大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ポナの季節・7『乃木坂学院高校演劇部跡の見学』

2020-08-18 06:29:00 | 小説6

・7
『乃木坂学院高校演劇部跡の見学』
       


 例えばAKB48の衣装資料館のようだった。

 AKB48の衣装資料館には、卒業した選抜メンバーの衣装や小物、記念の品などが展示してあり、ファンにとっては神殿のよう。



 乃木坂学院高校演劇部の部室は、理事長の意向で、そのままに、クラブハウスの二階に残してある。
「ここから坂東はるかさんや、仲まどかさんたちが巣立っていったんだ……」
 奈菜は、感極まったように独り言ちた。みなみは真剣に頷き、ポナは「またか」と笑いをこらえるのに苦労した。

 一昨日、みなみから「演劇部はつぶれた」とメールをもらったが、部室が残っていることを知って、奈菜のたっての願いで、放課後、乃木坂学院まで見学にきたのである。

 マッカーサーの机には、退色し始めたテーブルクロスがかけてあり、その上には芝居や映画の勉強のためのアナログのテレビデオ。その周りにはたくさんの台本がキチンと整理されて置かれていた。乃木坂の演劇部は、かなり研究熱心な演劇部であったようだ。

「はるかさんは、演劇部じゃなかったのよ」
「え!?」

 みなみの説明に、奈菜は鳩がびっくりしたような顔になった。

「はるかさんはね、二年の時に家庭事情で転校していったの、でもプロの俳優になってから、ずいぶんここの演劇部を応援してくれたから、名誉部員てことになってるの……」
 みなみの目は、壁に掛けられた坂東はるかと仲まどかのサイン入り写真に向けられた。
「さすがプロになるだけの人、オーラがちがうわね……」
 付き添いのポナも思わずため息をついた。
「このテーブルクロスすてき、少し色が抜け始めてるとこなんか時代と部員の情熱を感じる」
「このテーブルクロスは、元々黄色かったのが色あせて、こうなっちゃったの。本当の色は……」

 みなみは、置かれた台本の山をずらした。すると、そこには鮮やかな黄色が現れた。

「……これって、幸福の黄色いハンカチ」
「よくわかったわね、一度潰れかかった時に、クラブの再生への思いを込めて黄色いテーブルクロスにしたんだって」
 ポナは、一冊の台本を手に取る。『すみれの花さくころ』のタイトルが色あせている。
「見てごらんよ」
 ポナは、奈菜に手渡した。
「……書き込み、手垢やシミも凄いね」
「このシミ、涙か汗だよ……」
「両方らしいわよ」
 みなみが付け加えた。

 この時の奈菜は、簡単には夢見る夢子ちゃんにはならなかった。真剣に台本を撫でるように見つめている。

「これ、あたしたちと歳の変わらない高校生がやったんだよね」
 奈菜も進歩した。人の努力や苦労が分かるようになったようだ。
「この本どうぞ」
 みなみが、二冊の本を渡してくれた。
「え、チイネエの制服貸したお礼? そんなのいいよ」
「ちがうわよ。理事長先生が、見学の生徒さんが来るんだったら渡してくれって」
 
 二冊の本は『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』と『はるか 真田山学院高校演劇部物語』だった。

『はるか』の方はビンテージもので、第二刷からは「はるか ワケあり転校生の7カ月」と改題されているらしかった。

 帰り、余熱の冷めないうちに乃木坂駅近くのコーヒーショップで、互いに二冊の本を読んだ。二人とも、こんなにのめりこんで本を読んだのは初めてだった。



※ ポナの家族構成と主な知り合い


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子

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かの世界のこの世界:44『ムヘン略記』

2020-08-18 06:15:46 | 小説5

かの世界この世界:44     

『ムヘン略記』  

 

 

 ムヘンの地は菱餅のような形をしている。

 

 菱餅の中央に城塞都市ムヘンブルグがあり、その北を東西に荒川ほどのムヘン川が流れている。

 昔は化外の地ムヘンと呼ばれ、主神オーディンの力も及ばぬ蛮族と化け物の地と嫌われ、神族でさえ足を踏み入れることは稀であった。

 しかし、オーディン紀元千年紀のころに、ムヘンの南端、菱餅の下のほうが『始りの荒野』と繋がっていることが発見された。

 始まりの荒野は、他の異世界と繋がっていて、そこから様々な異世界の神々や人間やクリーチャーが現れてはオーディンの知ろしめす大地や国々を脅かすことがジークフリートの冒険で知られた。

 ジークフリートの非業の死のあと、無辺の地の平定を任されたのがトール元帥だ。

 トール元帥は、城塞都市ムヘンブルグを築き、ムヘンと始りの荒野の平定に掛かった。

 一時はムヘン全域と始りの荒野の半分を平定し、オーディンの平和と呼ばれる百年が訪れ、ムヘンは半ば神々の観光地になった。

 ムヘンブルグは、その観光地の中心として整備・拡大が進められ、二千年紀には、ほぼ現在のムヘンブルグが形成された。

 

 二千年紀に入ると、蛮族や異世界からの流入と侵略が顕著になり、ムヘンブルグは侵略阻止の最前線になった。

 

 一時はムヘンの放棄まで考えられたが、トール元帥の活躍によって小康状態を得て今に至る。

 オーディンの聖府は、ムヘンの南半分を流刑地に指定し、囚人たちに辺境の防衛にあたらせるという、流刑地と辺境防衛を実現させ、経費の節減と防衛の問題を解決しようとした。

 囚人たちは防衛に功績があれば刑期を減免されたが、その多くは放免を前に命を落とした。

 囚人たちは「ムヘンだけは勘弁してくれ」と哀願するようになり、王国全体の犯罪発生率は半分以下になったと言われる。

 

 シュタインドルフに着くまでの道中は、菱餅の真ん中を西端に向かって進むので北端のノルデンハーフェンに達する距離の倍はある。しばらくは平穏だとグリが言うので、単調なムヘン大河南岸の道中『ムヘン略記』を読んでいるわけだ。略記とは言え見知らぬ異世界の歴史は五分も読めば眠気を誘うかと思ったが、存外に面白い。出てくる地名や戦い、人の営みや神々の履歴が生き生きと頭に浮かぶのだ。なんだかパソコンの中に古いファイルを見つけ、開いてみたら自分が書いたRPGのプロットであったような懐かしさ――そうだ、こんな物語に時めいていた――と古い教科書の落書きを見ているような。でも、あまりに古い思い出なので先の展開が読めないもどかしさと楽しさがあった。

 わたしはこんなものを書いていたのか? まさかな、いまは勇者などと名乗るもおこがましい駆け出しの冒険者だ、肩の力を抜いていこう。緊張しっぱなしでは、この先の旅には耐えられないだろう。今は穏やかだが『ムヘン略記』にある通り、トール元帥でも一筋縄ではいかなかった流刑地なのだからな。

 しかし、その流刑地ムヘンに流されるんだから、ブリも生半可な奴じゃない。

 二号戦車のエンジンルームの上にドンゴロスを二重に敷き詰めケイトといっしょに眠っている姿は、どう見ても小柄な女子中学生だ。

 こいつ、いったい何をしでかして最悪の地に流刑になったんだ?

