大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・131『青青校樹』

2020-03-16 14:43:19 | ノベル

せやさかい・131

『青青校樹』         

 

 

 

 それは台湾の卒業式やった。

 

 うちらと同じような制服着て、胸にはピンクの花を挿して、みんなで『蛍の光』を歌ってる。感極まって泣いてる子もおって、後ろの在校生やら保護者、両脇には先生や来賓の人らが厳粛な顔をしてたり、暖かく微笑んでいたり。ステージには演壇があって、式服の校長先生が気を付けして『蛍の光』を聴いてる。舞台には校旗が飾られてる。

 これは、もう日本の卒業式とかわらへん。

 そやけど、よく見ると微妙に違う。

 校旗の横に掛かってるのは日の丸と違って……たぶん、台湾の国旗。赤地の左上が紺色になってて、お日様みたいなのがデザインされてる。

「青天白日旗っていうんだよ」

 動画に見入ってる間に、詩(ことは)ちゃんがお茶を淹れてくれてる。

「あ、すみません」

 留美ちゃんは、お礼を言いながらも、まだ続いてる卒業式の動画を見てる。

「ちょっと感動ものでしょ」

「うん、よう見たら、こういう卒業式は日本ではほとんど見られへんよね」

「『蛍の光』って、紅白歌合戦で聞くくらいですよね。これって、昔の日本ですよね」

「戦前は、台湾は日本だったからね。今でも、残ってるというか受け継いでるんだよね。ユーチューブを観ているうちに、この動画に出会ってさ。ごめんね、ボリューム大きかったよね」

「ううん、うちらも感動やわ」

 お喋りしてるうちに『蛍の光』は終わって、次の歌になってた。

「「「あ……!?」」」

 三人揃って感動した。

 今度は卒業生が歌ってる。

 

『仰げば尊し』…………や。

 

 歌詞は、やっぱり中国語。

 せやけど、この感じは完全に『仰げば尊し』や。

 卒業生も在校生も、校長先生も保護者の人らも、みんな、ちゃんと卒業式の顔や。

「なんて、歌ってるんやろ」

 テロップで歌詞は流れてるんやけど、漢字ばっかりの中国語やから分からへん。

「えと……これです!」

 さすがは留美ちゃん、瞬くうちにスマホで検索する。

 

『青青校樹』

 

 ごめんなさい、ちょっと笑った。

 せやかて、チンチン……なんとかと言うんやもん。

「チンチンチャオチュ……と発音するらしいよ」

 詩ちゃんも調べるのんが早い。

 あたし一人、ボサーっとして。そやけど、涙零して、いちばんボロボロになったんはうちや。

 なんでやろ、なんで、こんなに感動……心が動くんやろ。

 

 自分でも制御でけへんくらいになってしもて、両手で顔を覆って号泣してしまう。

 

『……そうなんだ』

 夜になって、今度は、うち一人で頼子さんとスカイプ。

 頼子さんは複数のパソコンを使ってるんで、その場で『青青校樹』を検索して、二人で鑑賞した。

 さすがに、今度は号泣するようなことはなかったけど、ボロボロです。

 すると、画面の向こうでやり取りがあって……とんでもない人が現れた。

 

 じょ、女王陛下!?

 

『去年の夏はありがとう、ヨリコも喜んでるし、わたしも孫娘の事が理解できるようになってきたわ。ま、半分くらいね。それもこれもサクラさんやルミさんのおかげ。青青校樹は、わたしもいっしょに見たわ。とっても感動的でした。でも、さくらさん、あなたはもっと深いところで感動したのね。それで、自分で自分に戸惑ってる』

「は、はい、そうなんです」

『これから、いくつもキーワードを言います。わたしの日本語は頼りないからヨリコに言葉にしてもらうわ。あなたは、集中して聞いてもらうだけでいいから』

「はい」

『じゃ、ヨリコ、お願い』

 画面が切り替わって頼子さんになる。女王陛下は右下の小さな画面に移動した。

『じゃ、いくわよ』

「はい!」

『卒業式……三月……春……桜……お寺……自転車……堺……出会い……文芸部……牛丼……手袋……小学校……バラ……別れ……故郷……引っ越し……』

 いろんな単語が、脈絡があるのかないのか次々に繰り出される。女王陛下がタブレットで出してくる単語を頼子さんが訳してくれているようや。時々同じ言葉が出てくる……わたしの反応を見て組み合わせてるんやろか。

 それは、何度目かの「別れ」の組み合わせの一つとして出てきた。

『……別れ……お父さん……』

 息が止まるかと思た。

 急に、忘れてたお父さんの姿が、後姿がありありと浮かんできた!

 

 お、お父さ……ん……お父さああああん!!

 

 その場に泣き崩れてしもて、それを聞きつけた詩ちゃんが向かいの部屋から飛び込んできた。

 

 

 

 

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・71「夏休み編 美晴の思い出ポロリ」

2020-03-16 06:30:04 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
71『美晴の思い出ポロリ』   





 Tシャツを脱いだのがまずかった。

 ゆるーい山なりのボールだったので、楽にスパイクできると思ったのも浅はかだった。
「テーーッ!」
 感じとしては70センチくらいジャンプして、思いっきりスパイクした。

 バチコーン!

 で、ボールは相手チームのボブの頭にヒットした。
 ボブは運動神経のいいマッチョで、それまで打ち込まれたスパイクを全部返している。
 そのボブがとりこぼした。
 胸のすく思い!
 で、ゲームが停まってしまって、敵味方の視線が集まってくる。

 一瞬の後、男子の視線が動物的で女子の視線が――かわいそう!――になっているのに気付く。

 なんと水着の上がずり上がって、わたしの控えめな胸が露出しているではないか!!
「ウグッ」
 踏まれたカエルみたいな声が出てしゃがみ込んでしまった。

 タイムタイム!

 女子リーダー格のアガサと二人ほどが寄ってきて早口で慰めてくれる。
 いそいで水着を整えて「ドンマイドンマイ」を連発。言いながらドンマイの用法間違ってると思いながら、でも気持ちは通じたようで、わたしの不幸なアクシデントへのシンパシーを感じた。
「いいこと! 今のことは頭からディレートしときなさい! 特に男子!」
 男子は真剣な顔でコクコク、みんないい人だ! 
 でも、一人ミッキーが鼻血を流している。
「ちょ、ミッキー!」
 アガサが非難すると、やにわにミッキーはアサッテの方角にダッシュ。
――え、なに?――
 振り返ると、二つ向こうのコートで数人の男子とどつき合いになっている。
 罵倒し合う声はわたしの語学力じゃ理解不能。
 そのうち、こっちの男子が全部向こうに行って、ミッキーに加勢し始めた。

 その後、ホテルの警備員が三人やってきて、なんとか収まる。

「あいつらが、こっちのアクシデントを撮ってたからさ」
「けっきょくはミッキーの早とちりだったんだけどね」
「ミッキーは悪くないぜ、ああいう状況でスマホ見ながらニヤニヤしてりゃそうだと思う」
「あいつらゲーム始めた時から、ヤラシー目でチラ見してたもんね」
「こっち見んな! って思ってたもん」
 みんな頭から湯気を出しながら怒ってる。
 
 あれからホテル併設の温泉に浸かっている。

 アメリカで温泉なんて意外なんだけど、アメリカの西海岸は地震地帯で、地震あるところには温泉がある。
 世界高校生徒会会議が流れたので、ミッキーが仲間を集めて一泊の温泉旅行を企画してくれたのだ。
 ビーチバレーを始めた時は他の女の子の心配ばかりした。
 だって、みんなスゴイ胸だからゲーム中にポロリしてしまうんじゃないかとね。
 で、実際は、わたしの胸では滑り止めにもならないでポロッったわけ。
 めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど、それ以上にみんなの心遣いが嬉しかった。
 
 温泉と言っても、日本と違って水着で入る。

 で、ほとんど温水プールなんだよね。マジ殺菌用の塩素の臭いがきつかったりする。
 温泉上がって宴会ってことにもならないしね、設備だって有馬や白浜を思い浮かべると残念だったりするんだけど、それを補って余りあるサンフランシスコ。やっぱ、根本は人間なんだ……。

