大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・108『ショッピングモール』

2019-12-27 15:30:39 | ノベル

せやさかい・108

『ショッピングモール』 

 

 

 除夜の鐘が撞きたい!

 

 頼子さんの発作的な希望は叶えられることになった!

 うちみたいな都会のお寺はあかんけど、地方に行くと事情は逆で、除夜の鐘を撞かならあかんのに撞き手がいてへんというお寺がある。

 お寺さん同士のネットワークみたいなんがあって、それを使って、あっという間に決まってしもた。

 

 お察しの通り、ネットワークを駆使して話をまとめたんはテイ兄ちゃん。

 

 テイ兄ちゃんは自ら運転主兼ツアーコンダクターの役割もかって出た。頼子さんといっしょに居りたいというスケベエ根性見え見えやねんけど、役に立つんやから、追及はしません。

 テイ兄ちゃんは、自分のヨコシマナ動機をちょっとでも隠すために詩(コトハ)ちゃんにも声をかけた。

「どや。コトハも行かへんか?」

「除夜の鐘?」

「コトハも吹部の部長になったんやろ、一発、吹部の発展と、来年の運を開くためにも、でや?」

「う~ん、いいかもね!」

 で、コトハちゃんもいっしょになって、あくる日、テイ兄ちゃんの運転で鐘撞旅行に必要なあれこれを五人で買い物に行った。

 

 おりしもショッピングモールはバーゲンの真っ最中。

 

 さすがのテイ兄ちゃんも女子五人の買い物にベタ付きするほどアホやない。男が一緒やったら買いにくいもんがいっぱいあるしね。

 テイ兄ちゃんとは一階のフードコートで待ち合わせることにして、五人でお買い物。

 一泊二日なんで、まずはおソロのパジャマをゲット!

 パジャマを買うと、除夜の鐘を撞くというイベントに負けへんくらいのパジャマパーティーという女子会が決まった。

 女の子いうのんは、おソロのもんがあると、もうそれだけでイベントになるんや。

 洗面用具にインナー、車中でやるかもしれへんゲームやらお菓子やらを買って、最後は泊めていただくお寺さんへのお土産。

「海老煎餅がええよ!」

 わたしは叫んだ。ほら、伯父さんの用事で天王寺のお寺に行った時、向こうの坊守さんに教えてもろたやん。お寺のお土産やったら海老煎餅がええよって、あれ。

「そうなんだ、わたし達だったら、お饅頭とか思っちゃうもんね」

「お寺は、そういうの持て余してるからね(^_^;)」

 海老煎を進物用にしてもらって、待ち合わせのフードコート。

 わたしらだけやったらドリンクバーになるねんけど、ここはテイ兄ちゃんが太っ腹。1200円のドリンク付きランチプレートを奢ってくれた。

 まあ、奢ってくれた分くらいはプレミアムにしたげなあかんので、頼子さんの横に座ることを許してやる。横と言うても、シートはL字型になってるんで、テイ兄ちゃんは右90度の角度で頼子さんが視界に入る。

 ちょっとサービスし過ぎ?

「頼子さん、進路はどうするん?」

 テイ兄ちゃんは、わたしらが聞きたくても聞かれへんことをのっけから聞いてきよった!

「ワッチャ、そ、それは……」

 留美ちゃんと両手をフリフリしてテイ兄ちゃんの質問を無効化しようとした。頼子さんはヤマセンブルグの王女様でもあるわけで、卒業後の進路は、そういう事情も反映されるんちゃうかと、恐ろしくて聞いてこーへんかった。

「……いい質問をしてもらったわ」

 頼子さんは、ナイフとフォークを静かに置いて、わたしらの顔を見渡した。

 

「卒業したらエディンバラの高校に行くように言われてます」

 

 ショックが、居並ぶ五人にサワサワと広がっていった……。

 

 

 

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となりの宇宙人・11『ずっと気になってた』

2019-12-27 06:36:20 | 小説4
となりの宇宙人・11
『ずっと気になってた』          

        



 おはようの挨拶に返事が返ってこなかった。

 からだが悪いわけでもないようだ、血色はいい。
 どうかした? と声をかけようとしたけど空気を吸っただけでやめた。瑠璃が「おはよう!」と声をかけてきたので、ヨッコのために吸った空気は瑠璃への「おはよう!」に代わった。
「今日の日直だれ? 黒板消えてないわよ」
 みっちゃんの言葉に何人かの視線がヨッコに集まる。
「……あ、すみません。すぐにやります!」
 ビクッとしてヨッコは教壇に。腕をワイパーのようにして黒板消しをぶんまわし、扇子のお化けみたいな消し跡を残したまま席に戻る。みっちゃんは一言言いたげだったけど、ため息ついただけでショートホームルームを始めた。

「昼ごはんいくよ!」

 ちょっと大きめの声でヨッコに宣告した。ヨッコに対しては「しっかりしろ」。いつものお昼仲間たちには「今日はヨッコと二人きりにして」のシグナル。ノンコやグッサンは察して、自分たちで机を組み始めた。ここでシカトされては、あたしのメンツがたたない。
「ヨッコ!」
 ちょっと乱暴に呼ぶと、ヨッコはノロノロとお弁当袋を取り出した。

 寒かったらどうしようかと思ったけど、お昼のグランドはポカポカ陽気だ。食堂が工事中、加えて先週の事故で中庭もグチャグチャなので、かなりの生徒がグラウンドと校舎の間にあるコンクリートのひな壇でお昼にし始めている。

「西高東低の気圧配置っていっても、まだ十月だもんね……空は高いし、絶好のお弁当日和だね……ハグハグ……」
 焼きそばロールにかじりつき、ホンワカ笑顔であたしは仕切り直した。ヨッコはお箸を持った手をお弁当の蓋に置いたまま。
「どうした、オータムジャンボが、また一等賞の組番違いだったり?」
「ううん、当たっちゃった」
「え……ゲホ!」
 危うく焼きそばロールを吹き出すところだった。
「でも、今ならあきらめられる。マナカがダメって言ったらあきらめられる」
「なによ、話が見えてこないんだけど」
 どうやら宝くじや中間テストの成績のことではないようだ。
「聖也って……その……マナカの幼馴染み……で……」
「え……なに?」
 ヨッコは、答えるかわりに、両の目からホロホロと涙をこぼした。
「ヨッコ、あんた……ひょっとして聖也のこと……」
「だから、マナカが好きなら、あたし……諦める!」
「あ、あいつは、そういうんじゃ……」
「マナカほどじゃないけど、聖也とは小学校からの……なにで……最近気づいたの、ずっと気になってたのは、好きだったってことに」

