大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:35『穴の向こうから』

2020-08-09 05:32:29 | 小説5

かの世界この世界:35     

『穴の向こうから』  

 

 

 

 これからどうするの?

 

 シリンダー連結帯の群れが遠ざかり、口から飛び出しそうになっていた心臓がやっと胸の真ん中に収まったころにブリが口を開いた。

「待ってる」

「「なにを?」」

 ケイトと声が重なった。

 結界の中にいれば安全なのだろうが、いつまでも居るわけにはいかない。

 とにもかくにも無辺街道を抜け出し、ヴァルハラを目指さなくてはならない。ヴァルハラを目指せと言いだしたのはブリ自身なのだ。

 それに、丸めた背中にグッタリとツインテールを垂れさせているブリの姿は、いささか心もとない。

「無辺街道の警備を任されている者たちの内に力を貸してくれる者が現れる」

「それは誰なの? 連絡とかとれるの?」

「……夕べの月が、そう言っていた」

 

 ちょっと驚いた。

 たしかに、夕べの月は凄みがあって、イケメンのマッチョがいれば狼男に変身しそうだった。

 変身するかわりに、ブリはツィンテールを解かせて本来の姿を見せた。

 そして、無辺街道からの脱出を決心……したはずだ。

 古来、月の光は心を惑わす。

 夏目漱石は、好きな女性が居たら満月の夜に「月が綺麗ですね」と一言言えば口説けると言った。

 あれは、漱石の実体験だろう。そうやって結婚した女房に、漱石は一生手を焼いている。月の力を借りれば、どこかでしっぺ返しが来るのではないか……。

 文学的な素養のあまり、そんな妄想が湧いてきたところで地響きがした。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………

 

「シリンダー連結体?」

 怯えたケイトがしがみ付いてきた。

「音が違う……もっと……」

 あとは、ケイトを怯えさせるだけだと口をつぐむ。

 シリンダー連結体はイナゴの大群のようだったが、頭上に迫ろうとしているそれは、グラウンドを慣らすローラーを巨大化させて、それを同時にいくつも曳いているような終末期的なおぞましい響きがある。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………ゴロ ゴト

 

 地響きが頭上で停まった!

 

 トール!?

 

 ブリが呟く……ガチャリ 金属音がしたかと思うと半球状の結界のテッペンに、ジジジとガスバーナーを吹きつけたような光が円を描いていく。

 パカ

 焼ききられたテッペンが落ちてきて、マンホールほどの穴が開いた……。

 思わず結界の端っこに身を避ける。

 わたしよりも一瞬早くケイトが逃げていた。退避行動ではあるが、反応が早くなることはいいことだろう。

 ブリは、触覚のようにツインテールをそよがせて穴の向こうを調べている。

 ――ブリュンヒルデさま――

 穴の向こうから声がした。

 

☆ ステータス

 HP:300 MP:100 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト

 持ち物:ポーション・5 マップ:1 金の針:2 所持金:1000ギル

 装備:剣士の装備レベル2 弓兵の装備レベル2

 

☆ 主な登場人物

  テル(寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトと変えられる

 ブリ         ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 二宮冴子  二年生  不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生  セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生  ポニテの『かの世部』副部長 

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せやさかい・162『リボンとかネクタイとか・3』

2020-08-08 14:27:01 | ノベル

せやさかい・162

『リボンとかネクタイとか・3』頼子        

 

 

 七五三……

 

 本堂内陣脇の襖を開けて、彼を見た時の印象よ。

 小学五年生がお兄ちゃんの制服を着たみたい。

 中一の制服って、成長を見込んでワンサイズ大きめを選ぶのが普通で、彼と並んでいるさくらも斜め前の留美ちゃんも制服の袖からやっと指先が出るって感じのオーバーサイズだったけど(いまは程よくなってきたけど、ただし、さくらの胸の所は相変わらずだけど)、夏目君のはその上を行く。襟は指一本入るくらいがいいんだけど、彼のは、ゆうゆう拳が入りそう。カッターシャツのボタンは五つのはずが四つ。おそらく、これまたブカブカのズボンの中に入り込んで下の一つは隠れているんだろう。半袖は肘のちょっと下まであって七分袖と表現した方がいい。正座しているのでズボンの丈は分からないけど、ベルトの位置はおへその上だ。

 こんなマンガ的可愛さの少年なんだけど、あ、ルックスも一重の目蓋が木目込み人形の目のようで、なんか、生後一か月くらいの子犬を彷彿とさせる。しかし、目の光は炯炯として、中一にして人生前のめりで生きてますという自我が偲ばれる。

 髪は緩い七三で、流した先がカールしていて、そこだけ見ると太宰治を彷彿とさせる。

 で……問題のネクタイ。

 お仕着せのそれは結び目の大きい左右対称のウィンザーノットなんだけど、少年のそれは小さな結び目になるプレーンノット。この結び目だけ見ていると『ローマの休日』のグレゴリーペックの首元だ。

 珍妙……というのが第一印象。

 

「やあ、みんな元気してる?」

「はい先輩! え、どうぞ座ってください」

 さくらがお尻を浮かせて床の間の前を空けてくれる。

「いやいや、わざわざ上座を開けてくれなくても、空いてるところでいいのに」

 と言いながら、大人しく床の間の前の置物になる。

「えと、紹介します。新入部員の夏目銀之助くんです。夏目くん……」

 留美ちゃんに促されると、座布団を外し、座卓に頭を打たんばかりに平伏した。

 オデコがこっちを向いて、生え際にうっすら汗ばんでいるのが可愛い。

「は、初めまして、お初にお目にかかります。縁あって、文芸部の末席を汚すことを許されました一年生の夏目銀之助であります。よ、よろしくお見知りおきのほどを!」

「ああ、そういう硬い挨拶は嬉しいけど、これ一回きりでいいからね。わたしのことは、留美ちゃんみたく『先輩』でもいいし、フランクに『頼子さん』でもいいしね、わたしは、取りあえず『夏目君』と呼ばせてもらうわ」

「はい、殿下!」

「あ、それだけは止してくれる。文芸部の中じゃただのOBだし、正式に決まっているわけでもないから」

「は、はい」

「えと、ひとつ聞いていいかな」

「は、はい、なんなりと!」

「だからかしこまらないでね(>0<)

「はい!」

「あはは、夏目君は、ネクタイ自分で結ぶの?」

「はい! 文学を志す者、ネクタイは自分で結ぶべきものだと思いますので、特別に本物のネクタイにしてもらったのです」

「文学を志すと、そうなるわけ?」

「はい、将来、文学仲間や出版社の編集と話をするとき、右手でグシグシっとネクタイを緩めて、タバコをくゆらせながら斜めから話すためです」

 なんか、変な嗜好。

「そうなんだ、ちょっとやって見せてくれる」

「は、はい。では、僭越ながら」

 グシっとネクタイを緩めると、それまでの正座を崩して斜に構えた胡座になって、たばこの代わりにシャーペンを指に挟んだ立膝になって、なぜだか眠そうな顔になる。

「あ、あ、そーかそーか、なんか無頼派って感じだねえ!」

「あ、ありがとうございます」

「うん、かわい……カッコいいから写真に撮るね」

 わたしの思い付きにさくらも悪乗りして、ふたりで写真を撮りまくる。留美ちゃんは真面目なので、あいまいな笑顔でわたしたちを見ている。

 スマホの画面を見ると笑いそうになるのを息をつめて我慢し、わななきそうになりながら最後のシャッターを切る。

 パシャ

「あ、もう、元に戻っていいよ。いい写真も摂れたから」

「は、はい……」

「あ、脚がしびれて……」

 

