大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・238『目にはさやかに見えねども』

2021-08-25 13:34:35 | ノベル

・238

『目にはさやかに見えねども』頼子     

 

 

 ソフィーは優秀なガードだ。

 

 来日一年で完ぺきに日本語をマスターしたし、散策部という私の我がままで作った部活にも付き合ってくれているのに、片手間にやっている剣道でも三段の腕前になった。

 何度か危ない目にも遭ったけど、その都度ソフィーの活躍で切り抜けてきている。

 そんなマイディアガード・ソフィーの活躍をご披露したいんだけど、警備上の問題があるので、時効になったら本にしようと思ってます。

 きっとAMAZONのトップのランキングになるに違いないと思うわ。

 化粧っ気のない子なんだけど、その気になって磨けば、わたしより光ると思う。

「ヨリコが優位に立てているのは、王位継承者という一点だけです、精進しなさい!」

 物事に公平なお祖母ちゃんは言う。

 その通りなんだろうけど、わたしは自分が王位継承者であることをアドバンテージだとは思っていない。

 だけど言わない。

 

 そんなソフィーに勝った!

 

 昨日の朝のことよ。

 いつもの散策というか散歩に出て、例の神社の前に来た時。

「あ……」

「なにか?」

 わたしが立ち止まったので、ソフィーは周囲を警戒する。

 ジョン・スミスみたいな公的ガードならサングラスしてるんだけど、ソフィーはご学友という立場でもあるのでサングラスはしない。

 薄く微笑んだまま、周囲にガンを飛ばす。

 ガンを飛ばしても、けしてキョロキョロはしない。

 視野の端っこで探って、怪しいとなって、初めてガン見する。

 ほんの二秒ほどなんだけど、異変に気付かないので、視線をわたしに戻す。

「ね、気づかない?」

「はい?」

「蝉の声がしないのよ」

「ハ……そう言えば!?」

「ふふふ、気づかなかったのね?」

「ふ、不覚でした(;'∀')」

「仕方ないわよ、蝉の声なんて、単なる環境音。脅威にはならないから」

「はい、しかし……」

「ジョン・スミスが言ってた『ガードは全てのものに注意を払っているわけではありません。脅威、あるいは脅威の兆候には敏感ですが、無害な環境音は、ほとんど意識から外しています』って」

「はい……確かに、鳥の声などには敏感です。鳥は、人が近くにいると鳴きませんが、虫は人が居ても居なくても好きに鳴いていますから、自然と外していたのかもしれません。殿下はどうして……」

「うん、蝉は夏のシンボルなのよ。セミの声がしなくなってトンボが飛び始めると秋の始まり」

「そ、そうなのですか(^_^;)、毎朝、天気予報、気温、湿度のチェックはしているのですが、数値的には相変わらず温帯モンスーン真っ盛りの数値を現しています」

「ふふん」

「なんでしょうか殿下?」

「こんな和歌があるのよ……」

 ソフィーは真剣な目になって、間合いを詰めてきた。なんか怖いぐらいなんだけど、涼し気に続ける。

「秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ 驚かれぬる (藤原敏行) 」

「え、秋は絹……絹はシルク……さやかは、クラスで出席番号13番の坂下さんのファーストネームで……」

「あ、ごめん(^_^;)」

 ソフィーは古典は苦手なんだ。

「えとね……目に見えるほどには分からないけど、吹く風の音に、なんとなく秋の気配を感じてビックリしたよ……てな意味なのよ」

「それは、忍者が詠んだ和歌なのですか!?」

「い、いや、藤原のなんとかさん、ただの貴族さんよ」

「なんと……ただの貴族でも、忍者並の感覚を持っているのですね!」

「アハハ……」

「恐るべし、日本人……ソフィーは精進いたします、殿下!」

 

 領事館に戻ると、さくらからメール。

 

―― 先週からセミの声が弱くなって、そろそろかと思ったら、トンボがいっぱい。夏もおしまいですね! ――

 これを見たソフィーが、また傷ついた。

「で、殿下ならともかく、さくらに負けるなんて……!」

 いやはや……。

 

 そして、今日から二学期。

 

 久々に通学路を学校に向かっていると、ソフィーが警告を発した。

「ウンコ!」

「!?」

 珍しいことに犬の〇ンコが落ちていて、危うく踏みそうになったのを注意してくれた。

 でも、微妙にタイミングが遅くてタタラを踏む。

 まあ、すぐに手を取って助けてくれたんだけどね。

 微妙に遅れたのは、ひょっとして意趣返し?

 

 アハハと笑い合って、二学期の始まり始り……

 

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やくもあやかし物語・95『コルトガバメント・1』

2021-08-25 09:41:15 | ライトノベルセレクト

やく物語・95

『コルトガバメント・1』   

 

 

 今日は、朝からお爺ちゃんと二人。

 

 お婆ちゃんは二十年ぶりの同窓会に出かけている。お母さんは、いつものようにお仕事だし。

 つまり、広い家に二人っきり。

 ここに来たころはね、ごく最初のころは、なかなか自分の部屋から出られなかった。

 自分の部屋が居心地がいいのと、人と二人っきりになる気まずさからね。

 

 ちょっとマシになると、リビングに居続けた。

 

 家族って、そういうもんだと思ってたから。

 ドラマとかアニメとか見ると、家族ってのは、たいがいリビングで団欒してるでしょ。

 でも、そういうのって間が持たなくなって、それで、遠慮なく自分の部屋で好きなことをやってるわけ。

 遅くまでアニメの一気見してたので、チカコは消しゴムを枕に寝息を立てている。

 そっとハンカチのお布団をかけてやると、廊下の向こうから音がする。

 

 パン パン パン

 

 なんだろ?

 気になって廊下に出ると、音は、廊下を曲がった向こうからする。

 行ってみると、音はお爺ちゃんの部屋からだ。

「あ、おどかしちまったかな?」

 部屋を覗くと、イタズラを見つけられた子供みたいに頭を掻くお爺ちゃん。

 こういう子どもっぽい仕草をしなかったら、タマゲテいたかもしれない。

 床の上に座ったお爺ちゃんの周りには十丁ほどの鉄砲が並んでいた。

「モデルガン?」

 お爺ちゃんの様子から、本物ではないと分かる。

「ああ、むかし、友だちに貸していたのが戻って来てね。劇団をやっていて、小道具に貸してやっていたのが、昨日戻ってきて」

「そんなに沢山?」

「ああ、貸していたのは、これとこれと……三丁だけなんだけどね、一丁だけ音がおかしいんで、他のも出してチェックしていたんだ」

 それにしても、すごい量……思っても言わない。趣味は人それぞれ、パンパン撃ちだしたのもお婆ちゃんたちが出かけてからだし、お爺ちゃん気を遣ってるんだ。

 パス パス

「これだけがおかしい」

「お友だちに貸してたやつ?」

「うん、コルトガバメントっていうハンドガンなんだけどね、なにかが詰まったみたいに湿気た音しかしないんだ」

「詰まってたの?」

「うん、いっかいバラシてみたんだけどね、なにも詰まってないし……まあ、年代物だし寿命かもな」

「そこに、同じようなのがあるけど」

「ああ、これは最新型の電動銃でね」

「電気仕掛けのピストル?」

「ああ、本物みたいに動作するんだ」

「へえ」

「撃ってみようか?」

「うん」

 おっかないんで、軽く耳を塞ぐ。

 

 パンパンパン

 

「おお……」

 なんか、音が連続してるし、反動も凄くて、引き金ひくたびに、上のとこがガシって動く。

 なんか、ガンダムがピストルになったみたい。

「ハハ、ギミックはほとんど本物だからな」

 やんちゃ坊主みたいな笑顔のお爺ちゃん。男っていうのは、いつまでたっても子どもなんだと、お婆ちゃんが言ってたのを思い出す。

「まあ、こっちはオシャカかな」

 年代物の方を押しのけるお爺ちゃん。

「どうするの?」

「婆さんも嫌ってるし、まあ、バラしてから捨てるかな」

「捨てるんだったらちょうだい」

「え?」

「ディスプレーにはなるでしょ?」

「あ、あげるのはいいけど、女どもには見つからないようにしろよ」

「ふふ、あたしも女なんですけど」

「アハハ、いっしゅん忘れた!」

 

 お爺ちゃんは、本当は男の孫が欲しかったのかもしれない。

 

 わたしも不敵な笑みを浮かべて、コルトガバメントを懐に部屋に戻ったのだった……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸

 

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ライトノベルベスト『海岸通り バイト先まで・1』

2021-08-25 07:18:13 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『海岸通り バイト先まで・1』  

 

 

 

 しまった! 

