大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・239『進路希望調査票をもらって……』

2021-08-27 15:45:15 | ノベル

・239

『進路希望調査票をもらって……』さくら     

 

 

 進路希望調査票をもらった。

 

 もう、そんな季節なんや……というのが感想。

 ついこないだ、ダブダブの制服着て入学したばっかしやのに、もう卒業後の進路の準備。

 そんなことをしみじみ思ってると、前に座ってる男子が立ち上がる。

 立ち上がることに不思議はない。終礼も終わったし、掃除当番でもないし、家に帰るだけやからね。

 ちょっと感慨深かったんは、その男子のズボン、お尻のとこが光ってたから。

 べつに、蛍の化身やない。

 三年も履いてるズボンやさかい、お尻がテカってる。

 カバン持って歩き出したズボンのすそも、くるぶしが見えかけ。

 スカートと違て、ズボンは背が伸びたら、すぐに目立つ。

「酒井、○○のこと好きなんかあ~」

 瀬田がからんできよる。

 瀬田いうのんは、一年からクラスがいっしょのアホ。

 掃除さぼったんを注意したころから距離が近こなってしもた。チョッカイだすことでしか人と関われへん不幸な奴。

「ちゃうわ」

「せやかて、○○のことじっと見てたやんけ」

「瀬田、ちょっとケツ見してみ」

「なんや、おまえ、男のケツに興味あんのかあ(꒪∆꒪;)?」

「ええから、見せろ」

「しゃあないなあ、ちょっとだけやぞ~」

「突き出さんでもええ」

 振り向いた瀬田のオケツは光ってなかった。光ってへんけど、ズボンの裾はやっぱし短い。

「じぶん、ズボン買い換えた?」

「え、ああ、二年の二学期かなあ、背え伸びたから買い換えた」

「それで、テカってないんやなあ……それでも丈はツンツルテン、じぶん、成人式ごろは進撃の巨人ぐらいいくんちゃうかあ」

「オレはバケモンちゃうぞ」

「セイ」

「ヒャウ! なにすんねん!?」

「いっちょまえに、腹筋カチカチやあ……瀬田も男になったんやなあ」

「お、おう。せやけど、勝手に触んな(#^△^#)」

「なんやったら、あたしのん触ってみる~」

「え?」

「あ、なんで胸見てんねん!?」

「見てへんわ(;'∀')!」

「いやあ、瀬田君も男になったんやねえ(ー_ー)!!」

 

「瀬田君、酒井さん、掃除当番でしょ、さっさとやんなさい!」

 

 気いついたらペコちゃんセンセが怖い顔して立ってるやおまへんか。

 掃除当番仲間はクスクス笑って、留美ちゃんは黙々と箒を動かしておりました。

 えと、なんやったけ?

 せや、進路希望! で、掃除当番やったんや!

 言われへんかったら、そのまま帰ってるとこやった。

 進路希望は……また考えます。

 

 帰り道、留美ちゃんに言われた。

「瀬田君とジャレてなかったら、掃除当番忘れて帰るとこやったでしょ?」

 えと……はい、その通りです(^_^;)。

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魔法少女マヂカ・229『クマさんとケーキのお使い』

2021-08-27 09:29:35 | 小説

魔法少女マヂカ・229

『クマさんとケーキのお使い語り手:マヂカ   

 

 

 クマさんがお使いに出るのを見守っているだけの箕作巡査。

 

「ああ、じれったい!」

 二階の窓から偵察していた霧子は、歯ぎしりする。

「仕方ないじゃない」

 後ろから霧子を慰めるんだけど、良心的お節介焼きの霧子は収まらない。

「ええアイデアや思たんやけどね……」

 ノンコは、さっさと諦めてケーキにパクつく。

「普通さ、好きな女の子が重い荷物持ってたら手伝うでしょ!」

「あれが、箕作巡査のいいとこでもあるのよ」

「はああ……」

 ため息ついてカウチにへたり込んだ霧子は、上出来のケーキに手を付けようともしない。

「食べへんねやったら、あたし食べるよ」

「どうぞ」

「ほんなら遠慮なく(^▽^)/」

 

 霧子は、あれ以来進展しない箕作巡査とクマさんの関係を進めてやろうと、気をもんでいるのだ。

 

 朝からキッチンに籠って、あたしたちにも手伝わせて、スゴイ量のケーキを作った。

 家の者や使用人のお八つという名目なんだけど、それにしても多い。

「そんなに美味しいんだったら、倉西子爵さんのところにも差し上げよう!」

 と、言い出した。

 倉西子爵というのは、この原宿に屋敷を構える華族で、日ごろから付き合いがある。

 その倉西子爵へのお使いをクマさんに頼んだのだ。

 近所なので、むろん歩いて行ける距離。

 用件を済ませても十分もあれば帰って来れる。

 ケーキは崩れてはいけないので、丈夫な紙箱四つに分けてある。重さは知れているんだけども、一人で持つにはかさ高い。

 そこが狙いだ。

 小柄なクマさんが両手にケーキの箱をぶら下げて表門から出ようとすると、思った通りに箕作巡査が声を掛ける。

「大荷物だね」

「ええ、でも、そこの倉西子爵さまのお屋敷までですから」

「そうか……」

「…………」

「手伝ってあげられればいいんだけど、自分は、ここを離れられないから……申し訳ない!」

「いえいえ、箕作さんは、それがお仕事ですから(^_^;)」

「はい、そうであります(#'∀'#)」

「それでは、行ってまいります」

「お、お気を付けて!」

 箕作巡査は気を付けの姿勢のまま、クマさんが角を曲がるまで見送った。

 そして、霧子が歯ぎしりをしているというわけ。

 まあ、この二人は暖かく見守ってあげるしかない。

 