 幼馴染みなんかじゃない、あいつは、ほんの半年前にやってきた宇宙人なんだよ……。
 
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Regenerate(再生)・23≪詩織の秘密・1≫

2019-12-27 06:28:21 | 小説・2
Regenerate(再生)・23
≪詩織の秘密・1≫
       


 

 火事騒ぎのあと、詩織とドロシーは交代で警戒にあたった。

 詩織は自分は特殊能力の人間だと思っている。で、ドロシーはサイボーグ。人間と元人間なので極度な緊張は長続きしない。
「ここ読まれたかな?」
「んにゃ。寮から2キロのとこで気づいて撒いたから、絞り切れるもんじゃねず。それに分かってりゃ、もうなにがしてきてるはずだす」
「そっか、じゃあ、しばらく頼むわね」
 ベッドに横になると、スリープ状態だったパソコンが、かすかな起動音をさせて目覚めた。画面はスカイプになっていて、カンザスの詩織の家が映っていた……バグったゲーム画面のように、それはいびつだった。
「お姉ちゃん、起こし……ちゃ……たか……な」
 妹の詩歩がおかしい。短いフリーズが連続して起きているのかと思った。
 詩歩の姿は、だんだんぎこちなく、ドットが荒くなり、すぐにふた昔前のゲームのキャラのようにCG然としてきた。
「詩歩、どうしたのよ!?」
「あたし…あ・た・し……あた……」
 妹は、そこまで言うと人間の姿を失い、もっと荒いドットの集合体になった。
「詩歩!」
 呼びかけに応えて、ドットは、また人の形を取り戻した。

 その姿は……幸子の姿をしていた。

「見ーつけた」
「あ、あんたは!?」
「今、そっちにいくからね……」
 背後に、ドロシーではない気配を感じた。振り向くとドロシーが倒れ、幸子アンドロイドが立っていた。
「こんなところで、こんな姿でいるとはね……」
 詩織は直観で危険と感じると共に、今がチャンスだと思った。何のチャンスかは分からないけど、深層心理の中に隠れているものをキチンと知るためのチャンスのように思えた。
 で、近場の公園にテレポートした。予感はしていたけど、幸子アンドロイドも数秒遅れで現れた。不思議なことに、この幸子アンドロイドからは、攻撃の意思は感じられなかった。
「今日は争いに来たんじゃないの。キチンとお話をしておきたくて。いいかしら」

 詩織は、幸子アンドロイドといっしょに木陰のベンチに座った。人目には女子大生と女子高生の姉妹のように見えたかもしれない。

 幸子アンドロイドは、静かに、しかし驚くべきことを話し始めた……蝉がかしましく鳴き出した。
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乃木坂学院高校演劇部物語・78『旧制中学の制服』

2019-12-27 06:21:18 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・78   
『旧制中学の制服』  


 

 同窓会館の方に戻ると、理事長先生といっしょになった。

「さっきは、焼き芋の差し入れありがとうございました」
「なんのなんの、ちと多すぎやしなかったかね」
「いえ、先輩方も応援に来られたんで、ちょうどよかったと思います」
「そうか、そりゃよかった」
 そこへ、みんなが、ゾロゾロ同窓会館から出てきた。
「整理完了したから、お祝いの買い出しに……あ、理事長先生。先ほどはありがとうございました」
 一礼すると、里沙を先頭に、みんなで駅前のコンビニを目指して行った。

「ほう……綺麗になったね。いや、同窓生を代表して礼を言うよ」
「いいえ、とんでも。こちらこそ……」
 理事長先生は、懐かしそうに部屋を一周すると、ピアノに向かい、静かに撫でてから弾き始めた。
「……先生、この曲なんていうんですか!?」
「『埴生の宿』だよ……知っているのかい?」
「はい……ここで聞きました」
「……そうか、君にも聞こえたのか」
「人影も見えました……一瞬、シャンデリアが一瞬点いたときに、ほんの一瞬……」
「……旧制中学の制服を着ていなかったかい?」
「それっぽかった……ですけど。きっとバルコニーのガラス戸に映った自分の影を……」
「僕も、一瞬だけ見たことがある……このピアノに寄っかかってるところを刹那の間」
「先生……」
「そのときも、かすかに『埴生の宿』が聞こえた。そうか……君にも見えたんだね」
「その人って……」
「悪いやつじゃないと思うよ。時々物音をたてたり、椅子の場所が変わっていたり。そして、ごくたまにこの曲を聞かせてくれたり……それは、こないだ話したね……そうか、君にも見えたんだ」
 理事長先生は、また、ゆっくりと慈しむように『埴生の宿』を弾き始めた。

 それから、たった三人の稽古が始まった。

 ほんとは、少し期待があった、先輩の誰かが見に来てくれないかって。

 だって、演出も舞監も、わたしたち役者が兼務。出番の少ないノブちゃん役の夏鈴が、稽古ごとに立ち位置や、演技のきっかけをメモってくれる。それを基に三人で、ああでもない、こうでもない。
 部分的にはビデオを撮ってやってみたけど、やっぱ、演出がいないとね……やってらんねえ! なんてヤケッパチのグチなどは言いませんでした……思っていてもね。
 ただ、休憩時間に、役者以外誰もいない、道具も何にも無しの稽古場……これはコタエル。
 わたしだけ、もう一人分の気配を感じてたけど、それは言わなかった。理事長先生からも話しは聞いたけど。漠然としていて、二人に言うどころか、自分で思い出すのもはばかられた……だって、怖いんだもん!!

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となりの宇宙人・10『恥じらい気味に本を差し出した』

2019-12-26 06:23:24 | 小説4
 となりの宇宙人・10
『恥じらい気味に本を差し出した』            


 
 鈴木聖也は、あたし(渡辺愛華)のとなりの家に住んでいる幼馴染(?)の亡命宇宙人。
 秋のある日、駅で暴漢に襲われ、学校では食堂の工事現場の鉄骨に潰されそうになるけど、聖也が時間を止めて救けてくれた。
 犯人は、なんと、これまた幼馴染(?)の吉永紗耶香。紗耶香も宇宙人で、聖也を抹殺するために、あたしを殺そうとした。
 あたしは聖也の命の素になる宇宙エネルギーを、聖也に合うように変換できるから。
 そのために殺されそうになり、救けられもしたんだって……でも、それだけ?


