大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 27『ぼくは神さまじゃない』

2021-08-28 15:48:44 | ノベル2

ら 信長転生記

27『ぼくは神さまじゃない』  

 

 

 ちがうちがう!

 

 手のひらがプロペラなら、そのまま後ろに飛んで行ってしまいそうなくらいに振って否定した。

 人に、こういう拒絶をされると、たいていはブチギレる。

 しかし、忠八くんのそれには悪意が無い。無いからブチギレない。

 

「ぼくは神さまなんかじゃないよ」

「でも、敦子が言ってた」

「敦子さんて?」

「ああ、熱田神宮の神さま。古い付き合いだから敦子、普段はあっちゃんて呼んでる」

「そうなんだ、でも、ぼくは神さまじゃないから(^_^;)」

「そうなの?」

「ぼくはね、神社を作っただけで、神さまになったわけじゃない」

「どういうこと?」

「ぼくはね、エンジンを付けた飛行機を飛ばしたわけじゃないけど、飛行機が飛ぶ原理を発見してグライダーみたいなのを作ったんだ。それは、とても小さなことだったけど、ぼくの飛行機の原理に発奮して、いろんな人が努力して、短期間で飛行機を発展させたんだ……ほら」

 忠八くんが広げたのはズックのカバンから取り出した、補修の跡が目立つ図録だ。

「これが、ぼくの飛行器だよ」

「あ、なんか懐かしい……」

 オモチャみたいなもので、飛行機ではなくて飛行器。

 からす型と玉虫型がある。

 骨ばっかりが目立って、素人目にもカッコよくは無いけど、その分確実に飛びそうな頼もしさがある。

「懐かしい?」

「うん、兄きの守役やってた平手のジイというのがいたんだけどね、胴長短足、カッコよくはないんだけど、戦の時のかっこうが、これに似てる」

「お侍の戦装束が?」

「うん、幌武者って言ってね、大きな幌を背負ってるんだよ。竹籠みたいな芯の上に色とりどりの幌が掛けてあって、走ると裾の方は風になびいて、本来はカッコいい。だけど、平手のジイなんかがやると、主も馬も短足で、幌が上下にユサユサって、それに長槍なんか構えてるもんだから、なんかおかしくって、兄きがね『まるで血を吸い過ぎて飛べなくなった蚊のようだ』って笑ってた」

「アハハ、想像しただけで可笑しい」

「でしょでしょ」

「あ、でも、ぼくのはちゃんと飛んだから」

「ああ、ごめん。平手のジイも、戦場での働きはピカイチだったわよ」

「そうなんだ、ちゃんと機能するものって、そういうものなんだよ、うん」

「こっちのは?」

「ああ、フライヤー1号。エンジンを付けて飛ぶはずだったんだけどね、ライト兄弟が先にやっちゃって、飛ばすことができなかった」

「そうなんだ……こっちは?」

 ページはまだまだ続いている。

「それは、ぼくの後輩たちが作った飛行機だよ、機械の機が付く方の飛行機」

「ゼロ戦とかYS11とか……いろいろあるんだね」

「うん、みんな凄い人たちだよ」

「みんな忠八くんのお弟子さん?」

「ちがうちがう!」

 また手をブンブン振って否定する。

「みんな、自分で勉強して日本の飛行機を世界に通用するものにしていったんだ。それが嬉しくってね、こうやって図録にさせてもらってるんだ」

「あの……」

「え?」

「願いが叶ったっていうのは?」

 紙飛行機を飛ばすポーズをして話題を向ける。

「うん、飛行機には事故がつきものだからね。飛行機が普通に飛べるようになるまでには……飛んでからも。いっぱい人が亡くなって、それで……神社を作ろうって、視界没をやった時に……」

「閃いたんだ!」

「え、あ、まあ、そうだね(^_^;)」

 今度はチガウチガウをやりかけた手を引っ込めて頭を掻いた。

「だからね、ぼくは神社を作ったんであって、神さまになったわけじゃないんだ」

「そう? わたしには、もう神さまって名乗っていいような気がするけど」

「と、とんでもない」

 今度は手を振る(^_^;)、照れるから言わないけど、可愛いよ。

「だからね、織田さんだって、視界没やったら、きっと願いが叶うよ」

「うん、ありがとう、師匠!」

「し、師匠!?」

「うん、忠八くんは紙飛行機の師匠だ!」

「やめてよ、照れるから(^_^;)」

「ハハ、ね、もっかい飛ばそう!」

「うん、今度は滞空時間を伸ばすようにがんばってみよう」

 

 さあ飛ばすぞ!