 夏目君のすごいところは、正座をしているしびれた脚を我慢してポーズを作ったところだ。どこか電波になりそうな危うさを感じさせるんだけどもね。

 まあ、有意義な出会いではあったわ。

 そのあと、恒例の流しそうめん……は、コロナのことで自粛して、みんなで一人前ずつでいただきました。

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大阪ガールズコレクション:6『浪速区日本橋 カセイドール』

2020-08-08 09:41:23 | カントリーロード

大阪ガールズコレクション:6

『メイドカフェ カセイドール 浪速区』  

 

 

 考えすぎるんやで、万梨阿は。

 

 言われ続けて、この世界に入ったのは24歳の春。

 日本橋某所にあるメイドカフェ『カセイド-ル』の13人目のメイド。

 ホーリーネーム(源氏名)は本名をカタカナ読みしただけのマリア。

 このバイトを勧めた恵子はとっくに足を洗って某ゲーム会社に勤めている。

「今月から、メイド服を一新します!」

 オーナーの林さんがそれを示すと、メイドの子たちから「オーーーー!」とどよめきが起こる。

 それまでのペラペラのコスプレメイド服ではなくて、裏地までしっかりついた本物のゴスロリメイド服。

「レースは取り外しができるんで、クリーニングするときは外してね。それから、今日から入ってもらう万梨阿さん。一昨年までいたルシファさんのお友だち、よろしくね」

 簡単な自己紹介をやった後、さっそくお仕事。

「分からないことがあったら、なんでも聞いてね(^▽^)/」

「万梨阿さん可愛いから、すぐに看板になれるわよ🎵」

「制服モデルチェンジしたのは、万梨阿さんが入ったからだよ(^^♪」

「そ、そんなことないわよ(^_^;)」

「ううん、あるある!」

「わたしも、万梨阿さんにあやかりたいなあ(n*´ω`*n)」

 みんな嬉しいことを言ってくれるけど、なんだかいたたまれない。

 

 だって、24歳なんだよ。

 

 それも、ただの24歳じゃない。

 この三月までは都島区の小学校で先生をしていた。先生と言っても講師だけどね。

 二次の採用試験に落っこちて、心機一転別のバイトして夏の採用試験に挑もうというわけなんだ。けども、実年齢ともどもみなさんには内緒。

「うわあ、マリアさん、17歳では通用しませんよー!」

 制服に着替えて髪をまとめたところで先輩メイドのシャルロットさんに言われてドキリとする。

「え、あ、マズかったかな(#0#)」

「うん、14歳くらいにしか見えないよぉ」

「え、あ……」

 らしく見せようとしたツインテールを崩してザックリまとめてバレッタで留めるというメイドとしては、やや反則にしてみる。

「あ、いい! なんか健気な働き者って感じ!」

「バレッタ萌ぇ~」

 

 そんなこんなで、24歳のメイドの物語が始まった。

 

 つづく

 

 

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ぜっさん・03『そろそろ終盤かな……』

2020-08-08 06:56:08 | 小説3

ぜっさん・03
『そろそろ終盤かな……』     


 

 あれはゴールデンウィークが明けて直ぐの日だったよね……。

「ほんなら、今日からクラスメートになる転校生を紹介します。敷島さん入って……」
 妻鹿先生の紹介を受け、小さく一礼して教室に入った。

 人数分×2の視線が突き刺さる。突き刺さるだけのミテクレだという自覚はあるけど、これは事前に予備知識を与えられている視線だと悟った。

「東京から転校してきました敷島絶子です。新学年が始まって一か月になりますが、みなさんの中に溶け込めれば嬉しいです。えと、名前は字で書くとこうです……」

 黒板にフルネームを書き(しきしまたえこ)と読み仮名を振った。予想通り絶子という字に軽いどよめきが起こる。この絶子には子どものころから苦労しているので、最初にかましておいた方がいいと思ったのだ。
「それて精力絶倫の絶やなあ! 敷島さんてヤリマンなんか!?」
 男子が想定内のバカを言う。飛んでって張り倒してやろうかと思ったが、しおらしく俯いておく。
「藤吉、あとで先生とこ来なさい!」
「アチャー、洒落でんがな~(^_^;)」
 藤吉と呼ばれたイガグリ頭がヘタレ眉になって頭を掻いて、教室に笑い声が満ちた。
 いいクラスのようだ、張り倒しにいかなくてよかった。
「敷島さんの席は……そこね」
 妻鹿先生の形の良い指が、窓側の二番目を指した。
「はい」
 カバンを抱えて席に向かうと、廊下でドタドタと音がした。

「すんません! この遅刻には事情があるんですーーー!」

 そう叫びながらジャージ姿で入ってきたのが、無二の親友になる加藤瑠美奈だった。

「アハハ、前と後ろの隣り同士やね、よろしく!」
「あ、わたしこそよろしく」
 ニコニコ笑顔で握手すると、瑠美奈は器用にジャージから制服に着替えだした。器用にとはいえ朝礼終了直後の教室だ、大胆な子だと思った。
 妻鹿先生に呼び出された藤吉が所帯道具一式を持って、あたしの前の席に移って来た。
「ちょ、なんやのん藤吉!?」
「えと、さっきの罰で、ここの席にされたんや」
 眉こそヘタレていたけど、ニヤついた顔で前の席にやってきたのだった。

「ハハハ、そんなんやったなあ」

 瑠美奈がオッサンみたいにお絞りで顔を拭きながら笑った。
 わたしと瑠美奈は、ファミレスで広島の思い出を燻らせている……普通の言い方をすると、写真とかパンフとかを見ながらあれこれクッチャベルこと。
「おまたせしました、フルーツパフェとプリンアラモードになります」
 すまし顔でデザートを持ってきたのが、あの藤吉。

 学校での彼と違って、ちょ-真面目なホールスタッフだ。

 窓の外に、もう蝉の声はしない。夏休みも、そろそろ終盤かな……。
  


主な登場人物

 敷島絶子    日本橋高校二年生 あだ名はぜっさん
 加藤瑠美奈   日本橋高校二年生 演劇部次期部長
 牧野卓司    広島水瀬高校二年生
 藤吉大樹    クラスの男子 名前の大樹ではなく苗字の音読みの藤吉(とうきち)と呼ばれる

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かの世界この世界:34『迫りくるシリンダー連結帯!』

2020-08-08 06:45:41 | 小説5

かの世界この世界:34     

『迫りくるシリンダー連結帯!』  

 

 

 

 ブリ……大きくなった?

 

 顔を洗って、シャッキリして、やっと気づいたケイト。

「やっと気づいたのか」

「ああ……なんてのか……雰囲気はちっとも変わってないから、気づくのが遅れたみたい」

「いろいろあんのよ、この世界じゃ。あんただって……」

「あたし?」

「さっさと朝ごはん食べて、食べたら出発だからね!」

 チーズを挟んだだけのライ麦パンを投げると、もう歩きはじめるブリ。

「ちょ、食べる時間くらいちょうだいよ!」

「うっさい! これから先はクリーチャーとか出まくりなんだからね、かまってなんか……」

「ブリの言う通り、もう気配がするぞ……」

 

 月の光の中、ツインテールを結ったり解いたり、その戒めのことやら主神オーディーンのこと、忘れかけている、わたしとケイトの事情など聞いておきたいこともあった。

「急がないと、向こうの方から集まって来るぞ」

「「なにが?」」

 S字に曲がった道の向こう……いや、草むらや地面の中からさえ禍々しい鳴動がし始めて、道の向こうはなにか禍々しいものが凝り固まっているようで目に見えない圧を感じる。

「……走るか?」

「うん」

「いくぞ!」

 ブリと共にソードを抜き放ち、ケイトは矢をつがえ、攻撃姿勢のまま禍々しさの中心に向かって駆け出す。

 ウオーーー!!!