 バスの発車音で目が覚めた。

「おばさーん、次のバス何時かなあ!?」

 ぼくは、階下のおばさんに大声で聞いた。

「なんだ、まだ居たの。今のバスで出たと思ってたわよ」

       

 今朝は、なぜか早く目が覚めて、一時間も早く朝飯を食った。

 それでバスの時間まで、わずかなまどろみを楽しんでいて、それが本格的な二度寝になってしまったのだ。

「次のバスって……一時間先だわよ」

 階段を駆け下りてきたぼくに、民宿のおばさんは気の毒そうに時刻表を指さした。

 

 ミーーーン ミーーーン ミーーーン

 

 頭の中が真っ白になって、蝉の声だけが際立った。

 二三秒、呆然として玄関のピンク電話に。
 受話器を手にしたところで、肝心の電話番号が頭からとんでしまっていることに気づく。

 ドタドタドタ!

 慌てて二階に戻り、バッグから手帳を取りだし、そのまま電話のところに戻った。


「あ……」


 同宿のA子さんに先をこされていた。

「だからさあ、もう二三日は帰んないから……お母さんに代わってくれる……あ、お母さん……」

 ぼくは、こういう時にはっきりとものが言えない。

 狭いロビーで新聞を読むふりをした。夕べも、今日からのバイトに備え、早く寝ようとした。でも、いまホットパンツのお尻を向けて電話しているA子さんたちにつかまり、ウダウダと、二時近くまで付き合ってしまったんだ。

 地方新聞の三面記事、海岸通りの北の方で、大型タンクローリーが事故。そこを眺め、四コママンガを見ている時に声がかかった。

「はい、電話かけるんでしょ」

 A子さんが、お気楽に受話器を振って促している。

「あ、ども……もういいんですか」

「急ぎの電話だって、顔に書いてあるわよ」

「すんません」

「優しいのと、気の弱いのは違うって、夕べ言われてたでしょ。神田川クン」

 ちなみに、ぼくは神田川ではない。柳沢二郎。二郎と言っても次男ではない。なぜ神田川かというと、夕べ盛り上がった時に、A子さんの連れの、B子さんやC枝さんに「キミは、神田川のオトコみたいだね」と言われて、そうなった。

「よ、神田川。オネエサンたちといっしょに海岸散歩しない。気が向いたら、そのまま海へザブーン!」

 B子さんは、ピンクのTシャツを、ビキニの上の方が分かるところまで、たくし上げて、ぼくを挑発した。

「よしなさいよ。あの子バイトのために来てんだから」

「まあ、海まで来て川を相手にすることもないか」

「B子」

 A子さんが、軽くたしなめた。いつの間にかC枝さんもロビーに現れ、三人連れだって玄関を出ていった。

 

 ボクは、テレホンカードを入れて、バイト先の「海の家」まで電話した。

 

「……すみません。バスに乗り遅れて、少し着くのが……」

――ああ、いいよいいよ。夕べの海岸通りの事故で、道が塞がってっから。お客さん来るの遅れそうだから――

 オジサンが優しく言ってくれた。

 そう言えば、今、新聞で知ったところだ。

 ボクは、改めて新聞を読み直した。事故の復旧は、昼前までかかる見込みと書かれていた。

 でも、やっぱり、できるだけ早く行こう。バイトとは言え仕事は仕事だ。それも初日。誠意は見せておかなければならない。

 誠実さと気の弱さが、同じ結論を出した。

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鳴かぬなら 信長転生記 26『紙飛行機の二宮君』

2021-08-24 13:15:27 | ノベル2

ら 信長転生記

26『紙飛行機の二宮君』  

 

 

 このごろ暇があると屋上に来ている。

 

 自習時間とか昼休みとか放課後とかね。

 学校の奴らには嫌われたり敬遠されたり。

 そういう奴らを連れまわしても面白くないし、逆らう奴はみんなシバキ倒したしね。

 無理やりひっ捕まえれば、付いてもくるし、命令はなんでもきく。

 そういうのカッタルクって、時々切れてしまう。

 切れると、そいつらは蜘蛛の子を散らすように居なくなる。そういうのが嫌になった。

 

 中には付いてこない奴もいる。こないだのパヴリィチェンコみたいなの。

 

 そういうやつは、ハナから寄ってこない。

 

 屋上からは御山が見える。

 御山は、この街の真ん中に聳える神の山だ。

 御山を挟んだ向こう側には転生学院がある。兄の信長が通う女子高、うちの転生学園より偏差値で10も高い。

 前世では、名のある戦国武将とか戦国大名だったやつとか、その道の英雄とか、たいそうな奴らがいく高校。

 そういう奴らは、来世で生まれ変わったら「今度こそは!」というはた迷惑な気概に満ちている。

 だからなのか、男のままでは受け入れられず、みんな女になっている。

 癪に障ることに、揃いも揃って美少女だ。

 フン、あたしほどじゃないけどね。

 でも、兄き、いや、いまは姉か。あいつは、胸糞が悪くなるほどの美少女だ。

 あいつは、あたしのプロトタイプなんだ。最近は、そう思ってる。

 プロトタイプって分かるよね、試作品よ。

 あたしという完成品が生まれる前のお試し品。

 試作品だから、欠点が多い。

 最大の欠点は性格。前世から性格悪くって、そのために家臣の光秀に殺されちまった。

 クソッタレなんだけど、あいつにはきちんと転生してもらわなきゃ、あたしが困る。

 あたしも頑張らなきゃ……

 

 スーーーーーーーーーーーーー

 

 そんなこんなを思っていると、目の前を白いものが横切った。

 白いものは、屋上に沿って西に流れていくと、校舎の切れ目でグイっと首をもたげて上昇していき、校舎の倍ほどの高さに至るとグルっとグラウンドの上空を旋回して、屋上に戻ってきた。

 ん?

 給水タンクの陰から男子生徒が飛び出してきて、受け止めると、あたしに一礼する。

「式神?」

「え?」

「あんたの、その手に持ってるの?」

「紙飛行機」

「え?」

「紙飛行機の飛距離を伸ばそうと思って、いろいろチャレンジ……」

「あんなに飛ぶものなの?」

「まだまだだよ……」

「てっきり式神かと思った」

「あ、僕は、そういうんじゃ……」

 ハタハタと手を振って否定する。そう言う態度とられると絡みたくなる。

「…………」

 もう止そうと思ったけど、もっかい飛ぶところを見てみたい。

「もっかい、飛ばして見せてくれないかなあ」

「えと……」

「気が進まないならいいよ」

「あ、そういうんじゃなくて、さっきみたいにいい風が吹いてこないと……」

「あ、そか……」

「あ、やってみるよ。さっきみたいにはいかないかもしれないけど」

「ありがと!」

 男子生徒は、給水塔の後ろから道具箱みたいなのを持ってきて開ける。

「わあ、他にもあるんだ」

「うん、試作品だけどね。あ、今飛ばしたのも試作品。改良の余地があり過ぎて、なかなか完成形にはならなくてね……」

 男子生徒は、さっきよりも小振りなのを選んで箱を閉めた。

「揚力が高いから、ちょっと風が吹いただけで飛んでっちゃうから……いくよ」

「うん!」

 紙飛行機を持った手を肩の高さに上げて、二三度ためらってから、小さく掛け声をかけた。

「えい」

 

 スーーーーーーーーーーーーー

 

 今度は、さっきよりもグラウンド寄りに飛ばす。

 グイッと頭をもたげるけど、さっきほどではなく、グラウンドを一周し、ゆっくりと朝礼台の方に下りていく。

「取りに行く」

「うん」

 外階段を駆け下りて、グラウンド。

 紙飛行機は朝礼台の脇に墜ちていた。

「すごいね、あんなに飛んで墜ちたのに、どこも傷んでない」

「軽いからね、でも、水たまりとかに墜ちた時は悲惨だけどね」

「ね、あたしでも飛ばせるかな?」

「もちろん、やってみる?」

「うん」

 手持ちの紙飛行機を貸してくれるのかと思ったら、差し出されたのはA4のコピー用紙。

「折るところからやらないと、紙飛行機は面白くない」

「そうなんだ」

「まず、縦に二つに折って……」

 一から教えてくれて、あっと言う間に折り上がる。

「じゃ、朝礼台の上から飛ばしてみよう」

「うん」

「バックネットに向かって飛ばすといいよ」

「なるほど、ネットでキャッチさせるのね」

「ここからだと、バックネットまでは飛ばないよ。風がそっちに吹いてるからね」

「あ、そうか(^_^;)」

「いくよ」

「うん」

「いち……に……」

「「さん!」」

 