 だいいち、並の身分ではない。

 今は「ュンヒルデ」を封印して、ただの「ブリ」と名乗っているが、仮にも主神オーディンの娘だ。

 

「その秘密は、いずれお話します」

 

 キューポラから半身を出して前方を警戒しているグリが穏やかに言う。

「聞きたいような聞きたくないような……ま、グリが必要だと思ったら話してくれ」

「では、まずはシリンダーの来歴についてお話ししましょう」

 そう言えば『ムヘン略記』を映していたタブレットの右下に「間もなくシリンダー警戒地区」というアラームが点灯し始めている。

 

☆ ステータス

 HP:500 MP:500 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト

 持ち物:ポーション・15 マップ:2 金の針:5 所持金:5000ギル

 装備:剣士の装備レベル5(トールソード) 弓兵の装備レベル5(トールボウ)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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大阪ガールズコレクション:9『北区梅田 茶屋町・2』

2020-08-17 08:02:49 | カントリーロード

大阪ガールズコレクション:9

『北区梅田 茶屋町・2』 

 

 

 大阪駅で下りて改札に向かう。

 

 エスカレーターに乗ると、二段前の人のスマホが見える。

 小さい画面なんだけど、チラリと見えたネットニュースの表題に時めいた。

―― 梅田北ヤード再開発現場で1500体の人骨発見! ――

 なんと、いま下っているエスカレーターから直線距離で百メートルも離れていないところに1500人分の人骨が発見されたというのだ。

 茶屋町に向かうついでに覗いていこうと思った。

 北出口に出たところでスマホで確認。

 

 なるほど、大坂七墓と言って、今の大阪市に七つの大きなお墓があって、江戸時代は『七墓巡り』なんてオリエンテーリングみたいなこともやっていたらしい。

 ラッキー!

 スクロールすると、ちょうど三十分後に現説(現地説明会)が行われるらしい。

 ちょうど青になった横断歩道を渡って発掘現場に向かった。

 ただの遺跡なら言説の参加者の大半は年配の人が多いんだけど、人骨1500体は、ミーハーでも興味をそそられるので、現場にはけっこう若い人も多く、すでに三百人余りが言説の開始を待っていた。

 フェンス越しに墓穴と思われる穴が窺えた。

 洗濯機の洗濯槽くらいの穴が百ほど、方形の大きな穴が三つほど窺えるけど、平場なので穴の中までは見えない。

 これまで、二度ほど発掘された古墳の現説に行った。

 古墳と言うのは様々な副葬品があって、葬られている人骨よりも、そっちの方が面白い。

 人骨なんて、素人がパッと見てもよく分からない、男だか女だか若者だかお年寄りだか、そういうことは専門家が何カ月も何年も調べて、素人は、その結果を見て「へー」とか「ホー」とか感心できるもので、現説では、やっぱり副葬品だ。

 勾玉、管玉、銅鏡、土器や埴輪のいろいろ、武器や武具といったものにロマンを感じる。

 もともとが、親の公認の元にお出かけしたいための口実だったから、そういう見かけの面白さに引かれるんだ。

 ところが、三十分後に始まった現説。

「江戸期の集合墓地と思われます。一つ一つの墓穴に葬られているものから、数体、数十体まとまって葬られているものまで様々ですが、副葬品はほとんどありません。茶碗とか土人形とか日用品てきなものが散見される程度で、被葬者は庶民階級の人たちだったと思われます。大坂には『七墓巡り』というのが……」

 スマホで調べた内容を補強するような説明が続く。

 え、これは? え? なんで? なんだ?

 発掘作業をしていた人たちにいくつもの?のマークが立ち上がる。

 見学者にも聞こえたので、みんな、そっちの方にゾロゾロ向かいだした。

 

 それは、洗濯槽ほどの個人用の墓穴で、座棺で葬られ、座った姿勢でクシャっとなった人骨がきれいに残っている。

 人骨そのものは、他の墓と変わりが無いのだけど、副葬品が膝の間に収まっていて、その副葬品が……。

 なんとスマホなのだ!?

「ちょ……」

「ありえない」

「なんで……」

 様々な驚きやら当惑の声が上がる。わたしは、その人たちの中で一番驚いていたと思う。

「これって、警察呼んだ方が……」

 ということで、急きょ大阪府警のパトカーと鑑識の車がやってくることになった。

 そして、あくる日のニュースで報道された。

―― 人骨は、やはり江戸末期のもので、推定年齢十五六歳の女性、多少の副葬品があったが、現在鑑定中 ――

 副葬品がスマホだったとは書かれていない。ありえないことだもの、発表なんてできないよね。

 でも、わたしは見てしまった。

 あのスマホは、穂乃花が行方不明になった時に持っていたのと同じだ。

『東梅田コミュニティー会館』の角を曲がって、穂乃花が行ってしまったのは、いったいどこだったんだろう……。

 

 

 

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ポナの季節・6『女子高生の感動は24時間②』

2020-08-17 06:01:53 | 小説6

・6
『女子高生の感動は24時間②』
         

 ポナとは:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名


「…………………………お早う」
 
 上の空の返事はポナが奈菜の前の席に掛けるまで返ってこなかった。


「なに、ボンヤリしてんのよ?」
「感動噛みしめてんの……」
 どうやら奈菜は、夢見る夢子さんになっているようだ。
「静かに……昨日の感動を噛みしめてんの」
「昨日……ああ、大ニイの『ひとなみ』か」

 ポナは、奈菜が無事に学校に戻ったので、もう関心は無い。鞄から第二朝食のサンドイッチを出してパクつきだした。奈菜もなにやら取り出した。

「ん……あ、昨日の写真か」

 奈菜は、ポナの大ニイが撮ってくれた「完璧に目標を補足」を酔ったように見つめだした。

「あたしって、こんなに美少女だったんだ」

 ブフッ!

 ポナは、あやうく吹き出すところだった。

 確かに奈菜は苦労知らずのお嬢さんで、まあAKBの書類選考ぐらいは通りそうなほどにはイケてる。でも、この情緒不安定のボンヤリじゃね……そう思いながら、右手にサンドイッチ左手にスマホになって、奈菜と同じ写真を見た。確かに写真の奈菜は普段の五割増しぐらいに美人に撮れている。それは後ろで大口開けて笑っているポナが引き立て役になっているせいでもある。

「自衛隊って、キビキビしてていいよね。女性隊員なんかもいたし」
「ん、それが?」
「あたしもなってみたいな……」
「奈菜、あんた、束縛されんのがやだって家出して横浜でガールズバーの客引きまでやってたんでしょうが。自衛隊なんか、学校や家の百倍くらい束縛の世界なんだぞ」
「それぐらい縛られて、人間は光りだすんだと思うの」
「マゾに鞍替えか!?」

 で、朝礼と一時間目の授業は終わってしまった。

「ねえ、今からだったら、防衛大学の受験間に合うわよね。A幹ていって、一番お兄さんの階級には近道みたい」
「奈菜、授業中になに調べてんのよ?」

 奈菜は自衛隊員の裏を知らない。

「ポナ、オレのズボン破れてないかな?」
 小学生のとき、大ニイが、そう言ってお尻を向けてきたことがある。
「どこが?」
「股の付け根の方」
「うん……?」
 ポチといっしょに覗きこんだところ、一発かまされた。ポチは悲鳴をあげて逃げ出した。ポナは危うく気絶するところだった。

