大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ファルコンZ:24『ベータ星滞在記・2』

2019-11-27 06:01:21 | 小説6
ファルコンZ 24
『ベータ星滞在記・2』       
  
 
 監視されている様子はなかった。
 
 幽閉という言葉が似つかわしいが、ミナコたちも、あまり外へ出てみようとも思わなかったので、ファルコン・Zのクルーは、とても中途半端だった。
 
 外へ出てはいけないと言われているが、建物ではない。首都ベータポリスから出てはいけないということだけだったので、ほとんど自由と言ってもよかった。
 
「今朝は、納豆定食にしてみました」
 まかないのメグさんが、ワゴンで朝ご飯を運んできた。
「うわー、なつかしの水戸の納豆だ!」
 ミナコが一番喜んだ。あとのみんなもそこそこメグさんの料理は気に入っていた。
「ゲ、納豆!?」
「嬉しい、メグさんのアイデア?」
「いいえ、ファルコン・Zに相談して料理は作っています。今朝の納豆は難しいんで、ファルコン・Zが合成してくれたものですけど、明日からお出しするお味噌やお醤油はレシピを教えてもらって、あたしが作ったものが使えそうです」
「船の中じゃ、こんなの食べたことないわ!」
「ファルコン・Zも、ここに来てから余裕みたいですね」
 ミナホが、楽しそうに納豆をかき混ぜている。
「船のCPUは航行中は、運行と警戒で手一杯ですからね。遊び心が出てきたんでしょうね」
「で、オレの嫌いな納豆か?」
 船長がボヤく。
「マーク船長にファルコン・Zから、メッセージです」
「なになに……この際、嫌いなネバネバ系を克服しましょう。おせっかいなやっちゃ」
「ねえ、AKBのフリ覚えたの。見て!」
 メグさんの娘メルとパルがやってきて、上手に歌って踊って見せた。
「あ、『恋するフォーチュンクッキー』じゃん!」
「うん、街で流行りかけてるの!」
「なんで、そんなん知ってんねん?」
「ファルコン・Zがネットで流してるわよ。他にもいろんなこと教えてくれる」
「あたし、今度は『大声ダイアモンド』マスターしたいな」
「『フライングゲット』が、いいな」
「ね、キンタローバージョンてのあったけど、なあに?」
「あ、あれAKBの準構成員。あんまり真似すると首とか腰いわすわよ」
「うん、じゃあ、オリジナルをマスターしてくるね!」
 
 フォーチュンクッキーを口ずさみながら行ってしまった。
 
「可愛いお子さんですね」
「ほんとは、片方男の子だったらよかったんですけどね」
「メグさん、お若いから、まだまだでしょう」
 早くも食べ終わったコスモスが親しげに言った。
「三人目は……とても難しいんです。この星じゃね」
 メグさんは、軽くため息ついてお茶を注いでいった。
「どうしてなんですか?」
 ミナコは、大昔の中国の一人っ子政策を思い出した。
「水銀のせいなんです……」
「水銀……?」
 そこに、メイドのメナが急ぎ足でやってきた。
 
「みなさま、王女殿下のお越しです!」
 
 そして、ラフなチノパンにシャツジャケットの姿で王女が現れた……。
 
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永遠女子高生・11・《京橋高校2年渡良瀬野乃・3・ひょっとして・1》

2019-11-27 05:50:15 | 時かける少女
永遠女子高生・11
《渡良瀬野乃・3・ひょっとして・1》         




 どうして、あたしなんやろ?

 野乃は思った。
 
 昨日の『少女像事件』は、京橋高校一のイケメン3年生一之宮秀一に「この少女像は、きみがモデルなんだ」と言われて舞い上がった。
 でも、一日たって思うのだ。

 そやかて、なんで、あたしがモデル?

 あの少女像は、半ば祈るように胸の前で手を組み、少し顔を上げた姿。清楚で、とても乙女チック。

 捨てろと言われたから、最初はゴミとしか見ていなかったけど、秀一が手にした時に目に焼き付いた姿は芸術品だった。
 惜しいことをした、あのままもらっておけばよかった。と思った。

 で、思いは飛躍した。

 あんな風に造ってくれるんは、あたしのことを……!? などと思って胸がときめいた。
 まさか、このまま秀一が自分に告白したりするなどとは考えてはいないが、自分にも清楚で乙女チックなところがあるのではと、図書室に行った。

 図書室入り口の鏡に映すと、制服を着ているという一点だけが女子高生。
 ロクに手入れしないショートヘアで外股に立った姿など、女装コンテストでファニー賞を取った男の子のようだ。
「オーシ!」
 図書室のパソコンで「理想的女子高生」を検索して、女の磨き方を調べた。
「なるほどね……」
 で、さっそく頭に本を載せて歩いてみたら、図書委員に怒られた。
 鏡の前で姿勢をチェック……「おお、脚を閉じたら女の子やんか!」。で、女の子ウォークを維持したまま駅前のドラッグストア。
「これやこれや!」
 ネットで見た「コスパと香り」のノンシリコンシャンプーを買って、その日のお風呂で試してみた。その効果は、今朝のプラットフォームで、男子大学生の視線を釘付けにしたことで実証済み。
 もらったビグビタは、もったいないので、まだ開けずにカバンの中。

 テストが終わって、下足室。

「せや、靴の履き方!」
 昨日までは、ロッカーからローファーを取り出すと、ドサッと床に放り出し、蟹を彷彿とさせる脚遣いでツッカケていた。
 昨日は、思ったところで、いつもの履き方をしてしまっていた。
 今日こそは……ローファーの後ろを持って、ソロリと揃えて床に置く。でもって、膝を付けたまま、ソロリと履いてみる。

「ノノッチ……パンツのゴム切れたとか?」

 愛華が真顔のヒソヒソ声で囁く。
「ちゃいます!」
 一声叫ぶと、元の木阿弥の外股歩き。
 こらあかん……と思うと、今まさに校門を出ようとしていた秀一を発見。ただし、その横にはお邪魔虫。

「やっぱりなあ……」と、愛華が寄り添う。

 秀一の横には、野乃でも知っているミス京橋・里中あやめ……フワリとなびいたロンゲが同性の野乃が見てもイカシテいる。
 ちょっとショックだったが、秀一ほどの男なら、こういうこともあるだろう。
 愛華といいしょに校門を出る。
「ノノッチ、シャンプーとか変えた?」
「え、ああ……妹がね買うてきよったの」
 親友の愛華にも、素直に「女を磨いている」とは言えない。
 モデルさん歩きをどうしようかと思ったら、スマホがかかってきた。
――野乃? お母さん。まだ電車乗ってへんやろ?――
「うん、校門出たとこ」
――帰りにホムセン寄って、ドアノブ買うてきて――
「えー、なんでえ!?」
――そやかて、トイレのドア壊したん、野乃やろ?――
「あ……」
「ハハ、ノノッチ、トイレ壊したん!?」
 
 あらぬ誤解をした愛華と共に、トイレのドアノブを買いに行く野乃であった。
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小悪魔マユの魔法日記・107『その後のAKR47・1』