 スーーーーーーーーーーーーー

 

 二つの紙飛行機は仲良く飛んで行った……けど、あたしのは、グラウンドの中ほどで墜ちてしまい、男子生徒のはバックネットの手前まで飛んでホームベースに滑り込むようにして着地した。

「うん、こんなものかな」

「同じようにしても、ぜんぜん違うんだね」

「きみ、なかなか筋がいいよ」

「そう? 嬉しい」

「よっぽどうまくいくとね、見えなくなるところまで飛んで、回収もできないことがある」

「見えなくなるところまで……」

「うん、シカイボツっていうんだ」

「シカイボツ?」

「……あ、こんな字」

 グラウンドに書かれた文字は『視界没』と読めた。

「場外ホームランとホールインワンを足して100を掛けるぐらいにすごいこと」

「やったことあるの?」

「うん、一回だけ」

「見てみたい」

「視界没する寸前に願い事すると叶うっていうよ」

「そうなの!?」

「うん、ぼくは叶った」

「えと、君の名前は?」

『二宮忠八』

 地面に書いた名前は、ちょっと古風だ。

「にのみやただはち?」

「ちゅうはち」

「ちゅうはち……」

 古風だけども、ちょっとかっこいい。

「きみは?」

「あ、織田市(おだいち)」

「あ、信長の妹の……」

「アハハ」

 あたしは、やっぱり信長の妹って括りになるんだね(^_^;)

 

 あとで敦子に聞いて驚いた。

 二宮忠八くんは、れっきとした神さまだったのだ!

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  パヴリィチェンコ    転生学園の狙撃手

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ライトノベルベスト『ちょっとした躓き・8』

2021-08-24 06:46:54 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ちょっとした躓き・8』  




 本番が終わると光会長が手を上げて、あたしをスタジオの隅に呼んだ……。 

「ありがとうよ。どこの誰かはしらないけど、うまく代役やってくれてさ」
「あ、会長、あたし……」
「みなまで言うなよ。キミ、萌の抜け殻被ってくれてんだろ。いや、俺も若い頃覚えがあるんだよ。あの窪みに躓いちゃったら、自分の殻から抜け出せるようになる。で、やりすぎると元に戻れなくなっちまう。俺んときも……いや、あんまり人に言っちゃいけないんだったな。萌はゴールデンボマーズのアキラといっしょに居る。ただ、アキラの部屋でも自分の部屋でもない。デビュー前の友だちのどこかだ、それさえ分かれば……」
「あ、だいたいの場所は分かってます。そういうわけで、会長ありがとうございました」
「ああ、がんばれ萌」

 ディレクターの人が来たんで、あわててすっとぼけた。

 それから、来るときと同じタクシーに来てもらって、目標の場所に行った。

「アイドルも辛いね。ま、またご用があったらよろしく。秘密厳守だから」
「ええ、よろしく」

 と言いながら、この運転手さんの口の軽さは信用できないと思った。

「あ、ちょっとヤバイなあ……」

 そこは十階建てのマンションだけど、オートロックだ。部屋はモエチンの気配が、ここにいても感じられる十階の一号室。いわゆるペントハウスだ。でも、この姿でインタホンは押せない。

 仕方なく、一時的にモエチンの皮を脱いだ。ってことは素っ裸なんだけど、仕方がない。脱いでしまえば、抜け殻も人には見えないと踏んだ。見えるんだったら、上戸彩女性警官が隠しもせずに担いで交番に持って来るはずがない。
 
 冬でなくてよかった。三十分ほど待っていると、住人の人が出てきて、ドアが開いた。

 入れ違いに、さっと入って、集会室の隣のトイレで、モエチンの皮を気を付けながら着る。

 帽子を目深に被って、エレベーターで十階へ上がり、例の部屋の前に立った。

「すみません。この部屋の住人の妹なんですけど、兄の忘れ物取りに……」

 ゴソゴソと気配があって、アキラがドアのロックを外した。

 えい!

 ウワ!?

 思い切り外側にドアを開くと、弾みでアキラが転がり出てきた。

 間髪入れずに、奥の部屋までいくと、モエチンオーラ出しまくりの女の子がベッドの上で、シーツを胸までたぐり寄せて、怯えたような目で、本来の自分の姿のたしを睨む。

「モエチン、あんた間違えてるわよ。どれだけの人が、あんたのこと心配して、どれだけ迷惑かけてるか。今なら間に合う。さっさと服着て、あたしといっしょにいらっしゃい!」

「え、あ……」

「さっさとしろ!」

 モエチンは、自分の姿をしたあたしに圧倒されて、大人しく服を着てついてきた。

「じゃ、アキラさん、これからは、あたしにも、あたし似の女の子にも手え出さないでね!」

「は、はい……」

 それから、二人はタクシーで、交番に戻った。むろん、最初のとは違うタクシー。

「あなたになってみて、卒業前のアイドルのしんどいところも、よく分かったわ。光会長も身に覚えがあるって。今戻れば元通り。がんばってモエチン!」

 元のあたしに戻ったあたしに励まされて、モエチンは帰っていった。

「あんたも、人に説教できるようになったんだね」

 天海祐希婦警が、ため息をついた。

「さあ、窪みも連れてきたし、これを踏んで、元の世界にもどんなさい。その子のこともよろしくね」

 あたしは、モエチンに体を乗っ取られていた子に肩を貸して、窪みを踏んだ。最初の一歩は逃げられたが、二歩目は、宮沢りえ婦警が押しピンで停めてくれて間に合った。

「じゃ、行きます!」
「ありがとね」
「気を付けてね」

 そして、窪みを踏むと、交番は一瞬で無くなり、あとには小さなお地蔵さんの祠があるだけだった。

 モエチンに乗っ取られていた子は、何事も無かったように、あたしの肩を離れると行ってしまう。

「さあ、行くか……」

 そう呟くと足もとに気配。

 例の窪みが押しピンで留められてジタバタしている。すると空中から上戸彩女性警官が上半身だけ出して、押しピンがささったままの窪みを確保した。

「じゃ、清水さん。元気でね」

 最後は、バイバイする手だけ残して、やがて、その手も消えてしまった。

 祠の中を覗くと、もうカタチも定かではない三体のお地蔵さんが見えた。

 あたしは、軽く手を合わせると家に向かって歩き出した。

 クセでポケットのスマホを取りだす。

「フフ、あんたも分かってんじゃん。ちょうど電池切れ。ま、うまく付き合っていこうよ」

 相棒をポケットにしまうと、あたしは、しっかり前を向いて歩き始めた……。
 

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誤訳怪訳日本の神話・56『釣り針を失くしたヤマサチ』

2021-08-23 08:39:16 | 評論

訳日本の神話・56
『釣り針を失くしたヤマサチ』  

 

 

 道具を交換したウミサチとヤマサチでしたが、慣れない道具では思うように獲物が得られません。

 

「やっぱり、お互い自分の道具が一番だ、元に戻そう」

 ウミサチは弓矢をヤマサチに返します。

 ところが、ヤマサチは釣り針を出さずにモジモジしています。

「どうかしたか、ヤマサチ?」

「あ……えと……なんだ……すまん、失くしてしまった!」

「え、失くしたあ!?」

「でっかい魚が食いついたんだけど、そのまま海の底に潜っちまって、その勢いで釣り糸が切れちまって……」

「って、大事な釣り針なんだぞ! あれが無くっちゃ、海のものは小魚一匹獲れやしないぞ!」

「す、すまん!」

「すまんですむかあ! 海に戻って取って来い! 取って来るまで帰ってくんなああああ!」

「あ、ああ、わかったよウミサチ(;'∀')」

 

 ションボリ、シオシオと海辺に戻るヤマサチですが、広大な海を目の前にしてうな垂れるだけです。

 

 海に落としたり沈んだものというのは見つけるのが難しいですねえ。

 あの超ド級戦艦大和でも、おおよその沈没地点は分かっていましたが、発見されたのは五十年あまり後のことです。

 まして、掌に載せて握ってしまえば隠れてしまうほどに小さな釣り針です。ヤマサチは肩を落とすしかありませんでした。

 

 ザップ~ン

 

 そんな時、波間からウミガメに乗ったジジイの神さまが現れました。

「お若いの、まだ午前中だというのに、なにをタソガレておられる?」

「あ、これは、潮の流れを監督するシホツチの神」

「そんなに泣かれては、海の塩分濃度が上がってしまう」

「すみません、じゃ、水筒の水で……」

「アハハ、うそうそ、冗談ですじゃ(^▽^)」

「は、はあ」

「あんたは、冗談ではなさそうですなあ、よかったら事情をお聞かせ願えまいか?」

「はい、実は、僕はヤマサチというんですが……」

 ヤマサチは、事のあらましをシホツチの神に説明します。

「さようか、それはお気の毒な……」

 シホツチは、ヤマサチに同情すると、指先をチョイチョイと動かします。

 

 ザバババーーーーーン!