「実家にも近いし、もう防大しかないわね!」
 三時間目の終わりには、奈菜の目は国防少女のそれになっていた。だが、奈菜の発想や飛躍は家出にしろ自衛隊にしろ、自宅から一時間ほどの範囲に限られているようだ。

 昼休みに、防大の膨大な知識で頭を一杯にして、その分授業はさっぱり聞いていない奈菜は、放課後防衛省の広報まで防大の資料をとりにいくと言いだした。当然「だから、ついてきて」の決まり文句付きで。

「あの、海上自衛隊って、泳げないと話にならないんだけど」
 ポナの何気ない一言は、一瞬で奈菜の半日の夢を崩してしまった。ポナは慌ててフォローに回った。
「あ、陸上自衛隊もあるし」
「泥水の中、匍匐前進なんてドロンコはやだ」
「じゃ、航空自衛隊?」
「あたし、高所恐怖症なの」

 もう、勝手にしやがれのポナであった。奈菜は、まだ未練たらしく写真を、ため息つきつつ眺めている。

「……そうだ、こんなにイケてるんだもん。女優さんになろうか!?」

 ブフッ!!

 ポナは、デザート代わりの掛けそばを吹きだしてしまった。
「でも、いきなりは無理よね……」
 少し現実的な思考になってきた。
「そうだ、演劇部に入ろう!」
「うちの学校演劇部ないし……」
「ん……だったら作ればいいのよ!」

 今までの奈菜のプランの中では、一番現実的だった。

「黒木華さんだって、秋野暢子さんだって、高校演劇の出身なんだから! そう、坂東はるかや仲まどかは、もろ乃木坂の出身よ!」
 さすがに知識は豊富なようで、でも、ポナは秋野暢子は知らなかった。
「東京で名門演劇部って言えば、乃木坂学院。ポナ、あんたの友だち乃木坂だったわよね!?」
 物覚えもいい、二三度名前を出しただけの高畑みなみのことを覚えていた。
 基本的には気のいいポナは、すぐにみなみにメールを打ってみた。
 返事は残念なものだった。

――演劇部は、この三月に廃部になってるよ――

 

 

 ※ ポナの家族構成と主な知り合い


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子

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かの世界この世界:43『え、マジか!?』

2020-08-17 05:45:36 | 小説5

かの世界この世界:43     

『え、マジか!?』  

 

 

 ああ、なんでも使ってくれ

 

 グリが鷹揚に返事をすると、小さな敬礼を返してこちらのゲペックカステンを開けた。

「なんだこりゃ、この二号でお菓子屋でもやるつもりなのかい?」

「シュタインドルフのヴァイゼンハオスの慰問を兼ねているんだ。ツ-ルはノルデンハーフェンで補給してもらうことになっている」

「ヴァイゼンハオス……戦災孤児たちのだな」

「ああ、仰々しい慰問じゃ、シスターたちもかえって困るだろうからな」

「なるほど、いや、停めてすまなかった。ツールは他の奴から借りるわ」

「せっかくだ、キャンディーなら一袋進呈するよ」

「いや、孤児の取り分をいただくわけにはいかないだろう」

「乗員用のがある。ブリ伍長、ポケットのを軍曹に渡せ」

「え? あ、イエスマム」

 一瞬あっけにとられたが、素直に軍曹にくれてやる。

「じゃ、行ってくれ。停めてすまなかったな」

 軍曹たちはキャンディーを口に放り込み、我々は前進を再開した。

 

 ムヘンブルグの北には荒川ほどの川があり、川を渡って、そのまま北進すればノルデンハーフェンに至って船旅になる。

 

 城塞の北方も必ずしも平穏ではないが、街道を走っている分には安全であろう。

 ところが、橋を渡ったところで我々の二号は左に曲がったではないか。

「グリ、どこへ行くんだ?」

「軍曹にも言ったじゃないか、我々はシュタインドルフのヴァイゼンハオスに寄っていくんだ」

「え、マジか!?」

 ブリが目を剥く。

 シュタインドルフは九十度方角が違う。道中の安全も保障されてはいない。

「方便とは言え、口にしたことです。向かわねばなりません」

 

 ハッチから身を乗り出して見える空は、この道中を暗示するかのように曇り始めていた……。

 

☆ ステータス

 HP:500 MP:500 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト

 持ち物:ポーション・15 マップ:2 金の針:5 所持金:5000ギル

 装備:剣士の装備レベル5(トールソード) 弓兵の装備レベル5(トールボウ)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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銀河太平記・003『修学旅行・3・羽田宇宙港・2』

2020-08-16 14:52:06 | 小説4

003

『修学旅行・3・羽田宇宙港・2』    

 

 

 羽田宇宙港は大騒ぎになった。

 

 セキュリティー厳重なエプロンにアナログ車で突っ込んで、危うくトランスポーターに衝突というところで停車したのだ。ただちに保安部のロボット隊が駆けつけてきて、テルは車ごと包囲された。

「手を挙げて出てきなさい」

 フェーザーを構えた小隊長が車に向かって声をかけ、部下のロボットたちも一斉にフェーザーを構えレーザーポイントをアナログ車の運転席に……当てようとしたが、赤い照準ポイントは無人の運転席のあたりを彷徨う。

「アナログ車だろ?」

「車籍はコトブキレンタカー、ニ十分前に貸し出されたトヨタです。借主は火星の高校生……」

 瞬時に車籍から履歴を検索し、検索情報は宇宙港保安部と警視庁で共有された。

「それなら、運転席に……フェイクかもしれん! 下がれ!」

 警備小隊のロボットたちは一斉に十メートルの距離をとって身を伏せた。

 第三級アンノウンの警戒情報は日本中の警察、国防省、内閣情報局と共有の範囲が広げられ、国防相とリンクしている米軍とイギリス軍にも同時に送られ、二秒後には、いずれも該当事項無しのアンサーが返されてきた。

 カチャリ

 ドアが開く気配がして、警備小隊は蟹のような匍匐で後退してさらに十メートルの距離をとった。

「両手を頭の上に置いて出てこい!」

 カチャカチャ

「R4パルス核の起動音に近似!」

 R4パルス核というのは東アジアのテロリストに出回っている携帯核で、爆発すれば羽田宇宙港の半分が吹き飛んでしまう。近似でなく確定ならば、小隊長は車ごと破壊を命じていただろう。

 カチャッ!

 勢いよくドアが開いて、まろび出てきたのは小学生!?

