大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・連載戯曲『月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・6』

2019-07-24 05:53:18 | 戯曲

月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・6


時   ある日ある時
所   あるところ
人物  赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫

 

 

赤ずきん: 男は女を愛したらオオカミになるっていうぞ。
かぐや: あの方……オオカミになりながら涙をためていらっしゃった。とても悲しそうに、とてもせつなそうに。だからわたし、そっとハンカチを渡してあげたの。あの方、ハンカチをにぎりしめ、大つぶの涙を流しながら、じっとわたしの目を見つめ……ポツンと一言……
マッチ: おいしそうだ……

赤ずきん: ズコ!
かぐや: ほほほ……
赤ずきん: せっかく真面目に聞いてんのに、まぜっかえすな。
かぐや: まぜっかえさないと焦げついちゃうでしょ、鍋の底とか心の底に。わたし好きよ、そういうの。
マッチ: へへへ
赤ずきん: それで?
かぐや: それでオオカミ男さんは大つぶのよだれをたらし……あら、うつっちゃった。

三人、のどかに笑う。

赤ずきん: 大つぶの涙を流しながら……
かぐや: 大つぶの涙を流しながら……ぼくと同じ目だ。
 
「月の沙漠」のオルゴール聞こえる。

かぐや: 唐突だけど「月の沙漠」を思ったわ。(歌う)金と銀との鞍置いて、ふたつ並んでゆきました……そうしたら、オオカミ男さんも、同じメロディを口ずさんでいた……ね、外に出てみましょうか?
マッチ: う、うん。

三人外に出る。空に月が出ている。

マッチ: うわあ……!
赤ずきん: なに、これ?
マッチ: 砂漠?
かぐや: ううん、鳥取砂丘。月までもどる力は、わたしにも、この家にもない。だから時々ここに来てなつかしんでるの。今のわたしたちの話で、この家がなつかしがったのね。金八郎先生が来たわけじゃないわよ。
マッチ: 砂ばっかりで、砂漠みたい……
かぐや: 「月の沙漠」って、千葉県の御宿海岸がモデルなんだけど。わたしはこの鳥取砂丘のイメージなのよね……
赤ずきん: どうして?
かぐや: それはね……金八郎先生がそう教えてくださったから。
赤ずきん: 金八郎まちがったこと教えたんだ。
マッチ: いけないんだ~。金八郎先生って、かりにも国語の先生だよ。
かぐや: ううん、まちがってらっしゃらないわ。
赤ずきん: どうして?
かぐや: あの先生はご自分の感動を正しく教えてくださったわ。
赤ずきん: でも、まちがってんじゃ、しょうがないじゃん。
マッチ: うんうん。
かぐや: あのね、わたしこう思いますの。すみからすみまで正確な授業でも、感動のない授業なら、教えたことにならないって。
赤ずきん: はあ……
かぐや: 金八郎先生は授業を脱線して「月の沙漠」のお話をなさった。
赤ずきん: 知らないぞ、その話。
マッチ: わたしもよ。
かぐや: あの日は、お二人とも改訂版が出るんでお休みになってましたよ。
赤ずきん: あはは。あたしたちって、売れっ子だから(^^♪
マッチ: うふふ。
かぐや: おしいことをなさいましたわね。それは、それは熱く語ってくださいましてよ。
マッチ: そうなの?

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高校ライトノベル・せやさかい・041『不発の漫才いう感じで縫いぐるみをもらった』

2019-07-23 13:06:21 | ノベル
せやさかい・041
不発の漫才いう感じで縫いぐるみをもらった 

 

 

 檀家回りをしてくると、いろんなものをもらってくる。

 

 お饅頭とかの和菓子が多いねんけど、商品券とかビール券とか、手縫いの手袋、映画の優待券、宝くじ、とか色々。

 むろん、もろてくるのはお祖父ちゃん、伯父さん、てい兄ちゃんの親子三代坊主たち。

「こんなんもろてきた」

 てい兄ちゃんが衣の袖から出してきたんは、UFOキャッチャーの景品みたいな縫いぐるみ。

 二頭身半の男の子と女の子。着てるTシャツの前には、男の子が「1」、女の子が「2」とプリントしてある。

「てい兄ちゃんは、こんなんばっかりもろてくるなあ」

 こないだは、ラジコンのアブラムシをもろてきてリビングで見せびらかしてた。

「もーー、兄妹の縁切る!」

 詩(ことは)ちゃんは、それ以来てい兄ちゃんと口をきいてない。せやさかい、わたしに見せるんや。

「お腹押してみい」

「うん……」

「自分のお腹押してどうすんねん!」

「あ、そっちか」

「グホ! ちゃうちゃう、縫いぐるみのお腹や!」

 これくらいのボケはかまさんとおもしろない。

 で、で、反応とリアクションをを考えながら、大げさに手を振り上げる。

 きゃ~エッチ!……やったら、「よいではないか、よいではないか、グフフ……」

 プ~~やったら、「ウ! おぬし、なにを食ったあ!?」とかね。

 

 エイ!

 

 勢い付けて押したら……チャンチャカチャン(^^♪ チャンチャカチャン(^^♪ チャチャチャチャチャンチャカチャン(^▽^)/

 なんと、ラジオ体操第一が陽気に鳴り出した。

「なるほどお! ということは……」

「2」の方を押してみる。今度は予想通りラジオ体操第二が流れ出す。

「なるほどお……おもしろいねえ」

 アイデアやねんやろけど、びっくりするほどの面白さやない。

「タイミングがええと、ふたり揃てラジオ体操しよるらしいでえ」

「プ、ほんまあ?」

「ほんまほんま、あげるさかい、毎朝お腹押してみい」

 ということで、不発の漫才いう感じで縫いぐるみをもらった。

 

 

 

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高校ライトノベル・連載戯曲『月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・5』

2019-07-23 06:28:18 | 戯曲

月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・5


時   ある日ある時
所   あるところ
人物  赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫

 

赤ずきん: ひょっとして、その金八郎がいやで学校に来ないの?
かぐや: ほほほ、それほどヤワじゃございませんわよ。
マッチ: あの……わたし、かぐやさんにいろいろグチこぼしたじゃない。
かぐや: お互い、か弱い乙女ですもの、グチのひとつやふたつ。
マッチ: うん……かぐやさんとか、赤ちゃんとか、しゃべりやすくって……
赤ずきん: ほんとか?
かぐや: ほほほ……わたしの方こそいろいろ教えていただいて……それに、マッチさんのお話って、おっしゃるほどグチっぽくなくてよ。
マッチ: そう!?
かぐや: そうよ、いろんなことをおもしろおかしく話してくださって。赤ちゃんさんのこと、郵便ポストさんとかサンタさんのお嬢さんとか。
赤ずきん: え、あれマッチが。おまえなあ……!
マッチ: あの、それはね……
かぐや: 赤は情熱、ぬくもりの色よ。マッチさんの赤ちゃんさんへの好意がよくあらわれてますわ。

