大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・228『蝉が鳴いてトンボが飛んで布団を干す』

2021-08-10 14:31:51 | ノベル

・228

『蝉が鳴いてトンボが飛んで布団を干す』さくら     

 

 

 散歩に行く前に朝顔をプランターに移し替える。

 

 ほんまは、昨日やるはずやったんやけど、暴風雨警報が出てたんで雨天順延になってた。

 小学校の時は鉢植えのままやったから、植え替えは初めて。

 初めてなんは、留美ちゃんも詩(ことは)ちゃんもいっしょ。

 結局は、お祖父ちゃんが横についててくれて、全部指示してくれたんやけどね(^_^;)。

「失敗したら、花が咲く前に枯らしてしまうからなあ」

 ら、来年は自分らでやります(;´∀`)。

 

 あ、とんぼ。

 

 留美ちゃんが呟いたのは四日目になった自転車散歩の途中、公園の木ぃが張り出した道路の木陰。

「やっぱ、立秋が過ぎると、ちがうんだねえ」

 詩ちゃんもしみじみ。

 ミンミンミンミーン ミンミンミンミーン

 木の上では蝉も鳴いてる。

「夏と秋が同居してますね……」

 トンボが日陰を飛んで……見上げた木の幹にはセミが鳴いて……そよぐ葉っぱの隙間の向こうに青い空と入道雲……。

 日本の夏休みやなあ……ああ、シミジミ……

「ね、お布団干さない!?」

 詩ちゃんが思いつく。

 なんか、マンガやったら、頭の上に電球が灯ったエフェクトが付きそうな勢いなんで、思わず笑ってしまう。

「こないだ干したのは、わたし的には、初めて蝉の声を聞いた日だし、ちょうど頃合いだと思うよ」

「ですね、晴れ間も今日と明日ぐらいですよ、ほら!」

 留美ちゃんが、スマホを示す。盆過ぎまでは雨が続く傘マークが並んでる。

「ようし、家中のお布団干そう!」

 おお!

 

 さっそく家に帰って『お布団干し』を宣言!

 

 うちはお寺なんで、お布団は本堂の縁側に干します。

 本堂の間口は15メートルくらいなんで、間口の半分くらい使ったら家中のお布団が干せる。

「お祖父ちゃんのも干すさかい、テイ兄ちゃんのも!」

「おお、すまん」

 テイ兄ちゃんはラッキーという顔。お祖父ちゃんは「加齢臭すんのにすまんなあ」と恐縮。

 実際は、お祖父ちゃんのは特にニオイも無し。テイ兄ちゃんのは汗臭かった。

「うう、やっぱし、暑いねえ……」

 家中の布団を干すと、さすがに汗が出てくる。

「抹茶と小豆とどっちがええ?」

 テイ兄ちゃんが気ぃきかせてアイスを持ってきてくれる。

 三人で本堂の中に入って、外陣に三つあるうちの南側のエアコンと扇風機を付けて寝っ転がる。

「新聞紙」

 アイスをこぼしたらあかんので新聞を広げて、三人で寝転ぶ。

「あ、昨日は9日だったんだ……」

 留美ちゃんが、新聞の日付を見て呟く。

 一昨日はオリンピックの閉会式、昨日は暴風雨警報とかで、9日やいうのん忘れてた。

「え、9日って?」

「これだよ」

 留美ちゃんが指差した紙面には、高校生が外向きに輪になって両手を空に向かって伸ばしてる写真があった。

 え、長崎?

 あ、そうか。昨日は長崎の原爆の日やったんや。

 6日の広島は、散歩の途中で気いついて手を合わした。

 一日遅れると、なんかねえ……そのまま抹茶アイスを食べて昼前まで寝てしもた(^_^;)

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誤訳怪訳日本の神話・54『兄弟の序列』

2021-08-10 09:02:19 | 評論

訳日本の神話・54
『兄弟の序列』  

 

 

 ニニギとサクヤの間に生まれたのは三柱の神です。

 

 神と書きましたが、さっそく迷います(^_^;)