 二三回、剣先に手応えがしたと思うと、ザザザザザっと音がして人一人がやっと通れるくらいの圧の隙間ができる。

「閉じる前に突っ切れ!」

「トリャーーー!」

 わたしが先頭を切り、ブリもツインテールを鞭のように振り回し、ケイトは二人の頭越しに矢を射掛けながら追随してくる。

 道の向こうで矢が命中する火花、ツインテールの先っぽでも盛大に火花が散っている。見えてはいないが、確実に寄せ来る化け物を打ち払っているようだ。

「セイ!」

 跳躍と同時に四方を薙ぎ払う。合わせたわけではないのにブリもツインテールをヘリコプターのローターのように急旋回させて、化け物どもを打ち据えて、やっと敵の勢いをそいだ。

 ギュオーーン ギュオーン ギュオオーーーン

 金属的な鳴き声が引いていったかと思うと、つい今まで居たところを真ん中にシリンダーどもがひしめいている。

「まるで、油汚れの真ん中に洗剤を垂らしたようだな」

「うまい表現だけど、ケイトの奴が……」

「捕まったか?」

「あそこ!」

 ブリが指差したところから数珠繋がりになったシリンダーの連結が数本伸びあがり、そのうちの四本に手足を絡み取られたケイトの姿があった。

「た、たすけてーー!」

「まずい、あれが伸びきったら手足を引きちぎられるぞ!」

 シリンダーの連結帯は、ブーーンと音がしそうな勢いで外へ外へと伸び始めている。

「ち、千切れるよーーーーー!!」

「テル、右側の二本を!」

「承知!」

 息の合った海兵隊のように、二人は散開し、地を這うように接近すると連結帯の根元で跳躍して、ツインテールとソードで連結帯を薙ぎ払った!

「掴まれ!」

 叫ぶと同時にケイトの襟首を掴んで、根元を失った連結帯から引き剥がし、数百メートルを一気に駆けた。

 途中、疾風のようにブリが追い越していく。

「結界を張る、中に入れ!」

 軽々と跳躍して、着地するまでのコンマ五秒ほどの間にフィギュアスケートのトリプルアクセルのように旋回すると、ぶん回したツインテールの直径に結界が張られた。

「セイ!」

 結界の中に着地! 同時にザワザワザワとシリンダーたちが押し寄せてきて、イナゴの大群のように結界の向こうに去った。

 やっと一息。

 気が付くと……ケイトはしっかりとライ麦パンを咀嚼していた。

 

 

☆ ステータス

 HP:300 MP:100 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト

 持ち物:ポーション・5 マップ:1 金の針:2 所持金:1000ギル

 装備:剣士の装備レベル2 弓兵の装備レベル2

 

☆ 主な登場人物

  

  テル(寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトと変えられる

 ブリ         ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 二宮冴子  二年生  不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生  セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生  ポニテの『かの世部』副部長 

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魔法少女マヂカ・168『綾香ネエが迎えに来てくれた』

2020-08-07 14:27:03 | 小説

魔法少女マヂカ・168

『綾香ネエが迎えに来てくれた』語り手:マヂカ    

 

 

 ……男の人なんですかぁ。

 

 ツンは一発で見抜いてしまった。

 我が姉、綾香の笑顔は引きつってしまう。

「アハハ、今日からツンの上のお姉ちゃんになる渡辺綾香だよ……探偵事務所なんかに勤めてるから男勝りって言われるけど、それは、お仕事の上の話だからねぇ。ご近所ではぁ、とても妹思いのお姉さんでぇ、ご近所の評判も良くってねぇ、見合い話とかお断りするのが大変だったりするのよ~(^▽^)」

「あ、すみません、思ったことが、すぐに口に出るもので(^_^;)」

「ま、まあ、とりあえず家に帰ろうよ」

「そ、そうだな」

「はい」

 なんとか、綾香ネエが転がしてきた車に収まる。見送りに出てきた巫女たちが鳥居の下で笑って手を振ってくれている。

 神田明神に帰還の挨拶と報告をすると「ご苦労であった、報告などは後日でいい、今は一刻も早く家に帰って休んでくれ」ということで、お母さんが迎えに来ていた友里を見送って、続いてやってきた綾香ネエの車に収まったところだ。

「すみません、余計なことを言ってしまったようで(;'∀')」

「しかし、よく分かったわね、わたしもこの頃は、本当に生まれついてからのお姉ちゃんという感じだったんだぞ。どうして分かった?」

「いえ、その、ニオイというか……」

「え、え、臭うかぁ? この頃はずっとこのナリで、おそらくDNAレベルで擬態してるんだがなあ、マヂカ、ちょっと臭い嗅いでみてよ」

「え、あ、うん。いや、わざわざ嗅がなくったって、二十代前半のフェロモン出しっぱなしだって」

「いや、あの……ご主人様の猟犬はみんな兄妹たちで、ずっとご主人様のところで、よその犬さんと暮らしたこともなかったので、男の犬さんには、とても敏感というか、猟犬の性というか(;'∀')(;^_^A」

「そ、そうか、そうなのね、ま、まあ、今日からは姉妹だから、ま、よろしくね……アハハ」

「お姉ちゃん、赤信号!」

「あ、いけない!」

 キーーーー!

「うわ!」

 ドテ!

「あ、大丈夫、ツン!?」

「大丈夫です、綾香姉さんが、手を伸ばして支えてくれましたから」

「え、いつの間に? てか、後部座席に手を伸ばしたの!?」

「あ、こんな風に……」

 ツンが指を動かすと、目の前にバーチャル画面が現れて、ブレーキが踏まれた五秒余りがリピートされる。

 確かに、コンマ1/10秒綾香ネエの手が後部座席に伸びてツンのオデコを支えている横で助手席のヘッドレストに顔をめり込ませているわたしの横顔が分かった。

「こんな技があったのか!」

「猟犬でしたので、記録をとるように躾けられていて……ハンティングレコーダーです」

「ま、これからはうちらの妹だから控えてね」

「はい」

「まあ、一度だけ、真実を見せてやるね」

「あ、マヂカ、待て!」

 綾香ネエの制止を無視して、ツンのモニターに綾香ネエの真実の姿を出してやる。

 ウッ!!!

 ツンは固まったまま気絶した。

「マヂカ、おまえなあ……」

 目の前にライオンほどの大きさの三頭の化け物犬ケルベロスが現れては、無理も無いか……。

 

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ぜっさん・02『フルネームを言うと』

2020-08-07 06:31:32 | 小説3

・02
『フルネームを言うと』     


 

 ちょっと残念だった。

 広島に来たからには、お好み焼きを食べなくちゃ!
 そう思い定めて、昨日に続き二回目のお好み焼き。
「慣れなんだろうけど、ああバラケてしもたらねえ……」
 瑠美奈は小割にしたお好み焼きをコテに載せてはボロボロとこぼしていた。わたしはハナから諦めて小皿に載せてお箸で食べている。

 大阪のお好み焼きはボウルの中でかき混ぜてから鉄板に広げるので、小割にして口に運んでもバラケルことがない。
 広島焼は、クレ-プみたいに生地を広げ、その上に具材を重ねていく。具材同士はくっ付いていないので、コテに載せた時にどうしてもバラケテしまう。
「運よく口まで運べても、バラケテたら頼んないしなあ」
「わたしは、具材にオボロ昆布使うところがねえ……ま、昨日と今日の二回食べただけで広島焼全部を批判するのもなんだけどね……」
 幕間交流でうっかり広島水瀬高校の芝居を批判してしまったので、少し慎重な物言いになってしまう。それに今齧っているアイスキャンディーは美味しいので、お好み焼きへの不満も和らいでいる。
「水瀬高校のミスター高校生どないすんの?」
 一足先にアイスキャンディーを食べ終わった瑠美奈が話題を変えてくる。