赤ずきん そ、そう?
マッチ: そ、そだよ。あの、これ、ケーキつくってきたの。みんなで食べようよ。
かぐや: まあ、かわいいケーキ。赤いサンゴの色のようね。
赤ずきん: それ、トンガラシクリーム。最初甘いけど、飲みこんでから、おなかの中でヒリヒリすんだぞ。
かぐや: まあ、ほんと!?
マッチ: うそ、普通のイチゴクリームだよ。
赤ずきん: うちのオオカミさんに食わしたら、胃ケイレンで、そく救急車。
マッチ: もう、赤ちゃんたら(ぶつかっこうをする)
赤ずきん: なんだ、やろうってのか?
マッチ: や、やるときゃ、やるわよ! いつも負けてばっかじゃないかんね!
かぐや: あらら……
赤ずきん: いくぞお……
マッチ: こっちこそ……
ふたり: さいしょはグー、じゃんけんポン!
マッチ: うう、三回しょうぶ!
赤ずきん: おうよ!
ふたり: じゃんけんポン! じゃんけんポン!
赤ずきん: あはは……
マッチ: おっかしいなあ、どうして負けるかなあ?
赤ずきん: おしおきだぞ~…… 
マッチ: え……?
赤ずきん: こちょこちょこちょ(くすぐりまくる)
マッチ: きゃははは……死ぬう!
赤ずきん: まいったか。
マッチ: まいった、まいったよ~。
かぐや: ほほほ、笑いは最高の調味料。おいしいわ……
赤ずきん: そのレターセットかわいいね。彼氏に?(コンビニの袋のレターセットに気をとめる)
かぐや: オオカミ男さんがね。時々おたよりをくださるので、お返事を出そうかなって思って……

マッチ そうか~、満月のたんびに月に吠えていたのは、かぐやさんへのラブコール!
かぐや: さあ……どうでしょう……もう少し複雑なお気持ちなの
かも……

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・34〔ナポレオンの結婚記念日〕

2019-07-23 06:21:56 | 小説・2

高安女子高生物語・34
〔ナポレオンの結婚記念日〕        


 今日は、ナポレオンの結婚記念日。

 なんで、そんなこと知ってるか……明菜が電話してきたから。
 なんで、明菜が電話してきたら、ナポレオンの結婚記念日と分かるか。

「ナポレオンの結婚記念日やさかいに、会わへん?」

 と、明菜が言うたから。
 なんで、明菜が、こんなケッタイナ誘いかたしてきたか言うと、明菜とは、しばらく疎遠やったからかなあ。

 明菜は中学の同級生。

  高校はうちと同じOGHやった。で、ほどほどの友達やった……けど、明菜は一学期で、学校辞めてしもた。

 ウワサでは、先生(誰とは分からへんけど)と適わへんかったから。高校では、クラスも違うたし、話す機会も無かったんで、それっきり。絵に描いたような『去る者は日々に疎し』やった。
 その明菜が電話してきて「会うて話がしたいねんけど……」うちは、なんの気なしに「なんで?」と聞いた。ほんなら、その答が「ナポレオンの結婚記念日やさかい」やった。
 ネットで調べたら、ホンマにナポレオンの結婚記念日やったからビックリした。もともと勉強できる子ぉやったけど、とっさに、そんなんが出てくるのは、さすが明菜やと思た。

「なあ、なんで明菜会いたがってんねやろ?」

 馬場さんの明日香に聞いても、お雛さんに聞いても、本のアンネに聞いても答えてくれへん。やっぱり、この三人が、喋ったり動いたりするのんは、特別の日いだけみたいや。

 明菜の家は、近鉄挟んだ反対の西側にある。

 近鉄の西側は、むかし近鉄が百坪分譲やってたときのお屋敷が多い。明菜の家も、その一つ。一回だけ遊びに行ったことがあるけど、敷地だけでうちの四倍以上。お家も、それに見合うた豪勢さ。庭だけでもうちの家の敷地ぐらいあった。

 明菜との疎遠は、この豪勢さにある。

 うちとこは、もうそのころは両親共々仕事辞めて、定期収入が無くなってた。お父さんは「明日香は作家の娘やねんぞ」なんて言うけど。収入が無かったら、経済的には無職と同じ。
 そんなんで気後れして、うちの方から連絡することは無かった。

 せやさかい、明菜が学校をOGHに決めたときは、ビックリした。あの子の内申と偏差値やったら、もっとええ高校行けたはずや……。

「ボチボチの天気やなあ」
「せやなあ」

 ほぼ一年ぶりの会話としては、なんともたよんない。
 しばらくは、黙って玉串川のほとりをを黙って歩いた。

「もう、半月もしたら、桜も咲いてええのになあ」

 うちの何気ない一言が明菜を傷つけた。           
 明菜は、唇を噛みしめたかと思うとポロポロと涙を流した。

「ごめん。うち、なんか悪いこと言うたかな……」
「ううん、明日香は、なんにも悪ない。うちが、よう切り出せへんよって……」
「……ちょっと、座ろか」

 山本球場あたりの川辺の四阿(あずまや)に入った。

「うちの親、離婚するねん」
「え……」
「事情は、うちにもよう分かれへん。ケンカしたわけでもないし、浮気でもあれへん。なんや、発展的な離婚やいうて、お父さんも、お母さんも涼しい顔してる。そんで、気楽に『明菜はどっちに付いていく?』ごっついケッタイで、あたしのこと置き去りにして……バカにしてるわ!」

 最後の一言が大きい声やったんで、川の鯉がビックリしてポチャンと跳ねた。

「どっちに付いていっても、あの家は出ていかならあけへんねん……うち、せっかく天王寺高校とおったのに」

 うちは、複雑に驚いた。明菜は、天王寺行けるほど頭良かったんや。ほんで、羨ましいことに関根先輩と同じ学校。なんで、去年は格下のOGHなんか受けたんやろ。ほんで、なんで、学校辞めたんやろ。なんで、うちなんかに相談するんやろ……。

「うち、一番気い合うたんは明日香やねん。うち友達少ないよって、相談できるんは明日香しかおらへんねん」

 うちは、もっかいビックリした。こんなに恵まれて、ベッピンで、勉強もでけて、ほんで友達がうち?

 うちは、自分のことが、よう分からへん。馬場さんが、うちをモデルに絵ぇ描いたんよりもびっくりや。

「明日から、うちの家族……もう家族て言えるようなもんやないけど。離婚旅行に行くねん」
「り、離婚旅行!?」

 頭のテッペンから声が出てしもた……。

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高校ライトノベル・里奈の物語・33『猫の恩返し・4』

2019-07-23 06:13:25 | 小説3

里奈の物語・33
『猫の恩返し・4』 



 来た!

