大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・92『素体を買ってよ』

2021-08-04 14:41:13 | ライトノベルセレクト

やく物語・92

『素体を買ってよ』    

 

 

 ねえ、素体を買ってよ。

 

 お風呂から上がって、アイス片手にドアを開けると、チカコが腕を組んでいる。

 腕を組んでいるのは、机の上。

 机の上には『俺妹』の1/12フィギュアが並んでるんだけど、その中の黒猫にチカコは憑りついている。

 だから、見た目には黒のゴスロリに黒のショルダーを掛けている。

 元々は『マスケラ 堕天使た獣の慟哭』というアニメのキャラ『夜魔の女王(クィーンオブナイトメア)』のコスだから、普段は中二病少女の可愛いコスプレなんだけど、マジになると、1/12サイズとは言え、魔女的な迫力がある。

「な、なによ」

「とりあえず、座ってアイスを半分よこしなさい」

「半分たって、チカコじゃ食べきれないよ」

「くれたら、アイスも1/12になるから」

「う、うん……で、どうすればいいの」

「『献上する』って気持ちになりなさい」

「け、献上!?」

「そうよ、わたしはクィーンオブナイトメア、献上という言葉しかない。まあ、わたしとあなたの付き合いだから『差し上げる』という略式の言葉でもかまわないわ」

 そう言うと、グイっと付属のコーヒーカップを突き出した。

「わ、わかった(;'∀')」

 勢いに負けて、そう言うと、フッとアイスのカップが軽くなって、チカコのコーヒーカップがズシっと沈んだ。

「フフ、気持ちがあれば『わかった』でもいけるみたいね」

「2/3も、そっち行ったんだけど」

「いちど転移したアイスは戻らないわよ、諦めて椅子に座りなさい」

 そう言うと、マウスパッドの真ん中に置かれた自分の椅子に座った。

 パッドとは言え、一段高く、ナイトメアの威厳をまとっているものだから、女王のように見える。

「フフ、机の上がナイトメアの奥つ城のようね。やくもは……さしずめ、我が下僕になったトロルの娘というところね」

「えと……そういうのはいいから、その『そたい』っていうのはなによ?」

「元素の『素』、体育の『体』って書いて『素体』。1/12フィギュアのベースになるボディーのことよ」

「あ、ああ……」

 思い出した。チカコは、元々はお雛さんみたいな恰好をしていたけど、首を抜いて挿げ替えたんだ。

「そう、ああいう感じ」

「素体のボディーにして、どうするの?」

「お風呂に入るのよ」

「お風呂?」

「今のボディーは服を着たままの成型になってるから、このままじゃ、服を着たまま風呂にはいることになる」

「あ、ああ、そうか」

「ここのお風呂って、こないだ手を加えたばかりでしょ、削りなおして檜の香りも香しい」

「チカコ、入りたいわけ?」

「二丁目地蔵は入ったじゃない」

「あ、ああ、そうだったわね」

「いまもそうだけど、お風呂に入ったときって、とってもリラックスしてるじゃない」

「う、うん。あたしお風呂好きだし」

「いっしょにお風呂に入ったら、お互いリラックスして話ができる」

「あ、そか、いっしょにお風呂入りたいんだ」

「お、おまえの話を聞いてやろうと思ってのことだ。やくも、風呂入った後は、すぐに寝てしまうだろうが」

「あ、そうだね」

 AMAZONで検索してみた。

 なるほど、1/12の素体ってあるんだ。

「あ、シリコンの柔らか素体ってのもある!」

 それは、シリコンでできていて、継ぎ目がないものだから、とってもリアル。

「そ、そういうのはいいから、これに合う多関節の素体をみなさい!」

「へいへい」

 わたしも冷やかしで言ったのだ。1/12のくせに、4000円もする。

 その下にある、多関節の素体をクリック。

 ウフ

 ポーカーフェイスを気取ってるけど、とっても嬉しそうな顔をするチカコだった……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸
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せやさかい・222『詩ちゃんといっしょ』

2021-08-04 08:57:34 | ノベル

・222

『詩ちゃんといっしょ』さくら      

 

 

