大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ポナの季節・12『選挙』

2020-08-23 06:34:26 | 小説6

・12
『選挙』    



  ポナとは:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名




 ポナの父達孝は来春には定年をむかえる都立A高校の教諭である。

 もう三十七年も勤めているので、できたら早期退職したかったが、下の娘二人がまだ現役の高校生と大学生なので辞めるわけにはいかない。
 学校も、その辺の事情は分かっているので、分掌長や担任などという面倒な仕事からは外してくれて、平の生徒会顧問という穏やかなポジションにしてくれている。文化祭と体育祭、それに間近の生徒会選挙をこなせば講師時代も含めれば四十年になろうかという教師生活に幕が下せるはずだった。

 が、ここへ来て、ちょっとした問題を抱え込んでしまった。

 予定していた生徒会の会長候補が降りてしまったのだ。

 理由は大阪の知事選挙でHが惜敗したからである。会長候補の三年生は大のHファンであった。今どき生徒会活動にも熱心な二年生だったが、こういうところは子どもである。

 選挙の公示を間近に控え、顧問も生徒会執行部も頭を抱えた。
「分かりました、わたしが何とかしましょう」
 達孝は、まるでコンビニの弁当を代わりに買いにいくような気楽さで引き受けた。

「どうだ真由、Hさんは、ほんとうに辞めると思ってるのかい?」
「だって、夕べ、あんな清々しい顔で宣言したんだもん。あの人の性格から言っても、辞めますよ」
 若い顧問にはぞんざいだが、定年間近の達孝には、学年一の生意気女子も敬意を払ってくれている。
「組織が放っておかないよ。Hさんの党は、あれだけの大所帯になって国政にも影響力を持っている。周りが放っておかないさ、真由みたいにな」
 と、くすぐっておく。
「そうなんですか。でも…………えと……じゃあ、寺沢先生も例の話ししてくれます?」
 真由と、その取り巻きが達孝の周りに集まった。

 達孝の妻の豊子が教え子であるという噂は、三回目の転勤先であるA高校でも伝わっているが、達孝は、そのことを聞かれても笑ってごまかしてきた。
「じゃあ、触りだけな」
 達孝を囲む輪が一回り小さくなって寄ってきた。
「うちのカミさんは、最初の学校で最初に教えた生徒だ。それは認める」
 小さくなった輪は、この一言で人数が増え、一回り大きくなった。
「ただ、付き合いだしたのは、カミさんが卒業してからだ」
「でも愛し合ってたんですよね!?」
「当たり前でしょ、愛してなきゃ五人も子どもができるわけないさ!」

 真由が言って、取り巻きがくすぐったそうに笑う。
 生徒は、意外にも子どもの人数まで知っていた。

「「「「「「それで!?」」」」」」
「続きは真由が当選してからだ」

 あっさりと会長候補が決定した。

 ところ変わって世田谷女学院。

「ね、あたし副会長に立候補するから、応援よろしくね!」
 朝、昇降口で一緒になった橋本由紀が、ポナの肩を叩きながら言った。
「え、すごいじゃん。一年で副会長、見上げたもんよ!」
 由紀とは、出席番号が近いこともあって、集会や行事の時に話す機会が多い。支倉奈菜の次に親しい間柄だ。
「ポナは、自分で思っている以上に影響力あるから、よろしく頼むね!」
「過剰な期待はしないでね、ただ賑やかなことが好きってだけだから(^_^;)」

「ご謙遜、ご謙遜、ポナが付いてくれたら百人力よ!」

 都立A高校と世田谷女学院の生徒会選挙は、期せずして寺沢親子が関わることで進み始めた。


※ ポナの家族構成と主な知り合い


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長候補

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かの世界この世界:49『シュタインドルフのヴァイゼンハオス』

2020-08-23 05:51:57 | 小説5

かの世界この世界:49     

『シュタインドルフのヴァイゼンハオス』  

 

 

 

 ムヘンブルグの遥か西、シュタインドルフのヴァイゼンハオスを目指している。

 

 シリンダー融合体との闘いが苛烈だったせいか、単調なムヘン川の景色のせいか、武骨な二号戦車のエンジン音も振動さえも心地よく、つい居眠りしてしまいそうになる。

「よく、こんな体勢で寝られるなあ」

 知恵の輪のように絡み合って寝ているブリとケイトに感心したのは、寝てはいけないと思う自分への戒めであるのかもしれない。

 敵の襲撃に備えて、狭い車内に居るようにしているのだ。

「この緩い峠を越すとシュタインドルフです。車外に出ても大丈夫でしょう」

 峠が近づくにつれて戦車や戦闘車両の赤さびた残骸が散見されるようになってきた。

「先の大戦でシュタインドルフを目前に逃げきれなかった車両たちです」

 孤児院があるくらいに安全な所なのだろうが、ちょっと殺伐とした風景だ。

「どんなところなんだろう、シュタインドルフというのは?」

「厳つく聞こえますが、日本語に訳せばシュタインが石、ドルフが村ですから、石村です」

「石村……」

 拍子抜けがする。

「村全体がオーディンシュタインという岩盤の上にあるんです」

「主神オーディーンの名を冠した石?」

「ええ、絶大な魔よけの効果があります。この石の上に居れば安全なので、一時は州都を持ってこようと言う話もあったのですが、さすがに城塞を築けるほどの広さもありませんし、西に偏り過ぎていることもあって、トール元帥はムヘンブルグに決めました。かわりに小さな村が拓かれて、シュタインドルフと名付けられたのです。この残骸たちも追い詰められた末に逃げ込もうとしたんでしょう」

 キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン

 う!

 軽い耳鳴りがして、耳が詰まったような感じになった。

「峠を越えました。外に出ても大丈夫ですよ」

 最初に飛び出したのはブリだ、今の耳鳴りで目が覚めたのだろう。

「ふわああああああ(´Д`)…………え……みんなも出てみろ!」

 車外に出て猫のようにノビをしたブリが沈んだ声で呼んだ。

「どうかしたんですか……」

 続いて出たグリが息をのんだ。

「これは……」

 驚いた。

 一キロほど先に見えてきたシュタインドルフは、ヴァイゼンハオスらしき建物を残して廃墟になっているではないか!?

 魔物の襲撃が無いとは言え、辺境の自然は苛烈なのだろう、十数軒の家屋は、いずれも棟が落ちたり崩れたりの無残な姿だ。

 無事に逃げ込んだ戦車たちも姿はそのままに息絶えたカブトムシのようにうずくまっているのが寂寥をいや増している。

 赤さびた戦車たちは村の長閑さとは対照的で、かえって今の平和が際立たせるオブジェになっていたのだが、今は村の荒廃をより際立たせて、悪魔の置き土産のようになっている。

「孤児院は生きています、ポールに聖旗が翻っています」

 目を凝らすと、ムヘンブルグの城頭にも掲げられていたオーディーン旗が翻っている。聖旗とも呼ばれるそれは定時の掲揚と降納が決められているのだ。

「給水塔とポンプ小屋が壊れている……ちょっと川に寄ります」

「それがいいようだな」

 グリの提案は直ぐに理解できた。給水塔とポンプ小屋が壊れているということは、水の補給がままならないということだ。

 右手二十メートルの川から水を汲んで持って行ってやるのは妥当だと思う。

 二号戦車はグリの意をくんで川辺に進路をとった。

 

 ブン! ブン! ブン! ベチャ!