 振り仰いだ空は、もう茜に染まっていた、紙飛行機修業の二日目だった。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  パヴリィチェンコ    転生学園の狙撃手
  •  二宮忠八        紙飛行機の神さま
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誤訳怪訳日本の神話・57『ワタツミの神の宮』

2021-08-28 09:07:56 | 評論

訳日本の神話・57
『ワタツミの神の宮』  

 

 

  勝間の小船に乗って海底に向かったヤマサチは、やがてワタツミの神の宮にたどりつきます。

 

 シホツチに言われた通り、井戸の傍の桂の木の陰に隠れていますと、神の宮の侍女が発見し、トヨタマヒメに報告します。

「姫さま、姫さま!」

「なんです、騒々しい、埃がたつでしょ」

「海の底だから埃はたちません」

「水が濁ります!」

「すみません、実は……」

「え、そんなにいい男なら、すぐに食べ……いえ、お迎えしなければ!」

 

 桂の木の下まで出向くと、次女の報告よりも、自分の想像よりも清げで立派な若者です。

 こいつを逃す手はありません。

 

「まあ、なんと清げで凛々しい殿方でありましょう! お父様に紹介します、直に下りてきてくださいませ!」

「は、はあ(めっちゃきれいな女の人だなあ)」

 トヨタマヒメに連れられて宮殿の奥に行くと、三国志の劉備と曹操と孫権を足したような立派な王様が居ました。

 日本版ポセイドンのワタツミの神であります。

 

 ちょっとした矛盾があります。

 

 ワタツミの神はオオワタツミの神(大綿津見神・大海神)とも言いまして、イザナギ・イザナミの間に生まれた神では海を支配するように命ぜられます。後にスサノオが生まれた時に、イザナギは「スサノオ、おまえは海を支配しなさい」と命じています。

 海の神さまはどっちだ?

 子どものころに古事記を読んで、ちょっと混乱して投げ出したことがあります。

 日本人と言うのは、大ざっぱに言って、ツングース系(朝鮮半島、満州、シベリア)の北方民族、台湾・フィリピンから南西諸島に渡って来た南方の民族、大陸から渡ってきた中国南部などから渡ってきた人たちの混血だと言われています。

 それぞれの民族は、それぞれの神話を伝承していて、縄文・弥生と時代を経るうちに、神話が融合してできあがったのが記紀神話ではないかと思います。

 だから、まあ、ゴッチャになってしまったんでしょうね。

 ちなみにワタツミの神は、生まれた時の描写で途切れてしまって、この下りまで出てきません。

 

 それはさておき、ワタツミの神は、ヤマサチが貴人であることを見抜きます。

「これは、高天原系の偉い神さまではないか! どうか、このワタツミの神の宮に留まっておくつろぎのほどを。これ、皆の者、おもてなしをせぬか! トヨタマヒメ、しっかり励むのだぞ!」

「は、励むだなんて、お父様(n*´ω`*n)!」

 こうやって、ヤマサチは釣り針の事も忘れて、ワタツミの神の宮で何日も過ごします。

 

 勝間の小船とワタツミの神を除くと、デテールは『浦島太郎』とソックリです。いわゆるおとぎ話にも神話の影響が残っている証拠なんでしょうねえ。

 というか、神話とおとぎ話の境目と言うのは、そんなにハッキリしていないように思います。

 ようは、古事記・日本書紀に載っているかどうかの違いだけではないでしょうか。

 記紀神話の成立過程で取捨選択されたり、変形された話がいくつもあるのではと思ったりします。

 おとぎ話という括りでも構わないと思います。

 ちなみに、幼稚園の頃『因幡の白うさぎ』は『ぶんぶく茶釜』や『カチカチ山』と同じ並びの紙芝居で教わりました。

 

 さて、次回は、ヤマサチが釣り針のことを思いだすところから続けたいと思います(^_^;)。

 

  

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ライトノベルベスト・海岸通り バイト先まで④

2021-08-28 06:21:07 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『海岸通り バイト先まで・4』  

 

 

 

「あなた、風邪ひくわよ」

 

 四十何年前の悩みの種が声がして、ぼくは目が覚めた。

 エアコンの冷風が、まともに薄くなりはじめた頭頂部の髪をなぶっていく。

 パソコンがスリープになっていたので、マウスをクリックした。

 画面には、四十何年前、一夏バイトに行っていた町の小さな神社が再建されたニュースが出ていた。

 神社は、四十何年前、タンクローリーの事故の巻き添えで焼けてしまった。木花之佐久夜毘売(コノハナノサクヤヒメ)が御祭神で、浅間神社の末社であった。

 

「……これを観ているいるうちに眠ってしまったんだ」

「はい、コーヒー。目を覚まして台本読まなくっちゃね」

「台詞は、もう入ってるよ。端役だからね」

「その言葉、痛いわね」

「え……どうして?」

「だって、わたしのことが無ければ、あなた、高卒で、もっと早くデビューできたでしょ」

「よせよ、そんなカビの生えた話。いつデビューしていても、ぼくは、こういう役者だったよ。今の仕事も、ぼくは満足している」

 その時、パソコンにメール着信のシグナル。

 

―― おひさしぶり 窓の外を見て。 From その子 ――

 急いで窓の外を見た。大手スーパーの駐車場の上半分が見える。

「……あ」

 思わず声が出た。

 あのビーチパラソルの上半分とピョンピョン跳ねながら振られている手の先が見える。

 ベランダに出てみた。駐車場の全貌が見えるはずだ。

 

 予想はしていたが、その子の姿もビーチパラソルも見つけることはできなかった。

 

 

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