 その瞬間に顔を上げれば、そこにいる。ここ一週間続いているウズメの訪問。

「あれ……?」

 ところが、店先にウズメの姿は無かった。

「でも、確かにウズメ……わっ!?」
 自販機の上から何かが降りてきて、思わず目をつぶってしまう。
 ニャー。
 目を開けると、足元に居るのはのらくろ。
「え……あんたの気配じゃなかったんだけどな」
 でも、とりあえず可愛いので顎の下をモフモフしてやる。気持ちよさそうにのらくろは目を細める。

「あれ、この小箱?」

 伯父さんの声がして振り返る。お店に出てきた伯父さんの手の上に、ウズメの小箱が載っている。

「やっぱ、来てたんだ」

 あたしの大きな独り言は、伯父さんには聞こえていない。
 伯父さんは小箱を開けて、中から指輪のケースを取り出していた。
「これは、うちで扱うた品物みたいやな……ちゃうかな?」
「開けてみたら分かるんじゃない?」
「これは特別なやつでな、鍵がかかってる……無理に開けたら壊してしまうなあ。でも、なんでこれが?」
「ウズメっていう野良猫が、いつも咥えてるの」
「猫が?」
 あたしは、ウズメの写メを伯父さんに見せた。
「野良猫には見えへんなあ……」
 たしかに、ウズメの毛並みや風格は野良猫っぽくはない。
「まあ、とりあえずは箱の中やなあ」
「鍵が無いと開けられないんでしょ?」
「必ずしも、そうとは限らへん。まあ、夕方まで待つか」
 なんで夕方なのか? 聞いてみたかったけど、電話がかかってきた。

「忘れてるかと思たわ」

 顔を合わせたとたんに、笑顔で言われた。
 昼から拓馬の「骨董吉村」に出かけた。今日はクリスマスイブなんだ。
 当たり前なら、プレゼントの交換とかやるんだけど、拓馬とは、そういう雰囲気じゃない。

――クリスマスには、お互いの秘密を一つだけ話そう――ということにしていた。

「これが……果歩」
 拓馬がクリックしたパソコンの画面には陸上でもやっていそうなハツラツ女子が写っていた。
「……素敵な子」
「ありがとう」
「とても前向きな子って感じ……どっちか迷ったら前に進もうって目をしてる」
「さすが里奈。可愛いなんちゅう常套句で済ますようなら、この写真で終わらせるとこやった」
「じゃ、話してくれるんだ」
「……果歩は陸上やってたんやけどね」
 直観が当たった。
「ひざを痛めてでけへんようになった。前向きな奴やから、別に熱中できるもんを探しよった」
「それがエロゲ?」
「結果的にはそうやねんけどな……ま、今は、その結果でええか」
「エロゲじゃ、辛い目にあったんだよね」
「うん、前に話したよな……ラブホの前通ってるとこ写メられて学校からも指導された……で、ある日……」
「苦しかったら、言わなくてもいいよ」
「いや、ここまで言うたんやから……後ろから来た車に撥ねられそうになって……いや、ほんま、あのままやったら撥ねられてた。先に気いついた果歩が押し倒してくれて助かった」
「……その時に?」
「うん……果歩は助からんかった」
 最初に拓馬に会った日、拓馬に助けられたことを思い出した。
「あたしを助けてくれたの……果歩さんへの恩返し?」
「分からん……ただ、とっさに危ない思て……うん、里奈が助かるんやったら死んでもええと思たかな」

 それって、あたしをどうこう思っているわけじゃなく、贖罪の気持ちだったんだろうことは想像できた。

「ま、細かいとこはおいおいと……さ、里奈の番やで」
「う、うん……」
 あたしは学校でいじめられたことを思い出した。人をかばったらターゲットにされて、でも穏やかに昔話として話せると思ってたんだけどね。話終わったら、拓馬がタオルを渡してくれた。
「それで、あのゲーム見せた時……その……ナーバスになってんな」
「ハハ、今は平気だよ。あ、そだ、こないだ借りたのクリアしたから、次の貸してよ」
 借りたエロゲを返しながら言った。
「ほんなら、次はこれ。俺が二番目に好きなやつ。ま、とりあえず一回やってみい」
「うん、ありが……」
 そこで電話がかかってきた。

――里奈ちゃん、あの小箱開いたで――

 伯父さんからの電話だった。
「え、どうやって開けたんですか!?」
「うちのオバハン」
「え、オバサン!?」

 いろんなことが、一歩深まるクリスマスイブだった。 

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高校ライトノベル・須之内写真館・6【チェコストーンのドレス・1】

2019-07-23 06:01:17 | 小説4

須之内写真館・6
【チェコストーンのドレス・1】       


 それはチェコストーンの胸飾りの付いた青いドレスだった。

 杏奈のお父さんは、恥ずかしそうにドレスを広げた。
「まあ、なんて素敵なドレス!」
「……ネットで偶然見つけたんです」
 お父さんは、顔を上気させながら、この青いドレスについて語り始めた。

 1992年に、チェコがスロバキアと分離したときに、お父さんはアパレルの仕事でチェコに居た。
 当時「ビロード離婚」と言われた、チェコとスロバキアとの分離は、その名の通り、ほぼ平穏に終わった。そして、ささやかではあるが独立のセレモニーが、あちこちで行われ、その一つが杏奈の母エミーリアがモデルとして出ていたクラシックドレスのファッションショ-だった。

 そこで、エミーリアが着ていたのが、この青いセミクラシックなドレスだ。

 買い付けようとしたが、とても手の出せる品物ではなく、せめてレプリカが作れないかと主催者に頼んだ。しかし、それも許可されず、廊下で佇んでいると、ドレスを着たエミーリアが廊下に出てきて、こう言った。
「いまチャンスよ。写真撮りまくって!」
 エミーリアは、ステージの印象とはまるっきり違ってお茶目な子であった。
「もし、レプリカを作るんなら、わたしにも一着作ってくれない?」
 
 これが縁で二人の中は、次第に近くなり、杏奈の父もプラハでアパートを借りて、仕事と勉強をするようになった。
 レプリカの話は、商売敵から話が漏れてしまい、デザインを替えざるを得なかった。
「こんなものしか出来なかった」
 ストーンの色も胸のあたりのデザインも変えざるを得なかった。
「いいわよ、ジュンが、心をこめて作ってくれたんだから」
 
 あとで、モデル仲間から聞いて分かった。あのドレスは、エミーリアの祖母が着ていたもので、家族を早くに亡くしたエミーリアには特別な思いがあるものだった。
 そこで父の順は、1/2のレプリカを作り、友だちの人形師に写真をもとにエミーリアの祖母の人形を作ってもらい、それを着せてエミーリアに送った。

 そして、二人は半年の後に結婚し、一年後には杏奈が生まれた。

 その後、杏奈が、ようやく歩けるようになったころ、移動中のバスの事故でエミーリアは亡くなってしまった。そして、杏奈は父に連れられて日本にやってきて、母によく似た娘に成長した……。

「杏奈、もうちょっと顎ひいて」
「こうですか……」
「そう、ちょっと微笑んでみて。バカ、口開けんじゃないの。微笑んで……それじゃ、まるで歯痛を我慢してるみたいよ!」
「難しいなあ~」
 杏奈にドレスを着せて写真を撮っている。
 自然な表情が欲しいので、杏奈にはドレスの由来は伝えていない。父の順も仕事でいない。リラックスした雰囲気で撮影している。

 そして、その瞬間が訪れた。絶好のシャッターチャンス!