 テスト明け最初の日曜日。

 ハンパな朝昼兼用を食べ終わってボンヤリしていると玄関の方で声がした。
「……それなら上がってちょうだい、愛華も起きてボンヤリしてるから」
 お母さんの声に続いて「どうも……」と親し気と照れの混じった返事は、お隣りの宇宙人聖也。
「やば……!」
 慌てて口を押える。ボンヤリと個室に籠っていたのだ。
「愛華……あら、さっきまでリビングにいたんだけど」
 十秒ほど悩み、思い切って水を流した。
「愛華、お母さんたち出かけるから、セイちゃんにしっかり教えてもらうのよ。じゃ、セイちゃん、よろしく。お父さーん、出ますよ!」 
 
 お父さんの返事があって、すぐに家の気配は、聖也とあたしだけになった。
「愛華もえらいよな、日曜に率先してトイレ掃除やってんだもんな」
 こういうフォローはかえって傷つく。
「じゃ、さっさとやっちまおう」
「は……?」
「はじゃないよ、英語欠点だったから、課題みてくれって言ったの愛華だぞ」
 図書館の帰り道、グチったのを思い出す。でも家に来てくれって……?
「さ、おせーてやるから、課題出せよ」
 課題が出ていたのは事実なんで「うん」と返事して自分の部屋に取りに行く。さすがに自分の部屋には通せない。

「……ありがとう、一人でやってたら徹夜になるとこだった!」

 聖也の説明とアドバイスは先生より分かりやすかった。一時間ちょっとで課題はできてしまった。
「おれはヒント言っただけ、やりとげたのは愛華だから、自信もっていいよ」
 冷めた紅茶をすすりながら嬉しいことを言う。
「あ、冷めてるでしょ、入れ直すね」
「これはこれで美味しいけど、入れ直してくれるって言うんなら……」
 聖也の視線を感じながらキッチンへ。たかが紅茶だけど、起き抜けの朝昼兼用の十倍くらい神経を使って入れているのが癪。
「……『星の王子さま』よかったよ、ゆっくり三時間かけて読んじゃった」
「ハハ、おかげで課題できなかったんだ」
「それは言わないの。元はと言えば、聖也のせいで読むハメになったんだから」

 紅茶を入れ直してテーブルに戻ると、聖也はくたびれた『星の王子さま』を手にしていた。

「このくたびれた方で読んでくれないか」
「でも、あたしが借りたのと中身はいっしょなんでしょ」
「うん、でも読んでみてよ。最初の一章だけでいいから」
 めずらしく聖也は恥じらい気味に本を差し出した。
「うん……」

 あたしが読んだ『星の王子さま』の何倍も息が詰まり、ため息が出て、涙がこぼれた……なんで?

「その『星の王子さま』は、何十人何百人の人の感動がつまってるんだ……だから……」
「そうなんだ……」
 象を飲み込んだうわばみも、羊の入った箱も、三つの火山も、一本だけのバラも、バオバブの木さえ生まれた時から知っているみたく懐かしかった。いままでこの本を読んだ人の感動が押し寄せてくるんだろうか。
「本が人を飼いならしたんだ」
 聖也は『星の王子さま』のキーワードで感動を伝えた。
「星の王子さまは、最後は砂漠で倒れて……消えていくんだ」
「……聖也も?」
「……感動してくれる愛華が見たかったんだ、ありがとう」
 聖也が光ったような気がして目をつぶってしまった。
「時間や記憶をいじるのは、しばらく止めるよ」
「うん……」
「あとで気づくだろうから、謝っておくよ」
 玄関のドアを開けながら横顔で聖也が言った。
「なに?」
「課題を見て欲しいなんて、愛華は言ってない」
「あ……うん。もう驚かないよ」
「うん、じゃ、また明日」

 宇宙人がとなりにいてもいいかなと、初めて思った。 


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Regenerate(再生)・22≪神経戦・2≫

2019-12-26 06:10:56 | 小説・2
Regenerate(再生)・22
≪神経戦・2≫
          


 
 火事が起こる瞬間を初めて見た。

 何か小爆発があったかと思うと、マンションの5階から火が上がった。
 火災報知器が鳴って、あっという間に野次馬が集まる。
「人の不幸を写メるがね」
 ドロシーがぼやいた。
「この一週間で、7件目だよ不審火」
「7件目で、現場に出くわしたか」
 人が写メを撮ることに眉を顰めていたが、ドロシーも詩織も冷静というか、他人事であった。スキャニニングしても人が取り残されている気配はなかった。火元の人には気の毒だが、こういうマンションは各種の保険に入っていて、人死にが出ない限り、あまり損になることはない。

 消防車とパトカーは5分もしないうちに現れ、すぐに野次馬を整理しながら消火活動にかかった。瞬間、火元の部屋に人の気配を感じた。
「どげしたこんだ。今の今まで感じねがったのに!?」
「子供よ。助けに行かなくっちゃ!」
 詩織は、幸子に擬態すると、体温をマイナス10度に下げて、火事の現場に向かった。人目につかないように4件先のベランダに飛び上がり、ベランダの防護壁を破って火元に向かい。口から大量の炭酸ガスを吐いて、侵入経路を確保しながら進んだ。
 人の気配は風呂場からした、5歳ほどの女の子だ。
 知恵があるのか、追い詰められたはてか、その子は、湯船に浸かって熱から身を守っていた。詩織はバスタオルを水に浸すと、それで女の子の体をくるんだ。
 ベランダまで出ると、一刻を争う状況だったので、そのまま植え込みの木にジャンプして、無事に着地した。すぐに両親が駆けつけてきて、女の子を抱きしめた。
「ミヨちゃん、ごめんね」
 お母さんは、娘を奪い取るように詩織から受け取った。
「どなたかは存じませんが、ほんとうにありがとうございました」
 そして、野次馬が詩織を取り巻いた。野次馬の中から、いかついオッサンが四人寄ってきて、詩織を取り囲んだ。
「ちょっと、警察で話を聞かせてもらえないかな」
 一番目つきの悪い刑事が言う。刑事の心を読んで直ぐに分かった。
――連続放火犯だと思われている。ドロシーずらかるわよ――
 刑事たちには、詩織が消えたように見えた。