 付き添いのリンカーン先生がプールサイドのプラスチックの椅子を蹴倒しながらやってきた。

「ミッキー喜べ! 君の交換留学が決定したぞ!」
「え、え、この時期にですか?」
 アメリカの新学年は目前の九月からだから、決まるとしたら、もう一か月は早く決まっているはずだ。
「急に参加できない子が出て、補欠合格だ!」
「で、どこの国の学校ですか?」
 留学にも当たり外れがあるようで、決まっただけでは喜ばない。

「日本のカラホリ高校だ!」

 日本ということで、みんなは口笛ヒューヒューで祝福した。

 悪いやつじゃないんだけど、ちょっと気が重くなった。

 わたし、瀬戸内美晴の夏休みはサンフランシスコの温泉で終わりを迎えようとしていた……ま、いいんだけど。
 

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坂の上のアリスー21ー『墓参り奇譚・1』

2020-03-16 06:22:08 | 不思議の国のアリス

坂の上のー21ー
『墓参り奇譚・1』   



 

 墓参りなのに、俺たちは手ぶらだ。

 お花とかお線香だとか水桶だとかが要ることぐらいは分かっている。
 去年は、そういう墓参りセットを持ってきた。

 だけど、根岸さんのお家の人に分かってしまってはいけないので、今年は手ぶらなんだ。

「しかし暑いなあ~」

 ゴシゴシと汗を拭きながら真治がぼやく。

 梅雨明けしたのはいいが、三十五度を超える猛暑日の墓参りは堪える。
「一子は、汗かかないのな?」
 俺も、カッターシャツの第二ボタンまで外し、タオルハンカチで腋の下まで拭きながら、涼しげな顔の一子にボヤク。
「わたしだって暑いよ」
「でも、ちっとも汗かいてないじゃん」
「……帽子被ってるから」
 たしかに静香は、高校野球の開会式でプラカード持って選手たちを先導する女子高生みたいな、白いツバ広の帽子をかぶっている。日光が柔らかく遮られて、いつもの一子とは違って……その……。
「フフ、きれいに見える?」
「ち、ちがわい!」

「あ、そなにきつく否定しないでくれる」

「あ、ああ、すまん」
 実際幼なじみの一子とは思えないくらいイケている。
「でもさ、そんな帽子ぐらいで凌げる暑さじゃねえだろ」
「フフ、秘訣があるのよ」
「「どんな!?」」真治と声が揃う。
「京都の舞妓さんとかは、真夏でも汗かかないでしょ」
「そっか?」
 そう言いながら、真治は「舞妓さん汗かかない」とスマホに打って検索しだした。
「へー、舞妓さんて腋の下を帯とか紐で縛って……すっと、胸から上は汗かかないんだってよ」
「「へー、そーか」」ハモって、真治と一緒に一子の胸のあたりを見つめる。
「な、なによ!?」
「一子は帯とかはしてないよな」
「てことは……分かった! ブラジャーで締め上げてんだ!」
「も、もう知らないわよ!」
 たぶん、一子は真っ赤になっているんだろうけど、帽子のせいでよく分からない。
「さ、着いたわ。ここよ!」
 ちょうど墓地の正門に着いたので、一子は切り替えるように宣言する。
「よし、行くか!」
 真治が踏み出す。
「待って」
「え、もうすぐそこだよ」
「去年みたいに、お家の人とか来てると厄介じゃない、亮ちゃん、偵察に行ってくれない?」
「あ、そうだな」
 お盆の時期は外しているとはいえ、念には念を。俺は一人で偵察に行くことにした。

 根岸さんのお墓は、いくつかブロックがある墓地の西のはずれにある。

 俺は南側から迂回して、根岸家先祖代々の墓に向かった。
 さすがにお盆の一か月前、墓参りの人は数えるほどしかいない。根岸家の墓のあるブロックに人影はない。
 これなら大丈夫……安心した瞬間、胸の高さの墓石群、根岸家の墓があると思しきところから、白いワンピにツバ広帽子の女の子が立ち上がった。

 やっべー!

 俺は、傍らの立木の陰に身を隠した。
 女の子の気配が、こちらに向かってくる。
 でも、気配に緊張感は無く、俺には気づいていないようだ。
 女の子は、俺が隠れている立木の横を通過する。
 立木を回りながら女の子の横顔を見た。

 白いツバ広の帽子の下に見えた顔は……え?……根岸さん……死んだはずの根岸利美さんだった!!


 

 ♡主な登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

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ここは世田谷豪徳寺・42《現実版 はがない・3》

2020-03-16 06:05:11 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・40(さくら編)
《現実版 はがない・3》   



 ダメモトでメールを打った。

 そしたら、坂東はるかが本当に来た。

「いま豪徳寺の駅。どう行けばいいのかなあ?」
 電話がかかってきたのでタマゲタ。なんたって昨日の今日だ。駆けだしで、その駆けだした足も半分しか上げていないあたしは、日曜の半分はお休み。でも、本当にはるかさんが来るとは思わなかった。
 なんとか、自然なお礼と、励ましの言葉を考えていたら、単純な脳みそが「じゃ、呼んであげたら?」と答を出した。

 あたしは「直ぐ迎えに行きます」と返事して、トレーナーに半天だけという、お隣に回覧板回すような格好で、豪徳寺の駅に向かった。

 改札の前に、はるかさんは待っていた。

 ジーンズにザックリした男物の革ジャン。で、スッピン。いつもの営業中のオーラはない。髪はポニーテールとヒッツメの中間。人が見たら、きっと、こう言うだろう。
「きみって、残念なときの坂東はるかに似てるね」
「ね、二人乗りしていこうよ」
 はるかさんが、自転車の後ろに跨ったときに、北側警察の香取巡査が、デニーズの角から現れた。
「あ、二人乗りだめなんだよね」
「あ、香取さん」
「あ、さくらちゃんじゃない。有名になっちゃったね、がんばってね。そっちお友達? さくらちゃんいい子だから。いい休日を」
「は、はい、どうも」
 香取巡査でも、はるかさんには気づかなかった。

「はるかさんの、オンオフってすごいんですね。誰も気づかない!」
「さくらちゃんのおかげよ。わたしリラックスしてんの」
 で、仲良く自転車を押して桜ヶ丘の我が家に向かった。
「うわー、なんだか、昔住んでた大阪の高安に似てる。三階建てなんだ、大橋先生ちといっしょだ」
「だれですか、それ?」
「わたしをこの世界に引きずり込んだ……まあ、恩人てことにしときましょう。この革ジャン、先生のガメテてきちゃったの」
「へえ、そのへんの話も面白そう!」
「ま、近いうちに本が出るから読んでちょうだい」
「あ、『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』ですね。ただいまあ、はるかさん来たわよー(^^♪」
 インタホンに告げると、二階の玄関を開ける音がした。お母さんがニコニコ頭を下げる。
「どうも、急にお邪魔しちゃって。さくらさんにお友達していただいている、坂東はるかです。せっかくの日曜にに押しかけてすみません」
「いいんですよ、わたし日曜とか関係ないから。どうぞ、お上がりになって」

 それから大人同士の挨拶になり、はるかさんはお土産に伊勢のエビせんべいをくれた。

「わたしの、好物なんです。きっとみなさんも好きだろうって、思いこみですみません」
 で、とりあえず、リビングで、エビせんべいを開いてお茶にした。
「へえ、お母さん作家なんですか!?」
「ハシクレですけどね」
「うちの母も作家なんです。坂東友子、ご存じないですか?」
「知ってるわよ! いっしょに出版社の文学賞もらったから。わたしの少ない作家仲間よ。奇遇、奇遇、大奇遇! そうか、そうか~! トモちゃんの娘さんなんだ!」

 人間というのは、思いがけないところで繋がりがあるみたいだ。

「そう、トモちゃん。うちに娘さんが来てるのよ。どこの……あんたの娘に決まってるでしょ。今替わるから」
「あ、お母さん。はるか……うん、元気……たまに大阪行っても、お母さんスケジュール合わないんだもん……はいはい、心がけておきます」

 親子の電話は、それでおしまい。あたしたちは、三階のあたしの部屋に行った。

「ハハ、懐かしいなあ、この散らかりよう」
「もう、お母さん、ちょっと片づけてくれたらいいのに!」
「ぜいたく、ぜいたく。それに、これくらい散らかってる方が落ち着く。大阪の友達で由香ってのがいるんだけどね、この人の部屋は、片づけすぎて落ち着かないの」

 とりあえずフロ-リングのあれこれだけ片づけて、電気カーペットのスイッチ入れて、二人そろって足を投げだした。

「わたしの『はがない』は『私は故郷がない』でもあるんだよ……」

 はるかさんは、ミゼラブルなことをサラリと言った……。   

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魔法少女マヂカ・137『突撃!』

2020-03-15 14:44:04 | 小説

魔法少女マヂカ・137

『突撃!』語り手:マヂカ    

 

 

 

 十銭玉の威力は絶大だ!