 

 海の底から、竹で編んだ潜水艦のようなものが浮上してきます。

「こ、これは?」

「これは、勝間の小船と申しますじゃ。これに乗って海の底に行けば良い潮の流れに乗って『ワタツミの神の宮』というところに出ますじゃ、そこの井戸の傍の桂の木の陰に隠れてお待ちなされ、きっと開けてくるものがあるじゃろう」

「そ、そうですか! それでは、お言葉に甘えて!」

「おう、行っておいでなさい(o^―^o)」

 シオツチはシオツチノカミともシオツチノトジとも呼ばれる老人の神さまで、潮の流れを司るだけではなく、製塩の神さまとして、各地で祀られています。

 海から老人が現れて、困っている冒険者たちを助けたり助言したりする話は、ギリシア神話や東南アジアの昔話にもあると言います。

 わたしの狭い知識ですが、海から現れるのはポセイドンとかのオッサンや老人が多いように感じます。人魚姫というのもありますが、人魚姫の親父はポセイドンではなかったかと思います。

 湖や池から出てくるのは女神ですね。

 正直な木こりが斧を落として「あなたの落とした斧はどれかしらあ?」と、木こりの根性を試すのは女神ですね。

 水の中に住んでいるわけではありませんが、水浴びしているところを見てしまった猟師を鹿に変えて猟犬に食い殺させたのは少女の姿をした処女神アルテミスでありました。

 海はオッサン、淡水は美女・美少女

 では、海水と淡水が混ざる汽水は……妄想が膨らみます。

 

 次回は、海の中のヤマサチに注目します。

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ライトノベルベスト『ちょっとした躓き・7』

2021-08-23 06:13:01 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ちょっとした躓き・7』 

 




 二人の婦人警官さんと一人の女性警官さんに見送られて交番を後にした……。

 まずは……そうだ、お仕事に行かなきゃ!

 あたしは、モエチンの心で判断した。バッグを調べると、さすがはAKR、ゴールドカードが入っていた。

 油断して素顔を晒していたので、タクシーに乗るまで二回御通行中のみなさんに掴まって握手会になった。そのままサイン会、撮影会になりそうだったので、やってきたタクシーに飛び乗った。

「お、あんた、AKRのモエチン!」
「帝都テレビまで、お願いします」
「やっぱ別人だったのかなあ……」
「どうかしましたか?」
「いや、ちょっと前に、雰囲気がそっくりな子乗せたんだけどさ、帽子やマスクで顔隠してたからね。そういうときは礼儀として声はかけないの。でも、そっくりだったなあ」

 あたしはピンと来た。本人は習慣で帽子とか被っちゃうんだろうけど、かえって分かる人には分かっちゃうんだ。

「あ、あの時の運転手さん!?」

 ぼけておく。

「やっぱり、当たりだ!」
「ねえ、運転手さん。名刺もらえます?」
「ああ、どうぞ」
「仕事終わったら、もう一度連れていってもらえます? あんまり時間が無かったもんで、用事済んでないんです」
「ああ、いいすよ。そこに電話してもらって、わたしを指名してくださいな」

「モエチン、遅刻!」

 楽屋に入ると、すぐに先輩の服部八重さんに叱られた。

「ごめんなさい。マネージャさんにも叱られたとこ」
「今日もフケるようなら、どうしようかと心配してたんだよ。卒業も近いんだし、きちんとしとかないとね」

 同期の寺坂純が、遠慮無く突っこんでくる。

「じゃ、ヘアーメイクからいきます」

 ヘアーメイクの安藤さんが、化粧前を示した。

 ヘアーメイクしてもらいながら、メイク。自然にモエチンの心になっていく……。

 投げやりに似た不安でいっぱいだった。

 卒業したら、ほんとうにピンでやっていけるんだろうか……拓美ちゃんのオーラはないし、クララみたいに女優なんてできないし……卒業していったメンバーのことが次々と頭をよぎった。

 AKRに入って八年。やるべきことはやってきた、矢頭萌として十分すぎるくらいに。

 でも、逆に言うと、そのことに甘んじて、いつかはやってくる卒業を、他のメンバーのように考えて準備してきただろうか……そんな自己不信に似た不安で、頭がいっぱい。

「大丈夫?」

 ヘアーメイクを終えた安藤さんが、鏡越しに心配してくれた。

「はい、大丈夫です」

 スタジオに向かう廊下では、だれも話しかけてくれない。

 でも、これは、おためごかしなんかじゃない突き放した愛情なんだ。美恵の心で、そう思った。そして、それがモエチンの心には、そう伝わっていないことが分かった。そうでなきゃ、この孤独感は理解できない。

「なんだか、今日のモエチン明るくね?」
「え、そうですか?」

 MCの居中との会話。

「うん、いつも、ただ座ってますってみたいな感じだったけどさ」
「それは、失礼です」

 八重さんが言う。

「みたいな感じじゃなくて、ほんとに座ってるだけだったんです」

 メンバーの声が揃って、スタジオは爆笑になった。

 そのあと、イグザイルとのトークの絡みでも、モエチンは寺坂純に「お黙んなさい!」と言われるぐらいに元気だった。

『さよならバタフライ』でも、フリも間違えず、元気に明るくこなすとができた。

 これなら、この仕事が終わってから、なにかしら意味のあることがモエチンに言えそうだ。そんな気がした。

 本番が終わると、所属プロの光会長が、手を上げて、あたしをスタジオの隅に呼んだ……。 

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せやさかい・237『修学旅行中止のプリントと保険証』

2021-08-22 16:59:00 | ノベル

・237

『修学旅行中止のプリントと保険証』さくら     

 

 

 昨日は虹が出て感動した。

 

 グズグズ続いた雨が、ようやっと明けて晴れ間がのぞいて、朝顔もいっぱい咲いて。

 なんか、ワンクール続いた高視聴率ドラマの最終回いう感じやった。

 そして、今日も、昼のちょっとの間ぁを除いて晴れ!

 ウキウキしてもええはず……やねんけど暑い(;'∀')。

 

 せやさかい、外に出るのはやんぺ。

 

 朝顔に水やりにいったら、境内の地べたから、モワ~~っちゅう感じで湿気が湧き上がってくる。

 新聞とりに山門の郵便受けまで行ったら、表の道は、境内以上にモワ~~。

 詩(ことは)ちゃんは、大学の用事で朝から出かけるし、留美ちゃんは、ちょっと体調が悪い。

 せやさかい、朝の散歩も、今朝は無し。

 あ、昨日も行ってへんし、もう、夏休み中の散歩は無しになるかもしれへん。

 

「病院、付いていこか?」

 

 留美ちゃんは、朝ごはんも喉に通らへんので、大人たちの強い勧めでお医者さんに行くことになった。

「いいよ、たぶん夏バテだし、お医者さんとかも、よく分かってるから」

 というので、留美ちゃんは一人でお医者さんとこへ。

 まさかコロナ……思てても、言いません。

 シャレにならへんもんね。

「さくらは、保険証とかは、ちゃんと置いてんねんやろな?」

 テイ兄ちゃんがジト目。

 留美ちゃんが、さっさと保険証とか診察券とか用意したんで、うちの顔を見る。

 これは―― さくらはドンクサイからなあ ――という疑念が色濃く出てる。

「大丈夫やよ! あたしを誰や思てんのんよ!」

 ドン!(と、胸を叩く)

 

 で、心配になって、部屋に戻って健康保険証を探す(^_^;)。

 

 元々はおばちゃんに預けたったんやけどね、うちにいっしょに住むと決まった時に、留美ちゃんが「自分のものは自分で管理します」と、大人の宣言をした。

「ほんなら、うちも!」

 というわけですわ。

 さくらのこっちゃから、きっと、どこに直したか忘れてしもて大慌て!

 と、思てるでしょ!? 疑ってるでしょ!? バカにしてるでしょ!? 