2019-11-27 05:38:07 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・107
『その後のAKR47・1』    



 AKRの『コスモストルネード』は、十週連続でオリコンのトップを維持していた。

 大石クララをリーダーとするAKRはグル-プとして頂点に達しつつあった。
 メンバー全員のがんばりは、黒羽ディレクターの新妻美優の本番中の死から、なにか憑き物がついたようなものになってきた。実際、選抜メンバーの前列にいるマユのアバターには浅野拓美という幽霊が憑いているのだが。
 拓美は、自分が死んだことも知らずに、AKRの最終オーディションを受け、小悪魔のマユに指摘され、自分が幽霊であることを自覚。一時は成仏を覚悟したが、その才能と情熱に、小悪魔のマユは自分のアバターを貸し、自分は仁科香奈としてオモクロの研究生、そして、今は神楽坂24のメンバーとして活躍している。

 黒羽は、『コスモストルネード』のヒットに磨きをかけるだけでなく、新しい曲にチャレンジすべきだと思った。
「会長、そろそろ新曲を……」
「あいよ」
 黒羽が、全部言い切る前に、会長の光ミツルは、新曲のスコアを机の上に広げた。

 
 《GACHI》

 キミはいつでもGACHI ボクのことなど頭の隅にもない
 やるだけやったそのあとで キミの瞳の残像になれればいい……

 分かっていても 分からなくても
 キミに気づかれなくてもいい by the way

 まっすぐ まっすぐ進んでいけ
 想いを溢れさせよう Go a hed!
 顔を風上に向けろ 倒れるぐらいに前のめりになれ

 戦いの力と愛 自分一人が進むんじゃないけど
 戦いの力をわかっているのか? とにかく自分が前に進め

 みんなの為にジャなんかじゃなく
 キミが進んでいくことで やがてみんな気が付くんだ You see?

 そしてキミが進んだ道 それをだれかが乗り越える Any way!
 走りすぎるキミの瞳
 その瞳の奥の残像になれればいい
 キミもボクも いつかは誰かの残像になるんだ

 Gachi… Gachi…Gachi!

 今度の曲は、トルネードがそよ風に思えるほど、歌も振りもきつかった。
 研究生からメンバーになったばかりの小野寺潤が、過呼吸で倒れてしまった。
「しばらく寝かせておきなさい」
 振り付けの春まゆみは、スタッフに指示すると、レッスンを続けた。
 ベテラン最年長の服部八重も汗みずくになった。
 知井子も、矢頭萌も気力だけで持っていた。
 マユのアバターに入っている拓美だけが、春まゆみの動きに完全について行けていた。

「潤の呼吸が止まりました!」

 潤の世話をしていたスタッフが叫んだ。
「CPR(心肺蘇生法)だ! 救急車を呼んで!」
 黒羽が叫んだ。
「わたしがやります!」
 マユの姿をした拓美が駆け寄った。
 拓美は、潤の気道を確保すると人工呼吸と、心臓マッサージを始めた。
 そして、拓美には見えてしまった。潤の魂が体から離れ始めているのが……。
「ダメ、AEDはないんですか!?」
「たしか、一階の警備員室に……」
 そう口にすると、黒羽はスタジオを飛び出し、階段を三段飛ばしで降りていった。黒羽の目には、潤が美優の姿と重なっていたのだ。

――もう、美優のように死なせはしないから!
 
 もう、潤の魂は、体から三十センチほど浮き上がっていた。

「潤、あんたは始まったばかりじゃない。わたしみたいに死んじゃだめ、死なせやしないから!」
 AEDの力で、やっと潤の心拍が戻って救急車も到着した。
「わたし、付いていきます!」
 有無を言わせぬ力で拓美は宣言した。
 
 潤の魂と体は、まだ完全には重ならず、二重にぼけて見えた。予断を許さない状況であった……。
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魔法少女マヂカ・105『双子玉川空中戦』

2019-11-26 12:49:33 | 小説

魔法少女マヂカ・105  

 
『双子玉川空中戦』語り手:マヂカ 

 

 

 大塚台公園の秘密基地に転送されたとたん、三人は変わった。

 

 調理研ではなく、高機動車北斗のクルーになっていた。

―― 総員戦闘配置! 総員戦闘配置! ――

 司令の声がスピーカーから響く、整備担当、カタパルト担当のテディーベアたちがキビキビと走り回る。

 北斗に向けて駆けだした三人は、すでにポリ高の制服ではなく特務師団の戦闘服に変わっている。

 転送台を離れる時に、一瞬自分のコスを気にしたが、大丈夫。

 しっかり魔法少女のコスに切り替わっている。以前は、転送とコスチェンジは個別になっていたので、チェンジの瞬間、ほんの0・2秒ほど素っ裸にされた。M資金の回収の成果だろう、あちこち改善されている。

 安倍先生!?

「すぐに発進するぞ」

 すでに戦闘服でコマンダーシートに着いた安倍先生、テレポスキルを身につけたのか?

「倉庫の転送室よ、あんたたち時間かかり過ぎ」

 三人がもたついたせいなんだが、出撃前だ、黙ってコンソールに目を向ける。発進までのチェックポイント、出撃地の双子玉川近辺の状況を0・5秒で確認。

 

「北斗機関出力120、発進準備完了」

「発進準備完了」

 機関士のユリが発声し、機関助手のノンコが復唱する。

『北斗発進!』

 来栖司令の声がモニターから発せられる、ガクンと身震いして北斗が動き始めた。

 高機動車北斗(大塚台公園に静態保存されているC58)は、始動と同時に降下し、空蝉橋のカタパルトへの軌道に向かう。

 十メートルほど降下して発進すると、大塚台公園の地下をSの字に助走したあと、空蝉橋通りの地下を直進。

 空蝉橋北詰の街路樹に似せた加速機でブーストをかけられ、時空転移カタパルトから射出される。

 

 ポオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

「ブースト完了、第二戦速で双子玉川を目指します。ブースト閉鎖、赤黒なし」

「ブースト弁閉鎖、赤黒なし、機関オートに切り替え」

「上空にエネミーの痕跡を認めず」

「警戒レベル3、前方にシールドを張りつつ対空警戒」

「フロントシールド展開、対空スコープ異常なし」

 数か月ぶりの北斗での出撃は順調だ、前回より七秒早くなっているのがコンソールのゲージで分かる。

 

「双子玉川上空に戦闘によるエネルギー残滓と時空穿孔残滓あり、敵影を認めず」

 清美が冷静に状況を報告。

「穿孔残滓の裏に回頭、量子パルス砲、エネルギー充填、急げ!」

 安倍先生、いや、コマンダーがとっさの判断。

 

 ズボボーーーーーーーーーン!

 

 回頭姿勢が完了する前に、穿孔残滓を貫いて飛び出す者がある。

 ズタボロのブリンダと、ブリンダを追っている手負いの竜神が飛び出してきた!