 

 醜女たちは一円玉を頼りに、自分たちこそ『これ以上崩しようのないブス!』を自任していたが、戦後生まれの悲しさか、一円以下の貨幣価値など想像も出来ず、一円の1/10の威力に恐れをなした。正面から十銭玉の威力を目にした者は、瞬時に『醜』の字が霧消してしまい、普通のモブやNPCに還元されて昇天してしまう。

 昇天の間際にブスブスと煙を上げるのが、せめてもの醜女の意地であろうか。

 かろうじて直視することから免れた醜女たちは煙を引きながら地底深く千尋の底へ潜っていく。

「くたばれええええええどす! いてまえええええええどす! 黄泉の風穴は幾十、幾百に枝分かれ、枝に潜られる前に、いてまえどすうううううう! くたばれどすううううううう!」

 ジュババババババババババババババババババババ!

 ウズメは、四方八方へ首を回し、十銭玉光線を目につく限りの枝穴に照射する! 我々も見習って十銭玉光線をせわしなく照射するが、ウズメほど機敏になれず、一つ二つと見落としが出ているような気がする。

「ウズメ、もう少し速度を落とせない? 見落としがあ……」

「一気呵成に底を、あやつの奥つ城を目指さなあきまへん! 一刻も早よおに!」

 なにを、そこまで焦らなければならない?

「後ろから来る!」

 ブリンダが叫んだ! 首を巡らしてチラ見すると、見落とした風穴から醜女たちがわらわらと湧いて出て、背後を脅かしにかかる。

「喰らえ! 十銭玉こーーーーーせーーーーーーんんんんんんんんんんんんんん!!」

 ジュババババババババババババババババババババ!

 裂ぱくの十銭玉光線をお見舞いする!

 しかし、この新手の醜女どもは、たじろぐことなく眉間の一円玉をかざしながら突き進んでくるではないか!?

「ウズメ、十銭玉が効かないぞ!」

 ブリンダが、バリアを張りながら叫んだ。

「あれは……一銭玉どす! 十銭の1/10! 口惜しいけど、しばし撤退どす! バリアを最大にして回れ右いいいいいい!」

 三人、バリアを前方に集中し、音速で突き抜ける!

 させるものかああああああ させるものかああああああああ

 呪いを呟きながら、醜女たちは次々に襲い掛かってくる! バリアはバチバチと音を立てて弾いていくが、一銭醜女たちは、数を増すばかりで、まるで、イナゴの大群に盾一枚で立ち向かっているようなありさまだ。

「ク……方向を見失う」

「ま、前が見えない」

 ズコ ゴッ ゴツン ガツン ボコ ドゲシ ガシッ

 風穴の側壁にぶつかり、並んだブリンダともクラッシュして、このままでは自滅と思った瞬間……。

 

 ズボボボボボーーーーーン!!

 

 数多の一銭醜女たちをまとい付かせながら、風穴を飛び出た。

 なんということだ、風穴はあちこちに広がり、そこから、無数の一銭醜女どもが雲霞の如く湧き出してくる。掲げたバリアは、半分ほどに擦り減り、これ以上の進撃はおろか防御も困難に思われた。

 醜女どもは、ほとんど満天を覆うほどになり、醜女どもの瘴気で隣にいるブリンダの姿もかすみ始めている。

 もう撤退しかないと観念しかけた時、何かが…………弾けた!

 

 ズッゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

 

 電柱ほどの太さの光の束が雷のように走り、光はプラズマを発して、半径二十メートルほどのトンネル状に醜女どもを蒸発させた。

 穿たれたトンネルの向こうに見えたものは…………北斗だ!

 嵐山のトンネルで瘴気に絡めとられて足止めされていた北斗が、ようやく追いついて、主砲である量子パルス砲を発射して、醜女の山に一穴を穿ってくれたのだ!

「撤退どすうううううう!!」

 光速でトンネルを抜けると、バシュっと音を立てて醜女のトンネルは閉じてしまった。

 

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・70「ネヴァダ幻想」

2020-03-15 06:47:39 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
70『ネヴァダ幻想』   





 ちょっと待って。

 感覚が追いついてこないのよ。


 一昨日まではサンフランシスコに居て、昨日はラスベガスだった。
 ラスベガスは、砂漠の中に忽然と現れた夢の国みたい。
 着いたのが夜だったこともあって、ほんとにファンタスティック。
 どこのナイター中継ってくらい街中が煌煌と輝いていて、その輝きの中にピラミッドやスフィンクスやエッフェル塔が建っていて「うわーー!」なんて感動してたら、いつの間にか周囲はホテルやカジノ。
 さすがはアメリカ、スケールが違う。

 その興奮のまま、いま目の前に広がってきた景色は反則だよ。

「これがアメリカよ」

 シンディーが見せたかったのは旅情あふれるサンフランシスコでもなく、ラスベガスのアミューズメントでもないことが分かった。

「ここって地球だわよね」

 須磨先輩のこわばりが介助してくれている車いすのフレームを伝わってくる。
 シンディーの手配でキャタピラ付の車いすになったんだけど、その意味が分かった。
 ここはキャタピラでなきゃ車いすは動けない。と言ってワイキキビーチの楽しさなんかかけらもない。
「どこでもドアとかで連れてこられたら火星かどこかの星かと思うで」
 啓介先輩がポツリ。
 映画だったら、ここでカメラは引きのアップになって、パノラマになった景色の上にタイトルが浮かんでくるだろう。
 
 デスプラネット……とかね。

「ここに勝てるとしたら、原爆投下直後のヒロシマかナガサキだけよね」
 
 そう、ここは世界で一番核兵器が炸裂したネヴァダ砂漠の核実験場痕なんだよ。
「1057回もやったのよ、ほんとクレージー」
「ほんなら、あのクレ-ターて、みんな核爆発のんか?」
「そうよ、こんな景色、月面か火星の地表でしかお目にかかれないでしょうね」
 しばらく歩くと赤茶けた金庫が半ば埋まっているのが見えた。
「岩かと思った」
「何回目かの実験に金庫の耐久性の実験に置いたのよ。金庫屋がスポンサーになったのかも」
「核実験にスポンサーが居たんですか?」
 真面目に聞くもんだから、シンディーはクスっと笑った。
「1057回もやったから、いろんなことを試したくなるんでしょ。最初はシェルターとか軍用車両とか各種の建築物とか防護服だったけど、アイスクリームは熱線に耐えられるとか……まさかね。でも金庫はほんとにCMに使ったのよ。さて、みんなスマホ出して、あっちの方にかざしてくれる」
 このネヴァダツアーに行くについて、みんなはアプリを入れている。
 要所要所でかざすと、その場所の情報が映るらしい。

 クチュン!

