続・浜田節子の記録

書いておくべきことをひたすら書いていく小さなわたしの記録。

E・ホッパー「小都市のオフィス」

2020-05-31 07:29:09 | 美術ノート

   「小都市のオフィス」

 快晴である。青い空には飛行機も雲も鳥も見えず、森閑としている。目の前を過るもののない平穏な空気感。安心平和は約束されているかに見える、現に事件は皆無である。
 眩しいほどの光は建屋の壁を白く照射させ、大きな開口(窓)に差し込む光も過ぎるほどにある。地上から数階上にあるからで、階下では林立する脇のビルによって陰になる部分があるに違いない。

 窓枠の線描で、遠近法による眼差しの消失点が左右に印象付けられている。つまり視点の分散、画面をはみ出す広角的な視野を想起させる構成である。明らかな視点はオフィスの机に陣取る男にある。背後に複数の人がいるか否かは不明である。
 男の眼差しは窓外にある。仕事の中断、ほっと一息する休息だろうか。目の前のビルの暗さは単に陰に当たるという位置的な問題だけなのだろうか。男のいる部屋の窓のシンプルさに比して前の建屋の窓はアーチ型でありブラインドも設置されている。この建屋に問題の翳りは見えない、にもかかわらず構図や彩色から、何かありげ(気配)に誘導させる空気感を演出している。

 男は、快晴・温暖・平和のなかで仕事をする社会人として不足がない。しかし、机上に置いた虚ろに見える右手、左手は椅子の背の柵の間に・・・ちょっとした痒みだろうか。微妙かつ軽い不具合を感じている。男の足は地上にあるわけではなく地上遥か、小都市のビル群の屋上が見える高さにいる。

 経済発展の海、その上を漂う船舶に絶対の安息は約束されていない。男は窓外の社会に対峙ししている。表情の是非、仮面の下を覗き見ることはできない。
「小都市のオフィス」の刹那、現場の切り取りは深い。ホッパーは風景を描こうとしていない、彩色による光と影、線描による空間設定により心理的光景を描き出している、創作していると言った方が正しいかもしれない。


 写真は日経「画家のまなざし・十選」齋藤芽生より


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