 

 何かが四つ飛んできて、反射的に避けたが、ドジなケイトがまともに顔で受けてしまった。

「と、取って~! 気持ち悪~い(;'∀')!」

 それは、よく肥えたカエルであった。

 

☆ ステータス

 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

短編ファンタジー『ギンガムチェック』

2020-08-22 19:28:31 | ライトノベルセレクト

短編ファンタジー
ギンガムチェック   


 

 

 碧(みどり)が病室に入ってきたのは、中尾たち重役三人組と入れ違いだった。

「もう言うことは……!?」
「ん?」
 その声で碧と分かって、丈二は新聞を読むフリをして、不機嫌な語尾を飲み込んだ。
「ジイチャン、まだ、中尾さんたち叱ったの?」
「叱りゃせんよ。ただ、機嫌が悪いだけだ」
「中尾さん、汗拭いてたわよ。こんなに冷房効いてんのに」
「あいつら、見舞いというよりも、オレが死にそうかどうか見に来ただけだ」
「言い過ぎだよ。会社の運命はジイチャンにかかってるんだから……お花、新しいのに替えてくるわね」
「お。碧……」
 そう言いかけたときには、碧はポニーテールをひらめかせ、花瓶を持って病室を出て行ってしまった。
 丈二は器用に左手の小指で右耳を掻きながら、孫娘の碧が、赤いギンガムチェックの半袖を着ていることに初めて気が付いた。

 唐突に半世紀前のミリーの姿が浮かんで、丈二はうろたえた。
 カンサスの麦畑の向こうで、ミリーは手を振っていた。千切れんばかりに……。

「どうして、そんなオールドファッションなナリしてんだ」
「あら、流行ってんのよギンガムチェック」
 花を生け直した碧は、バッグからタブレットを出した。
「ほら、これ」
 タブレットで、ギンガムチェックのお揃いで、十人ほどの女の子のユニットが唄って踊っていた。
「歌は分からんが、この子たちのナリは、オールディーズだな」
「うん。わたし、その辺からやり直そうって思ってんだ」
「よせよ、いくら行き詰まったからって、こんなチャラチャラしたポップスはないだろう。碧の答ってのは、こんなに軽いもんだったのか」
「違うよ、オールディーズからやり直してみようって思ってるんだ。ヒントはジイチャンなんだよ。ジイチャン、よくアメリカのオールディーズとかジャズとか聞いてんじゃん」

 碧は、中学のころから、バンドを組んで、ポップスに嵌っていた。高校に入って百人ほどもいる軽音部の中でもピカイチで、軽音の全国大会で優勝したこともある。この春には大学生になったが、そのころから仲間たちとポップスの方向性でぶつかるようになり、自然に独りぼっちになってしまった。
 で、この夏は、心機一転出直そうと……並の人間なら北海道か、海外に出かけるところだが、碧は違っていた。
「そんな身軽な格好で、十日間もどこに行くの?」
 母の小馬鹿にしたような言葉に、つい口から出てしまったのが、「奈良」であった。

 祖父ゆずり、がんこな碧は、その足で本当に奈良へ行ってしまった。汗を垂らしながら平城旧跡で一日ボサっとしたり、若草山のてっぺんでアイスクリームを舐めたり。
 三日目で着るものが無くなった。ホテルのランドリーに出すこともせずに、その都度捨てた。下着はともかく、上に着るものも現地調達することにした。そこで、偶然出会い、気に入ったものが自分のものだと、思いこむことにした。
 奈良町を歩いていると、細い路地に迷い込み、町屋作りの構えは昔のままにした古着屋に出会い、そこでギンガムチェックの古着に出くわした。丈の短いサブリナパンツと合わせて買った。
オールドファッションであることは分かったが、それを超えた懐かしさがあった。気に入ったので、もう二三着買おうと思って、その店を探したのだが、半日歩いても見つからなかった。
 そして、その新しいお気に入りのギンガムチェックで薬師寺に行った。国宝の東塔は改修中だったが、西塔を見てビビっときた。
――塔全体がリズムを持っている。一見不規則そうな塔の屋根が、とても小気味良いバランスとリズムをもっている。
――フロ-ズン・ムズィーク……高校で習ったブルーノ・タウトの言葉が蘇ってきた。
 碧は、奈良に来て、ポップスをやるなら、いっそ原点である、アメリカン・オールディーズからやり直してみようと思い定めた。

 丈二は、重役達が見舞いにもってきたメロンにかぶりつきながら、向日葵のように喋る碧を可愛く思った。
「ジイチャン。そいで、勝手にジイチャンのコレクション、コピ-させてもらったよ」
 碧は、タブレットを開いた。
「おお、こんなに……で、オレに見えやすいようにスマホじゃなく、タブレットにしたのか」
「ううん。スマホのチマチマした画面ウザイから、これにしてんの」
「お。コニー・フランシスじゃないか。『VACATION』だな……ん、なんでこの写真が!?」
「ふふ、やっぱ、ワケありなんだ。レコードのジャケットの中に入ってたよ」

 その写真は、色も褪せていたが、それでも赤と知れるギンガムチェックのシャツをラフに着たミリーが写っていた。


 ミリーは泣いていた。
「どうして、どうして、ここに居てくれないの。こんなに、こんなにジョージのことが好きなのに、愛しているのに!?」
 ミリーを後ろからハグして、ミリーのママが言った。
「ジョ-ジ、お願い。ミリーの願いを聞いてやってちょうだい」
「そうだよ。オレは日本人は好きにはなれないが、ジョージは別だ。街のクソガキどものチキンレースにものらなかったし、そのことで悪態をつかれても、ジョ-ジは平気な顔でいた。ミリーが虐められたときも……」
 パパが、目頭を押さえて、カウチに座り込んだ。
「そうよ、あれで不良たちをみんなノシてしまったけど、ジョージは誰も傷つけなかった」
「オレなら、二三人はぶち殺していただろう」
「で、あなたも死んでいたわ」
「はは、そうだな。あの忍耐力と誇りの持ち方は、並の男じゃできないよ」
「でも、ジョ-ジは、右の小指を無くしてしまったのよ」
「無くしちゃいないよ、ほら、ちゃんと付いている。ただ一時的にマヒしているだけさ」
 丈二は、明るく笑って、包帯で巻いた小指を見せた。
「わたし、知ってる。ジェンキンス先生が言ってた、いずれ、その小指は切らなくちゃならないって……」
「ほんと、ミリー!?」
 一瞬気まずい空気が流れた。
「……はは、どうってことないですよ。少し耳くそがほじりにくくなるぐらいのことです」
「オレは……わたしは、ジョージ、君をミリーの婿にして、わたしの農場を任せたいんだ」
「それは、オーウェンズさん……」
 ミリーが、埋めたママの胸から顔を起こしてさえぎった。
「問題は、ジョ-ジが、わたしを愛してくれているかどうか、それだけよ……」

 カンサスの麦畑の向こうで、ミリーは手を振っていた。千切れんばかりに……。
丈二の閉じた目から、涙がこぼれた。

「ジイチャン、また悪い夢でも見た?」
 孫娘の顔が覗き込んできた。
「……あ、ミドリ」
 名前こそいっしょであったが、MIDORIと書く。髪もブルネットではあるが、目はブルーである。
「バアチャンが、やっと話してくれたわ。バアチャン、無免許で車に乗って次の駅まで、ジイチャンのこと追いかけたのよね。『ジョ-ジ、カムバック!』て、叫びながら。
 病室の隅っこで、すっかり老け込んだミリーが笑っている。
「どう、ジョージ。クローゼットの奥から出してきたの、思い出のギンガムチェック」
「ミドリ、すまない、しばらくバアサンと二人にしてくれないか」
「うん、いいわよ。だけど三十分ね。バアチャンもドクターストップかかりそうだから」

 丈二は、老いたミリーの顔を両手で挟んで慈しんだ。
「ミリー、今まで、苦労かけたな……」
「いいえ、楽しかった。わたしたちの人生、わたしたちが選んだ人生なんだもの」
「あの時は驚いたよ、次の駅に着いたら、ホームにミリーがいるんだもんな」
「神さまが助けてくださったのよ、ポイントの故障で、列車の出発が遅れたから」
「……そうだったのか……そうだったんだよな」
 そして、丈二は眠りに落ちた。ほんの少し、まばたきするぐらいの間……。


 そして、霞が晴れるようにして目が覚めると、目の前には碧の顔があった。
「こんな近くに顔寄せるの、幼稚園以来ね」
「オレ、何か言ったか……?」
「ミリーって……この、写真の女の子?」
「あ、いや……」
「はは、ジイチャン、顔が赤い。これなら、退院も近いわね」
「年寄りをからかうもんじゃない……ん、この仏さんの写真はなんだい?」
「あ、それ、法隆寺の夢違観音さま」
「夢違……?」
「うん、夢を取り替えっこしてくれるの。病院じゃ退屈だろうから、楽しい夢でも観られるようにね」

――そうだ……あの時、ポイントの故障なんか、起こらなかった。オレは未練にも前の駅の方を見ていた…… 砂埃をあげて、車が走ってくるのが見えた……。

[George com bac……!]