 太陽が眩しくて横を向いてクシャミした。
 その拍子にさっきの金庫が画面に入ったかと思うと、金庫のテレビCMが始まった。
 グラマーなオネエサンがにこやかに金庫を指し示し、明るい声でなんだか言ってる。英語は分からないけどCM。
「おっかしいなあ、見えるはずなんだけど……」
 顔を上げるとアプリの調子が悪いのか、シンディーが悪戦苦闘している。

「調子が悪いようだね」

 声に振り返ると、アメリカ人にしては小柄な男性が笑顔で立っている。

「あ、あ、伯父さん!」
 シンディーの顔がパッと明るくなった。
「あ、えと、わたしの伯父さん。どうして、もう何年も会ってないのに!?」
「忙しくてな、シンディーこそ、この子たちは友だちかい?」
「うん、日本の友だちで……」

 わたしたち四人を紹介してアプリの調子が悪いことを説明した。
 なんだか子供っぽく甘えた口調になっている。きっと大好きな伯父さんなんだろう。

「スマホ使わなくたって見えるよ」

 そう言って伯父さんは、ワイパーのように腕を振った。
 すると、一キロほど目の前に広くて大きな工場が見えた。
「あれは?」
「ロスアラモスの原爆工場だよ」

 ロスアラモスって……少し不思議だけど、目の前にあるんだからそうなんだろう。

「あそこで核兵器を作ったの?」
「そうだよ、こんな砂漠の真ん中にね……ここなら人の目にもつかないだろう、まだ人工衛星も無い時代だからね」
「えと、工場の上に家が建ってるみたいなんだけど」
「宿舎かなんかですか?」
「上から見たら分かるよ」

 オジサンがそう言うと、みんなの体がゆっくりと浮かび上がった。

 え、えーーーー!?

「大丈夫、怖かったら手を繋いでいるといい」
 須磨先輩ははわたしの体ごと車いすのフレームを押えてくれる。

「これは……!?」
「なんてこと!?」
「目の錯覚?」
「こんなこと……」

 そのあとは言葉も出ない。
 なんと、工場の上には街が出来ている。
「飛行機が上を通っても街があるとしか見えない、敵からも味方からも知られない完璧なカモフラージュだよ。作ったのはディズニーのスタッフたちだ。うまくやるもんだろ」

 わたしたちは空に浮かんだまま工場とカモフラージュの街を見た。数分か十数分か、そうやって。ゆっくりと地上に戻った。

「あれ……伯父さんは?」

 地上に着くと伯父さんの姿は無かった。

「ちょっと待って、あんな伯父さん、覚えがない……」
 シンディー自身が一番ショックだったようで、スマホを取り出して電話を掛けている。
「もしもし、あ、お祖母ちゃん?」

 お祖母ちゃんに電話で確かめたところ、シンディーが生まれるずっと前に亡くなった伯父さんがいたそうだ。
 軍隊で核兵器の開発と管理の仕事をしていて、何度も核実験に立ち会って若くして亡くなった人らしい。
 ディズニーとかのアニメが大好きで、オタク風に言うとアメコミファンだったらしい。
 うまくやるもんだろうと言っていた。

 面白がっているようにも非難しているようにも感じられる。

 ずっと考えているには暑すぎるネヴァダ砂漠だった。
 

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坂の上のアリスー20ー『……この道でいいのか?』

2020-03-15 06:34:37 | 不思議の国のアリス

坂の上のー20ー
『……この道でいいのか?』   



 

 二年前の夏、俺たち三人は前野原高校の一年生だった。

 ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ…………

「なにが悲しくって……ハッ、ハッ、ハッ、北海道まで来て走らなきゃならないんだ……」
「文句言うな……ハッ、ハッ、ハッ、ハ、早いとこ完走しちまおうぜ……」

 夏の宿泊学習に、俺たち一年生は北海道まできて持久走をやらされていた。

 ホテルの前には、所々の林を抱えて原野が広がっている。
 その林を一里塚にして、全行程十二キロキロのコースだ。
 六キロの中継点を越すと、一番大きくて深い林の中に突入する。

 林というのは国土地理院の分類上の呼称で、都会住まいの俺たちからすれば立派な森だ。
 二三分も走ると薄暗く、コースの案内板も注意していなければ見落としてしまう。また、林の中には別のハイキングコースや、ツ-リングのコースなどもあったりして、うっかりすると間違えて迷い込んでしまう。
 いちおう中間地点と出口に先生が待機しているが、林の中全体に目が行き届いているわけではない。

「……この道でいいのか?」

 真治の速度が落ちた。

「地図は、こっちだけどな……」
 俺も速度が落ちて、窪地に下る手前で、二人そろって停まってしまった。持久走なもんでスマホは持たせてもらえず、学校がくれたコースの地図一枚が頼りだ。
「後から走ってくるのが一人も居ないぞ……」
 俺たちは耳をそばだたせた、
さっきまで聞こえていた足音や愚痴やらが聞こえてこない。

 その時、下の窪地の方で気配がした。特に音がしたというわけではないのだけど、なにか……激しい息遣いを感じさせるような気配が。

「……く、熊か!?」
「熊の心配は無いって、先生言ってたよな?」
 神経を集中させると、どうやら人の息遣いだということが分かって来た。

 ウン、ウン、ウン、ウン、ウン……(;゚Д゚)。

「お……一子じゃないか!?」
 窪地まで下りてみると、木漏れ日に照らされ「北村」とゼッケンを付けた一子が、同じジャージを着た女生徒に人工呼吸をしているのが目に入った。

「りょ、亮ちゃーーーん!! 根岸さんが、根岸さんの呼吸が戻ってこないよ!」

 静香が人工呼吸をしていたのは、同じクラスの根岸利美さんだ。目はうっすらと開いてはいるが、唇に色が無く、心肺停止であることが見て取れた。

「か、代われ、俺がやってみる!」

 ひと月ほど前に、消防署から人が来て部活関係で心肺蘇生法を習ったばかりだ。まさか、たった一か月で実践することになるとは思わなかった。それも同級生の女の子に。
 でも、その意識は後から思ったことで、その時は、なんとかしなきゃの一心だった。
「気道を確保できていない、鼻もつまんでないじゃないか!」
 人工呼吸の要諦は、気道確保と確実な酸素吸入だ。俺は一からやり直した。

 今から思えば、一人が先生を呼びにいくべきだった。

「いいか、人工呼吸をやったのは最初から俺だった。一子と真治は先生を呼びに行ったが間に合わなかった」
「亮ちゃん……」
「亮介……」

 ……根岸さんの呼吸は戻ってこなかった。

 俺一人が責任を取ればよかったんだけど、一子は正直に話してしまい、結果的には真治共々三人学校を辞めることになってしまった。
 根岸さんのご両親の怒りはすさまじく、俺一人が辞めたぐらいでは収まりがつかなかったので、学校も俺たちを擁護することも無く、スルーしてしまった。

 去年の夏に根岸さんの墓参りに行った。そこで、タイミング悪くご両親と鉢合わせしてしまい……双方とても不愉快な思いをした。

 だから、一子の提案には腰が引けてしまったんだ。

 俺たちの、一年ぶり二度目の墓参りが始まることになった……。


 

 ♡主な登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

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ここは世田谷豪徳寺・41《現実版 はがない・2》

2020-03-15 06:17:26 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・41(さくら編)
現実版 はがない・2》   



 

 はがないとは『僕は友達が少ない』の平仮名を拾ったもの。

 人気ラノベで、今月の初めから実写版がロードショーにかかっている。
 で、この芸能界で、はがないことを気にしている坂東はるかさんと、あんまし気にしていない佐倉さくらこと、このあたしが乃木坂近くのKETAYONAって店で二人女子会をやっている。

「あたしは子どもの頃から『はがない』でしたから、あんまし気になりません」
「そっか、そのへんの違いかな。あたしはデビュー前から、友達は多くってね、そのへんで寂しいと思ったことは無い人なの」
「それは、ラッキーっていうか、あたしは真似できませんね。はがない慣れしてるもんで、かえって気を遣いますね」
「でも、少しは居るんでしょ?」
「もちろん、ゼロじゃ、寂しすぎますから」
「あたしは、ほとんどゼロに近い『はがない』だな」
「たくさん居たお友達は?」
「みんな別の世界に行っちゃった。かく言うわたしも人から見たらそうなんだろうけどね。芸能界って特殊でしょ。みんな表面はヨロシクやってそうにしてなきゃいけないし、微妙に先輩後輩の区別、売れなくなると、親友みたいに仲良かったのも離れていっちゃうし。さくらちゃんは、この世界、まだ片足だけだから、頼りにしてます」