「やっと開いたわよ。ちょっと、あんたたち、物騒なものはちまってほしいのよさ!」

「こ、子どもか……?」

「しつえいね! こえでも、高校二年生なのよさ!」

 テルは手を挙げたまま頭上にインターフェースを開いた。テルの身分に関する情報がテロップのような流れる。

「星府立第三高校二年……平賀・エレキ・テル……10歳……オールマースグランプリ優勝、地球国際免許保持……」

「隊長、取りあえず連行しましょう」

「そうだな、今から身柄を拘束する。手錠をかけるから抵抗しないように」

 女性型警備ロボットが、マニュアル通りに表情を緩めてテルに近づことした。

「まちなさいよ! 拘束さえうようなファクターは、なにもないのよさ!」

「大人しく従ってちょうだい、おねえさんたち、ひどいことはしたくありませんからねえ」

「隊長、きちんと照合しやさいよ! レンタカー借りたのも合法りゃし、宇宙港のゲートも普通車(パルス車)しか進入禁止になってなかったし、アナオグ車にはナビオートちゅいてないし、ここに入ってきたのは不可抗力にゃし、ここまで分かった?」

「え、ああ、その通りだが、宇宙港に無断で侵入したら逮捕は当たり前だ」

「あんたたち、ゲートのセキュリティー抜けてゆのよさ。本来なや『道間違ってますよ』と注意があるべきれしょーが! わたし、そーゆーの聞いてないわよ、いきなり拘束って、ひよいと思うわよさ」

 小隊長は保安部のPCを通して、リンクしている警視庁のPCにも答えを求め『法令通りに手順を踏め』という回答を得て「ここは進入禁止です」と、改めて言った。

「まあ、そうにゃの!? ごめんなしゃい、直ぐにバックするわよさ」

 車に乗り込むと、静かにバックして、切り返すこともなくゲートからバックのまま出ていき、宇宙港正面のロータリーに車を着けた。

 

 

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ポナの季節・5『女子高生の感動は24時間①』

2020-08-16 06:10:23 | 小説6

季節・5
『女子高生の感動は24時間①』
        


 ポナとは:みそっかすの英訳 (Person Of No Account の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名)


――明日、横須賀に入港。一般公開につき来るべし、友だちも連れて来い――

 という大ニイからのメールで、あたしは支倉奈菜を連れて横須賀に行った。
 海自の最新鋭空母型護衛艦「ほうき」と、大ニイの「ひとなみ」が展示公開されている。
「ほうき」は大きくてカッコよくて人気があるけど、大ニイの「ひとなみ」は2000トンあるかないかの、旧式小型護衛艦で、あまり人気がない。

 大ニイは、この「ひとなみ」で砲雷長というのをやっている。
 砲雷長というのは、船の武器の総括責任者だそうで、いざって時は艦長の横に張りついて一切の射撃管制の指揮をとるというエライ仕事。普通は二佐か三佐の仕事なんだけど、なぜか、一個下の一尉の大ニイがやっている。

「ひとなみ」が退役寸前の二線級のせいか、大ニイが偉いのか、ポナには判断が付かない。

 ただ、大ニイが家族の多い寺沢家で一番頼りになることは確かだ。お父さんは高校教師だけど、定年を間近にして、いまだに管理職はおろか、主任とか長のつく仕事はしたことがない。
「お父さんて、どうなの?」
 たまにお母さんに聞いてみる。お母さんはお父さんが若かったころの教え子で、当たり障りなくいうと「職場結婚」。ポナはこう思う――まだ純真無垢だったお母さんを騙くらかして嫁さんにした悪徳スケベ教師――お母さんに、この質問をすると、いつも、こう答える。
「二人が結婚していなきゃ、あなたたちは存在していないのよ」

 どこか誤魔化されているような気がするが、夫婦としては上手くいっているのだろうと思って、納得はしている。愛し合っていなければ、今時五人も子どもはできたりしないだろう。

 家に関わる重要な決定は、大ニイとお母さんがやってる。他の兄姉も、いざという時は大ニイを頼りにする。

 で、今度の奈菜の件も、どうやら大ニイの差し金というか、指図であるらしかった。

「うわー、いろいろ付いてて強そー!」

 奈菜は、航空母艦型の「ほうき」よりも「ひとなみ」のほうに関心を示した。「ほうき」は最新鋭だけあって、でっかくてすっきりしている。奈菜は小さくてもゴテゴテといろいろ付いているのがカッコよく感じているのだ。
 10人中9人が「ほうき」に行ってしまったので、「ひとなみ」は急きょ予定を変えて、湾内の体験航海と射撃二級訓練を行うことになった。
「参観者の方々は、安全のため艦橋上のデッキにご集合ください」
 体育祭みたいに長閑な女性の艦内放送が流れ、一クラス分ほどの観覧者は「ひとなみ」の全貌が見渡せる艦橋上のデッキに集まった。
――本艦は30ノットまで出せますが、湾内ですので15ノットで進みます。ただいま10ノット――
「速いね!」
 奈菜は錯覚している。「ひとなみ」は小さな船で、湾内では10ノット以下の微速で走っている船が多いので速く感じるのだ。
――15ノットに達しました。総員戦闘配置!――
 艦内のあちこちから完全装備の乗組員たちが駆け足で持ち場に付いていく。一分足らずで総員配置が終わると、ポナでも分からない戦闘指示の放送が流れ、三インチ速射砲や、アスロックのランチャーや短魚雷、CIWS(多連装自動機銃)などが、勇ましく動き出した。
 さすがに、射撃はしなかったが、各ウェポンにはスピーカーが仕掛けられており、実戦さながらの音と動きが見られた。

「あたし、考えがかわっちゃったかも!」

 船から降りて、しばらくして奈菜が興奮気味に言った。
「どういうふうに?」
「みんな命令された通りにやってるんだけど、イキイキしてた……」

 そのとき、大ニイからメールが入った。

――乗艦感謝! 奈菜ちゃん元気か? ポチもがんばれ!――

 船乗りらしく簡潔な文面だ。

「お兄さん、あたしのこと知ってたんだ!」
「男ばっかの船だから、あたしたちみたいな女子高生でも、目の保養になるんでしょ」
「まさか、ポチはポナの打ち間違い?」
「ううん、うちのワンコ。あたしが生まれた時に大ニイが拾ってきたの。どうも大ニイのやることは分からないよ」
「そうかなあ」

 遅れて画像が送られてきた。

「うわー、いつの間に!?」
 画像は、美少女然として海を見つめる奈菜と、大口開けて笑っているポナが同時にフレームに収まっていた。
「うーん……タイトルは『完璧に目標を補足』か」

 大ニイには、かなわないと思うポナだった。

 

※ ポナの家族構成と主な知り合い

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子

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かの世界この世界:42『ゲペックカステン』

2020-08-16 05:54:26 | 小説5

かの世界この世界:42     

『ゲペックカステン』   

 

 

 

 北門は正門ほどの大きさではないが賑わいは比べ物にならない。

 

 ムヘンブルグ城塞都市の日常生活をまかなう物資を積んだ大小さまざまのトラックが行き来し、商売や仕事で出入りする人々がバスや車、あるいはバイク、あるいは荷車や自転車、近隣の者は大荷物を背負って行き来している。

 道の左側二車線は軍用に空けられていて、軍用のハーフトラックや装甲車、戦車が通る。中でも快速で軽快な二号戦車が半分近くを占めていて、我々の二号戦車も、その中に混じっている。

「なるほど、これなら目立たないな」

 そう呟くと、グリがクスリと笑う。

「目立たないもなにも、われわれ四人は正規の警備兵として登録されています。遊撃警備隊に属しているので、どこをどう通ろうと怪しまれませんよ」

「でも、こんな子供みたいなの連れていたんじゃ、いくら警備隊のコスを着ていてもダメだろう」

「めずらしくありませんよ、ほら、前からやって来る部隊……」

 グリが示したペリスコープを覗くと、警備任務から帰還してくる二号の車列が見える。数えて五両の二号は乗員たちが車外に出て、砲塔に腰掛けたり、道具入れの上に腰掛けたりしてくつろいでいる。