 しばらくすると、クマさんが帰って来るの見えた。

 

「あれ、女学生といっしょやで?」

 ケーキを手に持ったままノンコが窓辺に寄る。

「え、学校の人?」

 女学生というと、霧子や我々の守備範囲、三人窓辺に顔を付きあわす。

「制服が違う」

 学習院は白線三本に黒のリボンだけど、その子は赤線三本に赤のネクタイだ。

 しばらく三人で話し、箕作巡査とクマさんが優しく頷いて、クマさんが、我々のいる母屋に向かってきた。

 

「真智香さま、赤城さんという女学生さんが来られてます。なにかとても大事なお話がおありのようで……」

 用件を伝えに来たクマさんは軽く上気している。

 箕作巡査と話せたせいか、女学生のことでなのかは分からない。

 分からないけど、ケーキが、二人にコミニケーションのきっかけにはなったようなので、霧子も機嫌を直す。

 

 第二応接室に通された赤城さん。

 

 会ってビックリした。先日の天城にソックリ。

 わずか三日ほどしかたっていないけど、赤城には船霊が宿ったようだ。

「お初にお目にかかります。天城の妹の赤城です……」

 優しい笑顔なんだけど、天城の時とはまた違う緊張が走っている。

「どうぞ、お掛けになって、お話を伺います」

「はい、ありがとうございます」

 姿勢よく腰かけた赤城の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。

 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
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ライトノベルベスト『海岸通り バイト先まで3』

2021-08-27 06:18:32 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『海岸通り バイト先まで・3』  

 

 

 

 図星だった。

 ぼくは半年先に迫った進路のことで、親とも先生とも対立して、この海辺の町にやってきた。

 夏休みに入ってからのバイトだったので、民宿なんかの口は、あらかた詰まってしまい、滞在費でバイト代が半分近くとんでしまうことも構わずに、このバイトに決めた。

「大学……いくの?」

「あ、まだ未定」

「だめだなあ、進学するんだったら、夏が勝負でしょ。夏休みを制する者は受験を制す! だよ」

「行く気になれば、二期校ぐらいは狙える」

「へえ、国公立じゃん。頭いいんだ」

「ぼくぐらいのやつは、いっぱいいるよ」

「……じゃ、他にしたいことが、なにかあるんだ」

「まあ……それは」
 

 間が持たず、半ば無意識に水筒の水を飲んだ……すると。

 

「わたしにも、ちょうだい」

 そう言って、返事もろくに聞かなずに水筒をふんだくり、女の子とは思えない豪快さで飲み始めた。

「あ……」

「この水、神野郷の龍神さまの湧き水ね」

「分かるの、そんなことが」

「だって、地元だもん。あ、間接キスしちゃったね(^_^;)」

「そ、そうだね」

「はは、わたし、ちょっと泳ぐね。お水、ごちそうさま」

 そう言うと、彼女は、目の前でギンガムチェックのシャツと、ショ-トパンツを脱いだ。

「あ、あの」

「つまんない水着でしょ。白のワンピースなんて」

 その子は、腰に手を当て、惜しげもなく、金太郎のようなポーズで全身をさらした。

「ここって、遊泳禁止なんじゃ……」

「ははは、わたしは、いいの!」

 そう言葉を残すと、その子は、勢いよく砂浜を駆けて海に飛び込んだ。

 

 ドップーーン!!

 あっけにとられた。その子が駆けたあとには、やっぱり足跡がない。それに、海の町の子にしては、肌が抜けるように白い……惚れ惚れするような泳ぎっぷりに見とれていると、急に深みに潜り込んだ。

 三十秒……五十秒……一分を過ぎても、その子は海面に現れなかった。

「お、おーい、大丈夫か!?」

 ぼくは、波打ち際に膝まで漬かって、その子を呼んだ。

 これはただ事じゃない。そう思って潜ろうと思ったその時、後ろで笑い声がした。

「あはは、こっち、こっち!」

 その子は、ビーチパラソルの下で手を振っていた。

「いったい、どうやったの?」

「簡単よ……」

 その子は、タオルで髪を拭きながら、続けた。

「東の方に潜ったと見せかけて、水の中で反対の西側に行くの。で、あなたが心配顔して岸辺に来たころを見計らって、死角になった方から、岸に上がって、ここに戻っただけ」

「すごいんだね、きみって」

「だって、地元だもん」

「でもさ……」

「あなたって、進学以外にやりたいことがあるんじゃないの?」

「あ、ああ……」
 

 ……気が付いたら、喋っていた。

 

 ぼくは、役者になりたかった。

 高校に入ってから、ずっと演劇部。季節の休みごとにバイトに精を出し、軍資金を稼ぎ、労演を始め、赤テント、黒テントなどを見まくっていた。

 でも言い訳のように進学の準備も並行してやっていた。

 そして、三年生の、この春になって悩み出した。役者になりたくなったのだ。

「たいがいにしとけよ」

 言わずもがな、親は見通していた。でも親を口説くことはできると思っていた。いざとなったら、家を出てもいい。

「でも、まだ他にも問題があるのよね」

 その子は、いつの間にか、元の服装に戻っていた。髪も乾いて、風がそよいでいた。

「あ、バイトに遅れる」

「大丈夫、まだ、ほんの五分ほどしかたっていないわ」

「え……」

 このあと……その子が、ぼくの心を読んだように話を先回りした。不思議だけど先回りされていることを不思議には思わず、悩みの種を全て喋ってしまった。

「そうなんだ……ありがとう。二郎君のおかげで力がついたわ。わたしも踏ん切りがついた」

「ぼくも、すっきり……」

 つられて顔を上げるとモロに太陽が視界に入って目をつぶる。

 え?

 次に目を開けると、その子の姿も、ビーチパラソルも無くなっていた。

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