 はるかさんが頭を下げた。大急ぎで、あたしも頭を下げる。

「こちらこそ」
「ほらほら、そういうのが、この世界の因習なの。さくらちゃんより千日ばかり年上なだけなんだから、もっとフランクに」

 そのとき、ドアがノックされた。

「ごめん、雪でなかなか着かなくって……」
「よかった、来てくれないんじゃないかと思った!」
「はるかちゃんに呼ばれて来ないわけないでしょ、ほんの顔出しだけだけど」

 あたしは、ビックリした。若手で売り出し中の仲まどかさん本人だ。

「あ、あたし、ご一緒させていただいてる、佐倉さくらです」
「ああ、渋谷のスマホゲンカで有名な!?」
「あ、ご存じだったんですか(;^_^A」
「『限界のゼロ』も観たわよ。あなたの驚きの表情って、とてもいいわね」
「『春を鷲掴み』でいっしょになったの。で、あたしのはがない晩ご飯に付き合ってもらってるわけ」
「いえ、あたしこそ、ご馳走になって。まどかさんて、はるかさんと幼なじみなんですよね」
「うん、若干のブランクはあったけど、あたしは四つから。はるかちゃんは五つからのお付き合い。このごろ、南千住には行ってないって?」
「うん、やっぱ遠慮しちゃう。お父さんも秀美さんも忙しいし……赤ちゃんもいるしね」
「ああ、元気のモトキ。弟なのにね」
「半分だけね……」
「複雑なんだね。じゃ、うちおいでよ。大歓迎するわよ」
「気持ちは嬉しいけど、まどかんち行って、お父さんとこ顔出さないわけにいかないじゃない」
「そっか……」
「まどかさん、今度アメリカに勉強に行くって、週刊誌に出てましたけど」
「え……ま、まあね」
「やっぱ行くんだ」

 はるかさんが、寂しそうにため息をついた。

「ほんの半年。あたし、はるかちゃんみたく天分の才ってのが無いから、ちょっと勉強しないと長続きしないから。ね、さくらちゃんみたく魅力のある子は続々出てくるしさ」
「あ、すみません」
「あ、そういうつもりじゃないのよ。この世界はそれで持ってるんだから」
「まどか、あんたアルコールはいけるんでしょ。わたしたちに遠慮しないでやってちょうだいね」
「お気持ちは嬉しいんだけど、これからマリ先生とこ」
「そうなんだ……わたしたちも一緒じゃダメ?」
「あ、ダメダメ。週刊誌が先生の歳バラしちゃったじゃん。あれのヤケクソ会だから、事情知ってるものだけだから。はるかちゃんは知らないことになってんの、あ、ヤバイ、時間だ。じゃ、また時間合ったら遊んでね。さくらちゃんも。じゃ」

「失礼し……」

 挨拶を半分も聞かないで、脱いだばかりのブルゾンを引っかけてまどかさんは行ってしまった。

「時間が合ったらか……アメリカいっちゃうのにね」
「マリ先生って、上野百合さんですか、女子高生からオバアサンまでこなす名優?」
「そっか、さくらちゃんは、二冊とも本読んでるんだ」
「マリ先生はサバ読んでるんですよね、確か十歳ほど」
「あ、ナイショだからね」
「はいはい」
「ちょっとは、この世界の片鱗が分かったかな?」
「はい、勉強になりました……こんなこと言って僭越なんですけど。よかったら、あたしんちに来られません? 狭い家だけど間数はありますから。近所に元華族の四ノ宮さんてブットンだ人も居て、まあ、退屈はしませんから」
「ほんと? 行っちゃうよ、坂東はるかは!」
「どーぞどーぞ。家族は……見てのお楽しみってことで」
「おもしろいの、さくらちゃんのご家族って?」
「ええ、なんちゅうか、家族それぞれで小説が一本書けそうなくらいの人たちです」
「行く行く、絶対行く!」

 かくして、月とすっぽんほどに違いはあるけど、芸能界のお友達が我が家に来ることになった。

 ますます、バリエーションが増えそうな兆し!

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ジジ・ラモローゾ:021『赤いフリース』

2020-03-14 14:04:18 | 小説5

ジジ・ラモローゾ:021

いフリース』  

 

 

 チラチラと、閉じた目蓋を通しても分かる木漏れ日で気が付いた。

 

 右の方が灌木の斜面になっていて、ワラワラと茂った葉っぱの隙間から光が漏れている。

 斜め上から落ちてきたんだろう、所どころ灌木の枝が折れて、下草も乱れている。少し首を巡らすと自転車のハンドルが草原からニョキッと覗いている。

 急な斜面は高さが三メートルほどもあって、自力では登れそうにない。

 幸い体はなんともなく、悲惨な状況の割には落ち着いている。

 自転車をあきらめたら登れるかなあ……いやいや、結論を出すのは早い。周囲を探って、自転車を押しても上がれるところを探そう。斜面の上に道があるんだろうから。

 ヨッコイショっと……。

 自転車を立ち上げて目視点検……だいじょうぶ。葉っぱや蔓が絡んでいるけど壊れてるところはない……と思ったら、後ろのタイヤがパンクしている。

 これは、斜面の上まで引き上げても、家までは押して帰らなきゃならない。

 仕方がない、取りあえず上がれるところを探そう。

 カチャリ

 自転車のスタンドを立ててる。立てておかないと草叢に隠れて見失う。

 草叢自体緩い斜面になっているので、取りあえずは上りの方角に向かう。上って行けば上の道路に出られるところが見つかるだろう。

 ああ、ダメだ。

 二十メートルほども行くと、草叢の斜面はストンと落ちて谷間になっている。

 仕方が無いので、回れ右して下りの方角に進む。

 あれ?

 二十メートルは戻ったはずなのに自転車が見当たらない。

 また倒れたのかなあ……?

 草叢をかき分けるんだけど、見当たらない。

 え? え? ええ!?

 ちょっと焦って探すんだけど、見当たらない。場所間違えた? こけてる?

 ピョンピョンしながら探ってみるけど見当たらない。

 ちょ、ヤバいよ。

 キョロキョロしてみる。ようやく『だいじょうぶか、あたし(;゚Д゚)』という気になってくる。

 とにかく道を探そう。

 やみくもに歩いては迷いそうなので、フリースを脱いで斜面の木の枝に掛ける。赤いから、ちょっと離れても目印になる。

 しっかりとフリースを確認して、エイっと気合いを入れる。少し歩いて振り返る。うん、ちゃんとフリースは見えている。

 

 ビュン パシッ!

 

 何かが鼻先を掠めて、斜面の木に当った。

 え?

 ビュン パシ!

 今度は見えた。目の前を石が飛んで、斜面の木に当った。

 ビュン パシ!

 また飛んできて、さっきよりも、高いところの木に当った。

 

 あ?

 

 石が当たった木の枝にロープが掛かっているのが見えた。

 ロープは斜面の上に伸びている。えっさえっさと近寄ってロープを引っ張ってみる。

 グングン!

 引っぱってみると確かな手ごたえがあって、ロープを頼りに上って行けば元の道路に戻れそうな気がする。

「よし!」

 声を出して、ロープを手繰りながら上がる。

 よいしょ よいしょ よいしょ………やったー!

 十回ほどたどると、パーっと視界が開けて元の道路に上がることができた!

 それに、目の前には、ちゃんと自転車が!

 訳わかんないけど、とにかく助かった。

 もう一時も、ここには居たくないので、自転車にまたがる……が、パンクしている。

 だよね、パンクしてたんだ。

 仕方なく、コロコロと自転車を転がす。

 

 あ!?

 

 三叉路まで戻って気が付いた。フリースを置いてきたままだ!

 でも、取りに戻る気力無し。

 

 三十分近くかかって家に戻る。

 幸いお祖母ちゃんは庭いじりをしていて「おかえりぃ」と声が聞こえてきただけ。

 フリースは無いし、あちこち泥とかついてるし。見られたらヤバイ。

 あーーーー疲れたあ!

 ベッドにひっくり返って、そんで、ビックリした。

 

 壁のハンガーに、あのフリースが掛かっていた……。

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・69「思い出のサンフランシスコ・7」

2020-03-14 06:19:09 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
69『思い出のサンフランシスコ・7』   




 オタク文化の経済的波及効果は4兆円だって!