 アハハハハハ

 

 朝ごはん食べながら笑ってしまった。

 夏休みに入ってから、詩(ことは)ちゃんもいっしょに朝ごはん。

 詩ちゃんは大学生やねんけど、ふだんは、中学生のうちらよりも朝ごはんが早い。

 詩ちゃんはホンワカしたベッピンさんやねんけど、ストイックなとこがある。

 大学は、基本は自分の好きなように授業が組み立てられる。

 せやさかい、普通の大学生は一時間目を外して履修登録することが多い。

 大学の二時間目は十時半ごろに始まるさかい、九時ごろに家を出たら間に合う。

 したがって、朝ごはんは、うちらの一時間目が始まるころに食べたらええわけ。

 詩ちゃんは、それを毎日一時間目から出てるから、うちらよりも朝ごはんが早かった。

「夏はグータラするわ」

 そう宣言して、うちらの夏休みが始まってからは、いっしょに朝ごはん。

 本人はグータラ言うてるけど、留美ちゃんへの配慮やと思う。

 留美ちゃんは、お家の都合で一人暮らしをすることになって(事情は195ぐらいのとこ見てください)うちの家族の一員になったんやけど、それと入れ違いに詩ちゃんは大学生。それで朝のサイクルが合わへんので、夏休みぐらいはという配慮やと思う。

 で、なんで三人揃って笑ってるかと言うと、目の前のタブレット。

 頼子さんも、うちらの真似して領事館の庭で朝顔の栽培を始めた。

 頼子さんを挟んで、両脇にジョン・スミスとソフィー。

 ジョン・スミスは190もあろうかというオッサン。それが、背中丸めて「早く芽を出せ、蕾を付けろ(^^♪」いう感じでしゃがんでて、頼子さんもソフィーも幼稚園の子ぉみたい。ジョン・スミスが熊みたいやから、二人は、ほんまに小動物みたい(^▽^)

 三人とも夏の普段着輩、短パンにタンクトップ。

 しゃがんだジョンスミスの太ももは、頼子さんのウエストと同じくらいで、ソフィーよりもブットイ。

 ボンレスハム……

 グフ

 詩ちゃんが呟いて、留美ちゃんは、危うく鼻からカフェオレ噴き出すとこやった。

 

「自転車で散歩でも行っといで」

 

 お祖父ちゃんの勧めで、八月に入ってからは三人で家の近所を散歩。

 まあ、三十分ほどで、五キロちょっと。

 雨が降ったら行かへんし、用事ああったら抜けるし、いっつも三人ということにはなれへんやろけど、今のところ三人。

 習慣と言うのは恐ろしいもので、初日は中学の正門まで行って笑ってしまった。

「ボーっと走ると、ここに来てしまうよね(n*´ω`*n)」

 うちらは、安泰中学の現役と卒業生ですわ。

 堺の街は、基本碁盤目状になってるんで、迷子になることもないし、

 

 あら?

 

 いつもとは違う角を曲がって、留美ちゃんが停まった。

「え?」

「おお!」

 それは田中米穀店、ほら、檀家のおばあちゃん。

 店先に、朝顔の栽培デラックス版!