「あんたら、遅いいいいいいいいい!」

 ブリンダの叫びが響く。

「目標、竜神! 量子パルス砲、テーーー!」

 ズビーーーーーーーン

 エネルギー充填が不十分だったのだろう、空振りに似た音がした。

 しかし、ブリンダによって痛みつけられていた竜神はもんどりうって身もだえしている。

「わたしが!」「マヂカ!」

 安倍コマンダーと一致、一直線に北斗を離れ、引き抜いた風切り丸で、勢いのまま竜神に切りかかる。

 

 セイ!

 シュボボボ~~~~~~~~~ン!!

 

 竜神は打ち上げ花火のように炸裂して消え去った。

 魔法少女が絡む戦いは人間が視認することはできないが、この竜神の炸裂は双子玉川の周辺で視認された。

 まるで、両国の花火のようであったと、超常現象の一種として記録された。

 

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乃木坂学院高校演劇部物語・47『匂いの正体が分かった』

2019-11-26 06:39:33 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・47   
『匂いの正体が分かった』 


 
 茶の間に入って、匂いの正体が分かった。

 真ん中の座卓の上ですき焼きが頃合いに煮たっている。
 その横の小さいお膳の上でタコ焼きが焼かれていた……そして、かいがいしくタコ焼きを焼いているその人は……。

「はるかちゃん……!」
「……まどかちゃん!」


 ハッシと抱き合う幼なじみ。わたしは危うくタコ焼きをデングリガエシする千枚通しみたいなので刺されるとこだった……これは、感激の瞬間を撮っていたお父さんのデジカメを再生して分かったこと。
 みんなの笑顔、拍手……千枚通しみたいなのが、わたしが半身になって寄っていく胸のとこをスレスレで通っていく。お父さんたら、そこをアップにしてスローで三回も再生した!
 半身になったのは、茶の間が狭いから。思わず我を忘れて抱き合ったのは、お父さんがわたしにも、はるかちゃんにもナイショにして劇的な再会にしたから。
 これ見て喜んでるオヤジもオヤジ。
「まどかの胸が、潤香先輩ほどあったら刺さってた」
 しつこいんだよ夏鈴!

 もし刺さっていたら、この物語は、ここでジ・エンドだわよ!

 すき焼きの本体は一時間もしないうちに無くなちゃった。半分以上は、わたし達食べ盛り四人でいただきました。
「さて、シメにうどん入れてくれろや」
 おじいちゃんが呟く。
「おまいさんは、日頃は『うどんなんて、ナマッチロイものが食えるか』って言うのに、すき焼きだけはべつなんだよね」
 おばあちゃんが、うどんを入れながら冷やかす。
「バーロー、すき焼きは横浜で御維新のころに発明されてから、シメはうどんと決まったもんなんだい。何年オイラの女房やってんだ。なあ、恭子さん」
 振られたお母さんは、にこやかに笑っているだけ。
「お袋は、そうやってオヤジがボケてないか確かめてんだよ」
「てやんでい、やっと八十路の坂にさしかかったとこだい。ボケてたまるかい。だいたい甚一、おめえが還暦も近いってのに、ボンヤリしてっから、オイラいつまでも気が抜けねえのよ」
「おお、やぶへび、やぶへび……」
「はい、焼けました」
 はるかちゃんが八皿目のタコ焼きを置いた。
「はるかちゃんのタコ焼きおいしいね」
 お母さんが真っ先に手を出す。
「ハハ、芋、蛸、南京だ」
 おじいちゃんの合いの手。
「なんですか、それ?」
 夏鈴が聞く。
「昔から、女の好物ってことになってんの。でも、あたしは芋と南京はどうもね……」
 おばあちゃんの解説。里沙が口まで持ってきたタコ焼きを止めて聞く。
「どうしてですか。わたし達、お芋は好きですよ」
「そりゃ、あんた、戦時中は芋と南京ばっかだったもの」
 ひとしきり賑やかにタコ焼きを頂きました。
 はるかちゃんが一番食べるのが早い。さすがに、タコ焼きの本場大阪で鍛えただけのことはある。
 そうこうしてるうちに、おうどんが煮上がって最後のシメとなった。

「じゃ、ひとっ風呂入ってくるわ。若え女が三人も入ったあとの二番風呂。お肌もツヤツヤってなもんだい。どうだいバアサン、何十年かぶりで一緒に入んねえか?」
「よしとくれよ。あたしゃこれからこの子たちと一緒に健さん観るんだよ」
 おばあちゃんが水を向けてくれた。
「え、茶の間のテレビで観てもいいの?」
 それまで、食後は、わたしの部屋の22型のちっこいので観ようと思っていた。それが茶の間の52型5・1チャンネルサラウンド……だったと思うの。ちょっとした映画館の雰囲気で観られるのだ!
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ファルコンZ:23『ベータ星滞在記・1』 

2019-11-26 06:33:00 | 小説6
ファルコンZ 23
『ベータ星滞在記・1』       

 
 
 直後に大きな衝撃がきて、ミナコは気を失った……。
 
 意識が戻ると、ファルコンZのコクピットは大混乱だった。
「ドライビングサーキット、オールグリーン」
「ナビゲートにウィルスは発見できません」
「装甲復元まで、30秒!」
「ベータ星艦隊、パルス砲発射を確認!」
「到達まで、32秒!」
「船の頭を敵に向け、シールドを最小にして集中防御!」
「だめです、コントロールがききません!」
「救命艇で脱出!」
「間に合いません!」
「くそ、ここまでか……」
「パルス弾到達まで20……自爆していきます! パルス弾……全弾自爆しました!」
 
 ブリッジの全員がフリーズしたようになった。
 
「なんでや……」
「船長、船の識別コードが地球に戻りました……」
 その時、船が動き出した
「コントロールが、戻ってきたんか!?」
「……いいえ」
「牽引ビームか?」
「いえ……ファルコンZが、自分の意志で動いています」
「こいつが……船長はオレやぞ!」
 
 やがて、装甲は復元され、シールドは解除、コントロールは戻らず、船はベータ星艦隊と共にベータ星に向かった。
 
「みんな、ええ子にしとけよ。いつ撃たれても文句の言えん状況やさかいな」
 ベータ星の宇宙港に着陸すると、千人ほどの部隊に取り囲まれ、上空で待機している艦隊の砲口は、ファルコンZに向けられていた。
 後部ハッチが開くと、船長を先頭にミナコたちは、千人の部隊が銃口を向ける中、指揮官の前に進んでいった。入れ替わりにベータ兵が何人も船の中に入り、捜索をし始めた。
「理由は分からんけど、抵抗はせえへん……手え降ろしてもええかな?」
「手を上げろとは言っておりません。捜索は念のためですあしからず」
 副官が、なにやら耳打ちした。
「船内にも異常はないようですな。それでは、我々の指揮官に会っていただこう」
「え、将軍、あんたが指揮官じゃないのか?」
 
 その時、一台の戦闘指揮車が一同に近いところで停車。兵士一同が不動の姿勢をとった。
 
「ようこそ、ベータ星へ。マーク船長と、そのお仲間のみなさん」
 小柄な戦闘服姿の少女が、にこやかに声をかけた。
「あなたは……」
「ベータ星のマリアです」
 ベータ星での滞在が始まった……。
 
