トレーにラーメンとランチという女の子らしからぬ取り合わせを載せながら、姫乃が言う。
姫乃は基本的には小食で、多い時でもランチ。たいていは麺類一つだけで、調子悪い時はサンドイッチに牛乳だけということもある。
それが、まるで男子の昼ご飯。
「今までは調子悪かったん?」
テーブルに着きながらすみれが聞く。ちなみに、すみれは大盛りカツ丼。弓道部やからこんなもん。
「う~ん、やっぱ、ボリュ-ムあったほうが美味しいわね」
姫乃らしからぬ大口で、ラーメンをかっ込み、目を幸せのカマボコ形にした。
一昨日で三年生の授業が終わって、食堂はゆったりしている。
あたしらは、いつも三人揃って座りたいので座席の確保には苦労するんやけど、一昨日からは楽に座れてる。
「ねえ、思うんやけど……」
「「なに?」」
「三年生は姫乃に注目してたんとちゃう?」
「「え……?」」
「昼の食堂の暑苦しさて、ただの混雑やと思てたけど、このゆったり感は、それだけやないと思うわ」
確かに、食堂は劇的に空いたというわけやない。
それまで食堂を利用してなかったり時間帯をずらしてた一二年生が来るようになったので、実際に減った利用者は二割程度だろう。
「その三年の男子が姫乃のこと意識してたんとちゃうかなあ、なんとなく感じる圧が違う」
「そ、そんなことないよ~」
姫乃が赤くなる。赤くなりながらもランチをかっ込んでる。
「そやかて、その食欲……」
「で、でもさ、そうだったとしても、ホッチとすみれにかもしれないじゃん」
「「それはない」」
二人の声が揃た。
あたしもすみれもブスではないけど、姫乃みたいな華がないのは十分承知してる。
その日のホームルームで、男子が妙な提案をした。
「二月五日はニコニコの日なんやねんけど」
「え、ニコ動の日?」
「ちゃう、笑顔のニコニコや」
「なんやねん」
「二月五日でニコニコや」
「なんや語呂合わせか」
「それでもニコニコや」
「ほんまや、検索したら出てきたで!」
「それで、一日笑顔を心がけて、挨拶とかもキチンとしたらと思うねんけど」
この掛け合いは、壁際男子の木村と滝川。
「ということで、とりあえず笑顔でやっていこうぜ!」
ま、悪いことではないので、男子の勢いで決まりかけた。
「そんでも、五日は日曜やけど」
すみれがニヤニヤしながら指摘した。
「ほ、ほんなら雨天順延や!」
わけのわからん提案やけども、アハハハとクラス中が笑いに包まれて決定した。
で、今朝から気色悪い!
「やあ、おはよう」「今日もええ天気」「オッス!」「メッス!」「今日も一日がんばろー!」
で、気ぃついた。
男子の笑顔の半分は姫乃に向けられてるんやけど!