 そのくつろいでいる兵士の半分は女性であったり少年少女であったりする。

「外に出て手を振ってやるといいですよ」

「「え、いいのか!?」」

 ブリとケイトの声が弾む。グリがハッタリをかまして「人目についてはいけません」と言っていたので、北門を出るまでは二号の狭い車内で辛抱していたのだ。

 グリの意地悪にはには訳がある。

 リュック山盛り二つ分のお八つを諦めきれないブリとケイトが「ゲペックカステンの中に入れればいい!」と、主張したのだ。

 二号の履帯ガードの上には左右共に大きなゲペックカステンという道具入れが付いている。ゲペックカステンは飾りではなく、戦車のメンテに必要な道具や野営の道具などが入っていて、余計なものをが入る余裕はない。

 そこに無理やり詰め込んだもので、一部の道具は下ろしてしまった。それで、グリは意地悪を言ったのだ。

「プハー! やっぱ、外の空気はおいしいぞ!」

 砲塔に腰かけて伸びをするブリに、すれ違う二号の乗員たちが手を振る。

「任務ごくろうさま!」

「あんたら、これからか、ごくろうさん!」

 元気よくエールの交換。だれも、ブリがブリュンヒルデ姫だとは気づかない。やっぱ、トール元帥がュンヒルデを取ってしまった効果は大きいようだ。

 

 しばらく行くと、一両の二号戦車が路肩に停まっていた。

 

「すまん、ちょっとツールを貸してくれんか」

 腕まくりして油まみれになった車長の軍曹が声をかけてきた。

「ここにきてエンコかい?」

「ああ、だましだまし来たんだが、北門の目前でこれだ」

「レッカーを呼べばあ」

 ブリが、なにごとかを予感してアドバイス。

「それは最後の手段だ、レッカー呼んだら、報告とか始末書が大変だからな」

 

 ブリは汗が出てきた。メンテツールは下ろしてしまっている。

 ケペックカステンを開けてしまえば大量のお八つがバレてしまう!

 

 ヤ、ヤバイ……ブリの心の声が聞こえてくるようだった。

 

☆ ステータス

 HP:500 MP:500 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト

 持ち物:ポーション・15 マップ:2 金の針:5 所持金:5000ギル

 装備:剣士の装備レベル5(トールソード) 弓兵の装備レベル5(トールボウ)

 

☆ 主な登場人物

  テル(寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ         ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 タングリス      トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 二宮冴子  二年生  不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生  セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生  ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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大阪ガールズコレクション:8『北区梅田 茶屋町・1』

2020-08-15 08:46:54 | カントリーロード

大阪ガールズコレクション:8

『北区梅田 茶屋町・1』 

 

 

 梅田に凌雲閣があったことを知ったのは五年前だ。

 

 高校生になったばかりで、ちょっとウキウキしていた。

 中学生の頃は、基本的に自宅と中学校の往復だけで小学生とほとんど変わらない。

 たまに梅田や京橋に出かけても、せいぜい自宅付近では買えない本を買いに大型書店に行く程度。穂乃花もわたしも門限が六時だったしね。

 高校になると履物もスニーカーからローファーに変わった。

 ローファーには羽根が付いている。

 ほんとだよ。

 門限も八時になったし、きちんと言っておけば十時くらいまで許してもらえたから、たまにコンサートとかライブにも行ける。コンサートやライブにローファーで行くわけにはいかないけどね。ローファーを履くような半分大人の高校生なら、私服で、ちょっとなら遠出してもいいという感じ。

 まあ、チケット高いから、コンサートやライブにしょっちゅう行くわけにもいかないけどね。

 穂乃花も、そんなに発展的な子でもなかったし。

 でも、高校に入って獲得した『自由』を満喫したかった。

 知恵を絞って『ソーシャルスタディーズ同好会』を作った。

 日本語で言えば『社会科同好会』で、なんともモッサリしてるので英語読みにしただけ。

 ネットと新聞とかで面白いことがあったら、そこまで行ってみるという同好会。

 大阪城の抜け穴 蒲生にあった大阪国技館 空堀商店街に偲ばれる大坂城の外堀 哲学の道に西田幾多郎を偲ぶ 大正空港と呼ばれた八尾空港 中之島の軍艦最上のマスト 三ノ宮メリケン波止場に見る阪神大震災の爪痕 等々お出かけする口実には事欠かなかった。

 

「大阪にも凌雲閣があったの知ってるか?」

 

 同好会を応援してくれている中谷先生がパソコンの画面を見せてくれた。

「あ、ほんまや!」

 穂乃花の目が輝いた。

 わたしには同好会はお出かけの口実だったけど、穂乃花は、ちょっと積極的だった。新発見をしたところを確認することに生きがいを感じ始めていたんだ。

 二人とも浅草の凌雲閣を知っていた。浅草十二階とも言われたレンガ造りの塔にはエレベーターも付いていて、関東大震災で壊れるまでは、東京の名所だった。

 研究して知ったわけではない。サクラ大戦のゲームの中に出てくるんだ。

 その凌雲閣が梅田にあったというので出かけてみた。

 東京の十二階には及ばない九階建て。むろん令和の時代には残っていない。昭和の初めに解体された。

 今は『東梅田コミュニティー会館』と呼ばれている元東梅田小学校のあたりに在って、その門のあたりに石碑が残っている。

「ああ、なるほど、ここだったんだねえ(^▽^)/」

 そう感動して写真を撮るだけ。小さな三脚を持って行って、石碑とかを背景に自分たちの写真も撮る。通行人やご近所の人に頼んで撮ってもらうこともある。大人たちは、そういうわたしたちを微笑ましく見てくれて「今どき感心ねえ」とか褒められたりすることもあって、ちょっと得意だったよ。

 でも好事魔多しっていうんだろうか。

 写真を取ってくれた小母さんが、あっちにも石碑があるわよ。

 穂乃花は「ちょっと見てくるわ」と言って、三脚を畳んでいるわたしを置いて角を曲がった。

 

 …………それっきり穂乃花は帰ってこなかった。

 

 それから五年がたって、わたしは久々に茶屋町に出向いた……。

 

 つづく

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ポナの季節・4『奈菜の五月病』

2020-08-15 06:04:38 | 小説6

・4
『奈菜の五月病』
         


 ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名)

 

 奈菜は、取調室で一人ふくれっ面で座っていた。

 姿はAKBモドキの客引き姿で、うっすらとメイクしている。

「どうしたのよ、奈菜?」
 とりあえずポナは一言言った。特に気の利いた言葉じゃないけど、無言よりはマシ。
「なんで、ポナが来るのよ?」
「うちのアネキがここの生活安全課。奈菜、うちの人が来るの嫌なそうなんで、あたしが動員されたってわけ」
「……ごめん。世話かけるね」
「どうして、横浜のガールズバーなんかに居るのよ……」
「……」

 奈菜は、机の上の冷めたお茶を見ながら無言だ。積極的な無言では無く、言いたいことがまとまらないで困った顔……この困った顔が変に頑なな表情に見えて損をしている。付き合い始めたころから、ポナは、それに気づいていた。