 そんな声が聞こえたような気がした。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ポナの季節・11『ポナとまちがわれた優里』

2020-08-22 06:32:55 | 小説6

・11
『ポナとまちがわれた優里』   



ポナとは:みそっかすの英訳 (Person Of No Account の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名)


 雷門の大提灯は下半分が畳まれていた。神輿の渡御の邪魔にならないためだ。

 人をかき分け、かき分けられ、もみくちゃになりながら神輿の渡御を「ソイヤソイヤ!」と囃しながらながら観る。これが正当な三社祭の鑑賞方法だ。
 昨日は、こともあろうにドローンで、これを撮影しようとして保護というか捕まった少年がいた。そんなことが頭をかすめるうちに次々とお神輿は雷門をくぐっている。四つ目の神輿が通ったあと声を掛けられた。

「寺沢さん!」

 半ば咎めるような声に振り返ると、見知らぬ女性が立っていた。
「あ……ごめんなさい、人違いでした」
「いいえ、あたしも寺沢ですから」
「あ……?」

 そこへ五つ目の神輿、二人とも「ソイヤソイヤ!」の掛け声に忙しくなった。

「あの、ひょっとしてポナの学校の先生ですか?」
「え、どうして?」
「あたし、ポナの下の姉の優里です。背格好が似てるんで、昔からよく間違われて」
「あ、そうなんだ。で、ポ……新子さんの具合はいかがですか? あ、あたし保健室の棚橋といいます」
「熱は下がったんですけど、明日から学校なんで休ませています。本人は観に来たがってましたけど、代わりにあたしが観て映像撮って話ししてやることになってます(^▽^)」
「そうだったんですか、じゃ、無理しないようにお伝えください。あ、棚橋じゃ分からないからエミちゃん先生からって」
「承知しました、あ、次のお神輿が」

 掛け声をかけているうちに、エミちゃん先生とははぐれてしまった。まあ、挨拶と申し伝えは承ったので――まいいか――と優里は思った。

 小さいころのポナを思い出した。

 四つも歳が離れているが、それでも兄妹の中では一番歳が近く、ポナはなにかにつけて優里の真似をした。体つきが四つ下のころの自分と同じくらいだったので、ポナは中学の制服も優里のお下がりだった。
 小さいころは、それで喜んでいたが、年頃になると嫌がり、高校は優里が出た乃木坂ではなくて、世田谷女学院を選んだ。少し寂しい気持ちもあったが、ポナの将来の自立のためには、いい選択だと思った。

 ポナが病院からやってきた日のことは、はっきり覚えている。

「ほら、優里の妹よ。可愛がってあげるのよ」
 お母さんが、そう言った時、とても嬉しかった。直ぐ上の優奈とは七つも離れていて、四つの歳まではミソッカスだった。
 自分がミソッカスで無くなるのも嬉しかったし、妹ができたことは素直に嬉しかった。
 自分が小学校に上がるころには、いつも付きまとうポナが、少し邪魔だったけど、何かにつけて自分に似ているポナが可愛くないわけではなかった。でも、寺沢家は大勢な上にみんな独立心が強く、ポナといっしょにいる時間は、うんと少なくなった。

「おい、優里!」

 後ろから声を掛けられた、今度は自分の名前。

 優里は自分の顔が赤くなっていくことをどうしようもなかった。

 ポナのことは、完全に頭から消えてしまった。



※ ポナの家族構成と主な知り合い


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

 高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かの世界この世界:48『ブロンズですか?』

2020-08-22 06:19:55 | 小説5

かの世界この世界:48     

『ブロンズですか?』     

 

 

 ケイトの回復スキルによってHPを全快したグリは、一本だけ残った鞭を高速回転させて突っ込んでいく!

 我々のために時間稼ぎをするつもりだ……グリの自己犠牲の精神に胸が熱くなる!

 

 しかし逃げるわけにはいかない! グリの自己犠牲に甘えるわけにもいかない! 旅は始まったばかりだ!

 刹那、ケイトを見るが、十字姿勢のまま呆然と浮遊するばかりで、わたしやブリのHPまで回復してくれる様子はない。

「テル、突っ込むぞ!」

「おう!」

 ブリとわたしは、HPを回復することなくグリに続いた。

 

 数秒の間に事態は変わった。

 

 ブリの突進力はすごく、瞬くうちにグリに追いつき、首が千切れるんじゃないかという勢いでツィンテールを旋回させた。

 グリの鞭もブリのツィンテールも、高速回転のあまり熱を持って発光し、灼熱のエネルギーを発散して旋回半径の倍ほどの距離にいるシリンダーをも粉砕している。

 凄い!

 感動したのは一瞬だった。

 融合体が、瞬間、膨張したように見えた。

 ブワ

 膨張したのではなく、融合を解いたのだ!

 融合するときに圧縮されるのだろう、放たれたシリンダーたちは瞬間に空気を充填されたようになって、元の融合体のサイズからは想像できないような数になって二人に襲い掛かった!

 ジュッ!

 最初に襲い掛かった数百は二人の得物によって、焼け石にかかった水滴のように蒸発したが、続くシリンダーたちは、プール一杯の水を浴びせたように得物の勢いを削いで、二人を覆いつくした。

 ブオッ!!

 わたしの中を灼熱するなにかが突き上げてきた!

 ほんの数瞬のうちの目まぐるしいせめぎ合い! そして眼前に迫った二人の危機にわたしの自我が炸裂した!

 

 グオーーーーーーーーーーー!!!!!!

 

 制御できない叫びをあげて突進し、ソードを二閃させた!

