大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・230『赤城の頼み』

2021-08-31 09:38:39 | 小説

魔法少女マヂカ・230

『赤城の頼み語り手:マヂカ  

 

 

 

 えと……えと……船霊になったのは先週の火曜日なんです。

 

 少し言いよどんでから、赤城は切り出した。

 先週の火曜日と言うと、天城の自己犠牲で赤城の延命が決まったころ……十日がたっている。

「船霊は、艦内神社が作られて、正式に勧請されるまでは身動きが取れないんです」

「その勧請は無事にすんだのかしら?」

 公爵の娘で、自分自身、いろいろ制約のある霧子が同情の声で訊ねた。

「はい、でも、原宿までやってくると、力が尽きて、駅のベンチで座っていたんです」

「ああ、貧血みたいな?」

「ええ、そんな感じです。もう少し遅ければ実体化が解けてしまうところでした。そこを通りかかって声を掛けてくださったのがクマさんで……」

「クマさんが介抱してくれたんや!」

 ノンコが早手回しに感動する。

「クマさんは、恋をしてらっしゃって……」

「「「うんうん」」」

「その情熱がすごいもので、持ってらしたケーキのクリームが溶ける寸前でした」

「そうだったんだ」

 わたしたちも、朝から、それでヤキモキしていたんだ。

 相槌が揃う。

 それにしても、ケーキのクリームを溶かしてしまうとは、クマさんも熱い女の子だ!

「このままでは、お使い先に行った時にはケーキがダメになってしまいますから、せめてクマさんのお役に立てればと、少しだけ熱を取ってあげたんです。そうしたら、その情熱のお蔭で、わたしも回復して。お使いが済んでから、こちらに案内していただくことになって、ほんとうにクマさんには感謝です」

「そうやったんや!」

「わたしのケーキも無駄にならなかったのね!」

「それで、わたしたちに御用とは?」

「あ、はい、それでした!」

 清楚系のわりには、微妙に抜けている赤城さん。

「じつは、長門おねえさんのことなんです」

「長門?」

 令和高校生のノンコはピンとこない。

「「戦艦長門ね」」

 わたしと霧子の声は揃う。

 戦艦長門と言えば、18年後に戦艦大和が完成するまでは帝国海軍最大最強の戦艦で、長く連合艦隊の旗艦を務めた、世界の戦艦ビッグセブンの一つに数えられた名鑑だ。

 竣工は大正九年だから、完成して、まだ三年の新鋭艦。人間で言えば、ちょうど霧子ぐらいで元気いっぱいのお嬢さんというところだ。

「震災が起きた時は、大連沖で演習中だったんですが、震災の報を聞いて、ただちに演習を中止して全速力で東京に戻ってきたんです」

「聞いたわ、海軍の軍艦は、続々と東京湾に戻ってきて、乗組員の皆さんが被災者の救援に当たったって」

「うん、横須賀や横浜じゃ、最初に海軍さんの救援活動が早かったって」

「長門ねえさんは、途中で英国の巡洋艦に見つかってしまったんです」

「あ……」

 

 ピンときたわたしは、とっさには声が出なかった。

 

「見つかったって、大正時代は、イギリスと戦争なんか……してへんよね?」

「長門は優秀な戦艦で、最大速力が26ノットも出るんだ、そうだよね」

「ええ、正確には26.6ノットです」

「それて、どのくらい(^_^;)?」

「時速48キロぐらいよね。電車が普通に走ってるぐらいの速さ」

「はい、英国の巡洋艦は意地悪なことに、ずっと長門おねえさんを追跡してきたんです」

「ストーカーか」

「でも、英国は同盟国でしょ? いっしょに走って、都合の悪いことが?」

 霧子でも、このへんの事情は分からないようだ。

「長門のカタログデータでは22ノットなんだよね?」

「はい、真智香さんのおっしゃる通りです。26.6ノットの最大戦速は機密です。そのために、速力を22ノットに落とさざるを得ず、到着が遅れて、助けられる命も助けられなかったと、ずっと悔いておいでなのです」

 この時代は、人も船も誠実だ。

 平成の阪神大震災では米軍が救援を申し出たが政府は断った。米軍は神戸沖に空母を派遣して、救援活動の海上基地にしようとしたが実現していない。実現していれば、何百人という人命が救われただろう。

 その蹉跌は、東日本大震災では活かされて、初期救援に大きな力を発揮した。

 しかし、その時でも米空母の船霊が悔やんだという話は聞かない。

「それで、わたしたちに、どうしろと?」

「はい、震災直後に戻って、長門おねえさんの悔いを雪いであげて欲しいのです」

「「「え?」」」

 

 さすがに息をのんだ……。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

 

 

 

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ライトノベルベスト『しつこいんだよ先生・2』

2021-08-31 06:21:29 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『しつこいんだよ先生・2』    




「へー、こんなとこから出られたんだ……」

「感心してねえで、メット被って後ろに乗れ」

「うん」

 美紀は、素直にバイクの後ろに跨り、俺は背中で美紀の胸のふくらみを感じた。まだ生で見たことはないけど。

 おれはメールで学校のごみ置き場の金網の観音開きが開くことを知っていた。美紀の学校の裏サイトで発見し、グーグルのストリートビューで確認しておいた。そのことと時間だけを指定しておいたんだ。

 5分だけ待つ、それが過ぎたら今日はNGだ。と……。

 美紀の学校から直角に伸びる道に入り、すぐに右折。少しでも美紀の中抜けがばれないための用心。500メーターほど遠回りして鈴木オートに着く。おれの行きつけのバイク屋だ。元族だけど、物わかりのいい鈴木さんに声をかける。

 

「すんません。こいつ着替えさせたいんで事務所借ります」

「いいよ、散らかってるけど」

「ほれ、これに着替えてこい」

 女もののジーパンとトレーナーを渡すと、美紀がウロンな目で俺を見た。

「ばか、姉貴のだよ。洗濯はしてある」

「すみません、じゃ着替えさせてもらいます」

「着替えた制服は、ロッカーの三つめ空いてるから」

「ども」

 美紀は、ついでのように頭を下げて事務所に入った。

「で、一時には帰ってくるんだな?」

「はい。中抜けだから、バレないようにやらないと」

「まあ、あんまりこじれないように。とりあえずは話を聞いてやれ。人間てのは、しゃべれば半分がとこ心が開く」

「お見通しなんですね」

「だてに十年も族はやってねえ。亮介が、こんな無茶やるんだ。本気で切羽詰ってんのは分かるよ。エンジンのチューンも女心もデリケートに変わりはねえ……このバイク、フレームが歪んでんな」

 鈴木さんが、バイクに熱中しはじめたころ、美紀が着替え終わって事務所から出てきた」

「お、髪も変えたんだな」

 美紀はセミロングからポニーテールに変わっていた。

「途中で誰に会うか分かんないからね」

「じゃ、時間厳守な。遅れたら誘拐で警察に電話するからな」

「はいはい」

 その時スマホにメールの着信音。

――素直に寝てますか? 声色上手な亮介くん?――

「ヤベ、副担のネネちゃんだ!」

――ありがとうございます。今から医者にいくとこです――

 と、返してバイクに跨る。

 スカートからジーパンに変わると開放的になる。おれは、そこまで読んでいた。効き目は駐車場に入って一回切れた。

「えー、ここって、いけないホテルじゃないの?」

「誰にも見られずに短時間で、コミニケーショとるのは、こういうとこが一番」

「コミニケーションだけだよね?」

「世界中の神様に誓って」

 おれはコミニケーションと言った。話とは言わなかったぜ……。

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