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永遠女子高生・10・《京橋高校2年渡良瀬野乃・2・少女像》

2019-11-26 06:21:16 | 時かける少女
永遠女子高生・10
《京橋高校2年渡良瀬野乃・2・少女像》         




 答えの分からない問題が二つあった。

 今日からテストだとは思っていなかったので、何の準備もしていない数学。
 ムズイのでテスト前日の一夜漬けでやろうと思っていた確率論の期待値の問題だ。

――やってへんもんは、できっこない――

 野乃は、こういうところがある。可能性のないことは、サッサと諦めて次のことに集中する。
 そういうサッパリしたところが人から好かれるのだが、本人には自覚が無い。逆に、こういうところを飽きっぽい性格だと思って、密かに気に病んでいたりする。

 ポワンと昨日のことが蘇ってきた。

 昨日の放課後は学期に一度の大掃除の日で、野乃は受け持ちの美術室に行った。
「捨てに行ってくれるだけでええよ」
 美術の先生に言われてラッキーと思った。ゴミ捨てだけなら直ぐに済む。で、捨てろと言われたものを見て唖然とした。
「ゲ、これですのん、先生!?」
「そや、文化祭から、ずっとオキッパやったから、この際に思てな」
 それは、文化祭で美術部が造った20個ほどの石膏作品だった。具象的な少女像からアブストラクトまで様々だが、共通点はデカいこと。できそこないのガンダムにしか見えない『祈る』とい作品などは大型の冷蔵庫ほどの大きさがある。

「なんで、美術部にやらせへんのかなあ!」

 野乃は鼻を膨らませて怒った。
「美術部は、去年の秋に廃部になったからなあ」
 リア充の愛華が、そう言いながら男子二人といっしょに『祈る』を持ち上げている。なんか違うと思いつつも、野乃は手近な少女像を持ち上げた。この程度のことならプータレてないで、サッサとやってサッサと忘れたかった。

「このゴミは、こことちゃうで」

 美術室からは、グランドを挟んで対角線方向になるゴミ捨て場まで、汗を垂らしながら運んだところで、技能員さんに注意された。
「え、ほんならどこやのん、おっちゃん?」
「正門の方や、特殊ゴミは夕方に業者が取りにくる……先生言わはれへんかったか?」
「聞いてないよ、おっちゃん!」
 技能員さんに当たり散らすところだったが、ここも愛華たちになだめられて、正門に向かうことになった。リア充もけっこうだけど、こうも唯々諾々と事なかれでいかれるのも面白くない。

「食堂でブタマンとジュースゲット!」

 校庭の真ん中で愛華が叫んだ。愛華は『祈る』の片腕だけを小脇に抱え、スマホを構えていた。
 どうやら美術の先生に電話して賠償を請求したようだ。
 カレーマンをチマチマと食べてしまったので、ドリンクであるビグビタは一口飲んだだけで、正門に向かわざるを得なかった。
「ちょっと、待ってえなあ~!」
 ビグビタと少女像を持って、みんなを追いかける。

 正門エリアとグラウンドを繋ぐピロティーで不幸が起こった。

「ワ!」
「キャ!」

 野乃は、校舎から出てきたばかりの男子生徒とぶつかってしまい、ピロティーに尻餅をついてしまった。
 ビグビタは粉々になったが、皮肉なことに、ゴミである少女像は胸に抱えるようにしていたので、傷一つない。

「「あ!?」」

 野乃と男子生徒は同時に声をあげた。
「一宮さん……」
 そう、男子は京橋高校一番のイケメンと言われている、三年の一之宮秀一だった。野乃の頬が染まる。
「ごめん……それ、オレの少女像?」
「そうだ、一之宮さんて美術部のエースだったんだ!」
 愛華が30センチほど飛び上がって驚く。
「ありがとう、守ってくれたんだ」
「あ、いえ……」
 ただの偶然だったとは言えない。
「きみ……渡良瀬野乃くん!?」
「え……?」
 学校一のイケメンから、名前を呼ばれて、野乃の心臓はバックンと音を立てた。

「この少女像は、きみがモデルなんだ」

「ええ!?」

 野乃は尻餅のまま、少女像を抱きしめてしまった。
「あ、ビグビタ割ってしまったんだ……」
「いえ、これは……」
「ごめん、これ、まだ口つけてないから」
 一之宮は、新品のビグビタを渡すと、もう一度礼を言って、少女像を抱えて正門から出て行った。

 で、野乃は両手でビグビタを慈しみながら、少女漫画のヒロインのように舞い上がってしまった……。
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小悪魔マユの魔法日記・106『神楽坂24』

2019-11-26 06:11:41 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・106
『神楽坂24』    



  《東京タワー》

 キミと登った東京タワー スカイツリーもいいけれど キミとボクには程よい高さだよ
 二人そろって 高所恐怖症 二人に程よい距離だった
 神保町駅徒歩7分 見上げた姿は333メーター 赤白姿のストライプ
 ボクの心もストライプ 告白しようか止めようか

 太陽背にした東京タワー 焦らすねボクの心を 神保町から7分に高まるテンションさ
 キミはスキップ、一歩先 それがとても遠く愛おしく
 やっと踏んだキミの影 はじけた笑顔眩しくて、赤白姿のストライプ
 ボクをせかせてストライプ やっと追いつき照れ笑い

 ああ 東京タワー ああ 東京タワー ああ ああ 東京タワー
 

 加奈子の父の、高峯純一のアイデア(加奈子にすれば言いがかり)により、二番は御成門から6分の内容に、三番は赤羽橋から5分と、だんだん近くなる駅に恋心を絡めた良い曲になり、ヒットチャートのベスト3を、AKRやオモクロ本体と競うことになった。
 オモクロ本体も大きくなったので、事務所とスタジオを別に構えることになった。

――本音のとこでは、邪魔なんだ。

 プロディユーサーの別所は思ったが、自分も、いつまでもオモクロの二軍と言われる「オモクロ・E残りグミ」で居るつもりはなかった。そこで、運良くAKRの光会長の紹介で、神楽坂の三階建てのビルに引っ越すことになった。
「アイドルグル-プの第三極ができれば、いいじゃないか」
 時あたかも。衆議院選挙の真っ最中。AKRの黒羽ディレクターの提案に、オモクロの上杉プロディユーサーが共同提案というカタチで飲み込み、「オモクロ・E残りグミ」は、正式に「神楽坂24」として完全に独立することになった。

「どうせなら、神楽坂の広告塔になりましょうよ!」

 加奈子の提案で、神楽坂周辺の名所を歌いこんだ新曲が作られた。

《神楽坂チャート・24》

 都の西北 早稲田の森のちょいと東 神楽坂は ボクらの街さ
 東京メトロ東西線 なぜか一駅手前の神楽坂 降りる早稲田のオネエサン
 スッピン ひっつめ飾らずにニッコリ笑顔のコンビニバイト
 知恵あるタカは爪隠す 賢いクセして とぼける三枚目
 バイトのシフトを牛耳って ボクとキミとの時間を作ってくれる
 だけど 金曜ナイトはちゃっかり空けて 迎えのク-ペのドアを閉める
 ミラーに映る オチャメな笑顔に ボクはちょっぴり憧れる 未来のキミが重なるよ
 わたしの志望は早稲女 早稲女 小悪魔女子大生 笑って言うな
 ボクの偏差値、知ってて言うか!
 ああ ああ ああ 神楽坂24!

