大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

永遠女子高生・8《瑠璃葉の場合・4》

2019-11-24 06:49:19 | 時かける少女
永遠女子高生・8
《瑠璃葉の場合・4》         





 現実は一歩先をいっていた。

「仲むつまじいカタキ同士の元アイドル」という見出しで、週刊誌に書かれてしまった。
 むろん瑠璃葉と楠葉のことである。

 人の不幸は密の味で、この特集は評判になった。
――二人はレズの関係か!?――
――複雑なカタキ同士の愛憎?――
 二人は、エキストラの仕事も無くなり、バイト先からも遠回しに辞めてくれと言われた。

 瑠璃葉は大人なので、プライドさえ捨てれば、キャバクラで働くこともできた。
 楠葉は現役高校生でもあったので、風当たりが強かった。『ラ・セーヌ』で主役に抜擢されたころは、学校の宣伝塔にもなり、チヤホヤされたが、悪い噂が立つと学校も友達も手のひらをかえしたように冷たくなった。

 瑠璃葉は楠葉に済まないと思ったが、どうしようもなかった。

 楠葉は、病気を理由に休学した。
「あたしのせいだ!」
 瑠璃葉は、そう思った。でも楠葉はサバサバしたものだった。
「あたし、瑠璃葉さんを前にしてなんだけど、本当に病気なの。舞台から落っこちて、神経やられて踊れなくなっちゃったでしょ」
「申し訳ない、それも、アタシの……ウワー!」
「「キャー!」」

 なんで、ここで悲鳴になるかというと、マスコミの目があるので、二人は考えて、浅草はなやしきローラーコースターに乗って肝心の話をした。営業開始から60年になる日本最古のコースターだけど、ほどよく絶叫し、ほどよく話をするのには最適だ。

「あたし、最新の神経再生治療うけるの。うまくいけば、また踊れるようになる……キャー!」
「そうだったの……ウワー!」
「これ降りたら別行動。治療が終わったら連絡するわ……ギョエー!」

 ほどよく悲鳴をあげたあと、二人はニコニコと別れた。つきまとっていた芸能記者や、レポーターは肩すかしをくらった。

 楠葉は「お金を貯めといて、とりあえず200万円」とメールを打った。
 瑠璃葉は、なりふり構わずバイトやパートをして、明くる年の春には200万円貯めた。
 楠葉は、その間神経細胞再生という最新の治療を実験台になることを条件に受けて成功していた。

――ニューヨークへ行くわよ。行き先は……――

 半年ぶりに楠葉からメールがきて、二人は別々にニューヨークを目指した。

「ニューヨークまできて、アルバイト?」
 瑠璃葉は驚いた。
「うん。ただし、次のステータスのためのステップに過ぎない!」
 楠葉は明るく答えた。
 二人は留学ビザの限度一杯バイトにいそしみ、お金よりも英語力を身につけた。

「え、ここが目的地だったの!?」

 瑠璃葉は目を見張った。二人の目の前には赤レンガのアクターズスタジオが屹立していた。

 アクターズスタジオと言えば、マリリンモンローやジェームスディーンなどを輩出した世界一の俳優学校である。
 むろん入学は難関ではあるが、日本での痛い経験が入学テストに幸いした。テストの内容は「人生で、もっとも辛かったことの再現」であったから。

 かくして、二人は無事に卒業し、アメリカの俳優として頭角を現し、名優として日本に戻ってきた。

 楠葉の結(ゆい)は、瑠璃葉を幸せにすることに成功した。瑠璃葉が、人の幸せ(この場合楠葉)が自分の幸せになるところまで心が成長していたことが嬉しかった。

 結の時空を超えた試練は、さらに高度なものになっていく気配であった……。
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小悪魔マユの魔法日記・104『オモクロ居残りグミ・4』

2019-11-24 06:40:51 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・104
『オモクロ居残りグミ・4』     



「そう、あなたは高峯純一さんの、娘さんなのね」

「はい……オモクロ始めるときは母の苗字使ってました」

 ロケの撤収の間、旧保健室を借りて仁和さんと加奈子と香奈の三人で話していた。
 教室の撮影で、ライトが倒れて、危うく加奈子が下敷きになりそうになった。
 それは、複合的な霊障で、廃校になった学校のダンス部の子たちの残留思念と、加奈子の父の高峯純一の生き霊のせいだと分かった。で、仁和さんは、香奈(マユのアバター)だけを同席させて、加奈子から事情を聞いていたのだ。

「父が、この世界に入ることに反対していたことは、なんとなく分かっていました。最初は、むろん反対だったし、わたしが押し切ったあとも、積極的には賛成してはくれませんでした。わたしも親の七光りだって言われるのやだったから……でも、お父さん、あんなに心配してくれていたんだ」
「カナちゃんには悪いけど、それは違うわ」
「え……でも父は、あのエキストラの子の口を借りて、心配してくれていました」
「心配な我が子に、ケガをさせようとするかしら」
「あれは、ダンス部の子たちの残留思念じゃ……」
「そういうことにしておけば、高峯さん自身は傷つかずにすむでしょう?」
「じゃ、あれは……」
「お父さんは、あなたに嫉妬してるのよ」

 一瞬、保健室がグラリと揺れた。

「図星のようね、カナちゃん……」
「「はい」」
 加奈子と香奈が一度に返事した。
「ああ、二人ともカナちゃんだったわね。仁科さん、カーテン閉めてくれる。カナちゃんはスマホを出して」
 二人とも言われたとおりにし、仁和さんは、ロッカーから白衣を取りだして着た。
「カーテンは結界……」
 香奈が独り言のように言った。
「で、この白衣が浄衣のかわり」
 仁和も独り言のように言うと、なにやら呪文を唱え、印を結んだ。加奈子は緊張してきたが、香奈(マユ)にはよく分かった。仁和さんの霊能力は、見抜くという点ではマユよりも優れているが、霊障を取り除くのは、マユの方が上手い。しかし、仁和さんの真摯なやり方にマユは任せてみようと思った。

「……えい!……これでいいわ、カナちゃん。お父さんに電話してごらんなさい」

「はい……でも、なにを話したら……お父さんとは、あまり話したことがないんです」
「ホホ、それがいけないの。正直に今度のこと自慢すればいいわ。お父さんは捌け口がないの。だから無意識に、こんな霊障をおこすのよ。正直に嫉妬させてあげれば収まる。いえ、収まるどころか、カナちゃんのいいアドバイザーになってもらえるわ」

 加奈子は言われるままに電話をした。父の高峯は、朝方から熱が出て、寝込んでいたようだった。
 電話の向こうで、こう言った。
――なんだか夢をみていた。
「どんな夢?」
――くそなまいきな女優が、へたくそな芝居をしやがるんで、意見をしようとしたら、無視しやがる。そこで、カッとしてスポットライトを蹴倒すんだ。
「ほんと……!?」
――そしたら、顔は分からないけど、監督みたいなのが出てきて意見しやがる。なんだか分が悪くなって、逃げ出したら、意識がとんじまって。なんだか胸苦しくって、冷や汗かいていたら、お前からの電話だ。で、なんだ。加奈子から電話してくるなんて、雨が……ほんとに降ってきたぞ。おい母さん、洗濯物とりこめよ!