 フードセンターに足を向けたところで声を掛けられたのだ。

「さっきの発言、とても面白かったです。よかったら、もう少しお話しできませんか」
 とても爽やかな言い回しだったけど「発言」と言ったところに含むものを感じた、不規則発言とか問題発言とか、あんまりいい意味で使わないでしょ。
「あ、えと……今から昼食に行くので、戻ってきてからじゃダメですか?」
 そうは答えたけど、正直あのミスター高校生と話すのは気が重い。

 あの時停電にさえならなければ……。

 会場に戻ったら午後の部が始まる直前だった。

 急いでシートに戻ったのでミスター高校生には会わずに済んだ。

 で、そのまま午後の上演を観て夕方の交流会と審査発表になった。水瀬高校で失敗しているので、わたしは一切発言しないことに決めて、文字通り目をつぶっていた。審査発表の前に後ろの席の人が帰るのだろう、数人がゴソゴソする気配がした。

「あ、敷島さんじゃないですか!?」
 後ろからミスター高校生の声が降って来た。
「あ、ミスター……」
「水瀬高校二年の……牧野卓司です」
 そう言いながら、ミスターは「ヨイショ」っとシートを跨いで、わたしの隣に越してきた。
「あ、あの……」
「隣いいですよね?」
「はい、なんぼでも!」
 瑠美奈が、こんな(^0^)顔をしてミスターを招じ入れた。やっぱ広島は関西圏なんでノリカタは大阪と同じなんだろうかと思って深呼吸。

「そりゃあ残念!」

 審査発表が思いのほか延びてしまったので、宿の都合でミスターと話している時間が無くなってしまった。明日は8時半の新幹線に乗らなければならない。まだ知り合って半日、話したのは10分も無い。つまり気心が知れるところまではいっていない。こんな状況でメアドの交換などはしたくない。

「じゃ、手紙とか出していいですか?」

 ミスターは笑顔のまま意外な提案をしてきた。
「て、手紙ですか?」
「ハハ、いきなり住所とか聞いたりしませんよ。学校の演劇部宛てに出しますから」
 そう言いながらミスターはスマホをメモ機能にした。
「えと、東京の中央区ですよね……」
「あ、大阪の日本橋です」
「え?」
「あ、ぜっさん、日本橋(ニホンバシ)て発音するからや、うちらは日本橋(ニッポンバシ)や!」

 大笑いになって、フルネームを言うと、また驚かれた。

 わたしは敷島絶子。絶子と書いて(たえこ)と読む。でも一見してゼツコなので、通称ぜっさん。

 なにを隠そう、隣で大口開けて笑っている河内女の加藤瑠美奈がつけたあだ名なのです。
  


 主な登場人物

 敷島絶子    日本橋高校二年生 あだ名はぜっさん
 加藤瑠美奈   日本橋高校二年生 演劇部次期部長
 牧野卓司    広島水瀬高校二年生

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かの世界この世界:33『ツインテールの戒め』

2020-08-07 06:20:46 | 小説5

かの世界この世界:33     

『ツインテールの戒め』  

 

 

 無辺街道の真ん中、五十坪ほどの空き地でキャンプを張った。

 

 ブリが魔法でテントを出してくれたので、夜露に濡れることもなく眠りにつけた。

 すこし微睡んだが、テントの隙間からこぼれる月光が頬に差し掛かったためか目が覚めてしまった。

 傍らではケイトが女を捨てたような姿で寝息を立てている。

「あられもない……」

 おっぴらげた脚を閉じてやり、右を下にした姿勢に変えてやる。これなら多少はましになるだろう。

 キリ キリキリ キリ……

「ひどい歯ぎしりだなあ」

 頬から顎をマッサージしてやって歯ぎしりを止める。

 PU~~~~~~~

 こんどはオナラだ。

「ほんと、まるで男だ……って、本来は男だったよな……なんだか忘れかけてる……名前は? ケイト……いや、ケントだったか……字は? 思い出せない……記録しておいた方がいいな」

 右手を目の高さにもってきてウィンドを開く。

「ケイトは……」

 記録しようとしたら、テントの外でカサリと音がする。

「なんだ?」

 後ろで寝ているはずのブリに目をやると、姿がない。

 起きたのか?

 テントの外に出ると、月を仰いでシルエットになっているブリ。

 

「ブリも眠れないのか?」

 

 声を掛けると、小さな肩がピクリとした。

「テルか……ケイトは?」

「ああ、素敵な寝相で眠って……」

 たったいま、ケイトについて大事なことをメモしようとしていた……だが思い出せない。

 まあいい、いまはブリだ。

「テルにだけは伝えておきたいことがあるのや」

「なんだ、改まって?」

「ツインテールを解いてくえないか」

「じぶんで解けばいいだろ、リボンの端を引っ張ればいいだけのことだ」

「自分れは解けない、こえは主神オーディーンの戒めらのら。たのむ……」

「そか、分かった」

 ブリの後ろに迫り、胸の高さにある頭のリボンを解いてやる。

 

 ガキ!! 

 イテ!!

 

 いきなり顎に衝撃が来て目から星が出る。

「お、おまえ……!?」

 後姿のブリは、わたしと背丈が変わらなくなっていた。急に伸びた勢いでブリの頭がわたしの顎を直撃したのだ。

 ブロンドのロンゲをサワサワとなびかせつつ振り向いたブリ。

「な、なんちゅう美少女……」

「これが本来の姿だ。主神オーディーンはツィンテールの戒めで、わたしを無辺街道に閉じ込めたのだ」

「オーディーンの怒りに触れるようなことをしたのか?」

「ああ、詳しくは言えないが、そういうことだ。ここまでの無辺街道は、わたしのための牢獄。これから先の無辺街道は、そのわたしを見張る獄卒たちのテリトリー。ここから先、わたしの力は限定的になる。それを承知で旅立ってほしいんだ」

「それは、遠まわしに――自分のことは自分でやれ――ということだな」

「むろん、わたしも全力は尽くす。ただ、ここを超えればお尋ね者の脱獄囚だから」

「……その脱獄の手伝いをする覚悟も持てということか」

「いやなら、わたしを置いて二人だけで旅立て。そのことを、テルにだけは伝えておきたかったのでな」

「わかった。これもなにかの縁だ、よろしく頼むよ」

 握手しようと手を出すと、ブリは一瞬ためらった。

「どうした?」

「もう一つ……とりあえずの目的地をヴァルハラに定めてはもらえないだろうか」

「ブァルハラ……主神オーディーンの居城だな」

「ああ、そうだ」

「……わかった、いいだろう」

 詳しくは聞かなかった、言える範囲なのだろうが、ブリは正直に話してくれた。それを持って了として、あらためて握手した。

「ありがとう、それでは、改めてツインテールにしてくれ、オーディーンの戒めを解いては旅ができないからな」

「わかった、後ろを向け」

 

 艶やかなブロンドを愛しむように櫛けずってやって二つのリボンを結んでやる。

 音もなく背が縮んでいく……が、元の四五歳の背丈ではなかった。十二三歳の中一くらいの少女になった。

「オーディーンほどではないけど、テルにも立派な魔力があるようだな」

「そうなのか?」

「この背丈に縮んだだけで済んでいる」

「わたしの力なのか?」

「ああ、なんというか……前に進む力とでも言うか」

「そ、そうか……」

 ケイトと三人並んだら、いい組み合わせになりそうだ……そう感じて月を見上げた。

 

☆ ステータス

 HP:200 MP:100 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト

 持ち物:ポーション・5 マップ:1 金の針:2 所持金:1000ギル

 装備:剣士の装備レベル1 弓兵の装備レベル1

 

☆ 主な登場人物

  

  テル(寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトと変えられる

 ブリ         ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 二宮冴子  二年生  不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生  セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生  ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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高校ライトノベル・ぜっさん・01『ぜっさんの性分』