 ニニギはイワナガヒメを追い返して寿命が人間と同じになった、つまりヒト化したのですから人間と扱ってもいいのですが、記紀神話や歴史の事をハンパにしか知らないわたしは迷ってしまいます。

 まあ、その時の気分次第ということで(#^_^#)。

 産屋が燃え出した時に生まれたのがホデリノミコト、後のウミサチ(海幸彦)。

 ガンガン燃えている時に生まれたのがホスセリノミコト。

 火が収まるころに生まれたのがホヲリノミコト、後のヤマサチ(山幸彦)。

 

 つまり、ウミサチ=長男 ホスセリ=次男 ヤマサチ=三男 と言うことになります。

 

 ちょっと脱線します。

 今の日本で、双子以上の多産児の序列は、最初に生まれてきた子が長子、二番目が次子、三番目が第三子ということになります。

 つまり、兄妹の順番は生まれた順番です。

 ところが、明治時代に民法ができるまでは逆でした。

 最初に生まれた子が一番下、最後に生まれてきた子が長子ということになっていました。

 

 これは、落語と同じで、後から出てくる者の方が偉いんですなあ。

 どうやら、これは世界共通のようで、後から出てくる者が優れているという序列が一般的です。

 ショーやコンサートやお芝居などでも、偉い人や優れた者は後で出てきます。

 紅白歌合戦でトリに出てくるのは業界の大御所。

 ビートルズが来日して武道館でライブをやった時、前座はタイガース(沢田研二がいたGS)でした。

 あとから出てくるものを優れていると感じるのは人類の遺伝子に組み込まれた感覚なのかもしれません。

 明治になって逆になったのは、外国の民法を真似たからです(フランス、ドイツ、イギリスなど)。

 外国が、なぜ生まれた順なのかは、ここでは触れません。

 

 物事の順番というのは民族性に根ざしているので、案外変えるのが難しいようです。

 

 これを簡単に、法律一つで変えられたのは、日本人の、それこそ民族性なのでしょう。

「欧米デハ、コウイウフウニヤッテマス」

 ボアソナードとかのお雇い外国人が、大久保利通だとか伊藤博文だとかに進言します。

「あ、そうですか。では、そのように」

 実に簡単に変わります。

 お雇い外国人が言ったのは「世間のみなさんは、そうなさってます」ということです。

 日本人は「みなさん、そうなさってます」に弱いんですなあ。

 