 それから、加奈子は、ここ最近の自慢話をしてやった。
 
 すると高峯は、なにかとケチをつけはじめた。仕事のことで父と話などしたことのなかった加奈子には、とても新鮮だった。最後の方では、涙を流しながら父を罵っていた。
 むろん憎さからではない。初めて父と、心が通い合ったのである。
「そんなに文句あるんなら、東京出てきて、わたしの仕事っぷり観てからにしてよ!」
――そんなこと言ったって、こんな体じゃなあ。
「今は、いい電動車椅子がある。それ送ってあげるから来なさいよ!」

 そう、加奈子の父、高峯純一は、撮影中の事故で下半身マヒになり、引きこもりっぱなしだったようだ。
 加奈子の電話は、その父の心を開かせ、火を付けたようだ。
 仁和さんは、そんな電話の遣り取りを、ニンマリ笑って聞いていた。
 
 マユは、また一つ勉強できたことを嬉しく感じていた……。
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魔法少女マヂカ・104『イイイイイイイイイイイッイライラする!!』

2019-11-23 14:20:44 | 小説

魔法少女マヂカ・104  

 
『イイイイイイイイイイイッイライラする!!』語り手:マヂカ 

 

 

 学校に戻るよ!

 

 出撃とあれば混乱していられない。有無を言わせぬ勢いで出てきたばかりの校門を指さした。

 なんで!? 待って! どこ行くのおおお!?

 黙って付いて来て!

 質問などを受けている場合じゃない、早く大塚台公園の秘密基地に三人を連れて行かなければ。

 基地に入れば出撃モードになって、隊員として行動してくれるはず。

 玄関から入って、転送室になっている階段横の倉庫を目指すが、早くも三人の姿が見えない。

「ちょっと、どっち行ってんのよ!」

 玄関出たところまで戻ると、昇降口に駆けていく背中が見えた。

「上履きに替えなきゃ!」

「緊急事態だから、土足でいい!」

「え、あ、そなの?」

「友里、もう履き替えてる、ちょっと友里ぃーーー!!」

「あ、かばんかばん!」

 一分遅れて、やっと倉庫前に揃う。

「いくよ!」

「なんで倉庫?」

「倉庫が基地への転送室なの!」

「あ、ちょっとトイレ行ってくる!」

「ちょ、ノンコ!」

「あ、あたしも!」

「家に電話いれとく……あ、お母さん? 実はね……あ、マヂカ、どこまで話していいの?」

「部活とでも言っといて!」

「一階の女子トイレ閉まってる!」

「じゃ、二階!」

「あ、やっぱ、わたしも……」

 

 ああ、もおおおおお!

 

 わたしが魔法少女であることを知って、おたつく三人! 基地に着けば隊員としての能力が目覚めて、力が発揮されるのだろうけど、基地に着くまでは、いつもの調理研の三人だ。どこから見ても普通の女子高生が。いきなり宇宙戦艦ヤマトの隊員になってガミラスを目指すようなもの、おたついて当たり前なんだけど、とにかく歯がゆい。

 イイイイイイイイイイイッイライラする!!

 五分遅れて、やっと倉庫のドアに手をかける。

「あ、サムは?」

 三人に気をとられて忘れていた……しかし、事は緊急を要する。

「探そうか!?」

「いいよ、ノンコ。行くよ!」

 

 五分三十秒遅れて転送を開始した……。

  

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乃木坂学院高校演劇部物語・44『お見舞い本番』

2019-11-23 06:10:56 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・44   
『第九章 お見舞い本番』 

 
 
「まあ、まどかちゃん! 里沙ちゃん! 夏鈴ちゃん!」

 予想に反して、お姉さんはモグラ叩きのテンションでわたし達を迎えて下さった。
 ちょっぴりカックン。
「オジャマします」
 三人の声がそろった。礼儀作法のレベルが同程度の証拠。
「アポ無しの、いきなりですみません」
 と、わたし。頭一つの差でおとなの感覚。
「クリスマスに相応しいお花ってことで見たててもらいました」
「わたしたち、お花のことなんて分からないもんで、お気にいっていただけるといいんですけど……」
「わたし達の気持ちばかりのお見舞いのしるしです」
 三人で、やっとイッチョマエのご挨拶。だれが、どの言葉を言ったか当たったら出版社から特別賞……なんてありません。
「まあ嬉しい、クリスマスロ-ズじゃない!」
「わあ、そういう名前だったんですか!?」
 ……この正直な反応は夏鈴です、はい。
「嬉しいわ。この花はね、キリストが生まれた時に立ち会った羊飼いの少女が、お祝いにキリストにあげるものが何も無くて困っていたの。そうしたら、天使が現れてね。馬小屋いっぱいに咲かせたのが、この花」
「わあ、すてき!」
 ……この声の大きいのも夏鈴です(汗)
「で、花言葉は……いたわり」
「ぴったしですね……」
 と、感動してメモってるのは里沙です(汗)
「お花に詳しいんですね」
 わたしは、ひたすら感心。
「フフフ。付いてるカードにそう書いてあるもの」
「え……」
 三人は、そろって声を上げた。だってお姉さんは、ずっと花束を観ていて、カードなんかどこにも見えない。
「ここよ」
 お姉さんは、クルリと花束を百八十度回した。花束に隠れていたカードが現れた。なるほど、これなら花を愛(め)でるふりして、カードが読める。しかし、いつのまにカードをそんなとこに回したんだろう?
「わたし、大学でマジックのサークルに入ってんの。これくらいのものは朝飯前……というか、もらったときには、カードこっち向いてたから……ね、潤香」

 お姉さんの視線に誘われて、わたしたちは自然に潤香先輩の顔を見た。

「あ、マスク取れたんですね」
「ええ、自発呼吸。これで意識さえ戻れば、点滴だって外せるんだけどね。あ、どうぞ椅子に掛けて」
「ありがとうございます……潤香先輩、色白になりましたね」
「もともと色白なの、この子。休みの日には、外出歩いたり、ジョギングしたりして焼けてたけどね。新陳代謝が早いのね、メラニン色素が抜けるのも早いみたい。この春に入院してた時にもね……」
「え、春にも入院されてたんですか?」
 夏鈴は、一学期の中間テスト開けに入部したから知らないってか、わたしも、あんまし記憶には無かったんだけど、潤香先輩は、春スキーに行って右脚を骨折した。連休前までは休んでいたんだけど、お医者さんのいうことも聞かずに登校し始め。当然部活にも精を出していた。ハルサイが近いんで、居ても立ってもいられなかったんだ。その無理がたたって、五月の終わり頃までは、午前中病院でリハビリのやり直し、午後からクラブだけやりに登校してた時期もあったみたい。だから色白に戻るヒマも無かったってわけ。そういや、コンクール前に階段から落ちて、救急で行った病院でも、お母さんとマリ先生が、そんな話をしていたっけ。
「小さい頃は、色の白いの気にして、パンツ一丁でベランダで日に焼いて、そのまんま居眠っちゃって、体半分の生焼けになったり。ほんと、せっかちで間が抜けてんのよね」
「いいえ、先輩って美白ですよ。羨ましいくらいの美肌美人……」
 里沙がため息ついた。
「見て、髪ももう二センチくらい伸びちゃった」
 お姉さんは、先輩の頭のネットを少しずらして見せてくれた。
「ネット全部とったら、腕白ボーズみたいなのよ。今、意識がもどったらショックでしょうね。せめて、里沙ちゃんぐらいのショートヘアーぐらいならって思うんだけど。それだと春までかかっちゃう」
「どっちがいいんでしょうね?」
 単細胞の夏鈴が、バカな質問をする。
「……そりゃ、意識が戻る方よ」
 お姉さんが、抑制した答えをした。
 とっさにフォローしようとしたけど、気の利いた台詞なんてアドリブじゃ、なかなか言えない。
「だって、『やーい、クソボーズ!』とか言って、からかう楽しみが無いじゃない」
 お姉さんが、話を上手くつくろった。妹が意識不明のままで平気なわけないよね……。
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ファルコンZ:20『銀河連邦大使・1』 