 

 ガハハハハハハハハ(ò 口 ó)!

 

 ちゃんと出てきましたのですよ、きみぃ~!

 で、気が付いた。ブツは出て来たけど、いらんもんが一杯あるのにも気が付いてしもたんや。

 昔やってたカードゲーム、小学校の成績表、ポケティッシュいろいろ、クチャクチャのテスト、ジョーカーの無くなったトランプ、 アメチャンの包み紙、 一回だけ使ったテレホンカード、 文庫の帯、 線香花火、 牛丼の割引券、 ピザ屋のチラシ……等々

 で、ちょっと整理することにする。

 

 これは?

 

 学校のプリントが出て来たんで、読み返す。

 プリントは、四月に配られた『修学旅行延期のお知らせ』ちゅうA4のプリントや。

 どこでも、そうやと思うねんけど、うちの学校は五月に予定してた修学旅行を延期した。

 理由は、むろんコロナ。

 プリント配られる前から噂はあったし、よその中学校もせやさかい『ああ、やっぱりなあ』という感じやった。

 おばちゃんに言うたら「そらそやろねえ」という返事で、ろくにプリントも見せてなかったんや。

 いまさら見せても……ねえ、シワクチャになってしもてるし。

 丸めてゴミ箱に……投げたら入れへんかった。

 ノソノソ四つん這いで拾いにいって、改めて捨てる。

 

 ほんま、うちらの修学旅行はどないなんねんやろ……。

 せや、保険証出てきたん言いにいかなら!

 

「出てきたでえ、保険証!」

 

 テイ兄ちゃんの鼻先に付きつける。

「そんなドヤ顔で言うことかあ」

「せやかて、ちゃんと持ってたもん!」

「ああ、えらいえらい」

「ちょ、子どもやないねんさかい、頭なでんといてくれる!」

「ああ、すまんすまん」

「ほな、返して」

「ああ……ちょっと待て」

「なんやのん?」

「さくら、これ、去年の保険証やで……」

「うそ!?」

 

 ガーーーーン

 

 もっかい、部屋に戻って、今年の保険証を探すアホのさくらでした(^_^;)。

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魔法少女マヂカ・228『天城の願い』

2021-08-22 13:09:14 | 小説

魔法少女マヂカ・228

『天城の願い語り手:マヂカ   

 

 

 

 ズドドーーン!

 

 アレクサンドル三世の30サンチ砲が火を噴く。

 同時に身を沈めて四発の砲弾を躱す。

 ジュ!

 追随し遅れた髪の毛が焦げる。

 躱すにしても前方に出るべきだった。髪は後方に流れて焼かれることは無かっただろう。

 大正時代に馴染み過ぎて、瞬発力が甘くなったか?

 以前の戦いで敵の学習が進んだか?

 グィーーーン

 空中で大回りして、敵を観察する。

 横須賀の街と軍港と背後の山がグルリと回る。

 遠くに駆逐艦や水雷艇の艦娘たち、半ば以上は擱座したり煙を吐いていたり。得物は構えてはいるが、足並み揃えて吶喊するほどの力は残っていない。

 大型艦はアレクサンドル三世のみ。

 ……やはりな。

 日露戦争から20年、正確には19年か。

 艦娘として具現化するには年月が浅すぎるんだ。

 海底に沈んで艦娘として復活するには、百年余りの年月が必要なんだ。

 横須賀上空に顕現した艦娘どもは、わたし達同様に、令和の未来からジャンプしてきたに違いない。

 それも、同時にジャンプできるのは、小型艦艇を除けば戦艦一隻に限られる。

 

 ズドドーーン!

 セイッ!

 

 アレクサンドル三世の第二斉射と、わたしが見切るのが同時だった。

 今度は身を沈めると同時に突進!

 

 ガシガシッ!

 

 すれ違いざまに風切丸を一閃させる。

 アレクサンドル三世の踵に手応え。

 500メートルほど飛んだところで振り返ると、二つのスクリューが夕陽に煌めきながら落ちていく。

 #$&‘=**%$#####*(ꐦ°᷄д°᷅)!!!

 ズドドーーン!

 なにか喚きながら、第三斉射を放つが、距離をとっているので、悠々と躱せる。

「やめろ! お前の相手なら、令和の時代に戻った時にやってやる」

 #$&‘=**%$#####*(ꐦ°᷄д°᷅)!!!

「これ以上やったら、そのまま墜ちて、戦艦とあろう者が横須賀の山の中で赤さびだらけになって朽ち果てることになるぞ」

 クソーーーーー!!

 いきり立つが、スクリューを失っては身動きが取れない。

 Это так раздражает! Это так раздражает!(ꐦ°᷄д°᷅)!!!

 魔法少女語に変換もせずにロシア語で喚きだすと、駆逐艦の艦娘が寄ってたかって主を移動させ、たぶん、そこが時空の狭間であったのだろう、残りの水雷艇と共に上空の一点で掻き消えた。

 

「あそこに妹が居ます」

 

 天城が指差したのは、横須賀海軍工廠の二号船台だ。

 最大戦速30ノットを約束された船体は流麗で、幅広の船台の両脇を道路一本分残るほどに絞り込まれ、艦首は令和の時代の新幹線を偲ばせるように鋭く、演技を控えた新体操選手の顎(あぎと)のように研ぎ澄まされている。

「その向こう側に居るのがわたしです」

 建屋を回り込むようにして進むと、一号船台に赤城よりも進捗して、上部構造物の工事に入っている天城の姿があった。

「天城の方が進捗んでいる……」

「竜骨にヒビが入っています」

「折れてはいないのね?」

「はい……だから、工廠の技師さんたちは悩んでいるんです」

「だろうね」

「二隻とも助けられないの?」

「みんな霧子と同じ気持ちよ」

「だったら……」

「震災前から海軍は苦渋の決断を迫られていたんです」

「ワシントン軍縮会議ね」

「ええ、わたしも妹も損傷を受けています。でも、わたしの方が進捗しているし、技師さんたちは一番艦のわたしを可愛く思ってくれています」

「同程度の損傷なら一番艦を残したい……」

「キールのヒビくらいなら直せるもんね」

「残された方は、おそらく航空母艦に改造されます」

 ああ、運命を知っているんだ。

「それには、工事が進捗していない方が都合がいいんです……」

「それだけが理由?」

「赤城の方が縁起がいいです、国定忠治が決起した山です『赤城の山も今宵が限り、可愛い子分のてめえ達とも別れ別れになる門出だ……』」

「『雁が鳴いて西の空に飛んで行かあ……』って、やつね?」

「ええ、日本人なら誰でも知っている。思いのこもった山です。赤城なら、将来起こるかもしれない戦いで、十分の働きをしてくれるでしょう。国民の人たちにも愛されます、まだ、船体ができたばかりの子ですけど、あんなに可愛いです。あの子なら、妹なら、きっと日本に吉を呼び込んでくれます(^#▽#^)」

 わたしは知っている、ミッドウェーで赤城がどんな死に方をするのか。

 三発の爆弾を受け、出撃間近の艦攻の魚雷や艦爆の爆弾が誘爆して手の付けられない大火災になって、最後は味方の魚雷で海没処分されてしまう。

 でも、そんなことを言って何になる。霧子も天城も、そんな先のことは知らないぞ。

「だから、赤城を、妹を助けてやってください」

「でも、どうやって?」

「わたしの竜骨を折ってください、そうすれば、技師さんたちも妹を選ばざるを得なくなります」

「そんな……」

「霧子、すまないが、先に帰っていてもらえるか。この先は天城と二人で話しがしたい」

「マヂカさん……」

「……うん、分かった」

「ありがとう、霧子さん」

 

 霧子を地上に下ろし、電車で帰すと、わたしは天城と日の暮れるまで話した。

 

 あくる日、海軍省から発表があった。

―― 横須賀海軍工廠において建造中であった戦艦天城の竜骨が震災の傷によって完全に破断したことを確認。艦政本部は天城を破棄、解体処分とし、二番艦赤城を航空母艦に改造せしめんことに決す ――

 

 わたしが、どんな風にやったかって?