 二閃させただけでは勢いは収まらず、コマのように旋回しながら数十メートル上空に吹き飛ばされた。

 やっと踏ん張って勢いを削ぐと、さっきまで融合体であったシリンダーたちは数十分の一までに数を減らして四方に逃げ散っていく。

 浮遊していたケイトが、ゆっくりと動作し始めてグリーンのヒーラービームを放ち始め、ほとんどゼロになっていた二人のHPを回復し始めた……。

 

「二人とも凄かったじゃないか!」

 

 融合体との遭遇戦が終わって、しばらくは口もきけない四人だったが、回復力が人一倍のブリがニコニコ笑顔で言う。

 こういう時のブリは、出会った時のように、ひどく幼い顔に見える。

「ケイトのヒーラーぶり、ちゃんとコントロールできるようになったら、弓士とヒーラーが立派に兼ねられるぞ!」

「はあ……でも、ぜんぜん憶えてないんですよね(*´#`*)」

「テルさんのソードも凄いです! あれが無ければ、この旅は、このムヘン川のほとりで幕を閉じていたところですよ」

「とっさに出たスキルで、自分でやったものなのか実感が……」

「実感は大事だ! あたしが、スキルに名前を付けてやろう!」

 可愛く腕を組み、額に皴を寄せること数秒。パッと灯りが付いたような顔になって宣言した。

「オーバードライブってことで、ケイトのがブロンズヒール! テルのがブロンズスプラッシュだ!」

「え、あれだけの力がブロンズですか?」

 二号戦車を街道に戻し、クラッチを二速にしながらグリ。

「ブロンズにしとけば、これから、シルバー、ゴールド、プラチナって伸びしろを感じるだろ。いいか、ふたりとも、これからスキルを使う時は、スキル名を高らかに名乗るんだぞ。ブロンズなんとか! すると、敵も、もっと強力なのがあるんじゃないかとビビるからな。アハハハ」

 こういうところの無邪気さも子どもだ。

 じつに、いちばん正体が分からないのは、このブリかもしれない。

 

☆ ステータス

 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

銀河太平記・004『修学旅行・4・湾岸線』

2020-08-21 14:13:04 | 小説4

004

『修学旅行・4・湾岸線』    

 

 

 正面ロータリーで同級生三人(ダッシュ、彦、未来)を拾うとアナログのトヨタは湾岸線を北に向かった。

 

「警察とか追いかけてこないのかなあ?」

 未来が、少し期待したような口ぶりで背後や上空を気にする。

「だいじょうぶなのよさ。非は向こうにあゆんだかや、まあ、マークはしゃえてゆだろうけど」

「しかし、アナログってのは面白いけど、二層走れねえのは気分悪いな」

 ※:二十三世紀の車はパルスエンジンで浮遊走行し、道路は二層構造になっている。アナログ車はタイヤで接地走行するので、地上である一層しか走れない。

「地球に着いたら絶対アナログって言ってたのは誰だ」

「そりゃ俺だけどさ、走るんなら鈴鹿とか富士スピードウェイとか筑波だろ」

「鈴鹿以外は閉鎖されてるぞ」

「そうなのか?」

「ダッシュは遅れてるう」

「古典サーキットは維持費がたいへんだからな、技術継承のためだけなら筑波でも十分だった。文化財的価値を勘案すると、日本じゃ鈴鹿ということになる」

「まあ、とにかくさ、Gとか加速感とか慣性の法則とか路面をタイヤが噛むのを感じてみたかったということさ。この滑らかさじゃパルス車と変わんねえし」

「贅沢言わない、せっかくの修学旅行なんだから楽しむことに関して口を動かしてよ」

「いちおう、アキバに向かってゆのよさ」

「お、しょっぱながアキバか! ちょっち検索しなきゃな」

「あ、インタは反則ぅ」

 ※:インタ=インタフェイスのこと、地球では埋め込み型が多いが、火星では様々な理由からウェアラブルや携帯式になっているものがほとんど。ちなみに、修学旅行中の四人は古典的な『旅の栞』の携帯を義務づけられ、緊急時以外のインタは禁止されている(ダッシュのように守っていない者も多い)

「あんな黄表紙本みたいなの持ち歩けねえ」

「黄表紙本はないでしょ、モデルは『るるぶ』なのよ。編集にはわたしも入ってんだからね」

「え、そうなのか?」

「『るるぶ』と黄表紙を一緒にする神経も分からん、黄表紙は江戸時代で『るるぶ』は昭和・平成だぞ」

「ああ、オレ歴史は苦手だし(*ノωノ)、どっちもアナログの紙媒体だし」

「んなんじゃ、期末テスト、また欠点とるよ~」

「ダッシュ、卒業だけはいっしょにしような」

「うっせ! 修学旅行中は、そうゆう話は無しだろおがあ!」

「すまん、ダッシュの言うこと聞いてると、つい意識が現実にもどされてなあ」

「彦も、ナニゲにきついじゃん(;'∀')」

「テルがぜったい、卒業させてやゆかや!」

「あ、そーゆうのいいから」

「小父さんから、ぜったい卒業しゃしぇてって言われてゆのよさ。下宿人としては、大家の頼み、おりょしょかにはできないのよさ」

「あ、あれ、レインボーブリッジじゃねえのか!? ほら、歴史とか国語とかに出てきた!」

「ああ、あれがあ……」

「ダッシュでも教科書に出てくること憶えてんだ」

「ああ、あの名作『ゴジラ』の印象は強烈だったからな」

 ダッシュは、ほかの生徒のように人類の敵『ゴジラ』が印象に残ったのではない。ゴジラの侵入から都民を守るため、警察や自衛隊はレインボーブリッジの通行を停めようとして、総理も頷くが、橋の管理や交通規制の権限が分散・混乱しているために「レインボーブリッジの通行は止められません!」と言われ、ゴジラ対策が後手後手に回る。

 そのアホラシサが、ダッシュにはいちばん印象に残ったのだ。

 こういう感性が、直接褒められることはないにせよ、彦、未来、テルたちから愛されているところなのだろう。

 トヨタのアナログ車はアキバまで二キロの湾岸線を北東に走っている。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大阪ガールズコレクション:10『グーグルアース・馬場町・1』

2020-08-21 08:14:37 | カントリーロード

大阪ガールズコレクション:10

『グーグルアース・馬場町・1』  

 

 

 定額給付金の十万円でパソコンを買い替えた。

 

 今までは、Windows7の古いノーパソで、Yahoo!やグーグルのウィンドウを三つも開けると熱を持ってビックリするくらいの音で冷却ファンが鳴りだすと言う代物だった。Windows7のサービスも終わったので、この際にと買い換えた。

「中古のゲームパソコンがいいですよ」

 図書室のパソコンで調べていたら、司書の岩波さんが教えてくれた。

「CPもグラフィックボードにも余裕があって、動画見たりグーグルアースとかに便利ですよ(o^―^o)」

 十五歳も年下の司書さんは、あっという間にスマホを操って、オークションサイトで条件に合うゲームパソコンを見つけてくれた。

「一世代前だけど、グラボ(グラフィックボードの略らしい)も1060だし、その気になったらVRもできますよ」

 で、その場で自分のスマホを取り出して、岩波さんのアドバイスのもとに中古ゲームパソコンを買った。

 

 グーグルアースがサクサク動くのが嬉しくて、青春時代……と言っても、大人しめだったわたしは、ほとんど家と学校の往復だけ。それでも、就職してから二度の引っ越しをしているので、昔住んでいたと言うだけで懐かしい。

 通学に使っていた地下鉄都島駅を出してみた。橙色の人形をドラッグして駅のある交差点に下ろしてみる。

 とたんに平面だった地図は霧がかかったように白くなったかと思うと、次の瞬間には交差点の真ん中の写真になる。

 たった二十年だから、交差点の様子に大きな変化はない。

 交差点の真ん中からは、北と南の出入り口が等しく見える。正確には〇号出口とかいうんだろうけど、友だちや身内では「北の出口」とか「南の方」とか言っていたので、そうとしか言えない。

 そうだ、桜町商店街に同級の子が居て、お喋りが停まらない時は南の出口から出て、わざわざ大回りして帰ったっけ。美容院の子で……名前が出てこない。歳かな? 学年が変わったら疎遠になったんだっけ?

 ま、いいや。

 マウスを右から左に動かすと、景色がグルンと回る。

 前のノーパソは、ここで時間がかかった。景色が真っ白になって、モザイクが現れて、それがだんだん細かくなって、普通の写真になるのに数十秒。それが、ほんとうに交差点でパンしたみたいに景色が回る。感動する。

 あ……このアングルには憶えがる!