 てな調子で、ご近所の本女(ぽんじょ)や市ヶ谷駐屯地の自衛隊などが散りばめられている。
 むろん作詞は加奈子。でも加奈子は一番しか歌詞が浮かんでこないので、あとはみんなで、アイデアを出して、テキトーに作る。24というのは、もちろんメンバーの名前から出来ているが、三番までしかない。
 そこで、ファンに神楽坂近辺のことで歌いこんで欲しいところをリクエストしてもらい、順次24番まで作ろう! と、いうことになった。
 マユは香奈というアバターの中に居ながら、このへんの感覚は人間には、かなわないと思った。
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せやさかい・097『カラオケ修業』

2019-11-25 11:32:21 | ノベル

せやさかい・097

『カラオケ修業』 

 

 

 

 テイ兄ちゃんの車で堺東の某スナックに向かってる。

 

 車には運転のテイ兄ちゃんの他に、あたしと、頼子さんと留美ちゃん。

 なんでスナックかと言うと、留美ちゃんの音楽のテストに対する頼子さんの意見。

「じゃ、カラオケで慣れておこうよ!」

 ほんで、テイ兄ちゃんに言うたら、友だちが堺東でカラオケスナックやってるから、開店前に使わせてもらえるようになった。

 

  スナック……はんしょう?

 

 反正と書かれた看板を小さく口にしたら、ううん『はんぜい』って読むんだよ。留美ちゃんに訂正された。

「十八代目の天皇で『反正天皇』、駅の東側に御陵があるの」

 中一とは思えん知識、まだ半年ちょっとにしかならへん堺市民のあたしは、御陵というと仁徳天皇陵しか知らない。

「へー、秘密基地みたい」

 看板だけが地上にあって、お店へは人一人がやっと通れるくらいの階段を下りて入っていく。

「こういう雰囲気っていいよね!」

 エディンバラのパブも地下がすごかった。頼子さんは似た雰囲気を感じたのか楽しそう。

 

 真っ黒なドアが開けられる。お店の名前で話してるうちにテイ兄ちゃんが、サッサと行って待ってくれてた。

 

「いらっしゃーい、六時まで自由に使ってくれていいからね」

 テイ兄ちゃんと同い年ぐらいの女の人が笑顔で迎えてくれる。

「チイママの里佳子さん」

「「「おじゃまします」」」

「じゃあ、あたしは用事済ませに出てるから、テイ君よろしくね」

「ああ、ゆっくり行っといで。ほんなら奥のテーブルに」

 里佳子さんが出ていくのを見送って、カラオケセットのある奥のテーブルへ。テイ兄ちゃんは勝手知ったるお店なんで、カウンターに入ってゴソゴソやり始める。

 スナックなんて言うし、入るまでは秘密基地めいてたけど、店内は以外に明るい。

「カラオケ触っていいですか?」

「ああ、やり方分かるんやったら適当に始めて、ボクは、おつまみとか作ってるから」

 慣れた手つきで操作する頼子さん。なにをやらせてもこなしてしまう。

「最初は思い出の曲からやってみよう」

 イントロを聞いて、テイ兄ちゃんが呆れる。

「いきなり『蛍の光』なんかいな」

「うん、この夏の思い出の曲やねん」

 

 そうなんや、エディンバラ城のミリタリータトゥーで、観光客や地元のイギリスの人らと感動で歌った曲。

 言葉は通じひんかったけど、歌を唄ったら、なんや人類みな兄弟! ちゅう感じになれた。

 歌うことに臆病になってる留美ちゃんのテンションを上げるにはもってこい! 頼子さんは分かってる。

 それから乃木坂の曲とか三曲、留美ちゃん口は開けてるけど声が出てない。

「まあ、これでもつまみながら、ゆっくりやろうや」

 テイ兄ちゃんは、サンドイッチや唐揚げやらを出してくれる。ソフトドリンクも出てきて、なんやパーティーの雰囲気になってくる。

「ほんなら、ボクも参加や」

 ドリンクを持ったまま、片手で器用にタブレットを操作。Jポップをホイホイと入力。わたしらも知ってる曲が多いんで盛り上がる。

「留美ちゃん、歌いたい曲とかない?」

「ううん、みんなに付いて歌ってるから」

 言うわりには、だんだん声が小さなる。

 せやけど、こういう時に―― がんばって ――とか言うのは逆効果。

 できるだけプレッシャーにならんように……というて、こっちのテンション下げてしもたもあかんし、視界の端に留美ちゃんを入れながら次々とモニターに出てくる曲を歌う。

 五曲目になって、グラス片手に俯いてしまう留美ちゃん、これは、もうあかんか?

 そんな留美ちゃんが、七曲目にあたしのマイクを奪った!

「この曲、独唱します!」

 大丈夫かいなと思たけど、留美ちゃんはテイ兄ちゃんが入力した曲を、めっちゃうまく歌った!

 それは中島みゆきの『麦の唄』 バグパイプから始まる曲を、ちょっと力強く歌う。

 たぶん、エディンバラの『蛍の光』の延長でのれるんやろ……と思たら、次々と中島みゆきの歌を、コーラ片手に五曲歌いあげた!

「スゴイよ留美ちゃん!」「ブラボー!」「めっちゃうまいやんか!」

 さんにん、正直に拍手を送る。

「ありがとう、じゃ、次は……」

 そこまで言うと、留美ちゃんは白目をむいてシートに倒れてしもた!

「ちょ、留美ちゃん!」

「あ、留美ちゃん飲んでたん、コークハイや!」

「え、あ、ボクのん飲んでしもたんか!?」

「「留美ちゃーーん!!」」

 

 このあと、ちょっと大変やったんやけど……それは、またいずれ。 

 

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乃木坂学院高校演劇部物語・46『雪の三丁目』

2019-11-25 06:37:12 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・46   
『雪の三丁目』 

 
 