「お茶冷めてるね、淹れなおしてもらってくるよ」
「いいのお茶なんか。ポナが居たら、なにか考えがまとまりそう」
「じゃ、あたしの淹れたてだから、マゼマゼしよう」
 ポナは、机の上に一滴もこぼすことなく、二つの湯呑を均等にお茶で満たした。
「すごい、才能だね……」
「んなもんじゃないわよ。うち兄妹が多いじゃない。自然と子供のころから付いた習慣」
「そっか……あたしなんか、一人っ子で、親の言うままにここまできちゃったじゃない。学校も小学校からずっと持ち上がり……なんか、これでいいのかなあって……」
「十五やそこらで、思い詰めることないよ。人生って、どこででんぐり返しあるか分かんないよ」
 この会話で動機が分かった。一人っ子の五月病だ。

 そこに姉の寺沢優奈巡査部長が入ってきた。

「いま、お父さんが来られたから。下で事情説明させてもらってるわ。まあ、初めてだしガラ受けも揃ったし、お父さんといっしょに帰っていいわよ」
「あたし、ポナ……新子といっしょに帰ります」
「でも、一応規則だから、署の敷地出るまでは、お父さんといっしょにいてね」
 それだけ言うと優奈は出て行った。妹の表情を見ただけで、おおよその話は分かった様子だった。
「ああ見えて、優奈ねえちゃん、高校の頃はワルで、地元の警察じゃ今の奈菜みたく世話になってた」
「え、あの女性警官の日本代表みたいな人が!?」
「うん、うちは、他にも変態して大人になったのがゴロゴロ……」

 そうやって、世間話をしているうちに、奈菜のお父さんが入ってきた。

「さ、奈菜。お父さんと帰ろう」
「警察の玄関までね」

「敷地を出るとこまでだ」

「チ」

「舌打ちするな」

「あとはポナといっしょに帰るから」
 親子の会話は、それだけだった。
「寺沢新子さんでしたね。こういうやつなんで、どうかよろしく」
「こういう奴ってなによ」
「言葉のあやだよ。さ、いこうか」

 この親子は、超えなければならないところを超えずに避けてきた親子だと、ポナは思った。

 警察の敷地を出ると、奈菜の父は娘をポナにあっさりと預けた。まあ、今はこうするしか手がないんだろうけど、なんとも割り切れない気持ちのポナだった。

 電車に乗ると、達幸兄貴からメールが入っていた。

――明日、横須賀に入港。一般公開につき来るべし、友だちも連れて来い――

 海上自衛隊の長男の達幸からだった。

 我が兄姉ながら連携が取れ過ぎと、ため息のポナだった。


※ ポナの家族構成と主な知り合い


 父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
 母     寺沢豊子(49歳)   五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
 長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
 次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員
 長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
 次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
 三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
  ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

  高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
  支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子

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かの世界この世界:41『二号戦車』

2020-08-15 05:48:36 | 小説5

かの世界この世界:41     

『二号戦車』  

 

 

 冗談のように見えたのは、数時間前まで乗っていたラーテのせいだろう。

 

 ラーテは1000トンもある超重戦車だったが、目の前の石畳で停車したのは10トンもない軽戦車だ。

 呆気に取られて、気づくのに数秒を要したが、それは二号F型だ。

 ほら、『ガルパン』の劇場版で、幼いころの西住姉妹が乗っていたやつ。

 大きさは宅配便のトラックほど。いや、高さは2メートルを切るから、宅配便のトラックよりも低いかもしれない。

 

 カチャ

 

 キューポラのハッチを開けて出てきたのはタングリスの相棒のグニ(タングニョースト)だ。

「よかった、まだ出発されていなくて。どうぞ、この二号戦車を使ってください、操縦はタングリスがやります」

「やっぱり、ここを出ると顔が指すか」

「城塞は元帥のコントロールが行き届いているが、外へ出るとなると……」

「ムヘンポートに向かうのだぞ」

「念のためだ」

「……そうか」

 グニとグリの会話から、ムヘンそのものから出るまでは気が抜けないことが分かる。

「いいじゃないか、二号は三人乗りだが、ブリとケイトは小柄だから、なんとかなるだろう」

「国境警備仕様なので四人乗りになっています、ムヘンポートまでですのでご辛抱ください」

「識別番号が城塞警備のままだが」

「城門を出れば切り替わる。前線への補給に化けて行くつもりだ。軽戦車で窮屈ですが、ご辛抱ください」

 わたしに向かって敬礼すると、戦車の鍵をグリに渡し、回れ右……したところへ、買い出しの二人が帰って来た。

 

「おう、タングニョースト、見送りに来てくれたのか!」

「ちっこい戦車! キュークツそう!」

 

 リュックいっぱいの戦利品を揺すりあげて胸を張るブリとケイト。

 どう見ても、これから遠足に出かける小学生のノリだ。

「あいにくですが、乗るのはわたしたちですよ」

「え……冗談だよな?」

「冗談なのは、二人のリュックだ。おやつは三百円までって言ったろがー」

「三百円以内だよ! みんなタダでいいって言うんだけど、ちゃんと三百円は渡してきたぞ。ケイトの分は建て替えてっから、あとでくれ」

「それは、後ほどの補給でわたしが持って参りましょう、安心してお預けください」

「「それってオアズケだあ!!」」

「文句言うな」

 しぶしぶリュックを差し出す二人。ポケットに忍ばせた分は大目に見てやる。

「あ……っと、そのツインテール、狭い車内では危険ですね」

「あ、そっか。なら、解いて短くしてもいいぞ🎵」

「解くのは事を成し遂げてからです。わたしが、なんとかしましょう」

 グニは、あっという間にブリのツインテールを五センチほどのお下げにまとめてしまった。

 

 プータレる二人をグニと二人で摘まみ上げるようにして二号の中に放り込む。

 

 ブルン……ブルルルルルル

 

 ブリが手際よくイグニッションを入れ、二号は本営の外を半周して城塞の北門を目指した。

 

 

☆ ステータス

 HP:500 MP:500 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト

 持ち物:ポーション・15 マップ:2 金の針:5 所持金:5000ギル

 装備:剣士の装備レベル5(トールソード) 弓兵の装備レベル5(トールボウ)

 

☆ 主な登場人物

  テル(寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ         ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 タングリス      トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 二宮冴子  二年生  不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生  セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生  ポニテの『かの世部』副部長 

 

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せやさかい・163『模擬法事 手の焼ける話』

2020-08-14 12:47:35 | ノベル

せやさかい・163

『模擬法事 手の焼ける話』    

 

 

 なるほどなあ……

 