 そうだ、間島先輩のあとを付けて、わざわざ天六で同じ電車に乗り換えて、ストーカーみたいに付いて行ったんだ。

 封印していた記憶が蘇る。

 地下鉄の路線をたどってみようと思ったけど、やめた。

 間島先輩のあれこれを思い出して、かえって辛くなる。

 ま、グーグルアースだったら、いつでも行けるもんね。

 

 ゲームパソコンに慣れたころ、岩波さんがプレゼントをくれた。

 VRを買い替えたので、型落ちの、でも、わたしにとってはドラえもんの道具みたいなものだった!

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ポナの季節・10『朝から調子が悪い』

2020-08-21 05:42:15 | 小説6

・10
『朝から調子が悪い』
        


 ポナとは:みそっかすの英訳 (Person Of No Account の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名)


 朝から調子が悪い。

 どうも、昨日の四時間目に八重桜と授業でもめて、そのあと保健室へ行ったときから、ずっと悪かったようだ。
 でも、ポナは元来が丈夫な性質なので、このくらいと思って普通にランチとラーメンというポナの「ララランチ」を昼食でガッツリ食べて、放課後は奈菜と振りそぼる小雨の中を「春雨じゃ、濡れていこう」なんて気障を通したのが裏目に出たようだ。

 目が覚めると、熱っぽくて、いったんは起きたんだけど、測ると七度九分も熱がある。

「こりゃあ、ダメだ」と再び布団に潜り込む。

「ポナ、どうかした?」

 昨日から三連休の優里が覗いたが「アハハ、鬼の霍乱か」で済まされて、それでおしまい。
 同居の家族は減ったけど、元来が七人家族のミソッカス。ただの風邪ぐらいなら放っておかれる。
――ごめん、風邪で行けない。一人で楽しんできて――
 浅草の三社祭をいしょに観に行く約束をしていたみなみに、詫びのメールを入れる。

 ポチが、ポナの不調に気づいて枕元まで来てくれる。

 ポチは、ポナが生まれた時に、長男の達幸が拾ってきた雑種の子犬だった。ミソッカスのポナには家の中で、ただ一人積極的に仲良くしてくれる双子の兄妹のようなものだ。
「お前だけだね、ポチ……」
 そう言うと、ポチは優しげに、ホッペを舐めてくれた。

 ポチとポナは片仮名で書くと、とても似ている。ポナとはPerson Of No Account の頭文字をとったものだけど、ポチと似ているので、とても気に入っている。
「ポチ、ごはんよ」
 お母さんが、そう言うと、ポチはポナの顔とお母さんの声がした方を交互に見る。
「……ごはん食べてきな」
 そう言ってやると、ポチはようやく部屋を出て行った。出ていくときに名残惜しそうに振り返ったとき、ポナは不覚にも涙が出そうになった。そのあとポチは部屋の外まで戻って来たが入ってこない。
「ポチ、あんたも歳なんだから、一緒に居て風邪うつっちゃだめだからね」
 母の不人情な声がした。

 うつらうつらしていると、お祖父ちゃんの夢を見た。

 お祖父ちゃんとは同居じゃなかったけど、生きていたころは毎日のように家にきてはポナを可愛がってくれた。あまり可愛がるので、ポチが嫉妬して、お祖父ちゃんに吠えまくった。するとお祖父ちゃんはポチもいっしょに抱っこしてあやしてくれた。

 夢は、お祖父ちゃんに肩車してもらって三社祭を見てる夢だった。

 お祖父ちゃんは混雑の中、巧みに人垣をかき分けて前の方に連れて行ってくれる。足許にはポチがまとわりついて、お祖父ちゃんは、やってくる神輿をいちいち説明してくれた。ポナはとても幸せな気持ちだった。神輿がみんな通り過ぎると、お祖父ちゃんはポナを肩から下ろし、しゃがんでポナと同じ目の高さになって、こう言った。

「新子、悪いが家までは送ってやれない。ここでお別れだ。なあに心配することはない。お家に帰る。そう思えば瞬間で家に帰れる。そういう魔法がかけてある。じゃ、ポチ。新子をよろしくな」
「ワン!」とポチは返事した。
「お祖父ちゃーん!」
 幼いポナは、お祖父ちゃんを追いかけたが、お祖父ちゃんは、人波の中、振り返り振り返りしながら姿が消えた。
「お祖父ちゃん……」

 泣きながらお祖父ちゃんを呼ぶ声で目が覚めた。枕が涙で濡れていた……。


※ ポナの家族構成と主な知り合い


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かの世界この世界:47『シリンダー融合体との激戦!』

2020-08-21 05:26:42 | 小説5

かの世界この世界:47     

『シリンダー融合体との激戦!』    

 

 

 連携して戦うのは初めてだ。

 

 でも、四人はベテランのパーティーのように展開した。

 弓を得物とするケイトは後方から矢を射かける。

 グリは戦車兵のはずなのが、いつのまにか五メートルはあろうかという鞭を構えて融合体の右翼にまわっている。

 ブリはヘリコプターのようにツィンテールを旋回させて左翼でホバリング。

 わたしは、ソードを右手にダガーを左手に構えて二刀流。

 

 合図があったわけではない。

 

 四人とも、無意識に全員の態勢が整うのを待っていた。

 そして、ほんのコンマ二秒で占位し終えると、一斉に融合体に跳びかかった。

 トリャー! 

 ブリは一声を放つとツィンテールを高速回転させながら融合体の周囲を飛んで蹴散らしていく。

 セイ! セイ! 

 掛け声も勇ましく、一振りで数十個のシリンダーを叩き潰すグリ。

 …………! …………!  

 意外に無言で攻め立てているのはケイトだ。

 矢筒には数本の矢が入っているだけなのだが、それはいくら撃っても減りはしない。ただ、ツィンテールや鞭に比べて速度が遅い。一矢放つのに一秒ちょっとかかっている。幾千幾万あるか分からないシリンダーと対峙するには心もとない。

 トーー! ヤーー!

 古典的な掛け声で迫るのはわたしだ。

 恥ずかしながら、一度の剣戟で倒せるのは数体のシリンダーに過ぎない。うかうか融合体の傍にいては圧倒的なシリンダーに食いつかれ、雪ダルマならぬシリンダルマになって圧殺されてしまう。せいぜい三度の攻撃で離脱せざるを得ない。

 トヤーー!! セヤーー!!

 力を強めながら再度、再々度攻撃を加える!

 攻撃に気を取られているうちに、背中や足、頭にシリンダーは食らいついてくる。

 シリンダー一つ一つの威力はしれているが、度重なるとバカにならない、一分とたたないうちにHPゲージは半分を割るほどになってしまう。

 ブリとグリは、ツィンテールと鞭の違いはあるが、高速で旋回するので旋回半径に入ったシリンダーは粗方が蹴散らされる。

 しかし、ほんの僅かが、旋回の間隙から突き進んで、あるものは打撃を与え、あるものは食らいつく。そして、しだいに動きを鈍らせていくではないか!

 ウオーーー!

 渾身の吶喊でシリンダルマになりかけた二人に接近、二撃、三撃加えて離脱。

 すまん!

 瞬間の感謝を口にし、再び攻撃に向かう二人!

 アナライズすると、融合体のHPバーは七十パーセントのところで増減を繰り返している。

 周囲を窺うと、融合体は我々との戦闘をこなしながらも、強力な引力でシリンダーを取り込んでいる。

 かたや、我々はHP残量は四十パーセントほど。

 我々のHPは確実に減っていくが、融合体は増減が拮抗して、ブレながらも七十パーセントを維持している。

 このままではじり貧だ!

 ブチ!

 そう思った時、グリの鞭が手元の所で千切れて明後日の方角に飛んでしまった!

 残り一本の鞭で戦闘を継続するも、シリンダーの威力が勝っていて、十秒もたたないうちに融合体に取り込まれそうになる。

 

 トギャーーーー!!!

 グォーーーーー!!!

 

 期せずして、ブリと共に救援に向かう。

 ビシバシ! バリバリ! 

