大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 24『花を拾う』

2021-08-12 13:00:47 | ノベル2

ら 信長転生記

24『花を拾う』  

 

 

 俺は高いところが好きだ。

 

 好きだと言っても、俺はバカでも煙でもない。

 想いを無限の空に飛ばして、天下布武を思う。

 などとキザを言うつもりもない。

 

 ただ、清々しいのがいいんだ。

 

 岐阜にしろ安土にしろ、山の上に天守を高々と築いたのは、ザックリ言って高いところが好きだからだ。

「御戯れを(^▽^)」

 などと都の公卿どもは言うが、バカと煙の例えを知っているからの追従にすぎない。

 都で御馬揃え……本能寺の前の年にやった盛大な軍事パレードのことだ。

 正親町(おうぎまち)天皇をお招きしたら「高きところは、まことに清々と心地よきものよのう」と喜んでおられた。

 わずか三間の高欄に過ぎなかったが、主上は空の高きも青さも分かっておいでであった。

 ぜひ、安土の天守にお招きしたいと心に誓って果たせなかったな……

 そんなことを思って、昼休みの屋上に立っていると、旧館横の庭で知った声がする。

 

 セイ! トウ! ヤー!

 

 見ると、茶道部の古田がナイフ片手に太刀まわりをしている。

 古田は華道部も兼ねているのだから、部活に使う花を切っていてもおかしくないのだが……。

 たかが花を刈るにはオーバーアクションだろう……。

 ナイフを小太刀のように正眼に構え、瞬間に気を貯めて「セイ!」「トウ!」と切りかかっている。

 まるで、剣術の稽古……あの太刀筋は見た事がある。

 威力はあるのだが、型や流れに重きを置きすぎ、十人の敵に向かうと、五人は華麗に倒すのだが、残る五人は取り逃がしてしまうという、実戦では、それほどの働きにはならない剣術だ。

 思い出した!

 俺は、階段を一気に駆け下りると、旧館の庭に向かった。

 

「佐吉!」

 

 幼名で呼んでやる。

「ヒ!?」

 猿が心臓発作を起こしたような声をあげて固まった。

「その無駄に華麗な太刀筋は、天下広しと云えど、俺の馬周り役の古田重然(ふるたしげなり)しかおらん、いや、懐かしいぞ。なんで古田(こだ)などと音読みにして身を偽っておった!?」

「い、いや、わたしは……ご、ごめん(;#'∀'#)!」

 ピューーーーー!

 刈り取った花をまき散らしながら、ダッシュで逃げていく。

 思い出した、最初に佐吉に感心したのは、あの足の速さであったな。

 

 苦笑していると後ろに気配。

 振り向くと利休が花を拾っている。

 

「やっと気づいたのね」

「知っていて言わなかったんだな」

「古田(こだ)……バレてるから織部でいいわね。信長くんには言わないでくれって、それでね……」

「変な奴だ」

「転生学園にパヴリィチェンコって鉄砲撃ちの子がいるんだけどね」

「ああ、こないだ公園で会った。狙撃309人の記録を伸ばすために転生を目指していると言っていたな、礼儀正しいが、ちょっと辛気臭い奴だった」

「文化祭に来たパヴリィチェンコに言われたのよ『おまえ、なんで学院にいるんだ』って」

「あの二人、知り合いなのか?」

「ううん、パヴリィチェンコは自分と同じニオイを感じたんでしょうね」

「そうなのか?」

「ええ、織部は『もっと美しいものに出会いたい』っていうのが信条だから『もっとたくさん撃ち殺したい』と重なるのね」

「佐吉には、口では言えん色気があるということか」

「うん、突き詰めると境目の難しい『学院』と『学園』だけど、そんなに難しく考えなくてもって、わたしなんかは思う」

「であるか」

「信長くんの家にも学園生がいるでしょ?」

「ああ、妹がな……知っているのか市のこと?」

「茶道って、人のうわさには鋭いのよ。まあ、大事にしてあげて」

「その花は使うのか?」

「ええ、花に罪は無い。それに、織部が切ったのは、どれも形がいいし、活けるタイミングがピッタリなの。こういうものを見る目は、わたしといい勝負。ただ、いったん地に落ちた花を使うのは、織部嫌がるから」