「そう、そのままフワリと回って!」
 すると、連写のカメラが停まってしまった。
「あれ……」

 カメラのファインダーに映っているのは、写真のエミーリアそのものだった……。

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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・74』

2019-07-23 05:51:51 | はるか 真田山学院高校演劇部物語

はるか 真田山学院高校演劇部物語・74
『第七章 ヘビーローテーション 12』 


 文化祭がやってきた。
 
 出し物について一悶着あった。
 乙女先生は、リハを兼ねて『すみれ』を演ろうという。
 大橋先生は、文化祭で本格的な芝居をやっても観てくれる者などいなく。雑然とした空気の中で演っても勘が狂って、演劇部はカタイと思われるだけと反対。
「文化祭というのんは文字通り『祭り』やねんさかい、短時間でエンタティメントなものを演ろ」
 と、アドバイスってか、決めちゃった。
 わたしは、どっちかっていうと乙女先生に賛成だった。部活って神聖で、グレードの高いものだと思っていたから。

 出し物は、基礎練でやったことを組み直して、ショートコント。そしてAKB48の物まね。
 こんなもの一日でマスター……できなかった。

 コントは、間の取り方や、デフォルメの仕方。意外に難しい。
 物まねの方は、大橋先生が知り合いのプロダクションからコスを借りてきたんで、その点では盛り上がった。ただ、タロくん先輩のは補正が必要だったけど。
 振り付けはすぐにマスターできた。しかし先生のダメは厳しかった。
「もっとハジケなあかん、笑顔が作りもんや、いまだに歯痛堪えてるような顔になっとる」
 パソコンを使って、本物と物まねを比較された。
 一目瞭然。わたしたちのは、宴会芸の域にも達していなかった。

 当日の開会式は体育館に生徒全員が集まって行われた。

 校長先生の硬っくるしく長ったらしいい訓話の後、実行委員でもあり、生徒会長でもある吉川先輩の、これも硬っくるしい挨拶……。
 と思っていたら、短い挨拶の後、やにわに制服を脱ぎだした。同時に割り幕が開き、軽音の諸君がスタンバイしていた。

 ホリゾントを七色に染め、ピンスポが先輩にシュート。

 先輩のイデタチは、ブラウンのTシャツの上にラフな白のジャケット。袖を七部までまくり、手にはキラキラとアルトサックス。
 軽音のイントロでリズムを作りながら、「カリフォルニア シャワー」
 わたしでも知っている、ナベサダの名曲(って、慶沢園の後で覚えたんだけど)
 みんな魅せられて、スタンディングオベーション!
 でも、わたしには違和感があった。

――まるで自分のコンサートじゃないよ、軽音がかすんじゃってる。

 会議室で簡単なリハをやったあと、昼一番の出までヒマになった。
 中庭で、三年生の模擬店で買ったタコ焼きをホロホロさせていると、由香と吉川先輩のカップルがやってきた。
「おう、はるか、なかなかタコ焼きの食い方もサマになってきたじゃんか」
「先輩こそ、サックスすごかったじゃないですか。まるで先輩のコンサートみたいでしたよ」
「そうやろ、こないだのコンサートよりずっとよかったもん!」
 綿アメを口のはしっこにくっつけたまま、由香が賞賛した。もう皮肉も通じない。
「なにか、一言ありげだな」

 さすがに先輩はひっかかったようだ。

「あれじゃ、まるで軽音が、バックバンドみたいじゃないですか」
「でも、あいつらも喜んでたし、こういうイベントは(つかみ)が大事」
「そうそう、大橋先生もそない言うてたやないの。はい先輩」
 由香は綿アメの芯の割り箸を捨てに行った。
「わたし、やっぱ、しっくりこない……」
「まあ、そういう論争になりそうな話はよそうよ」
「ですね」
「こないだの、新大阪の写真、なかなかよかったじゃん」
「え、なんで先輩が?」
「あたしが送ってん……あかんかった」
 由香が、スキップしながらもどってきた。
「そんなことないけど、ちょっとびっくり」
 由香にだけは、あの写真を送っていた。しかしまさか、人に、よりにもよって吉川先輩に送るとは思ってなかった。でもここで言い立ててもしかたがない。今日はハレの文化祭だ。

「あれ、人に送ってもいいか?」

「それはカンベンしてください」

「悪い相手じゃないんだ。たった一人だけだし、その人は、ほかには絶対流用なんかしないから」
「でも、困ります」
「困ったな、もう送っちゃった」
「え……?」
「「アハハハ……」」

 と、お気楽に笑うカップルでありました。

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高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・048『原宿空中戦』

2019-07-22 15:02:33 | 小説
魔法少女マヂカ・048  
 
『原宿空中戦』語り手:安部晴美  

 

 

 コスプレ少女かと思ったのは原宿という土地柄のせいかもしれない。

 

 盛大な水しぶきを上げて躍り出てきたのは『艦これ』に出てきそうな美少女だ。

 背中には三本の煙突を背負い、両手と肩には大砲と魚雷発射管がついている。

 殺気に満ちた瞳! 裂ぱくの気合! ただのコスプレ少女ではない!!

「ドガアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 気合を入れると、地上二十メートルほどのところで大砲を構えた。

「「させるかーーー!!」」

 二人の魔法少女は橋の欄干を蹴って空中に飛翔し、コスプレ少女を挟んで対峙した。

 ズガーーーン!

 両手の大砲を発射するが、マヂカもブリンダも素早くかわして距離をとる。

「わたしは、バルチック艦隊二等巡洋艦イズムルート! 東郷提督に一矢報いんと百余年の時空を超えてきた。邪魔するものはぶっとばす!」

「霊魔の憑依体か、マヂカ、やるぞ!」

「おお!」

 これは放ってはおけない! そう思うと、どこからかライオンオブジェが現れ、さらうようにして私を乗せると、ブーストをかけて空に舞い上がった!

 数秒で千メートルの高度に達する。眼下には神宮の森が黒々と静もっている。

 いつのまにか二人もそれぞれのオブジェに跨り、イズムルートを取り巻いている。

 取り巻かれるのを嫌がって、イズムルートは上下左右に飛び回るが、二人は連携を保ちつつ方位の輪を縮めていく。

 これまでの幼体と違って、実態と思えるほどに姿が明瞭だ。

 イメージが浮かんだ。隙を突いたイズムルードが地上すれすれを飛んで二人の攻撃をかわす。二人は上空から攻撃することになって、下手をすると、地上の原宿の街を破壊しかねない!

 思うと体が動いた。

 三人が描く円弧の下に潜り込む! よし、これでブロックできた!

 ズドドドーーン! ズガガガガーーーン! ズガガガガーーーン!

 イズムルートの砲撃をかわしながら、突き出した両手からビーム攻撃を加える二人。

 だが、微妙にタイミングが合わないようで、あちこちかすりながらも身をかわすイズムルート。

「呼吸を合わせて!」

 檄を飛ばすが返事はない。イズムルートに追随するのに精いっぱいなのか?