2019-11-23 06:03:06 | 小説6
ファルコンZ 20 
『銀河連邦大使・1』          
 

☆………銀河連邦大使
 
 嫌なやつと出会いそうやな……
 
 チャートを見ながらマーク船長が呟いた。
「誰、嫌なやつって?」
「銀河連邦のオフィシャルシップ。無視してくれたらええねんけどな。バルス、不自然やない航路変更はでけへんかか?」
「1パーセクしか離れてません。航路変更は不自然です」
「無視してくれよな。こっちはイイ子にしてるさかいに……」
 直後、大使船がモニターに映し出された。緑の船体に連邦のマークが描かれている。
「カメラを強制指向させられました」
「ご挨拶で済んだら、ええんやけど……」
 やがて、モニターに絶世の美女が現れた。
「こんにちは、マーク船長。大使のアルルカンです。情報交換させていただければありがたいんですけど」
「敬意を持って……でも、ボロ船ですので、お越し頂くのは気が引けます」
「スキャンしているので、そちらの様子は分かっています。歴戦の勇者の船らしい風格です。ただ、手狭なようなので、私一人でお伺いします。いかがでしょう?」
「大使お一人でですか」
「ヤボなガードや秘書は連れて行きません。あと0・5パーセクで、そちらに行けます。よろしく」
「心より歓迎いたします」
 
 そこで、いったんモニターは切れた。
 
「切れましたね」
「あ きれましたかもな。みんな、ドレスアップしてこい」
 みんな交代で着替えに行った。
「ミナコのも用意してあるから、着替えてくれ。ポチもな」
「めんどくさいなあ」
 そう言いながら、ポチもキャビンに向かった。
 やがて、みんなタキシードに似たボディスーツに着替えた。体の線がピッチリ出るのでミナコはちょっと恥ずかしかった。
「でも、大使ってきれいな人なんだ……」
「あれは、擬態や。赴く星によって、外交儀礼上替えてるそうやけど、オレはあいつの個人的趣味やと思てる」
「本来の姿は?」
「解放されたら教えたる。予備知識を持つとミナコは態度に出そう……」
 
 また、モニターに大使が現れた。
 
「ただ今より、そちらに移ります。タラップの横に現れますのでよろしく」
「お待ち申し上げております」
 全員がタラップに注目する中、大使が現れた。モニターに映る倍ほど美しかった。
「こんにちは、みなさん。連邦大使のアルルカンです。ベータ星からの葬儀の帰りなので、喪服で失礼します」
 大使は帽子を被れば、まるでメーテルのようだった。長いブロンドの髪と切れ長の黒い瞳が印象的だった。
「いっそう艶やかになられましたな、大使」
「ありがとう船長。でも擬態だから……あなたにはオリジナルを見られてるから、ちょっと恥ずかしいですね」
「航海日誌、ダウンロードされますか?」
「いいえ、直接船から話を聞きます」
 大使は、ハンベから直接ラインを伸ばし、船のCPUの端末に繋いだ。
「……そう、苦労なさったのね。マクダラと戦って、クリミアに……この情報は戦歴だけコピーさせていただきます。惜別の星……また墓標が増えていますね……三丁目じゃ、ホホ、いいことなさったわね……コスモス、あなた体を奪われたのね……」
「ええ、でもバックアップで、復元してもらいましたから」
「かわいそうなコスモス!」
 大使は、コスモスをハグした。とても悪い人には見えない。
「ありがとうございます、大使」
「ロイド保護法の改正を連邦に願ってみるわ。もっとも、連邦といっても、まだまだ名ばかり。少なくとも地球での地位向上には努力します」
 それから、大使は再び船との会話を再開した。
「船も、はっきりした目的地を知らないのね……クライアントの情報も無いわ」
「そういう契約なので」
「……このお二人を、私の船にご招待してもいいかしら」
 
 大使は、ミナコとミナホに目を付けた……。
 
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永遠女子高生・7《瑠璃葉の場合・3》

2019-11-23 05:48:21 | 時かける少女
永遠女子高生・7
《瑠璃葉の場合・3》         



2000年の2月29日という400年に一度しか巡ってこない日に「みんなの幸せが実現するまでは、天国へ行かない」と誓って亡くなった結(ゆい)は、永遠の女子高生となって時空を彷徨う。


『ラ・セーヌ』は竜頭蛇尾だった。

 代役の矢頭萌の印象も良く、第一週目の観客動員も、『限界のゼロ』に次いで二位だった。
 ところが、二週目に入って失速した。

 原因は二つ考えられた。

 一つは、本来主役であった楠葉が事実上芸能界から引退をせざるを得なかったこと。
 もう一つは、楠葉の事故の原因が瑠璃葉ではないかと、一部のファンが言い始めたことである。
 舞台挨拶のビデオを克明に観察したファンがいた。ファンはT大の行動心理学の助手で、専門の行動心理から、目立たないが、瑠璃葉の舞台上での動きを解析して結論を出した。

――瑠璃葉は、舞台上で、一度も主演の楠葉さんを見ていません。この無関心さは不自然で、逆に負の感情、つまり、不快感や強い反発を持っていたように思われます。第一原因者である三島純子さんは、袖のマネージャーに声をかけられ、その注意は完全に舞台袖にあり、三島さんの視線からも足許が見えていないことが分かります。で、ここで注目してください。三島さんのマネージャが声をかけた時、瑠璃葉さんは、一瞬袖を見ています。事態を正確に把握していたといえるでしょう。そして袖にハケる時に、瑠璃葉さんが三島さんの前に足を出す必然性は、人間行動学上ありえません。あるとしたら……故意に三島さんを転ばせ、その前を歩いていた楠葉さんにぶつからせ、怪我をさせようとしか考えられません――

 匿名の動画サイトへの投稿だったが、波紋は大きく広がり、テレビのワイドショーでも取り上げられ、専門の心理学者などが「この分析は正確で、楠葉さんのファンであることを差し引いても、ほとんど信用してもいいと思います」と、分析した。

 収まらない瑠璃葉は、進んでワイドショーに出て釈明した。

「青天の霹靂です。ビデオがこの通りだとしても、わたしに、そんな意識はありませんでした」
「瑠璃葉さん。そういうのを心理学では未必の故意って、言うんですよ」
 瑠璃葉は墓穴を掘ってしまった。ワイドショーでは、ただの話題作りのために嘘発見器まで用意していたが、瑠璃葉は、それを断った。ますます疑惑は深まり、瑠璃葉は出演が決まっていた映画の役を降ろされた。

「瑠璃葉さん、だめよ、こういうことしちゃ」

 楠葉が、大部屋の楽屋のゴミ箱に捨てられていた映画の台本を手にして、瑠璃葉に小声で注意した。
「あの大部屋で、あの映画に関連してたのは瑠璃葉さんだけだし、通し番号で持ち主は直ぐに分かるわ」
「あ、記憶になかった。ついよ、つい」
「その言葉もダメだわ。また未必の故意って言われるわ」
「……ふん」
 瑠璃葉は、台本をふんだくった。

 二人は、仲良く……はなかったが、いっしょに連ドラのエキストラをやっていた。

 互いに一からの出直しであった。ただ、新旧の違いはあるが、元アイドル同士で、先日の事件があったところなので、マスコミは直ぐに嗅ぎつけて、記事にした。
「瑠璃葉さん、道玄坂で、美味しいラーメン屋さん発見したんです!」
「原宿で、かわいいアクセサリーのお店ありますよ!」
 楠葉は、すすんで瑠璃葉と仲良くし、マスコミのウワサを打ち消して行った。