 明治初年にやってきた鉄道技師(たぶん、イギリス人)の体験談に、こういうのがあります。

 トランジット(測量器具)などを使って、レールを敷いたりトンネルを掘ったりするために測量していると、測量の基本になる方位磁石が狂うのです。

「あ、こいつら……」

 技師はすぐに原因に気付きます。

 助手兼技能修習のために士族の若者が何人も付いています。

 士族の若者は腰に小刀(脇差)を差しています。

 小刀は重量1キロ前後の鉄の塊ですから、磁石を狂わせてしまいます。

 この技師は、日本に来る前にトルコやイランで鉄道の敷設工事に携わっていて、現地の若者を雇っていました。

 トルコなどのイスラムも、腰に小刀(ナイフの大きい奴)を差していて、測量の邪魔になって、技師は「すまんが、測量中は刀を外してくれないか」と頼みます。

「無礼者!」

 イスラムの男たちは目を三角にして刀を抜いて技師を追いかけまわしました。

 その時のトラウマがあるので、技師は士族の若者に「刀を外してくれ」とは言えません。

「えと、あの……ちょっと話があるんだけど(^_^;)」

「はい、なんでしょうか?」

「実は……」

「おーい、先生がお話があるそうだ、みんな集まれ!」

「「「「「おお」」」」」

 工事現場にいた若者たちが腰の脇差を揺らしながら集まります。

 むろん、技師は丸腰です。怖かったでしょうねえ(;'∀')。

「なんでしょう、先生?」

「あ……えと……測量で、トランジットとか、方位磁石とか使っているよね?」

「「「「「はい」」」」」

「いずれも、方位を知るために、磁石がついていてね」

「「「「「はい」」」」」

「磁石が、正確に北を差すのは、地球自体が巨大な磁石になっていてね……別の言い方をすると、地球の組成、多くは鉄でできているんだよね」

「「「「「はい」」」」」

「えと……だから、測量器具というのは、オホン……」

「「「「「はい」」」」」

「大きな鉄が近くにあると、影響されるというか……あ、いや、わたしは、文化と言うものは尊重するよ。うん、互いに文化は尊重しなくっちゃね」

「つまり……?」

「あ、いや、ちょっと問題提起したかっただけで、ま、日本の文化は、全力で尊重する! そのことにはやぶさかではない(;゚Д゚)、やぶさかではない……」

 技師は、どうしても結論が言えません。

「あ、分かった!」

 勘のいい若者が声をあげます。

「みんな、腰の刀が磁石を狂わせるんだ!」

「そうか、だから、先生は腰の刀を外せと……」

「あ、ああ……いや、だからあ(;゚Д゚#)」

「みんな、腰の刀を外せ!」

「「「「「おお」」」」」

 簡単に問題は解決しました。

 

 脱線しっぱなしですが、日本人は、大事、大切だと理解すると、実に簡単に理解します。

 多産児の扱いも、欧米諸国との付き合いが始まるのだから、それに倣っておこうと、ほとんど問題なく変更がなされました。

 この歳まで生きていると、そうではないことにも気づいているのですが、脱線しすぎの感じですので、日本人の合理性ということで置いておきます。

 今日は、ニニギとサクヤに三人の子どもが生まれたところでおしまいです。

 次回は、三人兄弟の長男と三男について話を進めます。

 

 

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ライトノベルベスト『詫びに来た台風』

2021-08-10 06:27:45 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『詫びに来た台風』      

 




 慎重な敦子は台風を理由に今夜のデートを断ってきた。

 拓馬は日本中の気象予報士を呪った。

 やれ大雨に注意だとか、ところによっては局地的な暴風になるだとか、まるでゴジラが来襲するように大げさにテレビやネットで注意喚起していた。

 ところが、今夜の東京は予報に反した穏やかさだ。

 点けぱなしのテレビは「まだまだ油断はできません」と予報士のニイチャンは言うが、パソコンでは「星空が見える」と投稿しているのが17人もいる。むろん、オレの近所はいつもの穏やかさ。星こそ見えないが、台風の「た」の字も感じさせない。

 敦子に電話してみようと思ったが止めた。なんだか未練たらしく思えた。自分で思うくらいだから、敦子も、そう思うに違いない。

 一杯ひっかけて早寝を決め込もうと思うと、ドアホンが鳴った。

「えと、どなた?」

 ドアホンの画像にオズオズと姿を現したのは、びしょ濡れ頭の女子高生だった。

「あのう……あたしノウルって言います」
「え、こんな時間に何の用?」
「お詫びにきました……」

 どうも妙な子であった、でも、ドアを開けてしまったのは、美人であることもさることながら、放ってはおけない儚さを感じたせいかもしれない。

「うわー、どうしたの、頭だけかと思ったら、上から下までびしょ濡れじゃないか!」
「あ、中心からきたもので、ちょっと待ってくださいね……」

 そう言うとノウルはセミロングとボブの中間ぐらいの髪をブルンと振った。

 上げた顔は瞬間にこやかな達成感のある表情で、こないだやっとコンプリートしたファイアルファンタジーⅩリマスターのユウナが、ビサイド寺院で最初に召喚士になったときの、あの顔に似ていると感じた。で、不思議なことに、髪も制服も乾いていた。

 こんな時間に一人住まいの男の部屋に女子高生を上げるのはためらわれたが、意に反し、ノウルは、ごく自然に狭い部屋のカウチに腰かけている。

「あたし台風6号なんです。名前はナウルです。今夜は拓馬さんにとって大切な夜だったのに、それをフイにしてしまったのでお詫びに来ました」

「え……」

 不条理な間が空いた。

 それもそうだろう、ハズレ台風の夜に女子高生がやってきて「自分は台風だ」と言われたら、返事に困ってしまう。

「今夜が、完璧な晴れで星空とかだったら、敦子さんは、きっと拓馬さんのプロポーズを受け入れたと思う。今夜は月齢23・3の小潮だけど、拓馬さんの星回りがいいから」
「……どうして、敦子のこと知ってんの?」