「あれ……?」

 詩織は寮までテレポートしたつもりだったが、現場から数百メートル離れた公園に出てしまった。
「やっと会えたわね」
 目の前には幸子アンドロイドがいた。
「あんたに会うまでに7件も放火しちゃった。今夜、やっとビ・ン・ゴ!」
 一瞬おかしいと思った。先日の新宿戦で、詩織には歯が立たないことが良く分かっているはずだ。それをたった一体で待ち伏せ。
 疑問を解析しきる前に、幸子アンドロイドは、パルスガンを取り出して、撃ち始めた。
 大半の弾は避けられるし、数発当たった弾も、幸子に擬態した詩織を傷つけることはできなかった。しかし、ここで面倒を起こすわけにはいかない。すぐそばには警察も野次馬もいる火事の現場だ。
 詩織は小テレポートを繰り返しながら、寮を目指した。

――詩織、後をつけられてっぞ!――

 ドロシーが知らせてきた。
――まさか、あたし、もう幸子の擬態はしてない。今は……――
 そこで気づいた。あのパルス弾は、詩織に当たると、特殊な信号を発し続ける。敵は、その信号をトレースしている。これでは、いくら擬態を繰り返してもキリが無い。詩織は、弾痕を処理、無効化しながら、ようやく寮にたどりついた。
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乃木坂学院高校演劇部物語・77『焼き芋』

2019-12-26 06:00:45 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・77   
『焼き芋』  

 

 里沙の目算通り、談話室の掃除と整備には三日かかってしまった。

 電球は、半分だけの交換……というか半分ですんだ。LEDの電球なので、少なくてすむ。むろんシャンデリアまでは直してもらえなかったけど、稽古場の明るさとしては十分だった。ヒーターは三台。べつにケチられたわけじゃない。電気容量が三台でいっぱいになるので仕方がない。でも、これでは少し寒い、今後の課題。

 不思議なことは、なにも起こらなかった。
 わたしを除いて……なーんちゃってね。

 あの男子生徒は、あれから現れない。やっぱ、なんかの見間違い……でも、ひょっとした拍子にに気配を感じる。ほんの瞬間なんだけど視線を感じる。寂しげだけど温もりのある視線。
 その日も、ピアノを拭いていて、それを感じた。おいしそうな匂いとともに……あれ?
 ふりかえったら、立っていた……夏鈴が焼き芋の入った袋を抱えて。
「フン。ヒヒヒョウヘンヘイハラ……」
「焼き芋くわえたままじゃ、分かんないでしょうが!」
「……だって、袋からこぼれ落ちそうなんだもん……あ、理事長先生の差し入れ。あとで様子見に来るって」
 それだけ言うと、夏鈴は本格的にパクつきだした。

 わたしも、一つ頂いて手を洗っていないことに気づき。手を洗いに廊下に出たところで出くわした。山埼先輩と峰岸先輩が石油ストーブを運んでくるのに。持つべきものは先輩、これで寒さ問題は解消。
 不幸なことに、わたしは夏鈴と同様に焼き芋を口にくわえたまま。それも、口の端っこからはヨダレを垂らしながら。
「まどか、おまえってほんと、三枚目なんだよな」
 峰岸先輩がしみじみ、ため息つきながら言った。
「フヒ、フハハハハ、ヘフ」
 我ながら情けない……で、ハンカチを出して焼き芋をくるんで手に持った。
「ここ、ガスは危なくて使えないから、石油ストーブ。技能員のおじさんから」
「ありがとうございます。あ、中に里沙がいます。食べきれないくらい焼き芋ありますから、先輩たちもどうぞ」
「そりゃあ、ゴチになるか」
 山埼先輩は行っちゃったけど、峰岸先輩が振り返った。
「まどか。おまえら自衛隊の体験入隊に行くんだって?」
「え、あ……はい」
「よかったら、オレも入れてくれないかなあ。学年末テストも終わっちゃったし、めったにできないことだから」
「はい、喜んで!」
 と……言ったものの、わたしは体験入隊のことすっかり忘れていたのだ。で、片手でスカートの中の携帯をまさぐっていたら、プツンと音がしてスカートのホックが外れた。
「ウ……!」
 焼き芋を放り出し、慌ててスカートを押さえた。
 すると、なんということ。焼き芋がハンカチにくるまれたまま空中で停まった……そして、ゆっくりと窓辺の窪んだところに着地した……。
 その時感じた温もりは、焼き芋のそれだけじゃなかった。

「……というわけで、四人追加でよろしく!」
 忠クンは、まだなにか言いたげだったけど、用件をすませ、さっさと携帯を切った。
 わたしは部室に戻り、スカートを繕いながら携帯をかけていたのだ。
 念のため、下はジャージを穿いております。
 ぬるくなった焼き芋を持ち上げると、マッカーサーの机がカタカタいった。
 なんだか笑われたような気がした。
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となりの宇宙人・9『宇宙人と同じ本を借りた』

2019-12-25 06:22:51 | 小説4
となりの宇宙人・8
『宇宙人と同じ本を借りた』     

 
 
 鈴木聖也は、あたし(渡辺愛華)のとなりの家に住んでいる幼馴染(?)の亡命宇宙人。
 秋のある日、駅で暴漢に襲われ、学校では食堂の工事現場の鉄骨に潰されそうになるけど、聖也が時間を止めて救けてくれた。
 犯人は、なんと、これまた幼馴染(?)の吉永紗耶香。紗耶香も宇宙人で、聖也を抹殺するために、あたしを殺そうとした。
 あたしは聖也の命の素になる宇宙エネルギーを、聖也に合うように変換できるから。
 そのために殺されそうになり、救けられもしたんだって……でも、それだけ?