2020-08-06 07:59:37 | 小説3

ぜっさん・01
『ぜっさんの性分』  



 停電になるとは思わなかった。

 ほんの十秒ほどだったけど、この二十一世紀に停電などあるはずがない。もちろん生まれて初めてのことよ。
 まして、ここは広島県立平和劇場。観客の大半もビックリしてざわついた。
 非常口をあらわす緑色の避難指示だけが浮かび上がり、周囲は真っ暗闇。映画館の上映中だってここまでの闇にはしない。

 パッと光りが蘇った。

 目の前にマイクが突き付けられ、マイクの向こうには、マイクを捧げ持った実行委員の女生徒が健気な女子高生の代表みたいに蹲踞している。

「どうぞ、学校名とお名前を」
「え、あ、あ……」
 停電になるまで、わたしの横には瑠美奈が居た。その瑠美奈が居ないので、同じ制服を着たわたしが間違われたようだ。
「どうぞ」
「は、はい」

 こういう時に、間違いを指摘しないで受けてしまうのが……わたしの癖だ。スックと立ち上がると、最初からわたしが指名されていたようにマイクを持った。

「日本橋高校の敷島と申します。水瀬高校のみなさんお疲れさまでした。えと……原爆を扱った反戦劇として絶賛いたします。ひしひしと水瀬高校のみなさんの想いが伝わってきました(ここで止めときゃよかったんだけどね)。反戦としては一分の曇りもなくピュアだと……思うんです……が、えと、ピュアすぎて日常のみなさんの姿が見えてこないんですよね。わたしたちは21世紀の高校生で、普段はスマホとかスマップの解散とかに夢中になったりポケモンGOなんかにハマっちゃったりしてるわけじゃないですか。そういうわたしたち高校生が戦争とか原爆とかに立向いたら、やっぱし、おのずと今の高校生ってか若者としての呼吸とか息吹が出てくると思うんですよね。そういうとこが紋切り型ってかステレオタイプってか、演劇って人間を表現するものだから……あ、すみません。生意気言っちゃいました。舞台は良かったです、大絶賛です。えと……以上です」

 あきらかに会場は当惑とシラケとヒンシュクの空気が漂った。結婚式の披露宴で縁起の悪い言葉を連発したらこんなだろうって感じ。原爆とか反戦とかの批判、とくにドラマの根幹のとこは批判しちゃいけない。分かってんだけどなあ……。

「ぜっさん、今のはないで」

 手を拭きながら席に戻って来た瑠美奈が困り眉毛になりながら咎めてきた。

「だって、瑠美奈いなくなっちゃうんだもん」
「しゃあないやろ、手ぇ上げたらトイレ我慢してたん気ぃついてしもてんもん」
「じゃ、どうすりゃ良かったのよ?」
「……ま、ぜっさんの性分やったらしゃあないんやろけど、もっと当たり障りのないことでよかったんちゃう?」
「ムーーーーー」
 そこで幕間交流が終わったので、ロビーに出た。

 高校演劇も全国大会になると人出が多い、ロビーには全国各地から様々な制服の高校生が集まっている。この五月まで通っていた神楽坂高校の制服を見つけた時は、思わず駆け寄ってしまったけど、ぜんぜん知らない子なので「オッス!」を言うために吸いこんだ空気をフッと吐き出す。写メを撮られた気配がすると、スマホを構えた瑠美奈がニシシシと笑っている。
「もう、お昼食べに行こ、お昼!」
「よっしゃー、ほんならグルメツアーに切り替えや!」

 あたしと瑠美奈の共通点は切り替えが早いこと、この切り替えと反射の良さで転校初日に友だちになったんだ。

 会場のガラスを通して道路向かい側のフードパークにピントが合ったときに声を掛けられた。

「あの、日本橋高校の敷島さんですよね?」

 振り返るとミスター高校生のタイトルをあげてもいいような男子生徒が立っていたのだった。

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かの世界この世界:32『無辺街道半ば』

2020-08-06 06:52:28 | 小説5

かの世界この世界:32     

『無辺街道半ば』  

 

 

 こんなやつでも街道の主なんだろう。

 

 魔物やクリーチャーに出くわさない。

 まあ、無辺街道程度の化け物なんか屁でもないんだけど、バトルの都度足止めされるのもかなわない。

 しかし「ブリのお蔭だな」なんとことは口にはしない。

 誉めたりお礼を言ったりすれば、見た目四五歳の養女にしか見えないブリは見かけ通りに「ニヘヘヘ」とか笑っていい気になるのに違いないからだ。

 こいつがいい気になったら、プラウダ高校のカチューシャよりも鼻持ちならないに違いない。

 

 ブリがいきなり駆けだした。

 

 駆け出して、そのまま消えてくれてもいいんだけど、また、シリンダーとかの化け物に出くわすのも嫌だ。

 ちょっと待て!  言おうとしたら立ち止まり、両手を広げて振り返った。

 

「ここが無辺街道の真ん中らぞ!」

 

「そうか、思ったより早かったね」

 ケイトが無邪気なくらいホッとして、担いでいた弓も荷物も下ろしてしまう。

「なにをホッとしてるんだ。真ん中なら、もう少し稼いでおこう。まだまだ陽は高いんだからな」

「ま、真ん中なんらぞ。一区切りなんらぞ。ケイトの言う通り一休みするのが当たり前じゃにゃいか!」

「そういう根性が堕落の元なんだ。夏休みの真ん中で気が緩むと、あとはズルズルになって宿題をやり残して最終日にオタオタすることになるんだぞ」

「船らって、真ん中の赤道を通過するときは赤道祭りってのをやって一休みするんらぞ!」

「休もうよおおお」

 仕方がない、二対一の三人旅だ。

「分かった、じゃ……ちょうどそこが宿営にピッタリだ」

 

 街道から少し入ったところが五十坪ほどの空き地で、先達たちがキャンプした跡もある。

 

「火をたいた跡もある、キャンプの用意をしゅうか」

「どうやって火を起こすの?」

「なんだ、ケイトは火も起こせないのか?」

「ふつう出来ないと思うよ」

「ガルパンではやっていたぞ、大洗女子が廃校になって寄宿生活始めた時に弥生時代みたく火を起こしていたぞ」

「あれはアニメだろーが」

「マッチの使い残しがあゆぞ。前に通ったやつが残していったんだな」

 ブリが一抱えの薪といっしょに持ってきた。

「これ、学校のプリントだ」

 ケイトが燃え残りをつまみだした。

「先行した女子たちだな、ここでキャンプして先に進んだんだな」

「ちがうね」

「なんで!?」

 ケイトが突っかかるように聞く。自分を置いてけぼりにした相手だ、思うところがあるんだろう。

「ここから先に進んだのらったら、栄光の旅立ちら、街道の先に行った足跡が光り輝いてひと月ほどは残るんだ」

「ひと月より前かもしれないじゃん」

「そんなに前なら、マッチなんか湿気って使えにゃい」

「じゃ、ここで打ち上げのキャンプやって帰っていったってこと?」

「愚かな奴やだ、ここれ戻っては参加賞しかもらえないのら」

「参加賞じゃ、だめなのか?」

「参加した者は安穏な人生が保障されるけろ、世界の平和は二三年しか保証されない。最後まで行ってミッションコンプリートしなければ、おまえたちの世界に本当の平和は訪れないのら。フン、ヘタレの愚か者たちら」