 大阪府の年間予算が3兆円、東京都が7兆円だから、そのすごさが分かる。
 ちなみに世界の国々で年間予算が4兆円に達しない国が80%もあるから、その気になってオタクが団結すればそこそこの経済規模の国が出来てしまう。

 こんなことを思い知ったのは、二日前に行ったカセイドールで仲良くなったメイド長シンディーのおかげ。

「ヤッホー、お言葉に甘えてやってきちゃいました」
 達者な日本語でホテルに現れたシンディーは、お店のフリフリメイド服と打って変わって、カットソーにダメージジーンズ。
 化粧っ気も全くなしなんだけど、内から輝くものがある人で、人間の美しさは基本的には内面なんだと思い知る。
「だけどミリーもすごいわよ、てかウラヤマよね。日本に五年も交換留学してるんなんて、いったいどんな星の元に生まれたんだろうね」
 シンディーはノーパソを持ってきてくれた。
「先週終わったばかりの夏コミ情報だよ」
 ノーパソを部屋のテレビに繋いで、みんなで鑑賞。

 うわーー!!

 ぶったまげた!

 東京ビッグサイトは、駅から会場まで民族の大移動か!? ちゅうくらいの人波。
 けして人ごみじゃない。猛暑の中、みんな整然と並んで順番を待っている。
「日本人てすごいよね、大震災が起こっても、年二回のコミケでもキチンと秩序正しいんだよね。世界がオタクを認めるのはカルチャーそのもののクォリティーもさることながら、こういうところにも惹かれるんだと思うわよ」
 日本に来て五年目だけど、コミケは知らなかった。他の三人も同じようで、画面を観ながら感心している。
「でも、今年は三万人も少なかったんだよ」
「え、どれほど来てるの?」
「五十万人、三日間の合計だけど」
「「「「五十万人!?」」」」
「これだけのイベントなのに、日本じゃほんのトピックスにしかならないんだよね」
「五十万人言うたら、夏の甲子園よりも多いんちゃうかなあ」
 啓介がときめいて、中学から久しく見なかった貧乏揺するをしだした。
「高校野球は80万人だから及ばないけど、一日あたりは絶対コミケの方が多いわよ。もし、甲子園と同じ十五日間やったら、絶対にコミケの方が勝っちゃうでしょうけどね。高校野球の経済効果は350億円ほどにしかならないんだよ、オタクは4兆円。日本政府もマスコミももっと力いれるべきだよ」
「うん、そうだね」
「そうね」
「せやな」

「で、夏コミってなんですか?」

 千歳が根源的な質問をしたのにはズッコケてしまった。

「これを見てちょうだい!」
 シンディーはリュックの中から数冊の同人誌やらゲームを出した。
「ネットオークションで手に入れたの、半年かかったわ。まだ二冊手に入れてないんだ、日本に居たら、ぜったい朝から並んでゲットするんだけどねえ」
 わたしたちが見たらマンガとかイラストのパンフくらいにしか見えないんだけど。すんごいお宝だということは、シンディーの熱気から伝わってくる。

 続いてオタク談議になると思ったけど、シンディーの心配りは違った。

「サンフランシスコ観光ならここね!」

 

 あくる日。

 シンディーのアドバイスで、アルカトラズ島の気合いの入ったプリズンミュージアムとロンバートストリートと日本庭園に行った。

 ヨセミテ公園とかゴールデンゲートブリッジとかもあったんだけど、天気が良かったらの条件付きだったので流れてしまった。
「オタク的なところは無いんですね」
 千歳はホテルでのノリがあったので、そいうところに行くもんだと思っていた。
『ハハハ、そういうのは日本が本場なんだから!』
 シンディーは電話の向こうで笑っていた。
 ちなみにシンディーはカセイドールの仕事があるのでプランを立ててくれるだけ。ただ新鮮なフィードバックが欲しいので、観た後は必ず電話かメールをするように言っていた。

『明日お勧めのところがあるの、わたしも同行するから行ってみない?』

 シスコ最終日に、シンディーは思いもよらないところを勧めてきた……。

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坂の上のアリスー19ー『今日の一子は微妙に明るすぎる』

2020-03-14 06:07:29 | 不思議の国のアリス

坂の上のー19ー
『今日の一子は微妙に明るすぎる』   



 

 今日の一子は微妙に明るすぎる。

 いつもなら「おはよう」と入ってくるところを「や、おはよう」だった。
 並んで歩いていても微妙に近い。今だって、一子の手の甲がサラリと俺の手の甲に触れた。一子とは幼なじみなんだけど、ほんのガキだったころを除けば、身体が触れ合うと言いうことは、ほとんどない。何かの拍子で触れ合うと「あ、ごめんね」とか言って、顔を赤くする。それが、何も言わない。
 喋ってはいる。この春から始まった深夜アニメのリメイク版について熱く語っているのだ。「女子高生が力合わせて潰れかけの学校を盛り返すってのは、ラブライブとかガルパンとかで極められたって感じなんだけど、なんか健気で、つい見入っちゃうよね。わたし的には……」と、一見熱そうな話は続いていく。

「一子、なんかあるんだろう?」

 校門まであと五分という坂の途中で切り出した。

「あ、えと……分かる?」
「分かるさ、一子がこんな風になるのは、去年のあの時以来だからな」
「あ……そなんだ」
「なんだか知らないけど、話してみ」
「あ、いや、また後でいいや」
「話しとけって、校門潜ったら、たぶん話し辛いことなんだろうから」
「亮ちゃん……」

 一子の様子と、夏休み直前という時期で、俺は、あの話しかないだろうと見当を付けていた。

 でも、まさかもう一度墓参りに行く話だとは思わなかった。

「去年、あんな目に遭ったのに、もう一度行こうってか?」
 校門が近いので、人目をはばかって静かに聞いた。
「ちゃんとしとかなきゃ……三人揃って学校まで辞めたんだよ」
「辞めたんだから、もう済んだはなしなんだぜ。この上なにを、なんのために!?」
「ちゃんと向き合っておきたいの。お葬式にも出てないんだし」
「出てないんじゃない、出してもらえなかったんだ!」
 思わず声が大きくなる。
「行こうよ……」

 一子は、目に大粒の涙を貯め始めた。日ごろ温厚でニコニコしている静香なのでドギマギする。朝の登校時間の真っ最中、通りすがる生徒たちは――なんだ、この二人は?――という顔つきで追い越していく。
「ガラにもねえ、涙拭けよ」
 そっとハンカチを出す。
「あ、ありがとう」
 そう言ったが、ハンカチは握りしめたまま立ち止まって、俺の胸に顔を埋めて、一子は嗚咽した。

 その横を、戸惑い顔とキツイ表情の顔が追い越した。

 そのキツイ顔が綾香とすぴかであることに気づくのには少し時間が要った。


 

 ♡主な登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

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ここは世田谷豪徳寺・40《現実版 はがない・1》

2020-03-14 05:58:00 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・40(さくら編)
現実版 はがない・1》   



 

 あたし友だちない

 でも隣人部を作ったりはしない。エアー友だちを作ったりもしない。
『春を鷲掴み』で、間所健さんと坂東はるかさんとも『お友だち』になった。ただ、二人ともキャリアが違いすぎる。って、あたしのキャリアがなさすぎなんで、お仕事仲間はみんな、大小の違いはあっても先輩だ。とても対等な友だちとは言えない。

 でも、はるかさんは、日に何度もメールをくれる。

――おはよう。もう起きた? わたしはこれから寝るところで~す――
――今から○○の収録。××さんは苦手。いってきま~す――
――○○の収録終わり。とりあえず問題なし――
――もう寝た? 今から来月の舞台の打ち合わせ、たぶん午前様で~す――
――おはよう。もう起きた? わたしは、これから爆睡しま~す――

 最初は、この五本のメール。

――おはよう。今からお仕事。いってきまーす!――
――聞いて聞いて、今夜の仕事、相手役の急病でオフになっちゃった!――
――肝心なこと忘れてた、もしよかったら、今夜晩ご飯付き合ってください!――