「なによ、制服なんか着て?」
 
 朝一のお母さんの言葉はボケていた。

「なにって、学校よ」
 ボケたお母さんには付き合っていられないので、そのまま玄関へ。
「今日は土曜日だよ」
「え……?」
 ローファーを右足だけ履いてフリーズしてしまった。
「やだ愛華、まだ金曜かとか思ってたの?」
「そか、土曜日だったんだ……」
「やあね、ボケるには七十年ほど早いわよ」
「ああ、損した!」

 土曜と分かれば、制服なんてウザったいものは着ていられない。さっさと部屋着に着替える。

「しかし、またなんでボケちゃったのよ、こんなの初めてじゃない……朝ごはん食べなおす?」
「うん、休日バージョンで」
 ウィークデイはトーストにチーズ乗っけたのに季節のジュースだけ、お母さんはコーンスープとベーコンエッグとサラダを作ってくれた。
「家族三人で朝ごはんなんて、久しぶりだな……」
 お父さんは、そう言うと、ベランダ越しの空を見上げた。
「UFOでも飛んでる?」
「いや、雨が降るんじゃないかと思って」
 親二人がかりで娘をおちょくる。
 あたしが今日を金曜と間違えたのは、聖也が日にちをずらしたからだ。どうも、となりに宇宙人が住んでいるというのは迷惑だ。

 朝ごはんを食べなおすと少し余裕が出てきた。夏休みの初日みたいにウキウキしてきた。

 そうだ、夏休みにできなかったアレをしに行こう!
 で、あたしは十時になるのを待って図書館に出かけた。
「うーん、新刊本が入れ替わってるなあ……」
 夏休みは、これで挫折した。
 いっぱい本を読もうと図書館に来て、新刊本をあれこれつまみ読みしているうちにくたびれ「また明日にしよう」を数回くりかえして挫折した。

「ハハ、土壇場で選びきれないんだ」

 気づくと、すぐ横で宇宙人がニヤニヤしている。
「ん、いつからそこに?」
「たった今、入ってすぐ愛華が目についた」
「フフ、かわいいから?」
「新刊コーナーを猿みたいにグルグル回ってるのが可愛いと言えるなら」
「なによ!?」
「迷ってるんなら、ルールを決めればいい」
「ルール?」
「うん、例えば、もう一周コーナーを回って、最初に目についた本にするとか」
「なんか占いみたい。ま、他のコーナーも見て回るわ」
「よけい決められなくなるよ」
「大きなお世話」

 あたしは文芸書の書架に行った……シャクだけど聖也が言った通り、迷いが大きくなっただけで、諦めの気持ちになる。

 シャクだなあ……諦めるのヤだから、けっきょく聖也が言ったルールになる。
 でも聖也が言ったマンマは嫌なんで、新刊コーナーを二周することにする。大した違いはないんだけど。
「……これだ!」
 二周回って目についたのは『星の王子さま』。なんとも古い本を手にしたものだけど、『星の王子さま』は著作権が切れてから、たくさんの新訳が出ている、きっと最新訳だろうと、真新しい本を手に持ってカウンターへ。

「奇遇だな、オレも『星の王子さま』。オレのは、四十年前のだけどな。ずっと探してて、やっと予約ができたんだ……」
 そうやって、聖也が差し出した『星の王子さま』は、あたしが借りた新刊本とソックリだった。
「ん……いっしょだね?」
「……愛華のは復刻版だ」
 聖也は、復刻最新刊が出ているとは知らず、四十年前のヨレヨレを、わざわざ予約して借りたんだ。ちょっといい気味。

 でも帰り道に思った。なんで聖也と同じ本を読まなきゃならないんだ……!?
 
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Regenerate(再生)・21≪神経戦・1≫

2019-12-25 06:14:03 | 小説・2
Regenerate(再生)・21
≪神経戦・1≫
        


「あんたたち、お盆だってのに国に帰らないの?」

 廊下を掃除しながら、もう80に手が届こうかという寮母の素子さんが言った。
 詩織とドロシーは教授のラボにいくために部屋に鍵をかけているところだった。
「いやー、貧乏学生だで、バイトに勢ださねばなんねのす」 
 ドロシーが頭を掻きながら応える。
「詩織ちゃんも?」
「あたしは、こないだ来たばかりだから。それに家族とはスカイプでいつも連絡とりあってるし」
「スカイプ?」
「あ、パソコンのテレビ電話みたいなの」
「テレビ電話じゃ高くつくでしょ?」
「あ、スカイプってタダだから」
「え、テレビ電話してタダ!?」

「詩織、親切だすな」
「かな……?」
 地下鉄のカーブの揺れをうまくいなしながら、二人の会話は続いた。
「素子さんに、スカイプがなじょしてタダでできんのか説明しでも分がんないべ」
「いいの、親切にコミニケーションすることで、人間関係の円滑化がはかれるんだから。それにうちの家族紹介したら盛り上がったじゃん」
 詩織は、あれからスカイプでカンザスの家族と素子さんを引き合わせて、盛り上がった。妹の詩歩は素子さんのきっぷのいい東京弁を喜んで聞いていた。東京弁は標準語とは違う、文字で現せないところに小気味よく水が流れるような気持ちよさがある。
「そんたなもんかな……」
「サイボーグでも分かるでしょ、元は人間だったんだから」
「ん……微妙に傷つくすな、今の言い回し」

 新宿の事件以来、ベラスコは鳴りを潜めている。なんといっても幸子サイボーグ以下100体近くが破壊された。そのあとはさながらテロの痕のようであったが、警察は不審に思った。死体の半分近くが一見死体のようでありながら、はみ出した骨格や内臓は人間……いや、生き物のそれでさえなく、機械としか言いようのないものだったからだ。しかも、その死体もどきは、二日の間に全て警察の保管施設から消えてしまっていた。

 ベラスコたちは、詩織たちが気が付かないくらい、わずかずつ行動しはじめていた。それが分かるのは、もう数日が必要だった。

 夏の盛りは、もう間もなくである……。
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乃木坂学院高校演劇部物語・76『男子生徒の姿』

2019-12-25 06:06:42 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・76   




『男子生徒の姿』


「「「うわー」」」

 三人そろって歓声をあげた。
 一瞬、談話室が『英国王のスピーチ』の時代のようになった。
 秩序と気品と知性、品格、そしてちょっとしたウィットに満ちた空間に。
 でも、そのシャンデリアは数回点滅して切れてしまった。
「やっぱ、ボロ」
 夏鈴がニベもなく言った。
 最後に点滅したとき……それが見えた。

 一瞬、ピアノに半身を預けるようにして立っている男子生徒の姿が。
「あ……」
「どうかした?」
「え、ああ……ううん」
「へんなの。まどか、閉めるよ」
 夏鈴が、クシャミ一つして、里沙が電気を落としドアを閉じた。

 すると、微かに聞こえた……タイトルは思い出せない。だけど、優しく、懐かしいメロディーが。
 あの子が、あの男子生徒が唄っている……切れ切れに聞こえる歌。歌詞は文語調でよく分からない。里沙と夏鈴には言わなかった。
 言っても信じてもらえないだろう……二人に聞こえている様子がないもの。
 