「そうなの?」

「しょえに……」

「な、なんだ、その意地悪な目は!」

「こいつらが戻ったんなら、出口は閉じてしまっていう。エヘヘ、おまえたちは戻れないぞ」

「「そんなあ!」」

「戻りたいのなら、最後まで行ってミッションコンプリートすることよ」

「そうなの?」

「ああ、光子がプロットで決めたことだからな」

「ミツコ?」

 ブリと目が合う……そうだ、これは、わたしがプロットの段階で放り出した世界だ。

 最後までやって、真の勇者になるまでは終わらない設定なんだった(;゚Д゚)。

「やろう、三人で真の勇者を目指そう!」

「「お、おー!」」

「で、ミツコってだれ?」

 ケイトの質問に答えられるわけもなく、聞こえないふりして火を起こしにかかった(^_^;)。

 

 

☆ ステータス

 HP:200 MP:100 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト

 持ち物:ポーション・5 マップ:1 金の針:2 所持金:1000ギル

 装備:剣士の装備レベル1 弓兵の装備レベル1

 

☆ 主な登場人物

  

  テル(寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトと変えられる

 ブリ         ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 二宮冴子  二年生  不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生  セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生  ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

 

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大阪ガールズコレクション:5『……うん、そうしよう 都島区桜町商店街』

2020-08-05 13:25:20 | カントリーロード

大阪ガールズコレクション:5

『……うん、そうしよう 都島区桜町商店街』  谷町線】都島駅始発電車の時刻は? | Osaka-Subway.com

 

 

 おお 大阪にもトシマ区があるんだ。

 

 思わず笑いそうになった。

 ちょっとブルーな気持ちで『次は天神橋筋六丁目 天神橋筋六丁目 谷町線 阪急線はお乗り換えです……』のアナウンスを聞いていた。

 扉の脇に立っていた大学生風の二人が、路線図を見て天六の次の駅を「としま」と読んだのだ。

 景気づけに天六で降りようと思っていたけど、この二人が『都島』の正しい読み方を知ったら、どんな顔をするだろうかと、そのまま我が町である都島までは下りないことにした。

 都島駅が間近になって車内放送が『次は都島(みやこじま)……』と告げるんだけど、さっきの大学生二人は反応しない。

 おそらく、彼らの関心は次はどこへ行くとか昼ご飯とかの観光客のそれ移ってしまって大阪の『トシマ』には興味を失ったんだ。

 駅に着いて降りる時に「ほんとうはミヤコジマって読むんですよ」とか言ってやりたい気もしたけど、やりません。行儀よく道を開けてくれた二人に微かな会釈をしてホームに降りる。わたしの会釈に反応はない。同じドアから五人も降りたんだから気が付かない……というより、見についた東京のマナーで道を開けただけだから、わたしの会釈など気が付かないだろう。

 やっぱり天六で降りておけばよかった。

 天六には、うちの商店街が失った活気が、まだ十分すぎるくらい残っている。

 商店街の賑わいの中、人の流れを見ながらお茶でもしようと思っていた。今日で最後の運動部みたいなバッグをコインロッカーにぶち込んでね。商店街の賑わいは元気をくれるから。

 

 我が街は、都島の駅を上がって表通りを東へ二分、ポキッとわき道に入った『桜町商店街』。

 名こそ、隣の天六商店街と同じだけど、規模がね。天六は南北2.6キロもある日本一の商店街。我が桜町商店街は、おおよそ100メートル。天六の1/26しかない。半分ほどは閉めたままなので、1/50といったところだろうか。

 うちは、戦後すぐからの『百合美容室』……だった。

 今でも看板は掛けてるけど営業はしていない。

 アーケードに入ると、子どもたちのさんざめきが聞こえる。

 スーパー横の駐車場に保育所の仮園舎があるんだ。近所の保育所が全面改築されるので、それまでの仮園舎。

 え?

――保育助手募集――

 胸が高鳴った。思わず、そのまま入り口のインタホンを押すところだ。

 時給千円で、園内の掃除や給食の手伝い、保母さんのお手伝い。

 でもね、やっぱわたしは美容師にならなくちゃ。

 首を90度曲げると、我が家の『百合美容室』の看板が見える。

 二代目のお婆ちゃんに万一の事があったら、叔母ちゃんたちとお母さんとで分割相続。

 25坪の店舗兼住宅、分割なんかできない。売ったお金を分けるしかない。そうなったら百合美容室はお終いだ。

 やっぱ、美容師になろう。

 今日で最後と思った美容学校のバッグを揺すりあげる。

 叔母ちゃんたちも「ユッコが四代目になるんやったら、相続放棄してもええねんよ」と言ってくれてる。

 お母さんと折り合いの悪い叔母さんたちだけど、わたしのことは可愛がってくれた。

 

 ……うん、そうしよう。

 

 家までの残り50メートルほどをスキップした。

 

 ※ 桜町商店街は架空の商店街です 

 

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ライトノベルベスト・高校奇譚 〔左足の裏が痒い……〕

2020-08-05 06:11:33 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト・高校奇譚 
左足の裏が痒い……〕
        


 

 左足の裏が痒くて目が覚めた。

 覚めたと言っても、頭は半分寝ている。無意識に手を伸ばし膝を曲げて、手を伸ばす。
 掻こうと思った左足の裏は、膝から下ごと無くなっていた。

「あ、まただ……」

 そう呟いて、あたしは再びまどろんだ……。

 目覚ましが鳴って、本格的に目が覚める。
 お布団をけ飛ばして、最初にするのは、パジャマの下だけ脱いで左足の義足を付けること。
 少し動かしてみて、筋電センサーがきちんと機能しているのを確かめる。

――よし、感度良好――

 そして、再びパジャマの下を穿いて、お手洗いと洗顔、歯磨き。
 それから部屋に戻って、制服に着替える。そして、念入りにブラッシング……したいとこだけど、時間がないので手櫛で二三回。自慢じゃないけど髪質がいいので、特にトリートメントしなくても、まあまあ、これで決まる。
 むろん、セミロングのままにしておくのなら、これでは気が済まない。キュッとひっつめにしてゴムで束ねた後、紺碧に白い紙ヒコーキをあしらったシュシュをかける。
 これで、標準的なフェリペ女学院の生徒の出来上がり。

 お父さんが出かける気配がして苦笑、直ぐにお母さんの声。

「早くしなさい、遅刻するわよ!」
 遅刻なんかしたことないけど、お母さんの決まり文句。あたしと声が似ているのもシャクに障る。
「はーい、いまいくとこ!」
 ちょっと反抗的な感じで言ってしまう。実際ダイニングに降りようとしていたんだから。

 お父さんが、ほんの少し前まで居た気配。お父さんの席に折りたたんだ新聞が置いてある。

「まだ、そこに新聞置くクセ治らないのね」
「え……」
 洗濯物を、洗濯機に入れながらお母さん。
「そういうあたしも、お父さんが出かける気配がするんだけどね」
 と言いながら、ホットミルクでトーストとスクランブルエッグを流し込む。
「また、そんな食べ方して。少しは女の子らしく……」
「していたら、本当に遅刻しちゃう」
「それなら、もう五分早起きしなさい!」
「こういう朝のドタバタが、年頃の女の子らしいんじゃん」
「もう、減らず口を……」
「言ってるうちが、花なの。ねえ、一度トーストくわえたまま、駅まで走ってみようか!?」
「なにそれ?」
「よくテレビドラマとかでやってんじゃん。現実には、そんな人見たことないけど」

 これだけの会話の間に食事を済ませ、トイレに直行。入れてから出す。健康のリズム。

 消臭剤では消しきれないお父さんのニオイがしない。ガキンチョの頃から嗅ぎ慣れたニオイ。
 これで、現実を思い知る。
 お父さんは、もういない……三か月前の事故で、お父さんは、あたしを庇って死んでしまった。
 あたしは、左足の膝から下を失った。
 最近、ようやくトイレで泣かなくなった。

「よし、大丈夫」

 本当は学校で禁止されてんだけど、セミグロスのリップ付けて出発準備OK!
「いってきまーす!」
「ちゃんと前向いて歩くのよ、せっかく助かった命なんだから」
 少しトゲのある言い方でお母さん。
 あのスガタカタチでパートに出かける。あたしによく似たハイティーンのボディで。

 あの事故で、お母さんはかろうじて脳だけが無事で、全身、義体に入れ替わった。オペレーターが入力ミスをして、お母さんの義体は十八歳。
 一応文句は言ったけど、本人は案外気に入っている。区別のため、お母さんはボブにしているけど、時々街中で、あたしと間違われる。

 駅のホームに立つと、急ぎ足できたせいか、また左足の裏がむず痒くなる。
 この義足は、保険の汎用品なので、痒みは感じないはずなんだけど……。

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かの世界の片隅へ:31『無辺街道の眠り姫・2』

2020-08-05 06:00:57 | 小説5

かの世界この世界:31     

『無辺街道の眠り姫・2』  

 

 

 寝た子を起こすな……。

 

 言った時は遅かった。

 ケイトがツインテールのお尻を爪先でツンツン。

 

 プギャーーー! 