 瑠璃葉は、たまらなくなって、渋谷のラーメン屋で聞いた。

「どうして、楠葉は、こんなに優しいのよ!?」
「あたし、瑠璃葉さんのこと好きだから。これじゃ、だめ?」
「あ、あたし、楠葉に嫉妬してたんだよ」
「ありがたいことだと思ってます。それほど関心持ってもらってたってことだもの。あの件だって、あたしが舞台から落ちることまでは考えてなかったでしょ? あれは、あくまでも、あたしのドジが原因なんです」
「楠葉ちゃん……」

 瑠璃葉は大粒の涙を流した。

「ラーメン、塩味になってしまいますよ」

 この一言で、瑠璃葉の心は救われた。だが、現実は、その一歩先をいっていた……。
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小悪魔マユの魔法日記・103『オモクロ居残りグミ・3』

2019-11-23 05:39:16 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・103
『オモクロ居残りグミ・3』    



 女教師役の仁和明宏さんが呟いた。

「なにか、変なものが混ざり込んできた……」

 マユも、香奈のアバターの中で感じていた。

――なんだろう、死霊でもなく、生き霊でもなく、天使のようなものでない。レミのような妖精のたぐいでもない。

 仁和さんは、霊感が強いタレントさんとして有名で、一時は、自分でスピリチュアルな番組も持っていたが、便乗商法が横行し、自分も本来の歌手や、俳優としての仕事に差し障るので、表だっては、そういうことに触れないようにしてきた。
「……あなたも、なにか感じてるでしょう?」
 仁和さんは、スタッフが打ち合わせている間に、香奈(まゆ)に、こっそり話しかけてきた。
「え……いいえ、特に、なにも」
 仁和さんには、このボケは通用しなかった。
「分かってるわよ、香奈ちゃんが人間じゃないことぐらい。でも、悪さをするようなものじゃないことも分かっているから……かわいい顔して、案外小悪魔かもね」
 ドッキリしたが、仁和さんが比喩的な意味で言っていることは分かった。仁和さんと言えど人間。悪魔や、小悪魔が、どんなものであるかは、正確には分からない。「悪」という字が付いているだけで、もっと、危ない目で見て、まして話しかけてきたりはしないだろう。
「あなたのオーラはとても強くてピュアよ、いっしょに探しましょ。このままじゃ、なにか災いが起こるわ」
 仁和さんは、出番が終わると、グラウンドの端に行って、学校全体を眺めはじめた。
「始まりは、あの体育館……でも、今は、そこにはいない」

 ハーックション!!

 教室のシーンのカメリハが終わって、本番に入る直前に香奈(マユ)は、大きなクシャミをしてみた。
「カット、カット!」
 監督の声が飛び、キャストも緊張を緩めた。と、同時に、大きなスポットライトが倒れ込んできて、席を立ちかけた加奈子目がけて倒れ込んできた。
「危ない!」
 香奈(マユ)は、何事か予感していたので、動きが速かった。中腰になっていた加奈子の腕を思い切り引っ張って、加奈子は、危うくスポットライトの下敷きになることから免れた。
 瞬間のことで、教室のみんなは悲鳴をあげたきり、しばらく動けなかった。
「大丈夫か、二人とも!?」
 別所が駆け寄って、二人に声をかけた。
「わたしは大丈夫です」
「わたしも……」
「よかった。でも、これで二度目だなあ」
 別所の指摘は、現象的には、正しい。オーディション会場でも、ライトが香奈の上に落ちてきて、それを庇った美紀がケガをした。しかし、あれは、美川エルのアバターに入り込んだオチコボレ天使の雅部利恵が調子にのって、とんでもない声量と音域で歌ったために、ライトを吊ったクランクのネジが緩んで起きた事故である(まあ、間接的には利恵のせいではあるが、悪意はない)。しかし、今回は、あきらかに、何者かの悪意が働いている。

「その子を掴まえて!」

 仁和さんが、一人のエキストラの子を指差した。その子自身は、なんの自覚もなく、仁和さんに指差され、ただオロオロ。香奈は、ゆっくりと、そのこの額に手を当てた。香奈は、教室中にわだかまっていた悪意が、その子に集中するのを感じた。その子はユラリと揺れたかと思うと、口を開いた。

「……わたしたちの学校で……こんなことはしないで……わたしたちダンス部は、ようやく都の大会で優勝して、全国大会に出られるところだった……でも、学校が廃校になって……なって、それが果たせなかった。とっても悔しい……悔しい……だから、ここで歌ったり、踊ったりしないで……わたしたち、やっと我慢して、やっと自分たちの気持ちを押し殺した……殺したところなんだから」

「あなた、潰れたダンス部みんなの残留思念……」
「それだけじゃない。その残留思念に隠れて、もう一つなにかがいる」
 仁和さんが、印を結び、マユは心の中で呪文を唱えた。
――エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……。
 その子は、男の表情になって喋り始めた。
「加奈子……だから、オレは反対したんだ。この世界は伏魔殿だ。スターダムに上り詰めるのは難しい。そして、そのスターダムに上り詰めるまでに、何人の仲間をけ落とさなければならないか、また、何度け落とされるか。今度、おまえはけ落とされ、また這い上がろうとしている。もういい、もう十分だ。ボロボロになる前に……戻っておいで」
「お父さん……」
 加奈子の目から涙がこぼれた。
「その声は……高峯純一さんね」
 仁和さんに見抜かれた高峯純一の生き霊は、ギクっとした表情になった、思うとすぐに抜けていき、その子は眠るようにくずおれた。
 
 仁和さんは、それ以上のことは言わず。体育館の舞台の隅で見つけてきた楽譜と振り付けのコンテをみんなに見せた。ダンス部が、都大会で優勝したときのそれで、曲は、オモクロが、やっとマスコミに取り上げられるようになったころの、その名も『おもしろクローバー』であった。

「この振り付けで一回やってみよう。ここのダンス部の子たちのために」
「それがいいわ、お父さんのことは、あとで、わたしが……」
 仁和さんの賛同で決まり。オモクロ居残りグミのみんなで、歌って踊った。なんとも懐かしく新鮮。
 別所は、それを『居残りグミ』のプロモの一部に取り入れることにした。

 それから、ロケは夕方近くまでかかって、無事に終えることができた……。
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せやさかい・096『留美ちゃんが暗い』

2019-11-22 12:35:47 | ノベル

せやさかい・096

『留美ちゃんが暗い』 

 

 

 二時間目が終わってから留美ちゃんが暗い。

 

 理由は音楽のテスト。

 二時間目は音楽の授業やねんけど、授業の終わりに「来週、歌のテストをやります」と音楽の池田先生が宣告。

 留美ちゃんは人前で自己表現するのが苦手。

 それも歌を唄うなんて、あたしらに置き替えたら裸になるのも同然。

 

 どうしよう……どうしよう……

 

 昼休みになっても、呪いの言葉を吐くように呟いてる。

 給食も半分食べたとこで止まってしまう。知ってる限り、留美ちゃんが給食残すのは初めて。白身魚のフライなんか、手付かずで残ってる。別に大食漢というわけとちごて―― 残したらあかん ――という義務感で食べてる。その義務感が吹っ飛んでしまうほどに気に病んでるんや。

「榊原、調子悪いんか?」

 なんと、田中が心配して聞きよる。

 田中が言うことは、たいていからかいのネタにしてやるんやけど、今日はいつになく真面目に小さな声で聞いてきよるんで「うん、ちょっとね」と答えておく。

 田中は、つかつかと留美ちゃんの横に行くと「食べへんねやったら、もろとくぞ」と宣告。留美ちゃんが「え?」と反応に困ってると、あっというまに、フライを手づかみにしてムシャムシャと食べてしもた。