 それに、あの男子生徒の制服は今のじゃない。
……玄関のロビーに色あせて飾ってある旧制中学時代のそれだったから。

 わたしは、頭の中で、そのメロディーを忘れないように反芻(はんすう)した。
「まどか、どこ行くのよ!?」
「え……」
 わたしは、正門から同窓会館に戻ろうとしている自分に……初めて気がついた。
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ライトノベル・魔法少女マヂカ・115『みんなでアルバイト・2』

2019-12-24 14:29:44 | 小説

魔法少女マヂカ・115  

 
『みんなでアルバイト・2』語り手:マヂカ 

 

 

 安倍先生の手紙は先生の友だちからのもので、アルバイトをしてくれる女生徒を紹介してほしいというものだ。

 立場上、教師がバイトの斡旋じみたことをやるのは憚られるので、返事を出しかねているうちに忘れてしまったのだ。

 

「仕方ない……あんたたち、お願いできる!?」

 

 ちょうど、別口の『にっぽりせんい街』のバイトがキャンセルになったノンコたちもあぶれていたので、渡りに船と乗っかて来た。

 それでも要求されている人数に届かないので、千駄木女学院のブリンダにも声をかけた。

 

 総勢七人で秋葉原の駅に降り立った。

 行先はラジオ会館をちょっと行った先にある……「なんて読むの?」 もらった地図を手にノンコが質問。

「つまごめ電気店だな」

 青い目にブロンドのブリンダが黒髪日本少女のノンコに教えてやっている。漢字では『妻籠電気店』と書く。

「ちょっとやらしくない? 『妻』って字に手籠めの『籠』だよ……デヘヘ、なんかNTR系の怪しさしない?」

「なに、NTRって?」

 ノンコの連想に、清美が素朴な質問。

「『寝取られ』の短縮形ってか、イニシャル?」

「ねとられ?」

「『妻籠』ってのは、中山道にあった宿場町で、そこから出てきた苗字よ。余計な想像すんな」

 ポコ

「アイテ! 友里がぶったあ!」

「電気店なら、販売とか倉庫の整理とかだね」

 サムがまっとうな予想をする。

「あ、あそこだ!」

 表通りから、ちょっと入ったところで古くからの電気部品の小規模店が並ぶ中に『妻籠電気店』があった。

 間口二間程度の店舗、いくらアキバとは言え、七人もバイトを使うかなあ……なにかの間違い……ちょっと心配になってきた。

 

「「「「「「「すみませーーーん」」」」」」」

 

 声を揃えて店の奥に声をかける。

 らっしゃいませ~

 電子部品やら電気部品やジャンク品がうず高く積まれた奥から声がして、丸眼鏡のオジサンが、器用に商品の山を迂回して現れた。

「あのう、日暮里高校の安倍先生の紹介で来ましたバイトの者なんですが……」

「ああ、それなら裏……いや、こっちから回ってもらおうか。足許に気を付けて付いて来て……」

「は、はい。行くよ」

 わたしが先頭になって、コードやケーブルやジャンク品が陳列というか散乱している店内を奥に進んでいく。

 バックヤードを過ぎるとドアがあって、オジサンが開けると意外な近さにもう一枚のドア。

 どうやら背中合わせ建物があって、そこへの連絡通路になっているようだ……

 

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となりの宇宙人・8『バカタレ宇宙人め!』

2019-12-24 06:18:45 | 小説4
となりの宇宙人・8
『バカタレ宇宙人め!』           

 
 
 鈴木聖也は、あたし(渡辺愛華)のとなりの家に住んでいる幼馴染(?)の亡命宇宙人。
 秋のある日、駅で暴漢に襲われ、学校では食堂の工事現場の鉄骨に潰されそうになるけど、聖也が時間を止めて救けてくれた。
 犯人は、なんと、これまた幼馴染(?)の吉永紗耶香。紗耶香も宇宙人で、聖也を抹殺するために、あたしを殺そうとした。
 あたしは聖也の命の素になる宇宙エネルギーを、聖也に合うように変換できるから。
 そのために殺されそうになり、救けられもしたんだって……でも、それだけ?


 一時間も早く目が覚めた。

 二度寝してもいいんだけど、お祖母ちゃんみたいに眼が冴えて、そのまま起きてしまった。
「なんで、こんなに早起きなの?」
 朝ごはん食べてると、起き抜けで、スッピンのお母さんに驚かれた。
「へッヘー」
 得意げにブイサイン。不可抗力の早起きだけど、なんだか気持ちいい。
 でも、この気持ちよさは、時計代わりにお母さんが点けたテレビで吹っ飛んだ。
「エ、十月二十二日……」
 かろうじて!?のダブルマークは飲み込んだ。

 あたしの昨日はどこに行ったんだ……。

 マチュピチュ遺跡に行ってグッタリ、聖也がくれた『疲れを6時間先延ばしにしてくれるドリンク』を飲んで夕方になって爆睡……そのまま、丸二日寝てしまったんだ。
「バカタレ宇宙人め!」
 聖也は、帝都国際高校なので、あたしより三十分早く家を出る。早起きしたので、文句を言ってやるのにはちょうどいい。
「ん……早く出すぎたかな?」
 駅まで行っても聖也の姿がなかった。

 早く着いた教室で、今日のテストの数学をにわか勉強。ま、得意科目なので、なんとかなりそう。

 二十分ほどでにわか勉強を終えると、クラスメートがボチボチやってくる。「おはよう」「オッス」を四人分言ったところで驚いた。
 なんと聖也が教室に入ってきた。それも帝都国際じゃなくて、わが仁科高校の制服を着て!
――聖也、ちょっと話――
 口の形だけで言って、屋上に続く階段の踊り場へ。
「いったい、なんなのよ? 日付は二日先になってるし、あんたはそんな格好だし?」
「愛華が二日寝てたのは、予想以上に疲れていたから。一昨日も謝ったけど、ほんとゴメン。で、この格好は、昨日から仁科高校の愛華のクラスに代わったから」
「どうして仁科に?」
「愛華を護るためって言ったら、気障かな」
「自分のエネルギー変換器を護るためでしょ」
「そういう言い方は夢がないな」
「夢はマチュピチュでたくさん。宇宙人としての都合もあるんだろうけど、あたしの日常をかき回すのはよしてね」
「大丈夫、今日からは全てが正常だよ。さ、鐘が鳴る、教室にもどろう」
「あたしが先、あんたは遅れて入って。教室では無関係で通してよね」
 時間差で教室に戻ったので、クラスのみんなに気取られることは無かった、無かったんだけど……。
 なんと配られたテストは、昨日の現代社会だった!?