 先に原宿の屋敷に帰った霧子は、思っていても聞かなかったわよ。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

 

 

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ライトノベルベスト『ちょっとした躓き・6』

2021-08-22 06:41:41 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ちょっとした躓き・6』 




 上戸彩婦警が不機嫌な顔で、空気の抜けた人形のようなものを担いで帰ってきた……。

「またですよ、今度で三回目……」

 上戸彩婦警は、その抜け殻人形をソファーに投げ出した。

「困ったものね、矢頭萌にも」

 その名前にピンときて、人形の顔を見た。

「これ、AKRのモエチン?」
「そうよ、あの窪みに引っかかってから、妙なこと覚えちゃって、時々脱皮しては遊んでるの」
「脱皮……!?」
「一度もとの世界に戻ったんだけどね。今度は、わざと躓いて、こっちに来るの。で、こんなテクニック覚えて」
「脱皮が?」
「うん。脱皮しては、自分と体型が似た子に取り憑いて、あっちの世界で遊んでんの。あんまりやると元に戻れなくなるって、注意したんだけどね」
「こりゃ、あと二回が限度だね。抜け殻が薄くなってる。なんとか止めさせなきゃ……」

 天海祐希婦警が、爪楊枝を使いながら言った。

「でも、取り憑かれた相手も、どこへ行ったかも分からないし、あっちの世界じゃ手が出せないしな」
「やっぱ、戻ってきたところを掴まえて説諭ですかね……」
「もう、三回やった。聞くタマじゃないよあれは」

 三人の婦警さんがそろってため息をついた。

「あ、清水さん。あなた、わたしのこと婦警って思ったでしょ。わたしは女性警官なんだからね!」

 上戸彩さんが、マジで怒った。

「まあ、とんがるなって。今は矢頭萌のこと」
「でも、婦警なんて言われると、天海さんや宮沢さんになったような気になってやなんです……って、お二人のことがイヤってわけじゃ……」

 二人の婦警さんに迫られて、上戸彩婦……女性警官はタジタジだった。

「上戸……!」
「は、はい?」
「それ、良いアイデアかもよ。ねえ宮沢婦警?」
「ああ……」
 
 二人の婦警さんと一人の女性警官さんに見つめられ、あたしはアセアセ……。

「ちょ、や、やめてくださいよ!」

 あたしの叫びは虚しかった。逮捕術などで鍛えてるんだろう、あたしは天海祐希と宮沢りえの二人の婦警さんに身ぐるみ剥がされている。

 その横では、上戸彩女性警官さんが、抜け殻を裸にしていた。

「ようし、準備OK!」
「被疑者、いや適任者確保!」

 完全に素っ裸にされて、あたしは前を隠すのがやっとだった。

「ていねいにやらないと傷が残るからね」

 天海祐希婦警さんは、息も乱さずに上戸彩女性警官さんに注意した。

「分かってます。天津甘栗の要領なんですよね……」

 上戸彩女性警官さんは、モエチンの裸の背中に、器用に爪をあて、パカっと首からお尻の上まで開けてしまった。

「じゃ、清水さん、これ着て」

 と、抜け殻を渡された。

 まるで、ユルキャラの着ぐるみを着るようだった。でもダブダブ感はなく、背中の割れ目を閉じられると、自分の体のようにピッタリした。

 鏡の前に立つと、モエチンそのものが写っていた。ちゃんとスキンケアしてんだ。それが第一印象だった。

「見とれてないで、服……バカ、矢頭萌の方だよ!」
「着たら、これ飲んで」

 宮沢婦警さんが、飲み薬をくれた。

「なんですか、これは?」
「定着液。これで完全な矢頭萌になれるから」

 栄養ドリンクに似たそれを、あたしは一気飲みした。一瞬視界が二重になり、揺らめきながら、一つになると、モエチンの意識が浮かび上がってきた。例えて言うと、間違えて二重にコピーした紙のようなもので、片方に意識を集中すると、すっかりその人格になれる。あたしはモエチンに意識を集中した。

「あなた、お名前は?」
「矢頭萌、AKR48チームAのモエチンで~す♪」
「じゃ、しっかり、がんばってね!」

 あたしは、二人の婦人警官さんと一人の女性警官さんに見送られて、交番を後にした……。 

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せやさかい・236『朝顔としゃれこうべ』

2021-08-21 09:04:08 | ノベル

・236

『朝顔としゃれこうべ』さくら     

 

 

 朝顔が満開になった!

 

 きのう、午前中だけやけど、晴れたんが幸いしたんやと思う。

 青だけやと思てたら、赤やらピンクやらも咲いて、数えたら12個も!

 

「よし、みんなで写真撮るぞ!」

 

 お寺の朝は早い。

 早いところにもってきて、お盆も過ぎたんで、テイ兄ちゃんが家族全員を庫裏の前に集めた。

 ちゃんと、三脚の上に御自慢のデジカメが載ってる。

「よいしょっと……」

「そろっとねえ……」

 フラワーポットを台の上に置く。鉢植えのころとちごて、支柱が立ててあるので気ぃつかう。

「あ!」

「冷た!」

 支柱が揺れて、朝顔の露が顔にかかるのも嬉しい。

「ほんなら、娘三人は前でしゃがんで、お祖父ちゃん右、お父さんお母さんは左に……はい、ピース!」

 パタパタとサンダル鳴らして、テイ兄ちゃんはお祖父ちゃんの横に。

 

 ジイイイイイイイイ……カチャ!

 

「もう一枚」

 再びテイ兄ちゃんが走る。

 

 ジイイイイイ……

 

「しゃれこうべ」

 

 唐突に禁断のワードが浮かんできて、思わず口にしてしまう。

 プ(灬º 艸º灬)  プハハハハハ(#^w^#)  アハハハハハ(#^口^#)

 

「もう、さくら!」

 

 テイ兄ちゃんに怒られる。

「いくでえ!」

 ジイイイイイ……

 プ(灬º 艸º灬)  プッ(#^w^#)

 爆笑にはなれへんけど噴いてしまう。

「さくら!」

「ごめん!」

「いくぞ!」

「「「はい!」」」

 ジイイイイイ……

 プ(灬º 艸º灬)

「あかん、ハナ出てきた!」

「もう、さくら一人で笑てこい!」

「うん、ごめん!」

 笑いながら山門まで逃げる。

 アハハハ ハハ……ああ、おっかしい( ;∀;)……。

 

 こんな風に笑えるのは今のうちやと思う。

 で、しゃれこうべは、うちのオリジナルやない。

『けいおん!』いうアニメで、リツがポツリと言うんや。

 修学旅行の晩、仲間四人で寝てる時にカマしたのがツボにはまって、みんなで爆笑する。

 あれを半年前やったのを、つい思い出して。

 

 こんどやる時はオリジナルでカマしたろ。

 そう思て戻ると、おばちゃんがコップに入れた水をくれる。

 それを飲んで、自分の場所に戻ると、ブタネコのダミアが座ってる。

 ダミアを抱っこして――こいつ、また重なった(;'∀')―― そう思たら、笑わんと撮れました。

 

 夕方に見たら、すっかり朝顔はしぼんでしもて、西の空には切れ端やけど、久々の虹がかかっておりました。

 

 

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ライトノベルベスト『ちょっとした躓き・5』

2021-08-21 06:39:43 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ちょっとした躓き(つまずき)・5』 




 交番に戻ると宮沢りえがいた。むろん女……婦人警官の姿だった。

 なんで、自分の家さえ満足に見えなかったあたしが、制服の違いにすぐに気づいたかというと、昔の制服の天海祐希婦警が、まだいっしょにいたからだ。

「あら、お帰り。どうだった、あんたの家は?」
「見えなかったでしょう?」

 宮沢りえが当然のように言った。

 宮沢りえ婦警は小さな不幸に見舞われた。

 ゲホゲホゲホ……

 食べかけたいなり寿司を喉に詰まらせてむせかえった。

「いいえ、見えました」

 あたしが予想に反した答をしたから。

「な、なんで見えたの、んなわけないんだけど!?」

 天海祐希婦警が、いなり寿司を箸で挟んだまま、身を乗り出した。

 あたしは、大伯父さんとのいきさつを話した。

 そして、その後、もう一度自分の家を見に行ったことも。

 二回目は見えた……ただし大伯父さんの時代の我が家が。三十坪は変わらなかったけど、木造の二階建てだった。むろん玄関は一つだった。

 走馬燈のようにって、ラノベで覚えた美しい言葉が浮かんだ。

 あれは、多分ひいひい祖父ちゃん。それが真ん中になり、その右隣にひい祖父ちゃんとひい婆ちゃん。左隣がひいひい婆ちゃん。五十代と三十代というところだろ。

 ひいひい婆ちゃんの隣にはハチ公によく似た秋田犬が座っていた。

 後ろには学生服。顔つきから観て太郎大伯父さん。その横のセーラー服が、わたしと同じ名前の大伯母さん。抱かれている赤ん坊は、多分二郎祖父ちゃん。

 なんかの記念日なんだろう。玄関に日の丸が立っていた。

「皇太子殿下と同じ月の生まれだなんて、幸せなやつだ」

 ひいひい祖父ちゃんが、そういうと二郎祖父ちゃんは、お母さんの手に戻され、ズボっとフラッシュがして写真が撮られた。だれもふざけたりピースなんかしないけど、みんなカチンコチンの銅像みたいだった。