 

 アニメ調の悲鳴を上げて、ツインテールは地上五メートルくらいに跳び上がった。

「な、なにやつ!? 気配を消して機嫌よく昼寝をしておるところを!」

「あんた飛べるんだあ!」

 羽もないのにホバリングしているのに感心。ケイトは見かけによらず乱暴な反応をするツインテールにビビっている。

「我は主神オーディンの娘にして無辺街道を統べるブリュンヒルデなるぞ! 狼藉は許さぬぞ!」

「あ……えと……起こして悪かった。な、ケイトも謝れ」

「あ、ご、ごめん」

 自分でチョッカイ出しておきながら、ちょっとそっけない。

「わたしは剣士のミキ、こっちは妹分のケイト。なんだかメッチャクチャ可愛いお人形が横になっていたんで、ついケイトがツンツンしたんだよ。なにせ田舎剣士のことなんで、キチンとした礼も知らぬ。キミの可愛さゆえの事、この通りだ」

 ケイトの頭を押さえて、いっしょに詫びる。

「そ、そうか。我の稚けなき可愛さのあまりであったか。それならば無下に責めるのも無体というものであろう……」

 ツインテールは、わずかに機嫌を直して地上に下りてきた。

「む、頭が高い……蹲踞せよ」

「そんきょ?」

「畏まって、頭を下げろってことよ」

 異世界ものアニメでやっているように、片膝ついて畏まる……が、それでも、こちらが少し高い。

「むむ……」

 ツインテールはキョロキョロすると、傍らの人の頭ほどの石を見つけて、その上に立った。

「近う寄れ」

 四五歳の子どもがツッパラかっているのはなんともおかしいんだけど、こじらせたくないのと、ここまでの無辺街道が退屈だったので、合わせてみることにする。

「して、そなたたちは、何ゆえ物々しく武装して我が無辺街道を通るのじゃ?」

「話せば長いことになりますが、我らは並行世界からの旅人でございます。魔物を討伐して、この世界と共に我らの世界の安寧をはかろうと旅をしております」

「そうか、そなたたちも崇高なる使命を帯びておる勇者なのだな。ここで出会うたのもオーディンの賜物であろう。もう日も傾きはじめる。ここらで一夜のキャンプにするが良いであろう」

「はあ、しかし、歩き始めて、まだ五時間ほど。今少し距離を稼ぎとうございますので……」

 すると、ツインテールが空を指さす。つられて見上げると、俄かに空は夕闇の茜色に染まった。

「あ、いつの間に?」

「慣れぬ旅に、時間の感覚も狂ったのであろう。ゆるりと休め」

 ケイトは素直に茜の空を信じたが、わたしは「御免」とことわって立ち上がる。すると、茜の空は、ここを中心とする半径百メートルほどで、その先は、まだまだ昼下がりの日差しだ。

「こ、ここの夕暮れはまばらにやってくるのだ!」

「ならば、日差しを拾いながら進んでまいります。行くぞ、ケイト」

「う、うん」

 よっこら立ち上がって回れ右して歩き出すと、ブーーンと音をさせてツインテールが回り込んできた。

「な、ならば、わたしも連れていけ!」

「いや、二人で行きます」

「この異世界、ブリュンヒルデを供とすれば無敵であるぞ! 奥つ城まで顔パス同然じゃ!」

「まっとうに行きます」

「つれないことを申すな」

「けっこうです」

「そこをなんとか」

「いささかウザったい」

「ウザったいくらいが旅の無聊の慰めにもなろうというものじゃ、なあ、どうじゃ、どうじゃ、どうじゃあ(^_^;)」

「あのね……」

「プギャーー! なにをいたす!?」

 ツインテールを掴むと、傍らの灌木の枝にチョウチョ結びにしてやった。こいつは地上にいる限りは大したことは無いと見きったからだ。

「さ、行くぞ」

「いいの、ほっといて?」

「いいわけないだろ! ほどけ! 連れてけ! 連れて行けよ!」

「テル、ちょっと可哀そう」

「仏心を出すな」

「連れてけ! 連れて行ってよ! 誰かに連れて行ってもらわなきゃ、オーディンの戒めで無辺街道の外には出れないんだよー!」

「なんだか、訳ありっぽいよ」

「かまうな」

「プギャー! かまえ! かまえよ!」

 かまってらんないので、ケイトの手を引いてズンズン進んで半ば駆けるようにして街道まで戻った。

 プギャー! プギャー! プギャアアアアアアアアアアア!!

 数百メートル離れてもツインテールの叫び声が付いてくる。戒めが解けるわけもなく、どうやら、街道に居る限りは耳から離れないようだ。

「これは、たまらん!」

 もう、ガンガンと耳鳴りのようになってきて、たまらず戒めの灌木まで戻った。

 涎と涙でグチャグチャになった姿は、まるで、こちらが幼児虐待をしたような気分にさせられて、しかたなく解いてやる。

「きっと戻ってきてくれると思った! じゃ、これからはよろしくな!」

「よろしくするかどうかは、お前次第だ」

「まあ、役に立つから、な!」

「行くぞ」

「合点! それから、わたしのことはブリュンヒルデって呼べ、ブリュンヒルデ!」

「ブリュンヒルデ……びみょうに長いかも」

 ケイトが困った顔をする。

「大きくなったら呼んでやる。それまではブリだ」

「ブ、ブリ……(;'∀')」

「行くぞ、ブリ!」

 

 三人の旅になって、無辺街道は、まだ道半ばであった……。

 

☆ ステータス

 HP:200 MP:100 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト

 持ち物:ポーション・5 マップ:1 金の針:2 所持金:1000ギル

 装備:剣士の装備レベル1 弓兵の装備レベル1

 

☆ 主な登場人物

  

  テル(寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトと変えられる

 ブリ         ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 二宮冴子  二年生  不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生  セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生  ポニテの『かの世部』副部長 

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銀河太平記・1『修学旅行・1』

2020-08-04 14:44:46 | 小説4

001

『修学旅行・1』    

 

 

 あれから二十五年

 東京下町のレンターカー営業所のカウンターを挟んでもめ事が起こっている。

 

「だかや、ちゃんと見てってゆってゆのよ!」

「見せていただいたから申し上げているんです。 テルさま、申し訳ありませんが十八歳以上の方でないとアナログ車はお貸しできないんです」

「年齢じゃなくて、ライセンスよ、ライセンス! 普通免許の他に大型特殊、航空機、船舶、第一種戦闘車両、アナログ車両の免許も持ってゆのよさ」

「申し訳ございません。これは火星のライセンスで、地球では通用しないもので……」

「んもー! だかや、こっちも見てってゆってゆの! オールマースグランプリで地球代表のアメリカチームをブッチギリでやっつけて優勝した時の証書よ。ホログラムだけじょ……ほら、全米アナログ協会の会長と大統領が、あたしにメダルと賞品を授与してくれてるとこよ!」