「愛華、昨日のテスト受けてなかっただろう。欠試になるの気の毒だから、テストの時間だけ昨日にもどした」
「そういうことは言っといてよね!」
「言わなかったっけ?」
「聞いてない!」
「でも、テストはできただろう?」
「ん、ま、それは……もう帰る。付いてこないでよね」

 なにか言いたげな聖也をシカトして学校を出た。

 校門を出て違和感。昼前のはずなのにお日様が低い。振り返って校門脇の時計を見ると八時半?
「おはよう、愛華」
 なんと、聖也が駅の方から歩いてきた。
「え、聖也、あんた学校に……」
「あ、それ、昨日のオレだ」
「え……」
「今から十月二十二日が始まる。これで、テストは休まずにすむだろ」
「そんな、いま試験終わったばかりだよ」
「喜んでもらえると思ったんだけどな……じゃ、今日は無かったことにしようか?」
「あ、それも困る!」
「愛華はむつかしいなあ。ま、とにかくテストは受けようか」

 かくして、あたしは一日で二日分のテストを受けることになった。
 宇宙人がとなりに住んでいるというのは、なんともややこしい。

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Regenerate(再生)・20≪最初の決戦≫

2019-12-24 06:10:13 | 小説・2
Regenerate(再生)・20
≪最初の決戦≫
       


 スカイツリーの頂上に仕掛けたセンサーが三つのパルスを捉えた。

「三機も幸子アンドロイドがいるず……」
 三つのドットの一つが赤く光っている。行動開始のスタンバイに入った証拠だ。
 ドロシーはモニターの感度を上げた。オレンジ色のドットが108見えてきた。
「これが敵のアタッカーね……」
「モニタリングすべ」
 幸子アンドロイドを含め、109体のアンドロイドのプロフが一瞬に現れた。老若男女さまざまで、中には5歳ほどの外見をしたアンドロイドもいた。
「どうやら新宿で混乱を起こすつもりのようだな……」
 教授が呟いた。
「見かけに騙されっでねえぞ。あだしがアナライズしで情報送っで、敵のパルスだけ頼りにやっつけんだぞ」
「分かった……」
 詩織は、アズキアイスの最後を一齧りにして、バーまで噛み砕いた。

 ベラスコとの決戦が始まった。

 ドロシーは、新宿センタービルの屋上に陣取り、新宿駅の西側にバラツイテいるベラスコのアンドロイドのパルスを受信して詩織に送った。
 詩織は大胆にも、幸子の姿で幸子アンドロイドの横に立って歩いた。姿かたちだけでなくパルスまで幸子アンドロイドといっしょにしてある。

 ベラスコのアンドロイドたちに混乱が生じた。急にリーダーが二人になったのだから無理もない。

 詩織は、動きを幸子アンドロイドに同調させた。同じように驚き、同じように回避行動をとった。二人の距離は手を伸ばせば届く距離で、同じ動きなのでベラスコのアンドロイド達の混乱は増すばかりだ。二人の幸子の情報を解析するが、彼らには、その違いが分からない。だが表面は普通の通行人であった。スマホをいじったり笑っていたり、ぐずる子供と母親であったり、マックでオーダーを考えていたりする。二人の違いが分かるのは、優れたアナライザーであるドロシーだけだ。

――チャンスだ、みんな混乱して解析で手一杯だ。パルス攻撃だす!――

 詩織は、溜めこんだエネルギーをすべてパルス攻撃波に変換。半径500メートルのアンドロイドに浴びせた……これで全てのアンドロイドが倒せるはずだった。

 しかし、この攻撃で倒せたのは、わずか十数体に過ぎなかった。
――どうなってんの、ほとんど効かないわよ!――
――ち、ディフェンサーを張ってるず。このドロシーに分からないようにやるなんて敵ながらあっぱれ!――
 パルス攻撃をしかけたために、敵は詩織を認識した。100体に近いアンドロイドが一斉に攻撃を加ええてきた。武器はパルスソード、目には見えない。空を切る時にわずかに空間が歪むのでそれと分かる。並の人間には空手の真似事ほどにしか見えない。女子高生が、オヤジが、ぐずっていた子供が、母親が、アベックが、諸々の姿をしたアンドロイド達が詩織を目がけてかかってくる。
 詩織は幸子に擬態しているので戦闘力はマックスである。寄ってくるアンドロイドを次々に倒した。しかし数が多い。そして巻き添えになった通行人がパルスソードで次々に首を跳ばされ、腕を切られ、体を両断されていく。この犠牲は、なんとしても避けなくてはならない。
――ドロシー、あんたも降りてきて手伝いなさいよ!――
――だめだじゃ、あだしが降りたらアナライズでぎなぐなってしまうすけ!――

 新宿の西側は地獄絵図のようになった。アンドロイドは外郭は生体組織なので、切れば人間と同じように血しぶきや肉片が飛ぶ。巻き添えになる人間も多く、パニックは筆舌に尽くせない。
 詩織は、オッサンのナリをしたアンドロイドの外郭組織とパルスを、自分と同じ幸子のそれにした。そのアンドロイドは、他のアンドロイドたちによって、ミンチのようにされた。

 アンドロイドたちに平静が戻ってきた。しかし、破壊されたのが偽と分かるのはすぐだ。詩織はアンドロイドに擬態して、幸子アンドロイドのすぐ横に寄った。そして0・2秒幸子の姿に戻ると、幸子アンドロイドの首をねじ切り、PCの入った首を破砕した。

「とりあえず、一体は始末しました」
 教授に報告すると、教授は渋い顔でうなづいた。厳しい決戦の、ほんの序盤戦だった……。
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乃木坂学院高校演劇部物語・75『同窓会館』

2019-12-24 05:59:51 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・75   
『同窓会館』  


 
 その日のうちに同窓会館に行くことにした。

 里沙がチカラコブを作った。
 なんせ、ほとんど開かずの間。掃除や整理の見積もりをしておきたいという里沙らしい想いからだ。

 下校時間を過ぎそうなので、そのまま帰れるように部室にカバンを取りにいった。
「……自衛隊の体験入隊って、なんなのよ?」
 里沙が、ドアを開けながら背中で聞いた。
「あ、あれは……夏鈴がさ、エヘヘと笑って頭掻いちゃったりなんかするからさ……」
「あんなに誉められたら、ああするしかないでしょ」
 夏鈴がフクレた。
「そうよ、それにマリ先生のことだって、まどか驚かなかったじゃないよ」
「それはね……」