 オレは、一瞬敦子の身内の子かと思ったが、こんな女子高生がいるとは聞いたことが無い。

「あたしたち台風は、人に危害や迷惑なんかかけたくないの。でも、あたしたちって、太平洋高気圧やら偏西風に流されて自分の意志とは関係なしに人に迷惑かけちゃうでしょ。だから、こうしてお詫びにまわってるの」
「ちょっと待てよ。台風で迷惑してるやつなんて、何万人もいるぜ。そんなのにいちいちお詫びになんか行けないだろう」
「行ってるわ、ただ、その人の記憶に残らないだけ。それに、あたしには無数の分身がいる。で、みんなで手分けして回っているわけ」
「それが、どうして女子高生なんだよ。オレにはJK属性はないぜ」

 オレは、ハイボールを一気のみして言った。でも、いつハイボールなんか作ったんだろう。

「いま、ハイボール飲もうと思って冷蔵庫までいったでしょ」
「え、あ……うん」
「ちょっとサービス」

 ますます分からない。

「あたしが、女子高生なのは、この6日に生まれたから」
「……だったら、生後四日の赤ん坊だろう」
「台風は、一日が人間の4年にあたるの。だから、16歳。もうじき17歳になる」
「あ、そう……」
「じゃ、あたし、もう一件まわるから、これで」
「あ、分身とかいるんじゃないの?」
「……敦子さんとこ。ここだけは、あたしがまわっておきたいの。拓馬さんの気持ちとともに……ね」
 
 オレは、いつのまにかノウルに妹のような親しさを感じていた。

「あ、ノウル。雨降るといけないから、傘持っていくか?」
 あたし台風よ……でも、せっかくの拓馬の好意だから。それから、敦子さんとは、絶対うまくやってね。ノウルの最後のお願い」

 ピカピカのローファーを履いて、ノウルは行ってしまった。

 あくる日に台風6号は温帯低気圧になった。

 昨夜、だれか来たような気がするんだけど、多分夢。サントリーの角が空になっていたしな。

 でも、傘が一本見当たらないのは不思議だった。

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クレルモンの風・7『メグさんとの再会』

2021-08-10 06:06:18 | 真夏ダイアリー

・7

『メグさんとの再会』           


 

「あら、ユウコちゃん!?」

 アランのカップルが行ったあと、窓にいきなり知った顔が飛び込んできた……。

「メグさん!?」

 

 そう、パリからクレルモンへの飛行機の中で、フランス語が全く出来ないのに留学しようというあたしを、空港でアグネスに引き渡すまで付き合ってくださったオバサンだ。

「あなた、アグネスチャンだったわね?」

「あ、どうも嬉しいわあ、きちんと『ちゃん付け』で呼んでくれはって」

 これは、あとでアグネスを『アグネス・チャン』という大昔のアイドルの名前と結びつけて覚えたからであることが分かる。

「よかったら、うちにおいでよ。旦那もいないし……」

 と、そこにメグさんを呼ばわる声がもう一つ。

「もう、メグ。さきさき行かんとってよ!」

「おお、大阪弁!」

 アグネスが、瞬間で感動してしまった。

「あ、この人山城登志子さん。うちの居候」
「ハハ、日本ではメグのこと居候させてた山城です。呼び名はトコでええからね」
「あたし……」
「うち、アグネス・バレンタイン。アメリカのシカゴから来てます。このユウコとは、寮で同室ですねん」
「あんた、完ぺきな大阪弁やね!?」
「それは、シカゴの実家の……」

