大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・060『月城かける 恩智駅から歩いてくる』

2021-08-14 18:15:41 | 小説4

・060

『月城かける 恩智駅から歩いてくる』 越萌マイ(児玉元帥)   

 

 

 近鉄恩智駅からは二キロあまりの上り坂なのに汗一つ浮かべてはいなかった。

 

 月城かける

 

 なんだか宝塚の男役のような名前に孫大人の趣味を感じてしまう。

「ツキジョウと重箱読みいたします」

「美しいお名前ですね」

 思ったままを言うと、男役は初舞台の娘役のように恥じらいを含んだ笑顔になった。

「芸名のようなんですが、本名なんです」

「え、そうなんですか!? 宝塚の宙組(そらぐみ)に同じ名前の男役の方がおられましたね?」

 メイが弾んだ好奇心を向ける。

「あ……ご存知なんですね」

「はい、宝塚関連のグッズも扱いたいんで、勉強しました……というか、元々宝塚ファンですから」

「じつは、その月城かけるはわたしのことです。元々本名だったので、宝塚ではそのままの名乗りにしてしまって。引退して、この仕事をしても、本名なので、そのままなんです(^_^;)」

「そうだったんですか、すてきねお姉ちゃん」

「お姉ちゃんじゃないでしょ」

「あ、ごめん……すみません、社長」

「ごめんなさい、うちは始めたばかりで、ケジメがなくって」

「いえ、わたしも先月、この仕事に就いたばかりで(^_^;)、よろしくお引き回しのほどを!」

「こちらこそ」

 下げる頭が揃ってしまい、三人で笑ってしまう。

「ここは、楠木正成の重臣、恩智左近の城跡なんですね」

「はい、たまたまなんですが、孫大人を大楠公と仰げば、良い立ち位置になれるかと喜んでおります」

「まあ、会長が聞いたら喜びます」

「よろしくお引き回しのほどを」

「いいえ、こちらこそ」

 宝塚のグッズを扱うのには、宝塚出身者がいいだろうと言うことで、孫大人の肝いりで選ばれたのが月城かける。

 立場的には、メイのカウンターパートになるだろう。

 裏……というか、本当の任務にも関わってもらうはずなのだが、取りあえずは初対面。

 

 互いの人なりを知るところから始まる。

 

 今月から始まった宙組の舞台は令和以来、七度目の取り組みになる『正行つらつら』だ。

 大楠公と言われた楠木正成のあとを継いだ正行の挫折と奮起を扱った太平記外伝。

 正行は、父と異なって幼いころから都で勉強して弁も論もたつ。

 その、語らせば立て板に水のごとき弁論の爽やかさを『つらつら』と現し、父正成亡き後、楠木党をまとめ、南北朝の争乱を生きていく辛さを掛けたタイトルで、初演のころから人気がある。

 それも、令和から数えて七度目の七生報国公演と期待も大きく、宝塚グッズを扱うのには、この上ないタイミングと言えた。

「千早赤阪のあたりに楠公の旧跡が集中しています、一度訪れて、わたしたちの脳みそを刺激してみてはどうかと思うのですが」

「それはいいですね、ぜひご一緒したいと思います。ねえ、お姉……社長」

「そうね、まずは表稼業の方から手を付けましょうか」

「いちおう、あそこには天狗の古巣があります」

「天狗……天狗党?」

「はい、ごく初期のもので、A機密の割には、めぼしいものはないところなんですが……ご覧になります?」

「A機密、多少の危険が伴うということですか?」

「危険というか、山頂付近なもので人の目が多くて」

「ああ、調べるにしても一般の人に気付かれてはいけないということですね?」

「A機密指定になったのは、いつごろなのだろう?」

「十年も前です、特科がさんざん調べて、うちの会長も二度調べて、なにも出てこないんですが」

「それでもA機密ということは、特科も孫大人も、まだ色気を持っているということかな?」

「まあ(^_^;)……では、ご覧になるということでよろしいですか?」

「うむ、人目に付かない方法ならまかせておけ、満州の前は諜報部にいたからな」

「それは心強い!」

「おし!」

「社長、軍人の顔に戻ってます!」

「あ、すまん! エヘン……マイにお任せだよ、テヘ(*^。^*)」

「それはキモイかも……」

 