 1/6サイズのホログラムの大統領が、メダルといっしょに普通免許、大型特殊、航空機、船舶、第一種戦闘車両、アナログ車両の免許をテルに授与しているところだ。

『オールマースグランプリにおいて、顕著な成績と共に優勝したミス・テル・エレキ・ヒラガに優勝メダルと共に全米普通免許、大型特殊、航空機、船舶、第一種戦闘車両、アナログ車両の免許を授与します!』

『えと、こえでカメラに収まったや、首だけしか写やないし……わたしに合わせたや、大統領は膝まずかなきゃなやないし……できたりゃ、大統領と同じ高さでいたらきたいんらけども……』

『それは、もっともだ。シンディー』

 大統領は、火星親善旅行に同行させている孫娘のシンディーを手招きした。

『了解よ、お祖父ちゃん! 失礼、チャンピオン』

『うわ!』

 シンディーはニコッと笑うと、あっという間にテルを肩車した。

『ありがとうシンディー』

 150センチのシンディーに肩車されて、やっとテルは大統領と5センチの差で対面できた。

『おめでとう! キミは全火星チャンピオンであるだけでなく、地球代表であるアメリカチームをも打ち負かした! 太陽系一! いや、銀河で一番の英雄だ!』

 ファンファーレが鳴って、ドラムロールがサーキットいっぱいに木霊すうちに優勝メダルと賞品が授与された。

 

「だかや、わたしは地球でのアナログライセンスも完璧にゃのよさ!」

「それは承知しておりますが、日本では十八歳未満のアナログ運転は認められておりませんし、合衆国免許では日本国内の運転はできません」

「あにゃたも頑固ねえ」

「もうしわけございません」

「アメリカじゃ、日本の国内免許でも運転できゆのよ、相互主義の観点からゆっても……」

「申し訳ございません、日本では、改めて国際免許を取って頂きませんと、それも、年齢規定は……」

「分かった!」

 ペチ!

 カウンターを叩くテルだが、やっと首だけがカウンターから出ている状態なので、カウンターを叩いても迫力はない。

「いま、ここで国際免許とゆかや、見てにゃさい!」

 国際免許は、申請して、場合によっては実技と法規のテストがある。

 テルは、端末を操作すると、目にもとまらぬ早業で二分余りで国際免許をとってしまった。

「こえで、文句ないっしょ!」

 端末に映し出された免許を指し示すと、営業所に一台しかないアナログ車のキーをふんだくって駐車場に向かうテルであった。

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大阪ガールズコレクション:4『アニメ声 阿倍野区 松虫通り界隈』

2020-08-04 06:30:04 | カントリーロード

大阪ガールズコレクション:4

『アニメ声 阿倍野区 松虫通り界隈』  松虫(大阪市阿倍野区)

 

 

 ハルカスに行こうと誘われたが断った。

 

 含むところがあってのことじゃない。

 もう、わたしには後が無いんだ。

 口では「頑張ろう!」「うん、頑張る!」って受け答えしたけど、ほんとうに後がない。

 今月分の家賃を払って、残るのは実家に帰る交通費がやっと。

 それも、飛行機とか新幹線とかの贅沢はできない。夜行バスに乗って、それこそ尾羽打ち枯らして、スゴスゴとかオメオメとかの茨の冠を戴いて……。

 

「日比野さんはいいんだけど、狙いすぎてるというかハマり過ぎてるというか完璧と言うか、我々としては、未知数の領域のある人と冒険したいっていう感じなんですよ」

 労わるように監督は言ってくれたけど、不採用に変わりはない。

「はい、ありがとうございました!」

 はつらつとアニメ声で返事。

 生の声だと泣いてしまいそうだから。アニメ声なら、設定の中で、いかような人物、いかような状況の声でも出せる。

 だよね、梅田にある声優専門学校在学中からモブの仕事をやって、二年もすればテレビアニメの主役クラスをやれる!

 先生たちも仲間たちも言ってくれた。自分でも二年後は自分の足で立っていると思っていた。

 

 アルバイトも少しはやった。

 

 でも、声優としての自分が二の次になるようなアルバイトには手を出さなかった。

 いつのまにかバイトが本業になった先輩や仲間はいっぱい見てきた。

 でも、深夜バスの料金払ったらスッカラカンという状態で帰りたくはない。

 ちょっと見栄を張って、田舎で一か月ぐらい余裕で仕事探せるくらいで戻りたい。

 文無しというのは裸で帰るように恥ずかしくて惨めだ。

 

 あ、松虫通……

 

 気づくと自分のアパートまで五分というところまで戻っていた。

 このまま戻っては、着の身着のまま布団をかぶって出られなくなる。

 ハルカスにも戻れず、アパートにも戻れず立ちすくんだ。

 我ながらキョドってる。

 一本手前の○○町商店街に踏み込む。道幅四メートルほどで、アーケードも無い。

 ポールから伸びている看板がなければ、所々にお店がある通りとしか思わないだろう。

 基本臆病なわたしは、この商店街と松虫通りの周辺で生活のアレコレをまかなっている。

 ほどよくアパートからは離れていて、回遊するにはちょうどいい。

 

 不動産屋と寿司屋さんの間が、いつのまのか空き家になっていて、シャッターにいろいろ張り紙が……文化教室、政党のポスター、ゴミ収集の作法と日程……それに混じってスーパーの求人広告。

 ……時給九百円から

 何度か行ったことのある地元のス-パーだ。

 ここにしよう。

 通りを二つ戻ってスーパーを目指す。

 

 習慣でカゴを持ってしまう。

 

 スーパーに入って、カゴも持たないのは、なんだか不審だ。

 でもって、いつまでもカゴを空にしているのも不審だ。

 見覚えのあるスーパーのおじさんが商品の整理をしている。

 

 パートの求人……

 

 おじさんの後ろを二回通るが声を掛けられない。

 いつのまにか、半額シールの貼られたうどん三玉と油揚げをカゴに入れてる。

 まだ半分は残っている粉末のうどんスープを使えば二日はしのげるね。

 半額うどんの賞味期限は明日まで……冷蔵庫に入れれば明後日ぐらいまでは大丈夫。

 65円の刻み葱をプラスしてレジに並ぶ。

 レジは四つあるけど、稼働しているのは二つ。

 若い女の子と……新人らしいおばさん。

 

 おばさんのレジに向かう。

 

「いらっしゃいませ……195円になります」

 え……アニメ声だ。

 スーパーのマニュアル通りの台詞なんだけど、声優の鍛えた声は分かってしまう。

 見た目の年齢よりはニ十歳は若く聞こえる。いや、その気になって演ずれば幼児だって少年の声だって出せるだろう。

 そんな余白、とんでもないキャパシティーを感じさせる声だ。

「あ、あの……声優とかやってらっしゃいました?」

 ちょうどお客が絶えたこともあって、おばさんはにこやかに答えてくれた。

「アハハ、そういうあなたも声優さんね」

「え……?」

「エロキューションで分かるわ」

「あ、あ、ども」

「人手不足で駆り出されてるの、あそこで商品整理やってるのが主人」

「あ、奥さんなんですか!?」

「三十年前にだまくらかされて」

「えと……その声、支倉ちなみさんじゃないですか?」

「え、知ってくれてるの!?」

「はい、浪速アカデミーですから!」

 支倉さんは、1980年代に一世風靡して、突如引退した七色声優仮面と言われた人だ。

 それが目の前にいるのだ。

「え、えと、えと……パートで雇ってもらえませんか!?」

 

 根性なしのわたしは、とりあえずスーパーのパートから。

 でも、モチベーション最高の再出発ができそうです。

 

  

コメント
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