 スマホを見ながらテイ兄ちゃんが感心してる。

「え、なにが?」

 エロマンガ先生から目を上げてテイ兄ちゃんの手元を覗く。

「ほら、見てみい」

 画面にはコロナの字ぃを組み立てたら『君』という漢字になって、今はコロナでバラバラやけど、今度会う時は『君』だよとうまいこと書いてある。

 だいたい、こういう標語めいたものはお寺の掲示板とかに書いてある。

☆・仏は私の中にいる……一瞬「え?」やけど、なるほど『私』という漢字に隠れて『仏』という漢字が隠れてる。

☆・ボーっと生きていてもいいんだよ……学校の先生も見習ってほしい、二言目には「ボーっとすんな!」やさかい。

☆・隣のレジは早い……「隣の芝生」の言い換えやけど、今日日の家に芝生は無いから、この方がよう分かる。

☆・墓参り合掌した手で蚊を殺す……ウンコしてお尻拭いた手でカレーを作る。面白いけど人には言えません。

「なんや、標語に興味あるんか?」

「ボンさんて、こんなシャレみたいなことばっかし、考えてるのん?」

「うん、檀家周りとかしたら、お経の後に話しせなあかんやろ」

 そう言えば、本堂で法事とかがあったら、締めくくりに、そういう話をしてたなあ……たいてい面白ないけど。

「ネタを仕込んどかんと恥かくよってになあ」

「なるほど、せやからコロナネタなんかええねんね」

「うん、これは、さっそく使わしてもらおう」

「あ、パクリや」

「こういうのは、持ちつ持たれつやねん」

「せや、いっかい文芸部のみんなに聞いてもろたら? みんな言葉の感覚はええさかい、ええモニターになるで!」

 

 というので、次の部活で、さっそくやってみた。

 

 で、いちばんウケたのは『ウンコしてお尻拭いた手でカレーを作る』でありました。

 ちょっと説明するね。

 テイ兄ちゃんが思てたほど、みんなの熱は上がらへん。みんな行儀はええから「なるほど」とか「うまいですね」とかは言うんやけど、国語の授業の感想の感じ。で、ちょっと空気を温めようと思って披露したら、みんな腹を抱えたというわけ。

「ほんなら、モグモグタイムにしよか」

 テイ兄ちゃんは、思いついておばちゃんが作ったパンを持ってきた。

 これが、なんとカレーパン。

 いやいや、みんな死ぬほど笑いました。

 収まってカレーパン食べてる間も標語のフレーズが浮かんで、むせたり涙目になったり。面白かった。

 一年坊主の夏目君は十三歳で文学者を気取ってるとこがあって、こんな下卑たギャグで笑えるかっちゅうとこがあるねんけど、キュッと結んだ唇が震えとった。可愛いやっちゃ(^▽^)/

 頼子さんは、もう涙目になって笑ってる。

「こんどお祖母ちゃんに話してやろう!」

 ちなみにお祖母ちゃんはヤマセンブルグの女王様。日本の評判は落とさんとってほしいです。

「もう慣れました」

 留美ちゃんもニコニコ。

 去年の今頃やったら真っ赤な顔して俯いてたと思う(夏目君の反応に似てたと懐かしく思う)。

「お兄さん」

「は、はひ」

 頼子さんに声をかけられて、テイ兄ちゃんは声がひっくり返る。

「わたし、お盆とかの法事って経験がないんです。どんな風にやるか見せてもらえません」

「それは、お安い御用です!」

 みんなで本堂の外陣に周って、模擬法事を体験する。

「え、マスクするんですか?」

「今は、コロナでしょ、本山からの指示でこんな風にやるんですわ」

 なんと、コロナバージョンでやってくれるらしい。

 懐から小さなアルコール消毒のスプレーを出して、シュッシュッとスプレー、そして燭台のロウソクに火を点けようとしてマッチを擦る……。

 ボ!!

「「「キャーーー!」」」

 なんと、マッチを擦ると、テイ兄ちゃんの手ぇが燃え出した!

「しょ、消火器!」

 頼子さんが叫ぶんやけど、咄嗟には誰も動かれへん。

「あ、あ、大丈夫、アルコールが燃えてるだけやから(;^_^A」

「いや、でも!」

 頼子さん本堂の縁側から消火器を持ってくる。

 テイ兄ちゃんは手をハタハタ振って、なんとか消し止める。

 みなさん、アルコール消毒した直後にマッチを擦ったらあかんという教訓でした。

 

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ポナの季節・3《親友……になりかけ奈菜の行方》

2020-08-14 06:08:38 | 小説6

・3
《親友……になりかけ奈菜の行方》
         

 ポナとは:みそっかすの英訳 (Person Of No Account の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名)


 ポナは、五回のメールと三回の電話をした。

 しかし奈菜からは、なんの返事も無かった。

 配られたプリントなどが溜まっていたので、ポチのお散歩にかこつけて、奈菜の家まで行ってみた。
「ごめんなさいね、連休の半ばから風邪こじらしちゃって。今朝も制服には着替えたんだけど、やっぱり本調子じゃなくて……週明けには元気になると思うから、またよろしくね」
 奈菜のお母さんは笑顔で言ったが、ポナはひっかかった。

 風邪であるのは担任からも聞いていた。今週いっぱい休むようなら家庭訪問するとも。

 で、担任が入ってややこしくなる前に、ポナだけでなんとかしようと思ったのでる。
 母親の言葉にあっさり引き下がったポナだが、怪しさは決定的であった。
 ポナは衣替えしたばかりの中間服でポチを連れている。世田谷女学院の中間服は、一見制服には見えないギンガムチェックのワンピだ。校章は外していったが、奈菜が同じ制服を朝に着ていたら気づいて一言ありそうなものである。母親がポナの服を見る目は私服に対するそれであった。
 それに、話しの要所要所で目線が逃げる。女性警官をやっている上の姉・優奈から「人間、嘘を言う時には目線が逃げるものよ」と聞かされている。ポナは、いったんあっさり引き下がって、五分ほどしてから、再び奈菜の家のインタホンを押した。

「すみません、一つ忘れてました。月曜は体力測定で、授業はありません」
「え、ああ……担任の先生からも聞いているわ、ありがとう(;゚Д゚)」
 母親が、ドアを閉めようとした瞬間に核心をついた。
「おばさん、奈菜、家にはいないんでしょ?」

 瞬間母親は笑顔で否定しようとしたが、すぐに表情が崩れた。

「六日前から……」
 そう言って母親は泣き崩れた。
「六日も前から……なんで、ほっといたんですか!」

 奈菜の父親は隣接県の公務員で、社会福祉課長に昇進したばかり、立場上娘の家出を公表することはためらわれた。また両親ともに奈菜は、まだまだ子供で、すぐに帰ってくるだろうとタカをくくっていたのだ。で、そうしているうちに六日がたってしまい。今度は逆の意味で公表しずらくなり、母親は、昨日こっそりと探偵事務所に捜索を依頼したようだ。
「そんなバカな、奈菜はまだ十五歳の高校生で、立派な十五の女なんですよ!」
 ポナは、なんだか矛盾したことを口走ったが、ポナの頭の中では一つの考えにまとまっている。

 十五の女の子は体は一人前だが、頭の中は、まだまだ子どもである。だからとても心配だと。

「すぐに捜索願をだしてください!」
 そう言って、ポチを引きずるようにして、家に帰り、遅番で、まだ警察署にいる上の姉優奈に電話した。
「あ、新子。友だちの支倉奈菜のことでしょ?」
「うん、でもどうして?」
「いま、通報があったの、横浜のガールズバーで、よく似た子が働いてるって。詳しくは言えないけど、新子も署まで来てくれる?」