 キモイはないだろう……

 

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

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せやさかい・232『お祖父ちゃんのインスタントコーヒー』

2021-08-14 09:13:00 | ノベル

・232

『お祖父ちゃんのインスタントコーヒー』さくら     

 

 

 ウッ

 

 飲みかけのマグカップを持ったまま、お祖父ちゃんが固まった。

「どないしたん、お祖父ちゃん?」

 テーブルのこっち側で宿題をやってたうちは手を停める。

 ついさっきまで、留美ちゃんも並んで宿題やってたんやけど、さっさとやって、部屋に戻ってる。

 うちが、わざわざ手を停めたんは、お祖父ちゃんを気遣ってというよりは、宿題やってる手を停めたかったから(^_^;)

「間違うて、エスプレッソ買うてしもた」

「エスプレッソ?」

「うん、スーパーに行ったら、コーヒーの安売りしてたから、ラッキー思て。あ、エスプレッソいうのは深煎りの豆使うた、濃いコーヒーや」

 お祖父ちゃんは、タバコを喫いません。

 せやさかい、お茶とかコーヒーとか飲みます。

 コーヒーはインスタントコーヒー。

 がぶ飲みするにはインスタントがええらしい。入れる粉とお湯の量でいかようにも量も濃さも加減ができる。

「どんなん?」

「こんなんや」

「ビン見てもしゃあない」

「飲むんか?」

「うん」

「よし、こさえたろ」

「あ、それでええよ」

「飲みさしやで」

「かめへんし」

 うちは、ずっこい。

 こない言うとお祖父ちゃん、喜ぶん知ってる。

 いくら孫とはいえ、中三の女の子が八十過ぎの爺さんの飲みかけに口を付けるんは、ちょっと感動や。

「ほな、まあ、飲んでみい」

「うん」

 ポーカーフェイスで渡してくれるけど、微妙に喜んでるのんが分かる。

 ささやかな祖父ちゃん孝行……なんて思ううちは、ちょっと嫌な子ぉかもしれへん。

「どないや?」

「うん、レギュラーよりも個性が強くてええかも」

 インスタントは香りがせえへんので頼りないねんけど、これは深煎りのしつこさが程よく残ってる。

「そうか、気に入ったんやったら、残り全部やるで」

「ありがとう、これやったら、部屋で飲めるし。お祖父ちゃんのお気に入りてどんなんやのん?」

「うん、モスカフェ・エンペラーいうのがええなあ」

 エンペラー!

 なんと自信たっぷりな名前や!

 

 午後からは、大雨になるという予報やったんで、詩(ことは)ちゃんと留美ちゃんと三人、昼前のスーパーに行く。

 

 コーヒーのコーナーに行くと、お祖父ちゃんの言うてたエンペラーが二列だけ並んでる。

 レギュラーサイズは1000円超えるねんけど、ミニサイズは20杯分で520円。

 お祖父ちゃんにプレゼントしよか思たけど、やめる。

 ちょっと媚びすぎ? 20杯で520円は高い?

 結局、アメリカンドッグを買って、三人食べながら帰りました。

 

 夕方になって、予報通りの大雨。

 宿題は予定の半分しかできませんでした。

 明日はがんばろう。 

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ライトノベルベスト《痛スーツラブストーリー》

2021-08-14 06:43:34 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

《痛スーツラブストーリー》    


 

 世の中に痛車というのがあるのは知っていた。

 アニメなどの萌えキャラをデカデカとペイントした「オレはオタク!」と宣言しているような車のことだ。

 バイト先のコンビニの客で、そういうのが来たことがある。オレは、そういうのに偏見はないほうだけど、その客は嫌な感じだった。太っているわけじゃないけど、体全体の肉に締まりが無く、なんとも男のあり方としてルーズ。買った物は今でも覚えている。