 プランターが三つ並んでて、そこに緑の棒が等間隔に刺されてて、緑の蔓が軒先まで伸びてる。

 朝顔初心者のうちらには、眩しい光景。

「でも、なんだか違う……」

 留美ちゃんの目が真剣になる。

 言われて見ると、葉っぱがちっちゃい。

 それに、これだけワッサカしてんのに花が付いてへん。

 それにそれに、よう見ると、上の方に、赤くて丸まっちいもんが数個付いてるやおまへんか。

「あ、ミニトマトだ!」

 詩ちゃんが、正体を見破る。

 その声に気付いて、田中のおばあちゃんが出てきた。

「まあまあ、お寺のベッピンさんがうち揃うて(^▽^)/」

「「「あ、おはようございます」」」

 三人揃ってご挨拶。

「なんや、朝日に輝いて、観音さんみたいやなあ……ナマンダブナマンダブ……」

「あ、手ぇあわさんとってくれます(^_^;)」

「アハハ、せや、その上の方のトマトとってもらえへんやろか」

「え、あ、いいですよ」

 軽やかに自転車を下りると、ちょっと背伸びしてミニトマトを収穫する詩ちゃん。

 背伸びするもんやさかい、Tシャツが上に上がってしもて、腰の肌がチラリと見える。

 い、色っぽい(#'∀'#)。

「日よけ代わりに植えたんやけど、びっくりするくらいトマトでけてしもて、収穫したんやけど、上の方手ぇ届かへんさかい、どないしょうか思てたとこやってんわ」

 お婆ちゃんには、渡りに船やったみたい。

 ひとりじゃ食べきれへんいうので、袋に一杯ミニトマトをもらって帰る。

 

 学校の宿題に『夏の友』とか日記式の宿題があったら、毎日、種に困らへんのにと思った。

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ライトノベルベスト『小林イッサの憂鬱』

2021-08-04 06:31:28 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『小林イッサの憂鬱』    




 

「おーい、小林イッサの、む・す・め!」

 仁のバカタレが窓から囃し立てた。みんなが一瞬窓の仁とわたしを交互に見る。
 クスリと笑う子や、ひそひそささやく子もいたけど、シカトした。
 もうすぐこの学校ともお別れ。事を荒立てることもないだろう。そう思って知らん顔、そう、それに限る。

 みなみは、この学校で何事もなく卒業できるだろう……ひそかに期待していた。

 みなみは、幼稚園のころから転校ばかりしてきた。

 お父さんの仕事がら、転勤のたびに転校させられてきた。

 それが中学に入ってからは転校もなく、居心地も良いので、この中学校にずっと居たかった。ウザイのは、さっきの仁くらい。自分と同じ名前の主人公がドラマになり、それがヒットしてからは、友だちにも「仁」と呼ばれていい気になっている。
 性格は悪くないのだけど、どうにも子どもっぽい。まあ、中学生というのをどうとらえるかで、仁の評価は分かれるだろうけど、わたしのカテゴリーの中では……ガキだ。

 あれは、中一の梅雨ごろだった。

 朝から雲一つない上天気だったので、みなみは傘を持たずに学校へ行った。ところが、昼過ぎから雲行きが怪しくなり、下校するころにはポツリポツリきだした。そして、バス停のところまで来たところで本降りになってきて、家まで三〇〇メートルほど。ずぶ濡れになりそうなので、バス停の小さな庇(ひさし)の下で雨が小降りになるのを待っていた。ワンマンバスが停まるので恐縮だった。

 そこに通りかかったのが、仁。

 一瞬通り過ぎて傘を押しつけてきた。

「……使えよ」
「いいよ、家すぐそこだから」
「使えって、小林が濡れんのに、中林がさしてるわけにいかないだろ……それに、おれ仁だし」

 そう言って、あいつは行ってしまった。

 それは、それでおしまいだった。

 ところが、その年の夏、大型の台風がまともにこの地方を通り、町の道は寸断され、川は氾濫。町役場から避難勧告が出された。そして、町の多くの人たちが、高台にある中学校に避難してきた。午後になって電気も停まり、県知事は自衛隊に災害出動を要請。
 
 そして、やってきたのが、お父さんの部隊だった。

 中学校の校庭が派遣部隊のベースになった。

 部隊の大半は、避難地域の警戒に出動していったが、学校に残った隊員の人たちも、避難してきた人たちの面倒をよくみてくれた。中には体調を崩すお年寄りもいて、ヘリコプターで搬送したり、発電機の用意や、食料の配給までやってくれた。堤防の一部が決壊して、みんなが動揺したとき、部隊長のお父さんが体育館にやってきて、みんなを励ました。

「お父さんて、言っちゃだめよ」

 お母さんに言われていたので、まったく他人の顔をするのに苦労した。

 堤防の決壊は畑をかなりダメにしたけど、幸い流された家も怪我人もなく、この地方では比較的被害は少なくてすんだ。

 そう、それで済むはずだった……あの記事が新聞に載るまでは。

 その年、お父さんはS新聞の「国民の自衛隊員」に選ばれてしまい、町長さんも感謝状を渡すことになった。

 そして、わたしが、その部隊長小林二佐の娘だということが知れてしまった。

 おおむね、みんなの反応は良かった。あの仁はなんとなくおかしくなった。あいつは、あれでみんなに影響力のあるやつで、クラスの何人かの態度がよそよそしくなった。べつにイジメられたり、シカトされることはなかったけど、ちょっと寂しかった。