 ……ありのまま全部話した。

 祝福と非難が二人分返ってきた。それも全身クスグリの刑で……すんでの所で笑い死ぬところだった(汗)。

 部室の電気を消してドアを閉めようとした。
――あの部屋は止したほうがいいぜ。
 マッカーサーの机が、そう言った……ような気がした。
「え……」
「どうかした?」
「早くしないと、暗くなっちゃうわよ」
 里沙がせっついて、今、わたしたちは「室話談」とドアに書かれた部屋の前にいる。ちなみに、部屋の看板は戦前に書かれたものなので右から読む。

 ギー……と、歳月を感じさせる音がしてドアが開いた。

 カビくさい臭いがした。
 入って右側にスイッチがあると技能員のおじさんに聞いていたので、ペンライトで探してみた。
 年代物のスイッチは直ぐに見つかった。
 スイッチを捻った(文字通りヒネルんだ)電気は……点かなかった。何度かガチャガチャやってみた。
 廊下の明かりだけでは部屋の奥までは見通せない。
 その見通せない奥から、だれかが、じっと見つめているような気がする。
 これが理事長先生が言ってた、不思議だろうか……?
 三人で身を寄せあった。
 ――しかたないなあ。
 そんな感じで、二三度点滅して、明かりが点いた。
 しかし、点いたのは半分足らずで、部屋はセピア色に沈んで薄暗い。
 部屋の調度はピアノの場所だけが一覧表の通りで、他の椅子などはまったく違った置き方になっていた。
 さすがの技能員のおじさんも、この部屋ばかりは敬遠していた様子。
 椅子にかかった布を取りのけると、薄暗さの中でも分かるくらいのホコリがたつ。
「まずは、切れてる電球替えてもらって、大掃除……三日はかかりそうね」
 里沙が、だいたいの見通しをたてた。
「じゃ、もう帰ろうよ。なんだかゾクゾクしてきちゃったよ」
 夏鈴の声が震えている。
「風邪なんかひかないでよね。体調管理も役者の仕事だぞ」
 里沙が舞監らしく注意する。
「電球は生きてるのも含めて全部替えたほうがいいみたい。白熱電球なんか直ぐに切れちゃうよ」
「そうだね、全部で三十二個……やってくれるかなあ……ま、そんときゃ、そんとき」
「だよね」
「暖房は……スチーム。二十世紀通り越して、十九世紀だね。ヒーター四つは要るね」
 と、確認して帰ることにした。
 スイッチを切ろうとして、シャンデリアが二つあることに気がついた。
 どうしてかというと、その時になって、初めてシャンデリアの明かりが点いたから。
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せやさかい・107『二転三転』

2019-12-23 12:52:53 | ノベル

せやさかい・107

『二転三転』 

 

 

 頼子さんのお婆さんの来阪が突如中止になった!

 

 なんでも、緊急にヤマセンブルグ議会が臨時招集されることになって、議会は女王の開会宣言が無いと開けないかららしい。

「うん、イギリスがEUを離脱するんで、その緊急対策を審議するんだって」

 頼子さんは一人で堺に戻ってきて学校とうちのお寺にお詫びに回ってきて、時間を割いて、あたしと留美ちゃんにも説明してくれた。

「いやあ、いまのわたしはコタツでダミアをモフモフできたらいいよ~」

 ニャ~

 頼子さんは首までコタツに潜り込んで、ダミアをモフってるうちに寝てしもた。

 普段は大人びて見える頼子さんやけど、こうやって口を半開きにして寝てる姿は、やっと十五歳の少女や。

「諦一さんは?」

 留美ちゃんがイタズラっ子の表情で聞く。留美ちゃんは真面目一方の子ぉやから、こういう表情をするのんは珍しい。それだけ、うちらの文芸部に慣れてきたんや。ほんで、このゆる~い文芸部の雰囲気はいつにかかって頼子さんの人柄の現れ。

 その頼子さんが子どもっぽく見えて、留美ちゃんが大人びてるのは、嬉しいし、逆説めいて面白い。

 

「堺東の方の幼稚園でクリスマス会やるんで、今日と明日はお留守」

「お坊さんがクリスマスやるの?」

「うん、サンタのコス着て子どもらにプレゼント配って、いっしょにパーティーやったりするんよ」

「アハハ、そうなんだ」

「テイ兄ちゃん、若いし、イチビリやから、こういう仕事にはうってつけ。まあ、頼子さんも落ち着けるやろしね」

「そうね、知ったら悔しがるかもね(o^―^o)」

 今日の頼子さんは、そっとしといてあげたいから、テイ兄ちゃんは留守で正解。

「除夜の鐘とかは、突いたりするの?」

「それは無いわ。街の中のお寺やから、いろいろ騒音とかね」

「そうなんだ……除夜の鐘が騒音だなんて、ちょっと寂しいわね」

「坊主の孫やけど、ここの釣鐘が鳴ってるの聞いたことないよ」

「鳴らずの鐘なんだ」

「うん……」

 

 ゴーーーーーーーーーーーーン!

 

「「え!?」」

 ものごっつい近くで鐘の音がした。まちがいない、これは、うちの釣鐘の音や!

「ふぇ ふぇ?」

 頼子さんも目え覚ました。でもって、釣鐘堂に三人で向かった。

 いつもは本堂でコタツを囲んでる檀家のお婆ちゃんらも釣鐘堂の下に集まって見上げてる。

 で、伯父さんが作務衣姿で撞木を引いて、もう一発……

 

 ゴーーーーーーーーーーーーン!

 

 お婆ちゃんらが手を合わせてナマンダブを唱える。

「大丈夫ですね、ヒビとかは入っていないです」

 ヘッドホンして、なんやら機械を持った作業着の人が言った。

「ほんなら、大丈夫ですねんな」

 伯父さんが頷く。米田さんのお婆ちゃんに「なにしてるんですか?」と聞いてみる。

「釣鐘の健康チェックやねんて、安全のために二年に一回検査するんや」

 ああ、なるほど。

 これでしまいの話やねんけど、頼子さんの心に火が点いてしもた。

「除夜の鐘が撞きたい!」

 

 早手回しに、制服の袖をまくり上げる頼子さんであった!

 

 あのう、うちは除夜の鐘は撞かへんのんですけど……頼子さんの耳には入らないのであった!

 

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