 萌パラダイスって、タイトルのまんまの雑誌。こういうものにも偏見は無い。ただ、そいつの買い方。

「うん」
「380円になります」

 やつはノソっと千円札を出した。

「1000円お預かりいたします……お釣り620円になります。レシート……」

 やつは、何も言わずにレジ袋に入れた雑誌を持って出て行った。で、店を出るとレジ袋を路上に捨て、表紙の萌えキャラにニタニタすると、そのまま痛車に乗って行ってしまった。

 店にいた女子高生三人が、いかにもキモそうに顔を見合わせた。

 夢ちゃんを見ると、困ったように照れ笑いをしていた。

 そーなんだ、今日は、その夢ちゃんの歓送会なんだ。

 二人っきりの!

 オレは、数少ないプチブル友だち祐介のマンションに行く途中だった。その途中で痛車を見てしまったもので、こんなつまらないことを思い出してしまった。約束の時間まで40分しかない。

「すまん、ジャケット貸してくれ!」

 祐介のワンルームに入ると「上がれよ」を背中で聞いて、目の前に吊ってあったジャケットを掴んで、そのまま回れ右をした。

「おい、涼太、おまえに貸すのは、こっち!」
「直ぐに返す。あ、このフリース置いとくから」

 後ろで祐介が、なにか言っているが、オレはシカトして階段を降りた。

 あと30分……。

 地下鉄のホームに着いたとたん、電車が出て行ってしまった。

 ついてない、5分のロス。

 夢ちゃんは、半年前から、うちのコンビニにバイトに来るようになった。トンボメガネでシャイな子だ。高校三年生相応の可もなく不可もない子だと思っていた。

 よくシフトが重なって、いっしょになることが多かった。最初は失敗の多い子だったが、注意すると一発で覚える。どうやら、注意事項をメモっている。事務所兼休憩室でそれを見つけたとき、その字の美しさと、真面目な書き込みに感動した。

「あ、見ちゃったんですか……あたし、ドジっ子ですから(#^_^#)」

 そう言って頬を赤らめた。

 それから、夢ちゃんに対する認識が変わった。よほど恥ずかしかったんだろう、メガネをとって滲んだ涙を手で拭った。メガネを取ると別人のように可愛い。

「夢ちゃん、メガネ無いほうが……いや、余計なことだよね、ごめん」
「バイト中は、お勘定とか間違えちゃいけないから掛けてるんです。今度お給料もらったらコンタクトにしようと思って」

 そして、最初のギャラが振り込まれたんだろう、次からはメガネをしなくなった。

 夢ちゃんには、苦手な客……というより、商品がある。アダルト雑誌や萌雑誌だ。客の顔も商品も見ないようにして済ましてしまう。
 まあ、お客さんも可愛いとは思ってくれているようなので、あえて注意はしなかった。

 そんな夢ちゃんが、今日を限りにバイトを辞める。歓送会をしたいと言うと、喜んでくれた。

 あ、もう時間だ!

 待ち合わせの場所に行ったら、3分遅れだった。夢ちゃんはバルーンスリーブのセーターにサス付きスカート、頭はオレには分からない大きめのモコっとしたベレーを被っていた。

「ああ、よかった、場所間違えたのかと思っちゃいました」

 人待ち顔が、とびきりの笑顔になった。

「ごめん、シフトがタイトだったもんで」

 言い訳が言えたのは、肩の凝らないイタメシ中心の志忠屋という店のシートについてからだった。

「すみません、あたしのために」

 二時間近く喋ったあと店を出た。高校生だ、早く帰さないと。

「一駅だけ歩きません。お話できるから」
「あ、うん、いいよ」

 その時、ビル風が吹いてきて、ボタンを留めていなかったジャケットが風に煽られてたなびいた。

「あ……!」

 夢ちゃんが、ジャケットの裏側を見て声を上げた。オレも驚いた。

 ジャケットの裏側は、萌えキャラで一杯だった。

「あ、これは……」

 オレは正直に言った。ジャケットは持っているけど、兄貴のお下がりで、ここしばらくクリーニングもしていない。いっそ、新しいのを買おうかと思った。が、買ってしまうと、今日のデート……いや、歓送会の費用が苦しい。そこで祐介のを借りたってことを。