 
 また雪だるまになった。

 駅でビニール傘を買おうかと思ったんだけど、里沙も夏鈴も両手に荷物。女の子のお泊まりって大変なんだ。
 で、わたし一人傘ってのも気が引けるので、三人そろって「エイヤ!」ってノリで駅から駆け出した。
 大ざっぱに言って、駅から四つ角を曲がると我が家。再開発の進んだ南千住の中でこの一角だけが、昭和の下町の匂いを残している。
 キャーキャー言いながら四つ目の角を曲がった。すぐそこが家なんだけど、立ち止まってしまった。
「「わあ、三丁目の夕日だ!」」
 里沙と夏鈴が感動して立ち止まる。
 で、わたしも二人の感動がむず痒くって立ち止まる。
 ちなみに、ここも三丁目なんだ。フンイキ~!
「何やってんだ、そこの雪だるま。さっさと入れよ」
 兄貴が顔を出した。
「はーい!」
 小学生みたく返事して、三人揃って工場の入り口兼玄関前の庇の下に。
「あれ、兄ちゃんお出かけ……あ、クリスマスイブだもんね。香里さんとデート!」
「わあ、クリスマスデート!?」
 夏鈴が正直に驚く。
「雪はらってから入ってね。うち工場だから湿気嫌うの。機械多いから」
「そっちは年に一度の機会だから。がんばれ、兄ちゃん!」
「ばか」
 と、一言残し、ダッフルコートの肩を揺すっていく兄貴。

 ドサドサっと、玄関前で雪を落として家の中に入った。
「ただいま~」
「おじゃましま~す」
 トリオで挨拶すると――ハハハハと、みんなに笑われた。
 カシャッ……とデジカメの音。あとでその写真を五十二型のテレビで映してみた。
 ホッペと鼻の頭を赤くして、体中から湯気をたてているタヨリナ三人組が真抜けた顔で突っ立ている。
「そのまんまじゃ風邪ひいちゃうぞ、早く風呂入っちまいな」
 お父さんがデジカメを構えながら言った。
「もうー」
 と、わたしは牛のような返事をした。


「フー、ゴクラク、ゴクラク……」
 夏鈴が幸せそうに、お湯につかっている。
「こんな~に、キミを好きでいるのに……♪」
 その横で、里沙が、やっと覚えた曲を口ずさんでいる。
 里沙は、たいていのことは一度で覚えてしまうのに、こと音楽に関しては例外。
 そんな二人がおかしくて、つい含み笑いしながら、わたしは体を洗っている。
「なにがおかしいのよ?」
 里沙が、あやしくなった歌詞の途中で言った。
「ううん、なんでも……」
 シャワーでボディーソープを流してごまかす。
「でも、まどかんちのお風呂すごいね……」
「うん。昔は従業員の人とか多かったからね」
「それに……この湯船、ヒノキじゃないの……いい香り」
「うん、家ボロだけど、お風呂だけはね。おじいちゃんのこだわり……ごめん、詰めて」
 タオルを絞って、湯船に漬かろうとした……視線を感じる。
「やっぱ……」
「寄せて、上げたのかなあ……」
「こらあ、どこ見てんのよ!」

 楽しく、賑やかで、少し……ハラダタシイ三人のお風呂だった。

 脱衣所で服を着ていると、いい匂いがしてきた。
「すき焼き……だね」
「ん……なんだか、もう一つ別の匂いが……」
「これは……?」
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ファルコンZ:22『ベータ星の秘密』 

2019-11-25 06:28:39 | 小説6
ファルコンZ 22 
『ベータ星の秘密』          
 
☆………突然の攻撃
 
「ガンマ星なんかには行かへんぞ」
 マーク船長の答は簡単だった。
「なぜなの、船長?」
「ベータ星は、母星のガンマ星と係争中や。連邦の外交船でもないのに、行く義務はない」
「でも、王女様が困ってるって」
「バルス、代わりに説明したってくれ。オレは寝る!」
「なんで、ふて寝……」
 
 キャビンデッキに降りる船長に一言言おうとしたら、バルスが話し始めた。
 
「係争中の星に儀礼ではなくて、王女の慰めなんかに行ったら、係争に巻き込まれてしまう」
「母星のガンマ星の支配宙域も広いわ。うまく行っても、その後、進路妨害されるかもしれない」
 コスモスが、あとを続けた。
「わたしも悪い予感がする……」
 ミナホがミナコの肩に手を置いて言った。
「どうも、あのアルルカン大使には裏があるような気がする」
「それにベータ星には、水銀の海がある」
「水銀の海?」
「星のあちこちに散らばっているけど、合わせると地中海ほどの広さになる。ベータ星人は水銀に耐性があるが、地球人には毒だ」
「水銀中毒になるのね」
「ああ、大気中の水銀濃度は、地球の95倍だ。地球人の滞在時間は一週間が限度だ。そんな星の王女様を慰めにいったら……分かるだろ、ミナコ」
 
「パルスキャノン反応。シールド展開!」
 
 コスモスが忙しく、パネルを操作する。バルスは、右舷のキャノン砲をオートにした。パルスキャノンをパルスキャノンで相殺するのだ。
「だめだ、30秒後に飽和攻撃になる。全弾はよけきれない。衝撃に備えろ!」
 そのとき、船長がパジャマ姿で駆け上がってきた。
「おい、船の識別コードがガンマ船になってるぞ!」
「こっちのモニターでは、地球船です!」
「コントロールをオレによこせ!」
 スタビライザーの限界を超えて、船長は曲芸のような操縦をしてパルス弾をかわしていく。ミナコはコックピットの中を転げ回った。
「だめだ、次の三発ははよけきれない!」
 
 直後に大きな衝撃がきて、ミナコは気を失った……。
 
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永遠女子高生・9・《京橋高校2年渡良瀬野乃・1》

2019-11-25 06:21:59 | 時かける少女
 永遠女子高生・9
《京橋高校2年渡良瀬野乃・1》        




 ぼんやり目覚めると、結衣は渡良瀬野乃になっていた。

 目覚め切らない頭の中には「樟葉」という言葉があって、とても懐かしく、名残惜しい気持ちだったが、母の一言で吹っ飛んだ。
「もう『あさが来た』!」
 母の一言にAKBの『365日の紙飛行機』が被さってきた。

 朝の空を見上げて 今日という一日が 笑顔でいられるように……♪

 もっと早よ起こして!……という一言を飲み込んだ。
 言えば、朝からケンカになる。ケンカになれば、一日ブス顔でいなければならない。
「それはごめんだ!」 
「なにがごめんやの?」という母の声をトイレのドアを開けながら聞く。
「ワ! 入ってるんやったら鍵しときいや!」
「いま、野乃がこわしたんや!」便座に座ったまま妹の菜々が赤い顔で言う。
「くっさー!」叫びながらパジャマの上を脱ぐ、部屋に戻った時はパンツ一丁。30秒で制服を着る。
 水を流す音がして、再びトイレへ。
「奈菜、臭いくらい消しとけ!」
「寝坊助の野乃が悪い!」
 むかつくが、ケンカはだめだ、ブス顔になる。
 出すものを出し、通学カバンを抱え、食卓のおにぎりを掴む。
「もう、手えも洗わんとからに!」
「行ってきまーす!」