「利休は気にならないのか?」

「だって」

 花を拾う手を停めて、俺の顔を正面から見る利休。

「花は、元々地面から生えているものじゃない」

「それも『野にあるごとく』なのか?」

「ハハ、しぶちんの言い訳かもね(´∀`*)、じゃ、また部活で」

「あ、ああ」

 ……不覚にも、利休の後姿を美しいと思ってしまった。

 

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  パヴリィチェンコ    転生学園の狙撃手

 

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せやさかい・230『頼子さんのメール 先生のline』

2021-08-12 08:47:26 | ノベル

・230

『頼子さんのメール 先生のline』さくら     

 

 

 なんやろなあ……?

 

 さっきからスマホとにらめっこ。

「う~~~ん」

 留美ちゃんも、つきあいで唸ってる。

「つきあいじゃないわよ、分からないのは悔しいじゃない」

 ベッドの端に向かい合って腰かけて、かれこれ五分たってる。

 

 昼頃に頼子さんからメールがきて、その添付写真に頭を悩ませてるんです。

 

 頼子さんの散歩コースにある神社の鳥居の横、コンクリートの土台の上に子どもの背丈ほどの石柱が二本、寄り添うようにして立ってる。

「一本だけやったら、墓石みたいに見えるんやけど……」

「神社の前に墓石ってありえないし……」

「ソフィーて、目の付け所がちゃうねえ」

 ガードに付いてるソフィーが発見して、主従で悩んでるそうや。

 あ、主従いう言い方は頼子さん嫌いやねんけど、ソフィーは気に入ってるし、はたから見てると、ソフィーは一人で水戸黄門の介さん・角さんをやってるようなとこがある。

「記念碑とか、由緒書きみたいなのが、神社とかの前にはあるよね」

「うん」

 堺の神社も、たいてい鳥居の傍に教育委員会とかが作った『堺の町散歩』的な由緒書きが立ってて、うちらみたいな中学生にも分かるようになってる。

 その類か……ああ、もう分からへん!

 で、寝てしもた(^_^;)

 

 明けて、8月12日。

 

 また梅雨かいなと思うようなどんよりした曇り空。

「あ、降ってきよったあ」

 言いながら、朝顔の蔓を支持棒に巻き付けてるうちらの後ろをテイ兄ちゃんが駆けていく。

 今週はお盆なんで、おっちゃんもテイ兄ちゃんも忙しい。

 もう引退を宣言したお祖父ちゃんも、何軒かお盆の檀家周りを引き受けてる。

 まあ、お盆はお寺の書き入れ時やさかいね。

 お盆のお布施は、月参りのそれよりも三割から五割多いんやそう。

 まあ、お寺は火災保険だけでも年間70万円もするさかいねえ。

 

 ピコン!

 

 留美ちゃんのスマホが鳴る。

 ピコンいうのはlineが入った音。ちょっと大きい。

「あ、先生から」

 すると、うちのスマホもピコンと着信音。うちも先生から、一斉送信の緊急連絡?

『元気にやってますか? コロナで自粛ばっかりだけど、有意義な夏休みを過ごしてください。宿題も早めにやろうね。なにか困ったことや、分からないことがったら遠慮なく言ってください。 月島さやか』

「宿題はよやれっちゅう檄文やなあ」

「先生も大変だ」

「フッフッフ……今年は余裕なんですよ、酒井さくらは<(`^´)>」

 今年は、留美ちゃんといっしょやさかいに、いつもの五割り増しくらいに宿題は進んでる。

「フフフフ」

 留美ちゃんも、うちのほくそ笑みの理由は分かってるんやけど、奥ゆかしいさかい、フフフと笑うだけ。

 ええ子やなあ。

「せや、月島先生の家て、たしか神社やで!」

「あ、そうか!」

 

 その場で、頼子さんから送られてきた写真を添付して質問のメールを送る。

 

 朝ごはんの片づけしてる時に返事がきた。

『これは、多分、紀元2600年記念の時に建てられた掲揚のポールの跡だと思うよ。うちの神社は「皇紀ニ千六百年記念」という文字の入った柱が残ってます』

「なるほど、同じだね!」

 添付された写真を見て、納得のわたしら。

『じゃあ、これは、なんだか分かりますか?』

 スクロールすると、一枚の写真が出てきた。

 鳥居の横、紀元2600年と並んで、鉄骨の柱が立ってる。

 鉄骨は下半分ほどしか写ってないんで、正体が分からへん。

「「う~~~ん」」

 留美ちゃんと二人で唸って、写真を添付して頼子さんに送る。

 

 雨が本降りになってきたんで、今日のお散歩は中止です。

 

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ライトノベルベスト『ラブラドール・レトリバー・2』

2021-08-12 06:21:17 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ラブラドール・レトリバー・2』    




「先輩、これは誤解しますって!」

 あたしはスマホの画面を、来栖先輩の鼻先に突き付けた。

「アハハ、だよな。うけるな、これは。今度の飲み会で言ってやろ」
「もう、並の女の子なら、これ見ただけで来ませんよ」
「まあ、これだから人生はおもしろい!」

 そう言いあっているあたしたちの足元を生後三か月のラブラドール・レトリバーが尻尾を振りながらチョロチョロしている。

 そう、先輩は「ラブラドール」と打つところを「ラブドール」と打ってしまったのである。

「この子の名前は?」
「MAME」
「プ」

 思わず噴きだした。

「ラブラドールって、大きくなるんですよ。今はいいけど大きくなってからマメって、なんだか変」
「いや、うちに来る前から付いてた名前だから変えるのもかわいそうに思ってな」
「あ、これお土産」

 コンビニ特製のお結びを袋ごと渡す。先輩はそれをローテーブルの上にぶちまけた。渡す方も渡される方も色気なしを通り越して、いささか乱暴。

 マメは、梅干し入りのお結びを咥えて、自分のエサ皿まで持っていくと、器用にラッピングを外してハグハグと食べだした。

「器用なんですね」
「ラブラドールは、賢いからね」

 意味が分かるんだろうか、梅干しのシソの葉を口に付けたまま、嬉しそうに「ワン」と吠えた。

 それから二時間ばかり、お結びとワインで盛り上がった。

 あのプラスチックのフィギュアは大いに当たり、モデルもアイドルグループの選抜メンバーも加え、ファンの中には選抜メンバー全部や、研究生の子たちまで入れて百体以上コレクションする者も居た。

「ポップから出た駒」
「それいける、今度のCMのコピーに使おう!」

 などと話題が営業のアイデアになったところで失礼することにした。

 マメは名残惜しそうに尻尾を振って玄関まで送ってくれる。

 この子なら、盲導犬などになったら優秀な子になるだろうと思ったが、あれは犬自身には、かなりのストレスになることを思い出し、頭をなでて外に出た。

 来栖先輩との話は有意義だ。

 こんなプライベートな訪問でも、はじけたアイデアが出てきて、仕事なのに学生時代の部活のように楽しくなった。

 で、楽しくなってスマホを置き忘れてきたことに気が付いた。

 出てきたばかりなので、気楽に「すみませーん!」とだけ、声をかけて鍵もかけていないドアを開けてリビングに入った。

 え!?

 で、あたしは立ちつくしてしまった。ソフアーには、どう見てもハイティーンの女の子のラブドールが裸で座らされていた……。

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クレルモンの風・9『今度はイタリア抜きでやろうぜ』

2021-08-12 06:11:22 | 真夏ダイアリー

・9

『今度はイタリア抜きでやろうぜ』       


 

『Für nächstes mal ohne Italien』

 サロンでくつろいでいたら、シュルツが、こんな一言を残して自分の部屋に行った。

「え………?」

 あっけにとられてポカンとしていると、キャサリンが笑いながら言ってくれた。

『今度は、イタリア抜きでやろうぜって、ジョーク』

 やっと意味が分かった。イタリア人のアルベルトは、さっきからちょっと調子の外れた自作の歌を、ギター弾きながら歌っている。

 あたしは、最近やっと幼稚園程度の日常会話がフランス語で。英会話は小学生程度にできるようになり、英語とフランス語、それぞれの言葉が美しいと思えるようになってきた。

 なんちゅうか、小さな子どもが、ようやく喋れるようになって嬉しくて仕方がない……に似ている。

 そこに今日、アルベルトがギターを持ってきて、映画のワンシーンのように叫んだ。

『オレ、イタリア語で恋の歌を作ったんだ、ちょっと聞いてくれよ!』 

 で、みんなが囃し立てた。

 で、まさか五曲もあるとは思わなかった!

 三曲目でアグネスが消えて、四曲目でハッサンが消え、全曲終わった段階でシュルツが、さっきの言葉を残して消えた。
 それぞれ理由はある。家族とパソコンで話す時間。お祈りの時間。レポートの準備。

 あたしは、普段から巻き舌早口フランス語のアルベルトは苦手だったけど、さすが母国語で歌う彼の声も言葉も好きになった。なにより、フランス語や英語の時には使わない顔の筋肉を使っていて、ちょっといけてるようにも思えたし、イタリア人は歌うのに日本人の三倍ぐらいカロリーを消費していると思った。それがかわいいってか、同じ人類かと思うほど衝撃だった。

 よく考えると、彼の苗字はモンタギュー。そう、あのロミオと同じ苗字なのだ!

 メイリンは、一見無表情だけど、熱心に聴いているのはよく分かった。目が合うと気まずそうに、あさっての方角を向く。

 名前の割にはエロくないスペイン人のエロイはご陽気に調子を合わせ、ときどきスペイン語でヤジとも声援ともつかない声を上げている。

 キャサリンは、そういうみんなの反応を楽しんでいるようだった。

『どう、今の中で、どれが一番良かった?』

 アルベルトは、ちょっと上気した顔で聞いてきた。

『少し調子は外れてたけど、どれもよかったと思う』
『だめだよ、そういう日本的なあいまいさは』

 あたしは、アルベルトの情熱をかったので、そういう返事になったんだ。それをフランス語にするほどの力は、あたしには無い。

『その歌、誰かにプレゼントするつもり?』

 キャサリンが、思い切りよく聞いた。アルベルトの反応は素直だった。

『ああ、オレのジュリエットの誕生日にね』

 その臆面の無さに、普段仲の良くないメイリンとあたしは目が合った。瞬間的日中友好!

『一つヒントをあげるわ』

 キャサリンがニタニタしながら言った。

『え、なになに!?』

 アルベルトは、テーブルを飛び越え、そのままキャサリンの前に座った。隣のあたしはのけ反ったけど、キャサリンは平気。で、とんでもないことを言った。

『シュルツがね、ユウコに言ったの。今度はイタリア抜きでやろうって』

 メイリンとあたしは凍り付いた。

『ああ「Für nächstes mal ohne Italien」だろ』

 アルベルトはケロっとして言った。

『イタリア人が知ってる数少ないドイツの格言だよ。お返しの言葉はこうだ「ケツの穴から帚突っこんで突っ立ってるドイツ野郎め!」もっとも発明したのはフランス人だけど』
『そんな風に言われて気にならないの、アルベルト?』

 メイリンが真顔で聞いた。

『だって、イタリア人てのは戦争に向いていない。ドイツ人の屈折した誉め言葉だと思ってる』
『ばかね、シュルツは、もっと別の意味で言ったのよ』

 え……?

 日中伊の反応が揃った。

『歌を送る相手がイタリアの子だったら、どれ聞いてもブーだってことよ』

 アルベルトは、瞬間でしょげかえった。日本の男はこんなに分かり易くはない。

『アルベルト、この楽譜で歌ってみてよ』

 アグネスが戻ってきて、楽譜を放ってよこした。

『……これか!』

 アルベルトは静かに歌いだした。

 その曲は、わたしでも知ってる。

 ジョン・レノンの『イマジン』だった。

 やがて、自分の部屋に帰っていたシュルツもハッサンも戻ってきて、曲の終わりでは一同の拍手になった。

「やったやろ、ウチ!」

 アグネスはニコニコだった。

「ほんなら、先にシャワー浴びてるから!」
 
 サロンは、あたしとシュルツだけになった。

『ドイツは、まともな潜水艦を作れない。日本は飛行機を作ることを禁じられてる。ユウコ、覚えといた方がいい、ほとんどカタチだけだけど、国連にはまだ旧敵国条項が残っているんだぜ』

 シュルツは、イマジンをちょっと崩して口ずさみながら行ってしまった。

 あたしは、久々に「とんでもないとこ」に来てしまったと思った。 

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