 叩き、引き剥がして、グリを救助し、一気に数百メートル離脱する。

 

「だめだ、HPが……」

 

 グリのHPは二目盛り残すのみだ。それも、点滅を繰り返し、放置していれば数秒で消えてしまうだろう。

「に、逃げてください……」

「しっかりしろ!」

 最後の一目盛りが消えた……その刹那、グリのHPバーがエメラルドグリーンに底光りして、次の瞬間にはゲージに満杯のグリーンに復活した!

「こ、これは?」

 目を転ずると、中空に両手を広げて十字の姿勢になったケイトがグリーンに光ながら浮遊している。

  ケアルフラーーーーッシュ!

 ケイトにはヒーラーの素養があったのだった!

 ステータスが上がった。

 

☆ ステータス

 HP:1000 MP:800 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・20 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・164『ソフィアがワキワキした』

2020-08-20 14:07:48 | ノベル

せやさかい・164

『ソフィアがワキワキした』    

 

 

 たった二週間の夏休みが終わって二学期が始まった。

 

 去年の夏休みはさくらと留美ちゃんを連れて、わたしのもう一つの母国であるヤマセンブルグとエディンバラに行った。

 ヤマセンブルグの王家は英国(正確にはスコットランド)の爵位も持っていて、厳密に言うと、わたしはイギリス人でもある。

 将来、どういうふうに生きて行こうかと、世間の15歳なら考え始めることをわたしも考えている。

 まあ、並みの15歳では考えもしない国籍の問題。わたしは日本とヤマセンブルグの二重国籍。二重国籍の人って、そこそこ居ると思うんだけど、わたしの場合、一国の王位に関わる問題なので、自分の趣味とか好き嫌いとか想いとかでは決められない。

 正直言って、そういう重たい選択からな逃げ出したい、あるいは先に延ばしたい。

 でも――真剣に考えています――という姿勢は見せておかなきゃならないので、半月あまり後輩二人を道連れの旅行だった。二人には申し訳ないと密かに手を合わせていたんだけど、さくらも留美ちゃんも胸時めかせて「有意義でした!」と言ってくれているので救われている。

 今年の夏は、コロナウィルスのことがあって日本もヤマセンブルグも鎖国状態。だから、ヤマセンブルグどころか、東京の大使館にも、大阪の領事館にも顔を出さずに済んでいる。

 思いもかけずにモラトリアムが延長されたわけなんだけど、それを生かせるようなことは何もできずに新学期を迎えてしまった。

 なんか、取り留めのない愚痴でごめんなさい。

 部活を決めなくてはならない。

 真理愛学院は全生徒が部活に入ることになっている。むろん絶対にという義務的なものでは無いんだけども、外見的にも立場的にも目立つわたしが特例的に部活に入らないという選択肢は避けなければならない。

 コロナで決定を猶予されていたようなもんだけど、まだ八月とは言え二学期が始まった今日、いつまでも未定のままではいられない。

 ソフィアは、さっさと弓道部に入って、もともとアーチェリーの有段者でもあって、メキメキと腕を上げている。

 さくらの従姉の詩(ことは)さんが部長を務める吹部には心が動いたけど、拘束時間が長いので候補から外さざるを得なかった。先生は中学の経歴から文芸部を勧めてくださったけど、安泰中学の文芸部が名ばかりで会ったことは、みなさんご存じの通り。と言うよりは、あのマッタリした中学の文芸部からいまだに抜け切れていないのかもしれないなあ、あの如来寺本堂裏座敷の部活は、それほどに楽しかった……。

 わ!?

 そんなことでボンヤリ廊下を歩いていると、角を曲がったら階段というところで人とぶつかって尻餅をつくところだった。

「す、すみません、ボンヤリしていて……!」

「だいじょうぶ夕陽丘さん?」

 ぶつかった相手が手を差し伸べてくれる、反射的に手を掴んで、その感触に――これは生徒ではない?――と直感、手の先には腕があって、腕の先には顔があって、その顔は夏用のライトグレーのウィンプルを身に着けた学院長先生だった。

「あ、ありがとうございます。危うく尻餅をつくところでした」

「よかった、廊下はコンクリートだから、打ちどころによっては尾てい骨骨折ぐらいになったかもしれないわね」

「尾てい骨骨折ですか?」

「ええ、六十年前、まだ生徒だった頃にやっちゃって、しばらくはおザブに座るのにも悲鳴を上げてたわ」

 学院長先生は、うちの出身だったんだ。ちょっと、嬉しくなった。

「ひょっとして、部活の事とか気にしてた?」

「あ、はい……どうして分かったんですか?」

「そりゃ、この学校の学院長ですからね、よかったら相談にのりますよ。今から会議だから、放課後にでも院長室においでなさいな、年寄りの茶飲み話の相手だと思って」

「は、はい」

 校長先生や教頭先生は知っていたけど、学院長先生はネット入学式の画面で見ただけだ。うちのお婆さまと同じ雰囲気がする。

「殿下、大丈夫ですかああああ!?」

 ソフィアが吹っ飛んできた。

「申し訳ありませんでしたです!」

「なんでソフィアが謝るの?」

「ソフィアは殿下ガードです、です!」

「いや、わたしがボンヤリしていただけだから」

「尾てい骨とか聞こえてましたけど」

「え、わたしに盗聴器でも仕掛けた?」

「いえ、窓からお姿が見えたです、殿下と学院長先生の唇の動きで」

「ああ、読唇術」

 ソフィアは代々王室に使える魔法使いの家系なんだ。

「学院の中なので、ソフィアは油断していたです」

「あ、だいじょうぶだから」

「大事ないか、ソフィアが見分するです、お尻を見せていただきますです!」

「ちょ、だいじょうぶ! すんでのとこで院長先生が手を取ってくださったから!」

「安全を確認するのはガードの務めです、です!」

 ちょ、両手をワキワキするのは止してくれる、ソフィア……ソフィアアアアアア!! 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ポナの季節・9『花金の浅草三社祭なんだけど……』

2020-08-20 06:34:49 | 小説6

・9
『花金の浅草三社祭なんだけど……』
   


 ポナとは:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名

 今日のポナは落ち着きがない。

 なんといっても浅草三社祭の大行列の日なのだから。

 小さいころに、亡くなったお祖父ちゃんに連れられて、よく見物に行ったものだ。ポナはお祭りが好きだ。

 普段はよそよそしい東京の人間も、浅草の三社祭と神田明神のお祭りでは、江戸っ子としてのアイデンティティーを共有できて、みんなが「仲間」って感じになれる。
 去年までは中学校の創立記念日が十五日だったので、三年連続でみなみたちといっしょに観にいけた。

――いまごろ神輿の渡御だろうな……――

 そう思うと気もそぞろだった。
 ところが、四時間目の社会の八重桜は、違う意味で興奮していた。

 八重桜の本名は桜田順三だけど、ハナよりハが前にでているので、入学早々ポナが付けたあだ名だ。一度間違えてあだ名で呼んだことがある。
「八重桜先生!」
 言ってから「しまった」とおもったが、八重桜は何を勘違いしたのか、ニコニコ顔で振り返った。
「なんだい、寺沢新子くん」
 ポナは驚いた。百人以上の生徒を教えていて、自分のフルネームを覚えてくれたからである。
「先生、名前覚えるの早いですね!」
「君のは特殊だからね」
 たしかに『新子』は珍しい。しかし、マツコ・デラックスほどではないし、寺沢は平凡の部類に入る。
「君の名前は、『青い山脈』の主人公と同じ名前だから」

 え……と思った。ポナは「青い山脈」を知らなかった。

 でも、お互い名前の事で意気投合してしまった。ただ、八重桜の意味は「桜田」という苗字からだという苦しい言い訳をしなければならなかったし、当番で集めたクラス全員分のノートを渡すのも忘れてしまった。