 食パンを咥えながら走っている女子高生は、ラノベとかドラマの中にしかいない。だがおにぎりは居るのだ。

「ハハ、野乃ちゃん、またかいな!」

 タバコ屋のお婆ちゃんに笑われる。
「おはひょう、おはぁひゃん!」
 駅前に着いたころには、おにぎりはお腹に収まっている。
 抱えた通学カバンにペットボトルの手応え……お茶は飲みたいが、これには手を付けたくない。
 改札を抜け、階段を駆け上がると環状線の内回りのホーム。
 向かいの外回りに、爆発頭の女子高生「ブサイクなやつ!」と思ったら、鏡に映る自分の姿。
 慌てて手櫛で整える。素直な髪質なので、これでも格好はつく……と思う。
 隣から視線を感じる……向かいホームの鏡に大学生風のニイチャンが自分を見ているのが写っている。
 きっとシャンプーの香りがしているんだ。むろんあたしが可愛いのが前提。と己惚れる。だけど、ゆうべ替えたシャンプーの効用もあるに違いない。
 できる範囲だが、このところ野乃は女を磨いている。
 環状線の車内で呼吸を整え、清楚な女子高生になった……と自己暗示をかけていく。
「よし……」

 京橋に着くと、いつもの時間になっていた。これなら校門までダッシュというような不細工なことにはならない。

 野乃は歩き方まで気を配った。きのう頭の上に本を載せて訓練した通り、真っ直ぐに立って顎を引く。
 地面に一本の線を想定して、その上を踏んで歩くようにする。足で歩くんじゃなくて腰で歩く。
――うん、いけてるかも!――
 そう思ったら手と足が同時に出ていた。

 なんとか自然な美しさで歩けてる……と実感できたころに、京橋高校の校門に着く。

「え……?」
 遅刻カウントの5分前。当たり前なら登校時間のピーク、校門前はラッシュの時間だ。
「あれ、ノノッチ早いやんか!?」
 クラスメートの愛華が驚いている。愛華はリア充なので、人よりも登校時間が早い。
「なんで……?」
「ノノッチ、今日からテストやのん……忘れてた?」
「あ……そやったあ!」

 今度の渡良瀬野乃という女子高生は……どうやら一本外れているようだ。
 
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小悪魔マユの魔法日記・105『オモクロ居残りグミ・5』

2019-11-25 06:14:10 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・105
『オモクロ居残りグミ・5』    



「お父さん、いいかげんにしてよね!」

 加奈子が切れた……オモクロ・E残りグミの名物になりつつある、加奈子と父の親子ゲンカである。

『居残りグミ』はPVのできもよく、動画サイトのアクセスも、発表の一週間で百万件。オリコンチャートも、AKRの『コスモストルネード』オモクロの『秋色ララバイ』に続きベストスリーに入ってきた。
 別所プロディューサーは、一気に攻勢をかけることにした。
『居残りグミ』は成功したとは言え、やはりオモクロの二軍というイメージを払拭できない。そこで、短期に巻き返しを計るため、新曲をあいついでリリースすることにした。とりあえず想いをストレートに表現しようということで、みんなで知恵を絞ったが、電動車椅子で稽古場にしている会議室(スタジオは、本体のオモクロが使っている)にやってきた加奈子の父高峯純一が、一言口を挟んだことで、一気に話がまとまった。

「東京タワーで、どうですか?」

 加奈子は正直ギクっとした。オモクロのセンターを外されてから、なにかと自分と東京タワーを引き比べるようになってきた。美紀のケガで選抜復帰することになったら、新人の真央にあっさり入れ替えられ、病院のロビーで腐っていたとき、目に入っていたのがスカイツリーと東京タワーであった。
 病院のロビーのガラス張りから見える東京タワーは、周りの高層ビルに囲まれて威勢がない。そんな東京タワーにネガティブなシンパシーを感じていたことが思い出され、加奈子は父の提案に真っ先に反対した。

 それ、いけるかも!

 別所がプロデューサーの感覚で反応した。そしてネットで検索したり、実際メンバーで、東京タワーにも行ってみた。電動車椅子のバッテリーが切れていたので、父の予備の車椅子を加奈子が押した。メンバー十二名、スタッフ四名、そして加奈子の父十七名は目立った。加奈子親子の親密感(実際はケンカばかりしているが、車椅子を押していたりすると、絵としては甲斐甲斐しく見える)
「バッテリーの残量、どうして確かめなかったのよ!」
「それだけ、加奈子のことを心配してやってたんだよ」
「もう、それが余計なことだって言うの!」
 こういう遣り取りも、遠目には、仲の良い親子に見える。その姿をスマホで撮っていた年輩の夫婦が気づいた。
「あ、あれ、高峯純一さんだわよ!」
 若い人には知られていないが、年輩の人たちの記憶には、前世紀のバブルのころの高峯の活躍ぶりは、自分たちの良き時代の記憶とともに美しく雄々しいイメージとして残っていた。
「ウワー、高峯純一さんだ!!」
 シルバーツアーのご一統さんが周りに集まった。

 シルバーツアーのご一統さんは、オモクロ・E残グミはおろか、オモクロにもAKRにも疎い。往年の大スター高峯純一の世話をするスク-ルメイツかなんかのように思っている。
 あっと言う間に、高峯純一のサイン会、握手会になってしまった。
「あんたたち偉いわね、ちゃんと大先輩のお世話なんかしちゃって。あなたなんか、大先輩とはいえ、他人とは思えない甲斐甲斐しさよ!」
「いやあ、これは、わたしの娘ですから」

 高峯純一がクチバシッテしまった。

 さすがに、ガイドのオネエサンはオモクロもオモクロ・E残グミのことも知っていた。
「あ、あなた、オモクロの桃畑加奈子ちゃんじゃないの!?」
「そういや、大正製菓のグミのCMやってたわよね」
 と、シルバーの方々の思考回路がつながった。

 大騒ぎになってしまった!

 シルバーツアーのご一統さんたちと、修学旅行と敬老会の団体さんの合同見学のようになってしまった。そのうちに、だれがたれ込んだのか、芸能レポーターや放送局までやってきた。
 別所は、プロディユーサーとして、この偶然の機会を逃さなかった。

「今度、東京タワーをテーマにして新曲を発表します」と、ぶちかました。

 で、ゆっくりと東京タワーを見学しているうちに、新曲のイメージが膨らんできた。

 《東京タワー》

 キミと登った東京タワー スカイツリーもいいけれど キミとボクには程よい高さだよ
 二人そろって 高所恐怖症 二人に程よい距離だった
 神保町駅徒歩7分 見上げた姿は333メーター 赤白姿のストライプ
 ボクの心もストライプ 告白しようか止めようか

 太陽背にした東京タワー 焦らすねボクの心を 神保町から7分に高まるテンションさ
 キミはスキップ、一歩先 それがとても遠く愛おしく
 やっと踏んだキミの影 はじけた笑顔眩しくて、赤白姿のストライプ
 ボクをせかせてストライプ やっと追いつき照れ笑い

 ああ 東京タワー ああ 東京タワー ああ ああ 東京タワー

 展望台を一周する間に、一番の歌詞ができてしまった。
 事務所に帰って、みんなにご披露。すぐに二番も三番も出来たが、父の高峯が、こう口を挟んだ。
「東京タワーなら、御成門から徒歩6分だろうが!」
 これが、親子ゲンカの始まりであり、芸能人高峯純一の再生でもあった。