「せふぁ、ウラウンドひふぞ」

 フライを咀嚼しながら瀬田を引っ張って教室から出て行きよった。

 時間にして、ほんの数秒。

 教室に残ってたもんで、気ぃついたんは、あたしと瀬田ぐらいやと思う。

「トレー持って行こ」

 普通に言うと、留美ちゃんは、何事も無かったようにトレーを片付けた。

 ほとんど瞬間の事やったし、留美ちゃんの頭は来週の歌のテストで一杯やったから、驚くとか怒るとか恥ずかしがるとかの反応をし損ねたいう感じ。

 田中がやったことは、まかり間違うとナンチャラハラスメントとか変態とか言われかねへんこと、軽くても「キモーー」とかのヒンシュクをかう行為や。

 

 田中本人に聞くのもお礼を言うのもはばかられるんで、休み時間に瀬田を掴まえた。

 

「オレもびっくりしたけど、えと……小学校でな、給食残すなあ! て、よう怒られとったんや田中。とことん食べられへんかったら残してもええねんけど、圧の強い先生でなあ、無理くり食べてリバースしてしまいよったんや。それから、ちょっとイジメ的にな……そんで、ちょっと飛躍しよったんやと思う。まあ、なかったことにしといたってえや」

「う、うん」

 昼からの授業は、いつも通りやった。

 さてさて、問題は音楽のテスト。

 簡単な方法はテストの日は学校を休むこと。

 むろん休んでも別の日にテストがある。あるけど、授業の枠ではでけへんから、放課後とかに音楽室でやらされる。先生とのマンツーマンやから、授業中にみんなの前でやらされるよりはマシやねんけど。留美ちゃんは、テスト嫌さにずる休みなんかぜったいせえへんしなあ……。

 これは、やっぱり頼子さんに相談か。

 

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魔法少女マヂカ・103『太田道灌に正体をバラされる!』

2019-11-22 07:54:53 | 小説

魔法少女マヂカ・103  

 
『太田道灌に正体をバラされる!』語り手:マヂカ 

 

 

 マヂカ殿お! 魔法少女マヂカ殿おお!

 

 こともあろうに、太田道灌はわたしの真名を叫びながら駆け寄って来るではないか!?

 いや、落ち着け。

 あの太田道灌は駅前の銅像、きっと妖の一種に違いない。妖の一種なら、サムはともかく友里たちには見えないはずだ。

 ここは知らんぷりを決めるに限る(-_-;)。

「え? え?」

「なんかの撮影?」

「大河ドラマ?」

「沢尻エリカ分の撮り直し?」

 友里たちが騒いでる。なんで? 見えてないはずなのに?

 

「おお、間に合った! 一瞥以来でござる」

 

 たしかに五百年前に会っている。

 まだ駆け出しのころ、このあたりに庵を結んでいたときに、俄かの雨に遭って、太田道灌が蓑を借りに来たことがある。

 若かったわたしは(今だって若いんだけど)ちょっとした悪戯の気分で一枝の山吹を差し出してやった。

「いや、俄かの雨に出遭うて難渋しておる、蓑があれば拝借したいのだが」

 わたしは、いっそう頭を下げて枝を捧げ持つ。

「え、いや、だから、蓑が借りたいのじゃが……」

「…………」

「ええ、要領を得ん。是非もない、濡れていくか……邪魔をしたな」

 城に帰った道灌は老臣にたしなめられた。

「殿、それは『後拾遺和歌集新釈 下巻』の古い歌に事寄せたナゾにござりまするぞ」

「なんじゃ、それは?」

「後拾遺和歌集新釈 下巻には、こうありまする『七重八重花は咲けども山吹の実のひとつだになきぞ悲しき』 この山吹の『実の』と『蓑』をかけておりまする」

「ん……そうか、お貸しする『蓑』が無くて悲しいというナゾであったか!」

「ご明察!」

 実は、可愛そうになったので、道灌さんより先に城に行って、昼寝していた老臣に睡眠学習させておいたんだけどね。

 いや、わたしも詰まらない悪戯をしたもんだ(^_^;)

 素直な殿様だったんで、その後の妖怪退治で素性を明らかにしたんだけど、この律義者は、憶えていてくれたんだ!

 

 いや、感動してる場合じゃない。あっさりと、わたしの素性を叫ばれてはたまらないわよ!

 

「双子玉川に竜神が現れて、暴れておりまする! おそらくは、先般の台風で力を得たものでござろう。捨て置けば鎌田・玉川・等々力あたりに害をなすと思われる、よって、身は郎党どもを引き連れて成敗に向かいまするが、マヂカ殿にも御助勢願いたい!」

「あ、えと、えと……」

 おたつくわたしを押しのけて、サムが前に出た。

「心得た! 異世界の住人ではあるが、わたしも魔法少女のサマンサ・レーガン! すぐに装備を整え、マヂカ共々御助勢に向かいましょう!」

「おお、それは心強い! では、それがしは先に!」

 

 クルリと馬首を巡らして、太田道灌は西を目指して駆け去った。

 

「え、えーと……」「どーいう……」「こと……?」

 

 戸惑う友里たち。

 くそ! もう誤魔化しがきかないぞ!

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乃木坂学院高校演劇部物語・43『そのボール拾って!』

2019-11-22 06:52:33 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・43   
『そのボール拾って!』 


 
 ここらへんまでが、竜頭蛇尾の竜の部分。

 考えてもみて、たった三人の演劇部。それもついこないだまでは、三十人に近い威容を誇っていた乃木坂学院高等学校演劇部。発声練習やったって迫力が違う。グラウンドで声出してると、ついこないだまでの勢いがないもんだから、他のクラブが拍子抜けしたような目で見てる。最初はアカラサマに「あれー……」って感じだったけど、三日もたつと雀が鳴いているほどの関心も示さない。
 わたし達は、もとの倉庫が恋しくて、ついその更地で発声練習。ここって、野球部の練習場所の対角線方向、ネットを越した南側にはテニス部のコート。両方のこぼれ球が転がってくる。
「おーい、ボール投げてくれよ!」
 と、野球部。
「ねえ、ごめん、ボール投げて!」
 と、テニス部。
 最初のうちこそ「いくわよ!」って感じで投げ返していたけど、十日もしたころ……。
「ねえ、そのボール拾ってくれる!?」
 と、テニス部……投げ返そうとしたら、こないだまで演劇部にいたA子。黙ってボ-ルを投げ返してやったら、怒ったような顔して受け取って、回れ右。
「なに、あれ……」
「態度ワル~……」
「部室戻って、本読みしよう」
 フテった夏鈴と里沙を連れて部室に戻る。

 わたしたちは、とりあえず部室にある昔の本を読み返していた。
「ねえ、そのボール拾って!」
「またぁ……違うよ、それ夏鈴のルリの台詞」
 里沙の三度目のチェック。
「あ、ごめん。じゃ、夏鈴」
「……」
 夏鈴が、うつむいて沈黙してしまった。
「どうかした……ね、夏鈴?」
 夏鈴の顔をのぞき込む。
「……この台詞、やだ」
 夏鈴がポツリと言った。
「あ、そか。この台詞、さっきのA子の言葉のまんまだもんね」
「じゃ、ルリわたし演るから、夏鈴は……」
「もう、こんなのがヤなの」
「夏鈴……」
 演劇部のロッカーにある本は、当然だけど昔の栄光の台本。つまり、先代の山阪先生とマリ先生の創作劇ばっかし。どの本も登場人物は十人以上。三人でやると一人が最低三役はやらなければならない……どうしても混乱してしまう。
 じゃあ、登場人物三人の本を読めばいいんだけど、これがなかなか無い……。
 よその学校がやった本にそういうのが何本かあったけど、面白くないし……抵抗を感じる。

 竜頭蛇尾の尾になりかけてきた……。

「ね、みんなで潤香先輩のお見舞いに行かない。明日で年内の部活もおしまいだしさ」
「そうね、あれ以来お見舞い行ってないもんね」
 里沙がのってきた。
「行く行く、わたしも行くわよさ」
 夏鈴がくっついて話はできあがり。
 そしてささやかな作業に取りかかった……。

 三人のクラブって淋しいけど、ものを決めることや、行動することは早い。数少ない利点の一つ!