 その八重桜が興奮している。

「戦争法案が閣議決定されてしまった!」
 Aテレビのニュース解説者のようなことを言いだして、ポナの夢心地を吹き飛ばしてしまった。
「これで自衛隊の隊員たちは、いつ戦場におくりこまれるかもしれなくなったんだ!」

 安保法案のことだとは分かったが、決めつけた言い方は気に入らなかった。気に入らないと、すぐに相手を睨みつけてしまう癖が出てしまった。

「おや、なんだか一言ありそうだね新子くん」
「この法案は戦争をしないための法案なんです!」
「新子くん、ぼくの話し聞いてた? 自衛隊が戦える条件を増やす法案なんだよ。危なくなって当然じゃないか、先生には軍靴の響きが聞こえるよ」
「違います。法案が抑止力になるんです、不十分ですけど」
「これで不十分? 恐れ入るね」
「軍隊は、細々した法律はいらないんです。分かります? 細々と、あれはしていいこれはしていいというのは縛りすぎて抑止力にならないんです。だから、中国の海軍なんかに舐められるんです。軍隊には、してはいけないことを少しだけ決めておけばいいんです」
 ポナと八重桜が真剣になってきたので、クラスの大半は「関係ない」という顔をしている。奈菜だけが顔を向けて消極的だけど応援の姿勢を見せてくれている。
「ほう、例えばどんな?」
「平時において、相手を威嚇してはならない。命令によらない攻撃をしてはならない。国際法を逸脱するような軍事行動をとってはいけない。これくらいです」
「あとは、なんでもあり?」
「そうです。だからこそ抑止力って、軍隊の本来の任務が遂行できるんです。今度の法案は、そこまでいかないけど、少しは進歩したんです」
 ポナは、まくしたてながら、普段煙たく感じている大ニイの理屈を言っている自分が、正しいような、もどかしいような変な気持ちになった。
「君の考えは、少し偏向してるように感じるね」
「日本人で一番戦争をしたくないのは自衛隊なんです。なぜなら自衛隊の最大の任務は戦争をすることじゃなくて、戦争の抑止だからです」
「新子くん、きみ、身内に自衛隊の人いるんじゃないの?」
「います、上の兄が海上自衛隊です。でも、この考えは、あたし自身のものです」
 新子は、頭がぐらりとして思わず机に手を突いた。
「先生、気分悪いから保健室に行ってきます」

 ポナは、そのまま保健室へ行ってしまった。

 保健室では、養護教諭のエミちゃん先生が、パソコンで三社祭のライブを流してくれた。
「なんだか、お祭りのオジサンたちって江戸時代から、ずっと生きてきたように見えるわね」
 何気ない言葉だったが、ポナは、少し救われたような気がした。


※ ポナの家族構成と主な知り合い


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

 高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
 支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かの世界この世界:46『荒ぶるブリュンヒルデ!』

2020-08-20 06:21:32 | 小説5

かの世界この世界:46     

『荒ぶるブリュンヒルデ!テル  

 

 

 待てっ!

 グリがイグニッションを押そうとした時、凛として制止の声があがった。

 それがブリの声だと脳みそが理解するのに数秒を要した。いつもの気まぐれで小学生気分が抜けきれない中坊のようではなかった。凛とした声に瞬時戸惑ったが、身を乗り出して見上げたブリの表情は天晴れヴァルキリアの姫騎士のそれであった。

 驚く間もなく、ブリは続ける。

「禍々しいものがやってくるぞ!」

 そう続けてペリスコープに食らいつくブリ。

 グリもキューポラの八つあるペリスコープに次々と食らいついている。

「「あれは……!?」」

 発見の声は同時だ。

「おまえたちも見ろ」

 促されて、わたしもケイトとペリスコープを掴んだ。

 

 なんだ、あれは……?

 

 それは、数千個の泡が緩く集合してボンヤリと人型になったものだ。

 蚊柱の一匹一匹が蚊ではなく泡粒なのだと言ったら分かるだろうか……それが身の丈五十メートルほどになってやってくるのだ。

「確認だ!」

 ブリがキューポラから飛び出し、わたしたちも続いた。

「伏せろ!」

「痛い!」

 ボンヤリ出てきたケイトがブリに押さえつけられる。

 寝ていた時はケイトと似た者同士に見えたが、文字通り覚醒すると、その差は歴然だ。

「シリンダーが融合しかかっている……」

 数秒観察して、ブリが結論を出した。

 

 泡粒に見えたのはシリンダーだった。

 一つ一つのシリンダーは融合の中心から逃れようとしているのだが、引力が強すぎて逃れられないロケットのように放物線を描いて引き戻され、少し力の強いものは人工衛星のように融合体の周囲を回っている。引力に逆らって逃げおおせている者は、ほんの僅かだ。

「結合体以上のものになりかかっている」

 ムヘンの南半分、ブリと囚人地区を出ようとして散々悩まされたのがシリンダーの結合体だ。

 数百のシリンダーが縦に結合して開いた数珠のようになって、次々に襲い掛かって来た。

 ブリの結界によって身を隠し、グリとグニが操縦する超重戦車ラーテに助けられた。あの時の結合体の三乗倍も禍々しい。

「逃げます!」

 グリが促した。

「いや、成敗する!」

 ブリは、スックと立ち上がり、拳を天に突き上げる。

「ブリュンヒルデ姫!」

 禁じられたはずの正式な名前で制止するグニ。

「完全に融合してしまっては手に負えなくなるぞ、今なら倒せる!」

 ブリのツインテールが光を帯びて生き物のようにのたうちながら融合体目がけて伸びていく!

 これまでの戦闘でツインテールの威力は知っているつもりだったが、いま目にしているものは次元が違った。

『中二病でも恋がしたい!』の凸守早苗を思い出したが、その勇姿と威力は遥かに上をいく。

 って……なんのことだ? 思い出したのは寺井光子の感性、直ぐに小早川照姫の意識に戻った。

 荒々しくうねるそれは、独立したモンスター。ブリは、その手綱を握って制御している荒ぶる神だ!

 

 ブン!!!

 

 ツインテールがパチンコのゴムのようになってブリを打ち出した!

 いや、ブリが突出してツインテールを従えたのだ!

 融合体は、それに気づいて、体ごとこちらを志向し始めた。

「我々も続こう!」

「はい!」

「おお!」

 

 わたしたち三人も続いてジャンプした!

 

☆ ステータス

 HP:500 MP:500 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト

 持ち物:ポーション・15 マップ:2 金の針:5 所持金:5000ギル

 装備:剣士の装備レベル5(トールソード) 弓兵の装備レベル5(トールボウ)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

魔法少女マヂカ・170『西郷さんを召喚する・1』

2020-08-19 12:17:40 | 小説

魔法少女マヂカ・170

『西郷さんを召喚する・1』語り手:マヂカ    

 

 

 パンダ橋を渡って東京文化会館と上野の森美術館の間に入って左に折れる。

 夏の日差しは、まだ十分の明るさだけど、そこはかとない寂しさを感じるのは、上野公園が有数の桜の名所であるせいかもしれない。美術館か博物館の見学の後、集合時間に間があるのだろうか、小学生たちが所在なげというよりは、暑さにげんなりしたように柵にもたれたりしゃがんだりしている他は、上野駅への木陰のショートカットする人たちが疎らに通るばかり。

 上野公園は、ブリンダと七十年ぶりの邂逅でガン飛ばし合ったところだし、擬態したケルベロスと初めて会った場所だ。思えば、覚醒して以来、戦いに関わることでしか来たことが無い場所で、シーズン中に桜を愛でるという悠長なことをしたことが無いせいかもしれない。