 不思議さと安心を胸に、姉の警察署に向かうポナだった。


※ ポナの家族構成

 父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師

 母     寺沢豊子(49歳)   五人の子どもを育てた、しっかり母さん。

 長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉

 次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員

 長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官

 次女    寺沢優里(20歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ

 三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
 

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かの世界この世界:40『噴水の縁に腰掛ける』

2020-08-14 06:08:16 | 小説5

かの世界この世界:40     

『噴水の縁に腰掛ける』  

 

 

 あれだけ寄って来た子どもたちが見向きもしない。

 無辺街道で出くわしてから、ずっと『ブリ』と呼んでいるが、それは、ただの短縮形、あるいは愛称だ。

 正しくはブリュンヒルデで、厳密にはブリュンヒルデ姫。呼びかける時は『殿下』あるいは『ユアハイネス』を付けなければならない。

 囚われの身であることを考慮しても、最低『様』を付けなければならないだろう。

 トール元帥から『ュンヒルデ』を取られてしまったのは、ヴァルハラに着くまでの心得くらいに思っていたのだが、本営を出てからのムヘンブルグの人たちは一向に関心を示さない。

「たいした力なのだなあ、トール元帥は」

「これなら、ブァルハラに着くまで誰にも気づかれなくて済むね🎵」

 ケイトは、早くも目的を果たしたかのように気楽になっている。

「ムヘンブルグを出るとわかりません」

 タングリスは、おだやかに言っているし、ずっとポーカーフェイスだ。

 

 で、肝心のブリは、なにやらキョロキョロ。ツインテールが揺れているのまでが触覚かレーダーアンテナになって探っているように見えてくる。

「ちょっと買い物をしてくるぞ」

「買い物?」

「勇者の旅立ちには必要なものがあるのだ」

「あまり荷物にならないように願います」

「分かっておるわ」

 タングリスの忠告をテキトーに聞いてバザールの方へ駆けていく。まるで、これから遠足にいく小学生のようだ。

「テル、わたしも行きたい!」

「いいけど、お金持ってないだろが」

「勇者の旅立ちへの喜捨は功徳があるとされています。弓はもって行ってください、ケイトが勇者である証ですから」

「うん、分かった! おーい、ブリ! わたしも行くぞーーー!」

 

 わたしとタングリスは、バザール手前の広場で待つことにした。

 

 広場は、心持ち周囲よりも小高くなっていて、バザールやら居住区が小間物屋さんの陳列棚のように見える。

 折しも、秋の日差しが傾き、穏やかなオレンジ色に陳列棚を染め始めている。

「しっかり味わってください。こんな、世界の平和が約束されたような穏やかさは、当分は味わえませんからね」

「ああ、そうさせてもらうよ」

 二人で噴水の縁に腰掛ける。

 

 キャラキャラキャラ……

 

 居住区に隣接する警備隊屯所の方角から、石畳をこすりながら近づいてくる音が響いてきた。

 

☆ ステータス

 HP:500 MP:500 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト

 持ち物:ポーション・15 マップ:2 金の針:5 所持金:5000ギル

 装備:剣士の装備レベル5(トールソード) 弓兵の装備レベル5(トールボウ)

 

☆ 主な登場人物

  テル(寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ         ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 タングリス      トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 二宮冴子  二年生  不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生  セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生  ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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魔法少女マヂカ・169『ツンの名は詰子』

2020-08-13 12:45:39 | 小説

魔法少女マヂカ・169

『ツンの名は詰子』語り手:マヂカ    

 

 

 久々に姉妹で出かけている。

 

 お盆前の昼下がり、姉妹揃って日暮里駅へユルユルと歩いていると、通行人や昼食を終えて職場に戻る男たちが額や首筋の汗を拭いながらもチラ見していく。まあ、美女と美少女の二人連れ、それも揃って日傘をさして、胸から上は輪郭だけの影になって、シルエットで窺える美しさを確かめてみたいとガン見に近い眼差しになる。予期せぬ美女との邂逅に眼福と思うか、余計の熱を発して、ことによっては熱中症に陥ってしまうか。

 並の姉妹だったら、緊張のあまり目を伏せたり人目の少ない裏通りに迂回の道を選ぶかもしれない。

 しかし、そこは魔法少女のわたしと、地獄の番犬ケルベロスが擬態した偽りの美女と美少女。そんな世間の目は屁でもない。

 それに、音声を発せずにアレコレ話をしているので、それらしく反応している余裕もなかったりする。

『同じ日暮里高校でよかったのかなあ、夏休みだから、もう少し検討できたんじゃないかと思ったりする』

『余裕があれば他の選択肢もあったけどね、ついこないだまでは西郷さんの猟犬だったんだよ。実際に学校に通い始めたら、慣れないことばかりで、どんな失敗があるかもしれない。同じ学校で様子を見てやるのがいいんじゃないの?』

『猟犬だったからこその従順さが問題だと思うのよ、これからは人の子として暮らしていくわけだから、多少は混乱することがあっても自分で慣れたり解決していく力を身に着けさせなきゃならないんじゃないかなあ』

『それは、高校を出てからでいいだろ、取りあえずは慣れさせることだ。それに、もう決めてしまったことだよ』

 そうなんだ、姉妹二人で夏休み中の学校に行って、末の妹という設定になったツンの転入の相談に行っていたのだ。

 調理研の優等生である渡辺真智香の妹で、お堅い探偵事務所勤務の渡辺綾香も二人の姉且つ保護者とあっては問題の有るはずもなく、あとは本人の意思を確認の上週明けに転入試験を受けさせる運びになる。

 本人を同行させてもと思ったが、まだまだ世間のアレコレに慣れさせなければならず、姉二人が決めることなら不満なんてあるはずもないと猟犬らしい明るさに「じゃ、行ってくるね」と、真夏の太陽に急かされるように出かけた次第。

『ま、学年は一個下だし、部活とかは調理研以外を選ばせれば、ツンの自主の心も育んでやれるんじゃないか』

『しかし、名前は、もうちょっと考えてやってもよかったんじゃない?』

『いいじゃないの、渡辺詰子(わたなべ つんこ)。個性的だし、インパクトもあるし、印象が明るい』

『先生に聞かれるまで考えてなかったでしょ、とっさに、マンマの詰子』

『メールで確認したらツンも喜んでたじゃないか(^_^;)』

『あの子は、人間になれるってだけで嬉しいのよ。まあ、薩摩おごじょだから乗り切ってはくれるだろうけど』

『真智香もこだわるなア』

『あ、あたりまえでしょ、妹なんだから!』

『なんか初々しいお姉ちゃんブリだなあ(o^―^o)』

『茶化すなあ!』

『アハハハ』

 はた目には無言だけども、駅に着くまで成りたての姉二人は気をもんでいたのだ。あとは帰りに大塚駅の近所で晩ご飯の材料を買って家に帰ればミッションコンプリート。

 

「お姉ちゃん、そっち上り!」

 

 改札を抜けて大塚とは逆の上りのホームを目指すので、声に出して呼び止める。

「うん、ちょっとね、上野公園に用がある。真智香も付いて来て」

「上野公園?」

「あ、ひょっとして……」

 思い当たることはあったが、わざわざ確かめることではないと思っていたが、さすがは地獄の番犬、確認せずにはおれないのだろう。

 美人姉妹は上野公園を目指した。

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