 そして、オモクロ・E残りグミの飛躍へと繋がっていった……。
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乃木坂学院高校演劇部物語・45『四本のミサンガ』

2019-11-24 07:06:14 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・45   
『四本のミサンガ』 


 
「あの、これ持ってきたんです!」

 わたしは、やっと紙袋を差し出した。
「これは?」
「潤夏先輩が、コンクールで着るはずだった衣装です」
「ああ、これ!? まどかちゃんが火事の中、命がけで取りに行ってくれたの!」
「エヘヘ、まあ。本番じゃわたしが着たんで、丈を少し詰めてありますけど」
「丈だけ?」
 夏鈴が、また混ぜっ返す。
「丈だけよ!」
「ああ、寄せて上げたんだ。イトちゃんがそんなこと言ってた」
 里沙までも……。
「あんた達ね……!」
「アハハハ……」
 お姉さんは楽しそうに笑った。それはそれでいいんだけどね……。
「こんなのも持ってきました……」
 里沙が写真を出した。
「……まあ、これって『幸せの黄色いハンカチ』ね」
 勘のいいお姉さんは、一発で分かってくれた。

 部室にぶら下がった三枚の黄色いハンカチ。その下にタヨリナ三人娘。それが往年の名作映画『幸せの黄色いハンカチ』のオマージュだってことを。

 わたしは理事長先生の言葉に閃くものがあったけど、ネットで調べるまで分からなかった。
 伍代のおじさんが、大の映画ファンだと知っていたので、当たりを付けて聞いてみた。大当たり。おじさんは、そのDVDを持っていた。はるかちゃんもお気に入りだったそうだ。
 深夜、自分の部屋で一人で観た……使いかけだけど、ティッシュの箱が一つ空になっちゃった。
 それを、お姉さんは一発で理解。さすがだ。
「ティッシュ一箱使いました?」
 と聞きたい衝動はおさえました。
「これ、ちゃんと写真が入るように、写真立てです」
 里沙が写真立てを出した。あいかわらずダンドリのいい子だ。
 写真は、すぐにお姉さんが写真立てに入れ、部員一同の集合写真と並べられた。

「あ、雪……」

 写真立てを置いたお姉さんがつぶやくように言った。
 窓から見える景色は一変していた。スカイツリーはおろか、向かいのビルも見えないくらいの大雪になっていた。
「交通機関にも影響でるかもしれないよ……」
 里沙が気象予報士のように言った。
「いけない。じゃ、これで失礼します」
「そうね、この雪じゃね」
「また、年が明けたら、お伺いします」
「ありがとう、潤香も喜ぶわ」
「では、良いお年を……」
 ドアまで行きかけると……。
「あ、忘れるとこだった!」
 夏鈴、声が大きいってば……カバンから、何かごそごそ取り出した。
「ミサンガ作り直したんです」
 夏鈴の手には四本のミサンガが乗っていた。
「先輩のにはゴールドを混ぜときました。演劇部の最上級生ですから」
「……ありがとう、ありがとう!」
 お姉さんが、初めて涙声で言った。
「わたしたちこそ……ありがとうございました」
「あなたたちも良いお年を……そして、メリークリスマス」
 ナースステーションの角をまがるまで、お姉さんは見送ってくださった。

 結局トンチンカンの夏鈴が一番いいとこを持ってちゃった。ま、心温まるトンチンカン。芝居なら、ちょっとした中盤のヤマ。
 こういうのをお芝居ではチョイサラっていうんだ。ちょこっと出て、いいとこさらっていくって意味。

 わたし達は地下鉄の駅に向かった。そのわずか二三百メートルを歩いただけで、雪だるまになりかけた。駅の階段のところでキャーキャー言いながら雪の落としっこ。
 こんなことでじゃれ合えるのは、女子高生の特権なんだろうなと思いつつ楽しかった!

 里沙と夏鈴は、駅のコインロッカーから、お荷物を出した。
 今夜は、わたしんちで、クリスマスパーティーを兼ねて、あるタクラミがある。
 それは、合宿みたいなものなんだけど、タヨリナ三人組の……潤香先輩も入れて四人の演劇部のささやかな第二歩目。
 第一歩は部室の片づけをやって、黄色いハンカチ三枚の下で写真を撮ったこと。

 心温まる第二歩は、次の章でホカホカと湯気をたてて待っております……。
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ファルコンZ・21『銀河連邦大使・2』

2019-11-24 06:58:41 | 小説6
ファルコンZ・21 
『銀河連邦大使・2』         

 
☆………銀河連邦大使2
 
 大使の船は大したものだ……。
 
 最初はのんきにダジャレが出るほど、豪華なもてなしを受けた。
 
 船内には25メートルのバーチャルプールがあった。よほどの客船でもないかぎり、リアルな25メ-トルプールは無い。たいてい、5メートルのバーチャルプールで、水流を作って距離感を出している。実感は25メートルでも、ハタから見ていると5メートルしかないので、なんだかプールに泳がされてますって感じで、見ばのいいもんじゃない。うんと昔の感覚で言うと、下りのエスカレーターを登って、永遠の階段を上っているような錯覚をするのに似ている。
 それが、この船ではリアルに25メートル。設定の仕方では、カリブや地中海の海も再現できて、一時間のつもりが三時間も泳いでしまった。
 
 泳いだ後は、マッサージをしてもらった。ファルコン・Zは電子マッサージ機があって、一瞬で凝りをほぐすのだけど、なんとも味気ない。実際人にやってもらって、少しずつ凝りがほぐれていくのは快感だった。
 プールもマッサージも大使がいっしょだった。水着の大使はモデルのように均整のとれたからだつきをしていて、同性のミナコが見てもほれぼれした。
 
「さ、あとはお食事にしましょう」
 
 食事は、流行りの古典日本料理。それも肩の凝らないバイキング式だったので、大使船のクルーといっしょになって、美味しくて楽しい食事ができた。
 
「あなたたちは、楽しむ天才ね」
 大使から、お褒めの言葉をいただいた。
「よかったら、お願いしてもいいかしら?」
「何でしょうか?」
「ベータ星に寄ってもらいたいの」
「ベータ星?」
「ええ、国王が亡くなられて、マリア王女が、とても気落ちしてらっしゃるの」
「そりゃ、お父さんでいらっしゃるんですものね」
 ミナコが庶民的な答をした。
「……女王になられるんですね」
 ミナホは、核心をつく答をした。
「そう、いろいろ難しい星だから、自信を無くして落ち込んでいらっしゃる。あなたたちが行って慰めてくれると嬉しいんだけど」
「それは……」
 ぜひ……と応えようとしたらミナホに先を越された。
「船長と相談してみます。航路については船長の権限ですから」
「ええ、もちろんそうでしょう。私からの願いとしてお伝えくださいな」
 どうやら、その話が目的であったらしく、そのあとはうまくあしらわれて、三十分ほどで、ファルコン・Zに帰ってきた。
「さよか、あのオバハン、そんなこと言うてきよったんか」
 
 マーク船長の目が光った……。
 
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