「そうね、次のシーズンにはツンやみんなも誘ってお花見してもいいわね」

 綾香姉の声でケルベロス。

「さて、西郷さんが見えて来たわよ、銅像と何のお話?」

「待って、魔法陣を書くから」

 綾香姉は、指先から魔光(レーザーみたいなの)を出して、銅像の前にうっすらと魔法陣を掻き始める。

「魔光なんか出して、跡が残るよ」

「明日の朝には消えている……西郷さんを出すには、これでも弱いかもしれない……」

 描き終えて、綾香姉は――エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……――と召喚の呪を唱える。

 もう少し気合いを入れなければ出るものも出ない気がするんだけど、暑さにやられたのか、ほとんど呟きにしか聞こえない呪では効力が薄いのか、いっこうに現れる気配がない。

 エロイムエッサイム……エロイムエッサイム…………

 何度目かの呪を唱えて、綾香姉の声がフツリと停まる。

「綾香姉?」

 すると後ろに気配、半身で振り返るとお巡りさんがうろんな表情で通り過ぎていく。

「わたしがやろうか?」

「いや、魔法陣を描いたのはわたしだから……エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……」

 ますます声を小さくして綾香姉の呪が続く……すると、また後ろで気配。さっきのお巡りさんが戻ってきたか……?

 振り返ると黄色い帽子をかぶった女子小学生が立っていた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ポナの季節・8『チイニイ孝史の怪しい仕事』

2020-08-19 06:16:13 | 小説6

・8
『チイニイ孝史の怪しい仕事』
         


ポナとは:みそっかすの英訳 (Person Of No Account の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名)


 寺沢家の次男孝史の前職は警察官であるが、表沙汰にはできない事情で退職。今は怪しい商社に勤めている。

 そして、今も怪しくコーヒーショップで時間を潰している。


 危ない取引先と会うはずだったが、ついさっき、公安につけられていることに気付き、あたかも営業が休憩のために入ったかのように、慣れた感じで、この店に入った。

 相手か会社にメールを入れたかったが、公安のベテランともなると、指の動きだけで打ったメールの八割の内容は把握されてしまう。かといって、読まれないように打てば、余計に怪しまれる。その公安が、最後部の席で孝史を監視している。
 万一の時のサインに読買新聞を広げて窓際に座っている。これは「監視されている」のサイン。相手もベテランなら気づくはずだ。

 待つこと十分。店の外をプリウスが走った。

 プリウスは、法定速度で店の前を通過すると、そのまま他の車の流れに混ざって消えていった。どうやら読買新聞に気づいてくれたようだ。工作員の常識で、待ち合わせ場所は、一度通り過ぎて様子を見る。危ないと思えば二度と戻ってこない。

 直ぐに店を出たかったが、今出れば、自分だけではなくて、何気なく通ったプリウスまで疑われる。
 日本の公安は優秀だ。だが、かなり確証の高い情報を掴んでも、めったに活かされることはない。情報を掴んだ政治家がボンクラなのだ。それを利用して大胆な行動に出ることもあったが、たびたびやっては、その後の仕事ができない。孝史は本気で競馬の予想に熱中した。

 ふと気づくと、斜め前の席で聞き覚えのある声がした。

 なんという偶然、妹の優奈と新子が明るく笑い声をあげている。
「あ、チイニイ!」
 下の方の新子が気づいて声を掛けてきた。
「なんだ、珍しい。優奈、学校は休みか?」
「休講が重なったんで、帰ってきちゃった。へへ、三連休」
「家に居れば生活費かからないものな。お、なつかしい優奈の乃木坂時代の制服じゃないか。ブルセラにでも売るのか?」
「ちがうわよ、友だちのみなみが、サイズ違いの制服が来たんで、しばらく貸してたのよ」
「え、あの悪友のみなみか、もう高校生なんだな」
「ハハ、あたりまえじゃん。新子も高校生なんだから、みなみちゃんも高校生に決まってんじゃん」
「みなみはいっしょじゃないのか?」
「うん、バイトの面接に行ってる」
「へえ、乃木坂でバイトができるんだ」
「時代ね。あたしたちの頃は禁止だったけどね」
「しかし、偉いな。新子も見習えよ」
「あたし、まだ十五だから、バイトできないし」
「ハハ、ミソッカスだからな」
「チイニイこそ、ちゃんと働きなよ。せっかくエリート桜田門(警視庁の隠語)だったのに、チンケな商社にかわって、こんなとこで油売ってるんだもん」
「チンケじゃねえぞ、その証拠に、お前たちの勘定はもってやる!」
「やりー!」

 姉妹は喜び、孝史は、ごく自然に公安の監視の目から逃れることができた。


※ ポナの家族構成と主な知り合い


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かの世界この世界:45『シリンダー』

2020-08-19 06:02:39 | 小説5

かの世界この世界:45     

『シリンダー』  

 

 

 異世界から持ち込まれた愛玩動物なんです

 

「シリンダーは愛玩動物なんですか?」

 ハッチの縁に腰を預け、戦い慣れた下士官の余裕でグリは語る。

 シュタインドルフまでの道のりは、ほぼムヘン川の南岸を一本道なので、操縦をオートにしてキューポラから上半身を晒しているのである。

 ブリとケイトは最初っからエンジンルームの上にドンゴロスを敷いて寝っ転がっている。

 四人乗りに改造されているとはいえ、定員三人の二号戦車の中で長時間大人しくしているのは厳しい。

 じっさい、ムヘンブルグの北門で出会った前線帰りの二号戦車は同じように砲塔やエンジンルームの上に乗員を載せていた。

 二号戦車のエンジン音は、車内にいるとストレスだが、外に出てみると心地よい振動になるので、ブリとケイトは眠ってしまっている。

「トール元帥の平定が落ち着いたころに入植者が見つけて飼い始めたのが最初だと言われています。おそらく始りの荒野に迷い込んだ異世界の動物です。見かけが、なんというか、とても和ませるでしょ」

 たしかに、シリンダーはお尻にソックリで、無害であるという条件付きだが、割れ目の奥にある口でブヒブヒ声をたてられては、たいていの人間が笑ってしまうだろう。

「二千年紀に入ってペットとして飼われだしたんですが、野生化したものが牙をむくようになったんです」

「最初から凶暴なわけじゃないんだ……」

「発見されたころは、人懐こい小動物だったんです。でなければペットにはならなかったでしょう」

「人に飼われて、ふたたび野生化することで凶暴になるんだ……なんだか教訓的ですね」

 

 ピピピピピ! ピピピピピ!

 

 車内からアラームが響いた。

「敵性アラームです、車内に!」

「おい、起きろ!」

 エンジンルーム上の二人を叩き起こす。

 熟睡していた二人を収容するのは大変だったが、なんとか車内に潜る。

「シリンダーの群れですね……」

 ドップラーの波形を見て、グリが判断する。

「だったら、やっつけようよ!」

「そーだそーだ!」

 お昼寝組は威勢がいい。

「数が多すぎます、身をひそめます」

 二号は真地旋回すると川辺に群落する葦の中に突き進む。

 小柄な二号は、スッポリと収まって、直上から見られない限り発見ははれないだろう。

 

 シリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリシリ

 

 体を表すような鳴き声が、二号の装甲を通しても聞こえてくる。

 一つ一つは人を食ったような泣き声なのだが、幾百幾千と集まると、敵意は無いとはいえ、かなりの圧だ。

 鳴き声が消えても、念のため十分ほどはエンジンを始動させずに身を潜めた。

 

☆ ステータス

 HP:500 MP:500 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト

 持ち物:ポーション・15 マップ:2 金の針:5 所持金:5000ギル

 装備:剣士の装備レベル5(トールソード) 弓兵の装備レベル5(トールボウ)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする