大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・234『寝る前に水を飲みに行く』

2021-08-17 08:47:14 | ノベル

・234

『寝る前に水を飲みに行く』さくら     

 

 

 もう半年になる。

 

 なにが半年かというと、留美ちゃんがいっしょに暮らすようになって。

 留美ちゃんの苗字『榊原』を書き加えた表札も、山門の古色に馴染んできた。

 コロナがずっと続いてることで、留美ちゃんが家に居てる時間も長くなって、並みの一年を半年で過ごした感じ。

 詩(ことは)ちゃんは、うちのことは「さくら」て呼び捨て。

 留美ちゃのことは「留美ちゃん」と呼ぶ。

 最初は「榊原さん」やったから、かなりの進歩。

 

「うちも、ここに来たころは『さくらちゃん』やった」

「え、そうなんだ。昔から呼び捨てだと思ってた」

「従姉妹っちゅうのは、半分他人みたいなもんやさかいねえ」

「そうなの?」

「うん、異性の従兄妹同士やったら結婚かてできるからねえ」

「フフ(* ´艸`)」

 お布団を目の下まで引き上げて笑う留美ちゃん。

「どないしたん?」

「テイ兄さんとさくらちゃんが結婚するの想像した」

「それはありえへん!」

 変態坊主は願い下げです!

「いや、まあ、そういう距離やいうことです」

「そうね……よいしょっと」

 話が終わると、いったん起き上がる留美ちゃん。

 小さいころからの習慣で、寝る前はトイレにいく留美ちゃん。

 いっしょに住むようになったころは、嬉しいから連れションもしたけど、今はせえへん。

 

 プ~~~

 

 その代わり、オナラをしとく。

 親友とはいえ、オナラ聞かれるのは、ちょっと恥ずかしい(^_^;)。

 まあ、これが、今の留美ちゃんとうちの距離。

 寝返りを打つ。

 

 ウ……くさい(;'∀')。

 

 慌てて、布団をバサバサ。

 それでも臭うので、ドアを開ける。

「あら、起きるの?」

 ちょうど部屋から出てきた詩ちゃんと鉢合わせ。

「あ、ちょっと水飲も思て(^_^;)」

「わたしはお茶」

 開いてるドアからは、まだ灯りの付いてる机が見える。

 えらいなあ、まだ勉強してるんや。

 感心したのは言わへん。詩ちゃんは、褒められるのが苦手。

 キッチンで麦茶をいただく。

「よう降るねえ……」

「ほんと、梅雨みたい」

 雨がうっとうしいという感想を言うただけで部屋に戻ろうとする。

「お、ちょうどええ」

 変態坊主が段ボール箱を抱えてやってくる。

「なに、それ?」

「檀家さんから空気清浄機もろたんやけどな、お祖父ちゃんとこも、お父さんらとこもあるしなあ、自分らとこで使わへんか?」

「「ああ」」

 返事がガチンコしてしまう。

「さくらの部屋で使いなよ」

「詩ちゃんとここそ」

 遅まで勉強してる人が使うべき……というのは言い訳。

 空気清浄機いうのは、オナラしても反応しよる。

 

 まあ、夜も遅いんで、女子三人で話し合ういうことで、お休みなさい(^_^;)。

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ライトノベルベスト『ちょっとした躓き・1』

2021-08-17 06:35:32 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ちょっとした躓き(つまずき)・1』 


 あ(⚙♊⚙ノ)!     

 こんなところで転ぶとは思わなかった。

 数メートル前から、この穴とも呼べない窪みには気がついていた。

 いくらスマホを見ながらといっても転ぶような場所じゃない。

 自慢じゃないけど、ホームの際ギリギリのところでも、線路に転落したこともなく、通学途中の混雑した道でも、スマホ見ながらスイスイで、人とぶつかったことなんかない。

 そりゃあ、多少歩くのは遅くなるけど、そんなに急いで歩く、まして走るシチュェーションなんかは、あたしには無い。

 たまに自転車に乗っていてもスマホは見ている。商店街の中でも平気。オッサンやオバハンたちが、睨んでも平気。

 どうやったって、大人には気に入られない。気に入られようとも思わない。リアルに迷惑かけなきゃ、人の自由じゃんと思っている。

 先生や、お巡りさんの顔だって立てている。

 授業中は、膝の上に乗っけて、視野の端で画面をとらえながらやってるから、たいていの先生には、分からない。滝川って世界史の先生だけは気づいているようだけど、あたしの気遣いを分かってか、注意はしてこない。