「ハハ、オレって浅はかだなあ。ごめん夢ちゃん」
「ううん……」

 夢ちゃんは、暖かくかぶりを振った。

「あたしにも秘密があるんです……」
「なに?」
「ウソみたいですけど、あたしアニメのキャラなんです」
「え……?」
「あまり視聴率が上がらないんで、ワンクールで打ち切り。で、お別れなんです。バイトしたりしてがんばったんですけど、アニメの制作費って高いんです。最後まで秘密にしておこうと思ったんですけど、涼太さんが正直に話してくれたから……じゃ、ここで!」

 夢ちゃんが駆け出した、電柱一本分行く間に、その姿はフェードアウトしていった。

 それから、三か月後。オレは就職の面接を受けに行った。

 第一志望の中堅企業……お手軽かと思ったら、人の思いは同じようで、面接会場の廊下は面接待ちの学生でいっぱいだった。

――こりゃ、ダメだな――

 ほとんど諦めて、面接を受けた。開き直ったせいかスラスラと答えることができた。

 可も無し不可も無し……で、通るご時世じゃないよな。

『そんなことないわ』

「え……?」

 見渡したが、だれもいなかった。

「ダメだな、気弱になっちゃ……幻聴がするようじゃな」

 アパートに帰って、リクルートスーツを脱いで驚いた。背中の裏地に夢ちゃんがいた。むろんアニメキャラとしてであるが、特徴や印象は夢ちゃんそのものだ。これは洋服の秋山で買った、どこにでもある、リクルートスーツだ。むろん、こんなものは最初からついてはいなかった。

 夢ちゃんは、上に羽織るものなら、たいていのモノには付いてきた。そして、着ているとき、背中から、時々声をかけてくる。

 就職は、夢ちゃんが言ったように難関を突破して受かった。

 そして、何年かあって、オレにリアルな彼女ができたとたんに姿が消えた。

 でも、また会えるような気がする。

 どんな時かって?

 そりゃ、人生いろいろある。

 その、いろいろのいつの日かに……会えるだろう。

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クレルモンの風・11『ルコック庭園にて』

2021-08-14 06:13:51 | 真夏ダイアリー

・11

『ルコック庭園にて』 





 二月だというのに小春日和のうららかさだった。

 ルコック庭園というのは、クレルモンの街の真ん中ちょっと南側。ノートルダム・デュ・ポール聖堂「Basilique romane Notre-Dame-du-Port」から一キロ南、モンジュゼ公園の南南東三キロ、うちの大学からは二キロほどのところにある、代々木公園をちょっと小さくしたような公園。パスカルで有名なアンリ・ルコック自然博物館「Muséum Henri-Lecoq」のすぐ南。行くのは初めてだけど、お手軽な街中の緑の庭園として解放されている。オープンな付き合いとしてはふさわしい。ハッサンの気配りが感じられる。

『お早う、ミナコ』

 気軽にスマホで挨拶。寮の前に行ってタマゲタ。

 白いリムジンがドデンと、そう広くもない寮の前の道を独占していた。

『お嬢様方、こちらへどうぞ』

 アラブ系の白いスーツに身を固めたオニイサンが、うやうやしく後ろのドアを開けてくれた。

『さあ、君たちはこっち側へ』
 
 ハッサンは、向かい合った後部座席の後ろのシートを示した。運転席は壁で仕切られている。

『これ、ハッサンちのリムジン?』
『うん、普段はミシュランに預かってもらってるんだけどね。今日は特別なんだ』
『ルコック庭園なら歩いてでも行けたのに』

 アグネスの反応は素直だった。でも、TPOを考えて欲しかった、両方とも……。

『一度乗ってみたかったの、「プリティープリンセス」で、アン・ハサウェイがこんなのに乗ってるじゃん。なんだか王女さまになったみたい!』

 と、間を取り持つ。なんで、あたしが気を遣わなきゃなんないのよさ!