 一ヶ月ぶりの病院……なんだか、ここだけ時間が止まったみたい。
 いや、逆なのよね。この一カ月、あまりにもいろんなことが有りすぎた。泣いたり笑ったり、死にかけたり……忙しい一カ月だった。
 病室の前に立つ。一瞬ノックするのがためらわれた。ドアを通して人の気配が感じられる。
 おそらく付き添いのお姉さん。そして静かに自分の病気と闘っている潤香先輩。その静かだけど重い気配がわたしをたじろがせる。
「どうしたの……まどか?」
 花束を抱えた里沙がささやく。その横で、夏鈴がキョトンとしている。
「ううん、なんでも……いくよ」
 静かにノックした。
「はーい」
 ドアの向こうで声がした、やっぱりお姉さんのようだ。
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ファルコンZ:19『☆………コスモス星・2』 

2019-11-22 06:41:40 | 小説6
ファルコンZ 19
『☆………コスモス星・2』        
 
 
「コスモンド抽出開始。アブストラクター(抽出機)インサート」
 
 軽い衝撃があった。不安な顔をしていたんだろう、マーク船長が説明してくれた。
「大昔の注射針刺すようなもんや。コスモンドっちゅう鉱石が、この船のエネルギーでな。そのコスモンドをミクロン単位のサイズに砕いて、船の燃料庫に備蓄するんや」
「アブストラクターには、何重にもフィルターが付いているから、ソウルなんかは、入ってこないわ」
 ミナホが答える。
「ソウル?」
「アブストラクトチェック」
「オールグリーン」
「スタート」
 微かに音がしたが、それもすぐに消えた。作業は、とても静かに流れている。
「ソウルというのは、このコスモス星の精神のようなもの」
「星の精神?」
 星に精神があると話が飛躍したので、ミナコは思わず声をあげた。
「そうや、この星には心がある。えらい寂しがり屋でな。この星に降りた船の多くが逃がしてもらわれへん。せやから、パッシブは全て切る。関心があると思われるさかいな」
「船長、重量に微妙な変化があります」
「……僅かに減っとるなあ。船体の熱膨張との差し引きは?」
「まあ、誤差の範囲です」
 船長は安心した顔になったが、ミナコは不安だった。
「どのくらい、違うんですか?」
「1グラムちょっとやな……気になるか?」
「なんだか胸騒ぎ……」
 
 それは、突然やってきた。
 
「アブストラクター停止……あ、再起動しました」
「船長、重量マイナス47キロ。異常です!」
「47キロ……コスモスのキャビンの閉鎖解除。モニターに出せ!」
「やられました、コスモスさんがいません!」
「星に取り込まれたか!?」
「解析……最初の1グラム減少は、コスモスさんを分子分解したときのものです。今アブストラクターが緊急停止したときに、分子分解したコスモスさんを一気に取り込んだようです」
 
「そんなことって……」
 ミナコは愕然とした。そして、ミナコの家に迎えに来てくれてきてくれたときから、今までのコスモスの思い出が、懐かしさと共に蘇ってきた。
「全員、コスモスに関するメモリーをブロックせえ!」
「あ……!」
 ミナコは怖気が走った。自分の指先が透け始めてきた。
「ミナコ、火星のコンサート記録のチェックと解析をしろ! 観客一人一人のデータまでな!」
「なんで、今!」
「言うこと聞け!」
 船長は、古典的なヘッドマウントアナライザーをミナコに付けさせ、火星ツアーのデータバンクに直結させた。奔流となってデータがミナコの頭に流れ込んできた。
「あと何分かかる」
「アブストラクト、80%。あと一分です!」
「アブストラクター緊急停止!」
「アブストラクターから、何かが上がってきます。圧縮情報のようです。フィルターが破られます!」
「ミナコ、目えつぶれ!」
 コックピットにコスモスの3D映像が現れた。ニコニコ笑いかけながら、みんなに近寄ってくる。
「ミナコちゃん……」
 ホログラムは、実体化して、ミナコのヘッドマウントアナライザーに手を掛けた。
「アブストラクト完了」
「アブストラクター引き抜きました!」
「緊急発進!」
 
 ファルコンZは、磁石が同極同士で反発しあうような早さで、コスモス星を離れた。
 実体化していたコスモスは3Dに戻り、星の重力圏を離れる頃には消えてしまった。
 
「ミナコ、ヘッドマウント外してええぞ」
「ああ、頭パンクするかと思った」
 ミナコは、解析情報を振り払うかのように頭を振った。
 
「コスモスの情報、各自インストール。バルス、コスモスのバックアップデータ復元」
「船長、コスモスさんは?」
「再生する。ちょっと時間はかかるけどな」
「船長、コスモスの外見は以前のままでいいですね」
「ああ、あれが完成形やさかいな」
 そして、十時間ほどして、コスモスがキャビンから現れた。
「ああ、よく寝た。船長、異常はなかったですか?」
「全て、順調。次いくぞ」
 
 ファルコンZは、次の宇宙を目指した。
 
 
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永遠女子高生・6《Etenal feemel highschool student・瑠璃葉の場合・2》

2019-11-22 06:34:19 | 時かける少女
永遠女子高生・6
《瑠璃葉の場合・2》         





 楠葉は、左の手足を骨折した。

 エミの役は降りざるを得なかった。代役には同じAKRのチームAから矢頭萌が出ることになり、瑠璃葉は、引き続きエミの姉の役で残り、『ラ・セーヌ』の撮影は続けられた。

 楠葉の怪我は、不幸な事件として処理された。

 舞台挨拶が終わり、一同が袖に引っ込むとき、直接の原因になった三島純子という女優が袖のマネージャーに声をかけられ、足許に注意がいっていなかった。そのために、たまたま瑠璃葉の足が引っかかり、そのまま楠葉を押すように倒れ込んだ。勢いが付いたまま舞台の下に落ちた楠葉は、左半身を強打、そのまま救急車で病院に搬送された。

 楠葉の中味は結なので、真相は分かっていた。だが、なにも言わなかった。

 しかし、怪我が取り返しのつかないものであるとまでは思っていなかった。並の骨折なら三か月もあれば完治し、映画はともかくAKRには復活できるものだと、楠葉もみんなも思った。
 リハビリに時間が掛かりすぎるので、理学療法士が「もしや」と思って、精密検査が行われた。

「神経が切れている」

 医者の診断であった。普通に歩くことに目立った支障はないが、踊ることができなかった。
 歌って踊ってなんぼのAKRである。卒業せざるを得なかった。
 プロディューサーの光ミツルは、せめてモデルかソロ歌手として残る道を考えてくれたが、それも楠葉は断った。
「わたし、歌って踊って、なんとか半人前なんです。きっぱり卒業します」
 ミツルの前で、その覚悟を伝えた。

