ジジ・ラモローゾ:024
目が覚めてベッドの脇に目をやると、座卓の上に一瞬だけおづねが見える。
名刺大の座卓の前に座り、じっとわたしのことを見ている。『やっと起きたか』という顔をして直ぐに消える。座卓の上に広げたいろいろな所帯道具ごと居なくなる。
それが四日続いた。
四日とも、朝の一瞬だけで、絡んでくることもなく、次の朝の起き抜けまで見かけることは無い。
ま、これなら気にすることもないか。
この四日、例のウィルスが、ジワジワと猛威を振るい、東京では都知事のオバサンが不要不急の外出は控えるようにって怖い顔で言った。
怖いと言うのは、別に目を三角にしたり牙をむいたりするわけじゃない。
あの人特有の無表情。
どんな表情をしても目が笑わない。あれが怖い。
ネットで東京のあちこちを見てみる。
上野公園は閑散としてる。桜通りも夕方には通行禁止なんだそうだ……原宿……え? 人が歩いてる、けっこうな人数。あ、平日はこんなもんじゃないんだ。歩きながらクレープ食べたら迷惑になるらしい……渋谷……あ……少ない感じはするけど、人は歩いてるかな……信号が青になる……渡り切ると、やっぱ少ない。ニューヨークとかほどじゃないけどね……浅草……わ、少な! 仲見世とかも閉まってるんだろうなあ……新宿、あんまり言ったことないけど、少ないように思う……秋葉原、ああ……プレステ3でアキバを舞台にしたゲームをやったけど、あんな感じ。PCの能力で、画面に出せる人間は二十人までって、そんな感じ。
おい、ジジ。
声の方を振り向くと、座卓の上におづね。
「あ、四日ぶり」
『毎朝見てるだろ』
「喋った!」
『無駄口はたたかんのだ。こちらへおいで……』
なんか、後ろの方に手招き……ボヤっと人影が現れたかと思うと、おづねの後ろの方で立ち止まって、姿が見えた。
おづねと同じくらいの女の子。オレンジと赤の中間くらいの暖色のワンピースの下に緑色のスパッツ。
「えと……彼女?」
『たわけたことを、おまえが世話してたジャノメエリカだ』
「え、あ、ああ……」
『窓辺のジャノメエリカです。シーズンが終わったのでご挨拶にあがりました』
チラリと窓辺に目をやると、ジャノメエリカの花は全部散って、残った葉っぱも元気がない。
「ごめんなさい、わたしの手入れが悪かったのよね!」
『いいえ、シーズンが終わっただけですから、気にしないでください』
「そ、そう……でも、ごめんなさい、ここのところ忘れ……」
続けようとしたらおづねが止める。
『口にすれば言霊が災いする。ここは、ジャノメエリカの言葉を受けるだけでいい』
『ありがとう』
おづねに頭を下げてえりかは続けた。
『球根は生きていますので、鉢はそのままにしてください。また来年お目にかかります』
「そうなんだ、ほんとにごめんね」
『では、失礼いたします』
ペコリと頭を下げて、おづねといっしょに消えてしまった。
久々に庭に出て、植物たちの世話をする。
ジャノメエリカを真っ先にしたのは言うまでもない。