 世の中の高校生がみんな世界史好きでないことも、自分が、あまり授業が上手くないことも知ってるから、見逃しているんだと思う。

 数多い先生の中でもお気に入りの先生。かといって、他の女子みたく、メス猫みたいにすり寄っていったりはしない。

 滝川先生は、あたしら生徒との距離の取り方が上手いだけで、他に取り柄ははない。28って歳は、あたしたちにとってはギリギリ射程距離だけども、男の魅力は、限りなくゼロ。

 だから、一年の時、現代社会で追試を受けるハメになったとき、おアイソにニッコリしただけ。先生も、その八掛けぐらいの笑顔。「おアイソはつうじませ~ん」という意味で。

 あたしも期待していたわけじゃない。追試を受けさせる、受けるという、学校生活では、ややイレギュラーな関係に陥った者同士の社交辞令ぐらいのつもり。

 お巡りさんの存在は、視野角160度で30メートル、前方真っ直ぐで50メートルぐらいの距離で認知する自信がある。

 それが、なんで、こんなところで転ぶんだ!?

 と、転びながらスマホをカバーするために左半身を下にして、右手でめくれ上がりそうになったスカート押さえ、後ろのオッサン、ニイチャンたちへの生パンモロ見せを防御した。

 で、しすぎて、左の頭をアスファルトに打ちつけ、ほんの二秒ほど気を失った。

「だいじょうぶ……?」

 優しげな声が、上から降ってきて、立ち上がるのを助けるように手が差しのべられた。

 目の焦点が、しばらく合わなかったけど、その紺と白の組み合わせのコスは、女性警官。笑顔が上戸彩に似ている。

 このシュチェーションは、程よくお礼を言わなければならない。

「すみません、ありがとうございます……」
「気をつけなきゃ、根性の悪い穴は、じっとしてないからね」

「……え?」

「ほら」

 なんと、穴とも言えない窪みは、嬉しそうに、あたしの周りを、尻尾があったら千切れそうなくらいの勢いで走り回った。

「おとなしくしなさい。しつこくすると、霊惑防止条例でひっぱっていくわよ!」

 女性警官の一言で、窪みは大人しくなった。

「まあ、このままじゃ、あなたも不自由だろうから、交番に行こうか」
「え、交番?」

 あたしは、交番と歯医者と生活指導室は大嫌いだ。

「心配いらないって、普通の交番じゃないわ。あなたたちみたいな人のための交番よ。清水美恵さん」
「え、あたしの名前……」

 そう呟いたとき、後ろから来た男子高校生が、わたしの体をすり抜けて、前に歩いていった。

「ヒヤ~!!」

 思わず悲鳴が出た。

「今の、男の子……幽霊……?」
「アハ、どっちかっていうと、清水さんの方が、それっぽいなあ」

 そう言うと上戸彩風の女性警官はさっさと歩き出した。しかたなく、あたしは、スマホとカバンを持って、その後を付いていった。

 これが、あたしのちょっとした躓き(つまずき)の始まりだった……。 

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クレルモンの風・14『優子とアミダラ女王の危機一髪!』

2021-08-17 06:16:38 | 真夏ダイアリー

・14

『優子とアミダラ女王の危機一髪!』         




 メグさんちからの帰り道、モンジュゼ公園のあたりはお巡りさんで一杯だった。

 すぐに女の子の捜索隊だと分かった。

『きみ、こんな女の子を知らないかい?』

 ビックリした!
 すぐ側で、若いお巡りさんが視野の外から声をかけてきた。

『あたしも、さっき事件を知ったばかりで、この子はわかりません』
『どうもありがとう。セレナ・アバックって言うんだ。気の付いたことがあったら警察まで』

 そう言って、写真入りのビラをくれた。さっきメグさんに見せられたのといっしょだ。

 帰り道は、さすがに走らなかった。普段の運動不足のところへ、メグさんちまで走ってきたので、気がついたら、足がパンパン。
 

 こりゃ、ゆっくり歩いてほぐしておかないと、明日あたり痛むなあ……そう思って歩くことに決めた。

 百メートルも歩くと、ブツッと音がしてスニーカーのヒモが切れた。

 あたしは道ばたの消火栓にもたれるようにして、しゃがむ。

 スニーカーのヒモはハンパなところで切れていて、残ったヒモを穴に通して結ぶのが大変だった。いや、結ぶ前に切れてささくれ立ったヒモの先を穴に通すことそのものが大変だった。