 

 セイ!

 

 気合を入れると、同時にダッシュしてイズムルートに突撃! あわや激突というところで左右に散開! その衝撃でスピンするイズムルート。

 ズゴーーーーン!!

 散開の頂点で放ったビームが対極から直撃し、装備品をまき散らしてイズムルートは爆発してしまった。

 破片が落ちる!

 杞憂であった。破片は地上に到達する寸前に、次々と掻き消えて、地上は何事もなかったように週末の賑わいを見せる原宿の街だ。

 

 連携がとれるのに時間がかかる。

 

 この戦いで得た教訓だ。

「ちょっとちがうかも」

 マヂカが腕を組む。

「でも、たしかに時間はかかってたぞ」

「いや、オブジェに乗っているとタイムラグができるような気がするのよ」

「昔は、オブジェなんか使わなかいで戦っていたしな」

「そうなの?」

「ああ、じっさいとどめのビームは、こうやったしな」

 ブリンダがウルトラマンのようなポーズをとる。竹下通りを行く観光客たちが笑っている。ちょっと恥ずかしい。

「オブジェか、慣れの問題か、それぞれの技量か、やっぱ連携か……」

「ここは、やっぱりクレープを食べなおさなければ考えがまとまらんなあ……」

「そうよね……」

 もう一度クレープを奢るハメになった。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・33〔啓蟄(けいちつ)奇譚〕

2019-07-22 06:18:43 | 小説・2

高安女子高生物語・33
〔啓蟄(けいちつ)奇譚〕       



 関根先輩の話によると、こうらしい。

 先輩が昼前に二度寝から目覚め、リビングに降りると、リビングに続いた和室の襖が密やかに開いた。何事かと覗くと、和室の奥に十二単のお雛さんのような女の子がいて、目が合うとニッコリ笑って、こう言った。

「おはようさんどす……言うても昼前どすけど、お手水(ちょうず)行かはって、朝餉(あさげ)がお済みやしたら、角の公園まで来とくれやす……なにかて? そら、行かはったら分かります。ほなよろしゅうに……」

 そう言うと、女の子は扇を広げて、顔の下半分を隠し「オホホホ……」と笑い、笑っているうちに襖が閉まったそうな。
「……なんだ、今の?」
 そう呟いて襖に耳を当てると、三人分くらいの女の子のヒソヒソ声が聞こえる。そろりと二センチほど襖を開けてみると、声はピタリと止み、人の姿が見えない。

 そこで、ガラリと襖を全開にすると、暖かな空気と共に、いい香りがした。

 訳が分からず、ボンヤリしていると、ダイニングからトーストと、ハムエッグの匂いがした。

「じれったい人なんだから。ほら、朝ご飯。飲み物は何にする。コーヒー? コーンポタージュ? オレンジジュース?」
「あ、あの……」
「その顔はポタージュスープね。いま用意するから、そこに掛けて。それから、あたしは誰なのかって顔してるけど、名前はアンネ・フランク。時間がないの、さっさとして。着替えは、そこに置いといたから、きちんと着替えて、公園に行ってね」

 先輩がソファーに目を向けると、着替えの服がキチンとたたんで置いてあった。

「あの……」

 アンネの姿は無かった。

 のっそり朝食を済ませ、トイレに行って顔を洗うと、なぜか、もう着替え終わっていた。なにかにせかされるようにして外に出ると、桜の花びらが舞って四月の上旬のような暖かさ。花びらは公園の方から流れ飛んでくる。

 そして、誘われるように公園に行くと、満開の桜を背にし、ベンチにあたしが座っていた。

「なんや、明日香やないか。公園まで来たら何か有る言うて……いや、説明しても分かってもらわれへんやろな」
「分かるわよ。あたしのことなんだから」
「え……」
「今日は、啓蟄の日。土に潜っていた虫だって顔を出そうかって日なのよ。心の虫だって出してあげなきゃ」
「明日香、難しいこと知ってんだな」
「先輩、朝寝坊だから時間がないの。先輩が好きなのは一見美保先輩に見えるんだけど、ほんとは、あたしが好きなんじゃないの?」
「え……?」
「ちなみに、あたしは保育所のころから先輩が……マナブクンが好き。どうなの、答を聞かせて!」
「そ、それは……てか、なんで明日香、東京弁?」
「どうでもいいじゃん。時間がないの、ハッキリ言って!」
「どうしても、今か?」
「もう……時間切れ。明日返事を聞かせて」

 で、桜の花びらが散ってきたかと思うと、あたしの姿はかき消えて、ようやく梅が咲き始めた、いつもの公園に戻ってしまっていた。

「なんかバカみたいな話だけど、夢なんかじゃないんだぜ」

 そうやろ、せやなかったら、わざわざうちを高安銀座の喫茶店に呼び出したりせえへんわな……うちは、お雛さんと馬場先輩の明日香と、アンネの仕業やと思た。けど、そんなん言われへん。

「そら、やっぱり夢ですよ。卒業して気楽になって、三度寝して見た夢ですよ。だいいち、うちが東京弁喋るわけあらへん」
「そうか……でも、明日香、演劇部やから、東京弁なんか朝飯前やろ」
「そら、芝居やからできるんで、リアルは、やっぱり大阪弁です。だいいち演劇部は辞めてしもたし」
「そうか……オレ、一応考えてきたんやけど」
 先輩が真顔で、うちの顔を見つめた。心臓が破裂しそうになった。
「そ、そんな、無理に言わんでもええですよ!」
「……そうか、ほなら言わんとくわ」
「ア、アハハハ……」

 うちは赤い顔して笑うしかなかった。

 うちに帰ると、敷居にけつまづいて転けてしもた。拍子で本棚に手が当たって『アンネの日記』が落ちてきて頭に本の角が当たった。
「あいたあ……」

『アンネ』を本棚に仕舞て、ふと視線。お雛さんと明日香の絵が怖い顔してるような気がした。

「怒りなや。花見の約束だけはしてきたんやさかい」

 それでも、三人の女の子はブスっとしてた。

 うちと違うて、ブスっとしてもかいらしい……。

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高校ライトノベル・里奈の物語・32『猫の恩返し・3』

2019-07-22 06:11:16 | 小説3

里奈の物語・32
『猫の恩返し・3』

 
 

 大阪市には『街ネコ制度』というものがある。

 猫田の小母さんに教えてもらって、桃子で検索してみた。
 三人以上のグループで登録ができて、野良猫を捕獲するのを手伝ったり、去勢されて戻ってきた猫の面倒を見るんだ。
 エサやトイレの管理をしながら、地域住民が安心して猫と付き合えるようにするボランティア活動。
 猫田の小母さんたちの努力で、地域の野良猫の大半が街猫になった。