 だったけど、そこには確実に家族がいた。

 次は、獅子舞が出ている。

 ひいひい婆ちゃんを筆頭に女子はみんな着飾って、男子は着物。ひいひい祖父ちゃんは、羽織に袴、頭にソフト帽を被っているのがおかしかった。

 そのあとは葬式だった。

 下の八畳間と六畳間をぶち抜いて、白黒の幕……近所のひとの話から「クジラ幕」というらしいことが分かった。棺の向こうには、最初に見たひいひい祖父ちゃんが写真に収まっていた。

 ビックリするほど沢山の人が参列していた。

 あたしも思わず手を合わせたら、写真はひいひい婆ちゃんに変わっていた。太郎大伯父さんが、紺色の制服……胸に翼のマークの徽章が付いている。多分海軍の飛行学校にいる時期だろう。

「これで、明治ヒトケタは、あたしだけになっちまった……」
「なに言ってんです。明治でくくりゃ、あたしたちだって。ねえ、お父さん」

 ひい婆ちゃんが言うとみんながうなずいた。

「なんか、大正生まれは肩身が狭いな」

 大伯父さんが頭を掻く。

「その大正生まれが、もう予科練卒業だ。時代だね!」

 近所のおじさんが、感極まったように言って、暖かい笑いが満ちた。

 それから、今にいたるまでの清水家の歴史が、大河ドラマの総集編みたいに流れていって、最後は味気ない二世帯住宅の、見慣れた我が家になった。

 祖父ちゃんが、黒服で昔の写真と、今の我が家を寂しそうに見比べている。

「祖父ちゃん、いくよ!」

 あたしの声がした。

 祖父ちゃんは、瞬間怒ったような顔になったけど、すぐに優しい顔になり答えた。

「すまん美恵ちゃん、いま行くよ……」

 そうだ、これは去年お祖母ちゃんの家族葬に葬儀会館に行くところだ。あたし、お祖父ちゃんが、あんな顔してるの、ぜんぜん気が付かなかった。

 我が家の数十年を数分で見てしまった。

 そして、今までなにも見ていなかったことに気がついた。

「そう、得難い経験をしたのね」

 天海祐希婦警が、ちょっと見なおしたというような顔で、あたしを見た。

「でも、大伯父さんに会えたなんてね……あの時代から、あの窪みはあったんですね」

 宮沢りえ婦警もしみじみした。

「あんた。清水さんだったわね。あんた、ひょっとしたら、案外見込みがあるかも……」

「あたし?」

「うん、大伯父さんの時代と、今とじゃ窪みの意味が違うの。それが偶然だとしても、会えたというのは、ロトシックスに当たるようなもん」

 そのとき、上戸婦警が空気の抜けた人形のようなものを担いで帰ってきた……。

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銀河太平記・061『金剛登山』

2021-08-20 10:15:31 | 小説4

・061

『金剛登山』 越萌メイ(コスモス   

 

 

 千早城跡を通り抜け、わずかに上り下りして見えてくる千早神社の東を丸く回る。

 

 見上げた先には東の空に昇竜のように尾根道が身をもたげている。

 その登りきった龍の頭のところが、標高1125メートルの山頂だ。

「景色が違う」

 尾根道を見上げてお姉ちゃん、いや、社長。

「大阪も神戸も、山は衝立みたいだけど、金剛山だけは孤峰ですからね」

 月城さんが、地元民らしく形容する。

 関東や火星の山を見慣れた感覚では、金剛山は孤峰とまでは言えない。

 衝立のような生駒葛城山系の中では、たしかに1225メートルの標高を誇っているが、連なる凸凸の一つに過ぎない。

 孤峰としては富士山が突出しているし、それほどの高さではないけど、津軽富士と呼ばれる岩木山の秀麗さは太宰治でなくとも感動する。扶桑国の新高山に至っては、富士山の1.5倍の高さがあるが、金剛山ほどの想いは持てない。

 山というものは、人を寄せ付けないほどに峻厳であるか、あるいは人の苦難や歴史を背負っていなければ心を震わせないものなのだ。

「楠公は、この尾根道を通って笠置山の後醍醐天皇の許を訪れ、千早落城の折も、ここを抜けて大和に潜伏し再起を期されました」

「まさに太平記の背骨のようなところね」

「千早神社には寄っていきますか?」

 千早城も素通りだったので月城さんが提案する。

「申し訳ないけど、山頂を目指すわ」

「はい」

 ただの物見遊山や健康目的の日帰り登山ではない。天狗党の動きを調べて、その対応を考えるための予備行動、言ってみれば敵地に潜入しての偵察。その正体が児玉元帥である社長の目的は重い。

 それでも、鳥居の前で合掌礼拝はやっていく。

「他の登山客もやってるからね」

 なるほど、あくまで体裁は女三人の日帰り登山だ。

「火星でも金剛山ブームってのが起こせないかという下心もある」

「火星で金剛山?」

「そう、シマイルカンパニーとしては需要喚起とか市場開拓も大事でしょうが」

「やはり、そっちの方も?」

「ああ、火星の歴史は、まだまだ浅い。独立した国々も、まだ完全には固まり切っていなくて、地球の建国や革命に対する憧れや興味には強いものがある。マス漢国の『三国志』やフランクの『マリーアントワネット』はちょっとしたブームになったしね。扶桑国で『太平記』を当てれば、メディアミックス的に見ても大当たりする可能性がある」

「『正行つらつら』みたいに?」

「『正行つらつら』は、正行の一代記でしょ、三国志のように数代にわたるドラマにすれば時間軸的にも登場人物的にも大きく広がる」

「そうですね、聖地巡礼的な盛り上がりがあれば、ツーリズム的にも大きなブームが引き起こせるかもしれませんね」

「シマイルカンパニーも北大街も大儲けだ」

「北大街は演舞集団でしょ?」

「孫大人が演舞パフォーマンスだけで満足すると思う? ねえ……」

「ウフ」

 月城さんとお姉ちゃんが目配せ。

 

 シマイルカンパニーの設定はマーク船長が手を回して、わたしがおぜん立てしたものだけど、社長は、独自の勘で絵を描いているようだ。

 

「ようし、股覗きをしよう!」

 

 山頂に着くと子どものようなことを言う。

「それって、天橋立とかじゃないの(^_^;)?」

「あっちでもやってるよ」

「ああ……」

 小学校の遠足登山だろうか、子どもたちが股覗きをやって、キャーキャーいっている。

 居合わせた、登山客たちは微笑ましく写真を撮ったりしているが、さすがに真似する者はいない。

「どうせやるなら、子どもたちに混ざろう!」

「賛成です(^▽^)/」

 月城さんまでノッて、子どもたちの横に並ぶ。

「いくよ!」

 足首を掴んで勢いよく前かがみ。

 

 ビリ!

 

 派手な音がして、お姉ちゃんのジーパンの股が裂けた(;'∀')!

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

 

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ライトノベルベスト『ちょっとした躓き・4』

2021-08-20 06:45:35 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ちょっとした躓き(つまずき)・4』 

 




 トキワレジデンスというアパートを曲がって三件目が我が家…………が無かった!

 能勢さん、片山さん、吉田さん……能勢さん、片山さん、吉田さん。
 やっぱ、おかしい。わが清水家は、片山さんと吉田さんの間にある。

 あるはず……なんだけど無い。

 ここに来るまで、街に違和感はなかった。

 むろん全部の家を覚えている訳じゃないけど、生まれたころから慣れ親しんだ街。変化があればピンとくる。

『実感するところから始めようか。いったん家まで帰ってみて、少しは分かるから』

 天海祐希婦人警官は、そう言っていた……このことだったんだろうか。だったらシュ-ルすぎるよ!