 でもって、今度お父さんは一階級昇進して転属することになった。

 台風で避難したとき、みんなを励ましたときのおとうさんは弁舌爽やかだった。みんなも勇気づけられ感心してくれた。だけど、お父さんは、取材にきた記者に余計なことを言った。

「名誉なことですが、小林イッサになってしまいました」

 このフレーズがウケて、新聞に、こういう見出しで載ってしまった。

『小林イッサの憂鬱』

 ……で。

「おーい、小林イッサの、む・す・め!」になったわけ。

 幼稚園のころから慣れた「おわかれの挨拶」をした。ただ、今回こまったのは、「ぜひ、全校集会の場で」と校長先生に頼まれたこと。

 で、わたしは全校の生徒や先生の前で挨拶することになった。

「……というわけで、わたしは、また転校することになりました。みなさんありがとうございました!」
 AKBの卒業のように元気に挨拶……ところが、拍手に混じってすすり泣きが始まった。

――まいったなあ……。

 泣き出したのは、仁といっしょにヨソヨソだった女の子たち。
「……うちでは、小林イッサは禁句です。なんというか分かりますか?」
 すすり泣きが止み、みんなの注目が集まった。
「カーネルサンタって言うんです!」
 くすくす、笑い声が湧いてきた。
「カーネルって言うのは、英語で大佐の意味です。自衛隊じゃ一佐って言いますけど。そう、カーネルサンダースって言うのは、カーネル大佐って意味なんです。ま、フライドチキン揚げたり、そんなもんです。で、うちの父は三太って名前なんで、カーネルサンタです。アハハ……じゃ、みなさん、お元気で!」

 わたしは、その足でカバンを持って校門を出た。

 後ろから、仁が思い詰めた顔で追いかけてきた。

「なあに?」
「…………………………」
「なによ?」
「……メールとかしていいか?」
「う……うん。いいよ」
「よかった、オレ、みなみに嫌われてんじゃないかって……」
「そんなことないよ。ほら、あのときだって傘貸してくれたじゃない」
「じゃ、オレ、メールする」
「じゃ……」
 わたしが、スマホを出しているうちに、あいつは行ってしまった。

 メアドの交換もしてないのに……。

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クレルモンの風・1『知らないことばっか!』

2021-08-04 06:20:56 | 真夏ダイアリー

クレルモンの風・1
『知らないことばっか!』
     



 クレルモンと言っても、なにもクレルわけじゃない。フランスの中南部の街。それだけ。

 それだけの知識で、あたしはここに来た。正式にはクレルモンフェランということも、こないだ知ったばかり。
 大学で、交換留学生の募集があったので、あんまり良く読みもしないで申し込んだら、当たってしまった。

「須之内くん、これ一年は帰って来れないの知って応募した?」

 決まってから、学務課留学係りに行くと、担当のオジサンに開口一番に言われた。正直オッタマゲタが、元来の負けず嫌いで、こう言ってしまった。

「もちろん、承知の上です!」

「じゃ、これ必要書類。フランス語は訳しといたけど、英文は自分で読んで。手続きは今月中。九月の第一週には向こうに行って、すてきな留学生活送ってください」

 で、我ながらアホなんだけど、パスポートも持っていなかった。でもって、向こうの学科なんて、日本語に訳してもらってもチンプンカンプン。
 その結果、出発が十日プラス連休分遅れてしまった。なにかペナルティーがあるかと思ったが、ノープロブレム。ただし、勉強の遅れは自己責任で自分でやらなきゃならないらしい。

 そんなあたしを憐れんでか、寄宿舎のルームメイトには日本語が堪能なアグネスって、アメリカの女子学生をつけてくれることになった。

 アグネス……どんな子だろう?