 じつは、この間に十五本もメールが入っていたんだけど、今どこそこにいまーすというようなものばかりなので、このお話の展開に関係あるやつだけ並べました。

 あたしは、この五日間は入試で学校は休みだった。駆け出しの業界人の仕事は、こないだの『春を鷲掴み』とラジオの生があっただけなので、リアルはがない女子高生のあたしは、数少ない友だちのまくさと恵里奈とカラオケ行った以外は、チュウクンのお相手してるのかされているのか分からない付き合いがあったきり。喜んで、先輩女優のゴチになる。

 場所は乃木坂近くのKETAYONAってお店。

 一応店のありかは教えてもらっていたけど、スマホの道案内に頼ることもなく着くことができた。

「あのう、はるかさんと待ち合わせている佐倉っていいますけど……」
 そこまで言うと「どうぞ」と奥の個室に通された。
「ごめんね呼び出して。お家大丈夫?」
「大丈夫です。はるかさんといっしょだって言ってありますから。はるかさんの信用は、家じゃ一番なんです」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない。ま、とりあえず乾杯で、お料理は任せてね!」
「あたし、未成年ですから」
「大丈夫。わたしもアルコールだめだから、ジンジャエールで乾杯」

 そして、ノンアルコールで乾杯したあと、ひとしきりお料理をぱくつき、ソロリとお話に入っていった。

「あたし、この店初めてって気がしないんですよね」
「目立たないお店なのにね」
「あの、ひょっとして『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』に出てきませんでした?」
「え、さくらちゃん、あの本読んだの!?」
「はい」
「おお、心の友よ!」
 
 はるかさんはジャイアンのようなことを言ってハグしてきた。ジンジャエールってノンアルコールだったわよね?

「あの本読んでる人って、めったにいないんだよね」
「おもしろいラノベなんですけどね」
「まあ、出版不況だからね」
「あたし、姉妹作の『真田山高校演劇部物語』も読みましたよ」
「え、あれ出版されてないわよ!?」
「ネットで掲載されてるの読みました」
「うーん、ういヤツじゃそなたは。あれ、今度本になるんだよ『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』ってタイトルで、春には出るよ」
「あたし、最初の読者になります!」
「なかなかの心がけよのう」
「あの話は、実話なんですか?」
「多少の誇張はあるけどね、マンマよ」
「じゃ、小さい頃は、成城のお嬢さんだったんですか?」
「うん、五歳までね。あとは本の通り。お父さんの会社が倒産して……ハハ、オヤジギャグだ」
「南千住の実家に越して、高二で大阪に引っ越して……」
「さくらちゃん、優しいね。親の離婚飛ばしてくれたのね……」
「あ、端折っただけです」
「いいのよ、そこ抜きにしちゃ、今のわたしにたどり着かないから」

 あたしは、とことん付き合う気になっていた。

 はるか先輩は、とても行儀が良い。やっぱ成城のお嬢さんの時代に身に付いたものがあるんだろう。
 ら抜き言葉を使わないし、メールにデコメや絵文字を使う事もない。一人称も「あたし」じゃなくて「わたし」だ。
「青春て、めくるページの早さが速いじゃない。今いっしょのページに居たかと思うと、次のページには居ないのよね……人間って、みんな一冊ずつ自分の本を持ってるんだよね。で、この人生の本と言うのは、部分的に重なったり離れたり。いつも友だちや、身内が同じページに居るとは限らない……今、わたしのページはね、わたし一人きり。人はいるけど、みんな背景に溶け込んじゃって、物言わぬ書き割りみたいなものになっちゃった」

 気が付くと、外は再びの雪になっていた。

 あたしは、はるかさんのマジの『はがない』に向き合った……。

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・68「思い出のサンフランシスコ・6」

2020-03-13 06:37:13 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
68『思い出のサンフランシスコ・6』  


 

 知らなかった。

 カリフォルニアは大阪府の姉妹都市で、サンフランシスコは大阪市の姉妹都市だった!

 大阪市は例の等身大のお人形さんの問題で、先年姉妹都市を解消しているので過去形。

 それでも、日本や大阪へのシンパシーは強いようなのよ。

 普通のアメリカ人なら知らなくても不思議じゃない。
 普通の日本人でも大阪府民でも大阪市民でも知らなくても当たり前。

 だけど、三年も交換留学生で府立高校に通っているわたし、ミリー・オーエンが知らなかったのは面目次第もないのよ。

 そのことをサンフランシスコのホームページで知ったので「なんとかせにゃ!」とググりまくった。
 千歳と須磨先輩は爆睡中。
 チャイナタウンでたらふく中華料理を食べて、おまけに隣の席に生徒会の瀬戸内美晴が居るというハプニング。
 で、その前には、ホテルまで車いす押して不安な気持ちで坂道をエッチラオッチラ。
 途中でグリーンエンジェルスのアンチャンに助けてもらうが、こいつら大丈夫? って神経使った。
 まあ、爆睡こいても無理はない。

 これだ!

 ググること二時間でヒットした!

 ♡カセイドール♡

 フィッシャーマンズワーフ南のSアベニューにピカピカのロゴマークが初々しく輝いている。
「「「お帰りなさいませ~旦那様~お嬢様あ~!」」」
 ガチオタなら震えが来るほどの萌えボイスの合唱。
 メイド喫茶などには一度も踏み込んだことのないあたしたちでも、微妙に大阪アクセントの出迎えを受けるとグッとくるものがある。
 見渡すとメイドさんたちは日本人のようで、よく見ると奥の方にアメリカ人らしいメイドさんたちも控えている。

 カセイドールは日本橋(にっぽんばし)で老舗のメイド喫茶。姉妹都市のよしみで、この夏にオープンしたところ。

 サンフランシスコは西海岸では知る人ぞ知るアニオタのメッカ……らしい。
 アニメやオタクのフェスなども頻繁に行われていて、ネットで発見したレイヤーたちも気合いが入っていてファイナルファンタジーとかのコスプレは一見CGと見紛うばかり。夏コミとかのコスプレも本場とあって気合いは入っているけど、やっぱりアップで撮ったりするとアメリカ人の方がイケてると思う。ゲーム画面を見てもキャラは外人っぽいもんね。
 物珍し気にあちこち見ていると大型モニターにシスコで行われたコスプレフェスの動画が流れている。
「やっぱ、脚の長さと顔の造作だよね」
 須磨先輩もしみじみと感想を述べる。
「でもね……心映えだとも思いますよ」
 千歳が付け加える。
「心映え?」
「はい、あのライトニングとかユウナとか、パッと見には『なに考えてんだろー』ってくらいにおデブさんですけど、なんか心から楽しんでます! って感じで愉快じゃないですか」
「なるほどな、ああいうのって照れられると見てるほうが恥ずかしくなるもんな」
「アメリカ人て、こういうノリ大好きだから合ってるかもしれないわね」
 日本よりはゆったりした四人掛けの席でオタク文化についてのディスカッションになってきた。
 ディスカッションできるということは、なかなかオーダーをとりに来てくれないということだ。
 カセイドールはけっこうな大きさなようで、厨房で突き当りかと思われた横の方にも人の出入りがあって、どうやら大きなL字型のフロアになっている。席数は100近いかもしれない。
 
 文字通りカセイドールは稼いどーるようだ。啓介が下手なギャグを思いついたころ、やっとメイドさんが二人やってきた。

「オーダーヲオネガイイタシマス、オジョ-サマ」
 ネイティブのメイドさんで、ミテクレはバッチリなんだけど、カタコトなので萌え損ねる。
 オーダーを伝えると「ショショオマチクダサイ」とお辞儀して去っていくけど、やっぱ外人さんのお辞儀。
「メイドいうのは欧米文化かと思てたけど、身のこなしなんかは日本風やねんなあ」
 啓介が感心すると、須磨先輩が口を開く。
「ミリーやってみてよ」
 いつもなら絶対やらないんだけど、さっきコスプレ談義なんかしたもんだから調子づいてしまった。
「ご注文をお願いいたします、お嬢様……」
 オーダーを承って、きれいにお辞儀する。
「さっすがミリー、板についてる!」
 やんややんやの喝さい……なんと周囲のお客さんや控えのメイドさんたちからも沸き上がる。