 その中で、たった一匹野良猫のままで残っているのがウズメ。

 野良猫なのに毛並みが良くて、灰色の毛はほとんど銀色と言っていいほどの艶があり、頬から顎にかけて絞り込まれたシルエットがクール。他の猫たちからも一目置かれているようで、早朝に公園で行われる猫会議では、いつも上座にいる。
 猫の集会で、どこが上座かと思うんだけど、猫田さんには上座と分かるそうな。
 時にウズメは、猫会議の輪の中で、まるで踊っているように優雅に回る。それを、他の猫たちはウットリと、あるいは興奮気味に見ている。その姿が、まるで天岩戸の前で踊りまくったアメノウズメなので、猫田さんは「ウズメ」と名付けたのだ。

 ウズメは人の前では、他の猫たちの輪の中には入らない。罠を仕掛けてもかかることが無く、他の猫のように捕獲もできない。

「ウズメって、小さな箱咥えてますよね?」
 そう聞いてみた。
「え、それは見たことないなあ」
 という返事が返ってくる。
「……そう言うたら、一回だけ見たかなあ、遠くからやったけど、なにか咥えとった。でも、箱かどうかまでは分からへんかったけど」
 猫田さんでも、詳しくは分からない。

 そのウズメが、ときどき店の前に現れるようになった。

 最初は、小箱を咥えて通過するだけだった。
 それが、立ち止まって店の中を窺うようになった。もちろん小箱を咥えて。
「あ、ウズメ……」
 あたしが気づくと、サッと居なくなる。公園に居ることは分かっているので、店番が終わるころに公園に行ってみる。
「エサやりにも慣れたねえ」
 エサ皿を渡してくれながら、猫田さんがにっこりほほ笑む。
「のらくろは美奈ちゃんが好きみたいやね」
 田川のおばあちゃんが言う。
 のらくろは、足の先だけが真っ白な黒猫。あたしは宅急便を連想したけど、お年寄りたちは「のらくろ」と呼ぶ。あたしがエサ皿を置くと、他のエサ皿に居ても、あたしのところにやってきて、あたしに一番近いところでエサを食べる。一度ほかの猫が意地悪をして、エサ皿からのらくろを弾いたことがある。
「意地悪しちゃダメでしょ!」
 あたしは、意地悪を張り倒し、のらくろをエサ皿の輪の中に戻してやった。どうやら、それでなつかれたようだ。
「ニャー」
 のらくろがゴチソウサマの挨拶。かわいいので喉をナデナデしてやる。ひとしきりのらくろはオーバーオールの膝にスリスリ。
「愛い奴じゃ」
 頭を撫でてやろうとすると、のらくろは、フイと奥の植え込みに目をやる。

「あ、ウズメ……」

 植え込みから半身だけ身を乗り出して、ウズメは口の動きだけでのらくろに呼びかける。
「はい、ただいま」という感じでのらくろはウズメのもとに、首を振りながら、なんだか話をしているみたい。
「やっぱり、ウズメは特別みたいやね……」
 田川さんが呟く。

 あたしは、ウズメには特別以上の秘密があるような気がした……。
 

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高校ライトノベル・須之内写真館・5『島本理事長の顔色』

2019-07-22 06:04:50 | 小説4

須之内写真館・5
『島本理事長の顔色』       


 写真には自信があるが、こういうのは苦手だ。

 だから、単刀直入に本人に当たってみることにした。
 本人とはU高校理事長の島本耕作である。ワンマン理事長として、東京の私学の中では有名。
 ちょうど卒業アルバムの理事長の肖像写真の打ち合わせがあったので、都合がよかった。

「じゃ、こちらのお写真で決めさせていただいて結構ですか?」
「ああ、去年は、震災のこともあってクールビズでやってみたが、もう今年はもとに戻してもいいと思うんだ」
 島本理事長は、校旗を背景にブリトラスーツで決めた写真を選んだ。
 ファッションについては……最低である。
 イギリス留学が長かったということで、あちこちに英国風のこだわりがあり、いま目の前に出されている紅茶も専門店から取り寄せた英国王室御用達のものである。
 正直ブリトラのスーツは似合わない。胴長短足なので、丈の長いブリトラでは余計に足が短く見える。みんな知って居るんだけど、面と向かっては誰も言わない。むろん直美も。U高は、大事なお客さんだ。

「実は、こんな写真がまいりまして……」

 長い自慢話が始まる前に、直美はクラフト紙の封筒を取りだした。松岡が持ち込んだ写真だ。
 マンマでは直美自身が疑われるのではないかと、改めて別の封筒に入れ直し、須之内写真館宛の速達にしてある。投函はわざわざ千代田区のポストからした。千代田区の消印なら、国会や議員宿舎も、大企業も多くあり、想像力が膨らむ。

「……これは!?」

 ブリトラが、椅子から五センチほどとびあがった。
 それだけショッキングな写真である。
 島本理事長が、ガールズバーの女の子をお持ち帰りして、ホテルに入っていくところがしっかり写っている。五枚目の下には、どうやって撮ったのか、まさに行為の真っ最中の写真が入っていた。
「悪質な合成写真だと思うんですが」
「合成写真?」
「はい、良くできていますが、理事長先生は、こんなにお腹が出てらっしゃいませんし、おみ足も、もっと長いと思うんです」
「そ、そうだよ。顔はともかく、体は別人だ」
「表情もよく選ばれていますね。おそらく、この恍惚としたお顔は、クシャミをなさる寸前の写真から抜いてきたものだと思うんです」
「そ、そうだよ、クシャミをなさる寸前てのは、こんな顔になるもんだよ」
「あら、こんな小さな写真が……」
 直美は、封筒の中味を確認するようにして、サービスサイズの写真を出した。そこにはティッシュ配りの杏奈と、お持ち帰りの女の子を上手く外した理事長の横顔が写り混んでいた。
「あ……」
「……あ、この子、この一学期までいた杏奈って子ですね」
「よく知ってるね」
「この子、集合写真の中でも栄えるんです。合格発表の時にポートレート撮って表情の良い子だと思ったんで、入学案内の写真に使いました。先生もご存じですよね……これは、ガールズバーのティッシュ配りですかね……先生、お気づきになったんですか。心当たりがあるようなご様子でしたが?」
「渋谷を道玄坂の方に行こうとして見つけてしまったんですよ。風俗のバイトは見過ごせませんからね」
「退学になったんですか?」
「え……」
「修学旅行で、見かけなかったもんですので」
 理事長は、せわしなく足を組み替え、目が泳いだ。

 その後は、簡単だった。例の佐伯先生が呼ばれて、佐伯先生が停学と退学を間違えて聞いてしまったことになった。直ぐに杏奈のお父さんに電話して、佐伯先生が平謝りすることで幕が降りた。