 卒業は、皮肉にも『ラ・セーヌ』の初日であった。

 楠葉は固辞したが、AKRシアターで楠葉の卒業式が行われた。

「小学校の運動会で、こんなことがありました。100メートル競走のゴール手前で転けちゃって、それまで先頭を走っていたのが、ビリになってしまいました。膝を痛めて、そのあとのリレーも出られなくなってしまいました。わたしって、ほんとドジなんです。でも大玉転がしでは一等賞でした。人間一つのことがダメになっても、きっと他に開ける道があります。怪我のために、もうみんなのように踊ることもできません。歌は、自分で言うのもなんですが、うまくありません。だからAKRは卒業します。でも、人生の大玉転がしは……きっと、どこかにあります。それを信じてがんばっていきます。それから、この怪我は、楠葉のドジが原因です。誰のせいでもありません」

「そんなこと、ありません。あたしが悪いんです!」

 三島純子だった。

 映画の初日挨拶を終えて、シアターに直行。楠葉の言葉にいたたまれなくなったのだ。

「三島さん……違います。絶対違います。みなさんも信じて下さい。そして、また、どこかでお目に掛かります。人生の大玉転がしで。そして、これからも、みなさん、AKRの変わらぬファンでいてください。お願いします!」
 楠葉が頭を下げると、三島純子も舞台に上がり、メンバーのみんなも一緒になって涙々の卒業式になった。

「フン、一晩だけの悲劇のヒロイン。明日になれば、世間は忘れてるわよ。大玉を転がして一等賞になるのは、あたしよ。ざまあ見ろ」
 
 そう毒づいて、瑠璃葉は、テレビのスイッチを切った。

 テレビの前のテーブルには、次の映画の台本が置かれていた……。

 
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小悪魔マユの魔法日記・102『オモクロ居残りグミ・2』

2019-11-22 06:26:41 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・102
『オモクロ居残りグミ・2』     



 波紋は意外なところから広がった。

 ほんとうに、オチコボレ天使の後始末は大変だ。
 香奈のアバターの中でぼやくマユであった……。

《居残りグミ》のプロモーションビデオは、東京郊外の廃校になった高校を使っておこなわれた。
 廃校といっても、この年の四月までは現役だった学校で、校舎の中などは、現役のころのまんま。
 校庭や中庭などに少し雑草が生えている。制作費が安いので、エキストラの人たちといっしょになって、草刈りをやるところから始めなくてはならなかった。

「いいウォーミングアップになったね!」

 額の汗をタオルで拭いながら、加奈子が笑った。どこまでも前向きな明るいリーダーだ。やっぱりオモクロのセンターを張ってきただけのことはある。と香奈(マユ)は感心した。
――オチコボレ天使の雅部利恵が余計なことをしなければ、この加奈子たちだけでも、かなりの線まではいっただろう。
 その元凶の雅部利恵は、美川エルというオモクロの研究生になり、抜群の歌唱力、リズム感、ルックス、スタイルで。すぐに選抜メンバーに加えられ、選抜メンバーの端っこで、オモクロをここまでにした自負心とともに。アイドルとして注目される喜びに浸っていた。
 
 マユは、本来のアバターをアイドル志望の幽霊、浅野拓美に貸してあり、そっちはAKRの選抜メンバーとして活躍中。

 マユは、香奈という臨時にこさえたアバターに入って、加奈子たち「居残りグミ」のバックとして支えていた。なんでオチコボレ天使の尻ぬぐいを、ここまでやらなきゃならないのかという怒りもあったが、加奈子たち、本来のオモクロのメンバーたちのがんばりには、正直驚いて、「居残りグミ」を売り出すことに生き甲斐を感じている。

 午前中は、草刈りを手早くすませ、エキストラの子たちといっしょに女子高生の制服に着替え、校庭で昼休み風景の撮影。

 思い思いに、グラウンドで遊んでと、エキストラの子たちにディレクターが指示するが、なかなか自然な昼休みにはならない。所在なげに突っ立っているか、不自然に騒ぐだけ。ディレクターがいちいち動きを付けるが、数が多く、なかなか全員の演技指導に手が回らない。
「あなたたち、そこでトスバレー、あなたたちは向こうのベンチで……そう、『秋色ララバイ』ハモってて。で、あなたたち三人、いや四人で、わたしたちの前をキャッキャいいながら駆け抜けてくれる……そう、走りながらジャンケンてのいいかも。それをカメラさんがおっかけて、わたしたちと重なったとこで、歌になる。どうかしら、別所さん」
 加奈子は、あっと言う間に、冒頭のシーンを決めてしまった。
「カナちゃん。監督の才能あるよ」
 ディレクターの別所は正直に誉めた。
 後ろのほうで、女先生役の仁和明宏さんがニコニコ笑って、こう付け加えた。
「そのあと、クレーンで上から撮って、その端っこに、あたし歩くわ。三分のプロモだけど、放課後の居残り担当の先生出現のいい伏線になると思うの」
「あ、それ頂きます」
 ディレクター兼監督の別所は、こういう点にプライドがないので良い物はなんでも採用。絵コンテはあっさり書き換えられてリハーサル。

 今日のテストも赤点で、予想通りの居残り学習、居残り組。
 夕陽差す中庭のベンチ、待ってるキミが大あくび、その口目がけて投げるグミ。
 見事に決まってストライク……とはいかずに、キャッチする手は左利き。

 ニッコリ笑ってグミを噛む。ゼリーより硬く、キャンディーよりは柔らかく。
 その食感に、キミが戸惑う。まるで、ボクが初めてコクった時のよう。
 あの、ハナミズキの花の下、左手だけを半袖まくり、ソフトボールの汗滲ませて、ボクをにらんでいたね。
 あとの言葉困って、ボクが差し出すグミ、キャンディーと勘違い。グニュっと噛んでキミが笑う。
 歯ごたえハンパなグミ、グミ、おもしろグミ、グミ、だけど心に残る愛おしさ。
 居残りグミ、グミ、おもしろグミ、グミ、青春の歯ごたえさ~♪
 
 リハーサルは一発でOK、一応ランスルー、カメリハをやるのは別所の良くも悪くも生真面目なところ。
 しかし、みんなのテンションは適度に上がって、冒頭のシーンワンはワンテイクでOKが出た。

 そして、次の教室でのシーンの準備にかかったころ、女教師役の仁和明宏さんが呟いた。

「なにか、変なものが混ざり込んできた……」
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乃木坂学院高校演劇部物語・42『マッカーサーの机』

2019-11-21 05:25:53 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・42   

『マッカーサーの机』 


 
 
 で、この『竜頭蛇尾』は言うまでもなくクラブのことなんだ……。

 あの、窓ガラスを打ち破り、逆巻く木枯らしの中、セミロングの髪振り乱した戦い。
 大久保流ジャンケン術を駆使し、たった三人だけど勝ち取った『演劇部存続』の勝利。
 時あたかも浅草酉の市、三の酉の残り福。福娘三人よろしく、期末テストを挟んで一カ月はもった。
 公演そのものは、来年の城中地区のハルサイ(春の城中演劇祭)まで無い。
 とりあえずは、部室の模様替え。コンクールで取った賞状が壁一杯に並んでいたけど、それをみんな片づけて、ロッカーにしまった。
 三人だけの心機一転巻き返し、あえて過去の栄光は封印したのだ。
 テーブルに掛けられていた貴崎カラーのテーブルクロスも仕舞おうと思ってパッとめくった。

