酒はツケたとこやから、ちょっと待っててねえ(^▽^)」

「ええよええよ、ハナちゃん見てるだけで元気出るさかいなあ」

「もう、ハナ見代とったろかしら」

 奥で、お上さんが軽口を言う。

 

「なんだか、イキイキしてるよ」

「これが答えだと思いなさい」

「え……どういうこと?」

 業平さんに大口開けてご飯を食べているところを見られて、ガッカリしてるはずなのに。

「もうちょっと見ていなさい」

「うん……」

 

「はい、甘酒おまち」

「え、ハナちゃん、ちゃうんかい?」

 甘酒を持ってきたのはお上さんだ。

「朝から働きづめやさかい、ちょっと休憩いかした」

「ああ、まんの悪いこっちゃ」

「せやけど、ハナちゃん、元気になったなあ」

「さいな、大きな声では言われへんけど……」

「小さな声では聞こえまへんけど」

 大阪弁のやりとりは面白い、奥で休憩しているハナちゃんもクスリと笑った。

「アハハ、ハナちゃん笑ろたな」

「いや、ほんま。業平さんに見初められてからは、あてもハナも正直気ぃ重うて……」

「あれやろ、東の窓からハナちゃん、メシ食うてるとこ見られて……」

「いや、もう苦肉の策やってんわ」

「え、ほんならやっぱり?」

「はいな。業平はん言うたら、都のどえらい公達どっしゃろ。桓武天皇はんのお孫はん。畏れ多いけど、こんなお方に、たとえ通われて、都に連れていかれたりしたら、ええ暮らしはでけるやろけど、窮屈で死んでしまうわ」

「なるほどなあ」

「で、オバハン、なんか知恵めぐらしたんか?」

「それが、夢に俊徳丸が現れてなア」

「え、あの山畑長者の?」

「はいな、伝説の俊徳丸はん」

「え、ワシの嫁にくれとか?」

「てんご言うてな、とうに亡くなった伝説のヒーローや」

「その伝説が、どない言うたんや?」

 店中どころか、向こう三軒両隣の客まで集まり出した。

「それがな『東の窓を開けて、子どものころみたいにご飯食べなさい。七日もやったら効果が出てくる』言わはってな、ほんで、ちょうど七日やったとこで、業平さん諦めてくれはったいうわけやねんわ」

「そうかいな!」

「せやったんか!」

「なるほどなあ!」

 オジサンたちは感心しきりだ。

 で、オジサンたちは、奥で休憩しているハナちゃんに目をやる。

 

 ちょうどハナちゃんは、まかないご飯を食べているところだ。

 

 さて、ハナちゃんが、どんな食べ方をしていたか?

 そりゃあ、普通の食べ方だよ。

 左手にお茶碗持って右手にお箸。

 けして、胡座で大口開けてバカバカって食べ方じゃない。お姫さまって感じでもないけど、そこらへんの女子が普通にご飯食べてますって感じ。

 つまりね、東窓の時は演技だったんだよ。

 

 チカコが言ったよ。

 

「たぶん、業平さんも分かってたと思う。業平さんは、嫌の者を無理やりって人じゃなかったと思うよ……」

 

 チカコと二人、令和の我が家に戻ると、朝までゆっくり眠れました。

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸

 

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ライトノベルベスト『ちょっとした躓き・3』

2021-08-19 06:51:12 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ちょっとした躓き(つまずき)・3』 

 


 交番を出ようとしたら、天海祐希似の女性警官に呼び止められた。

「天海祐希って、名前気に入ってるからね」
「それも、あたしが?」
「そう、なんだか宮沢って人が来て交代してくれそうな気がしてきた」
「あ、でも不可抗力だし、あたしの思いこみだから……」
「あ、それから一言。わたしは女性警官じゃなく、婦人警官だから。そこんとこ、よろしく!」