「なんでしたら、合成の分析やってみましょうか。警察に届けた方が……」
「い、いや、それには及びません。ハハ、こういう立場におるといろいろありますよ、アハハハ」

 その夜は、杏奈はバイトを休み、須之内写真館のスタジオで、ささやかな、杏奈の復学パーティーをやってもらった。
「あの理事長は、いろんなところに顔が利きましてね。仕事上逆らうわけにはいかなかったんです。すまなかったな、杏奈」
 杏奈のお父さんが頭を下げた。
「いいよ、お父さん。もう片づいたことなんだから」
「修学旅行にも、行かせてやれなかった」
「いいったら。もうちょっと大きくなったら、自分の甲斐性でいってくるから」
 杏奈は、本来の明るさを取り戻していた。
「しかし、松岡さん、いったい何者なの?」
「ただのガールズバーの親父ですよ。直美さんこそ、ラッキーフォトじゃないですか。ここで写真撮って、杏奈の運命が回り始めたんだから」
「まあ、お上手ね」

 ま、結果良ければ全てよし。素直に喜んでおいた直美であった。

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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・73』

2019-07-22 05:57:03 | はるか 真田山学院高校演劇部物語

はるか 真田山学院高校演劇部物語・73


『第七章 ヘビーローテーション 11』 

 

 転院の日は平日の昼前、お母さんは、やっぱり来なかった。

「はるかちゃん、ほんとうにありがとう」
 車椅子を押しながら、秀美さんが言う。
 静かで、短い言葉だったけど、万感の想いがこもっていた。
 わたしは、群青に紙ヒコーキのシュシュでポニーテール。
「シュシュの企画当たるといいですね」
「もう当たってるわよ。さっきから何人も、はるかちゃんのことを見ている」
「え……車椅子の三人連れだからじゃないんですか?」
「視線の区別くらいはつかなきゃ、この仕事は務まりません。むろん、はるかちゃん自身に魅力が無きゃ、誰も見てくれたりしないけどね」
「はるかの器量は学園祭の準ミスレベル。父親だからよくわかってる」
「それって、どういう意味」
「客観的な事実を言ってるんだ」
――それって、わたしのウィークポイントにつながっちゃうんですけど、父上さま。
「今のはるかちゃんは、東京で会ったときの何倍もステキよ。そのシュシュが無くっても」
――それは、秀美さんの心映えの照り返しですよ。
 発車のアナウンス。
 車窓を通して、笑顔の交換。
 発車のチャイム。

 あっけなく、のぞみはホームを離れていった。

 見えなくなるまで見送って、ため息一つ。
 振り返ると、スマホを構えたオネーサンが二人、わたしの写真を撮っていた。
「ごめんなさい、あんまり可愛かったから」
「ども……」
「よかったら、この写メ送ろうか。スマホとか持ってるでしょ」
「はい、ありがとうございます」
 送ってもらった写真は、とてもよく撮れていた。
 一枚は、ちょっと寂しげに、のぞみを見送る全身像。
 もう一枚は、振り向いた刹那。ポニーテールがなびいて、群青のシュシュがいいワンポイントになって、少し驚いたようなバストアップ。
「このままJRのコマーシャルに使えるわよ」
 と、オネーサン。聞くと写真学校の学生さんだった。
 オネーサンたちと別れてしばらく写真を見つめて……ひらめいた!
――これだ、『おわかれだけど、さよならじゃない』
 わたしは、ベンチに腰を下ろし、写メを見ながら、そのときの物理的記憶を部活ノートにメモった。

 この写真が、後に大きな波紋を呼ぶとは想像もしなかった。

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高校ライトノベル・連載戯曲『月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・4』

2019-07-22 05:48:13 | 戯曲

月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・4

大橋むつお

※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最終回に連絡先を記します


時   ある日ある時
所   あるところ
人物……女3  

    赤ずきん
    マッチ売りの少女
    かぐや姫

 

 

下手から、コンビニの袋を持ってかぐやがやってくる。

 

かぐや: あら、わたくしに御用?
赤ずきん: あら。
マッチ: かぐやさん!
かぐや: マッチ売りの少女さん……と、こちらは……郵便ポストさん?
赤ずきん: あのね……
かぐや: あ、サンタさんのお嬢さん。お父さんのお手伝い?
赤ずきん: そのね……
かぐや: 知ってるわ、赤ずきんちゃんさんでしょ? 生徒会長さんですよね。どうぞ中へ。きたなくしてるけど、お茶でもいれましょう。
マッチ: わたしたちね、呼び方かえたの。赤ずきんちゃんとか、マッチ売りの少女とか、長くて呼びにくいから。わたしはマッチで……
かぐや: まあ、かっこいい。赤ずきんちゃんさんは?
赤ずきん: それがね……
マッチ: 赤ちゃん!
かぐや: まあ、かわいい! じゃ、わたしもそう呼ばせてもらっていい、赤ちゃんさんて。
赤ずきん: さん抜きでいい。
かぐや: そんな不しつけな。わたしは「さん」をつけさせていただきます。いいでしょ?
赤ずきん: ま、いいけど……
マッチ: こないだも来たのよ、金八郎先生といっしょに。
かぐや: まあ、そう。それでね……このお家が急にお散歩に出かけてしまったのは……
マッチ: ああ、やっぱりお散歩だ。
かぐや: はい。このお家、すききらいがはげしいんですぅ。
赤ずきん: きらいなのか、この家?
かぐや: にがてなんですの。熱心でいいお方なんですけど……むき出しでいらっしゃいますでしょ、いつもエンジン全開で……
赤ずきん: あたしも元気な方だけど、それでも持てあましちゃうもんね。
かぐや: どうぞ……(お茶を出す)あの先生悪いかたじゃございませんのよ、ご兄弟もいい方ですし。
マッチ: 兄弟いたの?
かぐや: はい、お兄さんたちとは古いおつきあいよ。
赤ずきん: お兄さん?
かぐや: 金太郎さん。動物好きの、マッチョだけれどもおだやかなお方。その下が金二郎さん。いつも柴を背負って、お勉強ばかり。その下は早くに亡くなられたけど。四番目が金四郎さん。桜ふぶきで入れ墨がとってもおにあいのナイスガイ。以下省略。
赤ずきん: どうして、あの先生この世界にいるんだろう?
マッチ: あ、さっきのわたしの質問!?
かぐや: それは……あの先生のおつむりの回路がメルヘンみたいだから……でも本当のメルヘンて……よしましょう、こんなヤボな話は。

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高校ライトノベル・せやさかい・040『のりちゃんと頼子さん』

2019-07-21 15:30:12 | ノベル
せやさかい・040
『のりちゃんと頼子さん』 

 

 


  つまらないところに意義があるのよ。
 
 一学期最後のお茶を淹れながら頼子さんが言う。

 今日は終業式。

 体育館での終業式が終わって教室に戻り、担任の菅ちゃんから、いろいろの配布物をもらっておしまい。
 配布物のメインは通知表やねんけど、これも出席番号順に配って、特に論評も説教も夏休みの意義とか諸注意とかもなしで、解散。体育館での校長先生の話もつまらんかったから、菅ちゃんの話もつまらんと覚悟してた。
 それが、なんにもなしで「はい、解散」でおしまい。
「学年末ならともかく、一学期の終わりってだけでしょ。菅井先生って、お話へたという噂だし、いっそ言わないほうが気持ちよく夏休みが迎えられるって、先生なりの気配りだと思えば意義があるわよ」
 う~ん、そういう考え方もありか。そういえば、菅ちゃんが喋ることって——あ、それ言わなきゃいいのに——ということが多かった。ポーカーフェイスを決め込んでいたけど、菅ちゃん本人も、自覚があったのかもしれない。