 タナカさんのオバアチャンの話しになってきたので、続きはメグさんちということになった。

 パルク・ド・モンジュゼ通りから、ノアム通りに下って、ちょっと行った一軒家がメグさんちだった。

 100坪ほどの敷地に、手入れの行き届いた庭を通ってアプローチ。荒い白壁に薄い朱色の屋根瓦。このあたりの平均のお家より適度に広く、手入れが行き届いているようだ。

 あたしの名前や簡単な略歴紹介は、メグさんちに行くまでに済ませておいた。公園の出口まではたっぷりあったし、四人とも自転車だったので、喋りっぱなしだった。

「あ~、久しぶりだね、女四人で喋りまくりってのは」

 そう言いながらメグさんは、台所に向かった。

「なにか手伝いましょうか?」
「台所は、あたしのお城。できたら声かけるから、とりに来てくれる?」
 
 ということで、トコさんと三人のお喋りになった。

「やっぱ、ご家族の写真が多いですね。うわー、これお子さんたちですか?」
「ほんま、かいらしいわあ!」
「フフフ、なんか変や思えへん?」 

 トコさんがナゾをかけてくる。

「あ……あ!?」

 アグネスが、なにかに気づいたように、台所のメグさんと写真の三人の子供たちを見比べた。

「なにか分かった?」
「これ、お子さんらの小さいころの写真でしょ?」
「大当たり、裏返してごらん」

 トコさんが言う。素直に従う。

「うわー、ええ男はん!」

 メグさんの子どもさんたちの写真は、みんな表が子どもの頃、裏が今の写真になっているようだった。

「どうして、こんな風になってるんですか?」
「それはやね……」
「あたり!」

 トコさんがよろこんで、あたし一人が分からない。

「子どものころて、みんなカイラシイやんか。せやから、いつもはカイラシかったころの子ども見て、なんか、子どもがニクタラシなったら、今の姿のんにするんとちゃう?」
「惜しい、その反対やわ」
「……ちゅうことは?」
「うん、ここに来て宿代代わりに、毎日グチ聞かされてんのん」

 メグさんの子は、フランス人の旦那との間に三人。上から「空」「陸」「海」と、大らかなのか、横着なのか分からない名前。

「あ……これて、宮崎アニメの『コクリコ坂から』の小松坂家の子どもらの名前といっしょですやん!」
「え、じゃあ、あの映画のモデルって、メグさんち?」

 あたしは、尊敬の眼差しで、台所を見てしまった。うしろで日米のネエチャンとオバチャンが笑っている。

「コクリコ坂って、そんなに昔の映画とちゃうよ」
「ユウコて、インスピレーションの子やけど、外れるときは大きいなあ……え、ちょっと待ってや」

 アグネスがスマホを出して、なにやら検索し始めた。

「ひょっとして、原作の『なかよし』に連載されてたころに目えつけてたんちゃいます? 原作は1980年代やさかい……」

 アグネスが、わたしよりも目をお星様だらけにして、台所を見つめた。

「できたよ~、取りにきてね!」

 メグさんの声がして、三人でお料理を取りにいった。

「ハハ、ちがうちがう。ミシェル(旦那)といっしょに、子ども三人作って、世界を表現しよって……」
「せやけど、まさに天地創造ですね!」

 アグネスが真顔で言うので、オバサン二人は大笑い。

「子どもって、思うようにならんもんでね。空は日本で就職しよったし、下の娘の海はフランスの大学やけどね……」
「陸くんがね……」

 トコさんが引き受ける。陸クンというのは、自我の強い人らしく、ジジババや親の反対を押し切って、自衛隊に入ったらしい。フランスはNATOの一員で、実際戦争に行くことも、たまにはある。でも、自衛隊なら、海外で戦争することはあり得ない。そう言うと……。

「これからの日本は分からんよ……」

 と、トコさん。

「頭ではね、そういう日本もありやと思うねんけどね。いざ、自分の息子となるとね。ほんま、あのリクデナシが……」

 メグさんが高等なギャグを言ったのを気づくのに三秒ほどかかってしまった。

「どうも、ごちそうさまでした」

 メグさんトコさんに門まで送ってもらい、お礼を言いつつ寮にもどった。

「あ、えらいこと忘れてる!」
「え、なに?」
「晩ご飯いらんて、寮に電話すんのん忘れてた」
「忘れると、どうなるの……?」
「もっかい、晩ご飯食べなあかん」

 帰りに、トイレットペーパーと胃薬を買って帰った二人でありました……。

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