 気づくと頭上で声がした。

 正確には、横に停まっていたセダンの窓が少し開いていたので、そこから声が漏れてくる。

『みんなモンジュゼ公園のあたりだと思ってる』
『これだけ、ビラを撒けばね』
『セレナの始末は』
『古い方の納屋の冷蔵庫……』

 ギョッとして立ち上がってしまった。

 で、運転席のオッサンと目が合ってしまった。

 背を向けて逃げ出そうとすると、運転席からバスケット選手みたいにでかいオッサンが出てきて、簡単に掴まってしまった。

 慌てる風もなく簡単にボンネットに押さえ込まれ、降りてきたオバハンといっしょになって、猿ぐつわを噛まされ、後ろ手に縛り上げられトランクに放り込まれた。

 オバハンは、あたしを放り込みながらジーパンを足首まで脱がせ、ベルトを二重巻きにして足かせにした。この間、わずか五秒ほど。

 ほんの百メートル先にはお巡りさんがいるんだけど、前のトラックが障害になって死角になっている。

『こいつの始末も考えなきゃな』

 オッサンの一声がして、車が憎ったらしいほどゆっくりと動き出した。

 とっさに思ったのは、暴れたらすぐに殺されるだろうってこと。そして、行くところまで行けば、これも殺されるという予感。

 カーブを曲がって、車は少し加速した。警察の目が届かないだろうと判断したようだ。

 トランクの中は、真っ暗。なんだか酔いそう……でも、酔わなかった。やっぱ必死の緊張感なんだ。

 足許に触れるものがあった。スマホだ!

 うんしょうんしょ……あたしは、ゆっくりと、縛められた手許までたぐり寄せた。

 でも、画面が見えないんじゃ、まともに操作ができない。

――そうだ、海ちゃんだ!――

 アドレスを交換したばかりだから、アドレス一覧のトップにある。なんとか後ろ手のまま、スマホを通話にして、勘で画面にタッチした。

「もしもし、もしもし……」

 かすかに海ちゃんの声がする。

 スマホの灯りで、トランクの中が少し明るくなった。

「どうしたのユウコ?」

 あたしのスマホにはナビ機能がついている。海ちゃんのにもナビが付いていてシンクロできたら、場所が分かる。あたしは冷静になって、ビデチャモードにした。

「え……ええ!」

 という声が聞こえた。事態は飲み込めてもらえたようだ。

 どこを走っているんだろう。感じとしては南の方なんだけど。

 時間の感覚がマヒしている。三十分にも一時間にも感じた。でもスマホの灯りが点いているのだから二時間にはならない。バッテリーの残量が、そんなものだから……。

 グィン

 と、急に車が急ハンドルを切った。すごい加速……と思ったら、また急ハンドル!

 もう、なにがなんだか分からないようになって、衝撃! 車が停まった。

 何やらフランス語の罵声が続いたあと、気を失った。直前トランクが開く気配がした。

――いま、ハズイ格好……――

 気がついたら、病院のベッドだった。目の前に海とメグさん。

『先生、意識が……』

 メグさんの声が遠のいていく。海の顔がアップになった。

「最初、アミダラ女王のアップなんで、ワケ分かんなくて。で、ユウコのお尻が、縛られた手といっしょに写って、ただ事じゃないと思って警察に連絡したの。ナビが付いていたんで、先の方で検問かけてもらって。大変よ、大立ち回りのあげくに犯人逮捕(;'∀')!」
「どのあたりだったの?」
「リベラシオン通りの南の方」
「で、あたし……どんな格好で」
「あ、事情は分かってたから、トランク開けたのは女性警官の人。直ぐに毛布でぐるぐる巻きにしたから見られてないわよ」
「よかった……」
「しかし、いまじぶんにアミダラ女王のおパンツなんて珍しいいわね」
「あれはね……で、女の子、セレナ・アバックは!?」

 海は、悲しそうに首を振った。

 で、悲しみに浸る間もなく、アグネスを先頭に寮の仲間達が入ってきた。

「ムチャクチャ心配してんで!」

 というアグネスから始まり、最後が涙でグチャグチャのハッサンだった。

「よかった!よかった!よかったよおおお! (#१д१#)」

 そうだ、こいつとの結婚を賭けて、人間オセロが待っているんだ……!

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