 でもって、オーダーしたあれこれがやってきた時、メイド長さんがやってきた。

「お嬢様、よろしければ体験メイド……いえ、お手本メイドをやっていただけませんでしょうか?」
「え、えーーーー!?」

 調子をこいたわたしは、一時間メイドさんをやる羽目になってしまった。

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坂の上のアリスー18ー『あら、奇遇ね我が眷属』

2020-03-13 06:21:41 | 不思議の国のアリス

坂の上のー18ー
『あら、奇遇ね我が眷属』   



 

 食堂に新メニューが入った。

 その名も昭和チャーシュー麺。
 それまでラーメンしかなかったので、さっそくチャレンジすることにした。
「オバチャン、新メニューなんだね」
「あら、三日前から出てるわよ」
 そう答えながら、オバチャンはトレーの上に昭和チャーシュー麺を載せてくれた。

 そっか、今週一人で食べるのは初めてだったんだな。

 今日は真治も一子も進路相談に呼ばれていて居ない。で、久々に一人で昼食というわけだ。
 俺は麺類に目が無い。パスタ、ラーメン、蕎麦、うどん、ズルズルと食べる感触がなんとも言えず好きなんだ。
 いつもなら、三人で食べ慣れたランチ。運が良ければ数量限定のスペシャルランチ。
 なんちゅうか、三人で食べることが主題で、メニューは、つい定番になってしまう。
 たまさかの一人だから、券売機のメニューをゆっくり眺めて、新メニューの昭和チャーシュー麺に気づいたわけだ。

 ウ……ハハハハハ。

 思わず笑ってしまった。
 ドドーンと、五枚もチャーシューが載っていると思い、立ったまま、一枚を口に放り込んだら、お馴染みの魚肉ハムのスライスだった。
 ランチの付け合わせに、揚げ物と千切りキャベツの間に敷いてあるのと同じものだ。
 ただ、まんまじゃ芸が無いので、なにやら下味が付いてごま油で炒めてある。パッと見チャーシューだ。
 ま、これはこれで美味しいので、文句はない。
 しかし、思い出してみると、メニューからラーメンが消えていた。
 ラーメンが消えて、昭和チャーシュー麺。ラーメンよりも20円高い。で、ラーメンにたった一枚入っていたチャーシューは無くなって、魚肉ハムのチャーシューもどき。
 ま、体のいい値上げなのかもしれないけど。生徒数が減って、食堂の経営も苦しんだろう。
 アイデア賞だと思うことにする。

「あら、奇遇ね我が眷属」

 後ろから声がかかった。振り向くまでもなく聖天使ガブリエルモードのすぴかだ。
「お、すぴかも昼飯か」
 すぴかはうどんを載せたトレーを持っている。
「これもなにかの辻占ね。特別にいっしょに昼食することを許してあげるわ」
「それは光栄なことで……て、横に来るのかよ!」
「前に座ったら、あなたの命も吸い込んでしまいそうだから」

「あら、夢里さん」

 いかにも委員長と言う感じの女子がすぴかに声を掛けてきた。
「あ……大辻さん」
 無表情にすぴかが返事をする。どうやら、綾香以外にもお友だちができているようだ。
「テラスの方に席を取っているの、よかったらいっしょに食べない?」
「え、ああ……」
「あ、ごめんなさい。こちらとごいっしょだったのね」
「あ、ううん。たまたまだから、そっちに合流するわ」
 そう言って、いったんテーブルに置いたトレーを持つと、行ってしまった。

 ま、それがいいさ。たまたまなんだからな。

 すぴかを微笑ましく見送りながら箸を持った。
「ん……こりゃ、うどんじゃないか……て、すぴかの奴、間違え……」
 ま、チャーシューもどきが載っているだけのラーメンなので惜しくもないので、うどんをすする。

 ズルズルズル~。

 ん、冷めて伸びている。

 すぴかの奴、ずっと前からうどんを持って……待っていたんだ。 


 

♡登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

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ここは世田谷豪徳寺・39《胸を鷲づかみ!》

2020-03-13 06:06:48 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・39(さくら編)
《胸を鷲づかみ!》   



 

 はるかさんは、胸を鷲づかみにされ、熱い息を吐いた……!

 本当に、そう見えた。続いて監督の「カット、オーケー!」の声がかかる。
 春の特番『春を掴んで』の、一番トキメク話題のシーンは、あっけなく終わった。
「はるかちゃん、大丈夫だった?」
 マネージャーが、まだ頬を桜色に上気させた坂東はるかに駆け寄った。
「あ、大丈夫。間所さんの目がすごくって……」
「胸は、触らせないってのが条件だったんだよ」
「あ、全然。かすってもいませんよ」

 間所健は、やれやれという顔をし、楽屋へと引き上げていった。

 あたしは、はるかさん演ずる野村春香の妹の友香役。台詞は少ないけど、姉の春香に彼への気持ちを開かせ、恋人への道を踏み込ませる大事な役。
 で、一番問題だったのが、恋人へと飛躍する胸掴みシーン。監督は、ヤワなキスシーンなんかでごまかそうとはしなかった。直裁な描写で一気に表現しようと、この演出を考えた。
 台本では、長いキスシーンになっていた。でも、それだとディープキスにならないと、アップには耐えられない。ディープキスは清純を売りにしている坂東はるかさんの事務所はOKを出さない。むろん本人もヤだろうけど。

「さくら君、いいかな?」
 きちんと声を掛けてから、間所さんは楽屋に入ってきた。
「あ、どうもありがとうございました。お二人の演技の邪魔にならなかったでしょうか?」
 あたしは、子役時代から二十年近くやっているベテランの間所さんに気をツケした。
「楽にしてよ。局の弁当だけじゃ足りないんじゃないかと思って。姉貴の作ったパン。よかったらどうぞ」
「うわー、すごい。お姉さんパン屋さんなんですか!?」
「いやいや、ただの素人だよ。味は良いけど、バリエーションがない。十種類ぐらいをとっかえひっかえ。プロなら百種類ぐらいは作れなきゃね」
「そうなんですか、じゃ、メロンパンからいただきま~す」
「ハハ、はるかといっしょだ。女の子はメロンパン好きだね」
「小ぶりな膨らみ具合がいいですね……う~ん、おいしい」
「はるかは、自分の胸ぐらいだって喜んでた」

 あたしは、さっきのシーンを思い出して赤くなった。

「あのシーン、セーターの下から手を入れて、本当に胸つかんだような気がしました」
「あれはね、セーターの下で、手をパーにして開いたり閉じたり。実物とは距離とってるから、アップで撮ると実際よりも胸が大きく見える。ほらね……」
 間所さんは、自分のトレーナーの下に手を入れて実演した。
「不躾だけど、おっかしい~」
「ハハ、変態のオッサンだね」
「でも、呼吸がぴったりでしたね。どう見ても、ほんとにムギュッでしたよ」
「あれは、目の表情。こんなふうにね……」
 あたしは、一瞬自分の胸が掴まれたような気がして、思わずのけ反った。
「大したもんですね」
「さくらちゃんも、良かったよ『好きなら、飛び込め!』気迫だったね」
「あれ、地なんです。優柔不断なやつ見ると、ああなっちゃうんです。現実には声になんか出しませんけどね」
「才能だねえ。あそこまでの気迫はなかなかね。で、さくらちゃんは、飛び込むの?」

 プールに飛び込むような気楽さで、間所さんは聞いた。意味はすぐに分かった。あたしの芝居なんて、お姉さんのパンのようなものだ。間所さんは、そういうなぞをパンに掛けている。

「姉貴はね、パン職人の学校に通いはじめたんだ」
「本職になるんですか?」
「パン職人の虫がいるかどうか、確かめるんだって」
「パン職人の虫……役者にも虫がいるんでしょうね」
「どうだろ。ボクなんか子役からだったからね、気が付いたら自分が虫だった。でも一寸の虫にも五分の魂。これでも飛び込む決心はしたんだ。二十歳ぐらいのときにね」
「あたし……」
「まあ、さくらちゃんは、まだ高校一年だ。飛び込み台は、もう少し先でしょ」
「でも、いつかは……」
「いつかはね……」

 間所さんは、真顔で正面から、あたしの目を見た。

「あ……」
「すごい、四つも食べたんだね!」

 いろんな意味で胸を鷲づかみにされた気がした……。

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