 つまらない原因は、もう一つある。

 留美ちゃんが休みや。

 お家の都合で、パスポートの手続きが終業式の日になってしまい、朝からお休み。
 八月になったらエジンバラ合宿。これは、めっちゃ楽しみやねんけど、三人だけの部活が二人になるのは寂しい。
「え、二人だけですけど?」
 頼子さんは、いつものようにティーカップを三つ出してる。
「さくらちゃんが連れてきた人、どうぞ、座って」
「え?」
 頼子さんの視線を追うと、入り口のとこにのりちゃんが立ってる。
「え? 頼子さん見えるんですか?」
「うん、ぼんやりと。うちの制服。幽霊さんよね?」
『あ、あわわわ』
 のりちゃんが慌てる。
「あ、消えちゃった。桜ちゃんには見えてるんでしょ?」
「は、はい。さきに家に帰るって言うてます」
「お茶も淹れたことだし、居てもらってよ。わたし、部長の夕陽丘・スミス・頼子。さくらちゃんほど能力高くないから、いつでも見えるってわけじゃないけど、よろしく」
 のりちゃんも恐縮して頭を下げる。
「こちらこそよろしく。と、言うてます」
「えと、悪い幽霊さんじゃないことは分かる。よかったら、事情聞かせてもらえるかなあ?」
『「それは」』
 のりちゃんと声がそろうが、のりちゃんの声は頼子さんには聞こえない。
「わたしが説明するわね」
 のりちゃんが頷いて、かいつまんで説明する。

「え? え!? じゃ、法子さんは記憶が無くなっちゃったの?」

 わたしの蘇生法が遅れて、酸欠みたくなって記憶がおぼろになったことを説明する。
「そう、なにかやり残したことがあるのね。こうやって気配を感じられるのも何かの縁。わたしで役に立つことがあったら言ってね」
「あ、そこの千羽鶴はなにかって聞いてます」
「あ、それそれ。千羽鶴、数えたら二百ほど足りないのよ! ちょっとがんばって折ってくれる!」
『「は、はい!」』
 のりちゃんといっしょに返事する。のりちゃんが返事しても仕方がないんやけど……と思ったら。

 ビックリした!

 のりちゃんは、ちゃんと折り鶴が折れているではないか!

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・32〔え、あんたが!?〕

2019-07-21 06:39:42 | 小説・2

高安女子高生物語・32
〔え、あんたが!?〕         


 試験が終わった!!

 なんちゅう開放感やろ。最後の数学の終了を告げる鐘が鳴ったとき、クラスが、いや学校中が開放感に満ちた。
 なんて例えたらええねんやろ。そう思て頭に浮かんだんは、五日ぶりぐらいに便秘が治って、ドバっと出たときの感触……我ながら品も色気もない。せめてパリの解放とか『三丁目の夕日』で観た東京オリンピックの開会式の抜けるような青い空……ぐらいは、後から考えたら出てくるねんけど。これは映画とかで観た二次体験にすぎひん。ま、人に言うわけやないさかい、便秘からの解放でもええやろ。

 とにかく、あとは二十日の終業式に来たら、四月の八日まで、学校に来んでもええし、宿題もなし。完全無欠の「お・や・す・み」
 クラブも辞めたし、なんの義理もないけど、直ぐに学校出る気もせえへん。

 図書室に行ってみた。ざっと新刊本の背中を見る。去年の十二月に入った本が、まだ新刊に並んでる。
 予算のせいもあるんやろけど、なんや興ざめ。
 うちは、一つだけ確認しときたい本があった。

 アンネの日記

 東京の方で、だいぶ破られて、国際問題にまでなってる。イチビリの生徒が真似して、破っとおるかも知れへん。
 文学書の棚に行って、たった一冊だけ有る『アンネの日記』を手に取る。

 大丈夫、まっさら同然。

 うちは、そのまま『アンネ』を借りてしもた。安全を確認したら、そのまま書架に戻すつもりやったんやけど、発作的に借りてしもた。まあ、ええわ。もう二回も読んだ本やけど、高校生になってからは読んでへん。

 そういうたら、アンネは十五歳で死んでしもた。

 うちは十六やけど、まだ死ぬつもりも予定もない。うちなりに、ささやかやけどアンネを守ったげる。
 
 パソコンのコーナーに行ってみる。これには特に目的はない。習慣で浪花高等学校演劇連盟を引いてみる。第七地区のO高校の演劇部のブログが目に止まる。クラブでブログを持つことはええことやと思う。しかし、うちの演劇部はブログどころか、クラブそのものが実質あれへん。美咲さんに、もうちょっとやる気あったらなあ……と、思う。

 O高校のブログは、一見充実してるように見えた。きれいやし、アクセスカウントもできるようになってて、うちが53465番目。いつから始めたんかしらんけど、大したもんや。
 でも、中味がショボイ。公演やら、クラブやって楽しかったことばっかり書いたある。演劇部やったら、もっと芝居のこと書けよなあ……本読んでる形跡もない。閉じよ思たら、審査のことが書いたあるのが目に入った。

――よその地区では審査をめぐって混乱があったところもあるらしい。確かに、なんでと思うようなことも無いではない。しかし、コンクールを競技会のように捉えるのはどうだろう。勉強の場ととらえれば、もっと見えてくるものがあると思う……審査基準を作れという話もあるらしい。そんなことをやったら、審査基準狙いの芝居が増えるだけだろう……――

 アホかと思た。

 大阪の高校演劇は、創作劇を奨励しすぎて、創作率が90%を超えてる。すでに、審査受け狙いは始まってる。審査基準がないさかい浦島太郎みたいな審査員が出てきて、うちが期せずして、地区総会で演説するハメになってしもた。よその地区で混乱……うちのことか?

――審査員は連盟が選んだのだから、立派な人たちで、キチンと審査をされているのに違いない――

「ドアホか!」

 思わず声が出てしもた。そのとき後ろで気配がした。振り向くと……なんとうちが立って笑うてた。
「あ、あんたは……?」
「佐藤明日香」
「……明日香は、うちや」
「まだ気づかない? あ・た・し・馬場先輩の明日香よ」
「え、あんたが!?」

 あの絵ぇから抜け出してきたて……。

「怪しまれないように、ポニーテールじゃなくて、セミロングにしてきたから。ま、ときどきしか出てこないから安心して」
 そない言うと、馬場明日香は図書館から出て行った。ドアも開けんと。司書のオバチャンがびっくりしてる。

 帰りの電車で、布施で気いついたら、また馬場明日香が横に座ってた。
「あんたね、司書のオバチャン、びっくりしてたで。部屋出るときは、ちゃんとドア開けなら」
「まだ、慣れないもんで。アハハ」

 なんや、うちの春休みはけったいなことになりそうや……。

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