 息を呑んだ。クロスを取ったテーブルは予想以上に古いものだった……わたしが知っている形容詞では表現できない。

 わたし達って言葉を知らない。感動したときは、とりあえずカワイイ(わたしはカワユイと言う。たいした違いはない)と、イケテル、ヤバイ、ですましてしまう。たいへん感動したときは、それに「ガチ」を付ける。
 だから、わたし達的にはガチイケテル! という言葉になるんだけど、そんな風が吹いたら飛んでいきそうな言葉ではすまされないようなオモムキがあった……。
 隣の文芸部(たいていの学校では絶滅したクラブ。それが乃木高にはけっこうある。わたし達も絶滅危惧種……そんな言葉が一瞬頭をよぎった)のドアを修理していた技能員のおじさんが覗いて声をあげた。
「それ、マッカーサーの机だよ……こんなとこにあったんだ」
「マックのアーサー?」
 夏鈴がトンチンカンを言う。
「戦前からあるもんだよ……昔は理事長の机だったとか、戦時中は配属将校が使って、戦後マッカーサーが視察に来たときに座ったってシロモノだよ。俺も、ここに就職したてのころに一回だけお目にかかったことがあるんだけどさ、本館改築のどさくさで行方不明になってたんだけどね……」
 おじさんの説明は半分ちかく分からないけど、たいそうなモノだということは分かる。
「ほら、ここんとこに英語で書いてあるよ。おじさんには分かんねえけどさ」
「どれどれ……」里沙が首をつっこんだ。
「Johnson furniture factory……」
「ジョンソン家具工場……だね」
 わたし達にも、この程度の英語は分かる。

 技能員のおじさんが行ってしまったあと。そのテーブルはいっそう存在感を増した。
 テーブルは、乃木高の伝統そのものだ。貴崎先生は、その上に貴崎カラーのテーブルクロスを見事に掛けた。
――さあ、どんな色のテーブルクロスを掛けるんだい。それとも、いっそペンキで塗り替えるかい。貴崎ってオネーチャンもそこまでの度胸は無かったぜ。
 テーブルに言われたような気がした。

 結局、テーブルには何も掛けず、造花の花を百均で買ってきて、あり合わせの花瓶に入れて置いた。それが、殺風景な部室の唯一の華やぎになった。
――ヌフフ……百均演劇部の再出発だな。
 憎ったらしいテーブルが方頬で笑ったような気がした。

 貴崎先生のテーブルクロスは洗濯して中庭の木の間にロープを張って乾かした。
 たまたま通りかかった理事長先生が、こう言った。
「おお、大きな『幸せの黄色いハンカチ』だ、君たちは、いったい誰を待っているんだろうね」
「は……これテーブルクロスなんですけど」
 と、夏鈴がまたトンチンカン……て、わたしも里沙も分かんなかったんだけどね。
「ハハハ、その無垢なところがとてもいい……君たちは、乃木坂の希望だよ」
 理事長先生は、そう愉快そうに笑いながら後ろ姿で手を振って行ってしまわれた。

 晩秋のそよ風は涙を乾かすのには優しすぎたけど、木枯らし混じりの冬の風は、お日さまといっしょになって、テーブルクロスを二時間ほどで乾かしてしまった。
 それをたたんで、ロッカーに仕舞っていると、生徒会の文化部長がやってきた。
「あの……」
 文化部長は気の毒そうに声を掛けてきた。
「なんですか?」
 里沙が事務的に聞き返した。
「部室のことなんだけど……」
「部室が……」
 そこまで言って、里沙は、ガチャンとロッカーを閉めた。気のよさそうな文化部長は、その音に気後れしてしまった。
「部室が、どうかしました?」
 いちおう相手は上級生。穏やかに間に入った。夏鈴はご丁寧に紙コップにお茶まで出した。
「生徒会の規約で、年度末に五人以上部員がいないと……」
「部室使えなくなるんですよね」
 里沙は紙コップのお茶をつかんだ。
「あ……」
 わたしと夏鈴が同時に声をあげた。
「ゲフ」
 里沙は一気に飲み干した。
「あ、分かってたらいいの。じゃ、がんばって部員増やしてね……」
 文化部長は、ソソクサと行ってしまった。
「里沙、知ってたのね」
「マニュアルには強いから……ね、稽古とかしようよ」
 八畳あるかないかの部室。テーブルクロスが乾くうちにあらかた片づいてしまった。
 
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ファルコンZ 18『☆………コスモス星・1』 

2019-11-21 05:19:00 | 小説6
ファルコンZ 18
『☆………コスモス星・1』         
 
 
 
 三丁目星を出て一週間、コスモスに元気がなくなってきた。
 
「コスモス、しばらく寝てるか?」
「コスモスさん、具合悪いんですか?」
「……寝ても無駄かもしれません」
「大丈夫や、シールド張っとくよってに」
「シールドも無駄かもしれません……」
「起きてたら確実に危ないで」
「ですよね……では失礼します」
 コスモスは、ため息一つつくと、キャビンの一つに入っていった。
「バルス、コスモスのキャビンを封鎖しとけ」
「了解……封鎖」
 一階下のキャビンブロックで、重々しくキャビンを封鎖する音がした。むかし検索して知った火葬場の二重の扉をしめる音に似ていた。
「ミナホ、コスモスの代わりにシートについてくれるか」
「はい、準備はしておきました」
「次の星まではオートやさかい、特別にすることは無いと思うねんけどな」
「一応、コスモスさんのスキルとメモリーはコピーしてあります」
「いつの間に?」
「船長が、悩み始めてから……」
「見透かされてたか。ほな二日前からやな」
「いいえ、五日前から……」
「そんな前からか……」
「船長は、自覚なさっている以上に、クルーの心配してるんですよ」
「さいでっか……」
「言っておきますけど、コスモスさんが過去にやった判断や行動はとれますけど、それを超える事態には対応できないかも……」
 
 マーク船長は沈黙してしまった。
 
「どうしても寄らなきゃならない星なの?」
 沈黙を破って、ミナコが咎めるように聞いた。
「次のコスモス星で、エネルギーを補充しないと、目的地に着けねえんだよ」
 ポチが、人の言葉で喋った。
「じゃ、その目的地ってのは……?」
「分かんねえんだよ。1000光年や、そこいらは飛べるけど、おいらの予感も、船長の勘も、もっと先だって言っている」
「この先、800光年は、燃料を補給する星はあらへんよってな」
「じゃ、なぜコスモスさん、閉じこめちゃうの?」
「あいつの素材はコスモス星の鉱石からでけてる。着いたら出て行って帰ってけえへんからな」
「コスモス星の勢力圏に入ります」
「シールド、全周展開」
 バルスがシールドをマックスに張った。
「シールド言うのんは、外からの影響は防げるけど、中から外に出て行くのは阻止でけへんよってにな」
「見ろよ、ミナコ。コスモス星の部分拡大だ」
 ポチがアゴをしゃくった。モニターには、何百隻という宇宙船が着地しているのが分かった。中には、相当古い船もいて、半ば朽ち果てていた。
「十分後周回軌道に入ります」
「よし、全パッシブ閉鎖、各自のCPUも全てのアクセスを切れ、みなこ、ハンベも落としとけ……」
「え、ハンベまで……」
「これだけの人数や、必要もないやろ」
 ハンベはハンドベルト型携帯端末で、昔のスパコンの十倍の能力がある。この時代の人間にはケ-タイのような必需品である。ミナコは不承不承ハンベを外した。
「コスモスの機能はスリープしてるやろな?」
「動力ごと落としています。再起動には丸一日はかかりますね」
 周回軌道に入り、ファルコン・Zの着陸に向けてのチェックが行われる。みなパッシブ閉鎖しているので、チェックはいちいち口頭で行われた。
 
 そして、ファルコン・Zは着陸態勢に入った……。
 
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