鳴かぬなら 信長転生記
俺は高いところが好きだ。
好きだと言っても、俺はバカでも煙でもない。
想いを無限の空に飛ばして、天下布武を思う。
などとキザを言うつもりもない。
ただ、清々しいのがいいんだ。
岐阜にしろ安土にしろ、山の上に天守を高々と築いたのは、ザックリ言って高いところが好きだからだ。
「御戯れを(^▽^)」
などと都の公卿どもは言うが、バカと煙の例えを知っているからの追従にすぎない。
都で御馬揃え……本能寺の前の年にやった盛大な軍事パレードのことだ。
正親町(おうぎまち)天皇をお招きしたら「高きところは、まことに清々と心地よきものよのう」と喜んでおられた。
わずか三間の高欄に過ぎなかったが、主上は空の高きも青さも分かっておいでであった。
ぜひ、安土の天守にお招きしたいと心に誓って果たせなかったな……
そんなことを思って、昼休みの屋上に立っていると、旧館横の庭で知った声がする。
セイ! トウ! ヤー!
見ると、茶道部の古田がナイフ片手に太刀まわりをしている。
古田は華道部も兼ねているのだから、部活に使う花を切っていてもおかしくないのだが……。
たかが花を刈るにはオーバーアクションだろう……。
ナイフを小太刀のように正眼に構え、瞬間に気を貯めて「セイ!」「トウ!」と切りかかっている。
まるで、剣術の稽古……あの太刀筋は見た事がある。
威力はあるのだが、型や流れに重きを置きすぎ、十人の敵に向かうと、五人は華麗に倒すのだが、残る五人は取り逃がしてしまうという、実戦では、それほどの働きにはならない剣術だ。
思い出した!
俺は、階段を一気に駆け下りると、旧館の庭に向かった。
「佐吉!」
幼名で呼んでやる。
「ヒ!?」
猿が心臓発作を起こしたような声をあげて固まった。
「その無駄に華麗な太刀筋は、天下広しと云えど、俺の馬周り役の古田重然(ふるたしげなり)しかおらん、いや、懐かしいぞ。なんで古田(こだ)などと音読みにして身を偽っておった!?」
「い、いや、わたしは……ご、ごめん(;#'∀'#)!」
ピューーーーー!
刈り取った花をまき散らしながら、ダッシュで逃げていく。
思い出した、最初に佐吉に感心したのは、あの足の速さであったな。
苦笑していると後ろに気配。
振り向くと利休が花を拾っている。
「やっと気づいたのね」
「知っていて言わなかったんだな」
「古田(こだ)……バレてるから織部でいいわね。信長くんには言わないでくれって、それでね……」
「変な奴だ」
「転生学園にパヴリィチェンコって鉄砲撃ちの子がいるんだけどね」
「ああ、こないだ公園で会った。狙撃309人の記録を伸ばすために転生を目指していると言っていたな、礼儀正しいが、ちょっと辛気臭い奴だった」
「文化祭に来たパヴリィチェンコに言われたのよ『おまえ、なんで学院にいるんだ』って」
「あの二人、知り合いなのか?」
「ううん、パヴリィチェンコは自分と同じニオイを感じたんでしょうね」
「そうなのか?」
「ええ、織部は『もっと美しいものに出会いたい』っていうのが信条だから『もっとたくさん撃ち殺したい』と重なるのね」
「佐吉には、口では言えん色気があるということか」
「うん、突き詰めると境目の難しい『学院』と『学園』だけど、そんなに難しく考えなくてもって、わたしなんかは思う」
「であるか」
「信長くんの家にも学園生がいるでしょ?」
「ああ、妹がな……知っているのか市のこと?」
「茶道って、人のうわさには鋭いのよ。まあ、大事にしてあげて」
「その花は使うのか?」
「ええ、花に罪は無い。それに、織部が切ったのは、どれも形がいいし、活けるタイミングがピッタリなの。こういうものを見る目は、わたしといい勝負。ただ、いったん地に落ちた花を使うのは、織部嫌がるから」
「利休は気にならないのか?」
「だって」
花を拾う手を停めて、俺の顔を正面から見る利休。
「花は、元々地面から生えているものじゃない」
「それも『野にあるごとく』なのか?」
「ハハ、しぶちんの言い訳かもね(´∀`*)、じゃ、また部活で」
「あ、ああ」
……不覚にも、利休の後姿を美しいと思ってしまった。
☆ 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生
- 熱田敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っこ
- パヴリィチェンコ 転生学園の狙撃手