 ふと、あたしの後ろに気配を感じた。

「え……!」

 あたしの後ろに、飛行服のニイチャンが立って、あたしごしに片山さんと吉田さんの間を見つめていた。

「え、君は自分のことが見えるのか?」

 飛行服が言った。

「は、はい。あなたも警察関係の人?」
「ちがうよ。僕は鹿屋の第五航空艦隊だ」
「か、カノヤ……?」
「九州の……ま、いいや。やっと話の通じる相手に出会えた。自分は清水太郎上飛曹だ。君は?」
「あ、偶然ですけど、あたしも清水、清水美恵っていいます」
「清水美恵……!?」
「ええ、美しいに恵むって……」
「いっしょだ、自分の妹も、清水美恵なんだ!」

 そのとき、宅配便のトラックが、あたしたちをすり抜けていった。

 二人の意見が一致して、近所の公園に行くことにした。

「じゃ、君は二郎の孫か!?」

 あたしが、名前の由来を言ったら、清水さんが大感激した。

 あたしの祖父ちゃんは清水二郎で、名付け親は祖父ちゃん。

 なんでも若くして死んだ自分の姉さんの名前を、そのまま付けたらしい。

 で、祖父ちゃんは三人姉弟の末っ子で、今は介護付き老人ホームに入っている。子どものころに祖父ちゃんは、いろいろ話してくれたけど、覚えてるのは、あたしの名前は、その大伯母さんからもらったってことだけ。

 子どものあたしは、祖父ちゃんには懐いていろいろ聞きたがったらしいけど。

「そんなムツカシイ話は、学校へ行ったらさんざん聞かされるから」

 お母さんの度重なるリアクションで、祖父ちゃんも話さなくなり、あたしも聞かなくなった。

 むろん、お母さんの言うとおり、学校では『平和学習』とかいって、その種の話は何度も聞かされた。

 社会の授業よりつまんないので、その時は、聞くフリ見るフリをして、昔はスマップ。中学ぐらいからは、エグザイルとかAKBとか、頭の中でコンサート開いて目を輝かせていた。高校じゃ、ワイヤレスのアイポッドで、みんなでリアルに聞いてイキイキしていた。

 語り部とかいうお年寄りは、あたしたちが熱心に聴いてくれたと勘違いして感動してくれた。

「あなたたちは、一昔前の高校生よりも熱心に聴いてくれました!」
 
 一昔前は、ワイヤレスのアイポッドなんて無かっただけの話なんだけどね。

「で、美恵ちゃんには、あの家が見えないのかい?」
「うん、正直あせってんの、両隣はちゃんと見えてんのに、うちだけ見えないんだもん!」
「自分にはよく見える。変わり果てた家が……」
「そりゃあ、何十年もたってるんだから、家だって変わるでしょ」
「建物じゃないよ。家の在り方さ。なんで四十坪そこそこの敷地に三十坪の家を建てて、玄関が二つもあるんだ」
「ああ、二世帯住宅だから」
「見せたい……見せ物なのか、あの家は?」
「いや、二世帯・住宅。お母さんが結婚するときに、あのカタチに建て替えたんだって」
「どうして……二郎は何か悪い病気でも患っていたのか?」
「いや、そーじゃなくって、普通は、結婚したら別居するんだけどね。お父さん一人っ子だから、その辺で手うったみたい」
「ううん……良く分からん話だが、なんだか淋しい話だな。それに家が見えないというのは困るだろう」
「……でも、その時はその時、また交番に戻る」

 立ち上がった拍子にカバンがおっこって、締まりのないカバンから追試準備のプリントがこぼれ落ちた。

「おお、数学か。懐かしいなあ!」

 大伯父さんは、感動して、それを拾い上げた。

「あ、それは……」
「まてまて……アハハ。美恵は数学の追試受けるのか!?」
「う、うん。数学って苦手で……」
「数学だけか?」
「あ、他のも苦手っぽい……かな?」

 そういうと、大伯父さんは、見たこともないような笑顔で、あたしの頭を撫でてくれた。こんなに優しく乱暴に頭を撫でられるのは初めてだった。なんだか涙がこぼれてきた。

「あ、乱暴にしすぎたかな……」
「ううん。とっても優しくって、気持ちよかった……」
「俺も、妹の美恵を思い出した……そうだ、せっかくだから、この数学教えてやろう」
「ほんと!?」

 大伯父さんは、公式の成り立ちから、噛んで含めるように教えてくれた。

 あたしは実感した。

 教えるってのは、ただ力みかえって、説明することじゃないんだ。いっしょに感動することなんだと思った。

「ありがとう、助かりました……で、嬉しかった。教えてもらってこんなに嬉しかったのは初めて!」
「そうか、じゃ、俺は……自分はそろそろ行くよ」
「え、どこへ?」
「自分は、出撃前に、ちょっと虚無にやられてしまってな。生きているんだか死んでいるんだか分からなくなっちまってな。すると、営庭の、ちょっとした窪みに躓いて、この世界に来てしまったんだ。もうマルロクフタマル。集合時間だ……よかったよ。二郎の孫に、こんな良い子ができるなんて。それだけで、それだけで、自分の命に意味があることが分かった。ありがとう美恵!」

 大伯父さんは、いきなり、あたしをハグした。とても暖かくて、力強いハグを。

「じゃ、行ってくる。美恵も、良い子になって、いいお嫁さんになれ。な……」

 そう言うと、大伯父さんはきれいに敬礼し、回れ右をして行ってしまい、数秒でその姿は消えて見えなくなってしまった。

 こぼれ落ちる涙を持て余した……。

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せやさかい・235『しゃれこうべ』

2021-08-19 13:30:33 | ノベル

・235

『しゃれこうべ』頼子     

 

 

 空気清浄機を真ん中にさくらと留美ちゃん。

 

 テイ兄ちゃんが檀家さんからもらったのを、相談した結果、さくらと留美ちゃんの部屋に置くことに決まった。

 その記念写真。

 あれ?

 留美ちゃんはニコニコしてるんだけど、さくらが微妙な(^_^;)顔をしている。

 気のせいかなあ……とりあえず『よかったね(^▽^)/』と返事を打っておく。

 

 ピコピコ ピコピコ

 

 着信のシグナルが鳴って、現れたのはお祖母ちゃんのメール。

 これも写真付き。写真は二枚。

 ただし、空気清浄機ではない。

 大きな輸送機の中に、ぱっと見でも500人は居るだろうという人たちが膝を抱えて、不安な、でも、ちょっと安心したようにひしめき合っている。

 もう一枚は、滑走し始めた輸送機を大勢の人が追いかけ、何人かは、輸送機の機体に張り付いたりしがみ付いたり。

 人々の服装から……これはアフガニスタンだ。

 大統領も逃げだして、残った大使館の人たちも軍の輸送機で脱出。それを聞きつけたカブール市民の人たちが輸送機に殺到したんだ。

 知ってるよ、お祖母ちゃん。

 わたしもネットニュースで見たもん。

 がんばった人は、なんとか機体に取りついたけど、輸送機が離陸すると、振り落とされて何人か落ちて亡くなったんだ。

―― 国民を、こんな目にあわさないために国家があります ――

 賢明なクソババアは、それ以上の事は書かない。

 書かないけど、分かってる。

 分かってるよ。わたしにとっての国は、日本とヤマセンブルグ。

 日本は、わたしがいなくても微動だにしない。国民も政府もしっかりしているし、世界一の皇室もある。

 ヤマセンブルグにも王室があって、女王陛下が一人で支えていらっしゃる。

 面倒なことに、この女王陛下は、わたしのお祖母ちゃん。

 わたしは、お祖母ちゃんの、ただ一人の跡継ぎ。

 23歳までに決心しなければならない。わたしが日本を選んでしまったら、五代遡った遠い親類から国王を招くことになる。

 

 しゃれこうべ

 

 なんの脈絡もなく『しゃれこうべ』という言葉が浮かんでくる。

 ウフ……ウフ、ウハハハハハ アハハハハハ

「殿下、どうなさいました?」

 ソフイーが文庫本から目を上げて、わたしを見る。

「ごめん、なんか思い出しちゃって……プ、プハハハハハハハ」

「なにか悪いものをお食べに……」

「ち、ちがうちがう、アハハハハ……」

 半年前、留美ちゃんが悩んでいた時に、三人でさくらの部屋に泊まった。

 豆電球だけ付けて、やがて沈黙が訪れて、沈黙が重くって、さくらが呟いたんだ。

 しゃれこうべ

 なんだか可笑しくなって、笑い出したら止まらなくなって。

 それが、脈絡もなく蘇ってきた。

 笑いすぎて涙が出てきた。

 如来寺に行きたい、三人で寝て、さくらがバカをやって、留美ちゃんがキョトンとして、三人でアハハと笑っていたい。

 でも、大阪には緊急事態宣言が出ている。

 ああ、コロナが恨めしい!

 

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