 あたしは、ハイテンションな天海祐希さんを、持て余して、通りに出た。

 まったく、いつもの通りだった(あ、オヤジギャグじゃないから)。ただ、通行人が、あたしを避けないで、あたしの体を素通りしていくのには、まいった。

 まるで、3Dのゲームの中を歩いているような……いや、それ以下。ゲームの中なら、アバターが通れば避けてくれるもんね。それでも素通りされるのは気味が悪いので、気を遣って歩いた。

 大通りに出ると、ゲンチャや自動車まで素通りしていく。あたしは、日頃、どれだけお互いが距離や間合いをとって行動しているか、文字通り体を張って体験した。

 通りを渡って、コンビニに入ってみた。

 妙なことに、コンビニにのドアは、手で開けないと開かなかった。何気ないことなんだけど、とても感動した。

 レジのオネエサンのところへ行った。森三中の大島さんみたいな体型で、いつもプニプニのお腹に触ってみたい衝動にかられていた。

 今日は、人間は素通しなんで、思い切って触ってみた。

 やっぱり素通りだった。でも胸のあたりに手をあげると、なんだか冷たい……いや、寂しいところに届いた。佐藤という名札を付けたオネエサンは、わたしと体が重なったお客さんの相手をニコニコしながらやっていた。でも、この笑顔の下には、こんな冷たく寂しい心を隠していたんだ。

 あたしは、この佐藤さんの触れてはいけないところに手をやったようで、慌てて手を引っ込めた。

 いつものように、雑誌の立ち読みでもしようかと、手を伸ばすと、手に取れなかった。マガジンラックごと素通りになってしまう。他の商品にも手を出したが同じことだった。

 そのとき、AKBのマユユをそのまま小型にしたような小一くらいの女の子が、お母さんと入ってきた。あたしは、この子と時々、この店で会う。たいてい目が合って手を振るとマユユそっくりな笑顔で手を振り返してくれる。この子の側を通ると日向くさい子どもの匂いがするのも好きだ。

 そこで、あたしは、その子の目の高さに屈んで、ちょうど頭が重なるようにすり抜けた。

 ショックだった。

 瞬間、脳みそが重なり、この子のあたしへの気持ちをモロ感じてしまった。

 いい高校生が、昼日中からコンビニでスマホばっか。でも、あたしが来ると気づいちゃうのよね。ああ、やだやだ、こんないかれたオネーチャン。でも、とりあえずマユユの真似してニコって手を振ると、それでおしまい。それ以上は関わってこないから、このオネーチャン見たら、取りあえずやっとくの。

 くそ、カワイイ顔して、そんなこと考えてたのか……!

 ムナクソが悪いので、あたしはコンビニの外に出た。

 で、ここまでスマホを見ていないことに初めて気が付いた。急いで気分直しにスマホをだしたけど、圏外だった!

 あり得ない、こんな街中で、いつもの下校時間、いつものコンビニ前で圏外だなんて!

 気づくと、道の向こう側に友だちの朱美がいた。声を出しても通じないのは分かっているから、スマホで呼び出した……でも圏外!

 信号が変わったので、朱美は、こっちに近づいてきた。

「……美恵、どうして通じないかなあ」

 嬉しい、持つべきものは友だち。あたしのこと心配してくれてる!
 朱美の心は、近づいただけで分かった。あたしのことを思ってくれている。
 でも……朱美の中のあたしの姿は、プリクラのマチウケだった。プリクラ特有の影のない、変な美白のあたしだった。いつもなら気にもしないんだけど、今はリアルのあたしを思い出してほしかった。

「あ、麗羅。あんた通じるんだ。ううん、なんでもない……」

 とたんに、朱美の心からあたしが消えて、麗羅のことだけになってしまった。
 まるで、テレビのリモコン押したみたいに、いとも簡単に。

 ま、こんなもんかと思い直し、我が家に向かった。

 トキワレジデンスというアパートを曲がって三件目が家…………が無かった。
 

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