 ルコック庭園につくと、さすがにリムジンはどこかに行った。きっと迎えには来るんだろうけど。

『初めて来たけど、いいとこね』
『クレルモンって、周りは自然に囲まれてるけど、ちょっとした公園てのが無いのよね』
『ぼくの国じゃ、こういう緑は、とても贅沢なことなんだ。土を入れ替えて……というか、砂だらけだからね。保水性のある土をいれざるをえない。そして育つのは暑さに強い椰子とかね。あんまりきれいな花の咲くものは、温室がいる』
『砂漠で温室?』
『うん。強すぎる日の光から花を守るためにね。ブラインドが付いてるんだ』
『そうなんだ』

 ハッサンは、植物の話から温室の話、水の話、日本の淡水化プラントがいかに優れてるか、そんな話ばかりだ。

『ちっとは、通訳の要る話をしなさいよ』

 アグネスが業を煮やす。

『そうだよね、ぼくね……来週国に帰るんだ』
『お家の都合?』
『うん……』
『で、いつ帰ってくるの』
「ユウコ、お土産おねだりするとええよ。アラブのお土産て、ごっついよ(* ´艸`)

「ああ……お土産はないよ」
「ハッサン、日本語できるの?」
『ユウコが、ここに来て一カ月目のフランス語程度』
『お土産ないって……』
『コーランにでも書いてあるの?』
『もう、ここには戻ってこられない』

「「ええ……!」」

 アグネスとあたしの日本語のビックリがハモった。

『どうして?』
『お祖父ちゃんが勉強しちゃったんだ』
『え……お祖父ちゃんが勉強すると、なんでハッサンが辞めなきゃなんないのよ?』
『知っちゃったんだ、クレルモンが十字軍発祥の地だって』

 あたしは「?」だったけど、アグネスは理解したようだった。

『ああ……ウルバヌス二世、1095年、クレルモンの公会議か』
『いや、別に世界が終わるほど重い話じゃないんだけどね』
『そりゃそうだ、お祖父ちゃんの気持ちさえ変わればいい話なんだから』
『それが一番の難問なんだけど。ま、気楽に話したいからチェスでもやりながら、話そうよ』

 ハッサンは、デイバッグから、チェス盤と駒を取りだした。

『このチェス変わってるね?』
『ああ、シャトランジって言って、チェスの原形。アラブじゃ、これなんだ。ルールはチェスといっしょ』
『あたし、チェスのルール知らないから』

『『え、マジ!?』』

 今度は、ハッサンとアグネスがハモった。

「ほんなら、ウチがやってみるさかい、ユウコは、横で見て勉強し」

 で、あたしは見学になってしまった。

『チェックメイト!』

『くそ!』

 アグネスが一時間ほどやって、勝負がついた。

『いやあ、アグネスもなかなかやるね!』
『お姉ちゃんとよくやってたからね。ハッサンは誰の手ほどき?』
『ああ、お祖父ちゃん……思い出してしまった』
『ハッサン、チェス無しで話しできないの? あたし、この一時間無言で勝負見てただけなんだけど』
「あ、かんにん。ユウコのこと忘れてた」
『チェスがないと、また淡水化プラントの話ししそうだ』
「それも、困るわなあ」
『じゃ、オセロやろ。これならルール簡単だから』

 あたしは、こういう時のために持ってきたオセロ盤を広げた。

「ああ、これリバーシやんか!?」
『アグネス知ってんの?』

 ハッサンは、初めてのようだったけど、すぐにルールを覚え熱中しだした。

『……で、話しってなんなの』
『うん、ボクの嫁さんになってくれないか?』
『なーんだ……え、今、なんてった!?』

 あたしは、危うく息をするのを忘れかけた……休日のルコック庭園だった。

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