 アグネス・チャン アグネス・ラム ちょっと昔のアイドル 

 アグネスタキオン 検索したら競走馬 でも『ウマ娘』で見てみると擬人化されてて可愛い!

 アグネス・チョウ 香港の民主化活動家 でも写真見るとロン毛の似合う可愛い女の子なのでびっくり!

 大学から連絡があって、スカイプで話せるとのことでパソコンを操作すると「ハロー、ディスイズ ユウコ・スノウチ スピーキング」と初めてみたんだけど、彼女は日本語で応えてくれてラッキー(^▽^)/

 どんな子だったかは、もうちょっと後でね。

 飛行機に乗ってから、日本のありがたさが、身にしみてよく分かる。エールフランスだったけど、日本人のCAさんもいて、苦労はなかった。パリの空港で乗り換えなんだけど、ちゃんと日本語の案内がある。まあ、知らない日本の街に行ったと思えば肩も凝らない……と思えたのは。クレルモンに着くまでだった。

 パリの空港までは日本人もウジャウジャいたけど、クレルモン行きのローカル便は、フランス人ばっか。

 たぶん、心細そうな顔(めったにしません)をしていたんだろう。
「エクスキューゼモア……」って、感じでアジア系のオバサンが、隣のカンペキフランスのオッサン押しのけて、あたしに声をかけてくれた。
「あなた、ひょっとして日本人?」
「はい、そーです(;゚Д゚)!」

 あたしは、地獄でホトケというような顔になった。

「ハハ、あなたって分かり易い性格ね」 
 オバサンは、本格的に横のオッサンと話をつけて、あたしの横に来てくれた。で、聞かれもしないのに、今までのいきさつを言うと、コロコロと笑って気を楽にしてくれ、あたしに、取りあえずどんな援助が必要か考えてくれた。
「じゃあ、空港の出口までエスコートしてあげる」
「みしゅらん土地で、助かりました( ノД`)シクシク…」
 あたしは、感謝の気持ちでいっぱいになり、半べそでお礼を言った。
「アハ、今の立派なオヤジギャグ!」
「え、なんで?」
「クレルモンは、ミシュランでもってる街だから」
「え、そーなんですか?」
 と言いながら、ミシュランが有名なタイヤメーカーであることを知るのは、もうちょっとあと。

「ま、とりあえずFBで、お友だちになっておこうか」
 そのオバサンは、空港で荷物を受け取ったあと、わたしに提案してくれた。
「あたし、須之内優子っていいます。送りますね……」
「はい、これでお友だち!」
「メグ マルタンさん……ですか?」
「そう、正式なメアドは、いずれってことにして……」
「はい、日本でも、簡単にメアド教えるなって言われてきました」
「うん、いいこころがけ。あ、あの子じゃない、お迎えは!?」

 ブロンドのポニーテールがキョロキョロしていた。

「はーい、アグネス……だよね?」
「うん、ユウコよね?」
「うわー、会いたかった!」
「うちもや!」
 スカイプなんかでは、顔も声も知っていたけど、現物は迫力が違う。ハグしたときの感触……とくに胸。
「てっきり、一人で来る思うてたから、わからへんかった!」
 と、大阪弁丸出しのアメリカネエチャンが言った。
「あなたの日本語って、完ぺきな大阪弁やね!」
 と、メグさんも大阪弁で返してきた。

 アグネスは、隣のバアチャンが大阪の人だったので、日本語が大阪弁でインストールされてしまって、標準語だと言葉が出にくいらしい。スカイプでは苦労して、標準語を喋っていたらしい。
 メグさんは、神戸あたりの出身であることが分かった。

 アグネスの運転で大学に向かった。荷物は車に残し、学校の事務所が開いているうちに手続きをしてしまおうということになっているのだ。

「ウワー、かわいい、不思議の国のアリスみたい!」

 入った玄関ホールは、まるでアリスそのもの、学生も4、50人ほどで、こぢんまりしている。螺旋階段がすてきだし、床のチェック柄もすてき。これなら、大きなオセロゲームができると思った。

 で、それは、意外に、意外な問題を解決するのに役に立つのであった……。

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